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ことの始まり。

神の庭。
真白の光が辺りを包み、静寂が横たわる場所に少女と男が居た。
しんしんと降る雪は積もるには遠く、けれど確実に身体を冷やしていく。
それを分かって居ながら、どうにもする事が出来ずに少女は蓮池の縁に膝を落とし、涙を流す。
「ごめんなさい」
年の頃は十にも満たない、細くやつれた体躯だった。
白金のちぢれた髪と緑の大きな目が特徴的な、それだけの子供。
特に美人でも、華やかな訳でも無い。
けれど少女の表情には、歳に似つかわしくない悔恨が浮かんでいた。
どれだけ悔やんでも悔やみきれない、その深さ。
「ごめんなさい」
少女は泣いていた。
大切にしていたものを、全てをなくして。
それまでの当たり前を、これからの当たり前をなくして。
「お前は、生きるんだ。何があろうと、何が起ころうと」
男が少女を見下ろし口を開く。
託されたものを成し、それを伝えていくために。
少女はそれでも涙を流した。
あるいは過去を、悔やむことしか出来ない現実を、押し流して欲しくて。
月の庭に、しんしんと雪が降る。
とても寒く、凍える記憶だった。
けれど少女が生きていくには、必要な記憶だった。
顔を上げて生きる為には、大切な。
「ととさま、かかさま。ここでお別れです。私は……ひすいは、いきます」
蓮池に涙を流し、記憶が擦り切れるほど長い時を生きて。
そうして、誰かの記憶を、生きる時を、守っていくために。
小さな蓮池だけがその想いを受け、花を咲かせた。
――古い夢を、見ていた気がする。
瞼を叩く柔らかな日差しに目を開ければ、そこは見知った些末な庵の室だった。
池の畔では無い、男の姿も無い。
思えばあれはいつの事だったか、そう考え込む女の顔を細く高い小鳥のさえずりが過ぎる。
「主上、お目覚めですか」
「天后」
疑問ではなく、確認の意を込められたそれに主上と呼ばれた女が応える。
身体に目を走らせればあぐらを掻き、着物の裾から足が覗いていた。
一見すると男のような身なりだが、気難しそうに眉を潜める細面には柔和な女性らしさが覗く。
動きに相まって、さらりと紅い髪が垂れた。
頭の上で括った一つ縛りのそれを、隣に座る者が懐から出した櫛で繕い戻す。
そうして整えられるまま、女が身を起こして目を横へ向ければ、真白の単衣を羽織った人形の様な端正な面が見えた。
天后、その号を与えられた女は式神であり、主人に忠実に仕える士鬼神だ。
遙か昔、女が薬売りとして身を立てる頃からの付き合いだった。
緋翠は死なずの者である。
始まりは今でこそ平安と呼ばれるようになった頃、一人の男に生を掬われて今があった。
掬われた、まさにそう言えるだけの縁だった。
それを男は己の生業を教え込み、育ての翁となって別れた。
気まぐれ、だったのだろうと緋翠は思う。
生業の師であり、生き方の指針であり、死なずの先達者だった。
ただのそれだけ、それ以上にはならなかった。
それでも十分、十全だった。
いつだったのか定かではない記憶、出雲におわす八百万の神の賽により女は罪を申しつけられる。
男はそれを受け、十二の使を遣わせた。
それ則ち十二天将である。
女、緋翠の咎であり、知己であり、家族であり、仕える者であり、枷であり、監視であった。
緋翠が死する時、十二の天将に四肢を裂かれ食われるのだというが、今のところその様子は無い。
「何か変わりは」
「梅の木に花が綻び始めました」
「もうか」
「左様で御座います」
「他には」
「大陰が――」
「大陰?」
「はい、大陰が柳の枝葉に文を見付けて御座います」
大陰、それもまた緋翠の式神の一柱だ。
師より受け継ぎし陰陽の技を持って、緋翠は人間との関わりを絶った後も僅かに繋ぐ方法を残していた。
そのうちの一つ、古方の守司を言いつけてある。
随分と古風な真似をする、とひっそりと口の中で笑みを浮かべて手は煙管道具へと伸ばした。
乾燥した葉を一摘まみ、指先で撫でる様に口火を切れば煙がゆっくりと燻り出す。
「大陰、これへ」
「はいっ」
天后が単衣の袖を振れば、開けられた障子の先から一人の華奢な少女が姿を現した。
