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ちかくに会話文



国永が研究所からおかしな状態で戻ってきた、と鶴から連絡を受けたのはつい先程。
半泣きになりながら、すがり付いてきた鶴に事情を聞くと、催眠術にかかったらしく1日はこのままだということ。
鶴は急ぎの依頼で現場に行かないといけないとの事で、俺に白羽の矢がたった。
「ちか兄なら安心して国兄を任せられる」
「……鶴、お前はそれで良いのか?
大事な兄を、俺に任せて」
「なんで?ちか兄は国兄の恋人だろ?
あの、ちょっとくらいならえっちな事しても良いけど、あんまり国兄に無理させないでくれよ?」
「ああ、わかった。
お鶴が俺を信じて託してくれたなら俺もそれに応えよう」
鶴は国永の頬にキスをして慌ただしく出ていってしまった。
いつもなら鶴を抱き締めて笑顔で送り出すのに、今日の国永は虚ろにどこかを見つめるだけ。
「……深層心理を聞き出す良い機会だな」
国永の向かいに座り、手を握る。
「国永、お前にとって1番大切なものはなんだ?」
「……鶴が、幸せに笑っていられる…こと」
胸がチリっと痛み、不快感が込み上げる。
全て承知の上で一緒になったというのに。
改めて突き付けられた、埋めようの無い差。
「なぁ国永。お前にとっての幸せは、なんだ?」
「…鶴とちかが、笑って隣に居ること」
「国永…今日だけでいい、鶴が帰ってくるまでの間。
お前の1番は俺だ、良いな?」
「はい、国永の一番は宗近…」
「お前の1番大切なものはなんだ?」
「…つ…………むねちかの、えがお」
「そうだ、鶴が帰るまでの間は俺が国永の一番だ」
何故だろうか、あれほど聞きたかった言葉だと言うのにちっとも胸に響かない。
「国永は俺を一番愛してる」
「国永は宗近を一番愛している」
「国永は俺を一番大切に思ってる」
「国永は宗近を一番大切に思ってる」
「………」
「?」
俺は国永をきつく抱きしめていた。
機械的に、感情のこもらない声で求めていた言葉を繰り返す。
こんなのが、聞きたいわけじゃなかった。
「……宗近?」
「すまん、今のは忘れてくれ
お前が一番大切で愛しているのは弟の鶴丸だ、よいな?」
「…はい、国永が一番大切で愛してるのは弟の鶴丸」
だんだん自暴自棄になりそうになる。
俺はどう頑張ってもお鶴には勝てない。
一緒にいた時間が、与えられた愛が、価値が違い過ぎる。
「鶴をどう思ってる?」
「俺の、大切な1番の宝物。
何よりも大切で、愛しくて、可愛い俺の希望。
生きる価値を与えてくれた俺の命そのもの
鶴がいないと俺は生きていけない」
「……そうか、なら……俺は?」
国永は不意に口元を緩ませた。
「宗近は、俺に愛をくれた人、愛してくれた人
椿国永に鶴がいなかったなら、なんて前提はありえないけど、鶴に命を貰った椿国永が唯一自分の意思で欲しいと願った人」
「……自分の意思で欲しがったのは、鶴ではないのか?」
「鶴は、欲しいと願ったんじゃない。
鶴が欲しいから、兄という立場を利用して幼い頃から俺から離れないように仕向けた。
あの子は俺の命で、希望で、太陽だから。
宗近は俺の心で、癒しで、月…
鶴しか愛せなかった俺を鶴ごと愛してくれた…
俺と鶴を引き離さないで受け入れてくれた。
鶴以上に君を愛することが出来なくても良いと、そんな俺を認めて愛してくれた宗近を俺も愛してる、俺の出来ることで君が喜んでくれるなら何でもしたい」
「そうか……俺は馬鹿だな。実に愚かだ。
目先の欲に駆られ、最愛の妻と弟の信頼を裏切るなど…
俺もお前を愛している。
初めてあった時からずっと」
「君がいるから、鶴がいなくなっても鶴の思い出と生きていける。」
「なら、俺と鶴、どちらか1人しか選べないとしたら…
お前はどちらを選ぶ?」
「生死に関わらないなら、状況によるが、生死に関わるなら……鶴を選ぶ」
「そうか」
「鶴を選んで、鶴と生きていく。
でも、君が好きだと言ってくれた眼を、君に捧げる。
俺がそっちに行くまで君が寂しくないように、俺が君を愛していた証として」
赤い宝石のような瞳が柔らかく揺れた。
「…そうか、ああ、そうだな。
俺は鶴を愛しているお前を愛している。
最初からそうだった、忘れていたのは俺の方だ。
お前と鶴を愛すると、幸せにすると、何よりお前自身にそう誓ったのにな。
愛している国永、お前達のお陰で生きる事が楽しい、幸せだ、お前達が笑っているのが俺の幸せだ」
「宗近…」
「ふふ、俺はお前に心底惚れている。
だからお前の決断を責めたりも恨んだりもしない。
良いか国永、これは俺の遺言だ。
もし、俺か鶴、どちらかの命しか救えない状況になったなら迷わず鶴を選べ。
そして鶴と生きろ、俺は先に向こうでお前達を待つ。
ゆっくりと、長生きして、沢山の土産話をもってこい。
お前が見聞きするものが、感じたことが、全て俺への最高の手向けだ。
色々な場所に行き、色々な景色を見て、何を感じたか、俺に会えた時にたくさん教えて欲しい。
だから、幸せに天寿を全うすると約束してくれ」
「そんなこと…いやだ、むりだ…
ちかがいないなんて、さみしい、幸せになんて生きれない」
「はは、もしもの話だ。
そうならない様に俺も努力はする、安心しろ。
それに鶴はどうする?お前がそんなことでは鶴を幸せにしてやれんぞ?
大丈夫、俺もお前とこれからを生きていくのを楽しみにしてる。
それを放棄するつもりは無いぞ
だから今の事は記憶の片隅に保管しておけ、そしてゆめ忘れるでないぞ」
「うん」
抱き締めれば国永が笑いかけてくる。
「国永、今のお前の気持ちを聞かせてくれぬか?
俺といて、幸せか?」
「幸せだ、君といると暖かくて心地いい。
陽だまりみたいに優しくて、穏やかになれる。
君の隣は居心地がいい、鶴を抱きしめながら宗近に寄り添ってる瞬間が一番幸せで安心する。
だから、幸せすぎて不安になる。
これが壊れてしまわないか…壊れたら俺は、俺を保つ方法がわからない」
「大丈夫、お前の幸せは俺が守る。」
「うん、そうして欲しい。
俺もちかの幸せを守る」
「俺の番はお前だけだ国永。
だけどお前の番は俺だけではない。」
「ちかはいやか?俺が番をもってるのが」
嫌だといえば国永は鶴を捨てて自分のモノになるだろうか。
答えは否。
鶴は国永のものであり、国永は鶴のもの。
互いに共依存している以上、あの二人は決して離れることは出来ない。
「嫌じゃないぞ。
俺は鶴が好きな国永が好きだ。
だから鶴ごと国永を愛することが出来る」
「ちか…」
鶴は国永を構成する大事な部品で、俺と国永を繋ぎ合わせる赤い糸。
俺は国永の為に自分の番を分け与えることなどできない。
「お前は本当に罪作りな男だな。
俺と鶴の人生をこんなに惑わせておいて…」
抱き締めれば背中に手を回されて擦り寄ってくる。
「嫌いに、なった?」
「まさか、ますます愛しくなったぞ。
そうだな…鶴が帰るまでお前の昔話を聞かせてくれるか?
俺と会う前、お前と黒葉や鶯がどんなことをして、何を感じたか」
「ああ、君が知りたいなら…俺も君に知って欲しい」
「寝物語には最高だな。
ほら、おいで」
ベットに横になり、微笑むと国永はのそのそとベットに潜り込んでくる。
素直な国永に愛しさを覚えながら昔話を聞いて優しい体温に微睡みながら目を閉じた。
朝になればきっと国永はいつも通りで、可愛い鶴が元気よく帰宅するだろう。

