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スミレの人 5

魔王。
それは魔物の王と呼ばれている最上の存在。
人に神が居るように、魔物にとっての神とも言える。
自然派生であり、衝動と性質を翻弄する瘴気を宿しいる魔でありながら影響を受けず、それらを抑える理性と魂を持った者。
神と殺し合う運命にある者。
魂があるが故に魔王は何度殺されても輪廻転生し、血脈ではなく魂に全ての知識と権能を継ぐ。
神の永遠にして絶対的な敵対者であり、魔をも人をも極めし七つの加害者。

「魔王の適正を持つ者を器と言う。いずれ、その魂を食われて王へと至る者の事よ。その恩寵は既にお前様、その身体にも現れて居る」

ウィッカが語り、シュノが眉をひそめながら首をかしげる。
全身が血に濡れて紫銀の髪が乱れた有様ながら、儚さと清廉さを持つ美しい少年だ。

「まず歴代魔王は美しい。それらは全て性質は違えど、さすがは極めし者と言わんばかりの魔性の存在よ。お前様もまた、美しかろう?」

クツクツと喉で笑いながらからかえば、シュノは不機嫌そうに菫の目を細めた。
中性的、というには未だ少女めいた可憐さが際立つ面立ちをしている。
けれど美しければ全て魔王なのかというとそうでは無い。
人間には遺伝、というものがあるのだ。
突き詰めれば、あるいは品種改良を続けていれば、美しい者は作れる。

「それと並外れた力、魔力を持つ。とにかく強い。まあ神の仇敵じゃからな、然もあらん。肉体的に強靱という者やあらゆる術に精通する者、それらは魔王がどのように魔力を使うかで変わってくるが……気付いて居るかお前様? ここへ来た当初は単なる鉄の枷で済んだ拘束が今は呪術的な要素も含んで居る。いずれは魔紐グレイプニルでも持ちださん事には抑え切れんだろうな」
「ぐれい……何だ? 紐?」
「かつて、この地が分かたれる前……なおも彼方の頃に存在した道具だ。あの時は……主神オーディンも勝手な真似をせず存命であったか。各地で暴れて居った紫銀の魔王フェンリルを抑える為に作り出された呪具よ。まあもはや現存する呪具でもない故、そろそろ拘束する意味も無くなるだろう」
「それは、俺に出歩いてほしくないという事か?」
「そうじゃな。器でありながら、やはり素養の問題なのじゃろうな。お前様が近づくと魔憑き共が騒ぎ出す。恐らくは瘴気を宿した部分が病むようじゃ。そこからの浸食は確認されて居らぬから、ただうるさいというだけじゃがな。魔はどのような状況でも惹かれ、群れたがるのだろうよ。
そしてそれが人には末恐ろしく見える故、臆病者で、異質を嫌い、力を望む、そんな人間たちは排除したがるのだ」
「……瘴気から生まれたのだとしても魔力を持ち、魔を寄せると言うだけでか?」
「お前様、のうお前様、此度の処遇ではわずかながら余裕があったのでは無いか? 以前は一週間、いや一月か、殴られ潰され千切られ食われ、様々に死にかけて居ったろう。今はどうじゃ? 拳を受けても前ほど痛まず、傷もなかろう。それは器の身にある魔力が、肉体の強化に費やされている証拠じゃ。短期間で肉体に付加を付けず、見た目には変わらず、そのような変化を遂げる生物をワシは知らぬ」

呆れ、あるいは疲労をうかがわせる声音のウィッカに、シュノは軽く目を見開いた。
どこまでも自分本位で不遜、良くも悪くも他からの影響を受けない彼女にしては珍しい。
菫の瞳を縁取る長いまつげを伏せて影を落としながら、床を見つめて情報を整理する。
瘴気と魔力は相反するため、混ざり合うことはないと言った。
その唯一の例外が魔王なのだとして、理性や魂を持つという事は人間を襲わない可能性もあるのではないか。
暇つぶしや仕返しに手を出す事もあるだろうが、そこは個体の差だろう。
少なくともシュノは人を殺して楽しむ質でも、力を誇示する質でもない。
むしろ人間だけではなく、全てにおいて興味がないので放っておいて欲しいとは思う。

