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ろパロ。―魔女との戯れ―

「久方ぶりじゃのレイリくん、ご健勝なようで結構。
 同じギルドに居ってもなかなか話す機会も無いとは、好奇心は猫を殺すと言うが案外多忙故の過労死かも知れぬの。
 さてさて、今日は簡単な話し合いをしよう。まあ話し合いと言ってもワシは相槌程度でお前様が主に話す訳じゃが……。
 なに、いつもと何ら変わらぬよ。お前様が知っている事を知っている範囲で話すだけで良い。無論、話さなくとも良いがな」

レイリと2人、向かい合う格好で椅子に座った優雅に足を組んだダンサーは蠱惑的な笑みを浮かべてそう言った。
見られたレイリは面積比の少ない服装を見、己が羽織っている長いマントを見、視線を落とす。
シュノ以外と話す事の少ないレイリは、どこを見て良いのか判らなかったからだ。

「あの……ウィッカさん」
「ふむ、レイリくんよ。敬称で呼ぶとは随分と他人行儀ではないか?
 それだけならまだしも、ワシをウィッカと呼ぶのは案外敵が多くての。蔑称とでも言えば良いか。
 とにかくワシはお前様の味方なのじゃから、お前様の味方になろうと決めたのじゃから、愛称で呼ぶ気は無いかのう?」

愛称、と急に言われてレイリは目を瞬かせた。
歯をむき出しにして笑うウィッカの迫力には恐いモノ、鬼気迫るモノがあるのだがレイリは臆する事もなく首を傾げる。
急な話に付いていけなくなったのだ。
そんなレイリの様子を見、ウィッカは足を組み直して腕を胸の前で組んでみせる。

「そうじゃのう……親しみを込めて姉と呼んでも良いのじゃぞ? ワシはお前様より年上なのじゃし。
 ああ、先生と言うのも良いの。学者の要領で先生と呼ばれるのも悪くはない。
 まあお前様が好きなように呼んでくれれば良いがの」

ニヤニヤと悪戯な笑みを見せるウィッカの言葉を聞いて考え込み、小さく頷いたレイリは口を開いた。

「ウィッカ」


呼ばれた瞬間に笑みを深め、喉の奥でクツクツと笑い。
次第に哄笑を上げる様にレイリはマントの裾をいじっていた。
別にウィッカの事が嫌いだったわけでも、敵だと思っているわけでもなく。
ただシュノ以外はどうでも良く、面倒だった為に呼んだのだ。

「まあ良いじゃろう、愛称などと急に決められてもワシも対応しきれんしの。所詮は戯れ言じゃ。
 して、レイリくん。お前様はシュノくんとリヒタルゼンの貧民街をうろついて居た所をノエルさんが拾ってきた訳じゃが、お前様等の身体能力諸々がどうにも人間らしく無くてのう」

自己治癒能力、反応速度、魔力、その他全てが常人では無いと言われても、レイリの表情は変わらなかった。
ただぼんやりと窓から外を眺めるように視線を投げかけ、

「シュノが、僕らはビーカーに居たって。一人一人閉じこめられて、変な液体に浮かんでたって」
「シュノくんが、という事はレイリくんは覚えて居らなんだか?
 ノエルさんに拾われるまで、シュノくんと一緒に居る間の事は何も?」
「……なに、も……」

言われ、遠く意識を過ぎるのは水が流れる音と卑下する声。
沢山のニンゲンの体温が肌に触り、不快で、獣の息遣いが直ぐ側に聞こえ。
そして何かが壊れる甲高い音。
レイリ、と叫んだのは果たして本当にシュノだったのだろうか。
沢山の足音と手の平の温もり、そして目の前は銀が散っていた。
守るように目の前一杯に広がった銀に呼吸が楽になって、けれど胸が苦しくて、叫びたくなった気がする。
甘くて、あまったるくて、胸に吸い込むと頭の奧がシビれるような感覚のするエキタイで満たされていて、ミンナ、ドロドロのグチャグチャでグチャグチャでグチャグチャグチャグチャ

