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会話文。

母「つるちゃん、15歳の誕生日おめでとう!」
父「鶴丸、ハンター試験合格おめでとう!」
鶴丸「父さん、母さん、ありがとう!」
国永「全く、二人とも慌てすぎだぜ。母さんは誕生日に料理を作ろうとして太刀を持ち出すし、父さんはとびっきりのアイテムを作るとか言って大樽持ち出すし……。鶴、改めて誕生日と合格おめでとう」
鶴丸「国兄、ありがとう!」
母「だって、つるちゃんがお嫁さんに行っちゃうのよ?お母さん嬉しくて、ついはりきっちゃったの」
父「そうだぞ、まさか鶴丸を娶るのが国永だとは思わなかったし、お父さん昔っから息子は嫁にやらんって殴るやつ楽しみにしてたんだからな」
国永「父さん……そんな過激な事した事あるのかい?ケルビだって狩れないだろうに」
鶴丸「え、父さんって牧歌的だと思ってたけど、そうなの?」
母「お父さんはちょっと動物が好きなだけよ!ポポだって狩れないんだから!」
父「その分母さんが強いからバランスは取れてるぞ」
国永(今から二人の将来が不安になってきた)
鶴丸(父さんも母さんも、俺がお嫁って、国兄のお嫁さんって認めてくれるんだ)
母「それで、結婚式は上げてから外界に行くのよね?お小遣いは持った?飛行船に乗れる?」
父「村長さんに話したら、明日の夜に宴を開いてくれると言っていたから、今日は家族で過ごそうな」
国永「母さん、心配いらないから。俺が一緒に行くんだし、ちゃんと準備はしてあるよ」
鶴丸「父さん、ありがとう!宴だなんてちょっと恥ずかしいけど、嬉しいよ」
両親「本当に、立派な子に育って……私たちに似たのね」
国永(むしろ反面教師だ)
鶴丸(国兄は頼りになるからなぁ)


国永「さて、今日はどんな依頼を受けようか」
鶴丸「あ、国兄!イザナ村の依頼があるぜー」
国永「うん?ブナハブラの討伐か……書士隊の検体用か?」
鶴丸「ここで村長の名前を見るなんて思わなかったよなー。国兄、これ受けよう!」
国永「ああ、良いぞ。場所は孤島か、毒けむり玉を持って行かないとな」
鶴丸「調合……俺苦手なんだよなぁ……」
国永「ふふ、知ってるよ。俺が作れるから、君は材料をまとめてくれ、良いかい?」
鶴丸「うん、分かった!」
依頼受注クエスト完了
鶴丸「なんか普通の奴より多くて大きかったな、国兄!」
国永「そうだな、驚いた。虫に刺されてないかい?」
鶴丸「大丈夫だと思うけど……痛くも痒くも無いし」
国永「それなら俺が触診で見てやろうな(微笑んで頬にキス)」
鶴丸「く、くににぃ!じゃ、じゃあ俺も、触診する……!(蕩け顔)」
国永「ああ、余すとこなくたっぷり診てくれ(腰を引き寄せて抱き締め)」


鶴丸「国兄、父さんと母さんから荷物が届いたぜ!へへ、この間手紙出したからかなぁ」
国永「うん? ああ、拠点が決まったって手紙の返事か。それにしても荷物って……」
鶴丸「えーっと、拝啓 つるちゃん、くにちゃん、元気ですか?
拠点決まったのね、おめでとう! お祝いにハンター装備を作って貰ったので送ります。
これを着て、いっぱい頑張ってね? 母より」
国永「父さんからも来てるな。この装備は、良いぞ。……父さん、筆無精過ぎないかい?」
鶴丸「でも二人からって事だよな? 何の装備だろう、たのし…………」
国永「……ブナハ一式。しかも前衛用と後衛用……あの二人、見た目だけで選んだな」
鶴丸「……なあ国兄、もしかしてこの間の依頼って……」
国永「ん? あー……、いや、まさかそんな……村長ってなってたし。な? それにしても後衛用は俺が着けるべきだな」
鶴丸「国兄、弓使うの!?」
国永「うん? 嫌かい?」
鶴丸「ううん、狩猟とか採取でしか使わないし、もう使わないのかなって思ってただけで……国兄が弓使うと、綺麗で格好良いから俺好き」
国永「ふふ、嬉しい事を言ってくれるな。それならせっかくだし、暫くは弓を使おうか(頬にキスして腰を抱き寄せ)」
鶴丸「くににぃ……うん、うん、俺の好きな姿、いっぱい見せてぇ(はにかんで首に腕を回し)」
国永「甘えたがりで可愛いな、俺のお嫁さんは。もっとワガママ言って良いんだぜ?」
鶴丸「今でもワガママいっぱい言ってるよ。それに、言わなくても国兄が甘やかしてくれるから(赤面)」
国永「暫くまともに狩りに行けると思うなよ?(首筋舐めて押し倒し)」


緋翠「紹介しよう、あちらが姉者のヒスイだ」
ヒス「紹介されたな、こちらが姉様の緋翠だ」
鶴丸「へ? どっちが姉なんだ?」
国永「というか君たちは似ていると思ったが姉妹か」
緋翠「ああ、どちらも古龍占い師で古龍観測隊に所属している」
ヒス「後は依頼を受けたハンターのサポートだな。まあ移動を請け負う位だが」
鶴丸「いや、だからどっちが姉なのかなって……」
ヒス「自分より優れている、と思う者を敬うのは当然だろう?」
緋翠「姉妹と言うより双子でな、私たちの場合は生まれより能力で上を決めている」
国永「つまり、そういう事と。君たち自身が援護する事はあるのかい?」
緋翠「ハンターを救出する際にやむを得ない場合、飛竜種等により気球への損害の可能性が出た場合、今のところはこの二択だ」
鶴丸「は? 君たちが戦うのかい!?」
ヒス「ああ。俺はライトボウガンだが、姉様は双剣使いだ」
国永「なるほど、気球からの援護の場合は君が、地上からの援護の場合はそちらが出るのか」
鶴丸「外の世界は驚きがいっぱいだなー……」


鶴丸「何度か依頼を受けに行って思ったんだけど、古龍観測隊って皆マント着けてるんだな?」
ヒス「そうか? 確かに多いかもな」
緋翠「マントは防寒、防砂、耐熱性に優れているからな。更にグライダーや寝具としても有能だ」
国永「グライダー? まさか気球から飛び出す事があるのかい?」
ヒス「ある。お前達ハンターの救出や飛竜に気球が狙われたら大変だろう?」
鶴丸「お、驚きだじぇ……」
緋翠「まあ滅多に無い事だがな。その分、期待して居るぞ? ハンター諸君(頭を撫で)」
鶴丸「……なんか、緋翠って母さんみたいだ(ほんわか笑い)」
国永「心配性な所がかい? うちで言うなら父さんの方が似ているだろう」
ヒス「ふむ、お前達の家族関係は分からないが、姉様は確かにハンターから母君と言われているぞ」
緋翠「やれやれ……随分と子が多くなってしまったな(クスクス笑い)」
国永「それだけ信頼されているという事さ。良い事だろう」

