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Myosotis

むかしむかぁしの、おはなしです。

あるところに一人の子供がおりました。
身体が弱く、親を心配させることばかり。
そんな中、月の様に淡く微笑み、常にそばで見守ってくれる人がおりました。
子供は、月が好きでした。
子供は、彼が好きでした。
子供は、おとぎ話が好きでした。
王子様とお姫様は、ずうっとなかよく暮らしました。
めでたし、めでたし。
そんなチープなエンドロールで終わる物語を信じて居ました。
彼とずっと一緒に居られる、真実の愛を信じて居ました。
だから子供は、約束を交わしたのです。
大好きな彼と居る為に。
ああ、けれど、なんという事でしょう。

この世に真実の愛はありませんでした。
この世に愛されるだけのお姫様は居りませんでした。
子供は真実の愛を持ってはいませんでした。
代わりに持っていたのは、魔女の呪いという毒でした。
大好きで大好きで、どんな言葉を集めても比べられないほどに大好きな彼を、子供は。

白月とキスをした。
白月と約束をした。
白月は忘れてしまった。
悲しいと思うより、安堵した。
カミサマは黒鶴の祈りを叶えてくれたのだと。
だから、捧げようと思ったのです。
白月が忘れてしまった約束を、黒鶴の想いを。
人魚姫は真実の愛を得る為に、丘を歩く足を得る為に、声を捧げました。
黒鶴は虚実の平穏を得る為に、彼の隣で笑う為に、自分の想いを捧げました。
人魚姫は真実の愛を守る為に、泡となって消えてしまいました。
黒鶴は虚実の平穏を守る為に、一体何が出来るでしょう?

子供は人魚姫が羨ましくて、大嫌いでした。
王子と出会い、真実の愛を叶える為に声を失った彼女は、最期に自身を失いました。
子供は眠り姫が羨ましくて、大嫌いでした。
王子と出会い、真実の愛を叶えられるまで眠りに閉ざされています。
子供は何より、お姫様が大嫌いになりました。
だって、子供はお姫様にはなれないのだから。

子供の、黒鶴の願いは一つだけ。
ただ、白月の隣に居たい。

災い転じて福となせ




「かあさま。どこに行くの?」
珍しく綺麗な着物を着せられ、髪を整えた僕と兄の怜鴉は両親に手を引かれて山の中腹に向かっていた。
そこは古びてるけど立派な無人の御堂。
中は真っ暗でホコリ臭かった。
僕達が入ると御堂の扉が閉められる。
「かあさん、まだ僕達中に居るよ」
酷く落ち着いた様子で怜鴉が言った。
「ええ、わかってるわ。
それでいいの、私達には子供なんて居なかった。
そうよ、あなた達は私達のどちらにも似ていないじゃない。
左右色が違う目なんて気持ち悪い」
何を言ってるかわからなかった。
ただ、置いて行かれるんだとわかった瞬間に怖くなって扉を叩いた。
「あけて!かあさま!とうさま!いいこにするから、ぼくたちちゃんと、いいこになるから!だから………」
必死にとを叩いてもビクともしない。
「やめなよ、僕達は捨てられたんだよ。
もう戻ってこない。僕達が死ぬまではね」
親に愛されてないのはわかってた。
村の人からも気味悪がられて友達もいなかった。
誰も僕達と遊ぶなと言われていたから。
それでも、愛されていたと思いたかった……



