スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

マイリトルキャット はじめまして編




執筆の合間の息抜きに庭を眺めていると、手入れされた植木がガサガサと動いた気がした。

「……おや?」


カサカサと動いていた何かはこちらの気配に気付くとシャーと警戒する声色が聞こえ、それに交じって弱々しい声で「みぃ…みぃ…」と聞こえる。
植木を分けてみたら薄汚れていたが元は真っ白な毛並みであろう子猫が二匹。
一匹は赤目でこちらを警戒している。
その腕には一回り小さな仔猫がぐったりしている。
二匹は見るからにガリガリに痩せており、身体中痣だらけで虐待されて逃げてきたのだろう。
仔猫は早急に手当が必要な程弱ってた。
「そちらの仔猫は大分弱って居るようだが…」
「にゃあ、ふしーっ!」
「そう警戒するな、そのままではその子は死んでしまうぞ?」
赤目の白猫は俺と腕の中の仔猫を見比べてから大人しく植え込みからでてきた。
「た、たす……け」
「ああ、よく頑張ったな。
今病院に連れて行ってやろう、少し待っておれ」
手頃なサイズのバスケットにタオルを敷いてから二匹をそっとその中に入れる。
「そこで大人しくしていてくれ、すぐに助けてやるからな」
赤目の猫の頭を撫でると張り詰めていた糸が切れたようにもう1匹を抱きしめながら気を失ってしまった。
俺は知り合いが営む動物病院を訪れた。
「黒葉はいるか?」
「あれ?あんたがここに来るなんて珍しいな、ここは動物の病院だぜ?」
受付にいた獅子王がきょとんとしてる。
「急患を連れてきたぞ、うちの庭に迷い込んだ子猫が二匹。
どちらも衰弱してるように見える」
獅子王はカゴの中でぐったりする子猫をみて納得が言ったようで黒葉を呼んできた。
「おや、お前が猫を拾うとはな。明日は槍が降るか?」
黒葉はそう言いながらも二匹の治療を手早くする。
まともな餌を貰えなかったのか体はガリガリに痩せて栄養失調になっており、赤目の猫は身体中傷だらけだった。
点滴をしながら必要な処置をして、また来いと言われてしまった。
まだ飼うと言ってないのに見透かされたようで少し悔しかった。
もう片方の小さい子猫は未だ赤ん坊らしくミルクが必要だという。
子猫用の粉ミルクを買って獅子王から与え方を教えてもらう。
「なんか分からないことがあったらすぐ来てくれよ。
小さいうちは育てるの大変だからさ」
俺は猫など飼ったことがないので何を用意すればいいか獅子王に教えて貰い、そのままペットショップへむかった。
獅子王から必要と言われたものから店員が進めるものまで言われるがまま買ってしまい大きなものは後で自宅に配送してもらい、餌とちゅーるというおやつを買って帰った。
家に着くと腹が減ったのか二匹が目を覚ました。
小さな仔猫は金目で怯えるようにこちらを見て赤目の猫にしがみつく。
「目が覚めたか?
腹が減ってるだろう、ご飯だぞ」
小さなフードボウルに猫缶をひっくり返して2匹の前に差し出す。
「ああ、お前はまだ食べれぬのだったな。
今ミルクを用意するから少し待て」
そう言って俺がキッチンへ行ってる間、赤目の猫がフードボウルの猫缶の匂いをくんくんと嗅いでいる。
警戒してるのかなかなか手をつけようとしない。
ぺろっと舌先で猫缶を舐めると勢い良くばくばくと食べ始めた。
よほど腹が減ってたのだろう。
ミルクを作って哺乳瓶にいれて持ってくると赤目の猫は猫缶を食べ終えて金目の猫の傍に戻っていた。
「おお、ちゃんと食べれたか。よかったよかった、美味かったか?」
そう笑いかけたら赤目の猫はこくんと頷いた。
「よしよし、じゃあつぎはお前の番だな。」
そっと口元に哺乳瓶を近付けるとこちらは警戒せずにちゅうちゅうとミルクを飲んでいき、飲み終えるとけぷっと息を吐いてからとろんとしたような表情を見せた。
「眠いのか?よしよし、ならゆっくりおやすみ」
頭を数回撫でると金目の猫は安堵したように眠りについた。
「あの……」
おずおずと赤目の猫が喋りかけてきた。
「たすけてくれて、ありがと。
ごはん、おいしい、でした」
子猫故か覚束無い喋り方でお礼を言ってきた。
「よいよい。お前達どこかに行くあてはあるのか」
赤目の猫が悲しげに首を振る。
「おれ、にげてきた。
おとうとつれて、だから、いくばしょない」
「そうか、なら良かった。
このままうちの子にならないか?
俺は寂しい一人暮らし故な、ちょうど猫でも飼おうかと思っていたのだ。
弟はまだ何度か病院に通わせねばならぬしな」
「ほんと?ここにいていいの?
おとうともいっしょ?」
「ああ、二匹一緒だ。」
赤目の猫は安心したように眠りに落ちた。
その間に配送を頼んだケージやキャットタワー、トイレなどが届き、倉庫として使っていた部屋を片付けて猫たちの部屋にすることにした。
「はぁ…慣れないことはするものでは無いな」
説明書を読みながら悪戦苦闘しているとガチャりとドアが開く音がした。
「宗近、いるか?」
聞き慣れた声に部屋から顔を出した。
「国広、ちょっと手を貸してくれ。
俺一人ではどうにもならん」
恋人である国広が俺の原稿の様子を見に来たのをいいことに猫部屋に呼び寄せる。
「なんだ?って、これは猫のケージか?」
「ああ。庭に弱った子猫が迷い込んだから飼うことにした」
「そんな簡単に……相手は生き物だ、ぬいぐるみじゃないんだぞどこにいる見せてくれ」
動物好きな国広は目を輝かせている。
「リビングにカゴがあっただろう?
あの中で寝てる」
「そうか…なら早く組み立てよう」
眠っているのを起こすのを悪いと思ったのか、ケージやキャットタワーの組み立てを急いだ。
ベットやトイレを置いて猫部屋を完成させると国広は嬉々としてリビングのカゴを覗いた。
「ちっさい……赤ちゃんじゃないか?」
「そうらしいな、ミルクしか飲めないようだから獅子王にやり方を聞いた」
カゴを覗き込む恋人を後ろから抱きしめた。
すると2匹が視線を感じたのか目を開いた。
「にゃ…?」
「みゅ…」
「すまぬ、起こしてしまったか?」
もそもそと赤目の兄猫が体を起こすと、弟猫を庇うように後ろに隠す。
知らない人がいて驚いたのだろう。
「ああ、これは国広と言って俺の恋人だ。
国広も猫を飼っていてな、相談に乗ってもらっていてな」
「くに、ひろ?」
「山姥切国広だ、よろしくな。
お前達の名前は?」
「……なまえ、ない。
かあさん、よわって…きょうだいもみんな、いなくなって…」
まだ幼い弟を連れて逃げてきたとぽつりぽつりと語った。
「そうか、なら名を決めようか。
俺の家の子になるのだからな…
うむ……どんなのが良いかな」
兄猫の背後からおずおずと顔を覗かさせる弟猫。
「そうさな、お前はくに、お前はつるでどうだ?」
「くに?」
「ちゅる?」
舌足らずなつるは本当に幼いんだと思う。
「ああ、お前たちは今日から俺の家の子だ。
気に入るかどうかわからんが部屋も用意したぞ」
「くに……おれのなまえ、くに…
きにいった、ありがとう!えっと……」
「俺は三日月宗近という。宗近でいいぞ」
「ありがとうむねちか!」
「ちゅるも、うれちい、むねちかあいがと」