なみだの理由。おまけ

白黒に分かれた世界で、紅い瞳の少年が笑う。

「やあこんばんは、おはよう、久しぶり」

見たことのある少年は、それらしい顔で微笑む。
中学生くらいの背丈の、白い髪をした白い少年。
この世界に存在する色は彼の瞳だけ。

「今ここに居るって事は気にしなくて良いよ、夢だから。俺は眠りについて、彼は生きてる、それが正しい」

手を伸ばそうとして、自分の輪郭すら曖昧な事に気付いた。
けれど、少年の目線は確かに感じてこちらを見ていると思う。

「うん、その反応が正しい。ここはそっちの世界とは違うから……本当なら君には見えない、聞こえない。眠った時の夢とも違う、もっと深い場所」

あっちに行こう、と誘われて少年の後をついて行く。
多分、ついて行けてると思う。
気が付けばメリーゴーランドの木馬に乗っていたが。

「説明はこの位で良いとして、君が来た理由だよな? とある音か話を聞いたりはしなかったかい? 例えば雨、渓流、せせらぎ……一滴の水が落ちる音」

回るメリーゴーランドの向こう、映画の上映フィルムのように白と黒の影が人の形を取って動く。
小さな人が大きな人に手を伸ばし、けれども避けられてしまう。
今度は反対側へと手を伸ばすが、その先でも。
何度も何度も、繰り返されるその道化。
何故気付かないのか、何故続けるのか、意味はあるのか、それすらも分からなくなるほど。

「水の音と聞いて君なら何を思い浮かべる? 国永は……なみだ」

小さい人の目と思われる部分から、言葉通り涙の粒が一滴落ちる。
それは、彼自身の心の傷とでも言わんばかりに赤かった。
流されたのはたった一滴、けれど地に落ちたそれは乾くことなくあり続ける。