僕は怖いものがよく見えた。
それはだれにでも見えるものでは無いと知ったのは物心が着くようになって親に話した時だった。
自分には見えていたものが親には見えていない。
試しに怜悧に聞いてみたら怜悧にも見えていた。
見える物を見えないということの意味がわからなかった。
僕らの普通は両親にとって異常だったけれど、それは僕達も同じだった。
子供は7つまでは神のもの。
僕らは7つになる前に親に捨てられた。
しかもただ捨てられただけじゃない。
この御堂…きっと良くないものが住んでいる。
そこに捧げられたのは生贄にするためだろう。
せめてもの恩返しに村の役に立って死ねと言われてるみたいで腹が立った。
珍しく泣きわめく事もしない弟は絶望のどん底にいた。
目を見開いたまま、涙を零して項垂れている。
早くここから逃げないと、嫌な予感がする。
とはいえ御堂は頑丈でとても僕達では何とか出来そうになかった。
「怜悧、泣いてる暇はないよ。
ここで死にたいなら別だけど」
怜悧は縋るように僕を見上げた。
面倒くさいし、すぐ泣くし、臆病だけど、あの腐った村で怜悧だけが僕の存在意義で帰る場所だった。
「僕はこんな所で死にたくない。
だから何としてもここから逃げるよ。
お前は?ここで死にたいならそうしなよ、僕は一人で行くから」
「や、やだっ!ぼくもいく、れいあ、おいてかないで」
余計に依存度をはね上げた気がしないでもない。
でもやっぱりこんなんでも大事な弟に変わりはなかった。
「よしよし、じゃあこっちへおいで」
御堂の真ん中に連れてきて、邪魔な着物を脱ぎ捨てて襦袢一枚になる。
怜悧にも同じ様に脱がせた後、怜悧の手のひらを少し切って着物に血を染み込ませる。
怜悧は怖いものが好きな匂いをしてるみたいだからそれを餌にあいつらに戸を開けさせようと思った。
僕達は扉の脇で小さくなって息を殺す。
夜が更けて辺りの嫌な気配が濃くなった。
躙り寄る気配に怜悧の手をきつく握る。
何があっても絶対に叫ぶな振り向くなとは言い聞かせたが、果たしてどこまで守れるか…
怜悧の恐怖が限界を迎える前に安全な場所に隠さないといけない。
そして最悪な事に、こいつの限界は数分も持たずに訪れるだろう。
怜悧は恐怖に震えながらきつく手を握り返す。
外の気配は御堂の入口をウロウロしていたが、突然御堂の壁を突き破って後ろに庇っていた怜悧に噛み付いた。
突然の事に頭がついて行かない。
怜悧が痛みに悲鳴を上げて泣き叫ぶと、周囲の空気が揺れるような感覚のあとに怜悧に噛み付いていた何かが怯んだ。
その隙に怜悧を引っ張って駆け出す。
御堂は地面から高さがあり、飛び跳ねて御堂の壁を壊した奴は怜悧の足に噛み付いたが、高さと壁の衝撃で足を食いちぎられることは無かった。
それでも怪我は酷く、早く身を隠せる場所が必要だった。
助けて欲しい…もう限界。
経験も知識も足りないからどうしたらいいか分からない。
怜悧を見捨てれば僕だけは助かる。
でもそれをするという選択肢は僕に無い。
一緒に生きられないなら死ぬしかないんだ。
だから必死に宛もなくただ逃げ回ってた。
朝になれば少なくとも得体の知れない怖いものは居なくなると思っていたから。
親に捨てられた絶望と得体の知れない何かに襲われた恐怖で怜悧ははち切れそうだ。
泥だらけになりながら周囲の気配から隠れるように逃げて、小さな小川に辿り着いた。
「怜悧、傷口洗うからそこに座りな」
小川の近くの大きめの石に怜悧を座らせる。
すっかり怯えきって震えている。
僕は冷たい小川に足を浸し、怜悧の傷口を襦袢の裾を裂いて洗い流して布を巻き付けた。
泥だらけになった事で匂いはごまかせただろうが鼻のきく動物なら血の匂いは嗅ぎ分けられる。
動物なら、の話だけど。
「怜悧、歩ける?」
歩けないだろう。
心が弱い怜悧はもう限界をとうに超えていた。
それでも僕に置いていかれるのは嫌なのか、ぎゅっと手を握る。
「いく…おいていかないで…」
歩けるとは言わない。でも普段の様に泣き言ばかりよりよっぽどマシに思った。
「川を渡るよ、染みるかもしれないからおぶさりなよ」
怜悧は珍しく首を横に振って僕の手を強く握る。
怜悧なりに捨てられない様に努力しているんだろう。
それなら僕からは何も言う事は無い。
小川渡り、山を下に向かっておりていく。
川沿いに進めば下に行けると思っていた。
進めど進めど山から出てる感覚はなく、体力だけが減っていく。
出血した怜悧は既にフラフラしていて暫くしたら膝から崩れ落ちるように転んでそのまま意識を失った。
産まれた時からずっと一緒だった。
「お前を一人で死なせたらずっと付きまとわれそうだから一緒に逝ってやるよ」
もう限界だった。
それでも生きていたくて頑張ったけど、僕達は子供で、無力だ。
「こんな世界なんて、ぜんぶ、なくなっちゃえ」
怜悧を抱き締めながらその場に横たわる。