設定&人物紹介

イザナ村
名前の由来は誘い、又はイザナギ・イザナミという歌姫とハンターのペアから
ゴア・マガラに襲われた王立古生物書士隊の飛行船団が不時着して出来た村
村の中央に残骸と歌う樹が、村長宅に飛行船の名残がある
村人全員が潜在的に狂竜症であり、バース性を持ち、時折ゴア・マガラの襲撃がある
小さな村だが周辺を平原に囲まれていて、薬草やキノコの類など採取資源に恵まれている
男女の性別より第二の性バースを重要視しているため、近親者通しの番など割と見る
装備もそれに準じて動きやすい服装を鑑み、女性用と男性用を性別関係なく着ている
外界との交流は飛行船頼みだが、交易やハンターとの交流もしている
ただし村の人間を連れ出すのは掟で禁じられている
村の人間が外界へ出る方法はただ一つ、書士隊とハンターでペアを組む事
平原の採取は子供のおつかいとしても出来る事、お目付け役のハンターが一人常駐
村の人間はギルドの派遣教官の下で書士隊やハンターの資格(HR)を取る事が出来る
村の子供なら5歳から訓練をし、15歳でハンター試験を受ける事が出来る
村では15歳になると成人の儀を行い、大人の仲間入りとされる
ペアとなった二人は誓いの儀式で同じ入れ墨を入れ、
片方と死に別れた時は弔いの儀式で入れ墨を消す風習がある
刺青の痕は性感帯になるため、ペアは番が多い
また、飛行船に歌姫が乗っていたという噂もあり、歌姫(歌唄い)の資質ある者を輩出する
イザナ村の住民やペアは、その特殊性から王侯貴族に奴隷として狙われる事も多い


椿 国永 18歳
イザナ村出身
男 α性(鶴丸と番、特殊Ω)
武器:スラッシュアックス(または弓)
特徴:狂竜症持ち、ウィルスに掛かると発情、ウィルスが深刻化すると
髪が真っ黒に染まり凶暴化状態(ギョロ永)になる
人間として黒蝕化の初生体、性別的に元が男であるだけで、内面は両方兼ね備えている
裸を晒すなど家族にもした事が無いのに恥ずかしいとユクモ温泉を苦手としている
ただし足湯は気持ち良い、温泉卵は気に入っている
書士隊として鶴丸とペアを組んでいるが、ハンターとしての力量も相当
鶴に誘われなければ臨時ハンターとして、一生を村で過ごす予定だった
鶴のαで運命の番、狂竜症で黒永状態になると記憶は飛ぶ(が、本性のドSが出る)
オトモ:シロ(白色ワントーン)
刺青:右足の内太ももに竜胆の花

椿 鶴丸 15歳
イザナ村出身
男 Ω性(国永と番)
武器:チャージアックス
特徴:国永大好きで広い世界を冒険出来るハンターに憧れを持っていた
13歳の誕生日に近くの平原で狂竜化ウィルスに触れ発情、国永が相手をした
その際に国永の暴走も発覚し、お互いに告白、番の約束とペアの約束をする
国永の暴走は本人も知らない鶴丸のみの秘密で、治し方を探す為にも狂竜化を追っている
オトモ:くにちゃん
刺青:左足の内太ももに竜胆の花

ホケキヨ 鶯 16歳
イザナ村出身
男 Ω性(吉光と番)
武器:ハンマー
特徴:
オトモ:
刺青:鎖骨に鬼灯の花

小烏 黒葉 18歳
イザナ村出身
男 Ω性(ここと番)
武器:弓
特徴:
オトモ:
刺青:うなじに鬼灯の花

三条 宗近 23歳
ユクモ村出身 二大名家の一つ
男 α性(国永と番)
武器:太刀
特徴:三日月の目、竜人族
オトモ:

三条 ここ 20歳
ユクモ村出身 二大名家の一つ
男 α性(黒葉と番)
武器:双剣
特徴:竜人族、ジンオウガに拾われたモンスター育ち、長髪
オトモ:

一期 吉光 15歳
ユクモ村出身 二大名家の一つ
男 α性(鶯と番)
武器:太刀
特徴:
オトモ:

三条 三日月 500歳
ユクモ村出身 現在はポッケ村でハンター
男 α性(緋翠と番)
武器:太刀
特徴:
オトモ:

黒い蓮の花。11

繋いだ手の熱さを思い出し、風呂に入れて綺麗になったにも関わらず、やつれて痩けた頬が痛々しかった。
それでも、鶴丸に反応をして微笑んでくれた所は鶴丸の知っている国永だった。
ヒスイも出来るだけ頑張ると言ってくれたのだ、自分に出来る事を頑張れば良いのだと鶴丸は考える。
まずは何をすれば良いのかは分からないが、宗近と相談をしようと寝室に戻る足を速めた。
先ほどの報告を聞いている時に、かなり参った様子をしていた。
大好きな兄を支えて、最愛の兄の回復を待とう。
怖くても、そう思えば耐えられる気がした。
自分たちの居室へと足を踏み込めば、居るはずの宗近の気配も明かりすらも無い。

「あれ、ちか兄?」

不安な気持ちが押し寄せたが、明かりを付ければ部屋の真ん中に置いてあるソファに深く腰掛けている姿が直ぐに見つかった。
どうにも機敏になっているらしいと安堵の息を吐いて、宗近に明るく見えるよう微笑んでみせる。

「ちか兄、国兄の様子見てきたよ」
「…………ああ、くになが、か」
「うん、少しやつれてたけど……きっと、大丈夫」

顔を見上げてくる宗近の瞳は揺れていて、けれど頬を大きな手で撫でられてくすぐったいと笑った。
けれど次の瞬間には、表情を凍らせる事になる。

「ヒートの匂いをさせおって、そんなに俺が欲しかったのか? 国永よ」

ふふ、と笑って愛おしさを伝えてくる表情は宗近が国永と居る時に見せる物で。
鶴丸は一度もそのような表情で見られる事は無かった。
なのに、今目の前に居る宗近は鶴丸をあたかも国永のように触れ、見てくる。
暗闇の中で見えていたものが、あやふやになるような感覚。
それだけ苦しく、辛かったのかも知れないが、鶴丸は宗近にだけは間違えて欲しくなかった。
自分に兄を通して見る事だけは。