緊張のためか震える身体を小さく丸め、頭を垂れて膝を抱える。
「陰陽寮は管使い、沢田と申す者からの奏上で御座います。かねてより政府が隠匿していた時渡りの秘術を悪用する者等の討伐について、主上よりお力を賜りたい、と」
「――時渡りか。面白い」
「はい、その様に……。主上……あの、時渡り、とは?」
年若い士鬼である大陰には馴染みの無い言葉だったのか、そもそもが不可能と言われる現象だからだったのか。
どのような意味合いを持つ疑問だったのかは分からないが、緋翠は意識をそれへと向けた。
現世の言葉ではタイムループ、タイムシフト、タイムワープ等と言われているらしい、それ。
時を川で例えるならその本流、川の流れを昇るが如く、過去へと飛ぶ。
そういう物だと伝えられている。
実際にどういったものであり、どのような作用を及ぼすものなのかは定かでは無い。
時を、過去を変えられれば今が代わり、未来が変わるともされている。
そのように伝えられている不可思議な現象だ。
未来視や過去視を生業とする物も居るが、果たして。
「読んで字の如く。しかし、本流を変えられるとは思わんが……」
変わるとしたら支流であり、時そのものではないだろう。
それでも停滞や様々な流れを許せば、世界が淀む。
淀むと言う事は、有様が変わるという事だ。
人の有様は変わらないが、その場で生きる人は変わるという事だ。
「面白い。が、よからんな」
政府がどのようなつもりかは分からない。
だが、隠匿していた情報を開示するほどに後手に回っているとしたら?
或いは表だって生きる事が出来ず、外れに生きる事となった者等を釣る為の餌だとしたら。
どちらにせよ、変わらないのだ。
人間には嫌気が差し、相容れぬと思い隠居をした。
だが、それでもなおこの場、この時、ここに残り続ける理由。
生きる者が愛おしいからだ。
愚かな者も、賢い者も、すべからく生きる全てが愛おしい。
そして、その者等が築いた道が、羨ましいのだ。
「道を守るのもまた然り」
「主上?」
「その話し、乗ってやろう。隠居生活も飽いた所だ」
「では……」
「ああ、式神をこれへ。招かれてやろう」
女と少女は主の言葉に頭を垂らす。
つまりは、そういう事と相成った。
「ほほう、つまりはつまり、神の裁可を評じるか?」
「違うな。裁可を必要とするのかどうかを聞いている」
神殿、そう呼んで差し支えない場。
白とも黒とも判断のつかない色、それでいて他の何色にも染まらぬ景色。
光の淡衣によって刻々と有様を変えるこの場は、ただ一人の為にあった。
否、一人では無い、一柱と言うべきか。
主であり場を作り上げた張本人でもある彩神。
魔より生まれ、闇より深く出る、光りに満ちた果ての主。
濁龍の王、ルシェメイア。
「ふむふむ、実に短絡かつ単調な疑問だな。いや、疑問ですらない、愚問だ。神の間では総評、こうと決まっている。応えは是、令の如くせよ」
「つまり、如律令」
「そういう事さ。まあ一事が万事、神というのは世界を生かす為にある。世界とはつまり人、人とはつまり道、道とはつまり歴史。此度の人の思いつき、歴史の改変というのは神に徒なすと言って等しい。まあこの程度で疵を付けられる存在ではないのだけど……人はそうではあるまい?」
「左様です」
「うんうん、人とはか弱く脆く儚い者だ。人の夢、と書いて儚いものだから。私にはその脆弱性というのは分からないが……人とは神のためにあるものだからねぇ。易しくしてやらねばなるまい?守り、慈しみ、導いてやらねばなるまい?」
「……はあ」
「ふふん、なんだなんだ気に入らぬか?いや、忖度しておるか?だが畢竟、私自身が降臨しては……降ってしまっては、下ってしまっては、人知れずとはいかぬからなぁ。そこで我らは子飼い、いや小飼の者を輩出すると決めているのさ。私で言う、其方のようにな?」
「……」
「うんうん、分かっておるよ十全であるよ。咎ある己が拝命しても良いのか、じゃろう?勿論、咎人であり罪人であり放浪浮浪放蕩の身である其方が一切合切形振り構わず形城に引き籠もる、とは思って居らぬ。好きなようにされるが宜しかろう。好きなように行き、鋤のように生き、隙だらけに活きるが宜しかろう。方々の者ものも、死なずの者を取り揃えるじゃろうな。息災でな、翠君よ。土産は十唐の舶来品が好いぞ」