さよなら、最低なクソ世界。




「主、感じたか?」
「ああ、結界に誰かが侵入したな」
その日たまたま妖怪が悪さをしているという山を訪れてい緋翠は山に張った結界に誰かが入り込んだ気配を感じた。山の半分を覆う結界は川を挟んで南側にはりめぐらされていた。
結界はその北側、つまり反対側から侵入している。
丁度妖怪を退治して結界を解除している最中だったので同業者かとも思ったが、それにしては霊力を隠しもせずにただいたずらに垂れ流しているのは妙だった。
新米の陰陽師でも霊力を垂れ流したまま等と愚かしい真似はしない。
なら考えられるのは一つ。
「子供か?」
素養に恵まれた子供というのは貴重な存在で、通常は都に送られで陰陽師の家系に弟子入りをする。
そうでないと妖の極上の餌として喰われるからだ。
「この様な山の中の村ではそのようなことも伝わりにくい。
親御殿は都に奉公に出せば将来安泰と知らなかったのだろうなぁ…」
「奇異の眼に晒され、最後には生贄にされたって事か」
「そうだろうな。
見鬼の才を持つものは皆通る道だ。
死ななかっただけその子は運がいい……国永、先行して子供達を確保しておいてくれ。
これを片したら直ぐに追う」
「了解。じゃああとは任せたぜ、三日月」
白い鳥のような青年が山を駆け下りていく。
残された青い狩衣の男は微笑んでただ緋翠の傍に立っている。
「どうする気だ?
まさか村に帰す気ではあるまい?
受け入れ先に宛があるのか?」
見鬼の才を持つものはそう多くない。
優秀な血筋でも見鬼の才を持たず、普通の一般人として産まれてくるのが殆どで、だからこそ見鬼の才を持つ子の受け入れ先は慎重になる。
女子であれば、見鬼の才を持つ子を産むための腹としてしか必要とされ無いこともあるからだ。
緋翠自身高名な陰陽師の娘であり、様々な陰陽師とその弟子となった子供の末路を見てきた。
「まずはとりあえず保護だ。後のことは後で考えるさ」
緋翠はそういって笑うと結界を解除して妖の死体を焼き払った。
炎できよめられたあやかしの体は塵となって消えていく。
それを見届けてから国永の元に向かう。
霊気を辿れば小川の近くに薄汚い子供が二人、折り重なって倒れていて、国永の羽織がかぶせてある。
国永の姿が無いのは、恐らく近くに集まった獣や下級妖怪を駆除しているのだろう。
羽織に魔除けを施してあるが、目の届く範囲には居ると踏んで子供たちの様子を確認する。
「主、子供の一人が怪我をしている様だ」
抱きしめられる様に倒れている子供の足には血が滲んだ布が巻かれていた。
「……小さな体で必死に逃げて来たのか…」
二人はそっくりの顔立ちをしており、双子だと直ぐにわかった。
この双子は二人とも相当な霊力があるようで、外界と交流を絶った寂しい村の中ではこの子達の価値は埋れ、蔑まれただろう。
一人は自力で身につけたのだろうか、霊力を多少調節出来るようだがもう一人は強い力を垂れ流してる。
「この子が原因で村を追われたようだな。
霊気が湯水のように溢れてる」
「この子達を狙う妖はいま国永が狩っている。
宗近、これを連れていく。
国永を呼び戻して守備を頼む」
「弟子を取るのか?」
「何だ、不服か?
俺に散々弟子を取れと言ってたくせに」
ふわりと着物を翻し、緋翠はあどけない少女のように笑って見せた。
「この子達を俺の弟子にする。
久し振りの帰省になるからこの子達もめかしこんで綺麗にしてやらないとな」
細い腕に子供二人を抱えると、国永を呼び戻して夜明けの山を降りて行く。

