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黒と白。8

ようやく白む視界から戻ってきた長義の目の前には、鼻の頭まで白濁塗れの黒鶴がぼんやりと目線をさ迷わせていた。
繋いでいた筈の手を外し、ぺちょり、と薄いがやや粘つくそれを指で掬い口元へと運ぶ。
瞬間、どろりと脳髄を侵す熱に恍惚の笑みを浮かべた。
"花"の蜜の催淫に、抗いようもなく堕ちていく。
ちぅちぅと指や顔についた蜜を舐め、それでも足りないと長義の手に滲む血に舌を這わせる。

「ふぁ、あぁ……v」
「たず、こっちにもっと甘いのあるぞ?」
「は、ッあ、あぁん、や、たじゅ、らめぇ……」
「あまぁい、のぉ?」
「うひぃいんッ!!」

南泉に唆されるまま、黒鶴は後ろから穿たれる長義の中心へと顔を寄せた。
その瞬間、長義の腹に回された手を南泉に引かれ、その繋がりを深いモノにされる。
ごちゅん、と最奥を突かれた衝撃で尿道に残っていた残滓が溢れた。
再度顔へと掛けられたそれに、ふにゃりと笑みを浮かべた黒鶴は舌を這わせる。
すなわち、長義の雌と化して使われる事のない淡い肉の色を晒す中心を。
甘い蜜を求める小鳥は、穴を舌でほじくり啜る。
その直接的な慣れない快楽に、目を白黒と瞬かせて長義が鳴いた。
長義の脳裏に過ぎるのは、こんな筈じゃなかったのにという困惑と番の熱を感じる悦びだ。
前を黒鶴に、後ろを南泉に責められて受けきれない快感に、目尻に涙が浮かぶ。

「ひぃいううぅ、らめッ! にゃ、せぇ……やぁ、たじゅ、やぁああ!!」
「嫌じゃねぇ、だろッ! 漏らした、みてぇに……濡れてん、ぜ?」
「うぶ、ちゅ、むぅう……! ぐ、にゅぶ、んぐぅッ!!」

遠慮無く後ろからガンガンと突き上げ、長義の穴を犯すと共に黒鶴の喉を犯していく。
懸命に小さな口を開き、長義を根元まで呑み込みながら汁を啜っていた。
不規則な律動で動くそれを前後から受け、長義は後孔を強く締め付けて極める。
と同時に、黒鶴の口の中へと絶頂の余韻を吐き出し、口の端から唾液を垂らして強すぎる快感に浸った。

「うぁ、あー……」
「っぷぁ……けふ、けほけほ……ほあ……」
「ははっ、勢い良すぎたか? たーず、俺の事分かるか?」
「……うにゅ……はふ、はぁ……あちゅいの、くゆひぃ……」

南泉の言葉に首を傾げ、全身を扇情的な桜色に染め上げた黒鶴が飲み下しきれなかった白濁に塗れて身体を起こし着流しの裾をまくり上げる。
膝立ちの毛の生えていないまっさらな肌に、腹に付きそうな程に反り返らせて根元を封じられた黒鶴自身があった。
蜜口からは苦しげにぱくぱくと、既に白いものが混じり合い垂れている。
本来ならば吐き出させた分、中へと注ぎ、染め直さなければならないのだが。

「全部忘れちゃったんだにゃあ……けど、それは長義、ママにお願いして摂って貰わねぇとにゃ?」

いたずらに南泉は笑い、腰を突き上げて快感に浸る長義を起こす。
ずりずりと後孔を引き摺られ、絡み合う肉襞がきゅうきゅうと南泉自身を締め付けた。
無意識に、より深い悦楽を得ようと追いかけてくるそれが愛おしい。
涙で瞳を濡らす黒鶴はこくこくと小さな頭を縦に振り、長義へ見せつけるように腰を突き出す。

「まぁ、ま、まぁま! こえ、おねが、とってぇ!」
「……た、ず? い、今……ママって……」
「まぁま、とってぇ……!」

必死な黒鶴は甘えるような声を出し、身をくねらせて許しを請うた。
意識を取り戻した長義はその雛鳥のお強請りに感動し、南泉を受け入れている事も忘れて黒鶴の細い身体を掻き抱く。

