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出会い、紅色。8 side鶴丸

胸に込み上げる熱いものに、息をすることが出来なくなって崩れるように膝をつく。
目の前には黒い固まりと、無表情の獅子王が居て。
俺は、

「は、ははっ! おどろいたか!」

してやったりと笑ったあと、口から大量の紅い液体を吐き出した。
急速に冷えていく身体と、ぼやけていく視界に。
近くで倒れ伏す五虎退の身体が淡い光と桜の花弁に包まれて徐々に消えていくのを見て、満足感を覚える。

「ししおう、これで良いか?」

後ろから舌足らずな声が聞こえてきて、胸から生えた刃がずるりと引き抜かれる気持ち悪さに再度液体を吐き出す。
後ろから姿を現したのは白い足に爪先だけでとつとつと歩く、赤い人。
いや、黒い人って言うべきなのかな。
出会ってからずっと、どっちなんだろうって、思っていて、

「ああ、雛はよくやった。けどまさか……国永じゃなかったとはな」
「うむ、さっきまで髪は花の色をしていたぞ」

少し前にやってきたこの二振りが、遡行軍側の刀だってことは知っていた。
今回の任務で、国永様が囮になって討ち取ろうとしてたことも。
国永様が、本当は折れるつもりでいたことも、知っていた。
だから変化の術で成りすまして、国永様には出陣時刻で嘘を教えて、入れ替わって。
ここまでの重傷を負ったことはなかったから、折れることがこんなにも寒くて寂しいんだとは知らなかった。
でも、嬉しくて胸を押さえながら笑う。
ずっとずっと大切にしてくれた国永様を、たいせつに出来たから。
俺はここまでだから、あとは、任せても良いよな、宗近様。

「くに、つ、鶴丸さん! 手を……――」

臆病で引っ込み思案な五虎退が、帰還術で消えゆく中で名前を呼んでくれる。
涙を両目にいっぱい浮かべているんだろう、涙声で。
でもごめんな、間に合わないから、あとは託すよ。
目の前の黒い影が何かを振りかぶって、きらりと光るそれが三日月に見えた。



その日は、一生懸命考えごとをしながら宗近様の部屋にお酒を運んだ。
俺が来てから気付けばずっと、宗近様の晩酌に付き合うようになっていた。
お盆に全てを用意した国永様が、これを運んでくれって頼むから。

「おお、鶴や。今宵も良い月夜だなぁ」
「うん」
「この時期は寒かろう」
「うん」
「明日には雪が降るやもなぁ」
「うん」

話しかけられるのに返事をしながら、お盆を見つめてずっと同じことを考える。
と、目の前に急に現れた宗近様が盆を取り上げて縁側に置き、座るよう言った。
いつの間に居たんだろうって不思議に思ったけれど、言われた通りに座ったら宗近様も隣に座った。

「鶴や、何を考えておる? 爺に話してみんか」
「……国永様が」
「国永? あやつがどうかしたか?」
「俺は月のためにあるって。だから、俺は自分を大切にしろ。って……難しくて」

国永様が何を言いたかったのか分からない。
生まれたときから、俺が俺になったときから、伝わってくる思い。
それを知ってはいたけど、改めて言われるとよく分からない。
困った顔で宗近様を見上げたら、宗近様は、

「……そうか」

って、吐息みたいな声で吐き出すように口にした。
顔は笑っていたけど、泣いてるみたいに寂しそうで。

「宗近様は、国永様の言ってること、分かる?」
「ああ」
「どうしてあんな、突き放すようなこと……」

らしくない、とは言えなかった。
ずっとずっと、顔を合わせた時から感じていたから。
何かを諦めようと、考えないようにしようと、自分を無くそうとしていることを。
鶴丸は国永様が好きだ、兄様みたいだと思っている。
国永様が笑うのも、仕方ないと言いながら頭を撫でてくれるのも、知らないことを教えてくれるのも、戦う姿も好きだ。
鶴丸は宗近様が好きだ、とと様のように思っている。
けれど、それ以上に国永様が宗近様を好きだから、そうなのだと知っている。

「あやつには、抱えるものが多く……重いのだ」
「おもい?」
「鶴は、国永の見目をどう思う」
「?? 同じだなーって思う」
「それ以外は?」
「えっと、花の色! 成長したときや、俺達が生まれた時にふわっと現れる花弁みたいで綺麗だ!」
「ああ、俺も桜のようだと思う。瞳はどうだ?」
「赤くてかっこいい! けど、きらきら光ったり、お星様みたいだって思う」
「ほう、星か! それはそれは、さぞ美しいだろうなぁ」
「宗近様にはどう見える??」
「俺、か? そうさなぁ……俺にはあの髪も、瞳も、恋の色に見える」
「こい」

言葉は知ってるけど、それそのものは知らない言葉に、鶴丸は瞬きを繰り返す。
恋とは、特定の相手を愛おしく思う、あれだろう。
なら、誰が、誰に?
国永様が、宗近様に?
宗近様が、国永様に?
分からない、けれど、