こうして明日の命も危うい生活を送っていた子猫たちは家猫になり、二人が逃げ出した悪徳ブリーダーは逮捕され、生きていた子は保護施設に送られ、亡くなった子は手厚く葬るよう指示があったそうな。

おひめさまの憂鬱。後編(途中まで)

羽根のように軽い身体をとさり、と寝室のベッドに横たわらせて緊張気味に見上げてくる顔に微笑みを浮かべる。
何度抱いても初々しさの変わらない様子は愛らしく、一つ一つモノを教えるのも甘く溺れさせるのも思いのまま。
それがまた暴く側の劣情を煽るのを、このいとけない子は知らないのだろう。

「はふ……しろ、ちゅうしてぇ?」
「はっはっは、好いぞ好いぞ」

愛らしくキスを強請る子に、あやすように唇を降らせていく。
最初は啄むように鼻の頭を、桜色に染まる頬を。
我慢出来ずに唇を尖らせた所で唇に。
しっとりと濡れる柔い唇を食んで堪能し、舌を這わせて味わう。
ほんのりと甘く感じるのは愛おしさ故か。

「ん、ちゅ……はぷ、ん、んんっ……ちゅ……」

蜜色の瞳を濃く濡らせ、うっとりと黒鶴がキスに酔いしれる。
ちゅうちゅうと吸い付くその吐息ごと貪るように、口内を暴いていった。
舌の根や上顎を突くと息を呑んだように身体を奮わせ、舌を絡ませれば夢見がちに目を細める。
舌を伝って白月の唾液が黒鶴の口内へ。
こくり、こくりと小さく喉を震わせて呑み込んでいくが、それでも飲み下しきれなかった分が口端から垂れる。
キスだけでとろとろに蕩けているうち、ベビードールの胸元を飾る白いリボンを解いていった。
淡く透けるそれを左右に割り開けば、陶磁器の肌を隠す白いコルセットが相見える。

「ぁ……」

口内を犯す舌を止め、フリルのあしらわれたコルセットの前面のホックを少しだけズラして胸元を晒した。
その動きを感じた黒鶴が小さく声を上げる。
これ以上の肌を晒した事もあるのに羞恥を感じるようで、微笑ましい様子に笑みがこぼれた。
今度は胸元でツンと起って桜色の腫れて主張する飾りを、唇と指で弄ってやる。
ちゅ、ちゅうと吸い付き、カリカリと先端を引っ掻くように愛撫する。

「ひゃっ!?あ、ぁあっ、やぁ……だめ、ぇ……! んっく、そりぇ、もじもじ、しちゃあ……!」
「ふふ、好いのか? たずはここをいじられるのが好きだなぁ」

ひんひんと鳴き声を上げる黒鶴に笑みを深め、口に含んだ飾りを舌で押し潰し、歯で軽く咬む。
びくりと大きく身体を震わせ、白月の頭にくしゃりと手が置かれる気配がした。
初めは引き離すように、けれど次第に頭を抱えるように胸へと導かれる。
快楽から逃げようともがいていた身体は、差し出すように胸を反らせ。
ちゃんと触って欲しいと言わんばかりに腰を押し付け、下半身からはくちゅりと濡れた音が響いた。
固く目を瞑った顔をシーツに押し付け、空いた手でシーツを握りしめて抗う黒鶴は気付いていない。