「たず、たずッ!! いい子だね、俺のかわいい小鳥! いいよ、一杯お出しッ!」

感激し、抱き締める身体にある小さな胸の尖りへと吸い付き舌を絡め、甘噛みをした瞬間に根元の戒めを解いた。
同時、大きく背をしならせて黒鶴が声もなく極める。
とぷとぷ、と全てが出ようとするものを、溜め込んだそれがもはや勢いを無くして緩く流れ出した。
その分断続的な快感に晒され、がくがくと小刻みに身体が痙攣する。
可哀想なほどに震える身体に、けれどそれを見た南泉は笑う。
真っ白だった黒鶴の髪先が、ほんのりと鈍色に輝いていた。

「――ぁ……あ、ばちばち、ちかちかぁ……」
「ははっ、全く、可愛くて仕方ない……俺の可愛い小鳥、白月の大事な番……。君はこの本丸の子、ここから離れたら生きていけないんだよ?」

快感に白く染まる意識に、毒を塗り込むように小さく囁く。
哀れな小鳥は、はくはくと口を開閉し、蜜色の瞳を淀ませていく。
少しずつ、少しずつ。
けれど確実に、闇を滴らせ穢れに染め上げていく。

「でも大丈夫、俺がたずを愛してあげる。俺は皆のママだから……ずぅっと守って愛してあげる」
「はぁあ……ひ、ぃいいん……たじゅ、かぁい? まぁま、あいひて……たじゅ、ここかや、でにゃぃい……」
「ああ、いい子だな、たず。そうだぜ、この本丸の外は怖いモノが一杯だ」
「でもここに居る限り、一杯愛して可愛がってあげる。白月の番でいる事は、幸せで気持ち好いでしょう? 気持ち好い事は好きでしょう?」
「ん、ん! たじゅ、いぃこ、しゅゆ! こあいの、でにゃい! かや、まぁま、かぁいい、ひてぇ! きもひ、しゅきぃ!!」
「いい子だよ、黒鶴」
「いい子だな、黒鶴」

うっとりと蕩け、悦びに笑みを浮かべて長義の首に両手を絡め、透明とも白とも付かぬ蜜を垂らすモノを長義のモノへ押し擦りつける。
長義自身もまた、酷く興奮しているようで催淫効果のある蜜をししどに垂らした。
どちらとも付かぬ粘液に股の間を互いに濡らし、黒鶴の身を終わらぬ熱が責め喘ぐ。
やがて二人は口を合わせ、子猫の毛繕いのような口付けを交わした。
ちゅぷ、ちゅ、くちゅりと必死に舌を絡め合い、その様を見て南泉は笑う。
長義の手を取り、黒鶴のモノと一緒に彼のモノを後ろから握り込んで性急に責め立てた。

「ひぃ、あッ! にゃーせ、の、てぇ!! きもち、きもちぃよぉおお!!」
「にゃあ、まぁま! しょれ、しょれぇええ! きもひ、しゅきぃいい!!」

二人がおとがいを反らして快感に鳴く姿に笑みを深め、南泉が手を離しても止まらぬ長義の手淫にぺろりと唇を舐めた。
次にする事は"花"達から摂った蜜を使った催淫作用のある潤滑剤を、長義の用意した玩具に絡める事。
蜜をより能率的に取り出すため主手ずからに改良を加え、"花"ですら淫狂う程の強力さを持つ。
それを遠慮無く、玩具全体にぬらりと塗り込め、てらついた光りを反射する程に塗り込めた。
長義の用意した玩具は普段、遠征や出陣に行っている番を模した大きさ、形で作られている特注の品。
白月のモノより一回り小さいが、元より規格外の大きさを誇る彼の逸物を慣らす為の道具に過ぎない。
用意を済ませた南泉は、長義の耳元に悪魔の囁きをする。

