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花束と愛を君に


「はー、我が家は安心するな」
帰宅するなりルイから沢山の薔薇を受け取った国永は嬉しそうに花束を抱えながらベットに寝転んだ。
「そろそろ離さないのか?枯れるぞ」
「ん、もう少しだけ。君とルイが俺にくれた花束だから…」
「…喜んで貰えたなら何よりだ。
だが、花束が邪魔でお前を抱けない」
黒葉は国兄から花束を取り上げて横に置くと、そのまま国永に唇を重ねる。
「ん、は……ちゅ、んむ…ふぁ」
久し振りにじっくりと味わうキス。
生きた心地がしなかった日々の分、何度もキスを交わす。
甘える様に腕を回され、もっと、と強請られる。
「急に甘えただな?」
「ふふ、君に触られるのは心地いいから好きだ」
「…愛してる、国永…」
唇を塞いで、そのまま首筋やはだけさせた胸元に唇を落としていけばすぐに蕩けた顔で黒葉を見上げてくる。
「ふぁ…くろ、んっ、や…もっと、触って」
「存分に溺れろ」
くすくすと笑って胸の先端に触れればあからさまにビクッと身体がはねる。
「大分感度が良くなってきたな?
後少しでここだけでイけるようになるぞ」
そう言って意地悪く先端を指で転がしながら反対を口に含む。
甘噛みされながら強く吸われ、反対側を刺激されて、国永はいやいやと首を降る。
「ひゃう、くろ、あんっ、それ、やあっ…きもち、だめ、吸っちゃダメっ…」
黒葉はお構い無しに膨れ上がった乳首を舌で弾く。
「んんんんっ、う……ふぁ…」
「イきそうか?」
「くろ、イきた…お願っ、も、おなか、せつない…」
もぞもぞと下半身を擦り寄せてくる国永に愛しい思いがこみ上げるも、きちんとした手順を踏まないと国永に負担がかかることを熟知している黒葉は国永を裸に剥くと、脚を広げさせた。
「……国永、うつ伏せで腰を上げろ」
「うう…あれ、結構恥ずかしいんだぞ…
慣らさなくても入るから…」
「いつもやってるだろ、早くしろ」
国永は渋々うつ伏せになって黒葉に尻を突き出す様に差し出す。
黒葉はヒクヒク震える国永の秘部に舌を挿し込む。
「ひぃう!んんあ、あっ…くろっ」
ぎゅっとシーツを握れば、クラクラする程に内部を黒葉の舌が犯していく。
卑猥な水音がグチュグチュと辺りに響いて国永の羞恥心を煽っていく。
「ふぅ、ん…んあ、あっああっ!」
内部を犯す舌先がまるで生き物みたいに国永を高みに追い詰めていく。
舌先だけで、もはや意識を半分程飛ばした国永に、黒葉は満足そうに笑った。
「んふ、んんっ…ひゃぁぁぁ!?
やっ、くろ、くろ!そこ、そこいい!やだ、おれ、イッちゃ……」
「こらこら、まだイくなよ?」
「ふぇ…はやく、くろ…もぅ、オレっ…早く欲しいっ」
既にトロトロに蕩けた穴から舌を引き抜けば、誘う様にヒクヒクと蠢動を繰り返す。
「入れるぞ」
「やっ、くろ…顔、みたい…今日は…顔見ながら、シたい」
切ない声を上げる国永をギュッと抱きしめて耳を唇で挟む。
「ひぃう!」
「くになが…」
熱っぽく囁けば、国永の身体がビクッと震えた。
やんわりと手を重ね、ゆっくり身体を反転させれば蕩けた様にうっとりした国永が黒葉にすがりつくようにすがりつくように手を伸ばす。
国永が無意識に腰を揺らすと、黒葉かツプッと指で中を掻き回す。
「ひああああっ!? あぁっあんっひぃあっ!」
国永の秘部はきゅうっと指を締付け、腰を揺らす。
「こら、声がでかいぞ。
こうして中を掻き回されるのはそんなにイイのか?」
「あぁっ…やっ、意地悪っ、んぁ!」
黒葉は意地悪く笑って秘部を滅茶苦茶に掻き回して国永を攻め立てた。
「あっ、ああああーっ!?」
弱い部分を重点的に突かれると、イったときのような激しい快感が全身を駆け巡り、国永は激しく腰を振って更に黒葉の指を締め付けてしまう。
「あああぁっ!!やらっ、あんっ、そこ、ぐりぐりって!気持ちイイ!」
国永は責め立てるように体を巡る快感に完全に理性を手放すと、不意に指がずぽんっと抜かれた。
「うぁ…んんぅっ…黒葉?」
物足りなさに黒葉を見上げ、国永は縋るように手を伸ばす。
「くろ、お願い……いじわる、しちゃ…やだぁ…」
黒葉は微笑んで国永にキスを与え、咥内をたっぷり犯した後に、硬くなった自身を、ひくつく尻穴に押し当た。
「ぁんっふぁ、くろっ…きて?」
「……淫乱。これがほしいのか?」
淫らに喘ぐ国永には欲情しきった顔で黒葉を誘惑する。
誰もが知らない黒葉の雄の顔に、国永はうっとりと瞳を潤ませて微笑んだ。
黒葉の雌の顔は沢山の男達が知って自分は見ることが出来ない顔。
だが、この顔だけは、世界で国永しか見ることが出来ない顔。
それに優越感が込み上がり、国永の気分を昂らせた。
「あぁっ、ほしいっ、黒葉の……おれの中に、なか、奥まで、いっぱい、くろばがほし…あああああんっ!」
黒葉の性器が、ずぶずぶと卑猥な音をたてながら国永の秘部にゆっくりと挿入されていく。
「くっ、締め付けすぎだ。
こら、少し緩ぬか」
「ああああーっ! ひあっ、あんっ、ああっ、あああんっ、むりっ、ひゃう!?きもち、あっ、ああんっ、くろば、くろばっ!」
黒葉は国永のイイ部分だけを重点的に攻め立て、柔らかな穴の中をめちゃくちゃに犯す。
いいところをカリでゴリゴリと擦られる感覚に、国永はぎゅぅぎゅう中をきつく締めつけ、再び気の狂うような快感に支配された。
「ひああああっ、ああぁっ、らめえっ、イクッ、イっちゃうからぁ、っもっ、ゴリゴリってしちゃ、やらあああぁっ」
「国永、声が大きいぞ?ルイに聞こえてしまうかもなぁ…
国永はここが好きだろう?
奥まで突っ込まれて、ここを沢山突かれるのが好きだものなぁ?」
黒葉が奥を激しく攻めれば、最早意識を殆ど飛ばしながらガクガクと揺さぶらる。
「ああぁんっ、あんっ、んぅぅっ、はふぅっ、イイっ、すごいのぉっ、もう、らめっ、ふあああっ!?」
「んっ…ぅ」
小さく喘ぐと黒葉は挿れたままで国永身体を抱き起こした。
対面座位の体位になってより一層奥まで挿いる感覚に、国永は黒葉の首筋に顔を埋めて喘ぐ。
「ほら、淫乱な可愛い顔見せてくれ…?」
その言葉につられてゆっくりと頭を離すと、壮絶に色っぽい表情で舌なめずりしている黒葉と目が合い、中をきゅぅっと締めつけてしまう。
「ふぁっああっ、くろ、ふか…奥まできて…あああんっ!」
余りに黒葉が焦らすので、いよいよ我慢出来なくなったは国永はそのまま黒葉を押し倒して、自ら腰を振りたくった。
一度そうすると止めることができず、黒葉を奥深く迄咥えこんだまま腰を振ったり、上下に動いたりして、いいところを存分に刺激する。
「…んんっ、ふぁあ、国永、騎乗位はな、 こうやって、相手に腰を擦り付けるように動くと無駄に動かず気持ちよくなれるぞ?
ふふ、頑張った御褒美をやろうな?」
「んっ、あああんっ!?」
完全にスイッチが入った黒葉は国永の腰を掴むと、下からがんがん突き上げてくる。
「んっ、く…ふぅっ、そんなにやらしくあえいで、俺を誘惑してるのか?
何度もここに出してやっただろう?」
黒葉が中を擦りあげれば、目の前がチカチカとして身体に電流が駆け巡る。
中をきつく締めあげれ、黒葉も余裕が無いのかその表情に色が増す。
「ああああっ! らってぇ、ほんとにぃ、ああんっ、きもちいいんだ
…黒葉ッ、きみだから、っああっんっ!」
そう言うと黒葉のものが国永の中でビクンッとより一層大きくなった。
「くっ、そろそろ出すぞ、お前の中にっ、いっぱい注ぎ込んでやるからな」
国永をベットに押し倒して、頬を撫でながらキスを交わす。
「ああああんっ、らしてぇっ、黒葉の、おれのなかに、いっぱい、んっんぁあっ、ふあああっ!おれもっ、おれもいっちゃう、イッちゃうからぁっ!」
「いいぞ、だしても… っぅ、おれも、イく、愛してる、愛してる国永!」
「ああああーっ! でてるっ、黒葉のせいえきっ、いっぱい、止まらなっ…ひぃっ、ああんっ、ふああぁっ、やあっ、もう、突いちゃやらぁっ…おかしく…なるっ!ふぁああ!!?」
激しく中をを突かれながら最奥に精液を出され、国永は久しぶりに味わう射精感に狂ったように喘ぎ続けた。
「ああああぁ…おなか…くろばでいっぱい…」
国永は恍惚とした顔をして中に注がれる熱い精を感じて嬉しそうに腹を撫でた。
「ん、黒葉…もっと…君をもっと感じたい…お願い」
「抱き潰してやると言っただろ?
ほら、おいで」
体勢を入れ替えて、キスをすれば国永が甘える様に黒葉の背に手を回す。
「んん、ちゆ…ふぅんっ、んむ、んんっ」
自分から舌を絡めて、何度も求める。
妖艶な笑は色を帯び、普段より格段に増した色気に、なるほど大体の男が夢中になったのもうなずけた。
長い付き合いの中で、今更ながら国永が自分以外の男に体を許していたことに胸がチリつく。
自分も同じことをしていたにも関わらず、独占欲が溢れていく。
「俺も焼きが回ったか」
「黒葉?」
「今更お前の過去に嫉妬など…」
「あのなぁ、それ、君にも言えるからな。
俺だって…君のパパ達を恨めしく思ったことあるんだから」
「判ってる、だが、こんなにもお前を愛してしまうなど、あの時は思いもしなかった。
ずっと、親友でいられると思ってた」
「親友では、居られなかったな?」
国永はくすくすと笑って手を伸ばした。
「だって、夫婦になっちゃったもんな?」
「ああ、一番ありえないと思ってた事だ」
「みんなに言ったらビックリするだろうな…ふふ。」
「だろうな、だが今は…もっとお前を感じたい…
生きて、幸せに笑うお前を…」
「ああいいぜ、俺は君だけのものだ、俺にも存分に君を味わわせてくれ」
最高に幸せな笑顔で国永が笑った。