「あ、あぁ……や、ぁあん、しろ、しろぉっ!」
「うん? どうした?」
「も……まえ、も……さわってぇ……」

懸命に白月の頭を掻き抱き、黒い睫を震わせながら蜜色の瞳を溶かす勢いで涙を流す。
涎を垂らしながら悶える肢体に、白月も興奮を隠しきれずごくりと喉を鳴らした。
ぷっくりと赤く腫らせた胸の飾りをコルセットの合間から覗かせ、レースの紐パンツを窮屈そうに黒鶴のモノが押し上げて先端が垣間見える。
一度も触っていないのも関わらず、完全に勃ち上がったモノからは溢れる程の先走りが雫となって竿を伝い落ちた。
胸だけで達する程には開発されていない身体は熟れきり、白月に触れられるのを待っている。
同じ男同士の性か、男性器というものはどれだけ親しくとも本来は見るのも遠慮したい所があった。
だのにそれが愛おしい相手というだけで、もっと触れて好くしてやりたいと思うのは何故だろう。
黒鶴の象徴は、その経験の無さと相まってか完勃ちしていても慎ましく赤く腫れ上がった違う何かのように見える。
ヒクヒク、ぷるぷると揺れる腰に合わせて主張するソレを、白月はくすくすと笑い握り込んだ。

「ひゃ――ぁアあ"あッ!? ふぁ、ああ、しろぉッ! てぇ、きもひっ! んんっ、はぁあ……!!」

ぐちゅぐちゅと先端から零れる先走りを全体に塗り込め、少し強めに握ったままカリや裏筋に指の腹を擦りつける。
待ち望んだ刺激にか、慣れていない快楽にか。
目を見開いて眩ませながら喉を晒して泣き喘ぐ。
酸素を求めてはくはくと口を忙しなく開き、けれど合間から漏れる悲鳴がそれを許さない。
意識を飛ばしかけながら、尚も手に擦りつけられる細腰にぺろりと白月は自分の唇を舐めた。
早く食べてしまいたい、隅々までぐずぐずに解かして痴態を堪能したい、甘やかして優しく抱いてやりたい。
相反する想いに胸を焼かれながら、手の動きを一層早めて追い詰めていく。

「ひゃっ!? らめ、そりぇ、らめぇえええっ、あ、イっちゃ、イっく――あ、ああ"ぁアあッ!!」

最後には先端をぐりぐりと親指の腹で押し潰すように割り開けば、勢いよく白濁を吐き出した。
その色は白月が触れていなかった間も溜めていたようで、濃い白に濁っている。
はぁはぁと胸を大きく動かして呼吸を整え、ぐったりとベッドに項垂れる黒鶴の額に口付けを落とした。

「たず、可愛かったぞ。久しぶりで疲れたろう、すまないな……」
「……ん……んぅ、しろちゅ、きぃ……。あの、あのね? たず、きもちぃ、しちゃったのぉ……」

ぼんやりと合わない焦点で舌っ足らずに、首に両手を絡めてすりすりと甘えてくる。
これだけでご飯三杯、どころかオカズには不足しないと悶え、白月は手に吐き出された欲を舐め取った。
小さく首を傾げてその様を見ていた黒鶴は、何をしているか気付いた瞬間に目元まで顔を赤らめる。
思わず、といった具合で抱えた白月の頭に縋り付き、言葉もなく恥じらう様は愛らしい。
本当ならば繋がりたいと思っていたが、これ以上負担を掛けるのは酷だろうと白月は空いている手で黒鶴の背を撫でた。
その瞬間、弾かれたように黒鶴が顔を上げた。

「やっ! しろ、だめ! やめちゃやだぁ!」
「だが、たずよ……これ以上はお前に……」
「たず、しろつきにおつかれさま、するの。しろちゅき、みててぇ?」

ごそごそと体勢を入れ替えるように上下逆さまになり、白月の下半身に顔を近付ける。
スラックスを押し上げる熱い固まりはその上からでも分かった。
一瞬たじろいだ黒鶴だったが、顔を赤く染めながらも指先を動かして下履きまでを脱がせていく。
途中、下履きから顔を覗かせた白月の赤黒く怒張する象徴がぶるりと大きく震えて飛び出してきた。
うっとりと目を細め、恐る恐る赤い舌を伸ばしてモノを舐める。
ぺろり、と舐め上げる微かな感触と、何より視界による暴力により更に大きく膨らんだ。
驚いて一瞬身を引いた黒鶴だったが、意を決したように小さな口一杯にモノを頬張る。
けれど半分ほどもいかずに限界に達したようで、苦しそうに鼻で息をしながら目を見張った。
どうして良いのか分からず、思ったように動けない中で白月を見上げてくる。
黒鶴の愛らしい顔が男の欲を頬張って歪み、うっすらと涙目になっている様を見ているだけで今にも達しそうだ。

「はぁ……たずよ、一度離して舐めてくれるか?」
「ん、んんっ……ちゅ、はぷ……ふぁ、はぁ……えっと、こう……?」

れろ、ちゅぷ、と濡れた音が響く中で黒鶴が白月の性器を両手で握り、一心に根元から舐め上げていく。
固くなった玉をちゅうちゅうと口に含み、舌で転がし、根元から先端までをしゃぶり、先走りの滲む先端に吸い付いた。
ちゅうちゅうと音を立てながら舐めているうち、再び熱の篭もってきた身体をもじもじと震わせる。
白月は微笑んで黒鶴を抱き上げると自身の上に跨がるようにさせ、その美尻を両手で揉んで感触を楽しむ。

「ひゃあんっ!? しろ、にゃに!?」
「うん? なに、たずは気にせず続けておくれ。俺はこちらの用意をせねばな?」
「ん……んぅ、は、はずかしぃ……」
「はっはっは、好いぞ好いぞ。久しぶりになってしまったからな、いきなり俺の息子を挿れては傷付けてしまう」
「はぁ、む……ふぁーい……」

黒鶴のとろとろに蕩けた顔を見られないのは残念だが、それでも小尻を堪能するのもまた乙なもの。
後孔がそのままで見える形の紐パンは外さず、縁に舌を伸ばして触感を楽しんだ。
にゅるにゅると後孔に舌先が埋もれる度、下の方からは感極まった黒鶴の喘ぎが聞こえてくる。

