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幽霊塔の吸血鬼 10




馬車に揺られているうちに眠ってしまったのか、シュノは王都の教会前で御者に起こされた。
数日間まともに眠っていなかったせいか、レイリの行方が判った安堵からか随分ぐっすり寝てしまったらしい。
シュノは御者に礼を言って降りると、教会に向かうことにした。
教会の入り口には、朝早いというのに一人のシスターが箒を持って掃除をして居た。
「あら、遅かったのね。」
シスターはシュノに気が付くとにっこりと笑ってそう言った。
「レイリなら中に居るわよ。」
教会の扉を開き、まるでついてこいと言わんばかりに歩き出すシスターに、シュノは黙ってついていく。
さすがに教会の空気はシュノの身体には辛いものがあるが、レイリに会いたい一心で気だるい身体を動かした。
王都の教会は広く、礼拝堂の横のドアから神父やシスターが暮らす居住スペースになっており、レイリの部屋の前まで案内されるとシスターはノックもせずにドアをあけて中にはいるように視線で促した。
「レイリ…?」
「あ?」
部屋の中には確かにレイリが居た。
ただし、中身が違った。
「何だ、シュノか。
レイリじゃなくて残念だったな」
イリアはベットの上で片膝を立てながら窓の外を眺めていたが、シュノに気が付くとニヤリと笑った。
「つか、よくここが判ったな。」
「レイリが屋敷以外に帰る場所はここしかねぇだろ。」
「違いねぇ。
街で捕まった時はどうしようかと……」
イリアの言葉を遮るように、シュノがイリアを抱き締めた。
「もう、お前でもいいから、このままで居させろ」
シュノの腕の中に収まると、イリアはその赤い瞳を柔らかく揺らして目を閉じた。
「まぁ、お前が来たら返してやるつもりだったけど…」
そう呟くと、急に全身の力が抜けたようにぐったりした。
「イリア?」
しばらく呼び掛けても反応しないので、頬を何度か軽く叩いてみると、ゆっくりと青い瞳が開いた。
「しゅ…の」
掠れた声で呟くのは、紛れもないレイリだった。
「僕は…夢を見てるの…?」
「夢じゃねぇよ、心配かけさせやがって…このバカ…」
ぎゅっと離さないようにレイリを抱き締めると、レイリがそっと背中に腕を回してきた。
「ごめん…」
「どうして突然居なくなったんだ」
「ごめん…ごめん…」
泣きながらレイリがシュノにしがみつくので、それ以上何も言えずにきつく身体を抱き締めた。
嗚咽を漏らしながら、震える小さな身体は以前よりも細く骨張っている気がした。
「少し痩せたか?
アイツらに何か怖い亊されたのか?」
「ん…平気、なにもされなかったよ。
ただ、ご飯が食べたくなくてそれでかも」
「皆お前を心配してる。
帰ったら、レシュオムがパンケーキ作ってやるとさ。
ハチミツとクリーム一杯かけて、好きなだけ焼いてくれるっていってたから」
「うんっ…帰りたい…」
すすり泣くレイリの頬を撫でて涙を拭うと、レイリがようやく顔をあげた。
「イリアが…何かシュノに酷いことしたんでしょ?」
レイリがシュノの着物をぎゅっと握りながら呟いた。
「別に、酷いことじゃない」
「朝起きたらシュノがぐったりしてて…
羽も出てたし、イリアがシュノを無理矢理抱いたって…
だから僕…その…シュノに嫌われたんじゃないかと思って……」
「バカだな。そんなことで嫌いになるわけないだろ…
……本当に…心配したんだからな…」
抱き締める力が強くなるのを感じて、レイリは改めてシュノに愛されていると感じて、そんなシュノの気持ちを疑った自分を恥じた。
「ごめん…本当にごめん…」
「もういい、お前が無事ならそれでいい」
シュノの温もりを感じて、レイリは安心したように目を閉じた。
「ほんとはすぐにでも帰りたいんだけど…
羽を切り落とさないと駄目だから…」
「切り落とす…?なんで?」
「ぼくはまだうまく羽を隠せないから…
このまま街に戻ればまた捕まるし、このままだと色んな亊に影響を受けやすいんだって」
レイリの話では、幼い天使はや混血は常に魔力を垂れ流している状態で、悪魔の格好の餌になる。
「今までも、何回か羽が出ちゃったことがあって…
羽って天使には重要な役割がある器官なんだ。
天使であるって証明になるし、力の源みたいなものなんだって。
だから、僕みたいな中途半端な存在が羽持ちだとただ力を垂れ流しちゃうから、羽を切って力の流れを遮断するの」
「羽、切るの痛くないのか?」
レイリは泣きそうな顔でシュノを見上げた。
「………めっちゃ痛い」
「なら、そのままにしとけ。
俺が絶対守ってやっから」
シュノはレイリをぎゅっと抱き締めて頭を撫でた。
「…ん…でも…」
「それ、可愛いからそのままで良いって。」
優しく撫でられる手に、心地好く目を閉じてると嬉しそうに羽をパタパタ揺らした。
それが妙に似合っていて、羽を優しく撫でると
「ひぃんっ!」
ビクッとレイリが驚いて身を縮ませた。
どうやら羽は敏感のようで、それも根本に近いほどレイリは最中のような甘い声で鳴いた。
「……ふぅん…」
シュノはにやりと笑って羽の根元をぎゅっと掴んだ。
「ひっ、あぁんっ!」
レイリが体を震わせながら、涙目でシュノを恨めしそうに見上げる。
「それは、反則だろ…」
「だから嫌なんだって、ばぁ…
んっ、ふにゃ…」
だんだんレイリの体から力が抜けてきて、シュノにもたれ掛かるように倒れ込むと、頭を優しく撫でながらシュノがレイリを抱き締めた。
「もう無理、我慢しようと思ったけど無理だ」
「ふぇっ…や、はね、はねはぁっ…羽はらめぇぇ!!」
羽の根元を弄るだけでレイリは蕩けたような甘い声を漏らした。
確かにこれは、危険かもしれない…。
シュノは内心そう思いながらもレイリの羽をぎゅっと握る。
レイリは最早自力で体を支えられない程にふにゃふにゃと倒れ込んだ。
頬を赤く染めて、見上げる。
「ああ…これは、ヤバイな…
可愛すぎてどうにかなりそうだ」
「ちょ、ホンともう…やめ…」
「その辺にしとけクソガキども」
今にも致すという寸前で止められて、シュノは不服そうに声の主を睨んだ。
「まさかテメーがレイリと契約するとはなぁ。」
タバコをふかしながらにやにやと意地の悪い笑みを見せた男に、シュノは視線をそらした。
「あんたに関係ないだろ。」
「まぁな、ただレイアの思惑通りに事が運んで面白くねぇのは事実だな、つまらん」
「俺はあんたのおもちゃじゃねぇよ」
二人の間で首をかしげるレイリはシュノを見上げた。
「シュノ、先生と知り合い?」
「……こんなやつ知らね」
「俺だってこんな可愛くないガキは知らん」
そう言って、男―ノエルはレイリに近寄ると首根を掴んだ。
「ひぁあ!?」
「吸血鬼なんかと契約なんてするからレイリの力が中途半端に覚醒しちまったんだぞ。
しかも麓の街で既に正体までバラしやがって、このバカが」
「不可抗力ですよぉ!僕悪くないもん!」
じたばたしながら抵抗を続けるレイリを、ノエルはずるずると引きずった。
「まてよ、レイリをどこにつれてく?」
「あ?羽落とすんだよ。」
ズルズルと引き摺られるレイリはそれを聞いて抵抗をやめた。
「無理に落とす必要ないだろ!?」
「あるから言ってるんだ。
レイリは、レイアとシュリの魂を宿してるんだ。
あれほど強大な相反する力をその身に宿しているんだ、器がただの人間なわけないだろ。」
「……は?…どういう…?」
「レイリの器は天使が人間の女を孕ませて出来たガキだ。
つまり、どういう事か判るな?」
ノエルの言葉にシュノは黙った。
黙ると同時になぜシュリがそれを許したのか判らなかった。
「シュリは…知ってたのか?」
「知ってるよ、アイツがレイアのする事を咎めると思うか?
巡り巡ってそれは全てがアイツのためなんだからな。」
「ねぇ、どういう事?
先生、僕はただの混血じゃないの?」
ノエルは掴んでいた手を離した。
「お前は本当に頭が花畑なのか?
レイアが人間の女にお前を生ませたんだ、それもただの女じゃない、巫女の血統の女だ。
だから、お前の体はレイアに馴染みやすいし、他の奴等が入り込みやすいんだよ。」
「……だから、今まで羽を?」
「そうだ、レイアは天使にとっては大罪人だ。
だからお前からレイアの痕跡を残すものが少しでもあればお前は天使からも人からも悪魔からも狙われる。」
「……シュノ…僕、知らなかった…
こんなに自分が面倒な存在だって…」
「面倒だと思ったらこんな場所まで迎えに来ねぇよ。
今さらお前が何であっても手放す気はねぇ」
「シュノ…ありがと…」
レイリの体をきつく抱き締めれば、震えているかと思ったその小さな体はしっかりとシュノの背中に手を回した。