「……はあ。濁王も、ご自愛下さい」
言い捨てるだけ言い置いて笑みを浮かべ、緋翠への関心を失った神は手を振り退出を促す。
その払いだけで帳が織り、紗が掛かり、姿が曖昧に空消えた。
神とは空前絶後の変わり身の早さが売りなのかと言わんばかりに変わり身が早い。
毎秒、その姿が変わったとて緋翠は驚きもしないだろう。
しかし濁龍の王と呼ばれる神において、緋翠との相性は最悪だ。
ちろちろと舌を伸ばし、感情の及ばぬ瞳で見透かし、鼻で全てを感じ取る。
まるで蛇のようなそれは、緋翠にとって嫌悪しかない。
緋翠は蛇が得意ではなく、むしろ苦手だった。
あちらの方は緋翠のそういった心持ちなど、気にしていないのだろうが。
何はともあれ、神の裁可は下った。
「そうだ、一つ言っておこう。天つ神はこの度の戦事、末席の付喪神に任を与える事とした。歴史と言えば、道と共に在った彼らが適任だろうさ」
そういう事と相成った。
死なずの者。
例えば緋翠がそうである。
緋翠は狐の眷属――天津狐の因果を持ち、水気を司る巫女の標を持つ。
人であり、あやかしでもある。
あやかしい、つまりは生き物では無い、ともすれば現象とも言える者。
生き物でなければ生きて居ない、生きて居ないのだから死ぬ事もない。
例えば天つ神の使徒、?氏である。
神に近く、共にある事を最上とする者達。
その中で神にあやかる事が出来たなら、それは人の条理を外れる事になる。
条理を外れる、つまりは人圏を失する。
別の世界の理に触れる事となった者は、人の理に触れる事は出来なくなる。
例えば神を模倣する者。
人の身にありながら神を求め、神と成ろうとする者達。
神が生きるものでないのなら、それらもまた生き物であって良い筈が無い。
そう考えた末に生み出された者は、死んだ者を利用する事。
死なずの術を身に孕んだもの。
他にも様々、死なずの者が居る。
死なずの理由があり、道がある。
――まさか、それが一同に会する事になろうとはな。
内心で含みを持ちながら、緋翠は辺りを見回した。
時の政府発足、対時間遡行軍戟滅部隊。
プロジェクト、刀剣乱舞。
始祖として、始まりとして、選ばれた六の使徒、六の審神者。
一の審神者――八千代桜。
往年の樹霊であり、数多に三千世界の弟子を持つ老年の巫女。
此度の審神者が治める土地を狭間の境界に作り上げ、排出したとされる。
二の審神者――蓮。
神仙であり、彼女が抱えるものはすべからく多産に縁が繋がるという。
海の祝福を受けた者、漣の娘とも言われている。
今回の戦で刀剣を生み出し、門徒に配られる要となる。
三の審神者――柘榴。
神に仕える為に神に成る、その為に全ての情報を置き止める者。
子であり親であり、全であり個である。
一に神、二に神、三に神、彼らの全ては神に捧げる為にある。
四の審神者――山吹。
?氏の出であり神に愛されし寵児でありながら、出奔し破戒僧としてあるという。
曖昧模糊、陰中の陽、陽中の陰、そは空の童子なり。
五の審神者――罌粟。
神を愛し、神に愛されし者、神の御業を秘匿せし者。
時の干渉一切を受けぬ術を持ち、時を繰る術を持つ。
六の審神者――椿。
其れは神にあらず、人にあらず、あやかしなり。
惑う者、浚う者、拐かす者、誑かす者。
翠の葉に緋色の花、緋翠に与えられた名であった。
「へえ、随分と粋な名をくれるじゃない?」
大柄の花魁友禅を羽織った男が藍の髪を掻き上げながら口にする。
不遜に笑みを浮かべる様は自信に満ち、袂から覗く上腕二頭筋は筋張って小麦色を晒していた。
つまり、筋骨隆々の大男が女装をしている。
「山吹の名を叙されたのだったか、俺は椿だ。よろしく頼む」
「あら、良いわねぇ。ここの連中って馴れ合いが嫌いなのかと思ってたわ。よろしくねぇ!」
「……お前を見て尻込みしない奴の方が少ないだろうな」
肩を竦めて嘆息すれば、大男は笑みを深めて肩を叩いてきた。
いや、叩き寄せてきたと言うべきか。
あっという間に抱きすくめられ、見た目より柔らかくも豊満な胸筋に挟まれる。
「いやん、もう! 椿ちゃんったら、野生のリスみたいでかんわいいー!そんなに警戒しなくてもお姉さん食べたりしないわよぉ!」
「は? いや、よせ止めろむさい!むさ苦しい!!」