「長義……たずを産みなおすんだろ? なら、仕上げをしなくちゃだよにゃあ?」
「ん、ちゅぷ、はっ……ぁ、し、あげ……そう、白月に、あいされるように……たずのおもちゃ……」
「ああ、これだよな? 長義もそろそろ、腹が疼いてきたんじゃないか?」

お腹が疼く、それはつまり、先程からぱくぱくと番の熱を滴らせる孔を埋めて貰えるのかと。
長義の目がどろりと蕩け、口元がにやぁと笑みを象った。
黒鶴のモノと一緒に自身を握り込んでいた手を離し、南泉の用意した玩具へと手を伸ばす。
穢れを含んで鈍色には近付いたけれど、まだまだ堕ち足りないのだ。
長義との口吻で手淫で、興奮を示し濁る蜜色の瞳はぼんやりと長義と南泉を映し出す。
更なる狂乱の時間を求め、長義は南泉の用意した玩具を黒鶴のひくつく後孔へと――。

黒と白。7

長義は一つの部屋の前、がりがりと親指の爪を囓って腕を組み扉を睨み据えていた。
その先にあるのは手入れ部屋であり、傷付いた刀剣男士の治療が行われている。
傷付いた、そう、傷を付けたのだ。
他ならぬ長義自身が、愛して病まない我が子と呼ぶ"鳥"の雛を。
母と呼び慕う主の傍でそれを支える白い月。
彼の伴侶には、特殊な刀剣男士が据えられた。
顕現した時より仮初めの人格を与えられ、今もなお魂を縛られる哀れな刀。
まっさらで無垢な心を持つ、鶴丸国永。
染めやすく、染まりやすいその心を、長義は愛している。
そうして、同時に強く憎んでもいる。
黒鶴は"鳥"だ。
主の駒を増やすため、その身には番の子を孕むための器官がある。
自分がどんなに望んで番の精を腹に受けても、長義に子を孕むことは出来ない。
けれどそれが自分の子の役目であるならば、それを全うさせる事が長義の悦びだ。
待つこと暫し、待ちに待った扉が開く時が来た。

「うわっ、長義!」
「え、ちょーぎ?」

中では二振りの白い小鳥が舞い踊る。
その奥には一式の布団があり、横たわる姿もまた、真っ白な小鳥。

「ああ、やっぱり……せっかく無垢な黒に染まっていたのに」
「……ん、手入れ中、変わったんだ」
「長義、手から血が出てる」

眉を下げ、落ち込んだ様子を見せる二振りに長義は構わないと頭を撫でて部屋へ入った。
傷跡の消えた身体は桜色に染まり、意識のない頬は上気している。
手入れを済ませた後も確かに麝香が効いている事を確認した長義はその膝裏に手を差し入れ、羽根のように軽い身体を抱き上げた。

「後は"蜜壺"ですませるから、お前達は母さんに伝えて。たずはちゃぁんと、俺が染め直すよ」

うっとりと、これからまた染まるだろう黒を思い浮かべて笑む。
小さな二振りの鶴丸国永は頷き、手を取り合って廊下の奥へと進んでいった。
それを見送った長義もまた、黒鶴を抱き上げて"蜜壺"と呼ばれる部屋へ足を進める。
そこは、淫猥な"花"達の咲く場所。
穢れに闇落ちた刀剣男士達には欠かせない、蜜を生み出す為の部屋。
主からの霊力の他、その力を維持する為に蜜を栄養源としていた。
"花"達に孕む器官はない代わり、その体液全てが淫狂わせる蜜となる。
そんな"花"達が淫事に耽り、蜜を摂る為の部屋。
"蜜壺"の中でも長義専用の室へと入り、くったりと腕にしなだれる身体を布団の上に横たわらせる。

「たず、たぁず?」

呼びかければ、白く長い睫が震え力なく瞳が開かれた。
焦点の合わないそれはぼんやりと長義を見つめ、緩慢に瞬きをする。

「ふふ、いいこだね」

無垢にこちらの言葉に首を傾げ、頭を撫でれば気持ちが好いのか眼を細めて擦り寄せてきた。
手を離し、少し間を開ければ眉を下げて身をよじる。
用意しておいた香立てに麝香を醸し、枕の近くにある文机に置いて戻った。
その際にいくつかの玩具を持ち出し、黒鶴に見せる様に傍へ置く。
傍へ戻ったことに安心をしたのか、黒鶴が嬉しそうに笑みを見せた。
けれどすぐに表情は苦しそうなそれへと代わり、はぁ、とか細い吐息が小さな口から漏れる。