「レイリくん」

思考が止まった。
目の前の顔を見た。
それが誰だったのか判らなくて呆然としていると、満足そうな笑みを浮かべた彼女が笑みを深くして、

「カカカッ! 何じゃ何じゃ、随分とご機嫌じゃのう。何ぞ良い事でもあったのかえ?」
「……ウィッカ」
「ふむ、まあ確かにワシはウィッカじゃな。お前様の友人にして仲間にして味方であるウィッカじゃな。
 まあワシとしては些か不満の残る呼び方じゃが、追々変えていけば良かろう。
 今日の問診はココまでじゃな、お疲れ様レイリくん」

最後、レイリの名前を特に強調して呼ぶウィッカに首を傾げながらレイリは頷いた。
今日はこれからシュノと街中へ繰り出す予定なのだ。
シュノが側に居てくれれば、彼が笑ってくれれば、自分も人間になれる気がした。
人間のようにシュノと恋をして、温もりを分け合っていられるのだと信じた。



――――――――
レイリとウィッカの対談、というかカウンセリング。
こっちのウィッカは味方だからまだそんなに毒は無いってか、まともに見える不思議。

ウィッカ=イドゥン
20歳 女 踊り子
魔女の名と金の林檎の女神の名を冠している。
喫煙者。煙管を使っている。
武器は鞭で物を引き寄せたり拘束したり矢を飛ばしたりと器用。

ろパロ。―Ordinary day―

「シュノ? どうしたの?」

手の中を覗き込んでくるレイリの目線に、手の中の物を晒してやる。
青く透き通ったそれは綺麗なアメ玉で、シュノとレイリは初見だった。

「アメって言うらしい」
「あめ?」

空から降ってくるの?とレイリが聞けば暫く考えるようにシュノは思案顔をし。
ゆるゆると首を横に振って応えた。
その様子を、ぼんやりとした表情でレイリが見つめる。

「違うアメらしい。こっちは、食べる物」

あっちは食べない、と言いながらシュノはアメ玉の包み紙を解いて口の中に放り込んだ。
食べる物、と聞いたレイリは興味津々とシュノの様子を見守っている。
大人しく舐めているうちに、段々と微妙な表情をし始めたシュノ。
不安そうに見上げてくるレイリに気付くと微笑みを見せ、後ろ頭に手を当てて引き寄せながら口を近付ける。

「んっ、ぁ…ふぁい、ほえ?」
「はは、ん……ちゅっ、はぁ……アメ」

2人の唇の間で暫くアメを転がし、満足気に笑いながらシュノは舌ごとアメ玉を押し込んで口を離した。
もごもごと、レイリの口の中を動くアメを突いて笑っている。

「飲み込んだり、噛んだりしたら駄目だからな」

キョトンとした顔で目を剥いた後に、眉根を寄せて困った表情を作った。
それに笑って見せながら、触れるだけのキスを唇に送る。

「舐めるのに疲れたら俺に寄越せよ」
「ん」

互いに満足な笑みを浮かべ、もう一度触れるだけのキスをした。



――――――――
何となく書きたくなったRanarok Onlineのパロディ。

シュノ=ヴィラス
16歳 男 ロードナイト
レッケンベル生体工学研究所でレイリと一緒に脱出してきた存在。
人間を使ってそれ以上の能力を持つ何か、生体として作られた。
意思を取り戻したシュノはレイリを連れて脱出。
武器は刀。

レイリ=クライン
16歳 男 ハイウィザード
レッケンベル生体工学研究所でシュノと一緒に脱出してきた存在。
人間を使ってそれ以上の能力を持つ何か、生体として作られた。
自我も自意識も殆ど無い頃、シュノに拉致られて脱出。
武器は杖。魔力莫大。

