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鳴り響く鐘の音



「うぅ…寒い…
何でこんなに混んでるんだよ!!」
「大晦日だからじゃないか?
レシュオム、あまり俺から離れるなよ?」
「う、ん…でもほんとすごい人だね…
エヴァ、大丈夫?」
「だ…だいじょばない…」
人酔いしたのか、エヴァンジルが消えそうに呟いた。
モコモコしたマフラーにコートをしっかりと着込んでいるのに妙に寒そうだ。

そもそも、何で彼らがこのような人混みに居るかと言うと、今日は大晦日だからせっかくだし除夜の鐘でも聞きに行こうと言うことになり、イグニスの事務所で年越しパーティをしていた四人は近くの神社に向かった。
因みに寒いから出歩きたくないという理由でゼクスとタウフェス、リラ、シエルは事務所に居残り中だ。

「だから事務所で待ってろって言っただろ。」
「リラが居るからやだ…。」
「ワガママかよ…ったく…。」
イグニスが自分の手袋の右手だけをエヴァンジルに差し出した。
「何?」
「手袋しとけって。」
「何でかたっぽなんだ?」
イグニスは首をかしげるエヴァンジルの左手をぎゅっと握ってポケットに突っ込んだ。
「なっ、ちょ…!!」
「これで寒くないだろ?」
抗議の声をあげようとしたが、周りの人の勢いがすごくて諦めたようにしたをむ
いた。
「照れちゃって、可愛いねエヴァ。」
「レシュオムもやりたいのか?」
イルが笑いながらレシュオムを覗きこむ。
「残念ながら、私は手袋してるのよ。」
「なんだ、そいつは残念だな。」
レシュオムは可愛らしいピンク色の手袋をイルの前につきだした。
「これ、クリスマスに俺がプレゼントしたやつか?」
「そう、暖かくて気に入ってるの。」
にこっとレシュオムが笑いかけると、イルはほんのり頬を赤くした。
「仕方ないから、レシュオムはこっちな?」
「…?」
レシュオムが首をかしげると、イルが自分のマフラーをほどいた。
結構な長さがあるそれは勿論レシュオムのお手製だった。
ほどいたマフラーレシュオムの首回りに巻いて、肩を抱き寄せた。
「イ、ル…?」
「たまにはいいだろ。
どうせ回りはカップルばっかだし、誰も俺たちを見てないさ。」
「いや、エヴァとイグニスが見てるし。」
前にいたイグニスは振り返らずに「なにも見てませんよ〜」と、おどけて見せた。
エヴァンジルはグッタリとイグニスにもたれ掛かりそれどころじゃない様子だ。
「ねぇ、エヴァ…ホントにどこかで休んだ方がよくない?」
「平気だっ…」
「除夜の鐘なんて聞けりゃどこでも同じだろ。
って事で俺はお嬢と休んでるから。」
「私達も行くよ。」
「いいって、折角だしお前らは二人で近くで聞いてこいよ。」
デート気分でな、と言われてレシュオムは顔を赤くしながらイルを見上げた。
「そうだな、じゃあそうさせてもらうか。
携帯で連絡を取り合えるようにしておこう。」
「ああ、楽しんでこいよ。」
イグニス達と別れて、二人きりになってしまうと、何だか急に恥ずかしくなってきて、レシュオムはイルから距離を置こうとするが、離れる前に抱き寄せられてしまう。
「結構屋台とかあるんだな。
せっかくだし甘酒でものむか?」
「うん、そうだね。」
離れないようにぎゅっと手を繋ぐ。
手袋越しにも温もりが伝わり、レシュオムが嬉しそうに笑う。
「レシュオムはここに居ろ。」
人混みから離れたところにレシュオムを残し、マフラーがイルから離れる。
何だか、繋がりが切れてしまったみたいに感じ、温もりの残るマフラーの反対側を見詰めていた。
人混みに飲まれていくイルの姿がどんどん見えなくなって、急に不安になって、泣きそうな気分になる。
早く、戻ってきて…と、心のなかで願いながらマフラーをぎゅっと握りしめる。
本の少しが、やけに長く感じた。
「おまたせ、レシュオム。」
「あ、ありがと。」
紙コップに入った甘酒を受取り、口を付ける。
「あったまるね。」
「そうだな。
もう少しで12時だ。」
携帯を見ながら、はぁ…とイルが息を吐いた。
「寒いでしょ…」
一度途切れたマフラーの先を、首にかけてもう一度繋がる。
まるで運命の赤い糸みたいだ…。
「今日くらいは、いいよね?」
ぎゅっとレシュオムがイルに抱き付いた。
それと同時に、辺りに鐘の音が鳴り響く。
除夜の鐘と供に花火が冬の空に上がり、歓喜の声に辺りが染まる。