「ぁ、あっ、にゅくにゅく、してぇ……ひんっ、やぁ……しろちゅきぃ……」

ふわふわと熱にうかされ、愛らしい言葉を繰り返す黒鶴は、それでも必死に奉仕しようと舐め上げた。
先端にちゅうちゅうと吸い付き、そのまま口に頬張って上下に顔を動かす。
含みきれない部分は手を添えて扱かれ、かなり気持ちが好い。
唾液を絡めて孔の縁を舐めていた白月は、性急になるのを承知で指を一本突き挿れる。
滑りを帯びた中をゆっくりと進み、また抜き出しては唾液を絡めて埋めた。
暫く室内にはちゅぷちゅぷ、くちゅくちゅと卑猥な水音と黒鶴の小さな喘ぎが広がる。
後孔が三本の指を飲み込んでとろとろに解れる頃には、白月のモノに頬擦りして項垂れていた。

「は、ぁん、ひゃうぅ……も、しろぉ……おにゃか、きゅうきゅう、してぅ……」
「ああ、待たせたな。たず、気持ち良かったぞ。ありがとう」

身体を持ち上げて上下を入れ替えてやり、くったりと力尽きる黒鶴の頬にキスを落とす。
焦点を合わせた黒鶴は白月の言葉にふんわりと微笑み、喜色を示した。

「たじゅ、うまく、れきらかったの」
「うん? 充分心が伝わるもてなしだったぞ?」
「らってぇ……たじゅ、ぺろぺろしゃれたら、きもちぃなるの。しろ、きもちぃしてないぃ……」

いやいやと駄々っ子の様に顔を振り、嬉しさから一点涙を浮かべてしょんぼりと落ち込む。
口の周りを唾液や先走りで汚し、顎が疲れる限界まで奉仕してくれたのだ。
白月としてはその表情や行動だけで十分に満たされ、満足しない訳は無いのだがどうにも伝わっていないよう。
触れるだけのキスを唇に落とし、黒鶴の顔を上げようと促す。

「たずよ、俺はお前の中で出したい。駄目か?」
「え……? え、あ、……ん、んんっ、あの、……い、いい……」
「良いか?」
「ん、あの……あのね? しろちゅきの、で……たじゅのおにゃか、つんつんして?」

ふんわり、と瞳を和ませて微笑み、白月に抱き着いて擦り寄った。
愛らしい無邪気な言葉と笑顔での誘いに、俄然張り切った白月は極上の笑みを浮かべて恋人繋ぎに手を握り直す。
きゅう、と握り締めるその細い手が愛おしい。
身体を入れ替えてベッドに黒鶴を組み付き、額に口付けを落としながら顔を覗き込んだ。

「挿れるぞ?」
「ん…………ぁ、……んんっ、は、ふ……ふぁあ……っ!」

(ここまで)

おひめさまの憂鬱。前編

黒鶴はその日、一つの決意を胸に携帯を触っていた。
白月と幼いながら貫き通してきた想いを通じ合い、恋人となったのはつい最近のこと。
触れ合う事に嬉しさを感じ、白月もまたそれを喜んでくれていた。
二人が揃う時は黒鶴の定位置は白月の膝の上。
それが嬉しくて安心して、頭を撫でられるとうっとりする程気持ちが良い。
昔はしていたけれど今は怖くて出来なくなっていた食べ物を分け合うという事も、怖く無いのだと教えてくれた。
夜には店を閉め、二人でくっついてちゅうをしてからベッドにつく。
至福の一時を過ごしていた。
けれど、そんな日々を過ごしていて気付いたことがある。
白月の顔色が日増しに悪くなっていく気がするのだ。
食欲は変わらず、ベッドでは黒鶴の方が先に眠り後に起きてしまうので分からないが、恐らく睡眠も十分に取っている。
にも関わらず、時折ぼんやりと遠くを見て微かにため息を吐く時があった。
仕事が忙しいらしく、黒鶴が店を閉めた後も暫く仕事部屋に篭もっている事も。
恋人が疲れている時、普通の人はどうやって労るのだろう。
他人に興味がない黒鶴にはその普通は分からず、けれどどうでも良い他人に聞く気にもなれず。
幼馴染みに相談するのも気恥ずかしく、となれば黒鶴に頼れるのは一人だけ。
白月の兄代わりであり、家族と言って可愛がってくれる三条宗近。
ちか兄と呼び慕っている人ならば、きっと上手い手段を知っているに違いないと一縷の望みを託すのだった。

『ちか兄、ちょっと相談したい事があるんだけど。良いかい?』
『おお、おはよう。相談か? あい分かった、俺で分かる事なら良いぞ。話してみると良い』

ラインを送り、和やかな笑顔が思い出せるような柔らかい物言いでその人はすぐに答えてくれる。
それに安心をし、更に文章を打ち込んでいった。

『最近、白月が疲れてるみたいなんだ。その、出来れば……こいびとらしい労り方、とか、知らないかなって』
『ほう、恋人らしい、とな?』
『ん……あの、白月に喜んで欲しくて。おかしい?』
『いいや、おかしくないぞ。たずは少々遠慮がちな所があるからな、あれも喜ぶだろう。ふむ、恋人らしい労り方か……』

遠慮がち、と言われて首を傾げて考える。
むしろ自分はいつもワガママ放題に好きなことを皆にさせて貰いながら育ってきた。
それこそ末っ子"らしい"育ち方だと思う。
両親は幼馴染みが兄弟のように黒鶴の面倒を見てくれるから助かると言っていた程、自分たちは一緒に居た。
嫌な事はしたくない、出来ない事はしなくて良い、そうやって甘やかされている。
今もそう、気付かないうちに幼馴染み達が気を回してくれるのだ。
だから、という訳でも無いが。
白月の恋人、彼の唯一のお姫さまだと言ってくれた事が嬉しかった。
その気持ちが嬉しくて、大切にしたいと思った。
何より、恋人やお姫さまという特別な事が嬉しくて、特別な事がしたくなったのだ。
黒鶴のそんな気持ちが見透かされたような、実際見透かしているのだろう言い回しに恥ずかしさを覚え、携帯を両手で握り締めて顔を赤くする。
無意味にあわあわと手を動かし、熱くなった顔を手で仰いだ。
そんな黒鶴の恥じらいなど知らない宗近からはピロリ、と更に返信があり、