ブラックスイーツ




「ちょっと、何してんの…」


あきれた声が聞こえて振り向くと、コーヒーのカップを持ったまま呆れ返っているロゼットと目があった。
「シュークリームを食べているのだけれど…。」
見てわからないかとでも言いたげに首をかしげるフィオルに、ロゼットは深くため息をついた。
「そうじゃなくて…俺が言いたいのは、どうしてそんなにあちこちにクリーム着けてるんだってこと。」
フィオルはキョトンとしてロゼットを見上げ、自分の手元を見た。
細い指先には白い生クリームが付いていて、口許にも。
「どうも私はこういった類いの物は食べるのが下手らしい。」
「下手ってゆうか…」
普段完璧に見えるフィオルの意外な欠点を見つけて、ロゼットは少し嬉しそうに笑った。
「全く、しょうがない奴…」
そういって、座ったままのフィオルの前に立ち、姫の手を取る騎士の様にフィオルの手を取った。
「??」
状況が掴めないフィオルは呆然とロゼットを見上げている。
するとロゼットはフィオルの指を口に含み、クリームを舐め取った。
「ルー…ジュ…!?」
ロゼットの突拍子のない行動にフィオルは頬を赤く染めた。
「くすぐったいんだが…」
「クリームつける方が悪い。」
普段無駄に自分を翻弄する彼への細やかなイタズラのつもりだった。
困ったように笑いながら、フィオルは汚れていない方の手をロゼットの柔らかな髪に絡ませた。
「御兄弟にも、そうしてたのかい?」
「まさか、こんなことするのは初めてだよ。」
そう言ってロゼットは口許のクリームをペロリと舐め取った。
「ノーツの方が目線が低いのはいい気分だな。」
そう言ってロゼットが触れるようにキスをした。
いつもキスするときに屈まれていることを癪に思っていたらしい。
プライドが高くて、気紛れで、

「君は本当に猫みたいだな。」

フィオルの言葉にロゼットは絵本に出てきた猫みたいににんまりと笑った。
「ごちそうさま。」
そう言ってロゼットは机の上のカップを持ち上げ、唇をつけた。
「君は本当に私を煽るのが上手いな。」
そう言ってロゼットの腰を抱き寄せ、カップを取り上げつてキスをする。
口内に感じる苦味にフィオルは顔を歪めて唇を離した。
「ブラックじゃないか。」
「誰も甘いとは言ってないよ。
甘いものは苦手なんだ。」
そうしてロゼットは、してやったりと満面の笑みを浮かべるのだった。