無表情を崩して吠えるように身体を引き剥がそうと肩に手を掛ける華奢な女性を、腰に背に手を回した大男が破顔しながら撫で回した。
端から見れば変態臭いこの応酬に、しかし気に掛ける者は居ない。
半数は用意された円卓に座し、もう半分はそれぞれ思うところに立っている。
ふと、円卓に座していた老年の女性から拍手が上がった。
「ふふ、二人共お若いのね。どうぞどうぞお座りになって、私は八千代桜。どうぞお気軽に、お婆ちゃんと呼んで頂戴?」
「第一位階の審神者にお婆ちゃんはねぇ……」
「八千代、とは。随分と長い時を刻まれましたね」
「ええ。その分、土地への葉脈も多く御座います。今回、政府の方へ授与したのはほんの一部ですね」
数多の、それこそ神域とも呼べる清廉で潤沢な土地を提供出来る者は少ない。
それを成すのは、神ですら今は到底叶わないだろう。
財というのも力の一つであり、途方も無いほどの化け物である。
しかしながら化け物というのなら、他に座す者達も変わらない。
「まあまあ、それのお陰で僕達が城を築けるのだから有り難いよね?」
とりなすように少年が三人の間へと躍り出る。
罌粟の名を叙された白銀の少年は、菫色の瞳を和ませて笑う。
蜜を孕んだ微笑みは無邪気でありながら、毒がある。
「「私共に異論は御座いません」」
続く声は柘榴達。
同じ顔の黒髪をおかっぱにした少年と少女が同時に口を開いた。
最後の一人、月色の瞳に白金の柔らかな長髪を持つ女性は柔和な笑みを浮かべたまま遠くを見る。
そこに否やの感情は見当たらない。
つまり、各々が各々の理由を持って城を使おうという事だ。
ついでに、政府が寄越す些事を請け負うだけの余裕を持って。
自分自身が似たようなところを持ち、首輪の主であるところの神に行ってこいと送り出された事もあって緋翠も異論は無い。
「……ところで、いつまで俺を締め上げる気だ?」
山吹の名を叙する大男に睨み据えれば、快活な笑いが返ってくるのだった。
「全く、貴様という奴は何度言えば分かるんだッ!!」
青白く澄み渡る空が広がる築城の片隅。
青緑の長い髪を振り乱す男の怒声に、鳥がさえずりを残して飛び立っていく。
黄金の瞳をいからせる彼に応えを返すのは一人の女だ。
「煩いぞ青龍。お前がことの始まり、つまり元を記せと言うから大陰にさせたんだろう」
「大陰、花精にして和声。一度きりの生を繋げ、幸先を表す者。人の姿はとれど扱えず、言の葉を紡ぐのみ。言わば数合わせの士鬼」
「そう。そのようにあるな」
「あれは嘘は言わん。だが、あれの言葉が総てとも限らん」
「そうだな、花精とはそういう者だ」
「……で、あるのなら。何故あれに語らせた!このトンチキ主上ッ!!」
「……おお、そうきたか」
畳んだ扇を頭に叩かれ、痛いと小さく緋翠は呟く。
生真面目な気性の青龍であるが、文官としても武官としても優秀だ。
そんな彼がひねりの無い文句を言うのも珍しい。
それだけ怒り心頭という事か、呆れ果てているのか。
大陰が語った内容は主観と壮観が混ざった曖昧な物だ。
物語ですらない、人の語るお伽話ですらない。
霞のような曖昧さだ。
「まあ良いだろう、誰に聞かせる訳でも無いんだ」
「貴方がそんな調子では、これから臣を迎えるというのに些かの不安が惑う」
「……臣? ああ、刀剣男子か」
「今日、なのだろう?」
「うん、その予定だ。資源を整え、室を整え、城を整えた。あと私に出来る事は無い。元々多くも無いが、それすら無い」
嘆息し、呆れた顔で笑みを零す様は年より若い。
見た目だけで言うのなら二十前半。
実際の年嵩はおよそ千年。
袍という漢の国で使われていた男物の着物を誂え、紅い髪を頭の上で一つに括る。
翠の瞳は柔らかに和んでいたが、直ぐに剣呑さでもって鋭さを増した。
「これより我が陣は時渡りの違法者を捕らえる戦場と化す。駆逐しろと大神の仰せだ。動き出した歯車は車輪を逸脱しても止まらない。委細構わず私に従え」
「……御前を離れず、忠誠を誓うと申し上げます」
「主上、我が御心は貴方様の為に」
部屋に居た十一の式神達が頭を垂らして膝を折る。
総ての式神がそうするのを見守り、緋翠は紅い頭を一度だけ揺らした。
「では、備中国椿の本丸、出陣する!」