「今年もよろしくね、イル?」
「あぁ…今年も、来年も…これからずっと俺と一緒にいてくれるか?」
イルが、花火を背にレシュオムに向かい合うようにたつ。
「え…イル?」
イルがレシュオムの左手の手袋をはずす。
そして、ポケットから取り出したなにかを、レシュオムの左手の薬指に嵌めた。
「まだ、いろいろ準備があるからすぐって訳にはいかないが、レシュオムの隣を今から予約させてくれないか?」
それはシンプルなシルバーリングで、中央にハートの形のペリドット。
「ねえ、イル…判ってるの?
ペリドットの石言葉。」
「ああ、ペリドットの石言葉は夫婦の幸せ。
これから、二人で幸せになろう。」
レシュオムは涙を堪えきれず、頷いた。
ウェディングベルの代わりに除夜の鐘が鳴り響くなか、二人はそっとキスをした。




「うまくいったかな、あの二人。」
「さぁな…。」
人気の少ないベンチに腰掛け、暖かいココアを握りしめたエヴァンジルはイグニスを見上げた。
「イグニス…来年は…」
「何だよ、お嬢にはまだ早いだろ?」
「違っ!!依頼を選り好みするなと!!」
「へーへー、わかってますよ。」
「絶対判ってないだろ、お前…。」
悪態をつきながらも、握った手は離さない。
悔しいから、真っ赤になって帰ってくるだろうレシュオムをからかってやろうと思い、エヴァンジルはイグニスに寄り添って目を閉じた。


HOLY NIGHT TRICK




『24日は空いてるかい?』

学校が冬休みにはいった次の日。
フィオルからメールが来たのは先程。
バイトから帰って携帯を開いたのとほぼ同時だった。
付き合い始めてから初めて迎えるクリスマスに、浮かれ気分で空いていると返信してから、ドキドキしながら携帯を握りしめた。
そして、数分がやけに長く感じてから携帯が鳴った。
ディスプレイにはもちろん恋人の名前が表示されている。
「はい…」
『あははー、フィオルかと思った!?
ねぇねぇフィオルかと思った!?
残念、アタシだ!!』
「………。」
通話ボタンを押すなり聞こえたのは良く知った幼馴染みの声。
俺はあからさまに大きく溜め息をついて、電源ボタンを押して通話を切った。
騙された…
たぶん先程のメールもトラヴィスがフィオルに指示して打たせたに違いない。
ホントに悪知恵だけは良く回る頭だ。
ベットに突っ伏したところで再び携帯が鳴った。
また恋人の携帯からの着信に、どうしょうか迷った果てに、仕方なく通話ボタンを押した。

「トラヴィス、いい加減自分の携帯からかけろよ!!」
『ロゼット…?』
「……え?」

聞きなれた声に首をかしげる。
「え…と、フィオル?」
『あぁ、今度は紛れもない私だよ。』
予想もしてなかった展開に、心臓が跳ねた。
『今、メグの買い物に付き合っていたらトラヴィス達に会ってね、今年は皆でクリスマスパーティでもしようかと言う話になってね。』
「そうなんだ…」
『君はもしかしたらバイトが入ってるんじゃないかと思って真っ先に連絡したんだよ。』
「大丈夫、クリスマスは休みになってたから。」
たぶん、バイト先の先輩が気を効かせてくれたんだと思うけど。
『そうか、ならよかった。
トラヴィス達には私から伝えておくよ。』
「あと、トラヴィスに後でシメるって伝えておいて。」
『ロゼット、一応女性相手だよ?』
くすくすと笑いを堪えたような声が聞こえて、俺も何だかおかしくなってきてしまった。
「言うだけなら問題ないだろ。」
『言うだけならね、判った、伝えておくよ。』
「うん…」
会話が途切れて、このままだと通話が切れてしまう。
それが名残惜しいのに、言葉が続かない。
『夜に、また電話するよ。』
「……うん。」
『……じゃあ、また後で。』
通話を切って溜め息をつくと、リビングから騒ぐ声が聞こえた。
嫌な予感がしてリビングに行ってみると案の定、喧嘩したらしい妹と弟が泣いていた。
「うぇぇ…ロゼ兄ちゃん…」
「今度はなにしたんだよ…」
「ダイアが僕のサンタさんのお手紙破ったぁ。」
「わざとじゃないもん!!スォートが手紙離さないから悪いんだもん。」
「判ったから、まずスォート。
手紙はまた書き直せばいいだろ。
ダイアも自分の手紙は自分で書きなさい。
サンタさんはずるする子の所にはプレゼントくれないんだぞ。」
妹弟をなだめて、その場はなんとか収まった。


「って事があったんだ。」
『相変わらず君のご家族は仲が良いね。』
他愛のない会話をしてると、急にフィオルが黙った。
「フィオル?どうしたの?」
『いや、実はあの後メグに怒られてね。
クリスマスに君と出掛けなくていいのかと。』
「え…?」
『だから、イヴじゃなくて25日にデートにしようか。』
突然の事に頭が全く回らない。
「えっ…あ、の……ホントに?」
『こんな嘘ついても仕方ないだろう?』
電話越しに笑いを堪える声を聞くのは本日二度目。
「だよな、うん…いいよ。うれしい。」
『よかった…断られるかと思ってた。』
「まさか、そんなわけないだろ。」
『そうだね、すまない。
じゃあ、パーティの日に。』
「うん、おやすみ。」
携帯を切ってからも、暫く携帯を握りしめていた。
クリスマスデートとか、そんなの初めてだし、皆と祝うクリスマスパーティも楽しみだ。
「どうしょう…楽しみだ…。」
緩みきった顔でベットに潜り込み、クリスマスが待ち遠しくて仕方なかった。