「放っておくっていう選択肢はないのか」
「いずれ魔王と成る身をか? ないのぅ。ワシ等は生命と営みを愛する故、基本的には手を出さぬ。人間はそも気付かず太刀打ちも出来んから一理あるのだろうが……魔王が静観したとて、神が放っておかぬよ」
「神? 下手に手を出す方が痛手を受けるんじゃ無いのか?」
「まあそうさな、犠牲になるのは大抵人間じゃろうが痛手はあろう。一つは魔王を殺した後の恩恵が理由じゃな。その多大なる魔力は多くの魔物を解き、飛ばし、生命を育む。簡単に言うと土地が豊かになる。器もそれほどではないが似たような作用をもたらす。だが真の目的は、私怨だろうの」
「しえん? ……随分とみみっち、人間くさいな」
「元が人間だからの。全てがそうとは言わぬが、最高神は魔王を許さぬよ。あれはとにかく、己の計画を潰されるのを嫌って居ったからなぁ。己が最上の存在となる事に心血を注ぎ、他の追随を許さず、その可能性がある者を嫌って居った。それこそ器や魔王を何度も屠る程度にはな」
「……知り合いか?」

ウィッカは人間では無いのだから、どこかで会ったことでもあるのかと問うた。
どうにも内情に詳しすぎるように思えたからだ。
けれどとうのウィッカは目を見開き、首をかしげて不思議そうな面持ちをしている。
これは問い方を間違えたのか、本当に思い当たる節が無いのか判断がつかない。
そもそも知識に偏りがありすぎて役に立つとも思えない。

「あんたは俺を殺さないのか」
「器である以上、死なねばならぬと考えて居る。無駄に生き長らえたとて、お前様の行き着く先は食われて無くなるだけ。ワシが手を下さぬのは、お前様はまだ人の範疇にあるからじゃ。人であるなら救わねばならぬ。人は殺せぬ、そういうルールでな。故に追い詰め、何度か死にかければ魔に堕ちると思って居ったが……今までの魔憑きや器はそうであったが、お前様はしぶといの。あと一息、という度に身体は再生し、人へと戻る。いや、その速度はもはや復元じゃな。不死ではないが限りなく近い」

ウィッカが手を下した魔憑きの処遇をシュノに任せるのは、単に面倒なのかと思っていたが違ったらしい。
再生と復元の違いは分からないが、おかげで短期間のうちに強くなった。
だけれどまあ、力も命も惜しくは無い。
そもそもが欲しても居ないのだから、当然だ。
ただ、愛おしいと言いながら、シュノへと刀を向けてきた女を思い出した。
白に沈んだ小さな子供を思い出した。
彼女たちが望んだのも、シュノの死だった。
一つ目を閉じ、深く息を吐く。

「どこに居ても、結局はそれか。お前が駄目なら、他に誰が俺を殺せるんだ?」
「人を殺すのは人、魔物を狩るのはいつの世も英雄よな。そうさの、堕神討伐隊は英雄の血筋ならばあるいは、といったところか」

随分と適当な言い草であるが、何らかの法則に従うウィッカが口にするのならそれが一番妥当だろう。
その血筋が今はどうなっているかなど、引きこもりを続けているらしい彼女が知るはずも無い。
ならば後は外の世界へ紛れる知識を深めた方が良いだろう。
幸い、情報の更新とやらの産物か探せば本の類いはある。
知りたいことは、全て聞き終えた。
こうしてシュノは、死ぬために生きることを決めたのだった。