「俺、二人が一緒に居るところが見たい」
「居るとも。同じ部隊に居る故な。何より国永は近侍の補佐だ」
「んー、そうだけど、そうじゃなくて……俺と泛塵みたいに、お仕事なしに!」

くすくすと笑いながら、笑っているのに、宗近様はずっと寂しそう。
鶴丸は国永様の思いを知っている。
国永様がどれだけ目の前の人を慕っているか、けれどそれを押し殺していることも知っている。
どうしてそうなのかは知らないけれど、国永様がそう望むなら良いと思ってた。
一緒には居なくて、話しもしなくて、でも時々宗近様を見ていることを知っていた。
悲しそうに、泣きそうに、寂しそうに。
それを、宗近様も知っている。
知っていて、声を掛けず、側に行かず。
国永様が見てないときに、同じように国永様を見ていることを知った。
相手に気付かれないよう、見ているだけ。
泛塵に聞いて見たけど、泛塵も国永様と似た色合いの瞳を伏せて困っていた。

『切ないな』
『せつない?』
『僕は、切ないと思った。多分、鶴丸もそう思っている』

泛塵の方が態度は頑ななのに、泛塵の方が鶴丸より心の機微や言葉が堪能だ。
鶴丸は、知っているだけ、覚えているだけ。
鶴丸国永としての来歴や記録を、国永の記憶を、知っている。
だから国永様がどれだけ自分のことを悩んでいるのか、どうしてそこまで悩むのかを知っている。
けれど、感情はよく分からない。
簡単なもの、楽しいや、悲しい、嬉しい、怒りは分かる。
それ以上のものは分からないから、こうして泛塵に話すことで分かるようになればいいと思った。

「宗近様が国永様と一緒に居ないのは、俺が原因?」
「何を言う。これは俺達の問題で、鶴は関係ない。ただ……少し、すれ違ってしまっただけよ」
「すれ違う……」

お互いがお互いを、見てるのに見てない。
それは凄く分かりやすい言葉だった。
すれ違って居るだけなら、ちゃんと見合えば良いのに。

「国永様、執務室で……主と任務の話ししてた」
「うん? 鶴や、また屋根裏で遊んでいたのか?」
「ん、イタズラしようと思って。けど……げんだいで、遡行軍の残党を見掛けたから、追跡任務って」
「鶴……主が執務室で話すものは、他言無用だ。聞いてはならぬし、口外してもならぬ」
「でも、だって!」
「鶴や、お前は敏い子だ。俺の言うことが分かるな?」
「…………国永様、折れるって言ったんだ」
「なに?」



光の差す部屋で、上から見下ろしているために国永と緋翠の頭頂部を視界に入れながら、鶴丸は息を殺していた。
最初はイタズラで、天井から飛び出して驚かすつもりだった。
けれど、二人が小さな声で話しをしていたと思ったら、空気や肌がピリピリとし始め。
それが目下の二人から放たれる殺気であることは明白。
どうしてそんな雰囲気になっているのだろう。

「次の任務、俺が囮になろう。夏の方からも人員を割いて二部対合同にするんだろう?」
「……ああ、残党が見付かったのが殺生石のある辺りだからな。恐らく怜鴉が絡んでるだろう」
「ついでに、怪しい動きを見せるとしたら例の瘴気に呑まれた町から回収された小烏丸と獅子王の可能性が高い、と。竜胆って審神者は信用出来るのか?」
「獅子身中の虫、か。ああ、あれは占術においては俺より上だ。アレがその二振りと殺生石への異変を予言したなら、何かある」
「殺生石には、主の力を使ってるんだったか」
「俺のアヤカシとしての力、師匠のヒトの力、そして九尾玉藻の前の身体。三位一体で結界が成されてる」
「玉藻を復活させて引き入れるつもりか……何にせよ、現場で二振りは処分した方が良いだろうな。俺がやる」
「何故、許すと思う?」
「俺が適任だからだ。鶴丸国永には予備があり、育成もほぼ順調。仮に"何か"あっても、俺なら対処出来る」
「ふー……意思は変わらんか。せめて、宗近には報告しろ」
「ああ、承知した」

明確に言葉にしていないにしても、優しく主を見つめて頭を下げる国永を見ていれば、何かの覚悟は見て取れた。
それと、部屋から国永が去った後に、深く息を吐く主の、

「馬鹿野郎」

という小さな勢いのない罵声に、鶴丸は息を殺して屋根裏から出た。
そして、鶴丸は国永様がいつか折れるつもりであることを知っていた。
だからこの会話を聞いて、次の任務でそのつもりなのだと思った。



「主は止めなかった。宗近様は、聞いてないんだろう?」

頬を膨らませて、子供らしい不機嫌さをあらわにする鶴丸に、宗近は言葉を失った。
多分、国永様は宗近様には知らせずに行くと思ったから、鶴丸は今、告げたのだ。
そうでもなければ、駄目と言われたことには素直に従う。
従えないのは、宗近様に関わることだったから。
『月のために』、宗近様のために、従わなかった。
本丸の掟、ルール、そんなもの、鶴丸には何の意味も無い。
鶴丸は月のためにあるべきだと言われたから、それこそが全てだ。