「ちが、違うよちか兄! 俺は国兄じゃない、鶴丸だッ!!」
「分かって居る。あんな所で、苦しかったろう……慰めてやろうなぁ」

優しく微笑む瞳はいっそ狂気であり、震えながら鶴丸は涙を流した。
それだけこの人も国永を愛しているから、狂気に走る事を選んだのかと。
国永の事を思うなら、正気で居て欲しかったのに、と涙する。
抵抗をする気は起きない。
宗近がそれで一時でも楽になるのなら、国永が居ない分を支えるのは、鶴丸の役目だと思ったから。
ただただ、悲しくて、寂しいけれど。
けれど否定をしない代わりに、肯定をしない事を選ぶ。

「沢山、俺の愛で腹を満たしてやろう。おいで、国永。愛している」

問答無用で横抱きにされ、ベッドへと運ばれる。
横一文字に結んだ唇を、下肢に手を掛けられてこじ開けられ、舌を絡め取られて口内を舐られた。
この感触が欲しかったのも、言葉を望んでたのも鶴丸では無い。
せめて声は抑えていようと離された唇に手を押さえつけ、下肢を舐る快感に耐えた。
しかし好いところは兄と似ていたようで、簡単に快楽を引き出されて身体が跳ね上がる。
宗近の頭を離そうと手で押さえていたはずが、いつからか撫でる手つきに変わってしまった。

「んッ、んん、んぁ、っく、ひぃッ!? あ、ああッ、だめ、でる、でちゃうッ!!」
「良いぞ、沢山出すと良い」

再び宗近の口の中に取り込まれてしまえば、先走りの出る鈴口を舌でぐりぐりと舐られて簡単に射精してしまう。
肩で大きく息を吐きながら、罪悪感が鶴丸を襲った。
しかし謝ろうと口を開くより早く、足を掴まれて俯せに押し倒される。

「や、なに……!?」
「安心しろ、後ろを慣らすだけだ。いかなお前とて、慣らさねば切れてしまうかも知れんからなぁ」
「ひぃ、ッぐ、あッ!!」

最初から指を二本、ぐちゅりと先ほど出した精液を絡めて躊躇なく突っ込まれた。
快楽に弱いと言っても鶴丸は国永と一回りほど体型が違うのだ、それは多すぎて苦しさから吐き気を催す。

「や、あ……はッ、むり、くるし……ねが、ぬいて……!」

何とか耐えながら頭を振り、宗近を振り返れば冷ややかな目で見詰められて喉がヒュッと呼吸を止めた。
そんなにも冷たい目で見られた経験は無く、まるで人間性を否定するかのように凍てつく冬の湖を模した瞳は恐ろしい。
どんなに叱られている時でも、そんな瞳は見た事が無かったと思い自然と身体が震えた。
歯の根すらかみ合わない中、冬の権化は微笑みを浮かべて鶴丸の向こうの人を見る。

「そうか、そんなに早く俺が欲しいか。気付いてやれんですまぬなぁ」
「……あ、ち、ちが……」
「今くれてやろうな、国永よ。いつもの様に呼んでおくれ、ちか、と」

言い終わると同時、鶴丸は後ろから引き寄せられて剛直を後孔へと一息に突き込まれた。
十分に解されていない中はきつく、そして範疇外の大きさに中が裂けて酷く痛んだ。
それなのに鶴丸の瞳からは涙が滂沱の如く流れても、痙攣する喉は悲鳴を上げる事を出来なかった。

「ふ、まるで生娘の様に締め付ける。奥まで突き入れてやろうと思ったが、狭いな」
「……ッ、ぃ……!?」

遠慮無く前後に動かれ、いや、もはや鶴丸の両足を持ち上げて背面座位の格好となりながらも奥へ進もうとするそれに、恐怖する。
戯れに絡み合う事はあっても、本気で抱かれた事は無かった。
国永しか知らない身体に、それ以上の物で暴かれる事は両手の数ほども無かった。
苦しい、痛いと思い逃げたいと身体は反応するも、空いている手で前を擦られてしまえば好いものは好い。
むしろ苦しさから逃げようと意識がそちらを集中し始め、中の物を締め付ける様にうねり出す。

「くっ、はは、いつもより随分と欲しがるな、好いぞッ、孕むまでくれてやろうッ!」

嗤いながら背後から抱き込まれ、後孔を穿たれる快感に身体を震わせて鶴丸は逃げようとした。
快感が怖く、そして宗近が怖かった。
背後で笑う宗近の様子は完全に狂人のそれだと思えて、国永に助けて欲しくて逃げたかったのだ。
いつもの様に恐がりだな、と微笑んで抱きしめて、甘えさせて欲しかった。
全てを夢だと思ってしまいたかった。
けれど、背中から抱き着く腕は震えていて、追い縋っているようで、見捨てる事も出来ない。
だから鶴丸はされるがまま、後孔を穿たれて快楽を与えられながら必死で耐える。
夢なら覚めて欲しいと願いながら。

「くッ……国永、お前の中はやはり好い……だが俺を奥まで受け入れてくれないのは何故だ?」

鶴丸の中に長く濃く射精をしながら、それでも宗近は止まらない。
ゆるゆると己の精液で滑りの良くなった鶴丸の中を、無理矢理に拓いていった。
背面座位の格好から膝立ちになり、腕を掴んで力任せに引いて腰を動かす。
好い所を擦られる度、背をしならせて快感に喘ぐ鶴丸は目を見開いて首を振り、やり過ごそうと必死だ。
それを否定しているのだと勘違いをした宗近は更に深くへと突き穿ち、己の全てを鶴丸の腹に収めた。

「ああ、俺のモノで膨れて居るな……。ようやく俺を受け入れてくれたか……」
「は、ひ……ちあ、に、……ひぬ、あ、ひんじゃ……」
「死なぬッ!! お前は、俺を残して死ぬというのか、共に居ると誓ったのにッ! お前まで俺を、裏切る気か……一人にせぬと、言うた癖に……」

言葉を荒げ、動きを荒げながら暴いていく。
自分が誰を腕に抱いているのかも分からないまま、狂気に落ちていき。
二度目の精を腹に放ち、引き抜いたそれは血が付いていた。
驚き、呆然と抱いていた主を見る。
真っ白に近い白銀の、暴かれてぐしゃぐしゃになった服の間からは白い肌が見通せる、愛しい者に似ているが違う青年だった。
自分も弟と愛し、彼も兄と慕ってくれた、実の兄を最愛としている、椿鶴丸。
閉じられた瞼の奥には、蜜色の瞳が笑っている筈だった。
彼は今、下半身を脱がされて後孔から白濁を垂らしながら意識を失っている。