「俺は寂しさというのが分からない。それは寂しくならないんじゃない、当たり前だったから。自分のなみだには気付かない。何故それが溢れるのか……それは怖いからだ。5月におかしくなるのはそのせい」

止まった木馬から降りて向かうのは観覧車。
狭い室内にお互い向き合って座り、小さな箱は少しずつ上へと上っていく。

「箱が苦手なのは、密室が嫌いな訳じゃない。一人であるのを気付かされる事が怖いんだ。停滞、それこそが俺が本当に嫌う事。雨は音をかき消して、視界を遮って、体温すら奪っていく……それは寂しさと変わらない」

窓の外ではスライドショーが、やはり小さな人を映していた。
雨が降っているようで黒い線が時折影を消していたが、よく見ればそれは小さな人に降り注ぐ槍のように突き刺さっている。

「国永は白が好きだ。弟の象徴とも言える白い色。けれど同時に、それが他の色に染まる事を望んでも居る。白い景色と聞いて君は何を思う? 綿?雪? 俺は廃墟だ。灰に塗れた真っ白な街。11月はよくそれを見る」

小さな人に降り注いでいた槍はやがて視界を覆い尽くし、白い少年以外をすべて黒く染めてしまった。
座る意味のなくなったその場を立ち上がり、またどこかへと歩き出す。
決して縮まることも、遠くなることもない少年との距離が歯がゆい。
彼はそんな気持ちを知ってか振り返り、くすっと小さく笑ってみせる。

「弟が生まれるまでの3年間、俺にとって世界は白でも黒でもなかった。どっちでも良かった。どちらでもあった。君は、国永が一番愛してるのは誰かと悩むみたいだけど……悪いけどその答えは一生出ない」

立ち止まり、くるりと振り返った少年は優しく紅い瞳を細めて謝罪をした。
そうして後ろ手に組んでいた手をゆっくりと差し出し、

「こちらの手には空が、こちらの手には大地が。君ならどちらを取る?」

鳥のような何かと植物のような何かを片手ずつに乗せて首を傾げてみせる。
それに戸惑いこそすれ、結局はどちらも選べずに首を振れば満足そうに微笑んで頷いた。
もう一度、手の中でそれを回転させると今度は金平糖のような何かと三日月に。

「太陽と月ならどちらを取る?」

今度の問いにも首を振り、満足げに頷いた少年は踊る様に手を翻して様々なモノを出す。

「手と足なら? 翼と足ヒレ、声と体温、水と呼吸、雄と雌、罪と罰、どれを選ぶ?」

どれか一つを選ぶことも出来ず、全てを否定した。
それに嬉しそうに笑った少年は、国永は、ありがとうと言う。

「どちらも全く違うモノで、選ぶ事も比べる事も出来ないんだ。君が罰を選んだなら彼は罪、罪を選んだなら彼は罰。そういう相容れない物で、でも関係がない訳じゃない、どちらも大切なんだ。どちらを失っても辛い、悲しい。どちらも合っても、怖い、罪悪感が沸いてくる。けれど、それ以上に幸せで……この世界に神というモノが居るなら、どうか何もしないでくれと、願う程」

幸せだという顔には悲痛な色が浮かんでいた。
無関心を貫いてきた国永が初めて望んだ事は、神への祈り。
何もしないで欲しいという、無関心を望む祈り。
それしか知らないから、という事が悲しかった。

「ローゼスに、バース性の事を聞いた。彼は呪いだと言った。死後は必ず、狂い死んで引き裂かれると。けれど俺には、国永には、愛しい鎖でしかない。どうか永遠に縛り付けて欲しいと」

けれど君が望むなら、引き千切って欲しい。
少年は泣きそうに笑い、貴方は目を覚ますのだった。

なみだの理由。後編

家に着いた鶴丸は、そのまま国永の手を引いて自室へと連れて行った。
幸い家には誰もおらず、部屋は防音性に優れている為に他の音が聞こえてくる心配も無い。
ベッドに座らせてイヤホンを外しても、反応は無かった。
ぼんやりと若干伏せられた瞳が白くて長い睫に散らされて静かに緩やかに、閉じては開いてを繰り返す。

「なあ国兄、俺の事は分かる?」
「はい。椿鶴丸、国永の弟で妻。間に一子、シヴァという女児をもうけた、母親。甘えたがりで不安症、お人好しで純真に人を信じる事が出来る、国永の一番の宝物」
「……国兄の一番の……! な、なあ、その……いつも通りの話し方は出来ないのか?」

なんかこそばゆい、と言えば瞬きを一つ落とした後に表情は柔らかく微笑んだものに変わった。
それでも瞳の虚ろな色は変わらなくて不安になったけれど、鶴丸も笑んで返す。

「分かった、鶴」
「良かった……!! あ、この調子なら目を覚ましてって言えば戻る?」
「目なら覚めてる。起きてるから行動してるんだ」

何か不審でも?と言いたげに小首を傾げられれば、がくりと肩を落とすしか無かった。
そういう意味では無い。
正面に膝を立てていた鶴丸は国永の膝に崩れ落ちるように項垂れた。
どうすれば元に戻るのか、エンドローズは一日放置で良いと言っていたが、こんな姿を見ているなど、鶴丸にとっては苦痛でしか無い。
だが様子を見ていなければいけないという事は側を離れる訳にはいかないだろう。