「くになが、が……折れる? そんな……何故……」
「んーと……ずっと前から、決めてたことなんだ。国永様は、刀解が望めないなら、いつか折れようって。俺はそれを知ってて……」
「国永が折れて、そして鶴丸と番えというのか、あれは……」

顔を伏せて床を睨み付ける宗近の顔は、鶴丸からは窺い知れない。
けれど、その声が震えていたことと、握り締める手が白くなるほどの強さは。
怒り、なんだろうか。
国永様が宗近様に告白をされたことがあるのも、鶴丸は知っている。
けれどその後に自分は生まれてしまったから、その後の二人は知らない。
国永様の行動しか、考えしか、知らない。

「宗近様は、どうするの?」
「どう、とは……」
「止める?それとも、何もしない?」
「……止めたい、止めて、側に置いて、抱き締めたい。だが……あれが望むならば……」
「うん、分かった」

苦悩で混乱する表情を見せる宗近様に向かい、鶴丸は笑って見せた。
月のために存在する、そんな鶴丸に出来ることは、宗近様のために動くこと。
国永様の意地も、主の意思も、鶴丸にとっては全て意味も無いに等しい。
宗近様のために居ると言うのなら、鶴丸は宗近様に笑って欲しい。
だから、鶴丸は――



現代任務
時代 2000年 地域 栃木は那須湯本付近

混合第一部隊:春
隊長 五虎退 重傷 帰還
副隊長 鶴丸国永 破壊
隊員 小烏丸 失踪
混合第一部隊:夏
隊長 一期一振り 重傷 帰還
副隊長 薬研藤四郎 破壊
隊員 獅子王 失踪

戦線中、刀剣男士の裏切りにより二振り破壊。
隊長格の報告により、小烏丸と獅子王は遡行軍として指名手配。
また、先の瘴気事件で保護し、審神者の手に委ねた刀の一斉検査実施を確定。
尚、この時代に割られる予定の無かった殺生石の割れにより結界が無効化。
玉藻の前は現在、妖怪大主の元にて保護されている。
なお、結界に使用していた力をこめし呪物は確認されず。
敵方が奪取したと思われる。

出会い、紅色。7 side国永

またも起こった不思議な光景に、国永はそろそろ諦念を覚える勢いで項垂れる。
主に申し渡された連結に用意されたのは数振りの刀と、一振りの鶴丸国永だった。
鍛刀で揃えられたそれはいわゆる二振り目というやつである。
現在の政府の意向ではそれらを励起させることは出来ず、刀解をして資材に回されるかこうして連結強化に回されることとなる。
それ自体に不備はなかったはず、だった。
連結の核となった国永が場に残るのは当然のこととして。
目の前には、目を瞑って倒れ伏す真白の固まりがある。
こうして"自分自身"に面と向かい合うのは演練ぶりだ。
ぴくりとも動かない、ともすれば息をしているのかも怪しい身体に違和感を覚える。
連結用にと用意された室内には、すぐに加州清光が飛び込んできた。
力なく横たわる鶴丸国永を抱え込むと、急ぎ医務室へと運び込んでいき、

「連結不備」
「そう。宿った分霊の魂は問題なく連結し刀も解かれるはずが、何故か肉体だけ励起し残った形となった」

流石に疲れた顔でこめかみを揉みほぐす主の姿は、いっそ憐れにも思えた。
そもそも国永は本筋の鶴丸国永とは言いづらい面がある。
刀帳には問題なく記載されたが、恐らくはその辺りが作用して今回のようなことが起こったのだろう。
あるいは、

(真っ当な鶴丸国永を、と思う俺の意思が作用したか)

国永は、自分を鶴丸国永だとは認めていない。
ましてや三日月宗近が望み、禁忌を犯してまで望んだのだ。
いつなんどき、どこで堕ちるかも分からない、穢れを含んだ身では彼が報われない。

「なあ主、もし……もしあの鶴丸国永が目を覚ましたなら、使ってやってくれないか」
「……まあ、怜鴉の一件で戦力を削られた本丸も少なくないからな。二振り目の育成を拒んでるのも人間と同じく刀も唯一であるべきとかいう人道派とか、本丸に反抗戦力を付けさせたくない馬鹿共だしな」
「そうなのか? てっきり励起する術式の問題かと」
「そうなると、そもそも二振り目以降の鍛刀すら出来んことになるな」

肩を竦めながらあっさりと告げる緋翠の声は軽い。
自分たちは戦うための道具であるのだから、命の尊さとやらを声高に唱えるのはさぞ滑稽だろう。
余計な戦力を付けさせたくないというのも、戦争を代行させている方がおかしいとも言える。
人間は随分と厄介な性分を抱えた生き物なのだな、と改めて認識した。
そして二振り目、に関してあえて口を開いたのは国永への牽制だろう。
未だに国永が刀解を望んでいると知っているからこその。