パーティは、当日に両親が不在とのことでトラヴィス達の家で行うことになった。
皆すでに集まっていて、一番遅いのは俺だった。
「ロゼ、おっそーい!!」
出迎えたのはサンタガールのコスチュームを着たトラヴィスだった。
「……なにそのカッコ…」
「ドンキで買ったの!!結構可愛くない?
因みに女の子は皆お揃いなんだよ。」
「ふーん…あ、これ飲み物とか。」
途中で買ってきた袋を差し出す。
「お、サンキュー。
ほら、皆待ってるから早く入りなよ。」
トラヴィスに促されて部屋にはいるとそこには全員が談笑していた。
女子組は確かに皆サンタの衣装を着ていた。
ただ、マーガレットはケープを、リアンは星の髪飾りを、トラヴィスはサンタの帽子を被っていた。
「あ、ロゼ!!」
シルフが立ち上がって俺に駆け寄った。
「何か凄いことになったね…?」
「はは、姉さんの仕業だよ。
昨日ヴェリテとデートついでに買ってきたみたいだよ。」
「そうなんだ…」
かく言うヴェリテはトナカイのキグルミを着せられて暑そうだ。
「ヴェリテ、嫌じゃないの?」
「……何がだ?」
キョトンとして聞き返したヴェリテに、トラヴィスがぎゅっと抱き付いた。
「これもドンキで買ったんだよ♪
可愛いでしょ?」
俺はもう何も言うまいと思って、黙ってうなずいた。
「遅かったね?」
フィオルの隣に座ると、顔を覗き込まれた。
「電車混んでたんだよ。
人混みに流されて降りる駅で降りれなくて…」
「リアンもです!!ヴェリテが手を引っ張ってくれなかったらリアンも降りれないところでした…。」
「ロゼって人混み苦手じゃなかった?
よく辿り着けたね。」
シルフかまた要らない情報を漏らす。
実際にちょっと気持ち悪かったりする。
「だからか、少し顔色が良くないな。
目の下にも隈が出来てるし…」
隣に座ってたクレイが溜め息をついた。
「まぁまぁ、固い話は後にしてパーティを始めようじゃないのー!!」
それぞれ持ち寄った食事やお菓子、飲み物等がテーブルに置かれている。
「みんな飲み物は持った?
じゃあ、メリークリスマス!!」
乾杯とばかり、マグカップを掲げた。
「マーガレット、何かとろうか?」
クレイが隣でマーガレットの皿をつかんで立ち上がる。
マーガレットはほんのり頬を赤くした。
「じゃあ、パスタとサラダを…」
「カロリー高そうな物ばかりだな…」
「うるさいですわよ!!」
この二人は喧嘩はするが、結構仲が良い。
羨ましいと素直に思ってしまう。
目の前の料理に箸が出ずに悩んでいると、心配そうに向かいにいるリアンが顔を覗きこんだ。
「ロゼット…顔色よくないです。」
「ああ…うん。まだちょっと気持ち悪くて…
すぐ落ち着くから心配しないで?」
横になったら?と、シルフが気を使ってくれたが流石にパーティに来て具合が悪いから横になるとか失礼だし、空気を悪くしかねないから平気だと告げた。
皆と居るのは楽しいし、おしゃべりでもしてればそのうち忘れるだろうと思った。
「ねぇ、ヴェリテ。ちょっとこれ飲んでみてよ。」
トラヴィスが差し出したのはグラスに注がれた、ピンク色の液体。
「ちょ…なにそれ!!ヴェリテも飲むな!!」
ヴェリテがグラスの中の液体をぐいっとのんだ。
「大丈夫なの?」
「特に変わらない。」
「えー、残念…せっかく酔ったヴェリテが見れると思ったのにぃ!!」
「姉さん、何飲ませたの!?」
「やだなぁ、ただのワインだよ。
スパークリングワイン。」
「お前っ、何て物を飲ませたんだ!!
未成年だろ!!」
クレイが声を荒げる。
「嘘だって、子供用のシャンメリーだよ。
ほら、アンタも飲んでみなって。」
差し出されたグラスを思わず受けとる。
クレイが一瞬どうしょうか迷うと、隣でマーガレットが興味深そうにクレイを見上げていた。
「う…」
どうしようか迷ったあげく、クレイがそれを勢いよくのみこんだ。
「大丈夫かい、クレイ?」
「…ああ、平気なようだ。」
「だからいったじゃん!!
フィオルも飲んでみなよ。」
トラヴィスから渡されたグラスに口を付けるフィオルを隣で見上げてると、目があって思わずそらす。
「リアンものみたいです!!」
「あ、待って、僕がやるから。」
シルフがグラスに注ごうとボトルを持ち上げて固まった。
「……姉さん、これスパークリングワインって書いてあるけど…」
「え、ウソ!!ちゃんとみて買ってきたよ!?」
一抹の不安がぬぐいきれず、俺はシルフからボトルを受けとる。
アルコール度5%の表示にがっくりうなだれる。
「これ、お酒だよ…」
「マジか!?ねぇヴェリテ、酔ってる?」
「……?」
表情が判りにくいヴェリテでは判断できず、隣のクレイを見たらテーブルに突っ伏してグッタリしてる。
マーガレットが懸命に揺すってるが、逆効果な気がしてならない。
そう言えば、もう一人飲んだやつが居たなと振り返る前に、背中に重みを感じた。
「う…ん……」
ぎゅうっと背後から抱き締められて身動きひとつとれない。
「ちょ、離して…ってゆか5%位で酔うなよ!!」
「リアン、お水持ってこようか。」
「…は、はいです!!」
シルフ…巻き込まれないようにリアンだけ連れてさっさと逃げたな…。
「ヴェリテ、クレイをそこのソファーに横にしたげて。」
「ああ。判った。」
ヴェリテがクレイを運んでる間に何とか拘束から脱け出した俺は廊下で、爆発しそうな心臓を押さえつけるのに必死だった。
結局トラヴィスが間違って飲ませたお酒のせいで大変な目にあったけど、これはこれで楽しいし、そんなのもありかな…なんて考えてたら、調度リビングからフィオルが顔を出した。
「ここにいたのか…」
「うん…」
何だか気まずくて黙り込んでしまう。
「ロゼ…」
不意に、名前を呼ばれて振り返ると、ちゅっとキスをされて、頭がついていかなくて呆然としてると、悪戯っ子みたいに笑ったフィオルがぎゅっと俺を抱き締めた。
「酔って…なかったのかよ…」
「いや、ふわふわしたいい気分だが…意識は保っているね。」
「……ずるい…」
そんなこと言われたら、なにも言えないじゃないか…。
「さぁ、戻ろう。」
「地獄絵図しか待ってない気がする…」
手を引かれてリビングに戻る。
何だかんだで、皆結構楽しそうだしトラヴィスへのお説教は後にしてやろうと、口許を緩ませながら微笑んだ。