「どんだけ溜め込んでたんだ…
今までで一番出された気がする… 」
「お前が病院でおねんねしてる間ずっとだな。
その前から大分ご無沙汰だったしな」
何度目かの絶頂を迎えてグッタリした国永が恨めしそうに黒葉を見上げる。
中が泡立ちそうな程出され、最終的には突き上げる度に中から出されたものが溢れてくる始末。
不意に、着替えをとる黒葉の背中に引っかき傷を見つけ、国永はぎゅっと背後から黒葉に抱きついた。
「どうした?」
「背中…爪痕が…ごめん」
「お前に付けられたなら傷跡も愛しい、大丈夫だ。
それに、お互い様だ」
ふふっと黒葉に笑われて首を傾げると、身体中のあちこちにキスマークが大量についているのに気がついた。
「なっ!?付けすぎだろ!」
「お前だって悦んでただろ。
目立つ所は避けてやっただけ優しいと思え」
「もっと強く引っ掻いてやればよかった」
国永は力なくベットに横たわり、黒葉をうらめしそうに見上げた。
部屋着に着替えて黒葉がベットに寝転がると、隣に国永がいて、こちらを見て微笑んでる光景が、たまらなく幸せだったと感じる。
無機質な機械音しか響かない静かな病室で、横たわったまま動かない国永をずっとそばで見守っていた黒葉には、地獄の様な日々だった。
もうこのまま二度と目を覚まさないのでは、いつかこの機械音すら止まってしまうのではないか?と嫌な不安ばかり過ぎって押し潰されそうだった。
大切に可愛がっていたルイの事すら手につかないほどに。
「ん?どうした、黒葉?」
国永が柔らかく笑うと、堪らずにきつく抱き締める。
「愛してる、愛してる国永…」
国永は驚いた様に目を丸くしてから、ふにゃっと緩みきった笑顔でこつんと額を合わせてきた。
「ん、俺も愛してるよ、黒葉」
幸せそうに笑いあうふたりを、真っ赤な薔薇の花束だけが祝福する様に眺めていた。
やがて二人をよぶ愛しい息子の声に顔を見合わせて笑うまで、離れてた分を埋め合うような幸せなキスを交わした。

非生産的愛情狂言


「黒葉、何読んでるの?」
母親が幼い少年に声をかけると少年はもみじの様な小さな手で分厚い医学書を捲っていた。
「パパのごほん、もういらないから、くろばにくれるっていった」
「そう、パパったらもっと子供向けの本を買ってくれればいいのに…
その本はまだ黒葉には難しいでしょ?」
「?このほんには、びょうきのこと、いっぱいかいてるよ。
ここにはしんぞうのいしょくしゅじゅつのしかたとてじゅんがかいてる」
母親は驚いて黒葉から本を取り上げた。
それはドイツ語で書かれた医学書だった。
「それよりほら、この絵本を読みましょう?」
「このほんはだめなの?」
「ダメじゃないけど、あなたにはまだ早いわ、そうだ黒葉、ママと新しいご本買いに行きましょうか?
好きな本買ってあげるわよ」
そう言って母親に手を引かれ、近くの書店に連れてこられた。
「ほら黒葉、この本はどうかしら?
不思議の国のアリス、でも黒葉は男の子だからね…この車がいっぱい出てくる本がいいかしら?」
「ママ、パパのおしごとのごほんはないの?
パパがくろばはしょうらいおいしゃになってパパのあとついでくれなっていってたよ?」
「そんな事はまだ先でいいの、あなたはまだ子供なんだから」
そう言って母親は強引にはたらくくるまの絵本を買い与えた。
しかし黒葉はそれを一度読むと興味を失ったように本棚にしまった。