レイリは自らの意思でノエルに付いていった。
教会の礼拝堂から、小さな入り口をくぐり地下へ向かう。
シュノも一緒に付き添い、レイリの体を抱き締めた。
いつもの見慣れた部屋。
石畳の冷たい部屋には血の匂いがこびりついている。
それでも空気が淀んでいないのはこの空間が浄化してると言うことになる。
レイリは用意された椅子に座る。
痛覚を遮断し、激痛でショック死しないようにか、レイリの首もとに注射をうつ。
30分ほどして、うつらうつらとしてきたレイリがぐったりと意識を落とすと、羽の付け根をきつく紐で縛った。
「ずっと、こんなことしてたのか…?」
「初めて羽を出したのはこいつが9歳の時だ。
泣きわめくレイリを無理矢理抑えて羽を落とした。
何で俺様がこんなめんどくせぇことをやらなきゃならねぇ。
全てはレイアが悪い。俺の言うことを聞かずに堕天したあげくテメェのガキを俺様に押し付けやがって。とんだバカ弟子だ。」
「あんたにしか頼めないだろ、こんなこと。
元天使長殿。」
「過去の話だ、俺様は彼処が嫌で羽を落とした。」
完全に眠ったレイリの羽を広げると、ノエルはシュノを見た。
「お前が切れ。」
「は?」
「お前の花嫁だろ、ならお前が処理するのが当然だろ」
そう言ってノエルは転がしたレイリのシュノに投げつけた。
「普通はな、羽なんて何度も生え変わるもんじゃねぇんだよ。
一度落とせばそれで終わりだ。
天使でも吸血鬼でも人でもない…
言うならこいつは化け物だ。」
「何が言いたいんだ?」
「せいぜいもて余さないようにしろ、俺様はもう面倒みてやるつもりはねぇ」
それは、遠回しな親心だ。
シュノがレイリを捨てればレイリに待つのは無惨な死か、一生他人に怯えていきる生活だ。
「さっきも言っただろ、手放すつもりはねぇ。
受け入れてやるよ、全部な」
眠るレイリの額にキスをして、シュノは刀でレイリの羽を切り落とした。




幽霊塔の吸血鬼 9




「う…ん…」
あまりの寒さに目を覚ましたレイリは辺りを見回した。
そこは何処かの地下らしく、岩をくりぬかれた牢屋で、冷たい鉄格子には魔方陣が描かれている。
「なにこれ…」
鉄格子に触れようとすると、バチッと弾かれてしまい、血が滴る。
「結界…?」
「お目覚めになられましたかな」
不意に声が響き、レイリはビクッと身を縮ませた。
「貴方はだれ…?」
目の前には身なりの良い初老の男が椅子に座ってこちらを見ていた。
「私はこの街を預かるものです。
貴方をずっと探しておりました。」
「僕を…?」
嫌な予感しかしないレイリは、初老の男から離れようと、牢屋の奥に身を潜めた。
「昔、ここがまだ小さな村だったころ、一人の天使様がこの地に舞い降りました。
その天使様のお陰で村は瞬く間に成長し、今やこんなに大きな街に発展しました。」
レイリはなるべく身を小さくさせて男をじっと見ていた。
「しかしある時、塔に住む吸血鬼が天使様をたぶらかし、その力を奪ってしまった。
吸血鬼は天使様との間に一人の子を儲けました。
そしてその子供に天使様の力を封じ込めて、天使様を塔に封印してしまったのです。」
「だから、何ですか。
それと僕と何の関係が…」
「貴方が件の子供だからです。
天使様と瓜二つの容姿、白と黒の翼は混血の証。
貴方を天使様に還せば天使様はきっと力を取り戻せる。
貴方の心臓を、天使様に捧げるんです。
天使様を我々が取り戻すまで、貴方にはここで大人しくしていて貰いますよ。」
「そんなことしてもレイアは戻ってこない!
レイアはシュリさんを…吸血鬼を深く愛しているんだから!」
「バカなことを…
吸血鬼にたぶらかされたか。
まさか教会から派遣された悪魔払いが天使様の落とし子だとは思わなかったが…
所詮は吸血鬼の血が混じった穢れた子なのだな」
レイリは男を睨みながら警戒をあからさまにした。
「どうせお前は逃げられんよ」
男が去ったあとに冷たい牢屋の中で身体を横たえた。
シュノと契約している以上、レイリは絶対に死ぬことはない。
どんなに痛め付けられようとも。
そしてただの人間にレイアを救い出すことも不可能だ。
シュノでさえ解けなかったレイアの結界を解くことは出来ない。
「…シュノ…ごめん…」
なるべく体力を消耗しないように、冷たい牢屋の中で眠りに就く。
一応死なないように食事は出されたが、手をつける気にもなれなかった。
最初は監視の男も何も言わずに下げていたが、三日を過ぎた頃には強引に粥の様なものを一気に流し込まされた。
それでも暫く抵抗していたレイリも次第にそんな体力も無くなってきたのか、1週間が経つ頃には少しだけ口にするようになった。
もはや自分はこの牢屋で飼い殺しにされるのかと、ぼんやり頭の片隅をよぎった。
「変態に売り飛ばされるよりはマシだろ」
「……イリア、何とかしてここから出れないかな…」
イリアは少しだけ黙ると、レイリの意識を交代させた。
「困った時だけ俺頼みか?
暫く身体返さねぇぞ?」
「……もう、構わない…
シュノに…会いたい…」
「ならお前は寝てろ、邪魔だ。」
そのまはまイリアはレイリの意識を眠らせた。
「さて、と。
逃走経路は見つけてんのか?」
イリアがなにもない空間に声をかけると、そこからシスター服の少女が顔を覗かせた。
「見張りはそれなりに居ましたが処理してきましたよ
さっさと帰りたいんで」
「そいつはありがたいな、珍しく気が利くじゃねぇか」
「アホ天使様にぐずられると面倒ですから」
そう言うと少女は小さな鍵を鍵穴に差し込んで牢をあけた。
「なら、見つからねーうちにとっとと逃げるか」
少女は頷いて先頭を歩き出した。
どうやらそこは街の教会の地下だったらしく、礼拝堂に繋がっていた。
「教会にあんな場所作るかね、普通」
「どう考えても鬼畜天使を閉じ込めておくための牢屋でしょうね」
「レイアがあんなとこに大人しく捕まってる柄かよ」
「堕天したとは言え仮にも上級天使ですから、無理だと思いますけど」
教会から出ると、辺りは薄暗く黄昏時。
夕闇に紛れて二人は王都に戻る馬車に潜り込んだ。
さすがにレイリを捕まえた事で教会の地下に居た見張りは気が立っていた様だが、街の外はいつもの様子に見えた。
「一応これ被ってください、今度見つかればもう見捨てます」
「レイリじゃあるまいし」
イリアはフードのついたコートを着ると、人気の無い道を歩いていく。
「教会の馬車を待たせてあるのか」
「街の馬車は信用できないですから」
そう言って馬車に乗り込むと、そのまま王都をめざして馬車はゆっくり走り出した。





