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ハロウィン前夜

「出来た!ミコト、出来たぞ!」
国永が嬉しそうにベビーベットで大人しくしていたミコトに微笑みかけた。
「どうしたの、お母さん?」
「信濃とゆきととハロウィン行くんだろ?
せっかくだから可愛い格好していった方がいいと思ってな、作ってみたんだ」
そう言ってミコトを抱き上げると、可愛らしくデフォルメされたおばけの着ぐるみを着ていた。
「あう?」
「わ、ミコト可愛いね!」
ルイがミコトを抱き上げて頬を剃り寄せる。
キャッキャとミコトの嬉しそうな声に国永も嬉しそうに笑った。
「お母さんは本当に何でもできちゃうんだね」
「何でもじゃないさ、出来ることだけしかしてないぜ?
まぁ、俺の場合は実の親と折り合いが悪かったから出来る限りのことは自分でした結果だな」
「そうなんだ…僕もなるべく自分のことできるようにしないと…」
「ルイはまだそのままでいてくれていいぞ?
俺も黒葉も初めての我が子をまだ甘やかしていたいからな」
隣に座ってミコトを抱いていたルイを国永が包み込むように抱きしめた。
「ルイにも仮装衣装作ってやるからな」
「ほんと!?楽しみにしてるね」
ルイはミコトと国永に笑いかける。
それが国永にとって本当に幸せな気持ちになれる時間だった。
「あ、そうだ、お鶴にも見せてやろう」
最近ようやく覚えたスマホのカメラをあちこちに傾ける。
ミコトは大人しくルイに抱かれてカメラをじっと見ている。
「難しいな…うーん…」
ようやく納得いくアングルで撮れたのか、嬉しそうに鶴丸にメールを打っている。
「お母さん、お父さんには送らないの?」
「黒葉はもうすぐ帰って来るだろ?
ビックリさせてやろうぜ、きっと写真撮りまくるぞ」
「じゃあカメラ出しておいてあげよう」
ふふっと二人で微笑んでると、国永のスマホが鳴った。
鶴丸が電話で感想を伝えてきたのかと思えば着信は一期吉光からだった。
「ん?吉光から電話?」
もしもし、どうかしたかい?」
『国兄さん、お願いがあるんですが…』
妙に神妙な声に、また厄介な事になっているのかと息を飲んだ。
「いいぞ、可愛い息子の頼みならな」
『あの…シヴァにハロウィンの衣装を作ってあげたいのですが…
お鶴が、例の事件のせいでハロウィンに乗り気じゃないのでシヴァにお鶴を喜ばせたいと相談されまして…』
「ああ…ハロウィンはあの子のトラウマだったな…そういう事なら協力は惜しまないぜ、吉光に料理以外のことを教える機会なんてなかなか無いからな」
『ありがとうございます!
市販の衣装も見ては来たんですが…
普段着はともかくこう言ったものくらい手作りしてあげたくて…
ミコトちゃんのおくるみ可愛かったです』
「ありがとう、いつでも好きな時に来ていいぜ。
なんならシヴァも連れて来いよ」
『はい、では後で連絡しますね、ちょっと、お鶴静かにしてください、今国兄さんと話してるんです!』
『俺もー!俺も国兄と話したい!かわれよー!』
「はは、大変そうだな…」
『すいません国兄さん、お鶴がうるさいのでこれで…』
『いやぁぁぁ!きるな、切らないで!
国兄!くにに……』
「あ、切れた…相変わらずだなあの子達は」
ふふっと笑いながらスマホをポケットにしまった。
「さて、もうすぐ黒葉が帰ってくるから飯の支度でもするかな。
ルイ、ミコトを頼むな」
「うん、まかせて」
国永は夕飯の支度をしながら最愛の夫の帰りを待った。