スミレの人 4

「全くお前様という奴は、とんでもなく、突拍子もなく、可もなく不可もなく、規格外じゃの」

もはや恒例行事となったウィッカからの苦言、ないし感想を聞き流しながら、シュノは今し方自分を殴り殺そうとしていた相手をやり返す。
本当なら道具の一つも使いたいところだが、あいにくここに使えそうな物はない。
故に殴る蹴る千切る削ぐという原始的な方法でやり合うしかない。
ウィッカとの会話は彼女の気が向けば応じられ、そうでなければ再び牢に繋がれるという相変わらずの生活だ。
変わるのはその拘束方法で、初めは枷だったそれが縄になったり壁に埋め込まれたりと種類に事欠かない。

「これは殺して良いのか」
「うむ、もはや我を無くした畜生に過ぎぬでな。人であれば救わねばならぬが、魔憑きという病に冒され冒涜され飲み尽くされたそれは、もはや抜け殻。人によく似た単なる魔物じゃからなぁ」

にやにやと、けれど悲しそうに顔を歪ませるウィッカの返事を聞きながら、襲い来るそれにとどめを刺す。
心臓の位置に手の平を突き出すだけだったが、シュノを三人並べてもなお厚い塊はそれだけで沈黙した。
手にした心臓という筋肉の塊はシュノの手の上で脈打っていたがそれも握りつぶす。
今回は壁に枷を突き刺すという簡単なようで硬い緊縛から抜けてきた後なので、とにかく疲れた。
その場に座り込み、汗や血で汚れた髪をかき上げて視界を確保する。
ウィッカは表情を変えながら、けれど気にした様子も無く毎度形の違う下僕に掃除をさせた。

「それで、魔憑きってなんだ。俺の、器?とは違うのか?」

物を教えると言ったわりに自分から情報を何一つよこさないウィッカに、疑問を投げかける。
そうしないと彼女との会話は成り立たない。
能動的なようでいて受動的、それがウィッカだ。

「器は器、魔憑きは魔憑きじゃなぁ。どちらも魔に堕ちる、あるいは魔に至るという点では同じ。だがそもそもの成り立ちが違う」
「成り立ち」
「ほれ、魔物は瘴気が生み出すと言ったであろう。瘴気が魔を形作ると言ったであろう。あれがな、人体に入り込みコブのようになるのが魔憑きじゃ。人には魔力があるでな、瘴気が身に巣くうことは元来ありえん。魔力はプラスの力、瘴気はマイナスの力と思って良い。あるいはS極とN極、惹かれ合えど、殺し合えど、影響し合えど混ざり合うことは無い」
「ぷらす……えす……? だが、これが居るだろう」
「うむ、故に自然では無いなぁ。瘴気は魔力を解かし飲み込むが、魔力は瘴気を弾き解かす。ま、相反する力よ。摂理を超えた存在よ。それだけなら魔族という例外が居るが、器はそちらに近いの」
「まぞく……また新しいのが出たな。瘴気があると駄目なのか」
「人であり、魔でもある、魂を持つに至った魔物が魔族じゃな。あれらは一過性で繁殖する者では無いから増える事はマレ。繁殖したとてそれは下僕でしかない魂のない魔物よ。瘴気はこの世界が出来た時からある故、駄目という訳では無いなぁ。瘴気は魔力に、魔力は瘴気にと循環する事でこの世界は成り立って居る」
「……なるほど」

だから人である冒険者は魔物を狩るのか、と何と無く理解する。
魔物が人間を襲うのは、瘴気のとかしのみこむ、とかいう性質の性だろう。
冒険者が魔物を狩ればそれらは形を失い、はじきとかすという事になるのだろう。
それらを自分の中で咀嚼しながら、結局最初の疑問には何ら答えていない事に気付く。

「おい、結局その瘴気が人間に入るとどうなるんだ」
「超常の力を得るな」
「ちょうじょう?」
「腕にそれがある者は腕力が、足にそれがある者は膂力が、目にそれがある者は魅了など」
「へぇ……便利だな」
「そうでもないぞ。言うたであろう、いずれ瘴気は飲み込むと。まず精神が持たぬな、それに迫害もある。人間は異質を嫌う性質、致し方なかろう。次に肉体が変容し、最終的には魔物に成り果てると思われる」
「ふーん……ん? 思われる?」
「うーむ、そこに成り果てた者はワシも知らん。とんと覚えが無い。いやはや、やはり根源から分かたれ神毒を受けた影響じゃな。今のワシには情報を更新する術がない。どれもこれも、いにしえの賢知という奴じゃ。ワシに出来る事、せねばならぬ事はそう多くもない。人を救い、人の助け手となり、大多数の人の味方となる事。総評で人を侵害してはならんという事じゃ。そのついでに、情報の更新と魔へと堕ちた者を処して居る」