ハロウィンパーティー

今夜は楽しいハロウィン

ジャックランタンに甘いお菓子

さまよい歩く死者達が

おまえの命を狙ってる。

さぁ、身を隠せ子供達

死者に姿を寄せたなら、

魔法の言葉を唱えましょう。



『trick or treat』



朝から女子組はせわしなくめかし込んでいた。
今日は講義の後に、ハロウィンパーティがあるからだ。
皆は一斉に仮装して、様々なジャックランタンを抱えている。
「リアンのは何?」
女子寮の一室で四人の少女達がドレッサーとクローゼットを忙しなく行ったり来たりしている。
「リアンはティンカーベル!
トラヴィスは何です?」
透明の羽のオブジェを付けたリアンが、くるっと一回りする。
因みに着付けとメイクはタウフェスが担当した。
「あたしは狼女だよー。」
ふわふわした耳と尻尾、鋭い爪などで狼少女となったトラヴぃすは悪い笑みを浮かべた。
「んで、お嬢様はなんでカーテンに隠れてるわけ?」
「お兄様の前でこの様な破廉恥な格好なんてできませんわ!」
「そうですか?とてもお似合いだと思いますわよ?」
タウフェスは化け猫の耳と尻尾に見慣れない東洋風のドレスを着ていた。
一方、カーテンに隠れて出てこないマーガレットは、胸元が大胆に露出されたミニドレスにマントと帽子といった魔女スタイルだ。
「恥ずかしがらないで出てきなよ、すっごい可愛いって!」
「リアンもそう思うです。」
そう言われ、マーガレットは渋々トラヴィスに手を引かれてカーテンから出てきた。
「ほら、可愛い。」
にこっと、屈託なく微笑まれると、マーガレットも照れたように顔をそらした。
「じゃあ行こうか。」
トラヴィスを先頭にして、女子組はまず、この時間なら確実に出くわす図書室に向かった。
タウフェスは他に用事があるとのことで、途中で別れ、女子三人組は図書館の扉を開けた。
「あ、居たです。」
図書室には、なんとも都合よく男子組が勢揃いしていた。
「シールーフッ!」
「姉さん?どうしたのその格好…。」
姉の奇行に慣れているシルフィスすら、呆れていた。
「このリアン見て同じことが言えるかなぁ?」
トラヴィスは背後に居たリアンを前に押し出した。
「リアンも仮装してみたです。」
にこっと笑うリアンにシルフィスは頬を赤く染めた。
「トリックオアトリート!」
リアンはにこりと笑った。
「えっ…ごめん、今は持ってないんだ…。」
「じゃあシルフはイタズラがするですね!」
リアンはシルフィスの頬に触れるだけのキスをした。
「なっ!?」
「トラヴィスが、教えてくれたです。」
にぱっと笑うリアンにシルフィスは何も言えず、姉を睨んだ。
「役得だねぇ、シルフ♪」
トラヴィスが可笑しそうに腹を抱えて爆笑しているなか、ロゼットが本の角で頭を叩いた。
「いったぁい!何するのさ、バカになるじゃん!」
「邪魔しに来たなら帰ってよ。」
「そんなわけ無いじゃん!
トリックオアトリート!」
「しーらーなーいー!
俺は忙しいんだ!」
「君達は相変わらず仲がいいな?」
「ノーツ、見てないで助けてよ!」
資料を抱えて、フィオルが本棚から顔を出した。
「フィオル、アンタはマーガレットを見てやんなよ!
すっごい可愛いんだから。」
マーガレットはフィオルを探しているのか、本棚の間でキョロキョロしていた。
「メグ?」
「お、お兄様!」
「随分可愛らしい格好だね?」
フィオルは微笑んでマーガレットの髪を撫でた。
「お兄様…、あの…トリックオアトリート…。」
フィオルは一瞬キョトンとしてからポケットに手を突っ込んだ。
手にしたのはキャンディだった。
しかし、それを手にした瞬間にマーガレットがしゅんとしたのをみて、何かを悟ったのか、フィオルは手にしたキャンディをロゼットのポケットに忍ばせた。
「え?」
「お兄様?」
