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二人で創作・版権小説を書き綴ってます。
お前にあげたいものは、たくさんあるのだけれど…
もし、ひとつだけ。お前に差し出せるとするならば…
僕は、これをお前に差し出すよ。
夕暮れの王都。
騎兵隊の執務室から城下街を眺めていたレイアは、珍しく憂鬱だった。
自分の全てに絶対的自信を持っているレイアが、こういった気分に浸るのは珍しく、隊員たちもあまり近寄ってこない。
窓にもたれかかって、ため息を吐きながら陽が沈んでいく町並みをただ眺めている。
特に、意味などなかった。
ただ、感傷に浸りたい気分な時もある。
普段の彼を知る人物なら、誰でも驚くはずだ。
傍若無人で傲慢。その癖人々を魅了して止まないこの英雄は、所詮他人から見れば英雄様でしかないのだ。
「もう、いいかな。」
今日の分の仕事は優秀な部下に押し付け…もとい、任せてある。
レイアは窓から離れて、そのまま隊舎を後にした。
今の彼の心を埋める、たった一つの元に。
「ただいま、シュリ。」
自室に戻ると、ぐったりとした銀髪の少年がこちらを恨めしそうに睨んでいた。
この少年は以前に訪れた侍の里から拐ってきた忌み子だ。
里一番の娘を用意すると言われたが、レイアはそれを断り強引に連れ帰ったこの少年がとてもお気に入りだった。
「今日も仕事が手につかなかったよ。」
「……」
「お前のせいだよ、どうしてくれるの。」
「…知らない、俺のせいじゃない。」
無知ゆえか、世間知らずなのか…
隔離された世界で育ったシュリには、レイアが何者であるか知る由もなかった。
だから、レイアの興味を引いた。
自分を英雄として扱わない、シュリの態度や、美しい容姿、どこか暗い影を背負った儚気な所も、全て。
「僕をこんなに夢中にさせたのは、お前が初めてだ。」
レイアは、ゆっくりとシュリの頬に触れた。
「愛しい、愛してる、そんな言葉じゃ足りないくらいお前が欲しい。」
「意味がわからない。」
「今はまだ、わからなくてもいいよ。
ただ、その意味を理解できる頃になったら、お前はもう僕から逃げられないよ。絶対に。」
シュリは不思議そうに首をかしげた。
「わからない、俺はもうあんたのものだろ?」
シュリの言葉に、今度はレイアがきょとんとした。
「ははっ、ほんと面白いなお前は。」
レイアは可笑しそうに笑って、シュリをぎゅっと抱きしめた。
「シュリ、君にひとつチャンスを上げよう。」
レイアは突然真面目にシュリをまっすぐ見つめて言った。
「なんだよ…」
「いいかい、僕は凄く嫉妬深い。
そして、周りが思っているような高潔な勇者様なんかじゃないんだ。
お前の大切な人でも、僕は僕の目的の邪魔になるなら容赦なく排除する。」
真剣なレイアの言葉のひとつひとつを、シュリもおとなしく聞いている。
「お前が、どれほど止めてくれと懇願しても、嫌だといって逃げ出しても、僕はそれを許さない。
それでも、お前は僕についてくるかい?」
一瞬だけ、シュリが驚いた顔でレイアを見上げた。
「…お前が、何を言いたいのか…俺にはよく判らない。
だけど、俺は…お前以上に大切なものなんてこの世にただ一つとしてない。」
それを聞いたレイアは、驚いて、それからやんわりと微笑んだ。
「ばかだね、お前は。せっかく僕が逃げる最後のチャンスを与えてやったのにふいにするなんて。」
もう一度、シュリの体をぎゅっときつく抱きしめる。
シュリの甘い匂いがレイアを満たしてく。
もう、後にはもどれない。
「もう、2度と離さないよ。
お前の全ては永遠に僕だけのものだ、勝手に傷つくことも死ぬことも許さない。絶対にだ。」
「ああ、俺の全てはお前のものだ…
だから、俺にもお前の全てをくれ、ずっと側に…離れないように…」
ぎゅっと、シュリの腕が背中に回される。
暖かい気持ちにで満たされる。
欠けていた何かが、ぴったりとハマったみたいに、二人の心が幸せで満ち溢れた。
「それは、最高の殺し文句だね。
いいよ、シュリにあげるよ…僕の全て。僕の心を。」
シュリは、嬉しそうに笑って、ぎゅっとレイアに抱きついた。
愛しくて、愛しくてたまらなくて
自分自身がおかしくなってしまいそう。
僕の想いはかけらになって、シュリの心に染み込んでいく。
じわじわと、ゆっくりと…本人も気づかないほどに。
それが、僕の仕掛けた最初の罠。
お前に僕が差し出すものは、恋という名の甘い罠。