ラプンツェル。

俺達のコロニーが襲われたのはある意味必然で、けれど戦う力が無かったのは偶然なんかじゃない。
身分に差を付けてあぐらをかくそれらは、圧倒的な暴力の前に屈した。
城を守ろうとした王様はその奇異な力の為に狙われて。
無力な住民達は殺され、秀でた者は捕虜になり。
力のない子供達は自身の手で親を殺し、兵士として収容され。

俺達は少しばかり秀でた容姿と特徴で、奴らに殺されずに捕まった。
捕まえた奴らを奴隷として売買し、略奪の限りを尽くす宙賊。
奴らに目を付けられた原因はコロニーの王様、見目の麗しい一人の青年の為だった。
そうして調べる内に放浪者だった鳥人の青年の存在も明るみに出たようだ。
瞳に美しい奇跡を持つ人間と、不死に近い再生能力を持つ獣人。
彼らは恋人で、友人だった。
たった一人の弟を恋人に託し、他にも捕まった友人達と逃げる作戦を決行したのは奴隷市場に出される前日の事。
初めから、俺だけは逃げるつもりなど無かった。
弟と恋人と離れるのは寂しかったけれど、彼らを逃がせるのなら本望だと思い。
止めようとした友人はその婚約者に任せ、奪った武器を使って暴れ回った。
基地ごと潰してやろうとした反抗は、友人である獣人が瀕死の体で捕まっている所を見せられて呆気なく終わった。



身体を無遠慮にさぐる手に、しかめっ面で反抗を堪える。
ニヤニヤと笑う男達の言う事を聞かねばならない状況なのは嫌気が差したが、壁に磔にされた半死半生の友人を見れば受け入れる事は容易かった。
突き出された逸物を咥え、胸を触られ、尻の間にまで這い回る指は気持ちが悪い。

「……ク、ニ……」

小さく、友人がか細い声を出した。
毒を飲まされ、傷だらけの身体は治癒が遅いのか血だらけで青白い顔が痛々しい。
羽根をむしられ、時折湧き出てくる涙を採取されているとまるでか弱い女性のようだ。
いや、本当はか弱い女性なのだ。
性格や行動力からはそう思えないだけで、守らなければいけない人物の一人だった。

「おら、もっとしゃぶれよ!」
「そうそう、気持ち良くしてくれないとお友達にお薬あげないよー?」
「ん、ぶっ!?おぐ、ぐ……うえっ、えふ、ん、ぐぅ……」

遠慮無く喉奥まで突き上げられて込み上げる吐き気を、必死で飲み下す。
そうだ、今は集中しないと解毒薬が貰えない。
左右に引っ張られる手が熱いナニカを握らされ、腰や尻の間にナニカが擦りつけられる。
段々と粘性を帯びた液体に濡らされるのを感じながら、頭を前後に動かした。
雁首を舐め、玉袋を吸い、尿口を舌先で強く刺激すれば独特の匂いと味がしてくる。
愛しい人達のそれはとても香しく思うのに、これは臭くて気持ちが悪い。
胸の底から吐き気を催しながら、涙目になるのを堪えようとするのに上手くいかない。

「やだ泣いちゃいそう? 美人の泣き顔とかイっちゃうわー!」
「やべ、俺もう出るっ、飲め、飲めよ、うぉ、ぉおおお……!!!」

喉奥に掛けられるソレに、反射で顔を背けて口を離した。
ビュクビュクと、数回に分けて射精されたものに、顔が濡れる。

「あ、おめぇ離すなよ!!」
「えー、お前のくっせぇのじゃ無理だってなあ?」
「そんな事よりよ、もう尻入れて良いかな?すげぇ締まって今すぐぶち込みてぇ!」
「まだ濡れて無いんじゃね?あ、でも出血って処女っぽくて良いよなぁ!」
「白く濡れる顔とかまじそそる、もっと顔射しようぜ顔射!!」

思い思いに離され、引かれる身体に痛みが走った。
それでも振り解く事は許されずに白濁液を吐き出す口に再び熱。
好き勝手に突き入れられるそれに呼吸を乱され、横から掛けられる熱に目を閉じる。
瞼が震えるのは恐怖じゃない、悔しさからだった。
それでも、愛しい人が弟を連れて逃げてくれた事には、嬉しさで胸が梳く思いで。
満足感を抱えた心は、次の瞬間に足の間から感じる痛みに引き裂かれた。

「いっ、ぎッ――!!!」
「うお、めっちゃ締まる、やっべぇ熱い、肉襞が絡みついてくるぞ!」
「何ソレ、名器?まじ名器ってやつ??」
「おー、痛がってんぞ!俺のが食い千切られたらどうすんだよ!!」

だはははと無骨な笑いが飛び交い、それすら聞こえなくなるほどの痛みに冷や汗が浮かぶ。
愛しい人達と経験が無かったわけではないが、解されもせず無遠慮な侵入を受ける事は無かった。
愛しいと思い、思われ、愛される行為は激しくても嫌じゃ無かった。
なのに今は、涙が出てくる。
気持ちが悪い、嫌気が差す、身体が冷える、心が、冷える。
それでも涙だけは見せたくなくて、歯を食いしばって磔の友人を見た。