とあるクリスマスの一日




寒い。
朝、肌寒さを覚えてベットから起き上がった。
辺りは間だ薄暗い。
隣でグッスリ眠るシュノを起こさないようにベットから抜け出す。
窓に近寄り、カーテンを開けると雪が降っていた。
「…ホワイトクリスマスだ…」
今日は特別な日。
だから、幻想的な雪景色に心が踊る。
「レイリ…寒い…」
シュノが眠そうに僕を呼んだ。
「雪が降ってるんだよ。」
「……じゃあ、こっち来いよ。」
シュノの隣に横になると、ぎゅっと抱き締められた。
いいこいいこするみたいに頭を撫でられる。
暖かい体温が伝い、自然に瞼が重くなる。
「ねぇ、シュノ…」
「なんだ?」
「起きたら…デートしようね?」
「……考えとく。」
シュノは仕事上、待ちを歩くとファンの子に囲まれたり追いかけられるためあまり外出は好まない。
でも、折角のクリスマスだしやはり少しの時間でもいいから出掛けたい。
「うん…」
そのまま、睡魔に負けて心地よい体温の中で眠りに落ちた。


いつもセットしている目覚まし用のアラームがけたたましくなり響く。
「うるせぇ…」
眠そうなシュノがぎゅっと僕を抱き締めるので身動きがとれない。
携帯は暫く鳴り響いて、止まった。
「今何時だ?」
「7時だよ。」
「……まだ寝る…」
クリスマスの休みをとるため、スケジュールを調整してもらい、夜遅くまで撮影していたのを知っているから、寝かせてあげたいなぁと甘やかしたくなる。
「朝御飯の支度するから、離して?」
「やだ。いいから、今日は寝坊するぞ。」
珍しくシュノがふにゃりと緩みきった笑みを浮かべるから、可愛くなってシュノをぎゅうぎゅうと抱き締める。
「もー、仕方ないなぁ。」
そう言いつつも、デレたシュノが可愛くて仕方ない。
シュノの頭をなでなでして、こつんと額を合わせる。
近くで見たら睫毛が長かったりとか、整った顔とか、改めてみると綺麗だなぁっておもう。
「なんだよ?」
「何でもないよ。」
毛布をひっぱって体を包むと眠気に勝てなかったのか、シュノがうとうととし始めた。
そんな様子を見ていたら、僕も眠くなってきて、今日は朝寝坊しようと重いまぶたを閉じた。