「レイリは見つかったか?」
「いえ…まだ…」
レイリの気配は屋敷の敷地内からは感じられなく、街の方まで降りてみたがレイリの手がかりは掴めない。
「シュノさん、街で少し妙な噂が…」
レシュオムの背後からクロシェードが顔を出した。
「噂?」
「事実かどうか、定かではないんですが…
麓の街に天使が現れたとか…」
「天使…」
レイリが混血の天使だと言うことは全員が承知している。
街に現れた天使はおそらくレイリの可能性が高い。
「街に行ってくる」
「シュノさん、まずは私が行きますよ」
「レイリはきっと俺を待ってる。
迎えにいってやらないと」
シュノは刀を掴むと麓の街に向かった。
街では幽霊塔に住む吸血鬼は紫銀の髪に菫色の瞳を持つ美しい男だと伝えられている。
13年前にレイアを奪還しようとした街の住人が最初に見たのがシュノだからだ。
容易に街にいけば騒ぎになるのは判っていたが、それを逆に利用すればレイリを連れ戻せるはずだった。
「素性がバレてるんだから見つかれば殺されるんじゃ…」
「レイリを連れ帰るのが最優先だ。
あいつの方こそ殺される可能性があるだろ」
一般には混血の天使の血はどんな万病にも効く万能薬、肉は不老不死の霊薬として認知されている。
捕まればレイリは血を抜かれ肉を喰われても死ぬことができない。
「それに麓の街は未だ天使信仰が根付いている。
レイアの子供だと判れば奴等はまたレイアを取り返しにくるに決まってる」
「そうですね…」
レシュオムが俯いて顔をそらした。
「せめて、素性は隠すべきだと思いますが…」
クロシェードがそっとフードつきのコートを差し出した。
「ああ、判ってる。」
シュノはそれを受けとると、街へ急いだ。
天使を捕まえたとなれば街は賑わいを見せていた。
レイアが封印されてから続く日照りの影響でだんだん作物も育たなくなってきていたせいもあってか、皆が天使を求めていた。
屋敷から出ることはない主のにはあまり興味のない話だが、コートを着込んで賑わいの中に紛れた。
「すいません…人を探しているんですが…
この辺で金髪碧眼の16歳くらいの男の子見ませんでしたか?」
シュノは取り合えず手近な露店商に声をかけた。
「もしかして、天使様のことかい?」
「天使様…?
その天使様って言うのは…?」
「あんたの言った特徴によくにているよ。
なんでも王都の教会から吸血鬼退治に派遣された神父様らしいけど。
吸血鬼にやられて手負いで帰ってきたところを人拐いに拐われたとかで…」
「人拐い?」
「ああ、そこにひとつ空き店があるだろ?
彼処にもこの前までは露店商が居たんだけれどね、どうやら天使様を拐った人拐いと仲間だったみたいでね、役人に殺されてしまったんだよ。」
ポツンと場所だけが広がった露店スペースには、どこか物悲しい雰囲気が漂っていた。
「それで、天使様はどうなったんですか?」
「ああ、それがどうやら教会で保護しているらしいんだよ。」
「教会で…?」
「悪いことは言わない、天使様に手を出そうなんて考えちゃいかんよ。
兄ちゃんの探し人が天使様だとは限らないだろうが、街の連中はイカれてる。
天使様に酷く執着心を持っているようだからね」
シュノは頷いてフードを深く被った。
「ありがとう、そうします。」
露店商に礼を言ってその場を離れると、辺りにいた露店商や御者にも聞き込んでみるが、同じようなことばかりが返ってくる。
そして、どうやらレイリは白昼堂々天使だと町中にバラされたようで、町中は天使が戻ったという話題で持ちきりだった。
民衆がこれだけ騒いでるとなれば、レイリは殺さずに何処かに監禁されている可能性が高い。
「待ってろ、必ず助けるから」
シュノは夜になるのを待って教会の近くで身体を休めた。
教会は吸血鬼であるシュノにとって近寄りたくないエネルギーで満ちている。
辺りには見張りも多くいるだろうと思っていたが、意外にも見張りは居なかった。
怪しんで教会の中にはいると、礼拝堂の経壇が少しずれていてそこから地下への道に続いている。
そこにはレイリの羽が一枚落ちていた。
「この奥か…?」
辺りを警戒しながらもシュノは奥に進んでいき、最奥にある岩牢にたどり着いた。
頑丈に封印指してあったであろう入り口は何者かによって破られている。
その岩牢の中にはレイリが居た気配が微かに残っていた。
「誰かに連れ出された…?」
そこにはレイリの姿はない。
結界が外側から破られているのを見ると、結界を壊したのは聖職者。
ただの人間に結界は弄れない。
この牢で争った形跡が無いことからレイリは自らの意思で着いていったと考えるのが妥当。
そうなればレイリの行き先はひとつしかない。
「……王都か…」
恐らくレイリは何らかの理由で屋敷を抜け出して王都の教会に帰る予定だったのだろう。
その途中で人拐いと揉み合っているうちに天使だとバレて街の教会に捕まっていたが、誰かに連れ出されたと。
頭のなかで繋がった事でシュノは急いで王都に向かおうと教会を出た。
辺りでは確かにレイリを探しているのだろう、街の役人たちが右往左往していた。
「すいません、王都までお願いできますか」
シュノは急いで手近な馬車に乗り込み、御者に銀貨を握らせた。
「少し急いでいるので…」
そう言うと御者は馬を王都に向けて走らせた。
街の明かりがどんどん離れていくのを眺めながら、レイリの無事な姿を見て、抱き締めたくて手をぎゅっと握った。