「まあ、それで良いさ。様子を見に行くくらいは許されるだろう?」
「当然だ」

話は終わりだ、とばかりに書類へ目を落とす緋翠を後目に、国永は笑って執務室を後にするのだった。



あの後、国永は少々裏技を使用して二振り目の鶴丸国永を目覚めさせることに成功した。
裏技とは、他の刀剣男士には使えない術を行使して魂を分けるという、本来ならば本霊のみに許された行為のこと。
分霊がさらに分霊を作るなど、消耗も激しく制約も多いため普通ならば出来ることではない。
けれど、国永は幸か不幸か普通では無かった。
生粋の鶴丸国永とは違い、三日月宗近の力も有している。
更に同じ場に存在しているから、そして二振り目には魂が宿らないからこそ出来る無茶だ。
目覚めた二振り目を鶴丸と呼び、世話役は国永が務めることとした。
借り物の魂でどれだけの誤差、ないし不備が出るものかと戦々恐々としていたが、

「くにながさま、これとってきた」

舌っ足らずな口調は肉の器に馴染んでいないからか、鶴丸は手に花を握り締めて国永の元へやって来た。
鶴丸はたびたび見付けたものを国永の所へ持ってくる。
それだけを見れば幼い子供のようでもあるが、見た目は国永と同じ青年。
白銀の髪と黄金の瞳を持つ、通常の個体と言えた。

「それは……何の花だ? 鶴丸、どこから持ってきたんだい?」
「あっち」

あっち、と言って指を差す方向には畑がある。
恐らくだが、まだ実が成っていない野菜の花を引っこ抜いてきたのだろう。
ため息を吐き、いずれ野菜になる花を畑から取ってきてはいけないと教える。
ぱちり、と目を瞬かせた鶴丸は頷いた。

「やさい、しってる」
「ああ、光坊や歌仙が美味しい料理にしてくれるだろう?」
「りょうり、おいしい」

言葉をほぼオウム返しに、頷きながら笑顔を見せる。
知識は国永と同等にあるものの、経験というのがどうも蓄積しないらしく鶴丸はまるで無垢な子供のよう。
己の本体である刀にも頓着を見せず、ともすれば高いところの物を取るつっかえ棒にし始める始末。
刀としては少々不安を覚えるところであり、未だに内番にも組み込めずに居る。
国永はもどかしく思いながらも、唯一の頼みの綱である鶴丸に期待をしていた。



一つ年が過ぎる頃、緋翠の本丸は四つまで増えていた。
一人で抱えるにはここらが限界であるとし、求められる戦績に応えている。
更にそれぞれの本丸に春夏秋冬の名を与えて調和を取ることで結界の強化としていた。
鶴丸はあの後、少しずつだが肉の器に馴染んできた結果、刀剣男士として戦場に立つまでに成長した。
頼もしくなればなるほど、国永の望みが到達に近付くほど、心中をわびしさが込み上げる。
けれどそれに囚われずにすむのは、もう一振りの新入りのお陰だろうか。
加州清光が珍しく国永に世話役を任せたのは、泛塵という真田の刀だった。
第一印象は山姥切国広のようなひねくれ者だと思った。

「塵めに世話役など不要」

顔を付き合わせた瞬間に言われた言葉だ。
これは厄介な刀だぞ、と思った瞬間には一緒に着いてきていた鶴丸が目を輝かせて声を上げた。

「国永様、こいつ国永様と同じ色だ!」
「同じ? ……ああ、見事に淡い花の髪色だな。桜のようだ」
「緋翠ちゃんが、まるで兄弟みたいだろう?ってさ」
「きょうだい……? 同じ刀派ではないだろう」
「国永様、俺知ってる! 人間の兄弟は顔が似たり同じような色をしているんだ」

ふにゃりと嬉しそうに柔らかな笑みを浮かべる鶴丸はそのまま泛塵との距離を詰め、顔を覗き込んだ。
驚いた泛塵は眉尻を下げ、困ったように身を縮込ませる。
やや跳ね気味の猫っ毛といい、少し小さく細身の身体といい、泛塵と国永は確かに共通点がある。
人の身に慣れていない、引っ込み思案な刀には鶴丸の距離感は辛かろうと襟元を引っ張って回収を試みた。
同じ体躯、同じ人の身であるはずなのに鶴丸は軽くつままれて手足を引っ込める。
まるで子猫の相手をする親猫のような気分になった。