『良い方法があるぞ。まずは、お前達の寝室へ行ってだな……』

携帯を覗き、更に続く文章を見た黒鶴は目を見張った。


最近の白月はフリーランスのプログラマーとして、今は企業向けのアプリ開発に苦心していた。
自室とは別に用意した仕事部屋で一日パソコンと向き合い、プログラミングに勤しんでいる。
そもそもは愛らしく愛おしい幼馴染みを魔の手から守る為。
自身の欲望の赴くまま、常に様子を知ることが出来たならと彼の周囲を見る目や耳を求めた。
結果、黒鶴の腕時計にはGPSが、彼のテリトリーには監視カメラと盗聴器が充実する事となる。
仕事の合間に別の専用モニターでその様子を見、片耳に引っ掛けるタイプのイヤホンで音を拾った。
勿論そんな事は黒鶴の知らない事なのだが、幼馴染みや馴染みの友人には周知の事実と化している。
そんなこんなで今日も今日とて黒鶴の様子を見ながらの作業。

『……お、いらっしゃい』

カランカラン、と涼やかな開店のベルが鳴り、大人しめに控えられた黒鶴の声が響く。
恋人となり白月だけのお姫さまとなった黒鶴は、元来の無邪気さも相まって可愛らしい笑顔を振りまくことが増えた。
幼い頃の彼の世界はとても狭く、時が過ぎる毎に色々なジレンマを抱えながらも成長した黒鶴はどこか人を引きつける魅力がある。
他人に開かれる事の無い鉄壁の城塞のような心。
その心中は幼さを含み、菓子のような甘さとふわふわと柔らかく可愛らしいものを抱えている。
一時期は白月が倒れた事を自分のせいと責任感を感じ、彼の無邪気さと甘さは拒絶と癇癪へと形を変えてしまった。
けれどようやくその長年のシコリを解消することが出来て喜びを感じている。
のだが、

『注文は……ああ、じゃあ空いている席に座ってくれ』
『はい、分かりました!』
『楽しみにしてます』

集音性の高いそれから聞こえてくるのは見知らぬ男達の声。
声変わりにより低さを増し甘やかな響きとなった声を弾ませ、黒鶴が頷いた。
蜜色の瞳を柔らかく和ませて口端を上げ、調理の最中に響く鼻歌が機嫌の良さを表してる。
そんな黒鶴の背をじっと眺めている客の様子に、白月は眉根を潜めた。
黒く艶やかな襟足だけを伸ばした髪、蜜色の瞳は大きく母親似の愛らしい顔立ち。
身長は平均的ながら、全体的に細い体付きをしなやかに動かす様は猫のよう。
彼らがどんな意図を含んで黒鶴を見詰めているかなど、白月には想像も容易い。
今すぐに黒鶴をその目から隠すか、彼らの目を潰してしまいたい衝動に駆られる。
だが、本来は客商売をしているのだから愛想は良い方が良いのだろう。
例え道楽だと任されているとはいえ、顧客が増えるのは好ましいはずだ。
何度目かのため息と共に、そう自分に言い聞かせる。

「たずよ……俺はお前の笑顔を、守れているだろうか?」

モニターに映る最愛の姿に指を這わせ、ひっそりと心中の吐露をした。
触れたいのに、触れる事をためらってしまうのはその先を望んでしまうからだ。
幾度となく黒鶴と繋がり、その身体を味わったが故に溺れてしまう。
けれど幼い頃から身体の成長に恵まれていない彼は、その細さも相まって体力に乏しい。
白月が望むままに貪れば、きっと彼を抱き潰してしまうに違いない。
時折、他人が無遠慮な眼差しを黒鶴に向ける度、隠して誰の目にも触れぬよう仕舞い込んでしまいたくなる事があった。
どろどろに甘やかし、自分だけを見詰めるよう飼い殺してしまいたい。
彼のいとけなさ、弱さを知っているが故に、凶暴な衝動を向けると同時に抑え込む事が出来るようになり。
何より、黒鶴から外への探究心を奪うことを許さなかった幼馴染み達の庇護が影響している。
そうやって自分の中で消化するうち、過保護とも過干渉とも言える方法に手を出す事で落ち着いてしまった。

『……やっぱりあの人、良いよなぁ……』
『付き合ってる奴居るのかな?』

黒鶴の鼻歌とBGMに隠しきれない、悪辣な言葉が聞こえる。
眉間の皺が険しくなる度に奥歯を噛みしめ、頭痛が酷くなるのを感じながら息を吐いて耐えた。
ギシリ、と椅子の肘置きが悲鳴を上げる。
いつの間にか握り締めていた、否、握り潰そうとしていたそれを、縫い付けられたように固まる指を引き剥がしていった。
目を閉じて瞑想する合間、彼らの顔を思い出してデータを引き摺り出す。
一度目は黒鶴の柔らかな微笑みに釣られて不用意に話しかけ、手痛い拒絶を食らっていた。
二度目はやはり顔すら覚えておらず、まずは常連として通う事を心がけたようだった。
三度、四度と通いながらも下心をあけすけに黒鶴に話しかけ。
これ以上は見過ごせない、と深く腰を落ち着けていたデスクチェアから立ち上がる。
向かった先は一階の喫茶店、カウンターキッチンで調理をしている黒鶴の背に被さるように立った。
不意な体温に驚いた黒鶴が振り返るのと同時に、自分の中で極上の笑みを浮かべながらその小さな唇に口付ける。