「……ねぇ、黒葉の事だけど…」
母親がぬいぐるみを抱きながら医学書を読みふける幼い息子を遠目に見ながら父親に話しかけた。
「あなた、あの子に古い医学書をあげたんですって?
ドイツ語で書かれてる医学書。」
「ああ、あの子が興味津々で見てたからな。それがどうかしたか?お医者さんごっこでも強請られたのか?」
「だったら話したりしないわ。
あの子、あの医学書を読んでるのよ?」
「へぇ、それは将来が楽しみだな。
黒葉はきっといい医者になるぞ」
「……ねぇ、あの子はまだ4歳よ?
なのに、ドイツ語で書かれた医学書の内容を正しく理解してるのよ?正直気味が悪い…」
「そんな訳ないだろ?
挿絵とか写真で当たりをつけてるだけだろ」
父親は立ち上がって、幼い息子を抱き上げて膝に載せると医学書を開いた。
「黒葉、この本は気に入ったか?」
「……ん、パパのおしごとのこといっぱいかいてる」
「そうか、黒葉はこの本が読めるのか、凄いな?」
微笑んで頭を撫でられれば少しだけ照れた様に口元を緩めた。
「パパ、せいしんしっかんてなぁに?
からだにがいしょうはないびょうきってかいてある」
「え?」
「おくすり……しょほう?なおる…ばあいがあって……パパのびょういんにもくる?」
黒葉が読みふけっているページは挿絵もなければ日本語訳もルビも振ってない、ドイツ語のみのページで、挿絵も写真もない。
黒葉は淡々と医学書を読み上げる。
「……黒葉、ママに買ってもらった絵本はどうした?パパに読んでくれないか?」
「……?えほんよむの?」
黒葉は首をかしげてから、自分の部屋に絵本を取りに行った。
「……ねぇ、やっぱりあの子おかしいのよ、普通じゃないわ、何考えてるか判らないし、笑ったり泣いたりも殆どしないし…」
「黒葉はおとなしい子だから…もう少し様子を見よう。
実はものすごく頭がいいだけかもしれない」
「……そうね」
それ以降、両親の愛情は黒葉に向くことは無く、母親に関しては黒葉を遠ざける様になった。
いい加減限界を感じ施設に預ける事を決断し、施設に連れて行く。
「黒葉、今日からここがあなたのお家よ」
母親にそう告げられた黒葉はたった一度だけ、嫌そうに母親のスカートをギュッと握った。
「ほら、行きなさい」
母親に促されて黒葉は出迎えた施設の院長に引き渡された。
舐める様に黒葉を見つめる院長に手を繋がれ、母親が黒葉の荷物と何かを手渡す。
「宜しくお願いします」
「はい、確かに。黒葉くん、ママにバイバイしようか」
「………さよなら、ママ」
自分は捨てられたのだと、理解した黒葉は俯いたままそう告げた。
「……本当に、気味が悪い」
吐き捨てる様に言われたこの言葉を、黒葉は一生忘れない。

施設での生活も上手くいかず、他の子供と上手く接することが出来ない黒葉を、院長は根気強く支え続けた。
その影で行われてる淫行には、誰もが目を瞑っていた。
幼い黒葉の体を舐めまわして、フェラを強制して、精通を迎える頃には泣き叫ぶ黒葉を強引に犯して処女を奪い、歪んだ性生活に思考が麻痺し、羞恥という感情が極端に薄くなった。
院長が黒葉に夢中になれば、今まで院長に手込めにされていた子達は急に善人ぶり出した。
黒葉を生贄に差し出しておきながら、哀れみの視線を向けてくるのが嫌でたまらなかった。
「ああ、黒葉…お前は本当に綺麗な人形だ。
お前は男を悦ばすだけの快楽人形だ」
院長はたっぷり肥えた腹を揺らして幼い黒葉を突き上げる。
初めて抱かれた時から体に染み込まされたその言葉にもはや疑問も持たなくなっていた。
「お前が自分のパパを上手に誘惑できていれば捨てられたのはあの母親だっただろうに。
全く、こんな上玉をみすみす手放すとは…」
上機嫌に喋る豚をぼんやり眺めながら、黒葉は早く終わらないものかと身体から力を抜いた。
好きに嬲ればいい、それだけの価値しか自分にはないのだからと、虚ろに思考を閉じた。


「黒葉、いい加減私のものになる気は無いか?
不自由な生活はさせないし、毎日愛してやるぞ?」
壮年の男は小さな身体を抱き締めて、腕の中に閉じ込めた。
情事後の独特の色を帯びた黒葉は、艶っぽく微笑み男の首に腕を回して抱き着く。
そして、熱烈なキスをたっぷり交わした後に笑う。
「俺は誰のものにもならぬ烏。
渡り鳥の真似事をしても、鳥籠には入らぬ鳥だ」
「お前の為なら妻とも別れる、愛してる、頼むから私と一緒になってくれ。
結婚が嫌なら養子でもいい。
必ずお前を幸せにしてやる」
「………気持ちは嬉しいが、パパでは俺を幸せにはできぬよ
なぁ、満足したなら俺は帰るが、いいか?」
「金か?いくら詰めば私だけの物になってくれる?」
黒葉はキョトンとしてからクスクスと笑った。
「いくら詰まれてもそれは無理だな。
同じ様に言い寄ってくるパパ達には悪いパパも居るのだぞ?
大人しく妻子を愛してやれ、俺が欲しければまた連絡してくれればいい」
耳元を食むように唇を寄せてからベットから離れる。
ラブホ独特の甘ったるいシャンプーの匂いに目眩がしそうだ。
「黒葉…」
「……頼むから、俺を困らせないでくれ、俺はまだ貴方を切り捨てたくない」
そう言われれば男は黙って黒葉から離れる。
「それじゃ…」
「……お前が、私のものにならないなら!」
ナイフを取り出した男を、黒葉はため息をついて蔑んだ様に見つめる。
「俺を殺すか?ふふふ、愚かだな…
ああ、実に愚かだ…」
黒葉はひらりとナイフを交わして男の股間を蹴り上げた。
醜い悲鳴を上げる男を、黒葉は見下ろす。
「俺がお前に抱かれてやるのは金を稼ぐため、いわば仕事だ。
それ以上を求めるなら二度と使い物にならなくしてやる」
そう言って笑いながら渾身の力で何度も男の股間を踏み付けた。
「……愛なんて、俺に一番いらないものだ、さようなら」
服を着て呻く男を放置して部屋から出ようとするとスマホが鳴った。
「ああ、パパか?ふふ、どうした?
俺が恋しくなったか?」
「く…黒葉!」
「ん?ああ今のか?身の程を弁えぬ悪い子に仕置をしておった。
それで、今から逢えるか?
うん、構わぬよ、それともここに来るか?ふふ、冗談だ、二人だけの時間に外野は野暮だろう?」
すがり付く腕を払って部屋から出る。
愛なんて腹の足しにもならない。
その日二人目のパパに抱かれる為にラブホから出て駅に向かう。
「黒葉、怪我はないか?
無理矢理襲われたりしなかったか?」
駅で待機していた男が黒葉の体を抱き締める。
「いや?むしろ返り討ちにした。
ただ、あの男ともうこれっきりだな。」
「見切りをつけたのか」
「ふふ、不能にしてやったからもう俺には要らないものだ。」
そうやって、黒葉はふんわりと笑って男に体を寄せる。
その人に合わせた自分を提供する代わりに金を貰う。
ただそれだけなのに、何故愛だの好きだの…そんな言葉はただの営業に過ぎないのに。


