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たそがれびより




レイアの寝室におやすみ前の紅茶を届けて、その日一日の仕事を終わらせるとセバスチャンは自分達の部屋に戻る。
明かりのついた部屋に、少し微笑みが漏れてしまうのは惚れた弱みというものだ。
「ジュリアン、まだ起きていたのか?」
ずっと黄昏が続くこの世界で時計が無いと正確な時間が分からないほどに薄暗いままだ。
二人の寝室はジュリアンの希望でレイアの居室の近くに作られた、眺めのいい部屋だった。
いつでもレイア様のお側に駆けつけられるように。
実に彼らしい理由であり、なし崩しに彼と付き合うことになったセバスチャンもその部屋を使うことになった。

明かりが漏れる部屋の戸を開ければ、温かな光がともされたランプに照らし出されて部屋の中央手前に置かれたソファーにもたれ掛かるようにジュリアンが寝入っていた。
手元には読みかけの本、テーブルには中身が冷えきったティーカップが置かれていて、セバスチャンを待ってる間に眠ってしまったらしいことが伺える。
聖職者としてのローブ姿では無く、パジャマにガウンを羽織っているだけでは寒かろうと思ってどうしようか悩む。
そのまま起きるまで寝かせておくか、ベットに運ぶか。
とりあえず毛布をかけて自分も寝る準備を整えてからジュリアンの隣に座る。
普段あまりしっかりと見ることがないジュリアンの寝顔に目を奪われる。
柔らかな栗毛の髪に隠されるように閉じられた瞳。
貴族の生まれらしい綺麗な顔立ち。
その甘いマスクと、気遣いの出来る振る舞いはご令嬢からの黄色い歓声を一身に浴びることもあったらしい。
セバスチャンには預かり知らぬ貴族の夜会での話ではあるが。
レイアからはジュリアンはそれなりにモテたときく。
熱狂的なレイア信仰者という点をのぞけば、よりどりみどりだろうに。
「……なんで俺なんだ?」
他にも相手は選べただろうに、なぜ自分なのか単純に疑問だった。
ジュリアンの肩にもたれ掛かるように寄り添って、温もりを感じているうちにうつらうつらと眠気が襲ってくる。
「ジュリアン…」
無自覚に、恋人の名前を呼んで眠気に負けて目を閉じた。


「……ん」
不意に目を覚ますと毛布がかけてあり、肩に重みを感じた。
「私は……寝てしまっていたのか。
お前がかけてくれたのか?」
もたれかかったまま反応しない恋人の顔を覗き込むと、どうやらセバスチャンも寝てしまったらしい。
柔らかな髪から覗くほんのり色付いた頬に触れ、コツンと額を合わせる。
仕事疲れで起きる気配のない恋人の唇に触れるだけのキスをして肩を抱き寄せる。
可愛い、愛しい、気が付いてしまえば留まることを知らない思い。
「好きだ」
誰に告げるわけでもなく、眠っている恋人に愛を囁く。
自分にあてがわれた部屋に、当然のようにセバスチャンが帰ってくるのが愛しい。
机に飾ったボトルシップをまじまじと眺めては、不思議そうに首を傾げたり、微笑んだりするのが愛しい。
自分はあまり物を持たないと言いつつも、ジュリアンが作ったボトルシップをあげたら喜んで小さく笑ったのが愛しい。
心配性でお人好しで、どこか目が離せない。
こうして隣にセバスチャンが自分に寄り添い、無防備にも寝顔を晒している。
「可愛い私のセバスチャン。
愛しているよ、これからもずっと」
ぎゅっと抱き寄せて頬を合わせながら小さく微笑む。

耳が真っ赤になりながらも狸寝入りを決め込む可愛い恋人に気付かぬ振りをしながら。
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