「おい…レイリ、起きろ。」
「ふぇ…?」
シュノに揺さぶられ、目を擦りながら起き上がる。
「もう昼だぞ、雪、大分降ったみたいだな。」
窓の近くにいくと、今朝より雪が積もっていた。
「うわ…すごい雪…まだ降ってるし…。」
残念だけど、これは出掛ける雰囲気じゃない。
「仕方ないからコンビニでお昼かってお家デートにしようか。」
「そうだな、ちょうど昨日借りたDVDもあるしな。」
「そうしよっか、じゃあ準備してくる。」
手早く服に着替え、しっかりと防寒対策をしてから鞄をつかむ。
「行くぞ、レイリ。」
シュノが手を差し出してきて、その手をぎゅっとにぎる。
「うん。」
こんな些細なことでも、幸せに満ちてしまう。
マンションを出て、雪の降る道を二人でゆっくり、手を繋ぎながら歩いていく。
道ですれ違うのはカップルや子供を連れた親子、犬の散歩をする老夫婦など、みんな思い思いのクリスマスを過ごしているようだ。
「ついでにスーパー寄っていい?
晩御飯の買い出ししたい。」
「いいけど、沢山買うなら車の方がよくないか?」
「シュノが持てる分しか買わないよ。」
するとシュノは、俺が持つのかよ…と愚痴ながら、手をぎゅっと握ってきた。
だって、僕が持つって言ってもいつも持たせてくれないから。
「で、今日は何にするんだ?」
「……うーん…鍋かなぁ。」
「クリスマスに鍋かよ。
そこは可愛く、シュノの為に頑張ってご馳走つくるね。とか言えないわけ?」
「シュノは僕に夢見すぎだと思うよ。
鍋がやなら宅配ピザにするけど。」
「酷い二択だな。」
苦笑しながら、コンビニまでの道を静かに歩く。
「いらっしゃいませー。」
店内に入ると見知った顔がちょうどお弁当を補充してた。
「レシュオム、今日もバイトなの?
彼氏とデートって言ってなかった?」
「はい、バイト上がりに約束してるんです。
彼も今日は仕事なんで。」
嬉しそうにレシュオムが微笑んだ。
「あ、今日はシュノさんも一緒なんですね。」
「まぁね…たまにはレイリを構ってやらなきゃ、こいつ死ぬから。」
「レイリさんならあり得そうですね。」
「ちょっと二人とも何言ってるの!!
もー、早くお昼かって帰ろう!!」
何だか妙に恥ずかしくて、サンドイッチを二つかごに放り込んだ。
シュノもおにぎりを何個か放り込み、会計をしてレシュオムに別れを告げた。
コンビニからすぐそばにある大型スーパーに立ち寄り、二人分の鍋の具材とクリスマスケーキを買って来た道をまた二人で歩いていく。
新雪をぎゅっ、ぎゅっとブーツで踏む。
外はいつのまにか吹雪になり、いちめんを雪景色に変えていった。
「寒いね、シュノ……シュノ?」
突然シュノが立ち止まり、悲しそうな顔で僕を見た。
その顔が、凄く切なく胸を締め付ける。
どうしてか、涙が溢れそうになって、僕はシュノの手をぎゅっ、握った。
掴んでいないと、このまま雪に紛れてシュノが消えてしまいそうな気がしたから…。
「……帰ろう。」
「うん、そうだね。」
シュノはいつもみたいに笑って歩き出した。


お昼を食べて、リビングで借りてきた映画を見ながらハーブティーの入ったカップをシュノに渡す。
ソファーを背凭れにして座るシュノの足の間に体を割り込ませて、そのままぎゅっと抱き締められる。
「……レイリ。」
ふと、耳許で名前を呼ばれて体がこわばる。
「なに?」
「…したい。」
「今これ観て…」
「DVDだろ、後でも見れる。」
そのまま抱き寄せられ、柔らかなラグの上に押し倒された。
「拒否権は…」
「あるわけねぇだろ。」
楽しそうにシュノが笑うから、それもいいかと諦めて体の力を抜いた。
シュノの手が頬を撫で、そのまま唇を重ねられる。
キスを繰り返していくうちに思考は奪われて甘い快楽にただ身を委ねた。

降り積もる雪は、二人をしろいベールで覆い隠すように降り積もっていた。


暖かい記憶




「寒い…」

朝、眼が覚めて身の締まる寒気さを覚えたロゼットは、カーディガンを羽織り、ベットから起き上がった。
窓のカーテンを捲れば外は一面の銀世界。
家を出てから初めて迎える冬だった。
雪が降ると、毎年決まって妹と弟は元気に外に飛び出して雪合戦やかまくら作りと、近所の友達とはしゃいで雪まみれになって帰ってくる。
姉は根菜のスープを作り、ロゼットは祖父母達に暖かい毛布を持っていくのだが、今年は誰か毛布を出してくれているだろうか…。
家を出る前、一通りのことは姉に説明してきたが、何せおっとりした姉である。
ロゼットは一抹の不安を覚えながら、何となく外を見ていた。
雪がふわふわとわたあめを降らしたように、風に乗って踊るように漂っている。
ふわふわ、ふわふわと。
まだ薄暗い一面を舞う雪はまるで、白いドレスの妖精が楽しげにダンスをしてるようで
、幻想的でメルヘンチックな気分に、自分で苦笑いを浮かべた。

