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いいや


首を絞めて、嬉しそうに笑う鶴丸の顔が憎らしいと思った。
白い首に残る内出血した締め跡。
力の入らない手が自分の手に添えられる。
どんな鶴丸も愛すると決めた。
ずっと側に居ると。
でも、鶴丸は私を見ていない。
強く意思を秘めた瞳がどんどん濁って光を失っていく。
鶴丸は最近危険な仕事ばかり引き受けるようになった。
困っている人を放っておけない性分は変わっておらず依頼を断る事はしない。
もともと1人でやってる探偵業。
たまに鶯先輩に簡単な依頼を任せたまま1人で何日も帰らないと思えば傷だらけで帰ってきて死んだように眠る。
あの日もそうだった。
まさか、自分が追っていた事件に怜悧君たちが関わってると聞かされて、事務所を飛び出して行った。
そして朝方国兄さんに付き添われて帰ってきた。
泣きじゃくって、国兄さんにしがみついて、国兄さんが優しくそれをあやして。
それからだった、国兄さんが疎遠になったのは。
鶴丸の電話に出なくなり、怜悧君もあからさまに鶴丸を避けるようになった。
「いち、俺…とうとう嫌われたみたいだ」
自嘲気味に笑いながら涙を流した鶴丸の瞳は、もう光を宿してはいなかった。
それでも、家族のために働いて、娘の前ではいつもの鶴丸を保っていた。
「明日、シヴァと買い物に行くんじゃなかったんですか…
可愛いワンピースを、買ってやるって、言ってたじゃないですか…」
腕の中でぐったりした鶴丸を抱き締める。
「……貴方は、そこで反省してください。」
意識の戻らない鶴丸を倉庫に閉じ込める。
こうする以外何も出来ない。
可愛そうだが、このままにしていたらまた国兄さんを攫って閉じ込めてしまうかもしれない。
「貴方は、国兄さんと一緒になりたかったんではないですか…?
私が貴方を愛したから、それが叶わなかったんですか…」
扉を閉める前に、鶴丸の瞳がぼんやり開いて、手を伸ばす。
「ごめん。」
音は無かった、口の動きで、表情で読み取ったそれに気が付かないふりで扉を締めた。


監禁一日目
シヴァが扉にぴったり体をくっつけてしきりに何かを話している。
「シヴァ?何してるんです?」
「ごほん、よんだしてた。
ムッティ、くらいくらいのなか、一人寂しい」
そういうシヴァの表情は悲しそうだ。
大好きな母が壊れていく姿を目の当たりにしたのだから無理もない。
「ファーティ、けが、平気?」
「ええ、当たりどころは悪かったですが威力はありませんでしたから」
「ん、ムッティ、ファーティ居ないと苦しい、息できない。」
「………私は酸素ボンベではありませんよ」
扉に声を掛ければ弱々しく「……いち…」と微かに声がした。
「シヴァ、ご飯食べに行きましょう」
「いや、シヴァ、ムッティと居たい」
黙って首を振ってシヴァをその場から立たせる。
「ごめんなさいシヴァ…貴方には辛い思いばかりさせて…」
シヴァを抱き締めて頭を撫でる。
大切な娘に、寂しい、悲しい思いをさせても、鶴丸は国兄さんを欲してる。
2人で外食した帰りに可愛らしいフリルが沢山ついたワンピースをシヴァに買ってあげた。
「鶴丸が貴方に似合うと言ってたんですよ。
元気になったら、これを着てあげてください。きっと喜びますから」
「ムッティ、元気なる?」
「愛娘の可愛い姿を見れば、元気でますよ」
よしよしと頭を撫でればふにゃりと笑う。
「シヴァ、ムッティ元気する!」
懸命に明るく振る舞うシヴァが居たから、私はまだ側に居ようと思った。

監禁二日目
ルイくんが訪ねてきた。
「あの……鶴兄は大丈夫ですか」
心配そうなルイくんに、シヴァがお姉さん風吹かせたいのかしきりに安心するようにと手を握る。
「この前家族旅行に行った時のお土産。
お母さん、あんな感じだし…今日は僕を忘れちゃったんだ。
だからお父さんが鶴兄の所に行っておいでって。
お父さんも今は目が見えなくなってて……」
心因性の視覚障害だそうだ。
目の前で発狂したルイくんが自殺しようとしたのを見てしまってから。
完全に見えない訳では無いらしいが眼鏡をかけてもぼんやりとしか見えないらしい。
「お姉ちゃんにはこれだよ」
可愛らしいパンダの縫いぐるみが2つ。
ココとシヴァにらしい。
「可愛い!ありがと!ルイくん」
シヴァが嬉しそうにぎゅっとルイくんを抱きしめる。
「僕もお父さんとお母さんとお揃いでストラップ買ったんだ!」
嬉しそうにスマホを見せると、二つのパンダが下がっていた。
「パンダさん、ふたり?仲良し!」
「うん、僕と……僕の大切な友達の分」
寂しそうにスマホを握るルイくんを見て、また悲しい別れがあったんだと理解した。
「いち兄…鶴兄は大丈夫だよね?居なくなったりしないよね?」
「ええ、勿論です。
鶴丸は今少し心が疲れてるんです。
休めば元に戻りますから」
「……なら良かった。
もう嫌なんだ、僕、誰かがいなくなって会えなくなるの」
ルイくんをうちで引き取らなくて良かったと初めて思った。
きっとこの子はあのまま鶴丸と居たら毒されてた。
「ルイくんは、今のご両親は好きですか…?」
「うん、好きだよ。
鶴兄が、俺の子になれって言ってくれた時は嬉しかったし、最初はお母さんに歓迎されてないんじゃないかなって思った時もあるけど、今は2人とも本当の両親だと思ってる。」
「貴方には、うちの鶴丸のせいで嫌な思いもさせてしまいました…
国兄さんにも、黒葉先輩も…」
「お父さんもお母さんも気にしてないよ。
お父さんが、鶴兄は今が一番苦しい時だから周りが理解して手を差し伸べないと駄目なんだって言ってた。」
「ムッティ……怖い。
ファーティ、クィン、みんな居なくなる、怖い。
だからムッティ、ウソつく
自分にウソつく。
自分が痛い我慢する、他人の痛い我慢出来ないって、痛くないってウソつく」
「ルイくんも、シヴァも、ありがとう。」
小さな子供にまで心配させてしまった。