「ただいま」
暫くして玄関のドアが開く音がして、黒葉が帰宅した。
「お帰りなさいお父さん」
「おかえり黒葉」
疲れた様子でリビングに入ってきた黒葉は真っ先にキッチンから顔を覗かせた国永に抱き着いた。
「ん、どうかしたか?嫌なことでもあったのかい?」
「いや、何も無いが…
甘えたい気分だった、ダメか?」
「全然?むしろ嬉しいくらいだ
また職場で誰かに迫られたのか?」
ふふっと笑って腕の中に収まる体をぎゅっとすれば、同じ力で抱き返される。
「まったく、俺の旦那様は罪作りな男だな」
「彼氏彼女を取っ替えひっかえしていたお前にだけは言われたくないぞ
俺は付き合ったのはお前だけだ」
「俺だって自分の意思で付き合ったのは君が初めてだし君だってパパ達と援交してたんだし同罪だ。
それより、ミコトのハロウィン用の衣装を作ったんだ。うまく出来たと思うから見てくれないか?」
「ハロウィンの仮装か…
そういえばルイがミコトを連れていくと言ってたな」
「そうそう、赤ちゃん用の可愛い衣装が無かったから作ったんだ」
ルイがソファーでミコトをあやしながらテレビを見ているところに国永と黒葉がやってきた。
「ぷあ!あーう!うあー」
黒葉に気が付いたミコトが嬉しそうにはしゃぎ出す。
「おや、随分愛らしいオバケがおるな」
ルイの隣に座りミコトを抱き締めて、慈しむ様に頬をすり寄せる。
国永は黒葉の背後から抱き込むように黒葉を包み込んで嬉しそうに今日あったことを話し始めた。
「吉光がな、シヴァに服を作りたいから俺に習いたいって言ってきたんだ。
あの子は普段あまり自分の欲求を表に出さないだろ?」
「そうだな、きっと可愛らしい服ができあがるに違いないな」
「ルイもな、俺に裁縫教えて欲しいって言ってきたんだ。
俺みたいに何でもできるようになりたいって言ってくれて…
でも俺はできることしかしてないし、まだまだルイを甘やかしたいなっておもってるんだけどな、黒葉は?」
「俺は今でもルイと一緒に寝たいし風呂も入りたいし可愛くて仕方がないぞ。」
「え、お父さんそんなこと思ってたの?」
「ああ、おかしいか?
俺は子供が好きだが、ルイとミコトは特別に可愛いぞ?」
嬉しそうに笑う黒葉にルイは照れた様に顔を赤くした。
「鶴兄達には及ばないかも知れないけど、僕もミコトもお父さんとお母さんが大好きだよ…」
「俺にとってはお鶴たちもお前達も平等に愛しい子だ。
国永がお鶴を特別視するのは理由がある故許してやれ」
「許すなんて、僕は二人の子供でいられるだけで幸せだよ、順番なんてどうでもいいんだ。
それに、お母さんがハロウィンの衣装作ってくれるって!」
「そうか、それは良かったな」
ルイが来てから、黒葉も国永もよく笑うようになった。
そんな幸せを噛み締めて、国永は今日の夕飯は二人の好物にしようと思い、キッチンに向かった。


