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感謝をあなたに


最近ルイがソワソワしてる。
「ご馳走様でした」
朝食を食べ終わったルイが慌ただしく食器を片付けて、ぱたぱたと自室に駆け上がっていく。
「ルイ、最近何か変じゃないか?」
「そうか?」
「何かそわそわしてるというか…」
「気のせいだろう。」
黒葉はヨーグルトを食べ終えると食器を洗って作りおきのレモネードを片手にリビングのテレビを付けてゲームを起動させる。
「黒葉、何やってるんだ?」
「零」
「どれ?」
「濡鴉」
「見る、待ってて今片付けるから」
暫くしてルイが自室からカバンを抱えて降りてきた。
「お父さん、お母さん、行ってきます」
「ルイ、どこ行くんだ?気を付けて行ってこいよ」
「えと、鶴兄のとこだよ!行ってきます」
慌ただしく出ていくルイに多少疑問が残る。
「君、何か知ってるだろ?」
ジト目で黒葉を見ればふふっと笑って頭を撫でてきた。
「お鶴だけなら心配だが吉光がついておる。
危ない事はしておらぬから安心しろ」
「……君がそういうなら…大丈夫なんだろうけど…」
黒葉の肩に凭れてテレビをぼんやり眺めた。
「眠いか?」
優しく笑いかける声が心地よかった。
「ん、でも……もう少しこのまま。」
そのまま目を閉じて、心地よい温もりに意識を落とした。


「ルイくん上手だねぇ」
にこにこしながら蘭姉は隣ですごい速さでガラスの花弁を接着してる。
しかも手元をろくに見てないのに綺麗な花の形になってる。
「涼蘭、手元見ろ」
涼兄がひょいと手元をのぞきこんで手を添える。
「へっ!?だ、大丈夫だよ、慣れてるし!」
蘭姉が赤くなって声をしぼめる。
「る、ルイくん見てるから!」
「蘭姉と涼兄って仲いいね、羨ましいなぁ」
「ルイならスグに彼女でも彼氏でも出来ると思うぞ。」
「うん、そうだよ。
ルイくんは可愛くて優しくていい子だもん!」
こんな、ばけものでも?と喉から出かけた言葉を飲み込んだ。
それは僕を助けてくれた鶴兄達や、お父さんとお母さんの信頼を裏切る言葉だから。
あんなに僕を愛してくれる人達だから、僕は人間として生きていくと決めたし、バケモノだからって思うのをやめようと思えた。
もうそんな風に自分を卑下して逃げるのはやめようって。
「そうなればいいな。
蘭姉と涼兄みたいな素敵な恋人同士に慣れればいいな」
「あと数年したら涼みたいになりそう…」
楽しく話してるうちに出来上がったガラスのカーネーション。
大好きなお母さんに喜んで欲しくて蘭姉の所に通ったけど、なかなか上手くできなくてすこし不格好になってしまった。
「……うぅ、難しい…」
「ルイくん、初めてにしてはすごく綺麗に出来てるよ?」
「そうだぜ、それにこういうのは気持ちだからな兄貴ならルイが自分のために作ったって言ったら喜んでくれるだろ。」
「そうかな?」
「そうだよ!自信もって!出来映えは私が保証する、すごく綺麗に出来たよ」
蘭姉がニコリと笑って背中を押してくれた。
「ありがとう」
「このあと鶴兄貴のとこ行くんだろ?
早く喜ばせてやれ」
涼兄に言われてガラス工房を出て、完成したプレゼントを抱き締めて鶴兄の家に向かう。
「お、来たな?プレゼントは出来たのか?」
「うん、蘭姉がラッピングしてくれた」
「そっか、良かったな」
鶴兄はシヴァ姉を膝に載せて2人でゲームをしてた。
「いちー、準備できたのか?」
「大体は。あとは国兄さんが来てからで良いかと。
じゃあ私は二人を迎えに行きますので余計な事したら蹴り飛ばしますよ。
シヴァ、ルイくんに冷蔵庫からレモネードとケーキありますから一緒に食べてて下さい」
「あい!ルイくんこっちよー」
シヴァ姉がふにゃっと笑って手を握ってくる。
あの時と同じ、優しい手。
「いってらっしゃい、いち」
鶴兄がひらひら手を振っていち兄を見送る。