「何を笑っているんだい?」

眠そうな声に、反対側のベットに目をやると、閉じられたカーテンの隙間から、碧い瞳がこちらを覗いていた。

「ごめん、起こした?
雪が降ってたから、実家の事を思い出してて。」

ごそごそとなにかを引っ張るような音がしてから、カーテンが開いた。
シックなナイトガウンを羽織ったフィオルが、ロゼットの冷えた身体を背後からぎゅっと包み込むように抱き締めて、窓を覗いた。

「あぁ、本当だ。
成る程、通りで今朝は冷えるわけだね。」
「そうだな。少し、寒いな。」

寒いなら火を焚けば良いのだが、あと数時間もすれば登校時間になる。
だったらベットに戻って二度寝でもしたいところだ。
薄いカーディガンを羽織っただけのロゼットは自分の身体を抱き締めるようにして身を縮めた。

「そんな窓際にいては余計身体が冷えてしまうよ。」
「あぁ…うん。そうだな。」

曖昧に返事をしながらも、そこから離れようとせずに窓の外を見つめるロゼットを、ナイトガウンの中に収まるように抱き込むと、ロゼットがキョトンとしてフィオルを見上げた。
大きな翡翠色の瞳がじっとフィオルを見上げる。

「どうかしたのかい?」
「いや、別に…。こうしてると、暖かいな。」

しばらくそのまま大人しく外を見ていたロゼットは、急に何かを思い付いたように振り返った。

「ゆきだるま作ろう!!」

子供のように笑いかけるロゼットに、フィオルもつられて微笑んだ。

「随分と、唐突だね。」
「雪が降った日にはよく妹と弟と作ったんだ。
離れているけど、繋がれる気がして。」
「君らしいね。
じゃあ、講義が終わったら今日は雪遊びだね。」
「みんなも誘って、ね?」

普段、こう言ったことを提案するのは大概がトラヴィスで、ロゼットは子供っぽいと一蹴するのが定石だが、まさかロゼットが雪遊びをしたいと言い出すと思わず、フィオルは驚いたように笑った。



講義が全て終了する頃には外はすっかり雪が降り積もっていた。
しっかり防寒着を着込んだいつものメンバーは目を輝かせた。

「どうせなら二人一組になって誰が一番大きなやつ作れるか競争しない?」
また、トラヴィスがしょうもない提案をして来た。
珍しく普段はこう言った遊びに参加しないタウフェスが一番先に面白そうと言ったのを皮切りに、反対意見の出るまもなく決定してしまった。
トラヴィスはヴェリテと、シルフィスはリアンと、タウフェスはお使いの帰りにたまたま通りかかったエヴァンジルを捕まえて。
「残りはあんたたちだけだよ。」
トラヴィスがにやにやと笑う。
「じゃあ、僕はノーツと…」
「空気読みなよ、お前は俺と。」
フィオルと組もうとしたクレイハウンドの腕をロゼットが引いた。
フィオルはてっきりロゼットが自分とペアになると思っていたらしく、キョトンとしている。

「あの…お兄様…」
「メグは私とでもいいかい?」
「はい!!もちろんですわ!!」
マーガレットは嬉しそうににっこり笑った。

「お前、最初からこうなると判っていたのか?」
「まぁね。トラヴィスはこう言った遊びに順位をつけたがるのは昔からだし。
兄妹水入らずもたまには必要だと思ったをんだよ。
どうせ、貴族様は雪遊びなんてしたことないだろ?」
悪戯っ子みたく笑うロゼットに、クレイハウンドは顔を背けて、小さく微笑んだ。
たどたどしい手付きで雪玉を作るマーガレットとフィオルは、こうしてみれば仲のいい兄妹といえる。
普段が不仲と言うわけではないが、やはりどこか距離感のようなものを感じていたロゼットに取っては、まず満足な結果と言える。
ロゼットは足元の雪を集めて掬うと、ぼんやりしているクレイハウンドの背中めがけて投げつけた。
「なっ、何をする!!」
「ぼやぼやしてないでさっさと始めるよ!!」
ロゼットに急かされ、二人はいつも通り、喧嘩しながら互いにどちらが大きな雪玉を作れるか勝負していた。


「最初は体部分を作ってから、頭を作るんだ。
頭は後から乗せなきゃいけないから、体より小さく作るんだけど、あまり思いと乗せられないから注意して。」
「わかりましたわ、ありがとうございます。
シルフィスさん。」
にこりとタウフェスが笑いかけるのをエヴァンジルは後ろの方で眺めていた。
「タウ…私はやっぱり…」
お使いの帰り、寄宿舎へ戻る途中にタウフェスに会って、お願いがあると頼み込まれて来たら、何故かよく知りもしない学生たちと雪だるまなるものを作ると言われ、エヴァンジルは不機嫌そうに顔をしかめた。
「まぁまぁ、そう言わないでちょっとだけ付き合ってよ。」
にこりとタウフェスが笑うと、なにも言えずにしぶしぶ雪だるまを作るのを手伝う。
「ねぇ、エヴァ。」
不意にタウフェスがじっとエヴァンジルを見つめた。
「なんだ?」
「ううん、何でもない。」
「?」
タウフェスはにこにこ笑いながらエヴァンジルを尚も見ている。
不思議そうに首をかしげながらも雪玉を転がすエヴァンジルの口許が微かに緩んでいるのは、タウフェスだけが知っていた。