目が覚めた双子がどんな子供たちかを想像しながら。

国永の教え。

御物と奉じられて以来、彼は仕舞われるだけの退屈に飽いていた。
時の権力者に求められ奪われてきた来歴を持つ彼は戦場を識る刀だった。
平安の頃、三条宗近小鍛治の打った三日月宗近を基にしたとされる五条国永の名刀、鶴丸国永。
主と共に墓に入っては黄泉入りを、神社にまつられては上天をと様々な歩みを送ってきた。
それが災いしてか、目出度き物とされる彼は同時に災いをもたらす物とされて陰陽師の一派に委ねられる事に。
今は鶴丸国永に惹かれ集まる穢れを祓い、戦刀として振るってくれる主の下で揚々毎日に心を躍らせていた。
師匠筋の太刀、三日月宗近の付喪神が寵愛し加護を授けた稀人。
安倍晴明の娘であり、その見鬼の才を受け継いで拝み屋としてアヤカシ達の調停を勤める緋翠。
彼女を主と定め、式神として遣われる事を選んだ。
その日、二人の幼い子供を見た彼は面白い気配に口端を緩ませた。

「やあ、君たちが主の覚え目出度き弟子君かい!」
「おにいさん、だぁれ?まっしろ」
「ははっ!俺は鶴丸国永、君たちの師匠の式神。刀の付喪神さ」

出会った時はぼろ布に包まれ汚れきっていたが、綺麗に洗われた事で蜂蜜色の金髪が覗くようになっている。
似た色合いの髪と顔立ちは二人が兄弟である事を示していて、片方は碧の、もう片方は紅色の瞳をしていた。
何よりその魂の清らかさと満ちる霊力に、国永は笑みを浮かべる。
身を守る力なき子供のそれは、アヤカシ達の良い餌だ。

「何のよう?」

警戒心を露わにするのは気難しげに眉を潜める紅色の瞳の子供。
主から名前だけを聞いていた国永には、それがどちらの事かは分からない。

「なんだ、主から聞いてなかったのか?君たち、どちらが怜鴉でどちらが怜悧だい?」
「あ、ぼく……ぼく、れいり」

素直に手を上げ、ほわほわと緩んだ笑みを浮かべる怜悧と名乗った少年に国永は苦笑を漏らした。
名とは魂の根源だ。
これを容易く教えてしまうようでは、警戒心が足りないと言わざるを得ないだろう。
けれどそれを教えるのは主の役目、自分には別の役割があると考えを切り替えた。

「君が怜悧か、俺の事は国永と呼んでくれ。……君たちの前に来たのは他でもない、俺の写しを授けに来たんだ」

守護、と言われて不思議そうに目を瞬かせた怜悧と、警戒を解いて訝しげに首を傾げる怜鴉。
それぞれの反応に気をよくした国永は、着物の袷から二振りの小太刀を取り出した。
主の祈祷と国永が力を与えたそれは、鶴丸国永の分霊が宿る写しだ。