「国永様、こいつ目の色も似てる。綺麗な夕焼け色だ!」
「顔だけなら、儚げなところはきみともそっくりだな。……ああ、夕焼け色というのも俺ときみの間の色か」

国永としては相づちのつもりの、何気ない感想だった。
けれどそれを聞いた鶴丸は至極嬉しそうな笑みを浮かべ、泛塵も小さく微笑みを浮かべる。

「この塵めと似ていることを、そのように思うのか」
「泛塵はごみじゃない。綺麗だし、俺はきみが国永様と似てて嬉しい」
「そうか……。国永様、世話になる」

突き抜けて前向きで明るい鶴丸と、引っ込み思案で大人しい泛塵は何やらこうして仲良くなったのだった。
それこそ二振りでどこを行くにも国永の後をついて回る始末。
カルガモの散歩だね、と揶揄されたのも一度や二度ではない。
不思議とそれに悪い気がしないのは、二振りが純粋だからかも知れない。
食事の時間、茶の時間、内番の間と素直についてくる姿は幼げで愛らしかった。
ともすれば国永が見当たらない時など手を繋いで探し回るらしい。

「真田の待ち人はまだ居ないからか、泛塵くんは僕らのところにもよく遊びに来るよ」
「伊達とは浅からぬ因縁だしなー! 加羅と一緒に猫撫でてたりするぜ」

比較的三条と行動をともにしがちな国永と違い、鶴丸は伊達の面々によく可愛がられている。
ともすればおやつ目当てに光忠が居る厨へ手伝いに行き、太鼓鐘といたずらの相談をし。
お昼寝の時には大倶利伽羅のところへ顔を出すらしい。
それらの日課を泛塵と過ごすようになってからも同様にこなすうち、彼らも仲良くなったようだ。
大倶利伽羅などは、

「鶴丸より静かで良い」

などと言っていて、国永は大層驚いた。
慣れれば意外と話しやすい刀なのかと思えば、大半は鶴丸が話し連れ回しているよう。
一度そのことを泛塵に聞いてみたのだが、

「鶴丸は、自分が兄だから、と。塵めが弟で良いのかと聞いたが、ゴミではないと話を聞かず……」
「あの子が兄かどうかはともかくとして、確かにきみはゴミではないな」
「国永様も同じことを言うのか」
「ふふ、俺達は人で言うなら兄弟なんだろう? 可愛い弟さ」
「……」
「他人にゴミと言わせるのも、自分でゴミと言ってしまうのも、悲しいな」

酒を呑んでいたため、酔いが言わせたのかも知れない。
時折宗近と共寝をしても、行為の後にはすぐに部屋へ戻る生活をしていた。
共寝をしない時には酒の準備をし、鶴丸にお盆を持たせて夜這いをさせている。
今のところ抱かれたという報告は聞かないので、国永の思惑通りとはいかないが。
それでも少しずつ、近かった距離を改め、共に過ごす時間を鶴丸に当てさせ。

「悲しいとは、まるで人の子のようなことを言う」
「そう、だな……刀であれば、道具であれば良いと思っていたが……いつの間にか、毒されたのかもな」

泛塵に言われて驚いた。
ただ主に使われる道具であれば良いと思っていたのに、胸の中は様々な感情で溢れている。
会いたかった、はいつの間にか、会いたいに。
今何をしているのか、鶴丸に触れているのだろうか。
鶴丸と何を話しているのか。
会いたい、触れたい、触って欲しい。
けれどそれは諦めると決めたから、一目見ることは、見つめることは許して欲しい。
目頭が熱くなり、涙が溢れるのを片手で押さえ込んで誤魔化す。

「国永様は……僕でも、兄と思って良いのだろうか」

ぽつり、と小さく呟かれた言葉に、顔を上げて泛塵を見た。
いつかのように眉尻を下げた困った顔で、けれど頬を僅かに赤らめている。
初めて聞いた自認の言葉に嬉しさが勝り、国永は泛塵の頭をくしゃりと撫でてやるのだった。

出会い、紅色。6 side国永

夢を見る。
月の浮かぶ水面の上、二つの人影があった。
片方は付喪神なので厳密には人とは呼べないが、見た目は人と変わらない。
紺色の狩衣に鴉の濡れ羽色の髪、月の浮かんだ藍色の瞳は他の類を見ないほど美しい。
本霊、三日月宗近。
彼が肩を抱いているのは、一人の女性だった。
黒の着物に、緋色の長い髪が顔を隠しているが、翠色の瞳が存外優しい色をしていることを知っている。
彼女、主は泣いていた。

『俺は、あの子の……怜鴉の味方になってやりたかった。側に居てやりたかった』
『そうか』
『一人で居ることを当たり前だと思う、あいつを満たしてやりたかった』

初めて見る弱気な姿は、普段の彼女と同じ人物だと思えないほど儚い。
三日月宗近は、そんな緋翠を微笑みで見つめていた。
愛おしくてたまらないというような、目を惹き付けるような微笑み。
その気持ちは分かる。
どれだけ愚かなことをしようと、愛を知る温かみがあるからこそ自分たちは人が愛おしいのだ。
無垢な子供のように、仕方の無い子を見守る親のように。
三日月宗近は、そんな微笑みを浮かべながら緋翠を抱き締め、そしてこちらに目を向けた。
視線が交わると同時、口元に人差し指を当てて笑みを深くする。
まるで、ナイショ話をする人の子のように。
視界が回る。
視点が変わる。
瞬きの間に、月の浮かぶ神域は違う景色へと変わっていた。
三日月宗近が桜の樹を見上げている。
すぐにそれが先程の本霊ではなく、分霊なのだと気付いた。
最初の分霊、緋翠の本丸に居る三日月宗近だ。
場所は恐らく、本丸の庭だろう。
満開となっている大振りの桜の樹を見上げていた。