「いっそ、いつもは聞けない事を聞いてみる……?」

純粋な好奇心と、不安から出た言葉だった。
国永には、弟である鶴丸には隠し事が多い。
それは誰に対しても同じだったが、鶴丸は特に自分へのそれを強く感じていた。
いつもは秘密主義な兄の本音が覗けるかも知れない。
底知れない悪魔の誘惑。

「君が聞きたいなら」
「国兄?」
「聞きたいなら、構わない。聞かれないから答えないだけだから」

あっけらかんとした当の本人からの軽い答えに、罪悪感を強く抱き始めていた鶴丸は脱力する。
流石は国永、この性格をして自分の兄であるだけはある。

「じゃあ初恋はー?」

実は研究室でのやりとりからこっそり気になっていた事を拗ねながら聞いてみる。
彼女が居たというのなら、その中の誰かだろうと思って。

「高一の頃。中一に上がったばかりの鶴に。雨に打たれて帰って来た時」
「え……?」
「シャツが透けてて、雨を含んだ髪から滴る水滴と、その直後に向けられた笑顔に性的興奮を自覚した」
「ちょ、何、最後の、ええええ?!だって、そんな素振り一度もッ」
「兄に手を出されるなんて想像してない、むしろ嫌悪するかも知れないと思って……無垢な君に知られたくないから黙ってた」
「嫌悪より、むしろ嬉し……あう、何だよそれ……じゃ、じゃあもしかして、国兄のズリネタって……」

それ以上先を想像してしまって顔を真っ赤にしながら伏せる鶴丸に、国永の表情は変わらない。
これはそういう状態だからなのか、それとも元々からそうなのかは判別が付かなかった。

「ズリネタ……自慰? それについては何も無い。繁殖欲求から来る本能の一つだし、擦ってれば快感を拾うのは簡単だ。視覚や聴覚の情報は必要ない。体調を崩すから習慣的に抜いてはいたけど、それだけだ」
「え、じゃあ高校の頃の彼女は?」
「黒葉に他人を知るには同じ場に立ってみる事も必要だ、と言われて感情理解の一環として」
「んん?つまり?」
「性的興奮は覚えてないし、誘われてもヤってない。高校から爛れた生活になるつもりは無かった。ただ大学は一人暮らしで独立した生活をしようとこの頃から考えていた」
「……それは、知ってる。凄く寂しくて、何でって、いつも一緒なのにって、裏切られた気がして……」

この言葉に応えは無かった。
質問にはなっていないと思ったからか、言う必要は無いと判断したのか。
結局、こんな状態でも本音を語ってくれないのか、と後ろ暗い思いに取り付かれた鶴丸は、

「ねえ国兄。今ここで、俺の目の前で、シて?」
「ここで、自慰を?」
「そう、国兄の気持ち良い所を、俺に教えて? 俺が良いよって言うまで、ずっと」
「分かった。……コンドームと、ローション、紐はあるか?」
「棚の中。……って本当に良いの?」
「君が望むなら」

虚ろな紅い瞳が鶴丸を映さずに、一番嫌いな言葉で頷かれた瞬間。
鶴丸の中にあった罪悪感は暴力的な物へと変貌した。
いつも自分に遠慮する兄を、自分の目の前で下したいと。
あるいはただ抱き締めてくれれば良かったのに、と悲しみで叫びたくなった。
国永は棚の中から探していた物を持ってくると、再びベッドの縁に座ってスラックスの前をくつろげる。
いつもは鶴丸の中を柔然に犯すソレは、何事も無く萎れていて鶴丸は喉を鳴らした。
今すぐ舐めたいと疼く舌を、これは罰だからと押さえ込む。

「ん……俺が自慰をする時は、コンドームを填めるんだが……」

気持ち良い所を教えて、と言ってあったせいか状況説明を始める国永の手が自分のモノを両手で包む様に触れてしごき始めた。
萎えたソレは最初こそなかなか立たなかったが、やわやわと触っているうちにやがて自立する位にはなり、口で封を切ったコンドームを自分のモノへと宛がう。

「イった時に、飛び散るのとか掃除が面倒で……まあローションをここで使うから結局は同じなんだろうが……」

コンドームで入りきらなかった根元の方に紐を括ってから片手にローションの中身を出し、
両手でこねてから再び自身を包む様に触れた。
はぁ、と小さく深呼吸する中に含まれる熱を感じて顔を伺い見れば、目元を赤らめている国永に見つめられていて。
あまりに不意の事に、胸が詰まるような思いがした。