「シルフー!!体はこれくらいがいいですか!?」
リアンが向こう側から雪玉を転がしながら笑顔で駆け寄ってきた。
「うわ、リアン頑張ったね…。」
「雪玉を転がすが楽しかったです!!」
にこにこしながらリアンは大きくなった胴体部分をシルフィスのもとに持ってきた。
「じゃああとはこの頭を乗せておわりだよ。」
シルフィスの作ったんだ頭はリアンの作った体より大分小さく不格好だった。
「シルフ、なんだか頭は小さいです…。」
「…だね。このまま雪をつけて大きくしようか…」
「ですね。」
二人は小さな頭に雪をペタペタとつけ始めた。
「あー、ちょっとヴェリテ!!そんな強く握ったら雪たまが…」
すぐとなりから聞こえたら姉の声に、慌てて振り替えると、台座のような巨大な体はの上に乗ったヴェリテに、トラヴィスが下から雪玉を持ち上げて渡していたが、とても女子が持ち上げる大きさではなく、シルフィスとリアンは目を丸くした。
そして自分達の小さな雪だるまをじっと見つめた。
「…これはこれで可愛くて良いですよ。」
「そう…だね…。姉さんとヴェリテのがおかしいんだよね。」
二人はニコッと笑いながら楽しげに作業するトラヴィスと、ヴェリテを見ていた。


雪玉を作ったは良いが、重すぎて持ち上げることができず、マーガレットは困り果てていた。
「どうしたの、メグ?」
「お兄様…頭の部分がどうしても持ち上がらないんですの。」
「じゃあ、メグはそっちをもって、私はこちらがわをもつから。」
「えっ…は、はい!!」
しかし、重すぎてなかなか持ち上がらない頭に、フィオルは一旦頭を下ろし、何を思ったか頭を真っ二つにした。
「お、お兄様!!」
「これを別々に乗せて、くっつけよう。」
小さくなった頭は簡単に持ち上がり、砕いた部分を雪でかためて、固定する。
周りにも雪を当てて丸く形を整えていくと、なかなかにきれいな形の雪だるまができた。
絵本に出てきた雪だるまは木の枝で手や顔があったなと思い、フィオルは辺りを見回した。
フィオルが木の枝を探してる間、マーガレットは自分のマフラーを雪だるまに巻いた。
可愛いチェック柄のマフラーが、風に揺らぐ。
「レディーがあまり体を冷やすものじゃないよ。」
背後から、ふわりと暖かなマフラーがマーガレットを包んだ。
「えっ…?」
それは見覚えのある兄のマフラーだった。
兄の匂いと温もりに包まれて、マーガレットはにっこりと笑って兄の腕に抱きついた。


「ちょっと、どうすんのコレ!!」
「知らん。大体僕の方が完璧に綺麗な雪玉じゃないか、潰すならお前のにしろ。」
「はぁ?なにいってんの!!俺の方がでかいに決まってんじゃん!!」
「いいや、僕だ!!」
「俺だって!!」
暫く言い合っていたが、周りが雪だるまを着々と完成させてるのを見て、ロゼットはため息をついた。
「判った、じゃあクレイが下でいいよ。
雪削るからそっち側から丸くして。」
ロゼットが丸めた雪玉を削り、二人で雪玉を持ち上げるが、身長的にロゼットが背伸びをして雪玉をなんとか持ち上げた。


「何やってんだ、アイツ等。」
執務室の窓から偶然見えた景色に、シュノは呆れたように笑った。
「何が?」
「見てみろよ。」
レイリがシュノに寄り添うように窓を覗いた。
そこには雪遊びをする教え子たちがいた。
「楽しそうだね。」
「寒い日に外で遊ぶとか俺には理解できねぇ。」
「そう?シュノが寒がりなだけじゃない?」
「じゃあ暖めろよ、寒いから。」
「仕事があるからあとでね。」
シュノは残念そうに肩を竦めた。


十面相2



ルージュと初めて会った時から思っていたことがある。

彼は沢山の仮面を付けていた。
そして、それを上手く使い分けることによって人間関係を円滑にしてた。
瞬時に適切な自分に切り替えることができる彼は頭がよくキレた。
だから、彼の仮面を剥がすのは難しく、傷付けてしまう恐れがあるから手を出せないでいた。