『桜殿。五条の刀は、それは見事な白い姿をしているのだそうだ』

ぽつり、と開いた口から飛び出した言葉に心臓が跳ねた気がする。
これは、過去の光景だろうか。

『一目、会ってみたいものだ』

蕩ける様な甘い笑みで、宗近が呟く。
どんな思いで彼がそれを欲したのかは分からない。
けれど、一つだけ分かったことがある。
国永が励起してからずっと抱えていた『会いたかった』という想いは、宗近のものだったのだ。
俺は、国永は、彼の為に咲く花にはなれない。
彼の花になれれば良かったのに、月のためにあれれば良かったのに。
宗近を好いているからこそ、国永はこの身が寂しかった。
穢れを帯びた身体で、堕ちたこの身で、彼の側には居られない。
宗近が好いていると言ってくれて嬉しかった。
宗近に好かれていることが悲しかった。
真っ白な鶴丸国永ではないことを、厭うた。
せめて、彼のために、彼のための俺で居たい。
いつかこの身が――



国永が目を覚ますと、曰くの任務から数日が過ぎていた。
宗近に想いを告げられた晩、穢れを少しでも抜くためにまたも抱かれることとなった。
その後は神気と穢れの反発の影響で、長く意識を飛ばしていたらしい。
起きたとき既に加州は新たな現身を与えられ、主は不機嫌な顔で采配を奮っていた。

「結局、あれは何だったんだい?」

執務室の隣にある応接間に陣取り、国永は緋翠と向き合って居た。
起きてからはまず腹ごしらえだと食事をし、そこから直ぐにここへやって来た。
本来の目的は刀解を申し出るため。
しかしそれは顔を合わせた瞬間に、緋翠から却下が下された。
理由は、俺の刀として不備はない、とのこと。
これから染まったり、鬼になったらどうすると聞いたなら、その時は責任を持って折ると言われた。
つまりその時でなければ現状維持を申し渡された。
不服を表情に出しながら、けれど審神者の決めたことに反することも出来ず。
ならば、と話の方向性を変えた結果が件の任務のこと。
相対した敵と面識があった様子の緋翠に直接聞いてみることにしたのだ。
国永と緋翠にお茶を煎れていた加州は、暗い顔のまま主の顔を横目に重い口を開いた。

「怜鴉、っていう……緋翠ちゃんが昔面倒を見てた子供だよ」
「子供? きみの子かい?」

母親だったというなら、あの執着も納得出来ると思ったけれど、緋翠はそれを否定した。
お茶のお供にと持ってきた羊羹を前に遠い目をし、そして国永を見た。

「俺は半妖だ。ゆえに子を成せない……いや、成せるのか分からない」
「半妖? なるほど、だから加州と面識がありそうだったり、長く生きてるとか言ってたのか」
「気配は人だろう? 力の半分……アヤカシ側のを、な。玉藻様を殺生石へ封じる要にしたんだ」
「玉藻って、九尾の? というか封じるって、きみ、まさか平安から……?」
「ああ、俺の養い親……爺さんは安倍晴明でな。陰陽術は爺さんから教わった」

随分と懐かしく、現代ではそれなりに有名な人物の名前に頭がくらりとする。
約千年、人をしているというのなら、そりゃあ様々なことを知っているわけだ。
そして陰陽師としての腕もまた、際だって居る理由が知れた。

「昔、子供を二人預かったんだ。一人は怜鴉で、もう一人は……朱璃」
「何があったんだ?」
「知らん。というより、分からん。薬売りとして町へ出稼ぎに行ってる間に何かがあって、俺が帰ったときには火の燻る瓦礫と数人分の死体が残っていて……死んだものと思ってた」

ぽつり、と死を語った瞬間は寂しそうに緋翠は語った。
あの時、町へ行かずに残っていれば救えたかも知れない。
そうは思っても、助ける為に遡行軍の仲間入りをしようとは思わない。
愛がない訳じゃない、情がない訳でもない、けれど歴史を見守ってきた者として、改変は許せる物では無いからだ。

「町って、まさか、あの時の?」

国永が目を見開いて問えば、緋翠が苦い顔をして肩を竦める。
あれからずっと緋翠が個人で調査をしているようだが、結局瘴気に呑まれた町がどこだったのか、いつの時代だったのか分からず仕舞いで。
時の政府は臭い物には蓋をするような対応で、むしろ解明に乗り気ではないようだ。
歴史的にも些細な影響、と他の審神者に箝口令も敷かれている。
とは言え、大人しくそれに従うような御仁でもないはず。