「この刀には俺の分霊が宿ってる。それぞれ、思う方を手にとって顕現してやってくれ」
「え?えっと……」
「……はぁ、僕こっち」

困惑した表情で迷う怜悧を後目に、一息吐いた怜鴉は白塗りの鞘に収まった小太刀の片方を手に取った。
二人にはまだ言っていないが、分霊を宿す核には覚醒石という特殊な霊石を使っている。
それはこの小太刀を依り代にするとともに、成長する心刀としての機能を持たせていた。
所有者の心とともに成長し、心に宿る刀。
日本刀として完成された姿を持つ国永には些か理解しずらい物があるのだが、子供達の為にと主が特別に用意した物だ。
高い霊力を持ったが為に幼い時分を苦労した彼女らしい気遣い。
国永は刀に宿った付喪神だが、人の心から生まれたとあって人を愛している。
人で在るが故に苦悩し、乗り越える主を愛している。

「それぞれ選んだ刀を両手に持って掲げてくれ」
「えっと……こう?」
「そうだ。……ひふみ よいむなや こともちろらね」
「……それ、何?」

不思議そうに首を傾げる怜悧や訝しげに眉を潜める怜鴉を横目に、国永は掲げられた小太刀に手を置いて祝詞を口にし続けた。
二人を所有者として認め、分霊を起こすに足る霊力を授けるためだ。
守る力のない無垢な魂を守る為の盾であり、剣を呼び起こす。
才はあれど術を知らない子供に式神を使わせるのは難しい。
が、同じ魂を元にした分け身であれば国永が霊力を調整する事で、顕現させた身を維持するのは容易い。
何よりそうやって身から溢れ出る余分な霊力を消費させる事で隠れ蓑にしようというのだ。

「俺達は、人の心を分けられて生み出される。さあ、君達の刀を求めてやってくれ」

すっと眇めていた琥珀の瞳を開けば、神気に輝きを増して望月の光りを宿している。
請われるまま、何も知らない子供達は刀に呼びかけ。
ふわりと風が舞うと同時に二人の霊力が渦を巻いて中心に光の塊が生まれいずる。
それは、新たな付喪神の誕生の瞬間だった。
光りが収束し人型を取ると、それは桜の花びらのように周囲に解けていく。
一人は国永とよくにた白銀の髪を持つ幼子、もう一人は、

「……くろい?」
「これは……驚いたな!君はどうやら、心に闇を孕んでいるようだ……」
「やみ……」
「それ、わるいの?れいあ、どこかわるいの??」

不安な気持ちをそのままに口にする怜悧に、国永は一瞬だけ躊躇した。
悪いかどうかという意味では何も悪くは無い。
けれど、傾き一つで鬼にもなり得る危うい存在ではあった。
それをどう、伝えるか。

「……ぜんぶおなじじゃ、つまらない。ぼく、このこにきめた」
「つまらない、か。そうか、それもそうだな!怜悧、悪い事なんてない。人と違う事が悪いとは言わないだろう?」
「ちがう……わるく、ない?……ほんとう?ぼくも、れいあも……わるくない、の?」
「君達はただ生きようとしているだけ。悪いものか、そんな事言う奴は俺がぶった切ってやる!主だってそう言うさ」

だから笑え、そう不遜に言い放つ様は彼の主にそっくりで。
怜悧は泣きながらふにゃりと顔を緩ませて笑った。
怜鴉は不機嫌そうに、それでも悪くないと言わんばかりに微笑んだ。
皆で笑い合っていれば、付喪神の子供達も目を覚まして大きな瞳で自分たちの主を覗き込む。

「おれ、おれは、鶴丸国永!おどろいたかい?」
「おれも、鶴丸国永!きみにおどろきをもたらそう!」

白と黒の幼子達はそっくりな顔で笑って見せる。
無垢で純粋なそれだけど、自分たちが生まれた意味はもう理解しているのだ。
白銀の髪に蜂蜜色の瞳を持つ鶴丸国永は、怜悧の式神。
漆黒の髪に朱い色の瞳を持つ鶴丸国永は、怜鴉の式神。
自分たちの主を守る為の刀だ。