「ああ……たず、やっぱり苦しいんだね。あの子狐……悪い物に当てられたから、ここの空気に馴染めなくなったんだね」
「……ん、はふ……」
「大丈夫だよ、全部俺に任せて。さあ、はじめようか?」
「はぁ……やぁ、ん……はじぃ、めぇ……?」

香る匂いに顔を歪めて身をたじろがせた黒鶴は、それでもとろり、と蕩けた瞳で長義を見ながら微かに首を傾げた。
白月の瞳により、邪魔な仮初めの人格を封印された黒鶴は、今は無垢な雛鳥そのもの。
普段から気が強く、無邪気な面を見せる彼の剥き出しの心は、今は長義だけを縁とする。
舌っ足らずにも長義の言葉を反復し、きゅうと手が握り込まれた。
可愛らしくて愛おしい、長義の大事な雛鳥。

「いい子にしていればすぐに終わるよ? だって俺は……下準備だけ。君を染め上げるのは真っ白のあの子じゃないと」

ちゅ、と頬にキスを落とせばゆるりと笑みを浮かべ、むずがるように身をよじる。
その申し訳程度に合わされた着物の帯をするりと解き、真っ新な生まれたままの姿を晒させた。
黒鶴はキスが気持ち好いのか、上気した頬の桜色を深めてされるがままに身体を開く。

「ん、んん……ぁ、……おれぇ、いぃ、こぉ? しろ……しろい、ちゅき……」
「可愛いね。そう、たずが大好きな白月に一杯可愛がって貰えるように、おめかししようね?」

オウム返しに言葉を連ね、瞬きを繰り返す度に蜜色の瞳が熱を孕んで色を濃くした。
白月、という言葉に花が咲くような笑みを見せる。
本能で番を理解しているのだろう、それに長義は愛おしさで胸を締め付けられた。
こんなにも純粋無垢な可愛い小鳥を、愛おしい子供を奪おうだなんて。
陶磁のように白くシミも傷もない太腿の内側を、するりと撫でる。
びくり、と跳ねた身体が、爪先をきゅうっと丸め込んで長義の手ごと太腿を内股に挟み込んだ。
今はまだ触れていない中心は既に兆し、透明な蜜を垂らしている。

「あ、ん、んんっ!」
「ふふ、かわいい、わかいい……俺の可愛い子。たずはここを触られるのが好きなんだね」
「はぁ……しゅ、きぃ……! たじゅ、らいしゅ、きぃ……」

こくこくと頷き、すき、すきと同じ言葉を口にしながら呼吸を求める様に口をぱくぱくと動かした。
その度にわだかまった空気が対流し、焚いた麝香の濃い匂いが立ちこめる。
くぅ、と真白の髪を振り乱し、桜色に頬を染めた顔が苦しげに顔をしかめ、左右に頭を振りたくった。

「た、じゅ……だぁ、れ? たじゅ、て……おれ、おりぇ、は……」
「余計な事は考えなくて良いんだよッ」

太腿を撫でていた手を割り開くために動かし、中心をぎゅうと強く握り込む。
その瞬間におとがいを逸らして目を見開き、甘く甘く嬌声を上げた。

「ひゃあああッ!? やあ、しょれ、ひぃいいんっ!!」
「たず、俺の可愛い子。君は黒鶴、この本丸の刀で、白月の番で、俺の可愛い可愛い愛しい子だよ」
「ひっ、は、あ、ぁあッ!!」

教え混むように耳元で、その耳朶を食みながら囁く。
面白いほど快楽に従順で、白魚のような身体が白いシーツを掻き乱した。
透明な蜜をししどに垂らし、長義の細い指がぐちゅぐちゅと粘性の液体で濡らされていく。
少し強いくらい、痛みを感じる程度が特に良いらしく脇目も振らずに口端から涎を垂らして涙を流した。

「あっはははは! 可愛いよたず、最高……ああ、たずは後ろの方が良いかな?」
「か、――あひゅッ!!?」

長義の身体で無理矢理に身体を割り開かれ、閉じられない足を尚も閉じようともがき布団を乱していく。
more...!