「小烏先輩!」
昼休み、いつもの4人組で昼飯を食べる為に屋上に向かおうとして呼び止められる。
「俺に何か用か?」
見るところ一学年下の後輩らしい少年が熱っぽくこちらを見ていた。
「あ、あの…」
「黒葉、お呼び出しじゃないのかい?」
「…そうか、まぁいい。
国永、焼きそばパンとコーヒー牛乳買っておいてくれ」
「え?別にいいけど…いくのか?珍しいな」
「ノートはコピーさせてあげるからごゆっくりー」
半ば茶化されながら少年の手を引いて空き教室に入る。
「それで?」
扉を締めて振り向くと、抱き締められる。
「俺、あなたが好きです
初めて見た時からずっと…」
「そうか」
「だから、あの…付き合ってくれませんか?」
「何をだ?性欲処理と言うなら俺は高いぞ?
1回5千、フェラ、中出しは別料金だぞ?」
慣れた手つきでポケットからゴムを取り出して握らせる。
「……なにを、いって…?」
「違うのか?」
「そんな、俺の小烏先輩が、売春なんて!」
「痛っ…理想の俺じゃなくて幻滅したか?
しないなら俺は戻るぞ」
「っ、先生に言われたくなかったら俺の物になれよ!」
乱暴に黒葉を押し倒し、制服に手を掛ける。
「別に、言いたければ言えばいい
この学校の殆どの教師は俺の客だぞ?」
ふふっと笑う黒葉に、少年は頭に血がのぼっているのか、強引に唇を重ねてくる。
「んっ、ふ…んんぅ」
黒葉が抵抗すれば興奮したのか息を荒くしてズボンを脱がせて股間を押し付けてくる。
「っ、やめ……」
「うるさい淫乱!こうされるのが好きなんだろ!?」
「ひっ、ん、ああっふぁぁっ」
柔らかな秘部の中に硬く熱の篭った性器を押し込まれる。
「ひぁあっ!?んぅ、なまは、やめっだめぇ…んっ」
「あっ、凄いトロトロ…なにこれ、気持ちっ…あああッ!?」
一番奥まで勢い良く突っ込んだだけで少年は呆気なく果ててしまい、熱い飛沫がドクドクと大量に中に注ぎ込まれた。
「……チッ、童貞が…」
舌打ちしてから体を押し退けて離れる。
だいぶ奥で出された為、指がなかなか届かない。
下腹に力を入れれば、とろとろと白濁した液が溢れる。
「んっ、入れただけで、どれだけ出したんだ…」
脚の間から零れ続ける精液を掻き出しながら毒づく。
「う、そだ…こんな…こんな事…」
「勝手に人を押し倒して中出しまでした癖に何を言っておるのだ?
俺はお前にレイプされて、勝手に1人でイッて、後処理もされず、挙句被害者面されて泣きたいのはこっちだ」
「お願いだからこんなことはやめてくれよ、金が必要なら、バイトして稼ぐから…」
「……お前程度がバイトした程度で俺が養えると本気で思ってるのか?おめでたい頭だな?
お前が親に出してもらっている学費や携帯料金、何もしなくても当たり前の様に支払われる家賃や食費、公共料金が一体いくらかかるか知らんだろう?
まぁ、俺の客になってくれる為にバイトするなら存分にしてくれ、その時はもう少し夢を見させてやる。それじゃあな」
制服を整えてから、黒葉は一度も振り返らずにその場をあとにした。
まだ昼休みは残っているので、空腹に腹をさすりながら屋上に向かう。
「あれ、早かったんだな?」
「アイツ童貞だった、突っ込んだだけでイきおった」
「早いね、最速記録更新じゃないかい?
それで童貞くんの筆下ろししてあげていくら巻き上げてきたんだい?」
そこで黒葉ははたと気が付き不機嫌そうに顔を歪ませた。
「忘れてた…クソ、ヤられ損だ」
「珍しいな、黒葉がタダ働きなんて」
「バイトして俺を養うとか馬鹿な事を抜かしおって、呆れてた。」
「あはは、黒葉を養うとか絶対やだね、いくらあっても足りなさそう」
「同感、こんな我儘なやつ頼まれても養いたくない」
「お前らいい度胸だな……そういえばひとり足りなく無いか?あのバカはどうした?」
「ああ、なんか部活の先輩に呼ばれてどこか行ったよ」
「そうか、なんでもいい。国永、飯」
「ん、次体育だからちゃんと食っとけよ?」
国永が購買の袋を渡しつつ、プリン味のチュッパをひとつ握らせる。
「この炎天下の体育とか地獄だな…」
「女子は生理とかで体育見学出来るのって不平等じゃないかな?
僕らにも見学出来る理由が欲しいよね」
「そうか…生理と言えば休めるのか…」
「やめとけ、君が言うとなんかシャレにならないから」
「国永くんでも十分いけると思うけど、それが許さるのは君達だけだよね」
もぐもぐと焼きそばパンを食べながら陰りそうもない炎天下の空を見上げた。
空はどこまでも曇りなく広がっている。
なのに自分の心は曇ったまま、晴れることは無いのだと。

椿国永はつまらない

小烏黒葉の第一印象は表情の変わらないチビだった。
産まれて数年、知らない女に監禁されて育った。
文字にすれば一行で、説明するには少し長い少しだけ不思議な人生。
寿命100年の内の最初の何年、なんて偉そうに言う奴は五万と居るが、親に愛される大切な数年だったと言う奴も居る。
正直どちらも面倒で、ただ退屈だ。
どう言われようと所詮は他人の語る言葉でしかない、胸を打たれて感動するでも激高するでも無い。
ただそうか、と言って受け入れたのは爺さんと従姉妹の翠、それに黒葉だけだった。
だからそれで良いと、彼等だけ居れば良いと思った。


爺さんが亡くなった中学時代はそれなりに気落ちして、退屈な日々は箱の中と代わらないと寝て過ごした。
それが大人しいという判定を喰らったのか、はたまた顔だけは良かったから癪に障ったのか。
生まれつきのアルビノという白髪と紅い目が余計に目に付いて弱く見えたんだろう。
初めは廊下を歩く時に小突かれる、授業中に回される誹謗中傷の手紙。
女子か、と思いながら紙を捨てたり無視をして相手にしなければ、それは段々と悪化した。
男子トイレに連れて行かれて見えない所を殴る蹴る、仕舞いには個室に閉じ込めて水を掛けられる。
流石に水を掛けられた時は寒いから文句を言おうと思った。
が、動きの止まった奴等に不審に思っていたら両手を押さえ付けてワイシャツを剥かれる。
最後には水以外の物で濡れるし顎も腰も尻も痛い、なんて最悪な事態になった。
中学男子、思春期の男っていうのは本当にサルみたいに一つ覚えだ。
ただヤりてぇっていう目的しか無く、こっちの負担もお構いなしにハメようとしてくる。
それが授業合間の休み時間だろうが昼休みだろうがお構いなし。
そのうち匂いが気になるとか言って校舎の影でヤるようになった。
育ての親のせいか箱に詰められた恐怖のせいか、俺は起たなくなっていた。
気にもしていなかったんだが、そうなると今度は女役としてしか能が無いだのクソビッチだの。
喘がせる程のテクもねぇ単なる突っ込みたがりでも暇潰しにはなるかと思って居たが、退屈で仕方なかった。