「ルージュは私のだから、これで諦めて貰えないかな?」
フィオルはトラヴィスからロゼットを引き剥がした。
「あはは、一本取られたね。」
トラヴィスはロゼットのポケットからキャンディを奪い取った。
「さて、私はメグにあげるお菓子を無くしてしまったようだ。」
「じゃあ、あのっ…!」
フィオルは優しく微笑むと、マーガレットは顔を真っ赤にさせた。
「やっぱり無理ですわ!」
「おや、いいのかい?」
「妹苛めるのはよしたら?」
「そんなつもりは無いんだが…。」
苦笑するフィオルに、ロゼットは溜め息をついた。
「ノーツ、ルージュ、頼まれた資料はこれでよかったか?」
ちょうどいいタイミングでクレイハウンドが資料を手に戻ってきた。
「あれ、クレイじゃん。」
トラヴィスはどこて捕まえたのかヴェリテと共に戻ってきた。
「今みんなでハロウィンしてたんだよ、アンタもやろうよ。」
「なぜ僕が!」
「ノリが悪いなぁ。
マーガレット、たしかまだイタズラしてないよねぇ?」
マーガレットがビクッと反応した。
「ほら、女の子に恥じかかすんじゃないよ!」
「ちょっとお待ちになって!
私より、トラヴィスはどうですの?イタズラしていないんじゃなくって!?」
トラヴィスはキョトンとしてヴェリテを見上げた。
「ヴェリテ、お菓子ある?」
「ない。」
「ならちょっと屈んで。」
そして屈んだヴェリテの頬に軽くキスをした。
「ヴェリテがトラヴィスと仲良しですね!」
リアンがにこにこ笑いながらシルフと手を繋いでいる。
「何を、お前たちハレンチだぞ!」
赤面したクレイハウンドが叫ぶと、マーガレットがフィオルを見上げた。
そう言えばと、フィオルは隣に居たロゼットの腕を引いた。
「トリックオアトリート。」
「…は?」
隣から急に降ってきた言葉にロゼットは目を丸くした。
「お菓子がないならイタズラするが、構わないかな?」
「それ、聞く意味あるの?」
半ば諦めたようにロゼットは溜め息をついた。
「一応、形式的にね。」
そう言って、フィオルはどこか楽しそうにロゼットの頬に触れ、そっと唇を重ねた。
「ヒュー、お熱いねえ!」
「姉さん、ヤジが古くさいよ。」
「お、お兄様っ!何をなさっているんですの!」
「そうだぞルージュ!はしたない!」
フィオルがロゼットから引き離されると、ロゼットは真っ赤になったまま呆然と立ち尽くしていた。
「ばっ、バカか!普通にイタズラなら頬にだろ!」
「そうですわ、お兄様!
しかも女性ならまだしも、殿方となんて…!」
「何をそんなに怒っているんだい?」
周りがあわてふためく意味も知らない振りで、フィオルはロゼットに笑いかけた。
「人前でキスをするのは…まずいだろ。」
ロゼットが小さな声で呟いた。
「大丈夫、これはただの遊びだよ。
大体男同士なら事故みたいなものだから、ノーカンと相場が決まってるだろう。」
「はぁ…もういいよ。」
ロゼットが諦めてため息をついた。
そんな二人を少し離れたところで見ていたマーガレットはアカデミーに入学してからの、兄の変化に純粋に驚いていた。
置いていかれるのは寂しいし、兄を田舎臭い平民に取られるのはかなり癪だが。
「……」
そして、自分のとなりにたつ男もまた、自分と同じような目線で二人を見ていた。
そして、クレイハウンドも何となくマーガレットの視線に気付き、ばつの悪そうに目を背けた。
「ほら、あとはアンタ達だけだよ?」
トラヴィスが楽しそうなの笑ったのを見て、この雰囲気を壊すのももったいない気がして、マーガレットはクレイハウンドを見上げた。
「トリックオアトリートですわ。
大人しくイタズラされてくださいませ?」
そういってかかとを少しあげた。
レディにここまでさせてしまってはあとに引けなくなったクレイハウンドはマーガレットの顔の位置まで屈み、頬にキスをした。