「それについては適任に協力を申し出るつもりだ」
「適任? 既に改変された事象を調べることが出来るのかい?」
「政府がどうやって改変された時間を測定してると思ってるんだ」

呆れた顔で見られたが、言われてみればそれもそうだと思い直す。
通常、審神者に振られる任務としては改変が成される前の事象であることが多い。
多いと言うだけで、細かい所では既に入れ替わっている場合があった。
そういった任務は遡行軍もまた少数である場合があるので、こちらも混乱を防ぐために迅速に動くことが求められる。
その為には改変された事象を確認、ないし特定する必要があった。
つまり組織には調査する術がいくらかはあるということで、それは個人でも同じことが言える。
蛇の道は蛇というやつである。

「とりあえず、あの町についてはそれで良いだろうが……」
「いや、調べるにしても反意ありと見なされるだろう。どんな伝手を使うつもりだ」
「ん? ああ……竜胆という審神者を知っているか?」
「竜胆? その号だと、古参の一人なんだろうが……知らないな」

古参の中でも緋翠と縁故の者は、顔と名前を把握していた。
今までの演練相手も大体の名前は覚えているが、その全てを頭の中でさらってみても思い当たる節はない。
目立った戦果を上げているわけでもないのだろう。
有能であればどこかで名前が上がりそうなものだが。

「烏天狗は一の占術師でな、裏で情報屋として働いてるんだ」
「きみは……よく知ってるな、そんな相手」
「まあな。あと一つ気になることがあるが……それはまあ、また別口で調べるとして。ひとまず国永、今から連結な」

有無を言わさぬ決定に、ため息を吐く国永だった。





ここで竜胆にちょっかい、もとい情報屋として個人的に雇い始め。
更に朱璃が特殊な霊力を持っていたことから、特殊な人間を集めている研究所にデータの横流しを依頼。
見返りとして研究所の仕事の一端を手伝うことになり、怜悧や朱乃と出会う予定。

出会い、紅色。5 side国永

「……くっ、ぁ……ふ、ん……」

体内を探る熱塊に揺さぶられ、押し殺した声が漏れるのを堪えきれずに吐き出す。
後ろから腰を掴んで国永を暴いているのは、三日月宗近だ。
行為が開始される時から俯せで顔を見ていないので、どんな表情をしているのか分からない。
もっとも、見えたとしても今の国永にはそれを見る余裕はないけれど。
初めに抱かれた時は猛烈な怒りを覚えたもの。
それと同時に、傲慢にも身体を貸せと、稚児になれと言われて激しい違和感も感じた。

「ん、んんっふ、ぁ……」

最中に国永が何度イこうと、宗近が体内に吐き出すまで続けられる行為。
なのに身体を暴く手は義務的で、弄る手は最小限に、そうしてどこまでも優しかった。
国永が来るまで誰かが宗近のそれであったという話は聞かない。
あくまでも公平で、何者にも優しい彼が手を出したのは国永だけ。
それまで稚児など必要なかったのは確かだ。
その国永も顕現の際に宗近が近侍であったという縁だけで、間に特別な情があるわけではない。
三日月宗近はその存在だけで最上と言われ続けてきたが故に、他者を必要としない。
天下五剣の中でも特別視されているのは、改変したいと願う過去すらないから。
どこまでも不変に、あるがままを受け入れる。
ただあまねく総てを優しく照らし包み込むくせに、そうあるが故に、冷たい孤高の月。
そんな者に近付きたいだなんて、馬鹿げてると思うのに。

「くぅ、ぁア、ん……」

中に出される熱が少しでも自分のものであれば、自分に心があるからなら良いのに、なんて。
何故そうなのかは知らないが、宗近が抱くのは国永の身体が彼を必要とするからだ。
三日月宗近の神気がなければ、存在出来ないから。
不調を感じるたび、そして抱かれた後にそれが解消される度に思い知り。
抱かれ、神気の影響か白かった髪の毛が桜色に染まるほど赤みを深くする毎に罪深さを思い知らされる。
国永とて愚かではない。
国永の矜持を守るための稚児という名目で、宗近が望まぬ行為を強いている。
触れられれば身体は火照るのに、胸の内は痛みを覚えて冷めていく。
空しいと感じる度、目頭が熱を帯びて涙が溢れた。
触れてくるのが後ろからだけで良かった。
力が抜けて折れた上体は支えられる腰だけを突き上げた羞恥を誘う姿だけれど。
少なくとも伏せる顔が、漏れる嬌声に混ざるのが涙交じりだとは気付かれない。
どうしてこんなにも胸が痛むのか、その意味を考えることが恐ろしい。



鬱屈する心を、驚きの探求と言って人をからかうことで誤魔化しながら過ごしているうち。
主が難しい顔で申し付けたのは、特殊任務だった。
とある時代、とある地域で異常な瘴気が検出されたらしい。