幽霊塔の吸血鬼 8



「レイリ…?」
「レイリじゃねぇよ、俺はイリア。」
レイリは別人のような乱雑な口調でそう名乗った。
確かに、身に纏う雰囲気は一変している。
イリアと名乗ったそれは、レイリの姿で、声でにんまりと笑った。
違うのは瞳の色が真っ赤に染まっていることくらい。
それだけなのに、まるですべてが正反対だ。
「俺達は二人でひとつなんだ、レイリばかり可愛がるのは狡いだろ?」
蛇のように絡み付く視線にシュノが眉を潜めた。
「何が言いたい?」
「俺にも楽しませてくれって言ってんだよ。
可愛い俺の半身を好き勝手させてやったろ?」
そういってイリアが嫌味な笑みを浮かべてシュノを押し倒した。
「新月はな、混血にとっても意味があるんだよ。」
はだけていた着物に手を入れる。
よく見ると、羽の片方が黒く染まっている。
可愛らしいと感じていたそれは今はただ禍々しい。
「吸血鬼と天使の混血ってのは結構複雑なんだぜ?」
「だから何だ、レイリを返せ」
「残念だがそれは出来ねぇな。
言っただろ、ここからは俺の番だ。
次の満月までな。」
「意味わかんねぇ、良いからそこどけ」
シュノがイリアを押し退けようとして、力が入らないことに気付いた。
「…テメェ…何しやがった」
「俺はレイリより力の使い方を把握している。
吸血鬼の血は催淫効果があるのは知ってるだろ?」
シュノは目を見開いた。
「勿論、レイリの血にもあるんだよ。
昨日はそれで理性が吹っ飛んだろ?」
にやにやと意地の悪い笑みでシュノの着物を脱がしていく。
抵抗しようとしているが、どういう訳か力が入らない。
むしろ体の芯が熱くてもどかしい。
「ふぁ…」
シュノの着物の帯を解いて手首を縛ると、イリアは頬に手を添えてにっこりと笑う。
「ねぇ、シュノ…いいよね?」
まるでレイリのふりをする様に甘えた声を出して首をかしげる。
「っ…やめ…」
「だーめ、やめない」
舌舐めずりして、ごくりと唾を飲んだイリアはシュノの着物の裾から太股に触れた。
「んっ!!」
ビクッと体が震える。
まるで触られた部分だけが自分の体ではないみたいに。
そのままレイリの身体に収まっていた自身をゆっくりと引き抜かれ、零れ落ちた精を指で掬い上げる。
「シュノは綺麗な顔してるから顔射とか似合いそうだな」
「っ、絶対に、ごめんだ」
イリアを睨み付けるシュノの脚を大きく開かせ、身体を割り込ませるとシュノの精液で濡れた指を秘部に押し込んでいく。
「ひっ――!!」
「流石に後ろは処女か…」
ぺろりと唇をなめて、にんまり笑うイリアにシュノは押し返そうとした。
「シュノ、だめ」
「っ…やめ…ふぁあっ!?」
乱雑に指をかき混ぜればシュノはびくっと身体を震わせた。
「いい声で鳴けるんだな?」
「るせ…だま…ひぁ!?」
「ここがいいのか…」
シュノの弱いところを指で徹底的に責めれば、萎えていたシュノ自身がゆるりと勃ちあがる。
「言っとくが、俺はお前みたいにやさしく抱いたりしないぜ」
イリアは口の端を吊り上げてシュノの両足を抱えた。
「っ、やめ…」
「いやだね」
そっと入り口にイリア自身が宛がわれる。
軽く慣らされたとは言えそこは固く閉ざされている。
しかしイリアは気にするようすもなくそのままシュノの秘部に強引に自身を捩じ込んできた。
「いっ…てぇ…」
シーツをきつく握り、唇を強く噛む。
引き裂くような痛みに耐えながら、目の前の愛しい顔か楽しそうに歪むのが腹立たしくて声をあげないように必死に耐えた。
イリアは根元までゆっくり押し込むと、緩急をつけて激しくシュノを揺さぶった。
「いっ…ぁ、んんっ…っ」
「声出せよ、詰まんねぇだろ」
「誰がっ…」
しかし痛みは次第に快楽に代わり、身体が熱くなってもどかしい。
イリアはわざとシュノの良いところを外して突いてくるので、余計にそれがもどかしくてシュノの理性を少しずつ侵していく。
「ん…ぁ、んんっふ」
足を広げさせ、胸につくぐらい押し込むとシュノの唇を奪った。
「ん…んっ…」
シュノの抵抗が次第に弱まると、イリアはニヤリと笑った。
「は…ぁん…」
グチュグチュとシュノ自身を扱きながら奥を突き上げると、シュノがイリアにぎゅっとしがみついた。
震える手で、服の裾を噛み締めながら声を殺すシュノが可愛くて、そっと頬に手を沿わすと甘えるようにすりよってくる。
どうやら完全に理性が飛んでしまったようだ。
「ああンっ、奥…いやだっ…」
「可愛い声で鳴いて、本当はいいんだろ?」
「ひっ…う…」
生理的な涙を浮かべながら、揺さぶられるシュノはイリアの背中にきつく爪を立てた。
「中に、出すからなっ!!」
「ぅあ…やだ…やめろ…」
イヤイヤと首を降るシュノの額にキスをして、激しく腰を振った。
「やっ、あっ、あぁっ!!やだ、やめろ!!」
「やめね、大人しく…しろって!!
ほら、もう出るっ…」
乱雑に内部を抉られるように突き上げりるイリアに、シュノは乱されてそのまま精を放った。
「ふぁああっ…っ、この…」
「シュノ…中良すぎ。とまんね」
「ひぁっ、や…うそ…今イッたばかりだろ…」
「お前だって、何度もレイリ抱いただろ」
イリアはシュノの脚を抱えあげてそのまま気を失うまで精を注ぎ続けた。