でも、ある日ルージュは真っ青な顔で帰ってきた。
今までに見たことの無い顔。
私はすぐに直感した。
今までの仮面が剥がれている。
今なら…本当の彼に触れられると思った。
本心の彼に触れ、砕け散った仮面の破片が、深く彼の心を抉った。
傷付いたルージュをきつく抱き締めて、離さないと誓った。
彼にその言葉は届かなくても。


翌日から、ルージュの態度が変わった。
それは、二人きりの時間に起きる。
「ノーツ…」
舌足らずな子供みたいな声で名前を呼ぶ。
ルージュは私の制服の裾をぎゅっと握り、俯いている。
「どうしたんだい?」
「……判らない…でも、何だか不安で……
怖いんだ…。
頭のなかがグチャグチャで、気持ち悪くて、吐きそうで…」
私は本に栞を挿んで両手を広げた。
「……ぁ、俺…」
指先がかたかたと震える。
どうしたらいいか判らないのだろう。
それでも、ぎゅっと幼子のようにしがみつく彼は、いっそう小さく見えた。
「これで、怖くないだろう?」
ルージュが頷くと、光彩によって色を変える翡翠の瞳が不安に揺らぐ。
「でも、離れるのが、辛い。」
消え入りそうな小さな声。
「君と私はよく似ている。
私達は他人に求められるままに自分を演じてきた。
けれど、今君は小さな綻びが大きな亀裂に代わり今まで築き上げたものが瓦解するのが怖いんだろう?違うかな。」
「たぶん、そう…だと思う…。
俺はいつも何も、俺自身で決めたことなんてひとつもない。
いつも答えを求められたら模範的な答えを出していた。
この場で、ロゼットが出す答えとして。」
「決断することが怖い?」
「判らない、判らないんだ。
何もかも判らない、今までと違う生き方何て…出来ない。
どうしていいか判らない、一人では生きていけない…。」
混乱してしまったルージュの背中をさすり、こんなときはどうすればいいのか、ぼんやりと考えた。
他人に求められるままに生きてきたのは同じ。
だからこそ、私には彼が私自身に何を求めているか理解できない。
そして、そんな彼だからこそ興味を持ったのは嘘ではない。
ルージュのそばに居ると新しく気付かされる事ばかりで楽しかった。
「一人ではないだろう?
君にはご家族も、友人も居る。」
「でも、誰も俺を知らない。」
ルージュの瞳がどんどん光を失っていく。
私は、覚悟を決めてずっと言えなかった言葉を口にした。
言葉にしてしまえば、ルージュの一生を拘束してしまうかもしれない。
それでも言わずに居られなかった。
彼をひとりぼっちにする方が、余程残酷だと今の彼を見れば誰でも思うはずだろう。
「私は、君の全てを受け入れるよ。」
「……え?」
驚いたルージュは言葉を失っていた。

「君が好きだ。」

それは家族から与えられる無償の愛でも、友愛や恋人同士の甘いそれとも違う。
憐れみや偽善、自己満足や同じ脛に傷でもない、お互いに一人では生きていけない者同士の、そんな不確かで曖昧な愛の種。
でも、それを育んでいけばいずれ愛と呼べるものになると信じて。
ルージュは泣きそうな表情で、背中に回す腕に力を込めた。

「うん、俺も…好き…すごく好きだ…。」
震える身体をきつく抱き締める。
「あったかい…。」
ルージュはようやく小さな笑みを浮かべた。
それは今まで見せていた張り付けた笑みではなく、本心からのそれだと理解したとき、彼の壊れた心を救えるのは自分だけなのだと感じた。
逆に、私も彼に救われたのだと。


人という生き物はとかく憐れである。
一人で生きられない人間は集団の中に居ると安心する。
自分と同じものが周りと同じであることが好ましいと考える。
だから、自分達と違うものを排除したがる。
では、排除された人達は何処にいけばいいのだろう。
他人とは違う私達はどうやって生きていけばいいのだろう。
そんな考えがほんの一瞬だけ過ったが、ルールの安心しきった表情を見て、そんな考えはすぐに消え去ってしまった。
光を失った瞳に、ほんの僅かだが光が戻ったようだ。
「俺は…死ぬまで誰にも理解されずに孤独に死んでいくのだと思っていた。」
彼の言う孤独とは、精神的な意味だろう。
親しい人達に囲まれていても、本音をさらけ出せないのならそれはただの有象無象でしかない。
無論全て、というわけにはいかないが。
とりわけ彼の場合は素の自分を出せるか否かという事だろう。
そして、彼にとって素の自分をさらけ出せる存在というのは、心の拠り所になるだろう。
「君を孤独にはさせないよ。」
ぎゅっと抱き締めて、頭を撫でれば心地良さそうに目を閉じる。
甘えてくる飼い猫を愛でる気分で、閉じられた瞼にキスを落とした。

「大丈夫、私達は独りじゃない。
二人で乗り越えていこう。
皆なら、必ず受け入れてくれるさ。」
「そうだよね…独りじゃないなら、頑張れそうな気がする。」
誰か一人でいい、受け入れてくれる存在が一人でも居れば、それを糸口に暗闇から光を手繰り寄せられるかもしれない。
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