「――なっ!? し、白月、急に何を……」
「いやなに、小腹が空いて降りてきたらお前が居たのでな。随分と機嫌が良いようだが、何かあったのか?」
「ん……その、嬉しいけど……驚いた……。機嫌? ……まあ、良いかもな」

ふふ、と頬を赤らめてはにかみ笑いを浮かべる黒鶴に、作ったものではない笑みが浮かぶ。
ほわほわと柔らかな雰囲気で仰ぎ見る蜜色の瞳を、もっと喜ばせたいと心底願う。

「あ、けれど……人前でちゅうは……ちょっと、は、恥ずかしいから……」

調理の手を止め、コンロで隠れる位置で服の裾を遠慮がちに握り締めて上目遣いに見詰めてきた。
それはむしろ逆効果だと言い聞かせたいような、もっと愛らしいおねだりを聞いていたいような。
このままここで押し倒せたならばどれだけ良いだろう。
だがいとけなく無邪気さを振りまく姿も、愛らしく恥じ入る姿も等しく大事にしていきたい。
我慢のしどころだと自分に言い聞かせ、黒鶴の頭を緩く撫でた。

「すまぬ、たずが愛らしいので、ついな。続きは店が終わってから、だな?」
「店が……う、うん! あの……今日は、仕事……早く終わるかい?」
「ん? ああ……そうだな、今手掛けているものは終わらせておこう」
「そうか! ふふ、じゃあ今日は長く一緒に居れるな?」

ふにゃふにゃと嬉しくて仕方ないと言わんばかりの甘い笑顔に、再びキスを落とそうとして固まる。
つい先程の恥じらう姿も愛らしかったが、せっかくの機嫌に水を差してしまうのは申し訳無い。
何より、これだけ甘い雰囲気と意味深な言葉を交わしていればよからぬ虫も悪さを出来まい。
顔を近付けはしても唇を合わせることはせず、こつん、と額を付き合わせて鼻先を擦り合わせた。
嬉しそうに目を和ませながらも、どこか物足りないと言いたげに突き出された唇を交わす。
耳元で小さく、

「待っているぞ」

と、囁けば夢見るようなうっとりとした表情で見上げてきた。
名残惜しい気持ちはあれど、これ以上傍に居れば間違いなく収まりがつかなくなるだろう欲に蓋をする。
ふと、部屋へ戻る為に階段を上がっている最中に思い出した。
あれを手酷く抱いてしまわぬよう、触れ合いも最小限にキスをする事すら最近はしていなかったと。
店は不定休でやっている為、次の日の負担などを考えるとどうにも手を出しづらくなっている所があった。
何よりも抱いた後に残る色気と澄ました顔というのは扇情的に見えてしまう。
そんな姿を他人の目に晒す事を良しとは出来ず、物理的に距離を空けてしまっていた。
しかし気付いた所でやはりどうにも良い案が浮かばぬ限り、やはり自分が堪え忍ぶしかない。
戻った部屋のモニターから、先程の客が落ち込んだ様子で話し合っているのを確認して自分の考えに間違いはないのだと確信を得たのだった。


はてさて、二人がすれ違いの疲労を溜めている中で夜となった。
白月は言葉通りに早い時間から黒鶴の手作り料理を腹に収め、今はリビングのソファでリラックスしている。
黒鶴は宗近の教え通り、まずは密着して労うことを決めた。
おずおずと白月の隣に立ち、顔を上げて微笑んでくれるのを受けて膝の上へと腰を下ろす。

「白月、今日もお疲れ様! 最近、前にもまして集中してるみたいだけど……難しい内容なのか?」
「いや、ああ……そうだな。少々複雑でな。……寂しい思いをさせたか?」

微笑みを苦いものに変え、黒鶴の頬に手を添え顔を覗き込んできた。
その秀麗な顔立ちは昔から見慣れているとはいえ、恋人となってから意識をするようになった黒鶴は頬を赤らめて目を伏せる。
震える小動物のような反応に、そのまま押し倒してしまいたい欲と大切にしたい庇護欲がせめぎ合う。
この瞬間、堪えねばならないと自身に言い聞かせて精一杯の自制心を働かせる消耗は計り知れない。
困ったように笑い、近付けていた顔を遠ざけて頬からも手を離してしまった白月に、黒鶴はショックを受けた。
と同時に、やはり現状を打破するには宗近の教え通りに動かざるを得まいと覚悟を決める。
白月の手を取って腰に回させ、するりと滑らかな動きになるよう意識しながら胸に頭を預けて寄り添う。
実際はおずおずと恥ずかしげに手を取られ、しかしぎゅうっと目を瞑りながら抱き着かれと慣れていない事がよく分かる。
だがその精一杯のアピールは白月の胸を打つには十分なものであり、

「た、たずよ、何を!?」

普段は冷静沈着、もっと言うなら黒鶴や幼馴染みの事以外には冷徹とすら言える表情を焦りのものに替え、黒鶴の細い両肩に手を添えた。
うっすらと潤む大きな蜜色の瞳で白月の姿を写し、ゆっくりと目を瞑る。
これは所謂キス待ちの姿勢と気付いた白月は驚愕に身を震わせた。
真っ直ぐに育った黒鶴の情操教育上、こんな真似を出来るとは思えない。
となれば原因は限られ、宗近への苛立ちを深くした。
自分が堪えねばならない局面である事を知っていて教えたであろう底意地の悪さが分かる。
数秒間、目の前で目を閉じる黒鶴の桜色に艶めく唇を見詰め、生唾を呑み込む。
目を開けた黒鶴は酷く傷付いた顔をして顔を伏せてしまった。