「…えっ…」
朝起きて、レイリは唖然とした。
ベットではシュノがグッタリしながら眠っていて、服は酷く乱れている。
「しゅ…の…」
震える手でシュノに触れるが、よほど深く昏睡しているのかピクリとも動かない。
「や…だ…やだやだ…シュノ、シュノ起きて!!」
「レイリ、お前の姿をよく見てみろよ」
不意に頭に響く声に、ビクッと身を震わせる。
「どうゆうこと…?」
昔から聞こえる声に恐怖心はなかった。
だけどこの声がするときは大抵悪いことの前触れだ、すくなくともレイリにとっては。
「鏡、見てみな」
レイリは声に導かれるままに鏡の前にふらふらと歩いていった。
小さな鏡には、ふわふわと小さな羽が生えていて片方が黒く染まってしまっていた。
「嘘…なにこれ、何で黒くなって…」
「さぁな、俺がシュノを抱いたからかな」
「イリア、どうしたらいいの…
こんなの…こんなの…そうだ、先生の所に行かなきゃ…いつもみたいに落として貰うんだ」
レイリは服を簡単に纏うと、背中が隠れるように布を被って外にでた。
門は閉じられていて結界が張ってある。
しかしながら、教会で育ったレイリは結界の解き方は心得ていた。
小さな綻びを拡げて自分一人通れる穴を開けると門がひとりでに開いた。
「先生の…所に…」
ふらふらと門の外に出ると街へ向かう。
「どうすんだよ、馬車には乗れねぇだろ…」
「歩いてく…隣だし、いけない距離じゃない…」
「シュノに気付かれないか?」
レイリは黙った。
どうしたらいいか迷っているようだ。
布をぎゅっと握る。
「でも…こんなの見れたら…シュノはきっと僕を嫌いになる…
それだけは絶対にいや…」
「…」
イリアはあえて何も言わなかった。
シュノはそんなことでレイリを邪険にしないと知っていて。
レイリだけがシュノに大切にされてるようで気に食わなかったから、というのも一つの要因だが、単純にレイリの困る姿が見たかったからだ。
「レイリ、街では羽を見られるなよ。
見世物小屋に売られたら最後だぞ」
「う、ん…気を付ける…」
まだ朝靄がかかる街へ向かって、レイリは歩き出した。
辺りは鬱蒼とした木々が生い茂っており、不気味な感じを漂わせていた。
これならたしかに街の人は近寄らないだろう。
「王都は…どっちだろう…」
屋敷から街までは一本道なので迷うことはない。
ただ、街が広くて王都へ向かう街道にでる道が判らない。
「仕方ない…誰かに聞こうか」
レイリは近くにいた露店商に近寄った。
「すいません…王都へ行くにはどこへいけばいいですか?」
「ん、ああ…そこの門を出れば王都への街道にでるはずだ」
近くには大きな門があり、馬車がせわしなく行き来している。
「ありがとうございます」
レイリは露店商にぺこりと頭を下げる。
露店商は隣に居た男を見上げてニヤリと笑った。
「兄ちゃん、王都に行くのかい?
荷台でよければ乗ってくかい?
ちょうど王都へ戻るところなんだ。」
レイリは何か不穏な気配を悟って少しずつ後退りながらにこっと笑って見せた。
「いえ、人と待ち合わせしていますから」
「人の好意は素直に受け取っておくもんだぜ」
「や、やだっ!離して!」
男はレイリの手を強引に掴んだ。
その際に被っていた布が落ちて小さな羽が晒される。
「お前天使だったのか!」
辺りの視線が一斉にレイリに向いた。
「違う、僕は天使なんかじゃない、離して!」
「天使様だ!天使様が戻られたぞ!」
誰かが声をあげると、レイリを掴んでいた男が舌打ちした。
「誰がこんな上玉お前らに渡すか」
嫌がるレイリを手早く気絶させて荷台に放り込むと急いで馬車を走らせた。
「天使様が人拐いに連れていかれたぞ!」
「早く、誰か追うんだ!」
一瞬にして街は大騒ぎとなり、その喧騒の中一人の少女は静かに騒ぎの中から離れた。
「全く、手のかかる天使様ですね。」
シスター服を纏った少女はそのまま闇の中に姿を消した。




「シュノさん、大変です!」
珍しくレシュオムが焦ったようにシュノの部屋の戸を叩いた。
その音にようやく目を覚ましたシュノは、気だるい身体を起こして身なりを整えると、隣で眠っているはずのレイリの姿を探した。
「………レイリ?」
ベットにはシュノが寝ていた部分以外乱れた様子はない。
珍しく早起きでもしたのかと、立ち上がり部屋の戸をあけた。
「シュノさん、結界の一分に穴が開いているんです
誰があけたのか判りませんが、今のところ誰かが侵入した様子は無さそうですが…」
「判った、結界は直しておく。
それよりレイリを見なかったか?」
レシュオムはきょとんと首をかしげた。
「レイリさん、シュノさんと一緒じゃなかったんですか?」
レシュオムは朝から畑の様子を見て、帰りに門の方に違和感を感じて近寄ると結界が小さく破られていたらしい。
シュノが起きるまで、全員で屋敷中くまなく探したそうだが、レイリはおろか侵入者の形跡は無かったという。
「だとしたら、結界を破ったのはレイリだ。」
「そうでしょうか?
私にはレイリさんにそんな力があるとは思えないんですが…」
「無意識に抑制していたんだろう、レイリはシュリとレイアの子供だ。
それくらい出来てもおかしくない、契約したことで元々持っていた力が強くなったのかもな…」
「なら、急いでレイリさんを探さないと!」
「そうだな、今のレイリが街に行ったなら大変なことになるぞ…」