「……なに反抗的な目してんだよ」

気付いた蛮族の一人が、怒りに目を燃やして殴ろうと手を上げてくる。
けれど他の仲間に止められ、代わりに友人が殴られた。

「ヒスイっ!!」
「おっと、こいつが助かるかはお前次第だぜ?意味、わかるよなぁ」

ヒスイを殴った蛮族がげひた笑いを浮かべて腰を震わせる。
足の間からそそり立つ逸物がぶるんと震え、込み上げる殺意のままに口を噛んだ。
数回深呼吸を繰り返し、頬を殴りつけてくる逸物に口を開けて舌を向け、自分から丁寧に舐めていく。
屈辱的で今すぐ噛み千切りたかったが、だからこそ慎重に舌を動かした。

「――あがッ!!?」

次の瞬間、律動を止めていた後ろの男が動き始めて痛みが走る。
けれど、それに耐えながら舌を這わせ、口に含み、痛みの少ないように腰を動かした。

「お、自分から降り始めたぜ!この好き者が!」
「ひゅー!美人で淫乱とかたまんねぇ!!」
「なあ、リザレクトって確か傷だけじゃなくて薬も抜けたよな?」
「何すんだぁ?」

言われている内容を意識の外に置くようにだけ気を付け、男のモノをすすり吸う。
少しして吐き出された熱を口を抑えられた事で飲み下した。
捕虜となった間、ずっと男達に強要されていたが拒み続けた行為。
その一つを許してしまった事に、心の消耗が一気に進む。
次々に顔に吐き出され、青臭さが鼻について取れない気がしてきた。
そろそろ臭いに慣れて鼻が利かなくなってきているかも知れないが、むしろ都合が良い。
身体にも掛けられるそれが塗り付けられる度、怖気や鳥肌が立ったが気にならなくなってきた。
ただ一心に早く終わる事だけを祈る。
そうして、

「おい、そろそろ休憩させようぜ。薬の相談もしなくちゃなぁ」
「えー!まだ良いだろ、もっとヤろうぜ?」
「馬鹿、こういうのは緩急を付けた方が折れやすいんだよ。それにあっちに死なれても困るしな」

突き放されるように身体を解放され、勢いを殺しきれずに地に伏した。
男達の向こうでは友人が何かの小瓶を飲まされ、磔にされていたのを鎖に繋ぎ直すのが見える。
約束通り解毒剤を飲ませたようで安心すると同時に、疲労が目眩を催してきた。
バケツ一杯の水を掛けられて適当に汚れを流された頃、急に訪れた眠気に抗えずに目を閉じる。
ああ、良かった。
まだチカは捕まってない、ツルもきっと無事だ。
上手くどこか遠くに逃げてくれると良いんだが。
脳裏に過ぎったのは悲しそうに、けれどしっかりと自分を見返して微笑んでくれた最愛の人。
それと、奴らに逆らい続けたせいで傷付けられぼろぼろになってしまった最愛の弟の姿だった。



捕まってからどれくらい経ったのか、暗く窓一つ無い部屋の中では時間の経過が分からない。
体内時計はとうに狂っていて、けれど皮肉にも生かされ続けている。
理由は二つ、この身が不死鳥を模る獣人であった事。
そして、目の前の桜色の友人を殺さず生かさず壊す為。

「うあ"あ"あ"あ"あッ!!」
「好い声で鳴くねぇ、もっと声聞かせてよー!」

どうやら今友人の細い肢体を慰めモノにしているのは猟奇主義の奴ららしく、感触が鋭敏すぎて苦痛に感じる薬を使われたらしい。
ゴロゴロと地面に転がる注射器は、常人なら廃人になっていてもおかしくない量だ。
金色の瞳から涙を零し、口の端からは唾液を流し、逃げようと擦り傷を作りながら身悶えしている。
それでも時折こちらへと目線が降れば、一瞬だけ息を詰めるのだ。
まだ正気を保って静かになる友人に、何故自分を置いて逃げなかったのかと罵倒したくなる。

「ぐぅ、ひ、あ"あ"あ"、いッ……ぐ、ぅううううッ!!」
「あれ、泣くのやめちゃったー?薬足りないのかな、もっと入れようぜ」
「馬鹿、それ以上だと死んじゃうってー!けどまあ、嫌だってお願いするなら考えてやろうぜ」
「そうだな、助けてってお願いしても良いんだぜ? だーいじょうぶ、俺等そこまで悪人じゃないからさぁ」