「ぁ、ん……俺が、きもち、いいのは……はっ、雁首のとこ、と、根元の……ぁあッ、たま、と……たま、の、あいだのぉ、おく……ここぉッ、が……ん、いい、ぐりぐり、てぇ……いじ、ん……」
「う、あ……エロ――!? ふ、普段から、そんなに声出してるのか?」
「ちがッ!これ、は……み、みられてる、と……君が、見てる、から……!」
「お、れ? あは、嬉しい……ねぇ国兄、ここは触らなくて良いの?」

あまり触ろうとしない先端部分の中心、鈴口をぐりっと人差し指で押すようにすると国永の体が跳ねる。
唇を噛んで頭を左右に振り、快感を逃そうとしていた。

「そこ、は、触らないッ! あふ、ん……こういんでも、ない限り」
「ふーん……それって、今までの彼女とか? 生でしたり、した?」

初めてが兄とだった自分と違い、兄は女の人を知っている事を、気にしないようにとしていた。
他の誰より、国永のもう一人の番いより愛してると言われても。
実際に愛されていると感じても、初めての相手だけは変えようがない。

「んひぃッ――な、い!」

無意識にぐりぐりと弄っていた指を止めて再び国永を見上げた。
は、は、と切れ気味に呼吸を繰り返しながら涙目の紅い瞳を鶴丸へと向けながら、緩やかに首を振る。

「なまは、したこと、な……。きみが、つるが初めて……」
「え……だって、女の人を抱いた事はあるんだろ?」
「それはある、ん……けど、ぁん……きもち、わるくて……はぁ、なにより、つるから、れんらく、きたら、すぐ出れるよ、に……んぅう、らから、イったこと、な……しゅいん、か、こういんらけ……」

ぐずぐずに濡れそぼった顔や下半身を晒しながらの告白に、思わず息をのんだ。
国永自身からも彼女との淡泊な関係性の話は聞いた事があったけど、改めて思い知らされた。
そんなにも、こんなにも想われていたのだと。

「ねえ、国兄……俺の咥え方って、今までの彼女と比べたら……」
「つたなくて、下手……だけど、鶴が俺のを、咥えてるだけで、イけそうな位、興奮する……。ん、鶴の苦しそうな顔とか、俺ので汚れてる姿とか、それだけで、うれしくて、誰よりも、感じて……ぁあ、だから、下手に教えるより、良いと思って」

話している間も止まらない手に、先走りが溢れて国永自身も血管が浮き上がって筋張っているのが見える。
正直、据え膳とも言える状態の国永に今すぐ甘えて己の中へとくわえ込みたいと鶴丸も思っていた。
けれど、この状況を楽しめるのも今だけ、と思うと悪戯心の方もうずき出す。
指で弄っていたコンドームの薄皮をずるりと投げ捨て、露わになったモノに舌を這わせ、

「ね、俺が下手なら……今、国兄が教えて?」

言いながら舌先で舐り始めた。
自慰の筈の手すらも口の中に吸い込み、指で示された場所を舌先で追って集中的に舐めれば国永は面白いほど体を跳ね上げさせる。
快感に仰け反る背で、抑えきれなくなった嬌声と唾液を口から零し、嫌々と顔を振りながらも止めはしない。

「ひ、いいッ、や、つる、もう、だした、イきたいッ!!」
「まーら、らへ」
「ひゃあん、しゃべらな、あぁああ、そこ、きもひい、もっと……手で玉触って、擦ってぇ」
「ん、あも、ほほ?」
「ん、ん、そこッ!いい、きもひいい、あ、ああ、も、おかひく、なうううッ!!」
「あは、まだまだ試したい事あったけど……"良い"よ、国兄。出して」
「つる、あ、イっちゃ……や、あああ、イきたいのに、イけるのに、イけな――!?」
「え!? だ、大丈夫だから、全部出して良いよ! あ、俺が吸い取った方がイける?」

紐を外してイって良いと言っても体を震わせながらイケないと半狂乱になる国永に、鶴丸は焦って国永の鈴口に吸い付いた。
焦りすぎて当たった歯が皮切りとなり、じゅうううと音が鳴る程吸い付く鶴丸に体を跳ねさせて国永は白濁を吐き出す。
散々留められていたソレは勢いこそ無いものの、ビュク、ビュクと濃く長く吐き出され。
その間中、国永は深い絶頂と多幸感を味わい続けた。
鶴丸は喉を鳴らして飲み込んでいたが、やがて飲み込みきれる量を越えて口を離してしまう。

「あ、勿体な――」

再び吸い付こうとした鶴丸に覆い被さるように国永の体が降りかかった。
驚いて顔を仰ぎ見ると、瞳を閉じて完全に意識を飛ばしているようで。

「くにに!?え、飛ばしちゃった……?」

うっすらと微笑みながら意識のない兄の姿に、胸が高鳴る。
瞬間、びゅくびゅくと白濁を吐き散らしていたモノからは独特の匂いのする液体が漏れ始め。
それがいわゆる嬉ション、というやつだと気付いた鶴丸は兄の体を抱えながら顔を赤く染めてお預けを食らうのだった。