幽霊塔の吸血鬼 番外編


「よいしょ…と。」
重たそうな収穫用の籠の中にはレシュオムが丹精込めて育てた野菜たちが瑞々しく朝露を浴びていた。
「レシュオム、卵取ってきたぞ。」
背後から銀色のボウルを抱えたリクが農園の扉にもたれ掛かっていた。
「ありがとう、今日は沢山産んだみたいだね。」
「ああ、暫くは持つだろうな。」
卵の入ったボウルを棚に置いて、重くなった野菜の入った籠を持ち上げる。
「リク、いいよ」
「これくらい何ともない。
いいからお前は卵持ってこい。」
そう言うとリクは籠を抱えたまま農園から出ていった。
レシュオムは小さく微笑んでから卵を抱えてリクの後を追った。
「レシュオム、朝飯は何にするんだ?」
キッチンでは既に収穫した野菜を水洗いしているリクがいて、レシュオムはまた嬉しそうに笑った。
「そうだね、リクは何が食べたい?」
「お前の作るものは何でもうまいからな。」
「もー、何でもいいって言うのが一番困るんだよ?」
そういいながらも、レシュオムはどこか楽しそうで、リクもそんなレシュオムと一緒にいるのが楽しいのか、自然と笑顔になる。
「卵が一杯あるから、トーストに目玉焼きのせて、ベーコンはカリカリに焼いてサラダにしようか。」
「ああ、じゃあ俺はサラダやるよ。」
リクがレタスを一玉手に取り、手で千切っていく。
その様子をレシュオムは微笑ましいと思いながら眺めていた。
「何だよ、そんなに見つめて。」
「いや、リクってここに来たときは料理なんてやらなかったのに、成長したなぁって思ってさ。」
リクがレシュオムと契約してこの屋敷に来たとき、レシュオムは一人で家事をこなしていた。
食事のしたくから、農園、家畜の管理、屋敷の掃除や洗濯まで。
女はレシュオム一人だけというのと、レシュオムの生来持った几帳面な性格ゆえか、それを知ったリクは自然と料理や家事を進んで手伝う様になった。
「それは…そうだろ。
何十年間家事手伝いやってると思ってるんだ?」
「それもそうだね。」
カリカリに焼けたベーコンをサラダに乗せるのを確認して、レシュオムは漸く焼けたトーストをお皿に乗せた。
「一枚足りなくないか?」
お皿は5枚出ているのに、トーストは4枚しか乗っていない。
朝食は取らないシュノの分を除いても一枚足りない。
「あ、うん。レイリさんはフレンチトーストの方がいいと思って。」
ひとつ残されたお皿の上にはフライパンの上で焼かれていたフレンチトーストが乗せられ、生クリームと蜂蜜がたっぷりと絡められる。
こう言った、一人一人の好みに合わせる辺りレシュオムの気配りに感心する。
「他に注文は?」
「ミツバくんのコーヒーはブラック、クロスは紅茶に砂糖とミルクを2杯ずつ。
シュノさんにはそこの戸棚にレイリさんが作ったローズティーの葉っぱがあるから、濃いめのストレートで。」
「判った。」
改めて、好み通りに飲み物を準備して食堂に運ぶと、眠たそうに目を擦りながらレイリが起きてきた所で、寝間着にガウンを羽織っただけで食事の後に二度寝する気満々のようだ。
「おはよう、リク。
今日も早いね」
「おはようレイリ。
まずは顔洗ってシャキッとしてこい」
リクに促されて、レイリがしぶしぶ洗面所に向かうと少し遅れてシュノとクロスとミツバが食堂の戸を開けた。
「いい匂いだね」
ミツバが席について、コーヒーに口をつけた。
「そんな苦いもの良く飲めるね。」
クロシェードが隣に座ってミルクがたっぷり入った紅茶に手を伸ばす。
「おはようございます、みなさん。」
奥からレシュオムがトーストの載ったトレーを持ってそれぞれの席にセッティングしていく。
「レイリさんは?」
「顔洗いにいったけど…遅いな。」
レシュオムとリクは一斉にシュノを見て、ばつの悪そうに顔を背けると、仕方なく立ち上がった。
「見てくる。」
洗面所に向かうシュノを見送りながら、先に食事を始めていると眠そうなレイリの手を引きながらシュノが戻ってきた。
「おはようございます。
眠そうですね、レイリさん」
「おはよう、レシュオム。
昨日はあんまり寝れなくて…」
「俺達は今日は一日寝てる。
クロス達も予定あるみたいだからたまにはお前達もゆっくりしたらどうだ?」
シュノの思いがけない提案にレシュオムはキョトンとした。
「確かに、レシュオムさん働きすぎ。
今日は家事はやめにしてリクと二人で出掛けたら?」
ミツバがどこか面白そうに二人を見た。
「そうだな、たまには街に行ってみるか?」
「えっ…でも…」
「いいから、今日は家の事は忘れて楽しんでこい。」
シュノにまで言われればレシュオムは大人しく引き下がり、じゃあお言葉に甘えてとリクに微笑みかけた。


食事の後片付けをかってでたクロシェードとミツバに任せて、レシュオムは久しぶりにクローゼットから服を引っ張り出した。
「おまたせ、変じゃないかな…?」
キャメル色のコートに赤いチェックのスカートをはいたレシュオムは恥ずかしそうにリクを見上げた。
「変じゃないよ」
リクはレシュオムの手を握り、街へ歩き出した。
「久し振りだね、街にいくの」
基本的に屋敷内で自給自足出来ているため、街には滅多に降りたりしないが稀にこうして人に紛れて街に降りることはあった。
それは物資が足りなくなったりしたときに一時的に降りるだけで、頻繁に街に通えば正体がバレたときに面倒になるからでもあった。
「そうだな、昔は良くこっそり街に行って怒られたっけな。」
リクが花婿になりたてのとき、移り行く時代に自分の住んでいた街が変化していくのに興味を覚えてよく遊びにいった。
傍らにはいつもレシュオムの笑顔があって、生まれ育った街が変わっていく寂しさよりもレシュオムの隣に居れることが幸福に感じて、リクはレシュオムの手をしっかりと握った。
「レシュオム、どこか行きたいところはないのか?」
「そうだね、前に来たときより街の様子も随分変わっちゃったからね…
取り合えず色々見て回りたいな。」
屋台や露店が並ぶバザーには様々な国の商人や旅人で賑わっていて、二人は紛れるようにその中に入っていった。
「すごい人だね」
「そうだな、俺から離れるなよ。」
「うん」
レシュオムがリクの腕にぎゅっと腕を回して、露店に並んだ珍しいアクセサリーや異国の果物なんかを見て回った。
目に見える形じゃなくても、リクと二人で過ごす時間にレシュオムは幼い少女の様に胸を踊らせた。
「楽しそうだな、レシュオム」
「リクと一緒なら、何をしてても楽しいよ?」
それでも、普段よりどこか楽しそうなレシュオムを見て、リクもほっとした。
「何か暖かい飲み物でものむか。」
「そうだね」
近くの店に入って席につくと可愛らしいウエイトレスがメニューを聞きにきた。
「ホットコーヒーふたつ」
「かしこまりました」
ウエイトレスはメニューを下げて奥に姿を消す。
その姿をリクが目線で追っているのに気がついて、レシュオムは胸がずきんと傷んだ。
「レシュオム、このあとちょっと行きたいところあるんだけどいいか?」
「え、うん。いいよ。」
どこにいくの?と問い掛けてもリクは楽しそうに笑いながら秘密とだけしか教えてくれなかった。
出されたコーヒーを飲みながら他愛のない話をしながらも、チラチラとウエイトレスを目で追うリクにレシュオムは小さな不安を感じていた。
「そろそろ行くか。」
リクが立ち上がって会計を済ませて店から出てきた。
手には小さな紙袋を持っていて、レシュオムが首をかしげると
「土産だよ」
と、どうやら居残り組にお土産を買っていたらしい。
「そうだね、楽しいことはみんなで分け合わなきゃね」
「いや、レシュオムとデートさせてくれた礼だよ。」
リクはそう言うとレシュオムの手を引いた。
「ねぇ、もう何処行くか教えてくれても良いんじゃない?」
「着いたぞ、ここ。」
リクが入るのを少しためらいながらレシュオムを連れてドアを開けると、そこは可愛らしい女性物の服や小物を扱った店で、リクは入り口近くにあったひらひらのフリルがついたエプロンを差し出した。
「ちょっと着てみろよ」
「え…これを?
さすがに…ちょっと恥ずかしいな…」
可愛らしいエプロンにレシュオムが尻込みすると、リクはレシュオムを強引に押し付けて試着室に押し込んだ。
「着てみたけど…変じゃない?」
恥ずかしそうにエプロンを付けたレシュオムを見てリクは満足そうに頷くとエプロンを買いに会計に向かった。
「もしかして…さっきウエイトレスさんガン見してたのって…」
「ああ、お前が着たら似合うだろうなって思って。」
「なんだ、心配して損したなぁ。」
「なんだよ、嫉妬してたのか?」
にやにやと意地の悪い笑みを浮かべるリクに、本音を漏らすのが癪になって、レシュオムは黙りこんだ。
「もっと俺を信用しろよな。
俺はお前の花婿だろ、俺はお前だけのものだ。」
ぐいっと肩を抱き寄せられてレシュオムは頬を赤く染めながら小さく頷いた。
「毎年さ、この日は二人で何処かに出掛けようか。」
「え…でも…」
「一応他のやつらには言うけどさ、たぶん誰も反対しないと思う。」
それはレシュオムも心配はしていない。
むしろシュノなら行ってこいと言うだろう。
シュノはレシュオムとリクが家事をこなしているのを引け目には感じているらしいがレシュオムにとっては別段嫌なことじゃない。
むしろリクと二人で楽しんでやっていることで、それを特別視されるのは悪い気がして。
「俺達が家事をやるのは義務じゃない、やりたいからやってる。
だからやれないときはやらない、それで良いんじゃないか?」
「そうだね、たまにはリクに構ってあげないとね?」
「そうだぞ、お前は少し俺に構わなすぎだ。」
レシュオムは繋いだままの手をぎゅっと握りながら、リクに寄り添った。
「皆が笑って、リクが隣にいてくれる。
それって気が付かないけど本当に幸せで暖かい気持ちになれるんだよ。
だから私は皆のために、リクのために、リクが笑って私を抱き締めてくれるなら私はなんだってできるよ」
レシュオムがあまり漏らすことのない本音をぽつりと溢した。
「そんなの知ってる。
だけど周りから見たらお前は頑張りすぎだ。
だからたまには休んで、こうやって甘えてと周りを安心させてやれよ」
「はーい。」
幸せそうに笑いながら、レシュオムとリクは屋敷への道をゆっくりと歩いていった。