「……翠の事を無自覚とか言ってたが、俺も十分無自覚だったか」

現状をよく考えたら大きなため息が出た。
俺の場合は無自覚というより、無関心過ぎたのが問題だろうけど。

「はあ? なんだよ椿、好すぎて喘ぎたくなったのか!?」
「テク無しに欠伸が出るって言ったんだよ」

声を出すのと同時に尻に力を入れて捻れば、突っ込んでた馬鹿が硬直するのが分かった。
起ったもんを捻ればどの位痛いのかは想像出来ないが、腰を使って捻切るように体勢を入れ替えればそれが変な音を立てたのが分かる。
元々骨も通ってない、血管が凝縮してるだけの柔らかい部位だ。
散々突っ込まれたり無理な体勢させられたりで鍛えられたこっちとは訳が違う。

「下手くそが一丁前に粋がってんじゃねぇよ……」

股間を押さえて蹲る馬鹿を踏み越えれば、囲んでた馬鹿が慌てる様子が見えた。
それでも多勢に無勢、勝てると見込んだのか踏み込んできて、

「人間壊すのって呆気ないな。つまらん」

後には地面に伏して伸びたり助けを求めようと足掻く血みどろの馬鹿の団体。
殴ってみたのは初めてだったが、それでも十分強かったらしい。
というよりは、他人に対しても自分に対しても痛みを省みない攻撃の方が強かった、だろうか。
慌てて混乱しているよりは状況を見て冷静に判断した俺の方が反応は早かった。
相手の反応を見ながら加減を覚えていけば、俺でもそのうちやり過ぎる事は無くなった。
壊してる瞬間は楽しいが、誰も居なくなると退屈になる。



高校に入ればそんな風に寄ってくる馬鹿も少なくなった。
居なくならなかったのは度胸のある奴か、それなりにこっちを好くしてくれる奴。
痛いだけや退屈にさせるだけならごめんだが、上手い奴はそれなりに楽しめる。

「ほら、今からお前のケツにぶち込んでヤるから大きくしてくれよ」
「偉そうだな、誰がヤらせてやってると思ってるんだい?」

笑いながら先頭にキスをして唾液を絡めながら舐めてやれば、良さそうな声が上がる。
時折啄む様にしながら裏筋を舐め、根元の辺りを集中的に舐めながら先頭を指で弄ってやればどっちが入れる方何だか。
お預けしたお詫びに全体を口内に入れて歯を当てないように舌で舐る。
相手は奥に飲み込んだ時に震える喉が好きらしいからそうやって大きくし、

「椿、出そう……ッ!!」
「んぅ……まだお預けだ。ぶち込んでくれるんだろう?」

根元をぎゅっと指で押さえて口から外し、相手が垂らした汁と唾液を舐め上げれば体勢を入れ替えて押さえ付けてきた。
立ちバックは掴まる所が無いと疲れるんだよな、と考えてる間に慣らしもしないで穴に入れてくる。
切れたらどうするんだと苛ついたが、余程余裕を無くしていたらしい相手はすぐに奥を突いてきた。

「ひっ、あ、あん、そこ…もっと、それ、すきぃ!!」

奥を突かれる度にきゅうきゅうと切なくなる腹に、穴に力が入るのが分かる。
形が分かるほど締め付けて、奥に誘うように自分からも腰を振れば目の前がチカチカと明滅した。
ガクガクと揺れる膝が崩れそうになるのを、腰を掴まれて堪えさせられる。
壁に付いた手は爪を立ててガリガリと削るように掴まる場所を求めた。
息を付く間もなく与えられる快感に、口元が緩みきって唾液が垂れるのも構っていられない。

「椿、好きだッ!出すぞッ!」
「んひぃッ!!……あ、なか、びくびくして……」

余韻に浸って自分の起たないモノからも白濁が出てるのを呆然と見ながら腰を引こうとすれば、もう一度押し付けられた。
直ぐに堅さを取り戻したらしい相手の物が腹の中を弄ってくる。

「はひッ、無理、も、むりだから、おなか、くるし……」
「お前が、孕むまで、種付け、してやる、よッ!!」
「ちょ、や、ぁあん、ひ、はう、だめ、やだ、やッ、ん、くっ、ふっん」

人の話を聞かずに盛ってくる馬鹿に、良いように嬲られながら耐える。
馬鹿の執着や快感で涙や鼻水が出そうになるが、声だけは絶対に出さないと唇を噛みしめた。
一方的な動きに相手は早くも果てたらしく、肩で呼吸をしているのが聞こえる。
身体を弛緩させて呼吸を整え、一瞬だけ止めて回し蹴りをかます。
前のめりの姿勢になっていた馬鹿はそれだけで昏倒した。

「くっそ、気持ち悪い……ったく、二回分誰が出すと思ってんだよ……」

自分で指を突っ込みながら掻き出すように注がれた白濁を出す。
孕むだの種付けだの、女と勘違いしてるんじゃないのかと毒づいた。
何よりそこそこ好い部類だから相手をして居たが、好意を告げられた時点で遊びは終わりだ。

「あー……この後あのセンセのとこか…だるいなぁ、サボるか……」

クラスで孤立しているんじゃないのかと親身になってくれる数学教諭。
実態は寝取られだのを見て興奮する変態教師。
内申には手を出さないが、大学や興味のある専攻の相談に乗ったり勉強を教えてくれたり。
代わりに身体を迫るっていうのはどうなのかねぇ。

「世の中退屈でつまらんな……とりあえずタバコ貰って帰ろ」

処理しきった俺は痛む尻を庇いながら白いフードで顔を隠して数学教諭の部屋に向かった。
劇的に世界が変わるような出会いなんて信じて居ない。
ただ、深海の底みたいに暗くて呼吸の仕方も忘れるような毎日が変わるなら、それで良かった。

感謝をあなたに


最近ルイがソワソワしてる。
「ご馳走様でした」
朝食を食べ終わったルイが慌ただしく食器を片付けて、ぱたぱたと自室に駆け上がっていく。
「ルイ、最近何か変じゃないか?」
「そうか?」
「何かそわそわしてるというか…」
「気のせいだろう。」
黒葉はヨーグルトを食べ終えると食器を洗って作りおきのレモネードを片手にリビングのテレビを付けてゲームを起動させる。
「黒葉、何やってるんだ?」
「零」
「どれ?」
「濡鴉」
「見る、待ってて今片付けるから」
暫くしてルイが自室からカバンを抱えて降りてきた。
「お父さん、お母さん、行ってきます」
「ルイ、どこ行くんだ?気を付けて行ってこいよ」
「えと、鶴兄のとこだよ!行ってきます」
慌ただしく出ていくルイに多少疑問が残る。
「君、何か知ってるだろ?」
ジト目で黒葉を見ればふふっと笑って頭を撫でてきた。
「お鶴だけなら心配だが吉光がついておる。
危ない事はしておらぬから安心しろ」
「……君がそういうなら…大丈夫なんだろうけど…」
黒葉の肩に凭れてテレビをぼんやり眺めた。
「眠いか?」
優しく笑いかける声が心地よかった。
「ん、でも……もう少しこのまま。」
そのまま目を閉じて、心地よい温もりに意識を落とした。