「何だか忙しない一日だったな。」
寮に戻り、落ち着きを取り戻したロゼットは、珍しくベッドに体を投げ出した。
「そうだね、でも私は楽しかったよ。
領地に居るとなかなかこういった行事には縁遠くてね。」
フィオルがロゼットを覗き込むようにして笑った。
「君に近付いて来ようとする奴等に牽制もできたしね。」
「何だよそれ。そんな物好きお前だけだよ。」
そのまま手をのばして頬に触れ、愛しそうにキスを落とす。

本当に気が付いていないのか、とフィオルは苦笑して小さな恋人を抱き締めた。
フィオルもまた、自分のことには疎いのであると、本人は気づかぬままハロウィンの夜は更けていった。

trick or trick?



「シュノ、トリックオアトリート。」
目の前で満面の笑みを浮かべ、手を差し出す自分の上司兼恋人である青年を、シュノは呆れたように見つめた。
「あんまり食うと太るぞ。」
「次太るとか言ったら舌噛んで死んでやるから。
で、シュノは僕にお菓子をくれるの?イタズラされるの?」
にこにこ笑ってはいるが、隠しきれない悪戯させろオーラに、シュノは黙って小さなチョコをレイリに投げた。
「これでいいだろ、さっさと仕事しろ。」
するとレイリは不満そうにシュノを見上げてチョコを口の中に放り込んだ。
暫くもごもごと口を動かしていたかと思うと、不意に立ち上がりシュノの胸ぐらを掴むと、ニヤリと笑って強引に引き寄せた。
噛み付く様なキスに、驚いたシュノだったが、背中に回された腕に気が付き、レイリの体を抱き締めた。
舌を絡めながら唾液とチョコが甘ったるくて胸焼けしそうなほど夢中でキスをかわす。
「んんっ…は、シュノぉ…」
キスの合間に漏れる甘い声に、気分も高鳴る。
不意に、レイリが唇を離してにっこり笑ってシュノを見上げた。
そして、悪魔のように囁いた。

「トリックオアトリート?」

ひきつった笑みを浮かべ、シュノは諦めたようにため息をついた。
どうやらレイリはイタズラさせるまでずっとこのままだろうと見切りをつけた。
処理しなければならない仕事は山程ある。
「はぁ…ちゃんと仕事もしろよ。」
「ちゃんとやるに決まってるよ。
でも、ちょっとだけだから…ね?」
首をかしげながらシュノの機嫌を伺う様に見上げてくるレイリに、シュノは黙って頷いた。
レイリの事だ、どうせろくでもない事を考えてるに違いないと思いつつも、恋人の笑顔が見れるならそれでも良いかと諦めた。


「失礼します、隊長。」
控えめにノックして扉を開けたのはシュノを探しに来たゼクスだった。
「やはりこちらに居らしたんですね。
……というか、その髪はどうなさったんですか?」
いつもは冷静なゼクスですら絶句している。
が、一番驚いているのはシュノ自身だ。
「レイリのイタズラだ。」
「可愛いでしょ?」
満足気に微笑むレイリの手にはブラシが握られていた。
「あぁ、今日はハロウィンでしたね。」
さすがにかかわり合いになりたくないのか、ゼクスはさらっと流す。
「おいレイリ、お前一体どんな髪型にしたんだよ。」
「え、普通にツインテールだけど?」
「はぁ!?」
シュノはツインテールの自分を想像して言葉を失った。
普段は一本に縛っている髪は、両サイドに綺麗に束ねられ、黄色いリボンで可愛らしく括られていた。
「可愛いよね、ゼクス?」
「はい、良いんじゃないでしょうか。」
「他人事だと思って、投げ槍だな。顔背けんな。」
さらさらの髪に指を通して、絡め取った一房にキスをする。
嬉しそうなレイリと、不機嫌の絶頂のシュノ。
できれば関わりたくないのは山々だった。
「隊長、このあと作戦会議が控えてますので、副隊長を回収していってよろしいですか?」
「うん、いいよ。」
「レイリ、もう満足しただろ。さっさと外せ。」
「それはダメ。今日一日シュノはそのまま仕事して。
これは隊長命令だよ。」
「……後で覚えてろ、絶対泣かす。」
ぽつりと呟いて部屋を出ていこうとしたとき、レイリが急に背後から抱き着いた。
「ちゃんとお願い聞いてくれたら、僕にイタズラさせてあげても良いよ?」
シュノの背中に顔を埋めながら、消えそうな声で呟くと、シュノはレイリの体を抱き締めて、触れるだけのキスをした。
「それまで誰にもイタズラされるなよ?」
マーキングがわりにキスマークを色濃く残して、シュノは部屋から出た。
レイリは一人、首筋を擦りながら頬を赤く染めて小さく微笑んだ。
そして、溜まった書類にてを伸ばしたのだった。


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