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かたむすび




シュノ・ヴィラス
騎兵隊副隊長にして、僕の最愛の恋人。
世界で一番大切で、愛しい僕の半身。
でも、最近思うことがある。


僕はシュノにふさわしくないんじゃないかって…



綺麗な紫銀の髪が閉じられた瞼に掛かって月夜に映える。
その切れ長な菫色の瞳は常に一手先の未来を見ているような強い意思の瞳。
それが僕に向けられる瞬間だけ、毒気を抜かれた柔らかな眼差しになるのは知っている。
愛されてる自覚も、大切にされてる自覚もある。
前世からの遠い繋がりも運命も全てを理解しているのだけれど、シュノには僕は過ぎたる存在だと言われ続けてきた。
魔性の容姿、多彩な才能、腕っぷしも敵うものは居ないだろう。
演じてるとはいえ、人当たりも悪くない。
シュノ程の功績があれば特権で隊長職に就くことも出来るはずなのに出世にはまるで興味がない。
シュノが唯一興味を持つのは僕の事だけ。
「シュノ…」
眠るシュノの胸に顔を埋める。
すぅーっと息を吸い込んで胸一杯にシュノの匂いを取り込む。
それが酷く安心する。
僕はまだシュノの隣にいるんだと。
「ん…レイリ?」
シュノが目を眠そうに開いて頭を撫でる。
「どうした、怖い夢でも見たのか?」
ぎゅっときつく抱き締めて、あやすように耳許でそっと囁く。
「ううん、違うよ。
目が覚めちゃっただけ」
「そうか」
シュノは何も言わずに頭を撫で続ける。
まるで僕の不安を悟ってるみたいに。
否、悟っているんだろう。
僕の事は、僕以上に理解しているシュノのことだから。
「ねぇ、聞いてもいい?」
「なんだ?」
改まって、言葉にしようとすれば思いの外難しいもので、中々言葉を紡げないでいた。
シュノは黙って僕の言葉を待っていてくれる。
言わなきゃ、伝えなきゃ。
どうして僕を選んでくれたの?
僕は君の隣に居ても良い?
僕が女神の生まれ変わりじゃなくても、君は僕を愛してくれた?
聞きたいことは沢山あるのに言葉になら無い。
段々それが苦しくなって呼吸を圧迫する。
胸が苦しい、辛い。
聞きたい、けど聞きたくない。
矛盾している気持ちが責めぎあって僕の思考をグチャグチャに掻き乱してしまう。
「レイリ、大丈夫だ。
ゆっくり息をしろ、俺はここにいる」
シュノは僕を幼子のように優しくあやす。
その柔らかな声が、眼差しが、頭を撫でる手が暖かくて僕は涙を流した。
次々と零れ落ちる涙の止め方を僕は知らない。
シュノは一言、レイリは泣き虫だなって困ったように笑いながら目尻に、瞼にキスを落とす。
舌先で涙を拭いながら、ちゅっと、リップ音を響かせながらキスを落とす。
不思議と、シュノの唇が触れる度に気持ちがゆっくり落ち着いて冷静さを取り戻す。
「シュノは…」
月明かり、シュノは瞳を柔らかく細めながら僕の言葉を黙って待った。
「僕には、もったいない…」
「………どうして、そう思うんだ?」
「シュノは、カッコいいし、綺麗だし、強くて、頭もよくて皆が君に注目してる。
その気になれば隊長職に就くことも出来たはず…」
シュノは黙って僕を見ている。
その表情はいつもとは違って真剣そのものだ。
「騎兵隊も隊長職も僕には過ぎたるものだったかもしれない…
でも、一番不釣り合いなのは君が僕の恋人だってこと」
「何だよそれ、別れ話のつもりか?」
「違う、そうじゃないよ。
シュノは望めば何でも手に入るのにどうして僕なんかを選んだのかなって
それって、前世が引き合わせた運命だからで、僕と出会わなければ君はきっと違う人生を送ってたのかなって…」
シュノは段々眉間にシワを寄せ始める。
機嫌を損ねてしまったようなのは何となく理解できる。
でも一度堰を切って溢れ出してしまった言葉というのは、かえって始末が悪いことにとどまることを知らない。
「僕はシュノにとってお荷物なんじゃない?
今日だって言われたんでしょう?
血が苦手な隊長の元では苦労なされるでしょうって」