「レシュオム、そのエプロンどうしたの?」
「リクに貰ったんです、変じゃないです?」
「似合ってると思うけど…ねぇ?」
「…まるで新婚のようだね。」
ミツバとクロシェードがにやにやしながらリクを見ていた。
「色気のないエプロンよりずっと良いだろ
まぁ、レシュオムに似合わない服なんて無いけどな。」
「良かったな、レシュオム。」
「はい」
レシュオムが照れたように笑うと皆も自然に笑顔になった。
今日も食卓は笑顔に満ちていた。

幽霊塔の吸血鬼 7



眩しい太陽に照らされて、レイリは目を覚ました。
隣を見ればシュノの姿はなく、冷たくなったシーツがよれた跡がシュノの痕跡を残すだけだった。
「どこ…シュノ…」
起き上がろうとしてベットに手を着くと、腰に鈍い痛みが走る。
「っ!?」
がくんと倒れて漸く身体に力が入らないことに気がついた。
白いガウンを一枚羽織っただけで、その白い肌には昨日の名残の赤いキスマークがいくつもついていた。
昨日の事は途中から記憶が飛んであまり覚えていない。
ただ、気恥ずかしさだけがレイリを支配していた。
シュノに身体を開いてすっかり快楽の虜になっていたあの瞬間の自分を忘れ去りたくてレイリは頭から布団を被った。
「レイリ、起きたのか?」
シュノが最早朝と昼兼用になった食事をトレーに載せて持ってきた。
レイリ用にレシュオムがハチミツをタップリ使ってフレンチトーストを作ってくれた。
「飯食えるか?
つか、食わないと持たないと思うから食った方がいいぞ。」
「……どうゆうこと?」
モゾモゾと布団から顔を出したレイリはシュノを見上げてから再び昨日の所業が頭を掠めて真っ赤になりながら目線をそらした。
「新月は今夜だ。」
「……っ!?」
そのままレイリの身体を抱き寄せて耳朶を挟むように囁くと、ビクッとあからさまに身体が反応する。
「シュノ…やっ…」
「いいから、早く飯食え。」
「……起きれない。」
ジトッとシュノに不服そうな視線を投げつけるレイリを抱き寄せると、背中にクッションを当てて、トレーにのせたフレンチトーストをレイリに差し出した。
「シュノはご飯食べたの?」
レイリが食事している間に、隣でレイリを眺めていたシュノは首を振ってニヤリと笑った。
「お前が俺の飯だからな。」
勿論シュノとしては血を貰うと言う意味と、レイリをからかっているつもりだったのだが、レイリは何を思ったのか顔を真っ赤にした。
「…持たないって…そうゆう…!?」
「良いから食べろって。
別にこんな日が高いうちから襲ったりしねーって。」
シュノに促されてレイリはしぶしぶ出された食事に再び手をつけた。
せっかくレシュオムがレイリの好みに味付けしてくれているのに、緊張して味が全く判らない。
それでも何とか残さずに食べ終えると、そのままベットに横たえられた。
「シュノ…?」
「食器下げてくるだけだから、お前はまだ寝てろ。」
シュノが食器をもって立ち上がると、レイリがシュノの服をぎゅっとつかんだ。
「シュノ…ご飯食べてないでしょ…」
「……へぇ、一丁前に誘ってんのか?」
「ちがっ…そうじゃ、なくて…って、どこさわってるの!?」
「レイリの好きなとこ。」
「そんなこと聞いてな…っ、や…」
ガウンの紐で手首を縛ると、惜し気もなく晒された白い肌に赤く跡を残していく。
「ねぇ…この紐いらないでしょ。
僕は逃げたりしないよ?」
「いや、何かイケナイ事してる気分になるだろ?」
ちゅっと頬にキスすると、首筋に舌を這わせてそっと尖った犬歯を突き立てた。
「んっ…ふぁ…」
相変わらず、レイリの血は甘ったるい。
ただ、そのむせかえる様な甘さが逆に癖になりつつあるシュノは、レイリに負担がかからない程度に血を貰うとレイリから離れた。
「シュノ…?もういいの?」
レイリはシュノがあっさりと離れたことに首をかしげている。
「なんだ、もっとして欲しいのか?」
からかうようにシュノが言うと、レイリは顔を真っ赤にして背けた。
「違…そうじゃ…なくて…あの…」
「嫌とか言う割には、身体は正直だな。」
既に勃ちあがってるレイリ自身を手で包み込みながらキスを与える。
「血よりこっちの方が美味い。」
「ふぁああ!?」
ぎゅっと目を閉じて溢れそうな快感に流されないように唇を強く噛んだ。
「夜まで待てない…お前が誘ったんだからな?」
「ふぁ…誘って…無いのにっ…ひゃう!?
やだっ、なにす…」
新月の日と言うこともあり、シュノはますます疼く身体の熱を持て余していた。
レイリの血はシュノには甘過ぎるが、精気は最高に瑞々しい果実のようにシュノの空腹を満たしていく。
レイリを口に含んだまま、わざと音を立ててレイリを追い込んでいく。
その舌先から与えられる快楽に、体を震わせながら耐えていたレイリは、足を閉じようとシュノの頭を力の籠らない手で押し返した。
「やめろ」
「ひっ…くわえたまま、しゃべ…ないで!!」
「いいから、イけよ」
「ひぁ、あああっ!?」
レイリがポタポタと精を溢すと、シュノは躊躇いもなくそれを舐めとった。
「ふぁ…」
呼吸が整わないレイリをひっくり返して、俯せにさせると、腰だけをシュノに突き出すような体勢を取らせ、そのまま物欲しそうにヒクつく秘部に舌を這わせた。