「それじゃあこの子達に名前を付けてやってくれ。鶴丸国永は俺達の本質の名だが、君達の決めたものが真名になる」
「それじゃあ……この子はくろたず。くろい、つる」
「ぼくは……えっと、つるまるにする!おにいさんは、くにながっていうんでしょう?」
「ははっ、良い名前だな!それじゃあこの子達は今日から君達の物、君達の家族だ。よろしくな?」

ふにゃふにゃと笑う幼子に、子供達は大きく頷いて手を繋ぎ合った。

緋翠と三日月

春の賑わいに庭中が引き立つ中、緋翠は大きな桜の木の開花状況を見に来ていた。
それはこの辺り一帯を守護する樹木だ。
先頃に妖怪達が騒いだ瘴気の影響で枯れかけていたのだが、祓い清めた事で無事に勢いを取り戻している。
ついでに花見でも、と降り立った地で久々の休暇を満喫していた。

「ここまで来れば、後は己の力だけで足りよう」

桜の木の下、五分咲のそれを確認していた美しい男が振り返る。
紺色の紗綾形が写された狩衣に身を包み、金色の刀を刷いた精悍な面持ちの美丈夫。
緋翠と夫婦の契りを交わし、寵愛の加護を授けた付喪神、三日月宗近。
左右で長さの違う藍色の髪を風に遊ばせ、優雅に微笑んでいる。

「そうだな。あの子等の初任務にしては上出来だ」
「うむ、見事と言えよう。怜鴉が祓い清め、怜悧が樹木の精に気を送る。流石は双子だ、息の合った連携さな」
「師匠としては及第点、手荒さが目立つ。が、精霊殿に救われた」

苦い言葉の割に晴れ晴れとした顔で緋翠は空を見上げた。
連日嵐に見舞われていた空も晴れ渡り、今は清々しい空気が流れている。
三日月とは反対の、普段は頭の上で一つに括り付けている緋色の髪を今は下ろすままにしていた。

「手厳しいな?……だが、お陰で良い物がみれた」
「この位で無いと為にならん。良い物?」

不思議そうに翠の目を瞬き、首を傾げる緋翠の頬を三日月の無骨な手がなぞり上げる。
柔らかく微笑む澄んだ湖面に映る月の様な瞳が、愛おしい者を映し出した。

「お主の笑みだ。ここ数年、難しい顔ばかりしていたからな」

緩く頬を、顎下を擽る長い指に遊ばれて緋翠は苦笑を漏らす。
そんなに自分は笑っていなかっただろうかと反芻し、手は知らず眉間に寄せられた。
神嫁として契りを交わし年を取ることを忘れた身体は、最善の状態を保持されている。
人の営みから外れて以来、人から遠ざかる事を考えて拝み屋になった。

「……まさか私が、父と同じような悩みを持つようになるとはな」
「父君とは……ああ、安倍晴明殿か」
「そう……半妖と誹られながらも人とアヤカシを愛しているあの放蕩者さ」

あの人も自然の精霊と関わる事件の時は、緋翠を連れて行くことを好んでいた。
今ならその気持ちが分かるかも知れない、と含むものに笑みを零す。
人との関わりを避けるようにしていたら、自然と心が強張っていたようで。
三日月と睦み合うことはあれど、大概はアヤカシ達のもたらす混沌に頭を悩ませていた気がしてきた。

「何だかずっと悩んでいたのが馬鹿らしくなってきた」
「はっはっは、善哉善哉!俺も、お主が生き生きとしていて嬉しいぞ」
「生き生き……そうかも知れないな。あいつの言じゃないが、驚きを無くしたら心が死んでしまう」
「うむ、人間万事塞翁が馬。なるようになる、という事だ」