「つ、つる……おつるよ……そんな、まさか……俺は、おまえを?」

返事は無い。
恐る恐る頬を撫で、抱き上げれば血の色を失ったまま宗近に身体を預け。
鍛えて筋肉を付けている国永とは違い、華奢な身体は抱き締めれば折れてしまいそうだった。
何故、何故間違えてしまったのか。
同じ血筋とは言え、分かって良いはずだった。
けれど何も分からず、国永だと盲信し無遠慮にも力任せに抱いてしまった。
宗近は鶴丸を抱き締め、声にならない声を上げて泣く。
ヒスイが唐突にやってきて殴りつけるまで、宗近は鶴丸を抱き締めてその場で固まっていた。



エンドローズは温室だと鶯に紹介された場所に来て、呆気にとられていた。
思っていたより上質な物であり、個人宅でここまで揃えているのは圧巻だ。
育てている種類も、料理のスパイスとして代表的ながら薬草としても上等な物ばかり。
どれもこれも、国永に聞かれたエンドローズが勧めた物だった。

「凄いわね、これを一人で?」
「正確には国永が中心として、他は手伝い程度で育てている」
「鮮度はもちろんだけど、脇芽の処理も出来てるし申し分無いわね」
「待たせたな」

後から入ってきたヒスイが揃ったのを確認し、鶯に聞いていくかを目線で訪ねる。
彼は頷き、他言無用である事を承知した。

「処置は?」
「下腹の植物を枯らすのが先ね。申し訳ないけど、種類が特定出来ない以上は食事からの栄養補給より、除草剤を混ぜて枯らしきるのを待った方が良いわ」
「その間にクスリ抜きと解析待ちか。思った以上に後手だな……」
「一つ良いか? 現場に魔方陣の様な物は無かったか?」
「無かったわ。というより、残留物自体が少ないわね」

以前出くわした神話生物とはまた違う種類のようだと納得し、鶯はそれを素直に告げる。
何かを特定しようとする上で消去法しか残されていないのなら、それも重要な手がかりだと思ったからだ。
案の定、二人は不審な顔をして見合わせた後に頷きあう。

「こっちに来てないって事は、情報が少ないか積極的じゃ無いな。俺は魔女の書で探る」
「薬は私が担当ね、良いわ。確かウグイス、よね? 貴方って、古い物専門だったかしら」
「古物商の事か? それなら珍しい物、というのも扱っている」
「じゃあ鶯は俺のサポートと、エンドローズとの橋渡しを頼む」
「了解した」

話は素早く終わらせ、鶯とエンドローズを残してヒスイは手早く国永の居る客間へと戻る。
何か嫌な気配がした為だ。
そうして、ヒスイのそういった魔女の直感は嫌なほど当たる。
客間に入った瞬間、防音だったそこからは漏れなかった悲鳴が聞こえた。

「あ、ああ"あ"あ"あ"ッ、ッグ、あぐ、いぁぁああ"あ"あ"ッ!?!」
「国永ッ!?」

ベッドの上で仰け反るほど苦しがり、口から泡を吹いて上がる奇声に慌てて止めに入る。
苦しさのせいか喉を何度も掻き毟ったらしく、爪も指も喉も血だらけになっていた。
何度もバウンドし、足で蹴られ手で掻き毟られ、それでも抑えようとすればその手が顔へと向かって行くのが見える。

「よせ――ッ!!!!」

顔の半分を掻き毟った爪が目を傷つける事だけは何とか抑えられたが、抉り出そうとしていた手は瞼を深く傷つけた。
更には暴れた時の対処はヒスイだけでは不可能だという事を叩き込み、国永は異様な程の静けさで再び眠りにつく。
今のうちに、と対処法を決めたヒスイはため息を吐き。
持ってきていた分全ての革ベルトを使って、国永に簡易拘束具を付けさせる。
口は猿ぐつわで舌を咬まない様に固定をし、顔の半分に傷薬を塗ったガーゼを当てて目隠しをした。
そうして原因になったであろう奴を思い起こし、部屋に鍵を掛けてから探し始める。



原因となった馬鹿は直ぐに見つかった。
部屋の中央で呆然と泣き崩れ、己がした事に悔いていたからだ。
どれだけ温室育ちなのかと、ヒスイとしては腹立たしかったがそれより抱き締められている人物の方が心配だった。
先ほど別れた時の笑顔もなく、涙の後で目を腫らした痛々しい顔で眠る鶴丸。
どういった理由かは知らないが、宗近が暴走し鶴丸を襲った事は明らかだった。
遠慮無く拳を握り、お綺麗で誰も汚した事が無いだろう顔に一発ぶち込んだ。

「目は覚めたか?」

流石に吹き飛ぶ程の威力は無かったが、口の端から血が出ていたので溜飲を下げる。
ここでもし宗近にまで何かがあれば、今度こそ国永の命は無いだろう。

「お前か、わざわざここまで叱りに来るとは……随分と鼻が良いのだな」
「馬鹿か、俺は国永の対処で忙しいって言ったよな?」
「……――国永に何かあったのか?」

鶴丸を抱き締めながら立ち上がろうと片膝を付いた宗近に、足を肩に掛けて押さえ込んだ。
宗近は大人しく従い、それ以上は動かない。

「暴れて危うく失明しかけた。抑え込めたが、次にお前がヘマをすれば分からん」
「暴れ……? 意識が、戻ったのか?」
「一時的にな、今は寝てる。拘束具を付けざるを得なくなった。恐らく無意識下で番の異変は分かるんだろう」
「拘束…………俺は、会ってはいかんのか」
「ヒートだからな。そうで無ければ、俺が嫌だという理由だけで拒みはしまいよ。鶴丸を看病してろ」

恐らくは熱が出る、と言ってやれば暗い顔をしながらも頷いて見せた。
何もしないで居るよりは、原因が自分だとしてもやる事がある方が助かるのだろう。
どうにも空振りばかりでやるせない物を感じながらも、己も同じように思うのだろう事を覚悟してヒスイは客間に戻るのだった。

黒い蓮の花。10

家に帰宅した皆を迎え入れ、温かい紅茶でもてなして応接間へと通した。
電話で指示されていた風呂の用意を済ませた水洗場へと、連れ帰ってきた二人を横たえる。
ヒスイの薬によって眠っているが、身体のあちこちは細かな生傷も見えた。
鶯は着せられている服をハサミで切り開き、一期は状態を確認していく。