「しゅの、きたないよ…」
レイリが信じられないと言うようにシュノを見上げた。
「汚くねぇよ、お前に汚い所なんてない。」
シュノはお構いなしにそのまま秘部を解しにかかった。
流石に昨日の今日だけにそこはまだ柔らかかった。
「まだ柔らかいな、これなら濡らせばすぐ入りそうだ。」
「もっ…いちいち、言うなっ!!」
恥ずかしさのあまりレイリが枕に顔を埋めるが、静かな部屋に卑猥な水音と自分の吐息が漏れるのがレイリの聴覚を犯していく。
「あっ…ん、ふ」
「声、我慢するなよ。」
シュノが愉しそうに秘部を指で掻き回しながら囁いた。
「レイリの可愛い声聞きたい。」
「絶対やだ!!」
シュノの思い通りになるのが恥ずかしくて、悔しくて、精一杯の抵抗として枕に強く顔を埋めた。
シュノはその様子を見て、愛しそうにレイリの体をぎゅっと抱き締めた。
「レイリ」
耳許で甘く囁く声が自分を呼んでいる。
こんな愛しそうに自分を呼ぶシュノに、レイリは押し負けて顔をあげた。
恨めしそうに背後を振り向くと、ちゅっと額にキスを落とされた。
「痛かったら言えよ」
一応断りを入れてからシュノが押し込まれ、熱いものがレイリの中を擦りながら深くまで突き刺してくる。
「ひあぁぁぁぁぁっ!?
んっ、んぁあっあァぁっ!!」
シュノと体を繋げるといつも頭が真っ白になる。
全身がシュノに犯されてるみたいに触れている部分が総て熱を持つようにあつい。
「あっ…はぁぁぁん…っ!!」
根本まで深く突き刺さると、シュノがレイリの体を揺さぶり始めた。
ギリギリまで引き抜いてから一気に押し込まれる度にレイリは身体をビクンと震わせ、ポタポタと精を溢した。
シュノはそれを手で掬うとペロリと手を舐めた。
細い肩が震えながら快楽に耐えようと身体を揺らしているレイリの手首に巻かれたガウンの紐が酷く妖艶に見える。
がくがくと身体を震わせながらレイリが自由にならない両手でぎゅっと枕を握るのが可愛らしくて、少し苛めたくてレイリの腰を引き寄せて激しく揺さぶった。
「ひっ、ぁあっ、中が…しゅの、が…奥まで…っ」
「痛くないか?」
レイリはぎゅっと枕を握りながらこくこくと頷いた。
最早返事を返す余裕すらないらしい。
小さな細い肩が子犬のように震え、背中に散りばめられた金糸の間から覗く白い項にそっと唇を這わせる。
「んっ、ひぃっ!?ぃやぁぁん…っ!!」
「ふぅん、ここ、弱いのか?」
「やぁっ…お願、意地悪…しないでよ…」
涙目になりながら後ろを振り返り恨めしそうにシュノを見上げるレイリに、シュノは愛しそうに頬を撫でた。
「判った判った、良い子にしてたからご褒美な?」
そのままレイリの腰を掴んで遠慮なしに激しく突き上げる。
「ぁっ、はぁぁぁん…!!
ひうっ…んっ…ひぃッ!!ぃやぁぁん…っ!!」
「キツ…お前、ちょっと絞めすぎだ。」
「ぁっ、ぁんっ、もうっ、ら…めぇっ…死んじゃうッ、死んじゃうっ!!」
まだ快楽に慣れていないせいか、飛びそうな意識を、手首を噛むことで保っていた。
赤く擦れた手首はレイリ自身が噛みついたせいもあってほんのり血が滲んでいた。
それに気が付いたシュノは、レイリをぎゅっと抱き締めて、そっと手首の拘束を解いて手を重ねた。
「そんなに必死になるな。」
ペロッと滲んだ血を舐めとるとレイリを仰向けにして、ふっくらとした唇を挟み込むように口付けた。
「ちゅ、んんっ、む…ぁふぅ…っ」
濃密なキスを深く何度も角度を変えて交わしていく。
レイリの身体から余計な力が抜けてとろとろに溶けてしまいそうなキスをひたすら与えながらレイリの中に精と魔力を注いでいく。
緊張が解れたようにレイリはシュノに跨がって自ら搾り取るように魔力を体内に溜め込んでいく。
「まったく、本当にお前は最高の花嫁だよ。」
「ひぅ!!あっああん!!シュノ、もっとぉ!!」
何度目かも判らないほどの絶頂を迎えようとしたレイリは、突然身体をビクッと震わせた。
「あっ……ああ…」
「レイリ…?」
突然頭をぐったりと垂らしたまま動きを止めてしまったレイリに、不審に思ったシュノが手を伸ばすと、不意に手を捕まれた。
強い力で捕まれた手にシュノが眉を潜めると、レイリが激しく身体を痙攣させて悲鳴をあげた。
「あっ…ああああああっ!!!!」
その瞬間にぱさりと白く小さな翼がレイリの背中から飛び出してきた。
塔で見たレイアの翼ほど立派ではなく、絵本のキューピッドの翼のような本の小さなもの。
しかし、幼い顔立ちのレイリにはその小さな翼が良く似合っていた。
「レイリ…大丈夫か…?」
突然のレイリの身体の変化に驚きはしたものの、あまりにレイリがグッタリしているので不安になって声をかけると、握られていた手に急に強い力がこもる。
「!?」
「レイリは引っ込んだよ。
これからは俺の時間だ。」
顔をあげたレイリは真っ赤な瞳でにんまりと笑った。


背後では真っ暗な闇がレイリの身体をぼんやりと包み込んでいた。


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