「クラウド…朝だぞ。」
「………」
隣のベットで眠るクラウドは布団にくるまったまま、モゾモゾと顔を出した。
「頭が…ガンガンする…」
「なんだ?風邪引いたのか?」
ザックスは苦笑しながら額に手を当てた。
「熱あるな、頭痛いだけか?」
「あと…吐きそうだ…」
「取り合えず…薬のまないと、良くならないからな。
エアリスに頼んでお粥かなんか作って貰ってきてやるよ。」
クラウドはジーっと恨めしそうにザックスを見上げた。
「何だよ、何拗ねてんだ?」
「アンタは…何時もそうやって…俺を子供扱いする…。」
そんな拗ねた姿も可愛いだけなんだが…と、思った所で急にドアが開いた。
「ん?」
ザックスが振り返ると、サイファーがレオンを姫抱きにして入ってきた。
腕には引っ掻きキズが幾つもついてて、暴れられたんだろうなぁと思ってると、その視線に気付いたサイファーが舌打ちしてレオンをベットに投げた。
「った…運ぶなら最後まで丁寧に運べよ。」
悪態をつきながらも、レオンはベットに潜ってごそごそと部屋着に着替え始めた。
「病人が文句垂れるな。」
「何だ、レオンも風邪引いたのか?」
「レオンも…って、もしかして…」
「あぁ、クラウドも風邪だ。」
「チッ…風邪流行りすぎじゃねえか。」
あからさまな溜め息に、これは相当機嫌が悪いなと、瞬時に悟った。
「流行ってるのか?」
「ああ、昨夜ゼクスがぶっ倒れて部屋に運ばれたのを皮切りに、チビ共と…あと今朝がた隊長も倒れたって話だ。」
「隊長も?」
「みたいだぜ、詳しくはしらんがな。」
サイファーはレオンに体温計を投げて、自分のベットに腰かけた。
暫く恨めしそうにサイファーを睨んでいたレオンも、しぶしぶ体温計を受け取った。
似た者同士だなぁと、自分の隣で布団にくるまる愛しい人をみつめた。
「……何だよ…。」
熱に浮かされながら、ぼんやりと見上げてくるクラウドの頬にそっと触れた。
「病人は寝てろよ。」
「……そうする。」
クラウドは、そのままモゾモゾと布団のなかに潜って目を閉じた。
向かいではサイファーがレオンに薬を飲ませようとして抵抗されているらしかった。
「大人しくしろ!!」
「誰もアンタにそんなこと頼んでない!!」
喧嘩するほど仲がいいのか、ザックスはあえて見ない振りで食堂に向かうことにした。
「大丈夫?」
心配そうな声にぼんやりとしかいが広がる。
体が鉛のように重かった。
徐々に意識がはっきりすると、最愛の妹の顔が目に入り、ゼクスはようやく意識を回復させた。
「私は…」
そう、昨夜はたしか…と記憶をたどる。
昨夜、ゼクスはシュノと次の遠征について話をしていた。
なんとなく、体がだるいとは思っていた。
しかしながら、まさか風邪だとは梅雨にも思わず、そのまま意識を失った。
「あ、ゼクス。起きたの?」
ちょうど、レシュオムがお粥をもって入ってきた。
「ビックリしたんだよ、ゼクスが倒れたって聞いて…タウなんか一晩中寝ないで看病してたんだからね?」
「そうですか…ありがとう、タウ。」
ゼクスが微笑みながらタウフェスの頭を優しく撫でた。
「ううん、私はお兄ちゃんが心配だったの。」
にこっと笑ってタオルを変えてくれる冷たい末妹の手をぎゅっと握った。
「後で、シュノさんにもお礼言っておかないとだめだよ?」
「そうですね…今日は遠征の日程を積める予定でしたし…。」
「違うよ、シュノさんが倒れたゼクスをここまで運んでくれたんだよ。
でも、今日はきっと忙しくて無理だろうけど。」
「どうかしたんですか?」
苦笑するレシュオムに、ゼクスは不思議そうに首をかしげた。
「それがね、騎兵隊で風邪が流行っちゃって…