「ルイくん上手だねぇ」
にこにこしながら蘭姉は隣ですごい速さでガラスの花弁を接着してる。
しかも手元をろくに見てないのに綺麗な花の形になってる。
「涼蘭、手元見ろ」
涼兄がひょいと手元をのぞきこんで手を添える。
「へっ!?だ、大丈夫だよ、慣れてるし!」
蘭姉が赤くなって声をしぼめる。
「る、ルイくん見てるから!」
「蘭姉と涼兄って仲いいね、羨ましいなぁ」
「ルイならスグに彼女でも彼氏でも出来ると思うぞ。」
「うん、そうだよ。
ルイくんは可愛くて優しくていい子だもん!」
こんな、ばけものでも?と喉から出かけた言葉を飲み込んだ。
それは僕を助けてくれた鶴兄達や、お父さんとお母さんの信頼を裏切る言葉だから。
あんなに僕を愛してくれる人達だから、僕は人間として生きていくと決めたし、バケモノだからって思うのをやめようと思えた。
もうそんな風に自分を卑下して逃げるのはやめようって。
「そうなればいいな。
蘭姉と涼兄みたいな素敵な恋人同士に慣れればいいな」
「あと数年したら涼みたいになりそう…」
楽しく話してるうちに出来上がったガラスのカーネーション。
大好きなお母さんに喜んで欲しくて蘭姉の所に通ったけど、なかなか上手くできなくてすこし不格好になってしまった。
「……うぅ、難しい…」
「ルイくん、初めてにしてはすごく綺麗に出来てるよ?」
「そうだぜ、それにこういうのは気持ちだからな兄貴ならルイが自分のために作ったって言ったら喜んでくれるだろ。」
「そうかな?」
「そうだよ!自信もって!出来映えは私が保証する、すごく綺麗に出来たよ」
蘭姉がニコリと笑って背中を押してくれた。
「ありがとう」
「このあと鶴兄貴のとこ行くんだろ?
早く喜ばせてやれ」
涼兄に言われてガラス工房を出て、完成したプレゼントを抱き締めて鶴兄の家に向かう。
「お、来たな?プレゼントは出来たのか?」
「うん、蘭姉がラッピングしてくれた」
「そっか、良かったな」
鶴兄はシヴァ姉を膝に載せて2人でゲームをしてた。
「いちー、準備できたのか?」
「大体は。あとは国兄さんが来てからで良いかと。
じゃあ私は二人を迎えに行きますので余計な事したら蹴り飛ばしますよ。
シヴァ、ルイくんに冷蔵庫からレモネードとケーキありますから一緒に食べてて下さい」
「あい!ルイくんこっちよー」
シヴァ姉がふにゃっと笑って手を握ってくる。
あの時と同じ、優しい手。
「いってらっしゃい、いち」
鶴兄がひらひら手を振っていち兄を見送る。



すっかり眠ってしまった国永を膝枕したまま時間を潰す。
母の日にお母さんに内緒でプレゼントを用意したいとルイが言い出した時は驚いたが、お鶴や涼蘭まで巻き込んでなかなか盛大な話になってしまった。
国永はきっと驚いて泣き出すか、緩みきった顔で笑うんだろう。
俺はありのままの国永を受け入れて愛するつもりだったが、息子達の少々過激な愛情のお陰でいい方向に変われた様で良かった。
「お前が与えた愛が、少しずつお前に返ってきて、お前の心をいつか満たしていけば良いなぁ?」
すやすやと眠る国永の頭を撫でると、スマホがなった。
「吉光か、準備は終わったのか?」
『はい、これからお迎えにあがります』
「判った、国永を起こすからゆっくり来てくれ」
『ふふ、分かりました。それじゃあゆっくりお迎えにあがります』
電話を切って国永を揺する。
「起きろ国永、出掛けるぞ」
「……ん、でかけ…?
るいは?」
「ルイは先に行ってる。
今吉光が迎えに来るから準備してこい」
「……うん、わかった…」
まだぼんやりしてる国永はフラフラと洗面所で髪を直して戻ってきた。
「準備はいいか?」
「ああ、良いけど、どこに行くんだい?」
「お鶴の家だ」
「お鶴の?なんで?」
きょとんと首を傾げる。
自分には馴染みの無い日だから検討がつかないみたいで好都合だった。
「付けば分かる、行くぞ」
手を握って玄関から出ればちょうど吉光が車から降りた所だった。
「ピッタリだな」
「吉光?」
「どうぞ乗ってください」
吉光が後部座席のドアを開け、そのまま車でお鶴の自宅に向かう。
事務所を通って二階の自宅部分に上がれば、豪華にセッティングされたテーブルにお鶴とシヴァとルイが座っていた。
「遅かったなー」
「お待たせなのー」
お鶴とシヴァが笑いながらこちらを見ると、ルイがおずおずとこちらに近寄ってきた。
そっと国永の背を押せば、不思議そうにこちらを見てからルイに視線を戻す。
「あの、今日は母の日だって…鶴兄に聞いて、これ…」
可愛らしく包まれた小さな箱をそっと国永に差し出す。
「え、母の日……?俺に?」
「お前以外に誰が居るのだ、早く受け取れ。」
「あ、ああ…開けてもいいか?」
驚いた様子の国兄がふにゃりと緩く笑う。
丁寧に包を開くとガラス細工のカーネーションのブローチ。
ガラスの花弁の間にはラインストーンが綺麗に並べてくっついていた。
「蘭姉の知り合いのガラス工房に通って作ったんだ…あんまり上手くないけど…」
「ルイが自分の小遣いを貯めて材料を揃えたのだぞ?」
「ちょっと足りなかったから、鶴兄のところでバイトさせてもらって…」
「書類整理とお茶くみな。
ルイは仕事が丁寧だし飲み込み早くて助かったぜ。」
「そうか、ふふ、ありがとうルイ。
お鶴も吉光もシヴァも。」
嬉しそうに笑う国永を見ているだけで心が温まる。
ずっとこの幸せな時間が続けばいいと思ってしまう。
どうかこの幸せが壊れないようにと。
いまはただ、願うだけだ。