「たず……今のは誰に教わった?」
「……白月のばか! もう、良いッ!」

くっついて来た時と同じ、それ以上の性急さで身体を離して寝室へと駆けだしてしまう。
咄嗟に追おうとしたが、下手にベッドのある場所で二人っきりになると堪えきれる自信も無く。
ソファに深く腰を掛けて項垂れるしか無かった。
せっかく黒鶴が恥ずかしさを偲んで近付いてくれてきたものの、欲に流されまいと無碍にしてしまった。
大切にしたいと思うからこそのジレンマにため息を落とし、黒鶴の煎れてくれたコーヒーを飲んで頭を冷やす。
もう少し落ち着いてから話しをしに行こうと決め、それよりも先に開いたドアの音に後ろを振り返った。

「たず、さっきはすまなかっ……――」

呆気にとられた。
寝室から出てきた黒鶴は白いレースのニーソックスにガーターベルト、白いパンツは左右で紐を結ぶTバックタイプの中でも面積の狭いもの。
白いコルセットは陶器のような白い肌によく映える。
淡いピンク色のベビードールから身体の全てが透けて見える姿はまさに寝室の天使。
全て自分でコーディネートしたものだったが、ここまで似合うとはやはり黒鶴の全てを理解していると言っても過言ではない。
ないのだが、何故理想の姿を目前に晒しているのか。
目を見開いたまま、白月は理解を超える状況に完全に固まった。

「あの……に、にあう……?」
「あ、ああ……想像以上だ……」
「えっと……ね? ちか兄に、聞いたんだ。白月が、疲れた顔をしてるから……」
「むねちか、に……そうか……。いや、だがそれは……」
「ん……。あの……寝室、棚の、紙袋……これ着て、労ったら……喜んでくれるって」

今この瞬間も恥ずかしいのだろう、耳や首元まで真っ赤に肌を染めながら、ベビードールの裾を両手で掴んでもじもじと身体を震わせている。
少し動いてしまうだけで前や後孔が見えてしまうのを躊躇っているようだ。
見れば見るほど艶やかな姿に生唾を呑み込む。
だが、黒鶴の愛らしさを天使という形で昇華するならばむしろ淡い桃色のネグリジェの方が良かったかも知れない。
今の姿も愛らしいのだが、それ以上に男の欲を具現化したようなアンバランスさも感じる。
襟足の黒髪が肩から胸へと垂れているのを見、思わず手を伸ばして掬い取った。
びくり、と身体を強く跳ねさせて蜜色の瞳が上目遣いに覗き込んでくる。

「あの、あのな? その……白月に、喜んで欲しくて…………こ、こいびと、と、して……」

顔を真っ赤に染め上げ、胸に両手を握り締めて一生懸命に告げられた内容に、白月の鉄条網じみた理性はブチりと勢いよくはじけ飛んだ。
慣れていない羞恥に身をよじりながら誘惑してくれる恋人に、愛おしい人に、これ以上耐えろという方が無理だろう。
耐えるならそれは去勢されているか不能に違いない。

「ふふ、そうか……恋人として、な?」
「あの……つかれてる? 元気になる?」

心配する気持ちで一心に気遣ってくれる姿はいとけない幼子のよう。
そんな彼が自分の手管でとろとろに蕩け熟れた果実の様に甘く解れていく様を想像すると、腹にクるものがある。
腰回りに、頬に手を当てながら密着して顔を近付けた。
先程拒絶されたにも関わらず、柔く微笑みながらすりすりと頬を擦り寄せてくる。
その姿が愛らしく、控えめに存在する小さな唇に口付けた。
ちゅ、ちゅ、とリップ音を鳴らしながら緩く、唇に舌を這わせて縫い付けるように深く。
都度与える刺激を変えていきながら顔色を窺えば、鼻でする呼吸に慣れずに合間に口を開いて小さく息を吐いた。
その隙を狙い、口内へと舌を這わせて逃げる舌の根、裏、歯列を割って上顎を舌先で擽る。
閉じていた目を、黒く長い睫を震わせて白月を映し出す。
目が合うと、花が開くようにふわりと甘い微笑みを浮かべた。

「んぅ、しろ……? あ、やっとわらったぁ」
「うん?」
「さいき、つかれて……こわいのかお、してたから。ふふ、うれしぃ」

喜色一面に華やぐ顔に、そこまで心配を掛けていたのかと申し訳無くなる。
だが、そもそも疲れの原因となったモノは黒鶴の考えとは別にあった。
少なくとも今はもう止めてやる気にはなれないが、確認だけはと頭を撫でながら口を離す。

「んぅ……しろぉ?」

既に快感で蕩け始めている為か、舌っ足らずに黒鶴が口を開いた。
心配はいらないと伝えるためににこりと微笑み、
「たずよ、すまん……今宵は抱き潰してしまうやも知れん。店の方は……」
「え?あ、えっと……ちかにぃが、おやすみするといい、って」

どうしたの?と言葉の代わりに小首を傾げて見上げてくるいとけない様子に、苦笑を漏らす。
やはり全てを知っていて助言をしたに違いない。
彼の手を借りるのは癪だが、黒鶴に心配を掛けている事に気付けなかったのは白月の堕ち度だ。
お陰で今日はじっくりと二人の時間を楽しむ事が出来るのだから、後でお礼参りにでも行くとしよう。
となれば優先順位は目の前の愛らしい恋人の事。

「そうか、では問題ないな。ふふ、似合って居るぞ?一度着て貰いたいと思っておったのだが……恥ずかしがり屋ゆえ、叶わぬとばかり」
「ん……えっと……えっちぃ服、だよな……。恥ずかしいけど、しろが用意してくれたから」

うっとりと至福に微笑み、言葉通り羞恥は煽られているのだろう赤い頬は愛らしく食べられるのを待つ果実の様。
耐えに耐えた末のご褒美に白月も喜色満面、極上の笑顔で黒鶴を横抱きに寝室へと歩き出した。