すっかり眠ってしまった国永を膝枕したまま時間を潰す。
母の日にお母さんに内緒でプレゼントを用意したいとルイが言い出した時は驚いたが、お鶴や涼蘭まで巻き込んでなかなか盛大な話になってしまった。
国永はきっと驚いて泣き出すか、緩みきった顔で笑うんだろう。
俺はありのままの国永を受け入れて愛するつもりだったが、息子達の少々過激な愛情のお陰でいい方向に変われた様で良かった。
「お前が与えた愛が、少しずつお前に返ってきて、お前の心をいつか満たしていけば良いなぁ?」
すやすやと眠る国永の頭を撫でると、スマホがなった。
「吉光か、準備は終わったのか?」
『はい、これからお迎えにあがります』
「判った、国永を起こすからゆっくり来てくれ」
『ふふ、分かりました。それじゃあゆっくりお迎えにあがります』
電話を切って国永を揺する。
「起きろ国永、出掛けるぞ」
「……ん、でかけ…?
るいは?」
「ルイは先に行ってる。
今吉光が迎えに来るから準備してこい」
「……うん、わかった…」
まだぼんやりしてる国永はフラフラと洗面所で髪を直して戻ってきた。
「準備はいいか?」
「ああ、良いけど、どこに行くんだい?」
「お鶴の家だ」
「お鶴の?なんで?」
きょとんと首を傾げる。
自分には馴染みの無い日だから検討がつかないみたいで好都合だった。
「付けば分かる、行くぞ」
手を握って玄関から出ればちょうど吉光が車から降りた所だった。
「ピッタリだな」
「吉光?」
「どうぞ乗ってください」
吉光が後部座席のドアを開け、そのまま車でお鶴の自宅に向かう。
事務所を通って二階の自宅部分に上がれば、豪華にセッティングされたテーブルにお鶴とシヴァとルイが座っていた。
「遅かったなー」
「お待たせなのー」
お鶴とシヴァが笑いながらこちらを見ると、ルイがおずおずとこちらに近寄ってきた。
そっと国永の背を押せば、不思議そうにこちらを見てからルイに視線を戻す。
「あの、今日は母の日だって…鶴兄に聞いて、これ…」
可愛らしく包まれた小さな箱をそっと国永に差し出す。
「え、母の日……?俺に?」
「お前以外に誰が居るのだ、早く受け取れ。」
「あ、ああ…開けてもいいか?」
驚いた様子の国兄がふにゃりと緩く笑う。
丁寧に包を開くとガラス細工のカーネーションのブローチ。
ガラスの花弁の間にはラインストーンが綺麗に並べてくっついていた。
「蘭姉の知り合いのガラス工房に通って作ったんだ…あんまり上手くないけど…」
「ルイが自分の小遣いを貯めて材料を揃えたのだぞ?」
「ちょっと足りなかったから、鶴兄のところでバイトさせてもらって…」
「書類整理とお茶くみな。
ルイは仕事が丁寧だし飲み込み早くて助かったぜ。」
「そうか、ふふ、ありがとうルイ。
お鶴も吉光もシヴァも。」
嬉しそうに笑う国永を見ているだけで心が温まる。
ずっとこの幸せな時間が続けばいいと思ってしまう。
どうかこの幸せが壊れないようにと。
いまはただ、願うだけだ。


「国兄座れよ。
いちが母の日だから飯作ったんだぜ。
俺とシヴァも手伝ったんだ」
幸せそうに笑ってルイを抱きしめる国兄を席に促す。
国兄は今迄辛い思いを沢山してきたから、国兄には幸せになって欲しい。
俺の願いは、この人が幸せに笑っていられる世界を守ること。
いちと一緒に、笑っている為に。
「ビーフシチューを作ったんです。
国兄さんみたいに上手くできませんでしたが…」
そのビーフシチューを作るのに、いちが昨日から何時間も煮込んでたのを俺は知ってる。
俺もシヴァも隣で見てたから。
国兄の喜ぶ顔が見たくて。
「ふふっ、そんなの美味いに決まってる。
吉光とお鶴とシヴァが俺のために一生懸命作ってくれたんだからな」
「このハートの人参は俺が型抜きで抜いたんだぜ!」
「シヴァも!シヴァも頑張りした!
おいもさんむいたした、ファーティと味付けした」
「シヴァのいもは…凄いな、鳥の形か?」
「クローブ!クィン大好き!
クローブと、ハートいっぱい!」
キョトンとした国兄がじわじわと頬を赤く染めて隣を見る。
黒葉先輩は何も言わないで優しく笑う。
何も言わなくても意思疎通が出来てるのが羨ましい。
でも、言葉にすることで意味がある事も知った。
だから俺は言葉にすることを選ぶ。
「国兄、いつもありがとな」
笑いかければ国兄は緩みきった顔で笑って何度も頷いた。
「そういえば、お鶴だって母だろ?」
「おれも貰ったぜ、シヴァから手作りのピアス」
「シヴァも一緒につくりしたよ」
俺が髪を良ければそこには鶴の形の水色のガラスでできたピアスが付いてる。
「へぇ、可愛いな」
「お母さんも、ピアスが良かった?」
「いや?俺はアクセサリーとかあまりしないから、これがいい」
大事そうに箱を撫でると、ルイが嬉しそうに笑った。
「しあわせだなぁ…」
そんな光景を見て、つい口をすべらせた。
「ああ、幸せだな」
国兄が柔らかく笑うのが、本当に幸せそうで、心の底から良かったと思えた。
「おれ、みんなに会えて良かった。
今すごい幸せだ…」
大好きな父さんと母さん、可愛い娘と弟分。
そして、最愛の旦那が笑いあってる。
「幸せすぎて死ぬかも…」
「ムッティ、死んじゃやーよ」
「案ずるな、お鶴はただの幸せの過剰摂取だ。」
「うー…母さん、父さんが俺をいじめるー」
「ははは、全くお鶴は甘えただな、ほらおいで?」
首をかしげて両手を広げる国兄。
抱き着きたい。今すぐ抱きつきたいけどぐっと堪える。
「来ないのか?」
「……今日は、ルイを抱きしめてやってくれ
俺はシヴァの母親だから…」
今日は母の日だから。
国兄にはルイが、俺にはシヴァがいて、受け取った感謝にはちゃんと愛情で返さないとダメだと思ったから。
俺はシヴァを抱き締める。 可愛くて大切で幸せにしたい大事な俺の宝物を。
「ムッティ…」
「ほら、国兄もルイをぎゅってしてやれよ。
大事な息子だろ?俺達も息子だけど、俺達はいつも国兄を独占してるからな」
俺に言われて国兄はルイを抱き締めて、ルイもすごく嬉しそうだ。
「来月は黒葉先輩の番だな?」
「俺はお前達がこうして笑っていればそれ以上何も欲しいものは無いな」
「いいえ、父の日もしっかり祝いますよ?
幸せに上限はありませんから」
いちの言葉にふふっと黒葉先輩が笑った。
「ああ、楽しみにしてる」

俺は父の日を何にしようか楽しみに、出された料理を味わった。


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