「国兄座れよ。
いちが母の日だから飯作ったんだぜ。
俺とシヴァも手伝ったんだ」
幸せそうに笑ってルイを抱きしめる国兄を席に促す。
国兄は今迄辛い思いを沢山してきたから、国兄には幸せになって欲しい。
俺の願いは、この人が幸せに笑っていられる世界を守ること。
いちと一緒に、笑っている為に。
「ビーフシチューを作ったんです。
国兄さんみたいに上手くできませんでしたが…」
そのビーフシチューを作るのに、いちが昨日から何時間も煮込んでたのを俺は知ってる。
俺もシヴァも隣で見てたから。
国兄の喜ぶ顔が見たくて。
「ふふっ、そんなの美味いに決まってる。
吉光とお鶴とシヴァが俺のために一生懸命作ってくれたんだからな」
「このハートの人参は俺が型抜きで抜いたんだぜ!」
「シヴァも!シヴァも頑張りした!
おいもさんむいたした、ファーティと味付けした」
「シヴァのいもは…凄いな、鳥の形か?」
「クローブ!クィン大好き!
クローブと、ハートいっぱい!」
キョトンとした国兄がじわじわと頬を赤く染めて隣を見る。
黒葉先輩は何も言わないで優しく笑う。
何も言わなくても意思疎通が出来てるのが羨ましい。
でも、言葉にすることで意味がある事も知った。
だから俺は言葉にすることを選ぶ。
「国兄、いつもありがとな」
笑いかければ国兄は緩みきった顔で笑って何度も頷いた。
「そういえば、お鶴だって母だろ?」
「おれも貰ったぜ、シヴァから手作りのピアス」
「シヴァも一緒につくりしたよ」
俺が髪を良ければそこには鶴の形の水色のガラスでできたピアスが付いてる。
「へぇ、可愛いな」
「お母さんも、ピアスが良かった?」
「いや?俺はアクセサリーとかあまりしないから、これがいい」
大事そうに箱を撫でると、ルイが嬉しそうに笑った。
「しあわせだなぁ…」
そんな光景を見て、つい口をすべらせた。
「ああ、幸せだな」
国兄が柔らかく笑うのが、本当に幸せそうで、心の底から良かったと思えた。
「おれ、みんなに会えて良かった。
今すごい幸せだ…」
大好きな父さんと母さん、可愛い娘と弟分。
そして、最愛の旦那が笑いあってる。
「幸せすぎて死ぬかも…」
「ムッティ、死んじゃやーよ」
「案ずるな、お鶴はただの幸せの過剰摂取だ。」
「うー…母さん、父さんが俺をいじめるー」
「ははは、全くお鶴は甘えただな、ほらおいで?」
首をかしげて両手を広げる国兄。
抱き着きたい。今すぐ抱きつきたいけどぐっと堪える。
「来ないのか?」
「……今日は、ルイを抱きしめてやってくれ
俺はシヴァの母親だから…」
今日は母の日だから。
国兄にはルイが、俺にはシヴァがいて、受け取った感謝にはちゃんと愛情で返さないとダメだと思ったから。
俺はシヴァを抱き締める。 可愛くて大切で幸せにしたい大事な俺の宝物を。
「ムッティ…」
「ほら、国兄もルイをぎゅってしてやれよ。
大事な息子だろ?俺達も息子だけど、俺達はいつも国兄を独占してるからな」
俺に言われて国兄はルイを抱き締めて、ルイもすごく嬉しそうだ。
「来月は黒葉先輩の番だな?」
「俺はお前達がこうして笑っていればそれ以上何も欲しいものは無いな」
「いいえ、父の日もしっかり祝いますよ?
幸せに上限はありませんから」
いちの言葉にふふっと黒葉先輩が笑った。
「ああ、楽しみにしてる」

俺は父の日を何にしようか楽しみに、出された料理を味わった。


PARANOIDDOLL


いちの匂いが、温もりが恋しくて、抜け出して、家に帰る。
抱き締めて、いちの匂いを胸にいっぱい溜め込んで、それで、それで、愛してるって、おれはいちが居ないとだめだってちゃんと伝えよう。
そう思って高鳴る胸を抑えた。
事務所は暗くて、リビングも真っ暗だった。
「……いち?居ないのか?」
事務所に置かれた大きなダンボール。
この中に隠れて俺を驚かせようとしてるのかと、包を開けた。
「いち、みつけた」
いちは眠ってるのか膝を抱えたまま目を閉じてる。
「ふふ…いち、ただいま…」
ぎゅっと抱き着いて、ハッとした。
いちの体は冷たくて、かたくて、人のそれじゃなかった。
バッと離れれば、月明かりに照らされたいちが青白く俯いていた。
「あ……そん、な……うそ、うそだ…いち、目を開けて、なぁいち、俺いちがいないと、うまく息ができないんだ、いち、いち、頼むから目を開けて…いち、いち、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
理解出来なくて、理解したくなくて、いちを揺さぶった。

そのうちいちのからだがぐらりとたおれた

「いち…なぁ、もう、あえないのか?
だきしめて、笑ってくれないのか?
いやだ。いや、いや、いやだうそだしんじないいやだいやだいやだめをあけておねがいいち!!」
どんなに揺さぶっても、いちはめをあけなかった。
涙がこぼれて、いちにしがみついてみっともなく泣き叫んで、暗くて静かな部屋に俺の鳴き声だけが響いてて、辛くて、死んでしまいたかった。
「いち……おれがまちがったから、もうあってくれないのか?おれが、いちをころしたのか?うぐいすの、れいりの、シヴァのときみたく…?おれ、まもれなかった、また……いちばんだいじなきみを、まもれなかった……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい」
愛していたのに、酷いことをしていちをボロボロにしてしまった。
いちを愛してたのに不安にさせてしまった、大切にされていたのにいちを悲しませてしまった、守りたかったいちを、死なせてしまった。
「あ、ああああああああああ!!!!
いち、いちっいち、愛してる、ごめんなさい愛してるってあいしてるあいしてる!!!」
いちの横たわる身体にすがりつくしか出来なかった。
冷たくて鼓動が聞こえない身体に。
どれほどそうしてたかわからない。
とても長かった様にも感じるし、一瞬だったかもしれない。