「放置は出来ないのか?」
「……ん? ああ、いや、そうだな……」
「?」

珍しく煮え切らない態度で深く考え込む主は、話を聞いているようで上の空だ。
場にいるのは精鋭の第一部隊であり、国永は当然のこと近侍である宗近も招集されている。

「既に幾度か、他の本丸が出陣をしているのだ。しかし、帰った者は居らぬ」
「何? 新入りだったのか?」
「いいや、練度が低かった訳ではない。むしろ適材を頭打ちで揃える優秀な者等よ」
「そもそも、部隊長には重傷で強制帰還の術が掛けられているよね、宗近さん」

思案げな石切丸の言葉に宗近を見れば、神妙に頷いて返した。
隊長を担った経験はあれど重傷の機会はなかったため、驚くとともに納得する。
戦地の情報は何よりも優先されるものであり、それを探る手段は必ず取ってしかるべし。
隊員には強制帰還の術がないようで、傷を負いすぎれば折れるとは聞いていた。
緋翠は無茶な進軍は一切しない上、安全を考慮した采配をするのでこの本丸では中傷以上は出たことがないのだが。
万屋には折れることを防ぐお守りという、祝福の祝詞が掛けられた道具も用意されているくらいだ。

「無論、しすてむとやらの不備でもない。皆、何かの術によって帰還が遮られ、折られている」
「それは……随分と厄介な……」
「ああ、この任務には俺も行くぞ」
「主が? 行って大丈夫なのかい?」

通常、審神者はその存在から直接戦場へ赴くことはない。
刀剣男士を送り出したあとは戦闘の様子を端末から確認し、道筋をその都度託宣する。
反応が見られた箇所から、遡行軍の瘴気が強く反応する方角を選ぶのだ。
本陣に到達するには向かない戦法だが、活性化している遡行軍を潰すには適している。
そして本丸に居る主には最低限の情報のみが伝わるという次第だ。
だからこそ、情報を得づらい戦地には審神者本人が行く有用性は分かる。
これが昔ならいざ知らず、ただひとの大将が敵陣へ赴く危険性は計り知れない。
けれど緋翠は古参の審神者であり、その個人の戦闘力や陰陽師の腕を交われての采配。
故の例外である。

「人の身は長いからな。剣の腕はお前等に劣るが、己の使い方は負けんよ」
「それに、戦地は異常な瘴気で包まれているからね。私だけでは祓いきれないよ」
「基になる何かを見付けて斬るだけなら任せて構わないよ。生娘じゃないし、ね」
「青江さん、貴方はまたそういう……」
「ねえ、あの二人は分かるんだけど……僕が選ばれた理由は?」

石切丸とにっかり青江のやり取りを見ながら、加州清光が遠慮気味に手を上げた。
払い清め、魔を断つ来歴も実績もないからだ。
三日月宗近はその神性の強さから、並大抵の瘴気なら自身が在るだけで浄化していく権能がある。
更には北条家で守り刀として、呪いをその身に引き受けたこともあった。
鶴丸国永は一時とはいえ神社にその身を奉じられたことがある。
さらに、緋翠とは刀剣男士としてだけではなく式神としても契約をしている為、一番繋がりが強い。
しかし、それらに比べれば加州は何の対抗手段も持ち得ていないのだ。

「お前を選んだのは、俺が行くならお前との動きが一番やりやすいからだ。だろ?」
「ま、任せてよ! だてに昔から緋翠ちゃんのこと知ってるわけじゃないし、一緒に戦ってないからね!」

顔を真っ赤に染めながら自信満々に笑みを浮かべた。
それらを見て、国永はまた緋翠に関する疑問が増えていく。
人間ならばそりゃあ生まれた時から人の身なのだから慣れていて当然だが、加州や安定と話す際、一緒に居て戦った、という単語がよく出てくるのだ。
加州と安定の持ち主である沖田という人間が居たのは、150年前のことだと言われている。
刀剣男士に交じって戦えるほどだ、妙齢の美人に見えるがただ人ではないのだろう。
だが、それがナニなのかは知らされていない。
中には化け猫の本丸や主は白犬、などもあるくらいだし人でない者も珍しくはない。
話さないのは何故だろう、と思うと同時に、案外言い忘れていたというのもあり得なくない。

「任務内容は原因の除去とあるが、安全第一に情報優先で対処するから無視をしろ」
「そうだな、俺達の手に負えるモノなら斬るのは簡単だが……そうでないなら専門の者が必要となろう」
「そうだな。……出陣で任地に飛ぶのは時間差にする。瘴気があるとされる場所から少し離れた地点がゲートだ。そこから、まずは俺が飛んで瘴気の確認、ないし簡易結界を張る。そして隊長と列びの通りに飛ぶ。後は正直、現場で出たとこ勝負だ」
「これだけ情報がないのだ、主が良いならそうなっても差し支えなかろう」
「可能な限り、索敵と隠蔽は加州、青江が頼む」

方針が決まったところで各々戦装束に着替える等準備をし、四半刻後に門前へ集合とされた。
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