その後、何とか片付けを終えた鶴丸は起きてきた国永に様子を聞いたが、その頃にはすっかり元に戻っていた。
ただ女性関係や初恋云々を聞かれた事は覚えていたらしく、少しだけ恥じらっていたが。
他にはぼんやりとしか覚えていない、等と言われた鶴丸は、例の音楽プレーヤーをこっそり保管する事に決めた。
エンドローズ曰く、あれは国永の脳波が特殊だっただけで誰にでも効くわけじゃない、と注意事項を書いたメモと一緒に。
果たしてまた日の目を見る機会があるのかどうかは、誰も知ることはない。

なみだの理由。

流れていく水の音。
サラサラと流れていくのは渓流か。
タタッタタッと踊る様に跳ねるのは雨粒か。
サアァ、サアァと傾れるのは連弾の滝か。
様々な水の音に潜み、隠れ、陰になっているのは。

――――ポタ、ポタ と落ちる一滴の。


知っている。
この音を懐かしいと思う。
いつか、どこかで聞いていた、響いていた。
これはきっと、涙の音だ。
俺の愛しいあの子の、あの人の、俺の……――?



ある日、引き継ぎの関係で研究室に行ってくる、と出掛けた椿国永から電話が掛かってきた。
弟である鶴丸は何の不審も抱かずに電話に出たが、返ってきたのは予想もしない答え。

「もしもし、クニナガ君のご家族ですか? 申し訳ありませんが、クニナガ君を迎えに来ていただきたく――」
「え……誰だよ、あんた? 国兄を迎えにって……まさか国兄に何かあったのか!?」
「ah……くににい、Brotherって事は君が弟の渡り鳥君? クニナガは無事だから安心して、いえ、身体的に問題は無いわ。詳しい事は来てくれたら説明したいのだけど……君、研究室の場所分かる?」

突然の言葉とハスキーボイスの女口調に疑問符を頭一杯に浮かべながら鶴丸は教えられるままに国永の居る研究室へと来訪をし。
入館パスやら何やらの手配を済ませて緊張しながら入った一室では、静かに機械を触ったりパソコンを操っている数人の白衣の人間と、

「国兄!!」

椅子に座って後ろ姿を向ける愛しい兄の姿を見つけて駆け寄った。
しかし、すぐに振り返って微笑んでくれるだろうと者は無反応のまま、正面の机に腰を据えている青リンゴ色の髪をした眼帯の青年が手を上げて苦笑を浮かべる。

「いらっしゃい、渡り鳥君。話はクニナガから聞いてるわ、私はエンドローズ。クニナガの元研究パートナーで、今は私が引き継いでるんだけど……その相談をしていたら、クニナガがトランス状態になっちゃって……」
「エンド、ローズ?え、男に見えるんだけど……女の人、なのか?あ、ごめん、俺は国兄の弟で鶴丸って言うんだ。だから渡り鳥じゃないんだけど……トランス?って何?」
「ah、ごめんね、私は男で合ってるわ。元々はスコットランドで留学してここへ来て、ホームステイ先で日本語を覚えたら、女口調だったみたいね。えーと……ヒプノシス?催眠術?とでも言えば分かるかしら」

エンドローズの言葉を聞きながら国永の様子を見れば、音楽プレーヤーを聞いている様でイヤホンをしたまま紅い瞳を空へと向けていた。
目の焦点は合っていない様で、見れば口元も微かに開いて全身から力を抜いている。
リラックスをしている、とも見えるそれは、元々の意思の強さを感じないせいで儚く見えた。
触れたら壊れてしまいそうな、景色に融け込むのではと思わせる白さが、人間味を感じさせない。
不安を覚えた鶴丸が思わず手を握って抱き締めても、反応は返ってこず。

「ど、どうしたら国兄は元に戻るんだ!?」

愛しい人の変わり果てた姿を見てパニックを起こし掛けた鶴丸は涙目でエンドローズを振り仰ぐ。

「落ち着いて、渡り鳥君。クニナガのソレは今聞かせてる音楽が原因だから、止めれば一日以内には治る筈よ。ただ、音楽を止めると……クニナガ、左手を挙げて」
「はい」

プレーヤーを操作して音楽を止めたエンドローズの言葉に、鶴丸に繋がれた方とは逆の手を上げて見せた。
全く動きを見せなかったそれまでとは違う反応に鶴丸は驚く。
更にエンドローズは苦々しい表情を見せながら口を開いた。