「お労しいですね……」
「そうだな……こんな状況でも無ければ服の感想なども言えたかも知れんがな」

二人ともやつれていて、元々細く身体の線もよく分かる体型をしていた黒葉は、肋すら浮いているのに下腹だけが微かに膨らんでいた。
国永の下腹もまた同じように膨らんでいて、また肋というよりは全身の筋肉が落ちて細くなっている。
全身を綺麗に洗ってやりたいが、二人とも身体が異様に熱くて発熱している可能性があった。
その状態で洗われるにしても体力の消耗が心配なので、泡風呂の泡で軽く洗い流していく。
サラサラと、艶々としていた二人の髪は精液が固まってガビガビになっている所が多く、一期は望まぬ相手のモノだろうそれが許せなかった。

「ん? ……吉光、黒葉のうなじにあるコレを見てくれ」
「どうしまし……入れ墨? ですか?」
「……国永には何か無いか? 鹿の様に見えるが……角かツタの様なモノが首に巻いているな」

髪の毛に隠れていて気付かなかった、と己の胸に黒葉の華奢な身体を抱えながら鶯が言う。
顔色は優れないが汚れは確実に落ちてきて、撫でる手に安心するのか表情は穏やかだ。
一期が同じように国永のうなじを確認するが、同じ紋様は見られない。
ふと、何の脈絡もなくガラリとガラス戸を開ける音がした。

「言い忘れてた、尻の中も洗ってやってく――」
「うわぁあああああ!? 入ってこないで下さい、何と破廉恥なッ!?」
「ヒスイ、流石にどうかと思うぞ?」
「ああ? 何でだよ、お前等の裸なんぞ見慣れてるし今更だ。それより、長い事突っ込まれてたみたいだから後処理を頼む」
「ヒスイ、二人の状態なんだが……」
「後で聞く。今は休ませる事を優先してくれ、悪いな」

そういうと素早く扉を閉めて出て行ったヒスイに、一期は大きくため息を吐いて動揺を逃がす。
鶯はクスクスと小さく笑い、黒葉を抱え直すと後孔へと指を入れ始めた。
瞬間、ヒクリと黒葉が身体を跳ねさせる。
顔色を確認すれば少し赤みが増していて、吐息も熱いモノとなっているが目を覚ます気配は無い。
なるべく感じさせず後処理をしようとするが、身体は酷く敏感に反応した。
長い事抱かれているとこんなにも敏感になるのだろうか、疑問を覚えながら手早く済ませてやる。
一期も手早く済ませてしまおうと、国永を正面から抱き締めるように抱え直して気付いた。
腰の下、尻の割れ目に近い部分に鹿の様な入れ墨がある事を。

「鶯、国兄さんにもありました。場所は違いますが、同じモノの様です」
「そうか……所で吉光、連日俺を抱いたとして、身体は敏感になると思うか?」
「はい!? え、っと、それはその……人による所が大きいかと。相性もあるでしょうし……あの、私何かしました?」
「ああ、黒葉がいやに敏感な反応をすると思ってな。これが普通なのか、影響なのか判別が着かない」

一期は一瞬、自分が鶯に何かしてしまったか、回数が多かったのかなど考えを飛ばしたが、どうやら違ったらしい。
安堵の息を吐いて良いのか、残念だと思えば良いのか複雑な心境だ。
自分も後処理を済ませて休ませてやろうと思い直し、スルリと国永の紋様を撫でた。

「はぁッ!? あ、う……」

瞬間、意識を落としていたはずの国永が目を大きく見開き、一期をぎゅうっと抱き締める。
明らかな喘ぎ声と反応に、鶯も思わず見るがその紅い瞳は直ぐに閉じられて、再びくたりと力を投げ出した。
一期は何かを考えるように手を止め、国永を鶯に預けるように手放す。
訳が分からないまま、しかし鶯は国永を片手で受け止め、一期が黒葉を抱き上げるのを見守った。

「すみません、鶯。先に黒兄さんを休ませて来るので、国兄さんをお願いできますか?」
「ああ、構わない」

元々体格的に何となくで決まった役割分担で、国永ならば力はある為に鶯でも十分だろう。
ただ途中で投げ出す様な性格では無い所が気になっただけだ。
それも後から説明があるだろうと国永を抱え直し、鶯は後孔を探って後処理を始める。
少し開いただけでどろどろと白濁が出てくる中に赤が混じっている事に気付き、顔をしかめた。
国永はやはりビクビクと身体を跳ねさせて喘ぐが、意識を取り戻す気配は無い。
しかしかなり奥まで犯されている気配に、兄二人がこんな状況になるとは、とため息を禁じ得ない。
二人にとってどれだけ矜持を傷つけられる事となったのか。
知らず、中を探る手は荒くなり、ゴチュンと奥の良いところを指で引っ掻いてしまう。

「ひぁああッ!? あ、っひ、ふぁ」
「国永?」
「あ、あー……、ぅ、いぁ……」

蕩ける紅い瞳を再び開き、背をしならせて喘ぐ国永。
白い肌は赤く染まり、焦点の合わない瞳が揺れて舌を出して喘いでいる。
兄と慕う人間の欲に堕ちた姿に、壮絶な色気を感じた鶯は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
後処理をしているはずの手は、中を探る指は、いつの間にか良いところを探るモノへと変わっていた。
これは拙い、と考え直した鶯は指を一気に引き抜き、国永は腹に白濁を散らして脱力する。

「……なるほど、吉光が避けた理由が分かるな」

一人残された浴室でため息を吐き、国永の腹を綺麗に洗い流してやりながら自分たちもその場を後にした。
流石に裸のままはまずいだろうと、用意されていた大きめのTシャツを着せてやる。
熱が上がってきたのか先ほどの影響か、国永が吐き出す吐息は嫌に熱く間隔も短くなっていた。
全身を桜色に染めてダボダボのTシャツだけ、というのはまた欲を誘う姿だと思いながら横抱きに客間へと連れて行く。
恐らくヒスイが看る事にするのだろうが、何にせよ早く解決すると良いという事しか願えなかった。



鶯が応接間に戻ってから少し間を置き、一期もまた戻ってきた。
場には迎えに行ったメンバーがエンドローズを含め、既にソファについている。

「鶯、先ほどはすみませんでした……」
「いや、あれはヒート期のフェロモンか何かが出ていたのか?」
「ええ、あの部分を触った瞬間に強くなりました」

風呂場で確認していた入れ墨の部分の事だと分かり、頷いて返した。
黒葉はどうやらヒートを迎えては居なかったらしく、それで何も思わなかったのかと理解する。
だがそうなると、国永の様子を見るメンバーに困った。