式神として従えている刀剣の精の言葉を借りる緋翠に、鷹揚に頷きながら三日月も肯定する。
長年、緋翠は調停役として拝み屋の一端を担っていたのだが、そろそろ休養も良いだろう、と。
何せこの界隈、いつだって人員不足に悩まされているのだ。
先達として後輩の育成を望まれても居たのだが、人と関わる事を避けていた弊害か緋翠は人付き合いというものを苦手としていた。
安倍晴明を父に持ち、天性の才に恵まれている。
故に物を教えるにしても、何故出来ないのか、どうすれば出来るようになるのかを人に合わせて教えるというのは不得手。
そんな緋翠がたまたま保護をした人間の双子は、才に溢れ伸びやかな気質をしていた。
片方は緋翠に負けず劣らずの気難しさを持ち、もう片方はどこまでも純粋で無垢なまでの素直さを持つ。
相反するようでお互いを補い、緋翠を師と仰いで懐く様は親子のよう。

「まあ、悪くは無いな。三日月、あの子等の事も頼むな?」
「あい、分かった。お主の子と言えるなら、俺にとっても同じ事。等しく愛おしいものよ」

手を取り合い、和やかに笑みを交わし会いながら二人は暫く桜の下に居た。

陰陽師パロ人物設定



●緋翠

安倍清明の娘。
稀代の陰陽師の血を引いていて彼女自身も強力な陰陽師である。
付喪神を刀に卸して式として使役する。
名売れの陰陽師であるにもかかわらず弟子を取らないことで有名。

●三日月

緋翠の式神であり、恋仲である。
御神刀「三日月宗近」の付喪神の本霊。

●国永

緋翠の式神で御神刀「鶴丸国永」の付喪神本霊。

怜悧

緋翠に拾われた捨て子の片割れの弟。
浄化の力に優れていて、周囲に与える影響も大きいのでよく狙われる。

●朱乃

烏天狗の双子の片割れ。
烏天狗としては弱者であった兄弟の朱璃をかばっていつも傷だらけだった。
あるとき大けがをして動けなくなっているところを怜悧達と出会い、傷ついた身体を癒す過程で怜悧との仲を深めて契約した怜悧の式神。

●鶴丸(ミニサイズの写し付)

御神刀「鶴丸国永」の分霊。
怜悧を守護する役目を与えられている。
怜悧と一緒に成長していく。
黒鶴とは同じ分霊であり兄弟の様な物でいつもどちらが上か争っている。
本体の刀は持ち主に合わせて成長していき、普段は朱乃の体内に収納されている。

●怜鴉

緋翠に拾われた双子の片割れの兄。
調伏の力に優れていて、気配を隠すのもうまい。
気弱な弟とは違い自信家で傲慢だがそれに見合う実力と才能を持っている。
他人にあまり興味を示さないが綺麗な物、可愛い物は好きで一度懐に入れたものは案外大事にする。

●朱璃

烏天狗の双子の片割れ。
生まれつき羽の色が白い亜種。
身体が弱く戦う力もない朱璃をいつも朱乃がかばってくれていた。
ある日大けがを負った朱乃を助ける為に怜鴉に助けを懇願。
怜鴉の式になる代わりに朱乃を助けてもらう。

●黒鶴(ミニサイズの写し付)

御神刀「鶴丸国永」の分霊。
怜鴉の守護役。
怜鴉と一緒に成長していく。
鶴丸とは同じ分霊であり兄弟の様な物で、いつもどちらが上か争っている。
本体の刀は持ち主に合わせて成長していき、普段は朱璃の体内に収納されている。



●カプ傾向
・三日月×緋翠
・鶴丸3兄弟
・朱乃×怜悧
・怜鴉×朱璃

●霊力供給には体を繋げる必要がある。
付喪神は刀身に霊力を込めるだけでいいので身体を繋げる必要はない。

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