どの口が言うのか。
鎖で固められ、代謝を落とす薬を使って動きを封じている俺を盾に、男達が言う。
十分に動くにはある程度の熱量が必要になる俺は、首の枷を掴む男にされるがまま友人、クニに顔を向けていた。
また、瞳孔を収縮させた瞳が俺を見る。
動きそうになった口がわななき、けれど彼は男達に請う事をしない。
それで良い、お前はそういう奴だ、だからそのままで居てくれ。

「……言っておくが、そのくすり……それいじょうは、死ぬぞ」
「は?何言ってんのトリ子ちゃん?」
「俺は、くすしだ。それ、は……ふくさよ、……しんきん、こうそく……」

途切れがちになる声で、けれど注意事項を上げてやれば男達は一旦躊躇する。
少しの間男達の密やかな声がした後に薬を取り上げられ、再度動きがあった時には抑えられた悲鳴が上がった。
どうやら薬の追加は諦めたようで、しかし今度は粘度の高い水音が響く。
その後に香るのは鉄を含んだ独特のもので、クニが傷付けられた事を知った。
最後は水バケツと、おざなりに手当のされた白い肢体が色を無くして床に転がされる。
がちがちと奥歯を鳴らして小刻みに震える身体を抱える事も出来ず、束の間の静寂を味わった。



身体が熱い。
どこもかしこも熱くて、粟立つ肌が風に吹かれるだけで気持ち良い。
頭がふわふわとして、真っ白になる刺激が欲しくて、もっともっとと快楽を求める。
お腹の奥が突かれる度、胸の桃色に染まった突起が弄られる度、肌が触れる度に脊髄から電気が走ったように白くなる。
それが欲しくて腰を動かして、お腹に力を入れて締めて、舌がナニカを舐めて、口が吸いつく。
気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い。

「しろちゃん上手に咥えるようになったねー?」
「ここ、気持ち良い?ずっと痙攣してる、イってる?ねぇイってる??」
「うわ、萎えても精子だらだらじゃん……これ潮噴くかな?嬉ションするかな??」
「んぶ、ちゅ……むぐ、おぼ、お、あむ、ちゅ、れろ……ぢゅ、ぢゅうう……」

口にナニカをくれるのが嬉しい。
お腹を突かれるのが嬉しい。
前を触られるのが嬉しい。
触られるのが嬉しい。
嬉しい、嬉しい、嬉しい、嬉しい。
もっと欲しい、もっともっと、痛いのを忘れるくらい、溺れてる、溺れたい。

「あいつらしろちゃんに痛い薬与えたんだってさー」
「えー、気持ち良い方が良いじゃん。ほーら、しろちゃんだってこっちのが嬉しいよなぁ?」
「あはぁっ!うれひ、もっと、ほひぃ!おしり、いじって、おく、ついて、おくち、ちょうだい、しゃわってぇ」

顔がだらしなく弛むのを感じるけど、気にならない。
口に含んだナニカから温かい熱を待って、吸い付いて、出されて、飲み込む。
嚥下する感触にもゾクゾクと背中が粟立って、知らない間に笑みが零れた。
嬉しくて仕方なくて、涙を零しながら喜ぶ。

「ほらしろちゃん、おしりじゃなくておまんこ。俺達のちんぽがズポズポしてるんだよー」
「おまんこ!おりぇのおまんこ、もっとちんぽでズポズポして、おくにちょうだい!」
「あははー、素直な子は好きだよー!ところでしろちゃん、他の子が逃げた場所知らない?」
「あへ、ほかの、こ……? ……ぁ、ぁああ、ちが、うそだ、やめろ、離せ!!」
「うわ、しろちゃん!?」

しろちゃんって誰だ、俺は、なんで、こんな。
違う、喜んでない、嬉しくない、もう欲しくない、気持ち良くしないで。
逃げた場所なんて知らない、皆逃げれたのか。
チカ、上手く逃げれたんだろうか、泣いてないだろうか。
ツル、生きてくれ、泣いても良い、悲しくても、全部許すから生きて。
どうして、どうして二人の事も、皆の事も忘れて、思い出せなくなって。
ああ、ツル、チカ、今はただ笑った顔が見たいよ。



地面に転がる注射器は一体どの位あるのか。
ここにある以外の物も、何種類も大量に投与されて。
爆発音がしてからあいつらは居なくなったが、クニも反応が無い。
少し前から、何度も痛みと快楽の薬を交互に投与されてクニは人形の様に動かなくなった。
心が壊れたのか、ショック症状で意識が混濁してるのかは分からない。
ただ、床に投げ出した身体は傷と精液塗れな事が痛々しい。