監禁三日目。
椿先輩がきた。
怜悧君のことかと思った。
「まぁ、それもあるけどどうしてるかと思って。
あの日様子がおかしかったの知ってて放置しちまったからな。
あの時は俺もちかを止めるので精一杯でアイツまで見てる余裕がなかった」
「すいません…方々にご迷惑を…」
「お前の手に負えないなら繋いでおけ」
「……今は、閉じ込めてますよ。
生きてるとは、思いますけど」
お茶を出して自分も口をつけると椿先輩がため息をついた。
「あいつ、吉光にこんな顔させやがって」
「わたし、酷い顔してます?」
「ああ、死相が出てる。お前このままだと死ぬぞ?」
「はは、それは…困りました…」
椿先輩は綺麗な顔を歪ませて立ち上がると、倉庫の扉を軽く蹴った。
「鶴!お前吉光にこんな顔させてよく平気だな!それで怜悧を、くにを守るだと!?ふざけんな!だからお前は誰も守れない!根源が守護だと?聞いて呆れるな」
「椿先輩…」
「吉光も吉光だ。お前がこのバカを御し切れないならいっそ切り捨てろ。
お前の心は、こいつは守ってくれないぞ」
椿先輩の言ってることは理解できた。
鶴丸が私の事を本当に思ってるなら、待つしかできない、貴方の後ろ姿を追いかけるばかりの私を置いて行くはずが無い。
鶴丸が耐えられないことを私は側で耐えてきた。
この人には私が必要だから。
でもそれも……
「いいんです、酸素ボンベは必要でしょう」
「お前は鶴の何だ?便利な道具か?違うだろ。」
よしよしと頭を撫でられる。
お前がこいつの分まで気負ってやるな、付け上がるだけだぞと言われても、そうしないと私はそばにいることが出来ない。
私はただ惨めで、手を伸ばしても抱きしめても叫んでも、どんどん闇に染まる鶴丸を引き止める事は出来ない。
「道具でも何でもいいんです、必要としてくれるなら。そばに居ることが許されるなら」
椿先輩は哀れだなと一言残して去っていった。
哀れなのは私?それとも……


監禁四日目
扉を開けても相変わらず鶴丸はグッタリしたままピクリとも動かない。
食事も手付かずのまま残ってる。
ペットボトルの水も開封した形跡はあるもののさほど減ってない。
「反省しました?」
「………」
「私の声は、いつになれば、貴方に届きますか?」
ギュッと抱き締めても濁った目は何も映さない。
人形みたいにされるがままで、かろうじて感じる体温と息遣いだけが生きてると判るくらいだ。
「私は貴方の何ですか…
貴方は本当は…国兄さんの番になりたかったのでは無いですか?」
ピクリと指先が微かに動く。
ただそれ以上の反応は無い。
「頑張っても、私は国兄さんを超えられないのですか…」
「………」
「答えてください」
「………」
涙が溢れつてきて目の前を歪めていく。
光を無くした濁った望月の瞳。
ここ最近ずっと、心の底から私に笑いかけることはなくなった。
今迄ズルズル続けてきた関係だったけれど、もう終わらせよう。
「……別れますか?」
「………」
「頑張っても頑張っても…
貴方はいつも国兄さんにばかり
そんなにあの人がいいならどうぞ国兄さんの所に行ってください」
「………ぃ、………」
「……え?」
「……ぃち………いらない……おれ」
「要らないのは、貴方の方でしょう」
「………そう、か……」
小さな声で何度か会話して鶴丸はグッタリ意識を落とした。


監禁五日目
首を絞めても反応しない。
生きてはいるようだ。


監禁六日目
ペットボトルの水を飲ませてみた。
反応なし、全て零した。
もう限界だ


監禁七日目
鶯先輩に相談した。
鶴丸の様子に驚いていた。
そのまま病院に運ばれ、点滴を受ける。
栄養失調で、監禁するだいぶ前から食事を吐き戻していた可能性があるそうで暫く入院したあと黒月さんの自宅で療養する事になった。

家主のいなくなった家はがらんとしていて、鶴丸が居た証が無くなっていくみたいだった。
シヴァが見るからに落ち込んでいるのを慰める気力が無い。
広いベットに一人で寝転がる。
隣に居た笑顔を、今はもう見ることが出来ない。
「……もうどうだっていい」
私は静かに目を閉じた。


終わりは前向きに検討できましたか?