「クニナガ、自己紹介をして」
「はい……椿国永、26歳、数ヶ月前まで大学院の研究室に所属、現在は専業主夫。番いの妻に弟の椿鶴丸、23歳、同じく番いの旦那に三条宗近、31歳。大学では主に心理学専攻、機械音痴、閉所恐怖症、初恋は――」
「ストップ、止まって。もう良いわ、手を下ろして口を閉じて、音楽を聴いていて」
「はい」
「……こんな感じで、催眠術みたいになっちゃうのよ。音楽を止めて研究室に置いといたら万が一の時が心配でしょう? だから、家に帰して誰かに様子を見て貰ってからと思って」
「……解決方法は分かったけど、何でこんな事になったんだ? あと他に国兄に変な事してないよな?」
「心配なら聞いてみれば答えてくれるわよ。私とクニナガは友人って言える程、関わりがあった方でもないし……私が彼に関して知ってる事は5月と11月頃には精神的失調を覚えるみたいって事と、密室が苦手、人と関わるのも苦手、弟の名前を呼ばれるのも嫌がるって事位かしら。 ああ、後状況説明ね、ビジネス中のリラックス効果を促進するBGMの開発一環として自然の音を混ぜていたんだけど……皆が嫌がった水音を集めた曲で彼だけ妙に脳波が反応して――……つまり、リラックスして深く沈んじゃったの。で、沈んだなら浮かぶのを待つだけなんだけど、変な揺さぶりがね? って私の下手な日本語で通じるかしら」

ため息をつく青リンゴ色の青年は、口調以外を除けば賢明な好青年に見える。
本気で国永の事を考え、鶴丸に少しでも状況が伝わればと言う真摯な姿勢。
お人好しで人好きのする、世話好きのタイプだろうという事がうかがい知れた。

「分からないけど、分かった気がする。無くしたく無かったら、しっかり国兄を監視してれば良いんだろう?」
「ええ、そうよ。あはは、クニナガに聞いた通り頭の良い子ね。それじゃあ申し訳ないけど、よろしく頼めるかしら? 後日改めて、ご挨拶と経過報告を伺うわ。クニナガには、その時にバース性について教えると伝えて」
「バース性?」
「ええ、貴方たちは番い、と言ってるんだったかしら? イングランドはスコットランドの旧き地方から来たから、妖精や伝説の類いは目白押しよ。その中には幾つかバース性の事も。クニナガは興味を持ったらしくて、今日はその話を聞きに来たんだけど……」
「その話の前に、か……分かった、伝えておくよ」
「タクシー代は研究費から出させて貰うから、遠慮しないで。それじゃあ、クニナガをよろしくね?」
「ああ、またな」

心配そうな苦笑を浮かべながらのエンドローズの言葉に、笑顔で返した鶴丸はしっかりと国永の右手を繋いで研究室を後にした。

幸せの魔法

「ちかにー。お夜食持って来たぜ」
お鶴がほかほかした炒飯と暖かそうなスープの乗ったお盆を差し出した。
「おお、ありがとう、すまないな。
美味しそうだな、また料理の腕をあげたか?」
「えへへー、国兄が教えてくれたんだ。
俺が受験の時に国兄が良く夜食に作ってくれたツナマヨ炒飯だぜ!
今日は寒いからわかめスープに生姜たっぷり入れておいたからな」
嬉しそうに宗近は作業の手を止めて夜食を食べ始める。
「うん、うまいな」
「ふふ、良かった。国兄はもっとうまく作れるんだろうけど、国兄も今日はレポートで缶詰だから勘弁してな?」
「いや、大丈夫だ。
お鶴こそ身重なのにありがとうな」
「なにかしてた方が気が紛れるんだよ」
無意識に優しく腹を撫でる鶴丸は母親の顔をしていた。
それが宗近には羨ましくもあり、微笑ましくもある。
国永もいつか自分の子を宿し、あの様な母の顔で愛しそうに腹を撫でる日が来るんだろうか…
「原稿は順調?」
「そうだな、お陰様で週末はゆっくり出来そうだ」
「そうか、なら良かった!
国兄もレポート早く終わらせるって言ってたから週末はどこかでかけないか?
俺の気晴らしって理由なら、ちか兄も少しくらいなら平気だろ?」
本当に、気遣いが出来る優しい子だ。
国永は思ったより育児に強いかもしれない。
弟同様に子を愛せればの話だが、それも心配なさそうだ。
最近の国永はよく笑う。
おそらくは無意識、自分でも気が付いて居ないだろう。腹を愛おしげに撫でる鶴を慈愛の眼差しで見ている事がある。
あの一夜の出来事が国永の中で大きく影響を及ぼしているようでよかった。
血の繋がらぬ赤の他人を母だと嬉しそうに語る幼い少年。
「どのような子が生まれるのだろうな…」
「どうしたんだ突然、女の子なのは知ってるだろ?
まぁ、俺としては国兄に似た子が欲しい」
「どちらに似ても可愛らしい子に育つだろうな。
ご馳走様、美味かったし体も暖まったからもう少し進めておくことにしよう」
「あんまり無理するなよ?
じゃあ俺はもう寝るから」
お鶴は食器を持って部屋を出て行った。
日に日に大きくなる腹に宿る命。
少し前の自分なら気にも止めなかった生命の誕生。
雪山で出会った正反対の兄弟が自分の側で、笑い会うのが何より大切に思える。
「愛しいとは、存外良いものだな」