新入りの子達やクラウド達も風邪で倒れちゃって…隊がめちゃくちゃなの。」
そこまで、言い終わるとレシュオムは罰の悪そうに顔を背けて小さな声でいった。
「それでの…隊長が、今朝がた倒れたの。
今隊は大変でしょ?シュノさん、隊長の代わりに仕事割ふらなくちゃ行けなくなって…」
側に居られないから機嫌が悪いと。
何となく理由を理解したゼクスは、久しぶりにベットに横になりながらレシュオムの作ったお粥に手を伸ばした。
「ゼクス、あーんして?」
それを悟ったタウフェスが、れんげを取り上げて、にっこり笑いながらお粥を口許に差し出した。
ゼクスは多少照れながらも、お粥を口に運び、タウフェスとレシュオムは顔を会わせて嬉しそうに笑った。
今日は風邪を引いていることだし、妹たちの好意を素直に受けとるのも良いかもしれないと、つかの間の幸せを噛み締めていた。
朝、目が覚めると見慣れた金色が居ないことに気付く。
隣で寝ていたであろう場所は既に冷たくなっていることから、結構な時間が経っていることを物語っていた。
シュノは大きく欠伸をしながらもそもそとベットにから起き上がる。
レイリの部屋の隣の温室から水を巻く音がして、ああ…日課の水やりかと思い、温室に近付いて扉を開けた。
ガラスで覆われたレイリの庭は丁寧に手入れされていて、今日も花たちが活き活きと咲き誇っている。
が、肝心の温室の主の姿が見えない。
水の音はするものの、レイリの姿はない。
水を出しっぱなしにしてどこかに向かったのかとも考えたが、几帳面なレイリの性格上それはあり得ない。
嫌な予感に、広くない温室を歩き回っていると、奥の花壇の手前でグッタリと倒れているレイリを見つけた。
「レイリ!!」
ホースの先から溢れる水がレイリの寝間着を濡らし、体温を奪っていた。
「……シュノ?」
レイリの意識が徐々に戻ると、ぎゅっときつく抱き締める。
「何やってんだよ、お前はバカか!!」
「花に……水を…」
「……バカか…しかも熱あんじゃねぇか。」
「ね…つ…?通りで…体が…重いと思った…」
へらへらと緩んだ笑みを浮かべながらも、立ち上がろうとするレイリを、シュノは抱き上げてソファーに座らせた。
「まず体ふけよ。」
バスタオルを投げつけ、レイリがボタンはをはずして湿った寝間着を脱いでいる間、代えの寝間着を引っ張り出す。
上質な生地だろう寝間着は水分を吸って重くなっていた。
レイリの着替えが終わると、ベットに運んで熱を測る。
「……39度もあるじゃねぇか…」
シュノは呆れて何も言えなかった。
「……気が付かなかったんだ、仕方ないだろ。」
レイリが拗ねたようにシュノに背中を向けた。
「何でもいいけど、今日はお前はベットから一歩も出るな!!判ったな!?」
「判ったよ、大人しくしてる。」
「薬のめよ、ちゃんと。」
「子供じゃないんだから…判っ……ん…ぅ」
背中を向けていたから完全に油断していた。
レイリはシュノにキスされながら押し込められた薬を力無く飲みこんだ。
「っ…一人で飲める!!」
「いや、お前絶対捨てただろ。
この薬苦いから嫌いだとか言ってただろ。」
既に思考が駄々漏れで、レイリは悔しそうにシュノを見上げた。
「そんな目で見ても、可愛いだけだぞ。」
そう言って額にキスを落とされ、シュノは手早く身支度を整えるとベットから離れた。
「後で様子見に来てやるから。良い子にしてろよ?」
「……うん…」
小さくレイリが返事をすると、シュノはレイリの部屋を出ていった。
レイリは、布団の中に深く潜り、目を閉じた。
目が覚めたらきっと、目の前で愛しい人が優しく笑いかけてくれるだろうと思いながら。