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First Love




「………またか…」
既に薄暗くなった夕刻過ぎの礼拝堂。
並べられた床と椅子の間の隙間。
散りばめられた金色に、ノエルは盛大に溜め息をついた。
一体どうやって、そんな隙間に潜り込んだのか、少年は身体を縮めてきつく目を瞑っている。
「おい、そんなところにいられたら邪魔だ。」
しかし、足元の金色は反応しない。
試しに頭を蹴ってみたが、全く反応を返さないので、死んでいるのかと思い、腕を掴んで椅子のしたから引っ張り出した。
「ったく、寝るなら別の場所にしろ、クソガキ…。」
グッタリと死んだように眠る少年の目の下には濃い隈が出来ていて、身体は冷えきっていた。
そう言えば彼は床で寝る癖があったと、出会ったばかりの頃の事がふとよぎった。
「本当に、いい加減にしろよ…。」
少年の身体を抱き上げると、教会を出た。


「おい、クソガキ!!開けやがれ。」
乱暴に執務室のドアを蹴ると、中から不機嫌そうなシュノが顔を出した。
「……っ、レイリ!!」
シュノが嫌そうな顔をしたのは一瞬で、ノエルの腕に抱かれたレイリを見つけるなり、唖然とした。
「なんでアンタが…」
「知るか、こいつが勝手に教会の椅子の下に潜り込んでたんだよ。」
レイリをシュノに押し付け、煙草に火を付ける。
「シュノ、そんな顔するくらいなら椅子にでも何でもくくりつけとけ。」
「くくりつけてたよ。」
今にも噛みつきそうにノエルを見上げていたシュノが体を避けてドアを開けると、そこには紐でぐるぐる巻きにされた椅子がポツンとあった。
「ああ、こいつ身体柔いからそのくらいなら肩外して脱出するぞ。」
「そんなの、あれ見ればわかります。」
「まぁ、何でもいいが二度と俺様の手を煩わせんなよ。
あと、こいつを探すなら椅子の下までちゃんと見ることだな。」
猫かよ、と突っ込む間もなく、ノエルはタバコの紫煙を吹き出してから踵を返した。
溜め息を吐いたシュノはレイリをソファーに寝かせた。
冷えた身体に毛布をかけて暖炉に薪をくべる。
「辛いなら、辛いって言えよ。
別に俺はお前を責めたりしない。」
ぱちぱちと燃える暖炉の火を調整しながらシュノは独り言のように呟いた。
面と向かっては言いにくい事も、相手に意識がないとわかればすらすらと言葉になった。
「どうあがいても、前隊長とお前は別の人間だ。
同じになれる訳じゃないし、お前はお前の遣り方があるんだろ?」
レイリの体がもぞもぞと動いて暖炉に向かうシュノに背を向けるように、ソファー側に体勢を変える。
何かに怯えるみたいなレイリの手をぎゅっと握った。
「こんなに冷たくなって…」
特に反応を返すことはないレイリの髪に触れて、撫でる。
慈しむように、そっと。
「…シュノ…?」
柔らかな声がして、瞳がやんわりと開かれてシュノを捕らえた。
体を起こして、小さな子供みたいにぎゅっとシュノに甘えるように抱き付いた。
「どうして、君がいるの…これは、夢…?」
まだぼんやりしているレイリを抱き締めて、夢だよ…と囁けばレイリの意識は再び微睡みの中に落ちていく。
他人の評価なんて、特に気にならないシュノとは違い、レイリは常に周りの評価に振り回されていた。
それを相談できる相手もいなくて、常に独りぼっち。
「この感情はなんなんだ…
お前を見てると、イライラする。」
自分に頼らないレイリにイラついているのか、レイリが頼ろうとすら思わない自分に腹が立つのかが判らない。
シュノには、それが納得できなかった。
抱き締めた体に力を込めて、頭を撫でながら燃える炎を見つめていた。
「お前のことは、俺だけが知っていれば良いだろ…。」
「そうだね…シュノ…」
レイリが反応を返したことに一瞬驚いたものの、シュノは目線を変えずに包み込むように抱き締めた体が冷えないように毛布を手繰り寄せた。
「僕はまだ子供だけど…この感情の意味は正しく理解できてるつもりだよ。」
レイリがシュノの体をソファーに押し倒す形で抱き付いた。
「初めてなんだ、失いたくないと思ったのは。
お母様も、お父様も大好きだったけど、亡くなっても悲しくなかったのに。」
まるで、泣き出すのを堪えてるみたいで、シュノがそっと頬に手を当てた。
「言えよ、レイリ。
そうしたら俺が全部叶えてやる。」
顔をあげたレイリはやはり涙で顔を濡らしていた。
「好きっ…シュノが、好き…
どこにも、行かないで、ずっとそばにいて…」
「…仕方ないから、居てやるよ。
もう一人で残されるのはごめんだ。」
そのまま、ひとつに溶け合うみたいに唇が自然に触れた。
二人のファーストキスは涙の味がした。
「ずっと、一緒にいてくれる?
僕が、先生みたいに上手くできなくても…
誰も僕に見向きもしなくなっても…」
「あぁ。お前が死ぬまでそばにいる。
そして、お前が死ぬときに俺を殺してくれ…。」
悲し気に伏せられた瞳に、レイリがキスを落として頷いた。
「……約束だよ。」
「あぁ、約束だ。」


その数年後、二人はそのなを知らぬ者は居ないほどの偉業を成し遂げる。
これはその、ほんの少し前の始まりのお話。

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