「国兄、レポート進んでる?」
散らばした資料を避けながら夜食を運んできたのは愛しい妻で可愛い弟。
身重ながらこうして家事を手伝ってくれる。
「ああ、資料を纏めるのに手間取っただけだから」
「お夜食持って来たぜー」
「ツナマヨ炒飯か、懐かしいな。
うん、美味い!料理、上達したな」
優しく抱きしめれば嬉しそうに微笑んで甘えてくる。
甘えるように擦り寄ってくる鶴が愛しい。
頭を撫でればトロンとした顔で見あげる。
「くににぃ…」
「国兄じゃないだろ?」
「ん、国永さん…」
雌の顔で目を閉じる。
キスを強請られているようで、抱き締めてキスをしてやれば、足りないと積極的に舌を絡めてくる。
「んっ、ふ…んんぅっ…」
添えられるように服を掴まれると、鶴がほんの少し体を強ばらせた。
これは先を期待してる証、だけど…
「これ以上は、だめ」
「ふぁ、くになが、しゃ…」
とろとろになった鶴は、ふふっと笑って抱きついてきた。
「ぎゅーって、して?」
「それくらいならいいか」
「えへへー(*´▽`*)」
すりすり甘える鶴の大きなお腹が押し当てられる。
「あっ、ん……っう…」
突然、鶴が急に腹を抱えてうずくまった。
「おなか、っ…いた…」
「鶴!?大丈夫か!!」
しばらく鶴は腹を抱えて苦しそうにしていた。
安定期には入っているが、だからと言って母子共に安全という訳では無い。
鶴を抱き上げ自分のベットに寝かせる。
「ん、ぅ…ぐ…」
脂汗が滲んでくるのを、手をギュッと握る。
「鶴、つる。大丈夫、俺はここに居る」
「くにに、くににぃ…なぁ国兄…この子は、本当に国兄の子だよな?
ちゃんと、国兄と俺の子供なんだよな?」
小さく震える肩を抱き、安心させるように頭を撫でる。
「当たり前だ、この子は俺と鶴の子だ。
俺が孕ませてお鶴が一生懸命育ててくれてる大切な命だ」
「……だよな、変な事言ってごめん
時々夢を見るんだ、あの時の、夢…」
鶴の目が不安そうに揺れ、腹を優しく撫でる。
あの時の夢というのは恐らくあの夢の事だろう…
「俺があの時ちゃんと守ってやらなかったから…
君を不安にさせて…大丈夫だ、この子は俺達の子、俺が望んだ命だ」
鶴はホッとしたように俺に抱きついてくる。
「国兄、レポートまだかかる?」
「んー…ちょっとな。
鶴はそこで横になってろ。一緒に居るから」
眠そうではなかったけど、きっと離れるのが不安なんだろうなって思った。
キスをしてベットに寝かせれば暫くレポートを書く俺をぼんやり眺めてたけど、そのうち眠ってしまった。
「愛してるよ、俺の可愛い鶴」
柔らかい寝顔を晒す鶴の額にキスをして食器を片付けようと部屋から出るとちょうど宗近かマグカップを洗っていた。
「宗近?」
「国永か、お前も洗い物か?」
「うん、まぁ…」
隣に立って食器を置くと、宗近が食器を貯めていた桶の中に入れる。
「鶴はどうした?」
「俺の部屋で寝かせてる。
ちょっと色々あって不安定になってるみたいだな…
俺に悟らせ無い様大分我慢していたみたいだ」
「そうか、前にお前達から聞いた例の一件が尾を引いていたか…」
「んー、どうだろうな。
俺はそんなにヤワにお鶴を育てた覚えは無いぜ?
どっちかというとあの時俺の子じゃない子を孕まされ、それに母性を覚えた事を俺への裏切りだと感じてるんだろう」
「裏切りか…腹の子は自分の子でもか?」
「だから余計になぜあの時、ってな。
あとは俺の子にあの時の影響が無いかどうか、かな?
化物を一度宿した腹だから気にしてるんだろう、本当に可愛い子だ。
俺と鶴の血が混じり合って鶴の腹で育てられた命なら化物だろうが何だろうが愛してやれる、今ならちゃんとそう思える」
「そうか、ならお鶴も俺も安心だ。
国永、いい子だな、偉いぞ。
早く俺の子も孕んでくれ、愛しい俺の国永」
きつく抱き締められて不安な気持ちが和らいでいく。
「ちか、俺、ちゃんと母親になれないかもしれないけど…いい?
鶴みたいに、出来なくても…」
「俺はお前に完璧など望まない。
共に学んでいこう、まずはお前達の子で勉強させてもらうぞ。俺は今から自分のこのように楽しみにしているんだ」
「ふふ、ありがとう。
俺も完璧は望まない、ちかと鶴と一緒に知りたい。だから…」
言い終わる前に宗近が唇を重ねてきた。
「国永、愛してる」
「ん、ふぁ…ちか、おれもちかを愛してる」
宗近がゆるく微笑んで、満たされた気持ちに胸があったかくなって…
これを愛だと知ったから。
宗近の愛に満たされながら、可愛い奥さんの待つ自室に戻る。
愛と幸せを俺に教えてくれた、俺の一番大切な宝物。
「ありがとう鶴…」
鶴はむにゃむにゃと幸せそうに眠りながら微笑んだ。
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