シュノは怒るかと思ったけれど、逆に困ったように笑った。
「レイリ、何を怖がってるんだ?
俺はお前から離れたりしない」
「怖がって…なんか…」
「嘘つき、怖いんだろ。
俺がお前に愛想つかしてお前を置いて居なくなるのが。」
怖い、そう言われて胸の中のモヤモヤした気持ちがちくんと痛みだした。
怖い、のかな?
僕はシュノに飽きられて捨てられるのが怖い…?
自分に自信がないから、自分より秀でてるシュノがいつか僕の価値の無さに気が付いてしまったら…
それが、怖かった…?
「僕は…居なくなっちゃう気がして…
君は、僕よりずっと…何でも上手く出来て…だから…」
「バカだな…そんなのありえねぇから」
シュノは僕を安心させるように目線を合わせて、そっと頬を撫でた。
「お前は判ってない、全然判ってない。
俺がどれだけお前が大事か。」
「判ってるよ」
「いいや、判ってない。
俺がお前の事をどれだけ愛してるか。
言葉になんか出来るわけねぇ、にこにこ笑ったお前が好きだ、ちょっと困った顔も、怒った顔も泣いた顔も好きだ。
お前を悲しませる奴は殺してやりたいし、お前が幸せになるならなんだってしてやる。
お前に出会わなければ俺はただ化け物として弄ばれ、死ぬのを待つだけだった。
お前が、俺を変えたんだ、忘れるな」
きつく抱き締められ、息が出来ない。
シュノの鼓動が、温もりが、全身に伝わってくるみたいだ。
「富や名声に興味はない、お前が居ないなら騎兵隊も国もどうでもいい。
お前しか要らない、お前が必要だ、お前じゃなきゃダメなんだよ、レイリ。
運命だろうが何だろうがそんなのどうだって良い、今俺が必要なのは世界でレイリ・クラインただ一人だけだ。」
決して離さない様に、きつくきつく抱き締められる。
その必死なシュノを見て、漸く自分の考えが間違っていたと気付かされた。
「人を大切に思うことに理由がいるか?
誰かの傍に居るのに、理由がなきゃいけないのか?
だったらそれは俺が居て欲しいからだ。
俺のわがままでいい、だからお前は一生死ぬまで俺の傍にいろ、何があっても。」
「シュノ…僕…」
「俺だってお前が羨ましい。
お前は優しくて、暖かい。
お前の回りには常に人が溢れてる。
お前は気がついてないかもしれないが、お前は沢山の人を救ってきた、胸を張れ、自信をもて、お前は弱くない、だけど強くもない。
そのために俺や仲間がいるんだろ?」
シュノの言葉は力強く僕の胸に深く突き刺さった。
頭が少しハッキリしてきた。
僕は自分がシュノに釣り合ってる自信がなかった。
だから不安になった、シュノが僕を捨てて他の誰かの物になってしまうんじゃないかって。
だったら、最初から期待しない方がいい。
シュノが僕のものじゃなくて、僕がシュノの物なんだって思い込もうとしてた。
そうして自分が傷つかないようにラインを引いて、シュノを拒んでたんだ。
「シュノ…ごめんっ…僕…」
「お前のこう言うとこは正直面倒くさいと思ってる。
だがな、そんなことでお前を手放すくらいならもうとっくに手放してる。
卑屈なところも、真面目なところも、ドジで天然なとこも、全部ひっくるめて俺の可愛いレイリなんだよ。
だったら手放す理由なんて何処にもないだろ?」
「うん…うんっ…」
「泣くな、ほらもう寝るぞ。
明日は遠征に行くんだから朝早いだろ」
「うん」
シュノと付き合ってからずっと続いてきた僕らのカタチ。
離さないよう、離れないようきつく抱き締めた腕は、シュノも不安だったんだと知った。
「シュノ…これからも、よろしくね?」
シュノはほんのすこし頬を赤らめ、照れたように笑いながら頷いた。

出会いは運命のせいかもしれない。
この恋すら、本当は定められたものかもしれない。
だけど僕は今ここで生きて、僕の意思でシュノに恋してる。
固く結ばれた僕らのカタチ。
それは過去から未来に繋がるカタチ。



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