Myosotis

むかしむかぁしの、おはなしです。

あるところに一人の子供がおりました。
身体が弱く、親を心配させることばかり。
そんな中、月の様に淡く微笑み、常にそばで見守ってくれる人がおりました。
子供は、月が好きでした。
子供は、彼が好きでした。
子供は、おとぎ話が好きでした。
王子様とお姫様は、ずうっとなかよく暮らしました。
めでたし、めでたし。
そんなチープなエンドロールで終わる物語を信じて居ました。
彼とずっと一緒に居られる、真実の愛を信じて居ました。
だから子供は、約束を交わしたのです。
大好きな彼と居る為に。
ああ、けれど、なんという事でしょう。

この世に真実の愛はありませんでした。
この世に愛されるだけのお姫様は居りませんでした。
子供は真実の愛を持ってはいませんでした。
代わりに持っていたのは、魔女の呪いという毒でした。
大好きで大好きで、どんな言葉を集めても比べられないほどに大好きな彼を、子供は。

白月とキスをした。
白月と約束をした。
白月は忘れてしまった。
悲しいと思うより、安堵した。
カミサマは黒鶴の祈りを叶えてくれたのだと。
だから、捧げようと思ったのです。
白月が忘れてしまった約束を、黒鶴の想いを。
人魚姫は真実の愛を得る為に、丘を歩く足を得る為に、声を捧げました。
黒鶴は虚実の平穏を得る為に、彼の隣で笑う為に、自分の想いを捧げました。
人魚姫は真実の愛を守る為に、泡となって消えてしまいました。
黒鶴は虚実の平穏を守る為に、一体何が出来るでしょう?

子供は人魚姫が羨ましくて、大嫌いでした。
王子と出会い、真実の愛を叶える為に声を失った彼女は、最期に自身を失いました。
子供は眠り姫が羨ましくて、大嫌いでした。
王子と出会い、真実の愛を叶えられるまで眠りに閉ざされています。
子供は何より、お姫様が大嫌いになりました。
だって、子供はお姫様にはなれないのだから。

子供の、黒鶴の願いは一つだけ。
ただ、白月の隣に居たい。

恥はかき捨て



「鶴丸先輩」

優しく微笑まれる。
パリッとアイロンがけされた清潔なシャツ。
キツくない丁度いい香りの香水。
細長い指が大学内に出店している有名コーヒーショップのタンブラーを持ったまま柔らかな唇にコーヒーを運んで行く。
その唇に思わず目を奪われる。
カッコイイと思っている。
恋人関係になってからのいちはに宝物みたいに俺を大切にしてくれた。
だけど、正直いって欲求不満なのは若さゆえ仕方の無いことなんだと思う。
キスだけじゃ足りない。
もっと先が欲しい。
でもそれを求めたらいちに嫌われるんじゃないかって不安。
いちが帰ってしまった寂しさを埋める為に、いけないと判っていても下肢に伸びる手を止められない。
手元にはいちが泊まる時用に置いてあるスエット。
今朝までいちが着ていたからまだ匂いが残ってる。
それをぎゅっと抱きしめて鼻先を埋める。
いちの匂いに包まれる安心感と、ずくずくと熱を持つ下肢は硬く反り返り解放の時を今かとまちわびていた。
物凄い罪悪感がそこに手を添えるのを躊躇わせた。
しかしここは俺の自宅で誰も見ていない。 一応カーテンは閉めて、ズボンを下着ごと降ろすとソファーに身体を横たえた。
いちのスエットを抱き締めながら、スマホにずっと保存したままの留守電を再生する。
ああ、恥ずかしい。何をやっているんだろう。
そう考えるも、そっと添えた手で自身を慰めながらいちの声と匂いに熱を持った身体はどんどん高まっていく。

「ふぁ、んっ、いち、いちぃ……あぁんっ」

耳元で何も知らない恋人がデートの予定の確認の電話を何度も再生していた。
「鶴丸先輩、愛してます」
最後に照れた様な愛の言葉に、付き合いたての頃はきゅんきゅんした。
でも今は、こんな浅ましい行為に使っている。
最低だ、でもやめられない。
気持ちいい、いちがしてくれているみたいで体の芯があつい。
もう少し出でそう。
だけど足りない、まだ足りない。

「いちっ!いちっ!も、おれ、たりにゃい、キスじゃ、もっっ触って、いち!いち!いちぃぃぃ!」
「鶴丸先輩、すいません。
私今朝定期を忘れたみたいな……ん、ですが……」

一瞬何があったか理解出来なかった。
いちは合鍵を持ってるし、いちいちインターフォンを鳴らさなくてもいいと言っていた。
いくら自慰に熱中していたとしても、どうして玄関が開く音に気がつけなかったのか。
今の俺はソファーに横たわり、脚を開いていちのスエットをおかずに盛大に射精した所で、自分の腹といちのスエットに放たれた精液が飛び散ってる。
「い、ち……あのっ…これは……!」
事情を説明したいが言葉が出ない。
全身の血が顔に集まるのがわかる。

「いちっ……きらいに、ならないで」

ようやく消え入りそうな声ででた言葉。
恥ずかしくて涙が溢れてきた。
「失礼しました…その、一応声をかけたのですが…」
気まずそうにいちが顔を逸らす。
「でも、嫌いにはなりません。絶対に」
「いち…」
恥ずかしさのあまりにスエットで顔を覆ったままみっともなく泣きわめいた。
いちは定期を回収してすぐに、何も言わずに出て言った。
嫌われたかと思い、一晩泣きはらした後に次の日大学でいちの姿をみかけるといつもと同じように接してくれて安心した。
そんないちの優しさがたまらなく愛しかった。
いちのスエットはしっかり洗ってまだ俺の家のタンスにしまってある。
いちが泊まりにきたときのために。

prev next
カレンダー
<< 2024年04月 >>
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30