魔性の媚薬



「ぁ…んっ、ちゅ、いち……んんっ」
朝目覚めて一期吉光はため息をついた。
愛して止まない愛しい恋人が脚の間に収まり懸命に性器に夢中になってしゃぶりつ居ていたのだ。
普段なら喜ぶところだがもう一週間、毎日こうだった。
「いち、いち……ねぇ抱いて…いち…抱いてくれ…おかしく、なるから…
めちゃくちゃに…して?」
パジャマのボタンを外して、鶴丸は一期の上にまたがってくる。
「おれ、ちゃんと頑張ったよ?
ねぇ…俺、色々間違ったけど、ちゃんと怜悧も椿も膝丸も国兄も守った…だから…ね?いち…頼む、良いだろ…?」
頬を紅潮させ、潤んだ瞳で縋る様に一後に抱きついてくる。
普段は意外とストイックな所があるのか、滅多に鶴丸から誘うことは無い。
その場の雰囲気や気分に流されることが多い。
「いち…おかしいんだ、俺…
吐きそうで、気持ち悪い…けど身体が熱くて頭がグチャグチャで…苦しい…
助けて…たすけて、いち…」
縋りつく声とは裏腹に鶴丸は一期の性器に手を添わせた。
「ちょ、わかり…ました、から…離れてっ」
鶴丸を自分の上から退かせて抱き締める。
そっと背中に手を回されて、くたりともたれ掛かってくる。
「貴方は、頑張りました。」
「でも俺、肝心な所で役に立たなかった、怜悧に無理をさせたし国兄にも…
膝丸にも、何も言葉をかけてやれなかった…」
「いいえ、貴方はよくやりました。
怜悧くんももう大人です、自分が後悔しない生き方を選んだんでしょう。
あの子は強い子です、椿先輩の息子ですから」
「いち……寂しかった…
いちが側に居ないと俺、自分がおかしくなってく…歯止めが効かなくなる。
結果的に自滅したけど、俺あの時響を殺そうとしてた。
あいつが明石を弄ぶ度に怜悧が、膝丸が苦しむから…」
「…もう、終わった事です。
そうならなくて良かったですね」
一期は不安定な鶴丸をベットに寝かせてキスを落とした。
「んっ、んんぅ…はぁ、んちゅ…」
「鶴、いい子ですね、沢山頑張りましたね。もう我慢しなくていいんですよ?」
涙がこぼれそうな瞼にキスを落す。
「ん、いち…」
瞳をとろんとさせた鶴丸が一期を見上げる。
獲物を前にする肉食獣みたいに、舌なめずりする、普段温厚で誠実な一期の雄の顔。
鶴丸しか知らない顔。
「いち、愛してる」
ふにゃりと緩い笑を浮かべる鶴丸の唇を塞いで、その間に胸元を開き手を滑らせる。
「んっ、ふ…ひぁっ…!」
「鶴はここ弄られるの好きですね?」
胸を摘まれ、ぎゅっと握られると鶴丸の身体が大袈裟な程にビクッと震えた。
「あ、ああっ…うん、すき…ふぅ、ん……」
ぎゅっとシーツを握る鶴丸が白い喉を晒しながら背後に反り返る。
一期は反対側を口に含み、強く吸い上げたり、甘噛みして、両方の乳首を同時に攻める。
「ぅんっ!…ふぁっ、んっんぅっ、んんーっ!」
指を噛みながら甘い快感に身体を任せ脳を蕩けさせる。
「あぅ、や、やだぁいち、した、したも……俺もう、でちゃ…」
「ここだけでイけそうですが?」
「やだぁ、いわな…で……おれっ、そんな淫乱じゃないもんっ…」
「そうですか?でもここは嬉しそうですよ?」
そっと蜜をこぼす性器に触れれば、鶴丸はビクッと身体を震わせ、脚を閉じようとする。
「こら、脚を閉じたら気持ちよくできませんよ?」
「ひぃう、やだ、はずかし……ひぃあああっ!?」
何を今更と零しながら一期は硬く反り返って蜜をこぼす性器を口に含む。
先端部分を口に含んで筋に沿って舌を這わすたびに鶴丸は甘い悲鳴を上げてギュッとシーツを掴む。
先端を吸うと、蜜が溢れ出てきて口の中に広がった。
「ふぅっ、んんっ、んああっひゃぅっ」
奥までくわえ込んで、割れ目の部分を舌でぐりぐりと刺激してやれば鶴丸は一期の頭を力の入らない手で押し返した。
「いやぁっ、いち、でちゃう、も…あぁんっ、ふぁ…も、イッちゃう、イッ…ふ、ああああアッ!!?」
鶴丸がビクビクと体を震わせるのと同時に口内にドロりとした精が放たれた。
「んっ…一杯出ましたな?」
それを戸惑いも無く飲み下して、口元を拭うと、鶴丸の頬を撫でる。
「毎日抱いてるのに、鶴丸はいつからそんなに淫乱になってしまったんです?」
「や、ちがっ……おれ、も…わかんなっ……でも、いちが欲しい、いちに奥まで一杯掻き回して欲しくて堪らないんだ……ごめ、いち…おれ、やだ?こんな、淫乱な俺、いちはきらい?」
不安定な鶴丸はボロボロ涙をこぼしてぎゅっとシーツを抱きしめた。
「いいえ、私はどんな貴方も愛してます。
貴方はどんなに狂気にも立ち向かってきた。
私は貴方の番としてそれを誇りに思う。」
頬にキスを落とせば、鶴丸が一期にしがみついて涙を零す。
鶴丸の心はあの日の雪山で大きく歪んで、もう二度と元には戻らない。
それだけ、鶴丸にとってあの日の出来事は受け止め切れない事実だった。
それを、理性で振り払い、平気な振りをしていて、それに一期は気が付いていたはずなのにどうしていいか分からなかった。
「私には貴方だけです。
シヴァも可愛い大切な娘ですが、あなたが居ないなら私は抜け殻です。
貴方に想いを告げた日に貴方に誓ったはずです、何があっても貴方をお慕いしてますと。」
「ん、いち…ありがと。
俺もいちが好き、愛してる。
いちが居ないなら死んだ方がマシだ。
俺はいちがいるから俺で居られる」
涙を流しながら、鶴丸が幼い笑顔を浮かべて一期の頬を両手で包む。
「幸せなんだ、いちが俺を愛してくれることが。
だから抱いて、いちの愛が足りない…足りてないんだ…全然、足りないんだよ…」
「解ってますからがっつかないで下さい、貴方が不安になる余裕なんてないほど愛してあげます」
一期はベットサイドの引き出しからゴムとローションを取り出す。
「いち、ゴムやだ……その、生でしてくれ」
赤く頬を染めながら一期の腕を掴む。
「可愛い事ばかりせんでください、歯止めが効かなくなる」
「……良いって、言ってるだろ。何度も言わせんな、ばかいち…」
「ああもう…後で文句言わんでくださいよ!」
手のひらに垂らし、鶴丸の秘部に指を押し込む。
「んっ、ひゃ…ああっ、ふ…」
「流石にこんなに毎日盛られては、ここも緩くなりますな?」
「っ、人を…節操なしみたいに言うな…ひゃう!あっ、ああんっそこやだぁ、ひゃぁっ!」
「慣らさなくても大丈夫ですな?
これだけ緩ければ」
「ひぃうっ!や、お前っ、後で覚えて…あああっん!」
指が唐突に引き抜かれ、秘部がモノ欲しげにひくひくと震える。
「いち…もぉ、がまん…むりぃ…」
鶴丸が蕩けた顔で縋る様に一期に手を伸ばし、反対の手で穴を広げる。
「い、れて……いちと、繋がりたい…」
「本当に貴方は、私をその気にさせるのが上手い」
一期は鶴丸の脚を抱え、ゆっくり挿入する。
肉壁を押し広げられ、スッポリ中に収まる感覚に鶴丸は打ち震えた。
ぎゅっとしがみついて、キスを強請りながら一期を離すまいと、キュッと内壁で締める。
「んんっ!んむ、ちゅ…ふぁ、いち、んんぅ、いち、いち!」
「はぁっ、つ、る…鶴、可愛い、鶴っ!」
「ああっ!足りない、いち、もっと!ひぃああっ!もっといっぱい!んっ、ふぁ…ちゅっ」
グチュグチュと音を響かせて抽出される、内側の腹の奥まで抉られる感覚。
鶴丸は快楽で麻痺した思考で一期にしがみついた。
「あぁッ、やっイくっ、やだっ、いっちゃうっあんッあんっあぁーっ!」
ビクビクと身体を震わせて果てた鶴丸は恥ずかしそうに顔を逸らした。
一期はふふっと笑って頬にキスした。
そして再び鶴丸を激しく突き上げる。
「ふぁっ!?や、まって!今はひぁぁ!ら、めぇ…んんっ、感じやすく、な…て、うああっ、あッあああっ!!」
抵抗する鶴丸の腰をしっかり掴んでうち付ければ、暖かな秘部がキュッと締まる。
「ここ、気持ちいいでしょう?
好きですよね、ここいっぱい擦られるの」
「いやぁぁぁっ!ひぐっ、らめ…あたま、おかしくなっ……ひぃぃぃん!?
ダメダメやだっ、そこばっか、おれ、おかしくなる!」
「いいですよ、おかしくなって。
わたしも、もう……っ、イクッ…」
「だして、俺の中に、いちのいっぱい!」
ぎゅっと鶴丸が一期の腰に足を絡める。
一期は鶴丸に舌を絡めながら濃厚なキスを交わしながら鶴丸の中に精を注ぎ込んだ。
「んっん…ぅ、ふふ、いちのいっぱい…俺の中に…」
鶴丸は恍惚とした顔で下腹を擦る。
「なぁ……まだ、足りないよ」
鶴丸が甘える様に手を伸ばす。
「私以外にそんな事せんでくださいよ?」
「俺を抱きたいなんて物好きは君だけだ」
鶴丸は微笑んで一期に手を伸ばす。
一期も優しく笑って鶴丸を抱き締め、再び覆い被さった。
秘部から激しく性器が抜き差しされる。
根本まで突き刺さっては引き抜かれ、鶴丸は身体を痙攣させながら何度もイった。
鶴丸が望んだように腹を奥までえぐられて、嬉しそうに笑った。
一期はますます腰の動きを速めて、自身の精液で満たされた鶴丸の胎内に膨張した性器を突き刺しては抜き、突き刺しては抜きを繰り返す。
「はひっ!!!あああんっ
あうっああああっああんっ!?
らめぇええッ、も、おにゃかがぁあっひぃいっ、ひゃ、らめっ、らめぇええっ!!!」
グチュグチュと皮膚がぶつかり合う卑猥な粘着音が、精液の臭いと鶴丸の芳香でどろりと潰爛した空気に迸る。
「は…はひぃ」
鶴丸はビクビクと身体を痙攣させながらイった。
一期は未だに硬く反り返った性器で鶴丸のトロトロに蕩けた秘部を堪能していた。
「いち……まだぁ…」
鶴丸は妖艶に一期を見上げて笑った。