「こんな感じのかぼちゃパンツの魔女を作りたいんですが…」
有名なアニメ映画の魔女の衣装を指さしながら困ったように一期が笑う。
「学校でハロウィンの仮装をするらしくて、シヴァの仲良しのお友達がお揃いの衣装を着たいと…他のお母さんは皆さん手の利く方ばかりで…」
シヴァに初めて出来た年相応の友人に、泣きながら喜ぶ鶴丸の顔を思い浮かべて小さく笑を零した。
「じゃあまず寸法だな」
慣れたようにシヴァの身体にメジャーを巻き付ける。
それから手慣れたように型紙から生地を切っていく。
「国兄さん、ミシンとか使わないんですか?」
「…今は、ちょっと壊れてて…」
泳ぐような視線に苦笑した一期は深く触れないで自分の手元に目をやる。
さすが手縫いに慣れてるのか、自分よりも早いスピードで縫い物をしている姿はまさに母の鏡だ。
「爪の垢と言わず全身の垢を飲ませればあの人も少しは母親らしさが身につくんでしょうか…」
「あの子はあの子なりに頑張ってるだろ?
それに、子育てって学びながらその家庭にあった最善を学ぶもので、俺のやり方がシヴァに会うとは限らないぞ?そういった意味でならあの子はちゃんと子育て出来てるんだと思うぜ。
現にシヴァはママのこと大好きだもんな?」
ミコトの揺りかごを覗いていたシヴァは振り返って笑った。
「あい!パパもママも大好きなの!」
シヴァは甘える様に一期に駆け寄ると、隣にちょこんと座る。
「はは、これは君が必死になるのも分かるな」
「親ばかかも知れませんが、シヴァには何でもさせたいんです。
楽しい事も辛い事も人並みの苦労もです。」
人として生きることを許されなかったシヴァにとって、人として生きるということがどれほど渇望していた事かをよく知る国永は笑みをこぼした。
「国兄さんのそれはルイくんのですか?」
「ああ、黒葉が昔使ってた服が出てきたんでな、折角だから可愛くリメイクしてやろうと思って」
「黒兄さんのですか?」
「そう、黒葉が学祭の時に着てたゴスロリとか…あとはパパ達に着せられた服とかだな。
あいつめんどくさがりだろ?
ミコトが産まれてから要らないものを整理してたら見つけてな。
まともなのはリメイクして着せようと思って取ってたんだ。」
「(まともじゃないのもあったのか…)
黒兄さんはそういうの似合いますからね」
「まぁ、黒葉は和風顔だけど人形顔でもあるしな。
童顔で背も小さいからああいった服は良く似合うんだ」
珍しく上機嫌で黒葉の事を話す国永を、微笑みながら一期はニコリと笑う。
「国兄さんの口から黒兄さをんのことを聞けるのは珍しいですね」
「そうか?まぁ学生時代から親友って特別枠ではあったけど今は旦那様だからな。
愛してなけりゃ結婚なんて面倒な事しないさ。
黒葉だから、面倒だって感じないだけ。
君達もそうだろ?傍から見ればお鶴は我儘だし無鉄砲だし何一つ君の思う通りに動いてくれない、察してくれない。
でも君がお鶴と居るのはお鶴を愛してるからだろう?」
「う…」
「吉光、動揺が縫い目に現れてるぜ、ほらここ、曲がってる」
国永はクスクスと笑いながら縫い目をとんとんと指で叩いた。
「国兄さん、今日はちょっと意地悪です」
頬を膨らませる一期に国永は笑いながら吉光を抱き寄せた。
「そりゃ、吉光が料理以外に俺になにか教わりたいって言ってくれるのが嬉しくてなぁ。
料理だってほとんど教えて欲しいって言わないし、吉光とゆっくり話できるのが楽しくてついな」
「…ただでさえお鶴が国兄さんにベッタリなのに私まで国兄さんに甘えるのは黒兄さんや鶯先輩に悪いですし…」
「そうやって君はすぐ周りに気を使うだろ?
だから、嬉しいんだよ。
俺は親を知らないけど、可愛い息子達が俺を母だと言って甘えたり、俺を心配して気を使ってくれたり、そういうの全てが愛しいんだ、だから今日は君を構い倒そうと決めてたんだ」
「国兄さん、ずるいです…」
「そうでもしないと君はすぐ我慢するだろ?
なぁシヴァもそう思うよな?パパはすぐ我慢するだろ?」
大人しくスケッチブックにお絵描きしてたシヴァは顔を上げて不安そうな顔をした。
「ん、パパすぐ我慢するからママ心配してた。
シヴァも心配…」
「ほら、娘にワガママ言わせる前に心配かけちゃダメだろ?」
首をぐいっと引き寄せられ、ヨシヨシと撫でられ、恥ずかしそうにじたばたしていた一期は諦めたのか大人しくなった。
「シヴァ、今だ、パパをたくさん甘やかしてやれ」
「あい!」
きゃいきゃいと一期に抱きつき、甘えるシヴァに、一期は両手で顔を覆って尊い…と泣いた。



「で、できた!」
仮縫いからの工程国永に手伝って貰い何とか完成させることが出来た。
かぼちゃパンツに黒いワンピース、頭にはトレードマークの赤いリボンの可愛らしい魔女服を試着したシヴァはご機嫌にくるくる回って見せた。
「国兄さんありがとうございます」
「俺は大した事はしてないさ。
お鶴、喜べばいいな」
「……そう、ですね…」
「大丈夫だ、あの子だってちゃんとわかってるさ。
ただ君に甘えたいだけなんだ。
人一倍さみしがりの甘えっ子だからな」
一期の頭を撫でて微笑む。
「このシヴァを見たら、喜ばないはずはありませんよね」
「パパ、ママ喜ぶ?」
シヴァを抱き上げたら甘える様に一期に抱きつく。
「よし、じゃあそろそろ飯の支度するか。
吉光も食ってくだろ?お鶴呼んでくれ。
シヴァはミコトを見ててくれ」
「ご馳走になります」
国永は喜ぶ息子の顔に満足そうに笑った


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