「君はこんなところで終わるのかい?
つまらないな、もっと楽しませてくれると思ったのに」
いちを抱き締めて床に寝そべっていると、褐色の男が俺をニヤニヤ笑いながら覗き込んだ。
「……いちが、居ないなら…
どうでもよくて、いきてても、しかたなない…」
「そうなの?お前はそんなに簡単に壊れてしまうのかい?」
「もうすきにしろ、殺したいなら殺せ」
「そんなつまらないことを何故しないといけない?
どうせなら、もっと面白くしてやるよ」
そう言って、何かを投げてよこした。
「……これ、伝票?」
「どうせ死ぬなら僕を楽しませてから死んでよ。
キミは僕の玩具なんだから、持ち主を楽しませてから壊れなよ」
そう言ってその手が俺の頭に触れた。
「あ、あがっ、ぐ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
激しい痛みと共に押し寄せる恐怖。
そして、流れ込むいちの最期。
見たくない、見たくないのに流れ込んでくる、目を閉じることも耳を塞ぐことも出来ない。
耳にこびり着く皮膚の剥がれる音と咀嚼音。
いちだったものが血肉になって食われていく様を見続けさせられる。
「いやだ、やめて!!みたくない、いやだ、しりたくない、みたくないやめろやめてやめてやめて、いや、いやだいやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
暫くいちの最期の記憶が流れ込んだ後、不思議な言葉が頭に浮かび上がる。
俺はそのまま気を失っていて、気が付けばあいつはもういなかった。
「いち……まってて、お前をんな姿にしたやつを、殺して来る、そうしたら、お前のとこに行ってもいい?俺を…俺をまた抱き締めてれる?笑って、キスして、頭を撫でて…俺を、呼んでっ、くれる?」
眠るいちに笑いかけてキスをする。
そして、俺は刀を手に伝票の住所に乗り込んだ。
雑居ビルの一室。
もうどうにでもなれと思った。
ドアの中からなにか声が聞こえる。
不審に思ったけどドアを開ければ何か光に包まれて意識を失った。
俺は、いちをまもれずに、仇もうてずに死ぬのか…
そう思って刀を強く握ったら、目が覚めて知らない部屋にいた。
「ここ、何処だ?」
あたりを見回しても柱時計があるくらいで何も無い。
取りあえずどのくらい眠っていたかを調べようとスマホを取り出して息を飲んだ。
「えっ…四日前?」
日付が四日前を示していた。
「四日前…もしかして、まだいちを、助けられる…」
俺は急いでその場から離れていちを探しに行こうと外に出た。
「お前はこの次元の人間ではないな」
ふと、黒いローブの男がビルの出口に立っていた。
「俺は、やらなきゃいけない事があるんだ、恋人を…俺の大切な…一番大切な…恋人を助けたい…」
「そのために罪を犯す覚悟はあるか?」
「ある、何でもできる」
「……なら猶予をやろう。
ただし、過去のお前や恋人、友人に会うことは時を歪める。」
「……わかった、誰にも会わないと誓う」
そう言うと男は消えて、辺りがざわめき始めた。
「待ってて、いち。今助けるから。
今度はそばを離れたりしないから」
そう言って事務所に向かう。
窓から覗くと事務所はがらんとしててclosedと看板が掛かってる。
こっそり開けてみると中からいちの声がした。
いちと、シヴァの声。
どうやら明日国兄と植物園に行くらしい。
楽しそうに何かを喋って、でもそこに俺はいなくて…
思わず駆け寄りたい衝動を抑える。
「落ち着け…ここで出ていったら元も子もないだろ…」
深呼吸して事務所から離れると、あからさまに怪しげな男達が事務所の前をうろついてた。
慌てて身を隠して居ると、いちが外に出てきた。
「……あいたい、鶴…
あなたは、今何をしてますか」
涙を零しながら、夜空を見上げる。
思わず声が出そうなのを堪えた。
抱き着きたいのを必死に我慢して、いちを助けるためだと言い聞かせる。
するとさっきの怪しいヤツらがいちに近付いていくのが見えた。
いちは気が付いてない。
ああ、こいつらが、いちを…
気がついたらもう、飛び出していた。
「よぉ、こんな夜更けに何してんだ?
剥製の材料でもお探しかい?」
相手は3人。あからさまにこちらを警戒した。
「誰でもいいなら俺を連れてけ」
そう言って背中に刀を隠したまま両手をあげれば、話し合った末に納得されたのか人気のない場所にとめてある車に連れて行かれた。
「さぁ乗れ」
「……その前に一つ、お前等は何なんだ?」
「皮膚の兄弟団、偉大な神を崇拝する者だ」
「へぇ……それは、ご大層なこった!」
戦い慣れはこちらの方が上だった。
振りほどいて蹴り上げれば簡単に伸びる。
「どうしていちを狙ったのか教えてくれよ」
にっこりと笑いかければ、残りの2人は怯えて洗いざらい吐いた。
いちが有名なカメラマンだったから、長年付き合っている恋人がいたから、ただそれだけの理由だった。
「そうか、俺がその恋人だよ。
ふふ、残念だったな、お前らに俺のいちをくれてやるもんか!」
刀で首を跳ねて、グチャグチャになるまで突き刺して、楽しくて仕方なかった。
「あは、あははは、いち!いち、俺ちゃんと出来た!ちゃんと出来たぜ!
殺してやった、お前を殺した奴を殺した!」
グチャグチャになったそれから刀を引き抜いて、返り血を拭き取る。
「ふふ…ふふふ、いち、ねぇ褒めて、俺を褒めてくる?
ぎゅっとしてくれる?ああ、でもまだダメだ…
こいつらを、壊さないと、全部壊さなきゃまた狙われる。
いちが、狙われる……まっててね、いち。
全部ぶっ壊したら帰るから…そしたら、俺を抱き締めて……」
俺はその日から皮膚の兄弟団について必死に調べた。
街で聞きこみして、いろんな場所で情報を集めて、失踪した剥製師がいるって知って、殺してやろうと思った。
今回は一人でやらなきゃいけないから、ノートに全部纏めてカバンに入れて持ち歩いて、ホテルのベットに横たわる。
「いち……あいたいよ……」
そうやって眠りについた。
はずだった…ドアに置いた布石がズレたの瞬間に目が覚めた。
飛び起きる前に押さえ付けられてスタンガンで気絶させられた。
目の前が歪んで、気持ち悪くて、体に力が入らなくて…俺の意識は途絶え、目を覚ました時は暗い牢屋だった。
「目が覚めたか」
「……」
見知らぬ男が俺を見下ろしていた。
「お前の大切な人を吐いてもらおうか」
「大切な人なんて居ない」
「なら、身体に直接聞くか?」
そういって男は俺の腹に拳で殴り付けてきた。
「ぐ、うっ……」
「吐いたら楽になれるぞ?」
「……―っ、だれ、が……お前等の、言いなりに……」
答えを返せば殴られる。
そんな問答がしばらく続いたあと、あれを持って来いと言われ、何かの注射器を持ってきた。
「これは強力な自白剤だ、耐えれるものなら耐えてみろ」
腕に刺さった針から薬が流れ込み、頭がおかしくなる。
「い、や……いやだ、やめ……クソ…いやだ、言いたくない、言わない」
「強情だな、もう一本いるか?」
俺はもう、男を睨むだけで何も出来なかった…
グラグラと揺れる、らくに、なりたくて…もう、疲れて、らくに、なるなら……そう思って、いちの死に顔が頭に過ぎって、首を強く振った。
「いわ、ないっ!!!」
その後はもうぼんやりとしか覚えてない。
薬を何本も打たれて、殴られて、痛めつけられて、それでも、いちだけは、まもりたかった……
「そんなに操を立てているなら、こっちの方が効果があるか?」
そう言われて、服を脱がされて、奥まで突っ込まれて、何人かにマワされて、意識が飛びそうな快感と痛みに、意識を手放せばらくに、なれるのに、俺はただそれが過ぎ去るのを耐えるしかできなかった。
ここで俺が折れたら、いちがころされるから。
「クソ、いい加減儚いと、本当に抱き潰しちまうぞ」
「した……なら、すれば、いい。
おれは、ぜったい……あいつを、まも……」
何度気絶しても叩き起されて、拷問と強姦を繰り返されて、それでも、俺はいちに、笑って欲しかったから、生きて欲しかったから、それだけで、たえられた。
「もう、ラチがあかん。
お前らはどいてろ」
そういうと一人の男が前に出てきた。
そいつが何かを唱え始めて、ゾクリとした。
これはだめだ、きいたら、だめ、いやだ、聞きたくない
「いや、やめ、やめろ、ヤメロやめろやめろやめろやめろやめろ!」
「大人しくさせろ!」
「やめろ、やだやだやだやだ、いやだぁぁぁぁぉぁ!!!」
そう叫んでから、俺の意識はぷつりと途切れた。
「お前の大切な人は?」
「………いちご、よしみつ」
「そうか、住所は?」
「あんなに強情だったのに、こんなあっさり」
「そうか、判った。
お前はこれから生贄になるんだ、それまで大人しくしてろ」
「……おれ、は…いけにえ………はい、おとなしく、してる、いけにえ……」
「お前達は生贄を綺麗にしておけ。
これは私の作品になるんだからな!」
「私は儀式の準備に映る、生贄をしっかり監視するように」

ぼんやりと、会話を聞いて、俺は涙をこぼした。
もう、いちに会えないと、知ったから

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