「んっ、んんっ…ひぃう、あああああっ!!」
何度目かもわからない絶頂に、鶴丸は身体を震わせた。
横たわる一期の上でみっともなく腰を振って、精を撒き散らす。
「は、ぁ……はぁ、はぁ……」
グッタリとした身体を一期に預ける。
秘部から一期が抜けた瞬間に中から出された精液がこぽりと零れ落ちた。
「あ…いち……」
「満足しましたか?」
「……ん」
一期は綺麗にあと処理して鶴丸をベットに寝かせる。
「ご飯の用意してきます、まだ寝ててください。」
「うん……」
鶴丸の頭を撫でれば心地よさそうに目を細める。
「いち、ありがとな。
こんな俺を愛してくれて」
「今更ですよ、あなたがどんなに嫌がっても離しませんから」
「俺が見るに耐えないバケモノになってしまっても?」
「……ええ、それが五条鶴丸である限り」
「俺も一期を愛してる、どんな姿になっても…」
鶴丸は幸せを噛み締めながら微笑んだ。




「目の毒だ…」
一期はキッチンで鶴丸の好物のオム焼きそばを作りながらため息をついた。
今の鶴丸はまるで媚薬だ。
表情も、息遣いも仕草も全て一期を誘惑し惑わす媚薬。
こんな抱き方はしたくなかった、本来であれば。
それでも、自分だけが鶴丸を理解して甘やかしてやれる。
国兄さんとは違う観点で鶴丸を支えて癒すことが出来る。
一期はそう言い聞かせて、ふんわりしたオムレツを焼きそばに載せる。
嬉しそうに笑って食べる鶴丸の姿を思い浮かべながら。


墨染の桜


「ああ、イイ!だす、出すぞ黒葉!
しっかりと受け止めてくれ!!」
「……っ、は…ちゅ…んむ、んんっ」
顔を離そうと思ったのに頭をぐっと抑えられて喉奥にどろりとしたものを感じ、気持ち悪くてつき飛ばせばベットリと髪や顔に精液が飛び散る。
「はは、スゲー…AVみてー。
あの黒葉が俺のを咥えて精液濡れになるなんてな。」
相手は同じ高校のクラスメイト。
俗に言う不良だ。
その頃俺は生活費を稼ぐ為に金と性欲を持て余す男達に身体を売っていた。
俺の顔は奴らに大層都合のいい顔をしているらしく相手にも金にも困ったことは無い。
脚を開いて揺さぶられているだけ。
それ自体は嫌じゃない。
たまに妙な性癖の奴に捕まって妙な事をせがまれるが、金になるならやるしならないならやらない。
ただ厄介なのは…
「ホラ、もっと腰振れよ!
パパ達にもそうやって腰振って金をねだってるんだよな?」
「んっ…ふあ、ん……へた、くそが…」
「あぁ?エンコーしてる癖に!
男なら誰でもいいんだろ!?」
「っ…ぅ…ひぅっ…あうっ…いた、痛いッ!!」
こうして、秘密を握って脅迫してくる男達。
好き勝手にして金にもならない。
解放される頃にはクタクタだった。
「……はぁ…」
帰り支度をして、鞄を肩から下げる。
気だるい毎日、つまらない毎日。
そんな中でも命は回る。
尽きること無く。
家に帰り、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してベットに寝転がる。
全く生きてる気がしない…
俺は今、本当に生きてるのだろうか。


「なぁ小烏、いいだろ?ヤらせろよ 」
校舎裏の人気の無い場所に呼び出され、壁に押し付けられる、いわゆる壁ドンをされている状態。
飴を舐めながらどうしようかと考えていると、近くからなにか言い争う声がした。
「しつこい!気分が乗らないって言ってるだろ!」
「そんな事言わずにさぁ、良いだろ椿。」
「離せ、今はそんな気分じゃない!」
声からして男が2人こちらへ来るようだ。
「そう連れなくするなって、俺たち体の相性はいいだろ?」
「知らん、お前がそう思ってるだけだろ!これ以上付きまとうなら…」
すると、こちらに白いフードの男は同じクラスの椿国永だった。
「椿国永?」
「あ?お前誰だ?俺を知ってんのか?」
「同じクラスの小烏黒葉だ。」
「へぇ、同じクラスの子?
そっちも取り込み中みたいだしさ、俺達も…」
「俺に触るな!」
椿は手を振り払い、男を殴り飛ばした。
「ってぇ、お前調子に乗るなよ!?」
相手は逆上して襲いかかってきた。
それを椿は殴り返す。
椿が相手をボコボコにするのをただ眺めていた。
俺を抱こうとしていた相手も椿に恐れをなしたのかいなくなった。
「それで、何で君は絡まれてたんだい?」
「エンコー見つかって、黙ってる代わりに抱かせろと迫られておった。」
「へぇ?それ、俺に言って良かったのかい?」
「お前は言い触らしたりせぬ様に見えたが?」
「まぁ少なくとも抱かせろとは言わないぜ、生憎俺は誰にも勃たないんでな。」
あっけらかんといいのける椿に、思わずおかしくなって笑がこぼれた。
「おかしな奴だな、お前は。」
「君こそ、大概だな」
その日から、この男との奇妙な関係が始まった。


「黒葉、宿題写させてくれ」
「また夜遅くまで出歩いてたのか?」
「んー…まぁそんなとこだ。」
「自力で解けぬ問題ではあるまい?」
「そうなんだけど、昨日はなんか疲れてさ…
家に帰ってすぐ寝ちゃって」
宿題のノートをため息混じりに出せば代わりにプリン味のチュッパチャプスを口の中に突っ込まれた。
「むぐ!?」
「お礼だ、君これ好きだろう?」
俺の秘密を知ってなお、態度の変わらない国永の隣にいるのは心地よかった。
今まで何度かバレたことはあった。
大体が黙っている代わりに抱かせろという風に迫られるのに、国永は俺の知るそれまでとは何にも当てはまらなかった。
「小烏、先輩が呼んでるよ」
クラスの誰かが声を掛けてきて、戸口を見遣ればニヤニヤしながらこちらを見る男が数人。
「……はぁ。」
今日は複数かと思い、あまりにも嫌な顔をしていたのだろうか。
国永が不意に手を掴んだ。
「国永?」
「嫌なら行かなければいい」
「それがまかり通るならしている。」
国永は気だるげに立ち上がってそのまま俺の腕を引っ張り。そいつらに近寄った。
「お前ら黒葉に何か用?」
「まぁな、俺達はこいつに用があるんだ、お前はすっこんでろ。
それとも、お前も分けて欲しいのか?」
「人を勝手に切り売りするな」
「おい、こいつやばいぞ、椿国永だ!
一人で上級生10人ボコったって」
「くそ!小烏の奴、身体でこいつを雇ったのか」
「お前の小綺麗なお顔はそれ位しかつかいみちがないからな」
「生憎俺と黒葉はそんな汚い関係じゃない、用がないなら消えろ。これ以上黒葉に手を出すなら容赦しないぜ?」
「チクショウ、覚えてろ!」
「おー、まるで3流の捨て台詞だな」
国永はカラカラと笑いながら俺の頭を撫でた。
「これでいいだろ?」
「…お前というやつは…ああ、助かった」
それから俺に迫る輩は国永が追い払うようになった。
俺は暴れる国永のストッパーとして国永と行動を共にすることが多くなった。
その頃に緋翠とも知り合い、国永の家庭事情を色々知る事になった。
母だと思っていたのは全くの赤の他人で、その女は自分好みの男にしようと幼い国永に強制していたこと、ある日突然閉じ込められて死にかけたこと、中学に上がってから陰湿ないじめにあってたこと、それが強姦に変わった事。
それ以来はやられたらやり返していたことも全部吐かせた。
そして一言、そうかと告げて隣に座った。
国永は少し驚いた様に俺を見上げてきた。
「君は、俺のこと軽蔑しないのか」
「ならお前は金の為に知らぬ男に抱かれる俺を軽蔑したか?
お前の知らぬ男もまだまだいるぞ?
行きずりの男でも金になるなら簡単に抱かれる。」
「別に…どうも思わないな。」
「なら俺も何も思わぬな。
お前が何者でも、俺の友はお前だけだ。
俺も親に捨てられた身だ、俺は気味が悪いそうだ。
幼い頃俺は絵本代わりに父親の部屋にあったドイツ語の医学書を読み漁っていた。
気が付いたらそこそこのドイツ語も理解出来た。
それが親から見れば気味悪かったんだろう、すぐに施設に入れられ、両親は新たに子をこさえたと聞いた。
施設に来た時も捨てられたとは思わなかった、ただ受け入れられなかっただけだとな。
だから施設でも上手くやれるはずも無く高校に上がった時に施設を出て遠く離れたここに来た。
生活費も学費も、生きる為には何かと金がかかる故な、折角小綺麗に産まれてきたならそれを最大限に使おうと思った。」
「…そうか…。
なら、飯くらい作りに行ってやるよ。
どうせろくなもの食べてないんだろ?」
「俺を誰だと思ってる?
そんなの金と性欲を持て余すパパ共に奢らせてる。」
「はは、さすが黒葉様だな。
でも君といるのは心地いい」
「そうだな、俺も国永と居るのは楽でいい。何も考えなくていいから」
「そうだな、俺も君といる時間は悪くないと思ってる」
国永はふにゃりと笑った。
それからは国永と一緒に行動することが多くなった。