「何の話かは分からないが、まず二人に報告して貰おう。どうだった?」
「体中に生傷が。痕からして縛られたモノや何かの拍子についたモノだと……特に手首が酷いですね。それと二人とも発熱しています」
「黒葉にはうなじ、国永には腰下にそれぞれ同じ入れ墨を確認した。触れると快楽を生み出すのか、意識が無くても反応していたな」
「後は……そうですね、下腹部に妙な膨らみが……」

宗近とここがソファの肘置きを強く掴んだ気配がしたが、暴れる事は無かった。
それを当然だ、とヒスイは頷く。

「恐らくはクスリの影響で出来た病巣だと思うわ。一週間でそんなに大きくなるなら植物系の芽腫か何かね。後で視て確認するわ。ただ、鑑識に回した香の成分にも植物が使われている事は分かったわ。他はまだ解析中」
「まあ、大方孕む為の子宮を代替する植物だろう。何を栄養としているかが難点だが、精液が含まれるのは間違いないな」
「何故断言する?」
「政宗の発言と状況。あれだけの男が二人を白濁塗れにしてたのは、単にレイプが目的って訳じゃ無いさ。後は入れ墨の効能、徴を調べりゃ向こうの正体も掴めるな」
「……私たちに出来る事は、ありますか?」

ここがヒスイを真っ直ぐに見て口を開いた。
それはこの場に居る全員の思いであり、何かをしていないと気が狂いそうだという事でもある。
ヒスイは目を伏せて小さく首を振った。

「極力離れていてくれとしか。クスリを絶つから暴れるだろう、腹の物は栄養を付けようとお前達を誘うかも知れん。誘惑には乗るな、乗れば死ぬ。お前達が指示に従わなくても死ぬ」
「……し、ぬ? くになが、が……?」
「精神か、身体が保たないかは分からん。最大限の助力はするが、最悪の場合はそうなる」

クスリを絶つという事は、通常の場合でもそれだけの負担をもたらす物だ。
本来なら少しずつ減らしていくか、偽薬を使う事を想定するのだが、未知の薬物相手にどこまで有効か分からない。
それ故に、全てを絶つという選択肢しか無い。
更に毒を盛って腹の芽腫を枯らし、香で身体の動きを鈍らせて暴れた時の対応とし、入れ墨からエンドローズの持ってきた魔女の書で敵を探る。
どれだけの時間が掛かるのか、本当に影響は無くなるのかも分からない。
根気の要る時間だが、それぞれ疲れ切っているのも分かる。

「ツル、国永の様子を見るか? 今なら平気だろう」
「見たいッ! あ、けどちか兄は? 俺が良いならちか兄も――」
「駄目だ。宗近は国永の番だからな、ヒートの匂いに耐えられんだろう」

それに、今の様子を見る限りでは不安定すぎて逆効果になりかねない。
とは口に出さないが、エンドローズも同じ意見だ。
どちらが病人なのか分からない程、青白い顔をして今にも倒れそうに見える。
宗近に遠慮をして様子を見に行きたいと言えない鶴丸に、宗近は薄く微笑んだ。

「良いのだお鶴、俺の代わりに……国永を見てきておくれ」
「ちか兄……分かった」
「黒葉の方はここ、お前が耐えられるならとしておく。好きにしろ。国永は俺が、黒葉はエンドローズがそれぞれ看る予定だ。国永はハーブを育てていると聞いたが」
「あ、うん、温室に……国兄が大事に育ててるんだ」
「エンドローズ、各自様子を見終わったらそこに集合だ」
「分かったわ、それじゃあ私は行くわね」

エンドローズが席を立って黒葉の所へ向かったところで、報告会はお開きとなった。
ヒスイも鶴丸に声を掛けて様子を見に行くと促す。
運ばれた客間には、ベッドの中央で苦しそうに息をする国永が横たわっていた。
熱が高いのか、頬は桜色に染まっている。
額には濡れたおしぼりがズレて置かれていた。
恐らく一期か鶯が乗せておいたのだろうそれは、苦しさに寝返りを打ったせいで落ちている。
鶴丸が近くに寄り、ぬるくなったおしぼりを取って洗面器の冷たい水で絞り直した。
ひんやりとしたソレが置かれた瞬間、一瞬だけ表情を顰めたが、徐々に緩やかな物へと変化する。
頬へ手を添えれば、冷えたそれが涼しかったのか、それとも鶴丸のものだと分かったからか。
薄く微笑んで気持ち良さそうに頬を擦り寄せた。
それを見て、鶴丸の涙腺が緩んだ。

「うぇ、国兄……ッ! くににぃいい……」
「……悪いな、今回ばかりは俺でも保証出来ん。手は尽くす」
「ん、うん、うん……くににいを、たのむ……必要なら、何でも言って……」

ヒスイに頭を撫でられ、肩を抱かれて慰められながら。
鶴丸は布団から出た国永の手を抱いて、暫く泣き続けたのだった。

黒い蓮の花。9

「最近客に尋ねられたんだがな、夢のような快楽を与えてくれるだか叶えてくれるだかのクスリがあるとか」

エンドローズも三条邸にやって来た時、ヒスイは口にした。
それは甘い香りで錠剤や香、注射の体を成している、と。

「俺は非合法なクスリは自分で調合した物しか扱わない事にしている。……だがもし、これを国永が入手出来たら?」
「……間違いなく、使うと思うわ。淀酔していたけれど、だからこそ本気で悩んでいた事を言ったと思うの」
「一体、国永は何を望んだんだ……?」

憔悴しきり、食事も喉を通らないとやつれながらも憂いを帯びた宗近の横顔は、より一層の美しさを増している。
だがヒスイはその顔を一蹴に伏し、何なら鼻で笑って見せた。
何を望んでいたかなど、こうなっては一つしか無いだろうに。

「ようはお前との子を望んだんだろうよ。大方子が欲しい、孕めとでも言ったんじゃねえのか種馬が」
「愛しい者が居るのだ、子を望んで何が悪いッ! 俺には、俺の家族は国永と弟たちだけだ……だからこそ」
「別に悪いとは言ってねぇ、自分の発言に責任を取れと言ったんだ。子を望む前に愛してる奴の幸せも気に掛けてねぇんじゃ、順番が違うんじゃねぇのか?」
「そのような事は無い……ッ、お前に何が分かるッ!!」
「知るかよボケッ! てめぇが一番可哀想だってのか、あぁ"ん? 結果として国永と黒葉が可哀想にされてんじゃねぇかッ!! お前等匂いがクセぇんだよ」