「……クニ、起きてるか……」
「……」

目は開いているのに、空に視線を投げたまま。
指先すらピクリとも動かない。
涙の跡が目を赤く染め、頬を腫らせていた。
桜色の髪の毛は綺麗に染まっていたのに、ガビガビで固まっている。
白い肢体は肋が浮き出るほど、痩せ衰えた。
それでもクニは綺麗だった。

「……クニ……必ず、助けるから……」
「……」

物言わぬ人形と化した彼は人ならざる色香を醸し出している。
儚い物とはなんと美しい事か。
せめて、今は少しの平穏を。



会いたい。
もう一度、君に会いたい。
それが誰の事を思ってか、分からなくなってしまったけれど。
叶うなら、もう一度抱き締めて欲しい。
君の傍は、安心出来て、泣いて良いと思えるんだ。
温かくて、支えてくれると分かるから、一緒に生きたいと思えたんだ。
だから、

「クニ、返事をしてくれ、お前の望み通りツルは無事だ、俺は約束を守ったぞ…」

暗かったけれど、怖かったけれど、何も分からなかったけれど。
とても温かかったから。
とても優しかったから。

「クニ、今度はお前が、約束を守る番ではないか?」

泣いて欲しくない。
悲しい声を、聞きたくない。

「必ず、戻ると…言ったではないか」

分からなかったけれど。
でも、会いたい誰かだと思ったんだ。
チカ、ツル、とても大切な誰か、大切な思い出、俺の奇跡。
ああ、君の顔が見えるよ。

RimWorld 設定

参加組
▼CoC初代 五条、いち、うぐ、包平、宗近、緋翠、黒葉、国兄
▼バース クニ兄、ツル、チカ、クロバ、ココ、イチ、ウグ
▼GE くに兄、つる、ちか(つき)、ゆき(くになが)
▼本丸 三日月、鶴丸、小烏丸、獅子王

CP
▼初代 いちつる 包うぐ、三条夫婦、小烏夫婦
▼バース ハッピーセット、ココクロ、イチウグ
▼GE つるくに、つきゆき
▼本丸 白黒みかつる ししこが

ぺっと
▼りつき(白竜)、るな(シロ)、れいあ(ねこ)、しゅり(ねこ)、れいり(ひつじ)、しゅの(ひつじ)、ひすい(白狐)、れいしー(スランボ)、ヒスイ(鳥人)
動物と会話可能。騎兵隊組は意識有り。
▼拠点ぺっと りつき、るな、れいあ、しゅり、れいり、しゅの
▼途中参戦 れいしー(チカ加入)、ヒスイ(ツル加入)、ひすい(本丸一人加入)

ベース
▼気がついたら謎の廃墟に飛ばされていた初代組と一つの作業台。
そこからバース、GE、本丸とどんどん人が合流していく。
帰る方法が判るまで現地で安定した暮らしをするのが第一目標。

作業振り分け
▼料理上手 国兄(初代)、イチ(バース)
▼調教 つる(GE、人外枠で好かれる)
▼工作 クニ兄(バース)、緋翠(初代)
▼栽培 ウグ(バース)、
▼医者 黒葉(初代)、

登場敵
▼クトゥルフ(物理で倒せる)
▼虫(親と子、セット。岩盤下、巣を潰すまで沸く。触手とか?)
▼汚染されたサイキック船(メカノイド(イモ虫とカマキリ)。洗脳波とか出しちゃうぞ)
▼他派閥NPC、宙賊(誘拐、モブ姦、奴隷などなど)

派閥分類
▼異国人の集落 高い文明レベルを持ち、トレードでも多くのシルバーを持ってやって来ます。
敵対した場合、現代的な兵器を持って襲撃して来ます
▼原住民キャンプ 昔から惑星に住んでいる原住民です。トレードに持って来るシルバーも
多くありません。敵対した場合、原始的な武器を持って襲撃して来ます
▼宙賊 他の派閥を獲物とする暴漢の集団です。彼らだけは、他の派閥に助けられても
恩を感じたりしません。

状態異常
▼サイコスード(幸福、プラスの波動。男性又は女性)
▼サイコドローン(低度、中度、重度、極度。憎悪、催淫(敏感)、快楽(中毒)。男性又は女性、精神感応者は1ランク重度)
▼発情(Ω質の者に影響)
▼ヒート(α質の者に影響)
▼○○しないと出れない部屋(施設のどこかに突然現れる謎の部屋、くとぅるふ製)
精神反応
▼精神不安定 五条、クニ兄、つる、小烏丸
▼精神感応 ツル、くに兄、ゆき、鶴丸

登場
▼初代組 くとぅるふのせい(脱出ポッド)
▼バース 他派閥から流れて来たり
▼GE 奴隷にされてる
▼本丸 不明
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