国永と一緒に行動するようになり、上辺だけの付き合いの友人もできるようになり、俺達の周りは賑やかになった。
「黒葉、何してるんだ?」
「チョコで城が出来ぬかと思ってな…」
バレンタインに大量に押し付けられたチョコを開封して組み立てていたら国永が呆れたようにため息をついて向かいに座った。
「じゃあこれも使え」
国永は可愛くラッピングされたチョコを大量に転がしてきた。
大分人付き合いを覚えた国永の人当たりがいい態度は男女問わず好意を寄せる者が後を絶たずしょっちゅう告白されては適当に付き合って別れるを繰り返していた。
奴らは国永の上辺しか見ていない。
根本にあるものがなにかも知らないで。
「黒葉に国永、なにやってんだ?」
「チョコで城をこさえろとの黒葉様からのご命令でな」
チョコをライターで溶かしながら形を変える国永をプリン味を舐めながら眺めていた。
「おまえら、なんて羨ましい!こんなに大量に貰っておいて!俺にもよこせ!」
「ん?欲しいなら好きなだけ持っていけ、その袋はすべてやる。」
指さしたのは手作りのチョコや菓子が入ったものだ。
「これ、全部手作りじゃないのか?」
友人が怪訝に首を傾げる。
「手作り等、何が入ってるかわからぬだろう?
俺は国永が作ったものしか食わぬ」
「お前は少し菓子以外を食え、週1で君の家に通う俺の身にもなってくれ」
「面倒くさい」
「お前等ってホント仲良いよな?付き合ってんの?」
「まさか、こんな手のかかるヤツこっちの方が願い下げだ」
「大体国永には彼女が居るだろ、3組の観月。」
「えっ!お前あのチア部の姫の観月さんと付き合ってたのか!?」
「いや、もう別れたぞ。
愛してるだのなんだのって俺の行動に制限してくるからな」
国永はチョコを組み立てながら、たまに指についたチョコを舐めとる。
「黒葉、言い出したのは君なんだから少しは手伝えよ」
「手が汚れるだろ」
「お前ホント何様だよ」
「紛うことなき黒葉様だな」
笑いながらプリン味の飴を舐める。
国永は不服そうだが、はいはいと言いながら見事な城を組み立てていってる。
他の友人達は手作りチョコを食べながら羨ましいだのと愚痴をこぼし始める。
「なかなかの力作だな」
いつの間にか組み立て終えたチョコ城が机一杯に広がってた。
「そうか、なら帰るか」
「そうだな。腹減った、何か食いに行こうぜ」
「ミスド行きたい」
鞄を肩から下げて立ち上がると友人達が声をかけてきた。
「え、これ食わないのか?」
「お前達で食って良いぞ、残りのチョコもやる」
「ああ、俺のもやるよ」
「くそ!お前達はモテていいよな!」
モテない男子の僻みを背に受けて教室から出る。
学校から一番近い駅前のミスドでドーナツを食べながら他愛のない話をして時間を潰す。
そのうちに急にスマホが鳴る。
「……もしもし」
『ああ、黒葉か。そろそろお前が恋しくなってな』
「そうか」
『今どこだ?迎えに行く』
「駅前のミスドだ」
『わかった、すぐに行く』
「ああ、待っておる」
電話をプツリときって残りのドーナツに手を掛ける。
「呼び出しか?」
「ああ、面倒だが仕方あるまい。」
「じゃあ俺も今日は帰るかなぁ。
翠の所にも寄らないと行けないしな」
ドーナツを食べ終えて店から出ると、一台の車が止まっている。
窓が空いて品の良さそうな中年の男が俺を呼ぶ。
「……それじゃあ、また明日」
国永にはそれだけ言って車に乗り込む。
「友達か?送っていこうか?」
「あいつは寄るところが有るからいい。
それより早く行こう」
そっと手を重ねれば男はそうだなと言って車を出す。
こいつが国永に目を付ける前にと自分に縛り付けておかないと行けないと思った。
「黒葉にあんな美人の友達が居るなんて知らなかった」
「アレに手を出す気か?
俺はもう飽きたのか、恋しいと言うてくれたのではなかったか…?」
そっと太ももに手を滑らせる。
「あんなお子様より…俺の方がパパを喜ばせられるぞ?」
「今日は随分積極的だな」
「暫く誰からも声が掛からんかったからな、俺も溜まってるだけだ」
「そうか、なら今夜はたっぷり可愛がってやるからな」
そう言って唇にキスをされて、男は上機嫌でホテルに向かう。
この類の男なんて、単純な生き物だ。
少し気がある素振りを見せればいい。
たまに嫉妬する素振りを見せれば、沢山の中で自分だけは特別だと勘違いする。
馬鹿な生き物。
でも一番馬鹿なのはこんな事してる自分自身だ。
背中に受けた柔らかいベットと見慣れない天井を眺めながらぼんやり考えていた。
これを楽しいと思ったことは無い。
気持ちいい時は気持ちいいし、痛い時は痛い、ただそれだけだった。
必死に腹の中に子種を注ぎ込んで満足気な顔をするのが不思議でたまらなかった。