金緑の瞳で宗近とここを親の敵とばかりに睨み付け、仕舞いには舌打ちをする。
話す気が無くなったヒスイは一人がけのソファにドカッと乱暴にふんぞり返る様に座り、エンドローズがため息を吐きながら口を開いた。

「貴方たち二人はね、私たちからすると人間離れした特殊な家系だって事が一目で分かるの」
「確かに貴方達は普通の人とは気配が違いますが……似たような者、なのですか?」
「そうね、そう捉えてくれて構わないわ。私たちも異質ね。けれど他は皆と変わらないわ」

泣いたり怒ったり、普通にするでしょう?とほっそりとエンドローズに微笑まれてここは口を閉ざす。
宗近も思いの外、ヒスイの言葉にショックを受けたようだったが今は大人しく鶴丸の手を握っていた。
誰も彼もが口を閉ざした事で満足したヒスイは、鼻を鳴らして再び口を開く。

「直感だが、クスリの出本が怪しい。だがそいつを叩いても時間の無駄だ、GPSの最後の座標を教えろ」
「それは構わんが、今も消えたままだぞ?」
「足跡を追う、こっちのやり方でな。恐らく遠くは無いだろうから、国永と黒葉を回収する力のある奴が来い」
「……それは、俺達が行っても良いのか?」
「構わん。が、状況は一刻を争うと思え。これだけ後手に回ってるんだ、最悪の可能性も考えろ」

最悪の、と言われて全員が顔面蒼白になったが、驚いた事に一番に乗りだしたのは鶴丸だった。
自分の最愛の兄を救えないなら意味は無い、という姿は怯えや悲壮さが強いが、瞳ははっきりとヒスイを見返す覚悟で固まっている。
それに初めて穏和に微笑みながら、ヒスイは頷いてみせた。
頭をわしゃわしゃとかき混ぜるように撫でながら、任せろ、と。
そんな鶴丸を見て、鶯は家で用意しておく事もあるだろうと居残りを決め、一期もそれに習う事となった。
行くのはヒスイとエンドローズ、鶴丸に宗近、ここの5人となり、エンドローズの運転で近場まで車で向かう事になる。



あれだけ探したのが嘘のように、5人は一つの建物の前に居た。
運転をしていたエンドローズが何度か同じ道を辿り、くねくねと迷路に迷い込むようなそれが、気付けば到着したと言われたのだ。
地図で見ても分からなかったその場所は、貸しスタジオの一種のようだった。

「結界で認識をズラされてたんだ、気付かなくて当然だ」

しれっと涼しい顔で言ったヒスイは、詳しい事はエンドローズから聞くように言って先に中へと入っていく。
何をしに行くのかと聞けば、まじないを掛けてくると言われた。

「つまりね、私とシノノメ……ヒスイは、魔女なの。ただ映画に出てくるような物じゃないわよ? 基本的には薬草を摘んでおまじないとか薬とか作ってるけど」
「それって……あの、まじょ宅の母親がやってたみたいな?」
「んー、そう思って構わないわ。魔女の資質っていうのは、五感に受け継がれるの。私は目、あの子は鼻、そして直感」
「それはどの位信用が出来る?」
「魔女が名前に掛けて誓ったら絶対よ」

ヒスイは以前、鶴丸に対して名前に誓ってお前を誇りに思う、と言ってくれた事が合った。
何となく特別な事なのだろうとは思っていたが、それ以上の意味が込められていると知って驚いている。
会ったばかりの時にそれだけの信頼をしてくれた、最初から友達だから力になると約束をしてくれた。
そんなヒスイが約束を破るとは思えない。

「だが、万が一違った時は?」
「ちか兄! そんな言い方、ヒスイに対して失礼だ」
「失礼? 先に無礼な言い方をしたのは彼奴だ。それに国永の命が掛かっている」
「……そうね、違った時はヒスイが死ぬだけだわ。日本では言霊、言葉に力が宿るんでしょう? 魔女にとって名前は意味、命を表すわ」

魔女を否定するという事は、エンドローズをも否定するという事だ。
別に知り合って数分程度の知り合いにどう思われようと構わないが、エンドローズは友好的に接したいと思っている。
ヒスイは逆に、非可逆的に取られるのなら最初から理解は要らないという所が誤解をされやすい。

「この場所を見つけられたのは、ズレた経路を正しい順番で通ったから。そしてズレた経路が見えたのは私だけ、だから運転も私。理解は出来たかしら?」
「ふむ……通常であれば話のネタにもっと詳しく知りたい所だが……」
「そうね、ヒスイが戻ってきたわ」

二人が頷いて入り口を見れば、片手を上げて中に来いと誘導しているヒスイが立っていた。
全員でそのまま中に入り、外履きのまま中を闊歩する。
侵入者が堂々としていて良いのか?と疑問を抱く者も居たが、ヒスイからの指示はただ声を出すなという事だった。
そうしてスタジオの立派な観音扉をガタンと開くと、多数の男達が横たわっており。

「国永(国兄)ッ!!」
「黒葉ッ!!」

真ん中のベッドで揃いの服を着せられて白濁まみれに横になり、手錠を掛けられている二人の姿が見えた。
その二人の真ん中辺りに一人の男が立っており、意識があるのはそれだけの様だった。

「よう、俺の知り合いが来てないか?」
「政宗、あんた……」

二人の魔女は対峙する。
一人は詰問するように、挑むような口調で笑みを浮かべて。
もう一人は全てを分かって居たが、信じたくないと悲しみを浮かべて。
クスリで濁りきった目は正しく相手を介さず、淀んだ思考はそれが誰だったかも思い出さない。

「誰だてめぇら、邪魔すんじゃねぇ。もうすぐだ、もうすぐ国永が俺の子を孕むようになるッ!」
「お前の子だと……? 誰が、お前の子を孕むと言った?」
「国永さぁッ!!!」

両手を広げて神にでも祈るかのようなポーズを取った政宗は、しかし直ぐに殴り飛ばされた。
誰よりも早くに動いて衝動のまま殴り飛ばしたのは、宗近だった。
力の加減をされていない拳は爪が手の平に食い込み、歯ぎしりを堪える口元は憤怒を表し、瞳には明確な殺意を抱いて。
かつて己の婚約者を追い詰めた時にもこの様な強い感情は抱かなかった。
ただ邪魔だと思い、数々の愚行に呆れ返り冷め切った殺意を浮かべただけ。
それほどまでに、己から花笑みの君を連れ去ったのが許せなかった。
自分のモノのように扱う事の愚かさに、地獄を見せてやろうと思った。
国永が自分から宗近を選び、そして宗近を唯一と定めたのだと見せつけたかった。