これまでのウィッカの言から、彼女が人では無いという事はよく分かった。
多少長く生きている事も、時折底知れない力を見せる事もよく分かった。
けれど、その精神のあり方だけはよく分からない。
ここにはシュノが出会ったことは無いが、多くの気配がある。
恐らくはそう少なくない魔憑きがシュノと似たように閉じ込められているのだろう。
閉じ込めてどうするのかというと、食事を与えるなどをしてとにかく生かす。
そして一人一人、じっくりと、どういう類いのそれなのかを確認し、一人ずつ何かをする。
何かをして、どうにかなると、ウィッカはそれを処分する。
つまり、

「あんたは何をしているんだ?」
「ワシか? 見て分かろう、魔憑きを救おうとして居る。これでも堕ちるまでは人じゃからな、救わねばなるまい。この世界、こちら側、この大陸には存在せぬが外科摘出手術をする事でコブを取り払い、瘴気を取り除いて居る。そしてそれを成した個体の全てが魔へと堕ちるに至ったため、処して居る」

殺すためではなく生かすためにコレを続けている、という言葉に驚いた。
むしろ殺したくて魔に突き落としてるの間違いでは無いかと。
げかしゅじゅつとやらが何かは知らないが、ウィッカと会話をする為にシュノが殺してきた彼らは苦しんでいた。
そしてウィッカは、慈愛に満ちた顔で、憎悪に満ちた顔で、悲哀に満ちた顔で、喜悦に満ちた顔で全てを行っている。
彼女の中でも整理のつかない感情が溢れているのだろう。
けれどどこまでも受動的なウィッカは、情報を更新しないと他に手段がないのだ。
なるほど、あまりにも意味が無い。
自分の中で納得したシュノは、それら全てに興味が無かった。

「結局、器って何の器なんだ」
「ああ、言っておらなんだか? 魔王の器じゃよ」

スミレの人 3

道中にシュノを拉致した女はその後、彼を地下深くの独房へと幽閉した。
壁から伸びる鎖が身じろぎの度にジャラジャラと音を立て。
ただ大人しくしているだけの状況に、早々に飽いたシュノはそれらを取り去ることにした。
まずは適当に、つなぎ目の部分をひねる事で取ろうとする。
そもそもが、人には力だけで鉄をどうする事は出来ないという知識もなかった。
カンテラの明かりだけが照らす室内は朝も夕も分からない。
なので手首を擦れる手枷にかまわず、ひたすらに鎖を引っ張ったり殴ったり知る限りの暴力を働き。

「壊れた」

真っ赤に擦れ、血の滲む手首には多少の痛みはあれど気にもせず。
鎖は途中から分断され、壊れた輪が床に転がっている。
壁から離れることが出来るようになれば、そこは寝床も整っていない上に数歩で扉へ届いてしまう石垣の部屋だと分かった。
扉に窓はなく、鉄枠がはめられている。
それをシュノは、


どこからか響いてきたけたたましい破壊音に、ウィッカは作業を中断して首をかしげる。
はて、今預かっている広大な地下研究所に、これだけ"生き生き"とした音が響いたのはいつぶりか。
助手として使っている使い魔を目だけで探るが見当たらない。
面倒ではあるがウィッカ自身が動くほかなく、目の前の反応をするだけになった肉塊を捨て置き廊下へと出てしばらく歩く。
と、曲がり角にさしあたった辺りでソレを見た。
片手に身体以上の大きさをした獣を引きずり、血の跡の真新しい紫銀の髪をした菫色の瞳の子供を。