「おはよー黒葉」
国永はへらっと笑いながら手を振る。
頬に絆創膏を貼りながら。
「珍しい、怪我したのか?」
「ああ、まさか刃物持ってると思わなくて油断した」
「俺が居ないとすぐ無茶をする…」
そう言って血の滲んだ絆創膏を剥がして、国永とつるむ様になってから常備するようになった消毒液と絆創膏を取り出して手当する。
「いい、自分で出来る」
「お前その場所は鏡がないと見えぬだろ、いいから大人しくしろ」
「いってぇ!染みる!染みるって!!」
ティッシュが赤く染まっていく。
「おー、国永無事か?黒葉様にカラシでも塗り込められたか?」
「お前ら、人を鬼の様に…」
「鬼より怖いぜ」
「本当にカラシを塗ってやろうか?」
「いやいや!滅相もございません!
ちよ、痛い痛い、君そんな力あったのか!?」
国永の頬を左右に伸ばして間抜けな顔を堪能してから離してやる。
「お前手当してくれるんじゃなかったのかよ!悪化したわ!」
友人達が可笑しそうに笑い、拗ねた顔の国永がこちらを恨めしそうに睨む。
唯一、楽しいと感じれる時間。

俺は鳴り響くスマホのバイブに気付かないふりをした。



「黒葉、飯できたぞ?」
エプロンをつけた国永が心配そうに覗き込む。
「ん、ああ……寝ていたのか。」
テーブルには書類が大量に散らばってた。
そう言えばこれをまとめてレポートを提出しないといけないんだということを思い出した。
散らばっていたのはカウンセリングした生徒達のカルテだった。
「最近仕事詰めだろ、ほら君の好きなものばかり作ったから。」
「ん、すまぬな」
立ち上がってぎゅっと国永を抱き締める。
「どうしたんだい?」
「昔の、夢を見てた。初めてあった頃の…」
「へぇ、懐かしいな」
「あの時はお前と居て楽しかったが、生きてる実感は無かった。」
「そうか……で、今はどうなんだい?」
「生きてる、俺もお前も、ちゃんと生きてる」
「…そうだな」
緩みきった笑を浮かべる国永を愛しいと思う。
あの頃には見られなかった国永の表情や仕草一つ一つが愛しいと思う様になった。
「俺の番がお前で良かった」
「ふふ、なんだい急に、擽ったいな」
「言わねば行けない気がしてな。」
「そうか、俺も黒葉が番で良かったよ」
ふにゃりと笑う国永を抱き締めて、温もりを感じる。
ずっと隣に居た、幸せを抱きしめる。

小烏黒葉の非日常


どしゃりと目の前に何かが落ちた。
びしゃりと顔に生暖かいものが付着して悲鳴が上がる。
ただ、目を離すことが出来なかった。




疲れ果てていた。
周囲から浴びせられる同情や好奇の目に晒されるのは。
佐倉しずくは大人しい生徒だった。
目立たなくて引っ込み思案な、どこにでも居る女子生徒。
初めて赴任した中学校で生徒のメンタルケアの為に週に何日か赴き、悩みを聞くのが仕事だった。
先輩のカウンセラーに習い仕事を覚える。
それの繰り返しの日々だった。
そんな日、フラフラとカウンセリングルームに入ってきた少女を、俺は生涯忘れることはないだろう。

「あ…の……」
ビショビショに濡れた髪から雫を垂らしながら入ってきた。
「どうした?びしょ濡れではないか。」
「小烏、タオルだ、その棚に入っている」
先輩から指示された通りにタオルを少女に被せて頭を拭いてやる。
よく見れば制服も濡れている。
が、流石に成人男性二人の前で脱げとも言えず、しかしこのまま出いさせるわけにも行かず、自分のカーディガンを脱いで羽織らせた。
「これでも羽織れ、そのままでは風邪をひく」
「でも…」
「して、お前は何か言いたいことがあったのではないか?」
少女はぐっと押し黙る。
「私は…2年の佐倉しずくです…
あの…わたし、わたしっ…」
「落ち着いてからで良いぞ」
暫くそうやって宥めていると、佐倉はぽつりぽつりと語り出した。
身体が弱くてあまり学校に来れないこと、学校に来るといじめに合うこと、両親は他界し施設に預けられてることを話してくれた。
「そうか、俺も両親に捨てられて施設で育った身だ、他言はせぬから吐き出したいものはすべて吐き出してしまうが良いぞ」
「先生もですか?」
「そうだ、最も俺は施設でも持て余されてたからな
高校に通う頃には施設を出た。」
「わ、わたしも…そうしたいけど…お金とかかかるし、先生は凄いですね…」
流石にその金をどうやって稼いでいたかは言えなかった。
佐倉は服が乾く頃に帰っていった。
「佐倉に教えてやればよかったのに、お前がどうやって稼いでいたか」
そうやって身体に触れてくる。
この男は以前パトロンだった男から紹介された。
ご丁寧に人の就職先にまで手を回してまで手放すのが惜しかったのかは俺にはわからない。
どうでもいい事で、こいつもそう言う対照で俺を見てるくらいにしか思わなかった。
金にならない奴に身体を許すほど落ちぶれてはいない。
その手を払い除け、少し水気を含んだカーディガンを着ると生徒の名簿から佐倉しずくの名簿を探す。
佐倉自身は病弱で休みがちという事以外特筆して問題はなかった。
但しそれは表向き。
クラスの女生徒に陰湿ないじめを繰り返されている。
これはデリケートな問題で、いじめを行ってる生徒を特定して注意しても逆にエスカレートさせてしまう可能性がある。
仕事を円滑に進めるには、まだこの男の協力が必要か…。
ため息をついて俺は先輩に近寄る。
「いじめの対処はどうすればいいですか」
「そうだな…」
ゴクリと男が喉を鳴らす。
なんで男は皆こうなのだろう。
「……職場では、やめて下さい…
バレたら、困る……」
俯きながら、上目遣いで見上げれば大抵は簡単に落ちる。
猿みたいに盛り出した男を宥め男の自宅に連れて行かれる。
ああ、全く退屈な時間だ。


あれから佐倉はちょくちょくカウンセリングルームを訪れる様になった。
いじめを行われる前に逃げ込むのは最善とは言えぬが現状それくらいしか出来なかったからだろう。
佐倉はいつも傷だらけだった。
「小烏先生は、どうしてカウンセラーになろうと思ったんですか?」
「俺は子が好きでなぁ。保父を目指したかったのだが親友にお前じゃ事案になると笑われてな。
その時スクールカウンセラーという仕事を知って、それなら良いだろうと。
今の子等は苦しい時代を生きてる故簡単に命を投げ捨ててしまう。
それが悲しくてなぁ」
そういったのは建前だ。
本当は死に向かう気持ちがなんなのか知りたかった。
死にたい、生きたいという気持ちが俺の中に無いからだ。
だから知らない奴でも金さえ貰えれば脚を開く。
小烏黒葉はそういう生き物だから。
「佐倉は無いのか?将来の夢」
「わたし、は…よくわかりません
将来なんて漠然としていて」
「無ければ探すが良いぞ。
それがあるだけで前向きに生きる希望になる」
「……先生はイジメにあったことあるんですか?」
「…いじめか、どうであったかな。忘れてしまった。
高校に上がってからは親友がそういった輩を近づけない様にしてくれたからな」
「……先生は恵まれてるんですね」
「そうか?」
「はい、だって守ってくれる人がいるんですから。
私にはいない、だれも」
「…佐倉、俺はお前の味方だ」
「…ありがとう、先生だけがそう言ってくれる…
私、先生みたいになりたいです」
寂しそうに笑う佐倉に、ちりっと胸がいたんだ。