「ちか兄、手が! 怪我すると国兄が心配するよ……」

怒れる宗近を前にして、そっと握り拳を両手で包み込み、優しく開いていく。
ここは固まった身体を無理矢理動かし、黒葉の華奢な身体を抱き上げて涙した。

「お探し申し上げた……かような所で、この様に扱われていたとは……」
「これは……眠らせたのね、香か何か? それにしても……二人とも酷い状態だわ」
「いや、催涙弾だったか? あれを改良した奴でな、眠ってるだけなのは確かだ。残留物の洗い出しを頼む。黒葉はまだマシだが、国永がどうにも怪しい」
「国永は俺のモノだ。あれが許し、俺も許した。誰にも渡すつもりは無い」

政宗と真正面から対峙をし、瞳は国永と遜色ない程の澄んだ紅に染まる。
永劫、死してなお留まり続ける呪いを魂に刻んでやろうと怒りに燃えていたが、それが故に違和感に気付いた。
魂が無い、見えないのだ。
三日月の目をしても見通せない者など、この世の理に従う者ならばあり得ない。
つまり男、政宗は既に魂を捧げているという事に他ならない。
魂失くして動くモノ、知識のある者はそれを神話生物と呼んだ。

「お前……グールか」

その名の通り、動く屍と呼ばれるモノ。
死してなお執着し、その執着が消えない限りは殺す手段など限られている。
執着を忘れるほど痛めつけるか、グール殺しの秘薬を使うか。
宗近は咄嗟に鶴丸を背に隠すように自らを盾にし、言葉を聞いたヒスイが動く。
腰のポーチ横に備え付けていた砂の小瓶を取り出して中身を少量、手の平に乗せた。

「理に反する者よ、生を亡くした亡者よ。死は死へと、灰は灰へと還るが良い。在るべき姿を思い出せ」

ふわり、と政宗に向かって広げられたそれは、まさにグール殺しの魔女の秘薬。
祝詞により神聖化されたそれに堪えられる訳も無く、砂が当たった部分からぐずぐずと肉が溶け始めた。
政宗は驚き、頬肉や手の肉がこそげ落ちていく自分を見て恐怖をする。

「いやだ、嫌だ、国永、まだ俺は本懐を果たしてない! 神の所へ逝きたくないッ!」
「定めを亡くした奴が何を言う。おい、そこの。これを全て掛けてやれ。俺は国永を見る」
「……そこの、とは随分な言い方だが……承ろう」

憎々しげに男を見、溜飲を下げる為にも宗近は砂を受け取ってゆっくりと砂時計の砂のように振りかけていった。
その間にヒスイは国永を見るが、魔女の目を使うと状態の確認をする前に瘴気に包まれて何も分からない。
更に性行為後の独特の青臭さ、変に甘い花の香り、バース性のヒートの匂い、生き物が灼ける匂い。
鼻が良いと言われただけあって匂いには敏感で、種類を嗅ぎ分ける前に利かなくなって、もはや最悪だ。
少なくとも青臭さとヒートの匂いは国永からしている事だけは分かった。
瘴気のように見えるのは他人に害を及ぼす物では無いが、国永と黒葉に深く絡み合っていると理解する。
これは恐らく、心を犯す類いの呪いだ。
黒葉の首に絡みついて今にも魂を捕ろうとする手、国永の腰下に絡みついて胎に悪さをしようとする手。
どちらも放っておくには危険過ぎるが、他の人間には無いそれに根本が分からなければ手の施しようが無い。

「おいテメェ、二人に掛けた呪いは何だ」
「のろい? 国兄と黒兄に何かされてるのか!?」

ヒスイが顔も向けずに視線だけで政宗を威嚇すれば、宗近の影から飛び出てきた鶴丸がしがみつく。
そんな鶴丸を見て政宗は目を見開いて驚き、鶴丸に手を伸ばして顔に笑みを浮かべた。

「ヒ、ヒヒヒヒッ! 教えるかよバァーカ……」

言葉と同時、宗近が掛けきった砂により政宗の身体が完全に崩壊しその場には泡を浮かべた銀色の液体だけが残る。
最後まで始末の悪い奴だった、とヒスイは舌打ちをして鶴丸の頭をぽんぽんと叩いて落ち着かせた。
完全に溜飲を下げきった訳では無いだろうが、少なくとも宗近が鶴丸を回収するはず。
その間に他の痕跡を調べ終わっておくのがヒスイの仕事だ。
誰の趣味か分からない、しかし異様に似合っている漢服に沈む国永にはレイプ、呪い、腹の中に違う生物の気配、ヒートの痕跡が。
頬に着いた誰とも知らない奴の残滓を指で拭ってやり、やつれてやせ衰えた顔を見る。

「馬鹿だな、お前は……俺はお前達が幸せな姿を見たいだけなのに。簡単に見せてくれないなんて、酷い奴だ」

意識の無い相手にだからこそ言える本音。
一言、相談して欲しかった。
自分なら力になれると驕っていたから、国永と自分の間なら言えると自信を持っていたから、そうでなくても自分なら気付けると、何故か勘違いをしていた。
宗近の事を悪く言う資格など、本当は無いのだ。
以前怪我をしていたらしい手の平の傷跡をなぞるのと、

「……くになが」

宗近が国永の名前を小さく呟くのは同時。
目覚める筈の無い相手はピクリと指先を揺らし、薄く目を開けた。
焦点の合わない紅い瞳は濁りきっていて、姿などろくに理解する思考も働いていなかったろう。
けれど彼は、声のした宗近の辺りを見、小さく、儚く微笑んで意識を闇に落とした。
まるで涙を流す宗近を励ますように。

「……国永、すまん、すまない……ッ!」
「国兄、黒兄、遅くなったけど、迎えに来たよ。帰ろう、家に……みんなで……」
「ええ、帰りましょう……。もう、二度と、離しません……」

それぞれが涙を流しながら、大切な者を抱き締めて帰る事にしたのだった。
クスリなどの痕跡は微か、割られた錠剤が見つかった事と香立てに微かに残った原料。
エンドローズはそれらを自前の組織に解析指示を出すと言って別ルートで帰った。
残った三人には国永のヒート対策として、それぞれ即効性の鎮静剤を飲ませて急場を凌ぐ。
宗近ですら理性を飛ばすと言っていたヒート期にぶつかっているという事は、つまり傍には居られないと言う事だ。
運転はバース性とは無縁なヒスイが変わったが、国永は宗近と鶴丸の二人に抱かせて乗せる事にした。
黒葉はここが大事に抱き込み、暗い顔をしたまま何も話そうとはしない。
まずは帰ったら風呂に入れなければ、と考えたヒスイはそのまま片手で携帯を操作し三条邸に掛けるのだった。
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