「……ふむ、ふむふむ? お前様、お前様は魔を宿して居るがなにゆえ歩き回って、自由気ままに闊歩して居る。下僕はどうした、あれにはお前様のような輩は餌とすべしと申し渡して居るはずじゃが。とするならば、となるならば、お前様はー……」
「寝惚けてんのか? あんたが連れてきたんだろうに」

辛辣な声音すら涼やかで、眉をひそめる顔は極上。
着ている物こそ些末な貫頭衣ではあるが、肩から羽織る着物が顔の作りと相まって少女じみてはいる。
そこでようやくウィッカは片目を竦め、もう片目をまあるく見開いてぎちりと奥歯を噛みしめながら笑った。

「カッカッカ、思い出したぞ! おうおう、あいすまぬ。何せワシは今人間に使われる身、他人にノルマを課せられている身故なぁ、お前様と違って忙しいのだ!」
「……これ、そこら中に居たが良いのか」
「うむうむ、良い。というのもソレは脱獄者を追うように躾けた我が僕。そう、脱獄じゃ! お前様、のうお前様? なにゆえここに居るのかのぅ」

確かコレには出歩かれては面倒だと頑丈な牢に鎖で繋いでおいたはず。
蛇が獲物を狙うように目を眇ながら、隙あらば飲み込もうという悪意を見せながらウィッカはシュノを見る。
と、血に濡れた少年は肩をすくめ、獣を手放すと片手をあげて見せた。
そこには確かに少年を拘束していた枷が、申し訳程度に引っかかっている。

「あそこは飽きた。それにこれは脆すぎる。こいつらを殴ってたらこの有様だ」
「人外じゃなぁ。まあ器をその程度で留められる訳もなし、か。次はちと趣向を凝らさねばならんの」
「それで」
「うん? おお、おお、なんじゃお前様まだ居るのか! ワシにはそも初めから用はない故、疾く牢へと入って貰いたいのじゃが」
「あんたが言ったんだろう、俺のことを教えてやると。それに器ってなんだ。あんたは何だ?」
「やれやれ、せっかちじゃのう。ワシは忙しいと言って居るに……よいよい、適時休憩は必要か。ワシは人間ではないが、人間とはそういうものじゃと知って居る。それに、ちょうど今この瞬間のワシの興味はお前様にある」

こっちじゃ、と声を掛けて背後の様子をうかがうこともせずにウィッカが先ほどの部屋へと戻った。
そこには作業中であった肉塊、人のなれの果てがちぎれ落ち、床を深紅で汚している。
ウィッカの後に部屋に入ったシュノはそれを気にする様子もなく、近くにあった椅子に腰掛けた。
通常の人間が持ち得る神経では考えられない反応に、ウィッカは笑みを深めて下僕を呼び出す。
別の扉から入ってきた五本足の黒い獣が肉塊を食み、床の汚れも舌で舐めて掃除をした。

「それで、」
「ああそうさな、まずはお前様の名を聞こう。無論、ワシも名を明かそう。とは言っても人が勝手に呼ぶアザ名であり、真名はワシの知るところではないのだが。ところでお前様、そうさお前様、名を明け渡す相手は考えた方が良いぞ? 何せ魂の一端を開示するのじゃからなぁ」

胸に手を当て、横柄に、けれど鷹揚に我が物顔で告げるウィッカに、シュノは眉をひそめて口をつぐむ。
魂のなんちゃら、という意味は分からなかったが、相手を考えろというのなら目の前に居る人物ほど信用出来ない相手は居ない。
けれどまあ、知りたいことを教えてくれるというのなら悪い相手でもないのだろうと小さく息をつき、

「シュノだ」
「然様か、ワシの事はウィッカと呼ぶが良い。予言の魔女、あるいは成れ果ての呪い、はたまた最古の魔術、まあ何でも良い。そういう意味であり、そういう者だと思うが良い」

こうしてようやく、彼らは互いを認識するに至ったのだった。
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