「……という事があってな」
「ふーん、珍しく君が仕事の愚痴なんてこぼすなぁと思ったら、ただの惚気かい」
「茶化すな国永、まぁ薄々気がついてはいたがあの子は俺を美化し過ぎだ」
「まぁ、そうだな。
少なくとも学費の為に援交してたなんて口が裂けても言えないだろうなぁ」
「…それは手段の一つだ、一番手っ取り早いし楽に稼げるし、仕事も円滑に進められる」
「君なぁ…」
国永はそう言うとプリン味を口に押し込んで来た。
「そう言うのバレたらまずいだろ。
君の仕事的に。」
「向こうが話すわけないであろう。
俺の弱みを握っているのだ、それを口実に迫られてもみすみす手放すことはあるまい」
「どんだけ自分の顔に自信があるんだ?黒葉様は。」
「自信という訳では無いが俺はそういう奴らに丁度いい顔をしてるのだろう。ただそれだけだ」
「そうだな、それだけだな」
特に止めるわけでも説教するわけでもない、曖昧な距離が心地いい。
余計なことを考えなくていいから楽だ。
それから佐倉はカウンセリングルームに来なくなった。
カウンセリングルームに逃げ込んでいたのがバレて、いじめはエスカレートしていき、生きるのが辛くなったのだろう。
帰り支度をしていると、びしょ濡れで、制服がいやに乱れた佐倉がドアを開けたい。
「せんせい…」
消えそうな声で佐倉が呟いた。
「先生、わたし…」
「いい、何も言うな」
カーディガンを羽織らせてとりあえずタオルで体を拭かせる。
「……もう、わたし、辛いです」
「佐倉、誰だ。誰にやられた?」
「……いいんです、もう。
先生、この前一緒にいた桜色の髪の綺麗な人、恋人ですか?
楽しそうに歩いてましたね…」
唐突に何をと思ったが、どうやら国永と出かけたのを偶然見たらしい。
「あれは親友だが…それがどうかしたか?」
「そうなんですか…わたしも、あんな人がいたら、違ったかなぁ…」
「佐倉っ!?」
佐倉はそのまま駆け出していき、俺はただ呆然と立ち尽くしてた。
「……一体どうしたのだ」
次の日から佐倉は学校を休み、その数日後、登校した俺の目の前に降ってきた。
周りが悲鳴をあげる。
佐倉だったそれはピクピクと痙攣し、ギョロリと目がこちらを見て、パクパクと口を動かした。
目が離せなかった。
潰れた頭から血が溢れ出し、当たりはパニックになる中、俺はひどく冷静だった。
人は簡単に死ねるのだと。
血濡れの俺はそのまま意識を失って、誰かが警察やら救急車やらをよぶ声がした。
気が付くと見慣れない白い天井。
珍しく先輩が心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫か?」
「……特には。痛みもないし…」
「いや……そうじゃなくて……
まぁいい、お前はそういう奴だもんな。
学校にはしばらく休むって言ってあるし、校長もいいって言ってくれた。
警察から話を聞きたいと言われてるが、話せそうか?」
「はい、話せます」
ぼんやりした頭で聞かれたことに答える。
カウンセリングした内容はきちんとカルテに書き込んであるし、それ以外の接触もなかった。
佐倉しずくの遺体は保護施設に送られたそうだ。
着慣れない喪服に身を包んで葬儀に参列したが、クラスメイトは泣くどころか面倒そうに携帯を弄っていた。
佐倉しずくは存在しなかったかのように、日常の日々が戻ってきた。
俺は自宅謹慎という名目上の処分を言い渡され、療養に専念しろと告げられた。
「珍しいことは続くんだな」
国永が笑いながらやって来た。
精神科への通院を進めれたが断り、自宅でただぼんやりとしているだけの時間。
試しに手首を切ってみたが、血が溢れるだけで死ぬ事は出来なかった。
そんな時国永から一緒にDVDでも見ないかと誘われ、また家のデッキを破壊したのかと半ば呆れながら承諾した。
今は一人が苦しかった。
色々聞かれると面倒なので手首を見えないようにカーディガンを羽織る。
「何が珍しいのだ?」
「ん?急に俺の飯が食べたいなんてさ」
正直あれから食欲もなく、大好きなプリンも食べれずにいた。
慣れた様に冷蔵庫を開けて、国永は眉根を潜めた。
「黒葉、お前ちゃんと飯食ってるのか?」
「……さぁ、どうだろうな」
「誤魔化すな、賞味期限切れのプリンがあったぞ。
お前がそんなことする訳ないだろ
いつから食ってないんだ。」
「……五日前」
国永はプリンの日付を確認する。
嘘は言ってない。
食事を取らなくなったのは五日前だ。
「しつこい男に関係を迫られてノイローゼ気味なだけだ」
「……前に言ってた職場のか?」
「…そうだ、最初のうちは我慢して抱かれてやったが、ヘタクソで気持ち悪い。
付き合ってるわけでもないのに彼氏面するしストーカーみたいに毎日ご丁寧に俺のスケジュールまで管理して、いい加減うざい」
「随分粘着されてるな」
「……だから、多少は参ってるのは認める…
だからお前を呼んだんだ」
「君だって料理くらいできるだろ?」
「……違う、そうではない。
独りは……嫌だ……」
珍しく弱音を吐き出してしまうほど、こみ上げる吐き気を抑えきれない。
生きていた命が目の前で散って果てていく過程から目が離せなかった。
人は簡単に死んでしまう。
言葉や態度で、こんなに簡単に人は死ぬんだと理解した瞬間に、襲ってきた寒気と吐き気。
俺の心が凍りついた音がした。

忘れた頃に手紙が届いた。
佐倉しずくからだ。

可愛らしい便箋にしっかりとした文字で


小烏黒葉先生

ずっと好きでした、愛しています。
あの日私を助けてくれてありがとう。
あの日は人生で一番幸せな日でした。
私はもう耐えられない。
このままだと私はあなたの全てに嫉妬してしまう。
だから、私はそれに耐えられなくなる前に死にます。
私には無くすものはもう何もありません。
綺麗な体で死にたかったけどそれも叶わないから、せめてあなたへの愛を胸に抱いて逝きます、さようなら。
もっと早くあなたに会いたかった。
ありがとう、感謝してます。

佐倉しずく


グシャりと握りつぶした手紙を持ったままトイレで空っぽの胃から胃液を吐き出す。
あの子はやはり俺を許すつもりは無いらしい。
自分の死で俺を縛り付けて生きていけと…
守れなかった事を悔いながら生きろと。
ああ、確かにこれは忘れられないだろうな…
俺はお前の亡霊と、生きていくぞ。

零れ落ちたココロ


夏休みに朱乃が帰省した。
緋翠は三条宗近と旅行に出かけているため2人には広い家で朱乃と怜悧は久し振りに肌を重ねていた。
「んっ…朱乃、ひあ、う…あぁぁん」
小さな背中、細い肩、ベットにぎゅっとしがみつく小さな手。
腰を高く突き出す形の怜悧は朱乃には泣いてる様に思えた。
仕方が無いヤツと思いながら腰を打ち付ける。
こんな方法でしか、怜悧は泣けなくなってしまった。


目を赤く腫らしながらグッタリとした怜悧の髪をなでて、熱気のこもった部屋を換気するために窓を開ける。
エアコンをつけても良かったが、あまり身体の丈夫じゃない怜悧が体調を崩さない様にとの朱乃なりの配慮だ。
朱乃はキッチンで作りおきの冷たい麦茶とコップをお盆に載せた。
部屋に戻り、机にお茶を載せると冷えたお茶をコップに注いで飲み干す。
怜悧のコップに麦茶を注ぐと眠っていた怜悧が目を覚ました。
「麦茶飲むか?」
「……のむ」
怜悧はまだ寝ぼけ眼で、甘える様に手を差し出す。
「ほら」
たっぷり注いだお茶を怜悧に渡すと、こくこくと両手でコップを持って麦茶を飲んでいる。
タオルケットだけ肩から羽織った怜悧の身体に紅く刻み込んだ所有印。
朱乃は怜悧を抱き締める。
「怜悧」
怜悧はぼんやりとしながら甘える様に擦り寄ってきた。
愛しいと、単純に思った。
「朱乃…」
甘える様な口調で怜悧は朱乃を呼んだ。
「朱乃、僕はここに居る?
朱乃。僕は…ちゃんと生きて…いる?」
抱き締めたまま、朱乃は怜悧の身体に唇を寄せた。
「生きてるだろ、お前はこんなに温かい。
鼓動も聞こえる、生命の脈打つ音だ。心地いいな。
お前はしっかり生きてここに居る。不安なのか?」
「うん。」
朱乃は何も言わず頭を撫でた。
「ごめん。でも人は簡単に死ぬから…」
「鶯さんのこと、まだ後悔してるのか」
自分が死んだ、と言えるはずもなかった。
怜悧は言葉を飲み込み朱乃に抱きついた。
「僕も鶯さんみたいになったら…って思うと怖くて。
母さんや朱乃を遺して逝くのが…」
虚ろな瞳で朱乃に縋る怜悧を眺めたまま生ぬるい風が二人の頬を撫でる。
「俺は、お前が居ないと生きていけない。
離れているだけでもお前がどうにかなってしまわないか不安なのに。
先に死なれたら俺はどうしていいかわからない。」
「朱乃…僕もだよ…。
だから、だからこそ…鶯さんの死を目の当たりにして僕は…」
「怜悧…不安なら俺がそばにいてやるから悲観的になるな」
「朱乃……抱いて、もっと僕に奥深くまで朱乃を刻み込んで…
生きてる実感が欲しい…お願い、朱乃の愛で僕を満たして」
「随分魅力的な誘い文句だな」
朱乃は怜悧の頬にキスを落とした。
そして先程よりも激しく濃密に交じり合う。
朱乃の愛に包まれて怜悧は生を実感する。
「朱乃、愛してる」
「俺も怜悧を愛してる」
傷ついた怜悧を癒す様に沢山のキスを与えて怜悧の命の鼓動を確認する。
互いに熱を求め肌を重ねる。
怜悧が零す涙が止まるまで。



「喉がイガイガする」
「麦茶のめ麦茶」
既にぬるくなってしまった麦茶を氷で冷たくしてから怜悧に渡す。
ごくごくと麦茶を飲み干してから部屋着を手繰り寄せる。
「怜悧、飯何がいい?」
夢中になって肌を重ねたせいか当たりはだいぶ夕暮れ色になっていた。
「んー…オムライス!」
怜悧は嬉しそうに笑って朱乃に抱きつく。
いつもの怜悧だと安心した。
「じゃあすぐ作るから待ってろ」
「うん、夜はモンハンやろうね」
「お前が満足するまで付き合ってやるから」
怜悧は大人しくテレビでゲームをして遊んでる。
朱乃が手早く食事の支度をすると不意に怜悧が朱乃に抱き着いてきた。
「朱乃、僕ね、頑張るから…
だからずっと朱乃の隣りに居させてね?」
「もちろんだ、お前を誰にも渡さない」
理不尽な死を目の当たりにしてから怜悧は少しずつおかしくなっていった。
それを支えられるのは自分しかいないと朱乃は怜悧をきつく抱きしめた。
「僕も朱乃を誰にも渡さない。
だから僕を残して逝かないで」
「ああ、お前も約束しろ」
怜悧は目を伏せて朱乃の胸に顔を埋めた。
「……ごめん」
怜悧は俯いたまま朱乃の体温に心地よさそうに目を閉じた。
「朱乃…僕、死んだんだ」
胸の中で怜悧が肩を震わせながら消えそうに呟いた。
「怜悧は生きてる、ここに居る」
「うん、だけど僕は2回死んだ。
はっきり覚えてるんだ、一度目は目の前が急に真っ暗になって、頭が、身体が、バラバラになった。
2回目は、自分で自分に火を放った。
肌が焼けて痛くて声が出なくて苦しくて…怖かった。
でもそうするしか無かった。
母さんが、五条先輩が、光忠さんが見下ろす中、僕は死んだんだ。
朱乃、僕は本当に生きてる?
ねぇ、あれは本当に夢だったの?
僕は…これは僕が見てる夢?」
突然取り乱す怜悧に朱乃はただ怜悧を抱きしめるしかできなかった。
何度言ってもきっと怜悧には届かないと気が付いたから。
その場に自分は居なかったから、どれだけ否定しても怜悧を掬いあげることは叶わない。
沈んでいく怜悧に手を伸ばしても届かない。
怜悧はどんどん暗く深い闇に落ちていく。
ひとりぼっちで、泣く事も忘れて…
心をすり減らしながら笑う。
違う、笑うしかできない。
それ以外の表情も感情も、すり減らしてしまったから。
「怜悧…俺の傍からいなくなるな
もう危ないことはしないでくれ」
「危ないことをしてるんじゃないよ
危ないことはいつも僕らの影に潜んでる。
あの日から僕は…きっとそういうのに呼ばれやすくなったんだと思う。
噛み跡、結構消えてきたけど、完全には消えないんだ…もう一年も経つのに…消えないんだよ」
怜悧は虚ろなまま、もたれ掛かってくる。
朱乃はきつく抱きしめて、怜悧の首の噛み跡に噛み付く。
痛みに怜悧がピクリと眉根を潜めるけれど、抵抗はしない。
「……朱乃、無理しないで…
僕は大丈夫。みんなが僕を守ってくれるから、僕は生きてる。」
「だけど、お前の心はどこにあるんだよ、今のお前は何を見てる?」
「…夢、かなぁ…幸せな、夢だよ。
僕の心はあの日あの夜に壊れちゃった…今あるのは松野怜悧だった抜け殻だよ…ごめんね、朱乃」
「だとしても、お前が怜悧である限り俺はお前のそばにいる。
俺の為に、生きてくれ」
「……うん、君がそれを望むなら。
僕が壊れるまで…ずっと一緒だよ?
頑張るから、朱乃とずっと一緒に居る為なら頑張れるから…」
怜悧が涙を零しながら笑った。
酷く悲しげなその表情に朱乃は気が付かないふりをして怜悧を抱きしめる。
怜悧が雪山で負った傷は深く心臓を貫いて、知らずのうちに心がこぼれ落ちる。
からっぽになる前に、手遅れになる前に、今度こそ自分の手で守ると決めた。

それでも、お前は俺の腕から離れていってしまうんだろうけど…`

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