黒と白。6

にこり、と人好きのする笑みを浮かべて白い月は一つ頷いて見せた。
濃紺の三日月の方へと胸に抱いた白い身体を放り投げると、鶴丸の傍に膝を突いて座り込む。
労るように肩を抱かれる手を、穢れを感じるものであるのに振り払うことは出来なかった。

「好い判断だ。ここでやりあっても俺かお主、どちらが勝つかは分からぬが……子を思う母は恐ろしい故、なぁ? まあ、俺の負けでも好いんだが」

ころころと笑う声は涼やかに、その内容は恐ろしい。
もし自分がここで深手を負っていなければ、足手まといにはならなかったのに。
せめて二振りの恐慌が、彼らに及ばないことだけを鶴丸は願った。
白い月が鶴丸を確保したことを確認し、銀髪の彼はようやく腕の中の小さな存在を解放する。

「ほら、君も親元に帰りな。……今度、俺の子供達に手を出したら……次は命はないよ」
「ひ、ぁ……ちか、父様……くに父様、ごめんなさい、僕のせいで……」
「何、お前のせいではない」

確かに三日月が国永を、怜悧を抱き留めた事を声音から知り、鶴丸は全身に込めていた力を抜いた。
これ以上はもう、指一本も動かせそうにない。
たかだか胸への一撃だけで、穢れに犯された身体は重く、鉛のよう。
地面にそのまま崩れ落ちるかと思った身体は、けれど肩に添う腕が抱き込んだことで免れた。
どうして、この刀がそんなにも気遣ってくれるのか。
まるで大切な、それこそ宝物のようにその腕の中へと隠される。
血が喉に絡んで、言葉はもう話せそうにない。

「ああ……ごめんね、たず。今母さんの所に連れて行ってあげるから。大丈夫、すぐに治るから」

どうして、その刀もこんなに気遣ってくれるのか。
知らない名前を呼びながら、それでも一心に向けられる愛情は温かい。
頬を撫でる手は穢れているのに、どこか心地よさを感じてしまう。
そういえば自分を折った刀すら、辛い思いをさせてすまぬと、悲しそうに言いながら抱き締めてくれた。

「白き月の噂は聞いた事がある」

胸に白い身体を、小さな温もりを抱えた月が言う。
こちらを見る瞳はいつもより色を濃くしていて、その内情は計り知れない。

「無双の力を持つ正体不明の白い月が出る、とな。遡行軍に荷担しているとの話しも聞いていたが、人の子の噂とばかり思うて居た……どうやら、そうではないようだ。今日は我が子を取り返しに来ただけだが……いずれ、鶴も返して貰う」
「なに、気にするな。我らもまた、我が子を取り返しただけのこと。はて……鶴、とは。誰の事だろうなぁ? この子はたず、黒鶴という」

いずれ鶴も、そう自分の事を言って貰えただけで、それだけでもう良いと鶴丸は思った。
再び遡行軍の手に落ちた自分が虜囚として出来る事は、情報を漏らさぬうちに折れる事。
その為だけに、自分は居るのだ。
なのに、白い月の声は優しい。
知らない名前を、愛おしいと言わんばかりに口にする。
その温もりに絆されてしまう訳にはいかないのに。
精一杯の強がりでその顔を睨み付けてやろうと、恨み言の一つも聞かせてやろうと痛む身体をはね除ける。

「くぅ、ぐ、だ、れが――あ……う、ぁ……?」

それが間違いだったと気付くには、遅すぎた。
身体を起こしたことでかち合った視線は、朝ぼらけの空に浮かぶ一条の月に魅入られる。
離せない視線に、音が、全てが段々と遠く感じて分からなくなる。
月が、見てる。
しろい、つきが。

「のう、たずや?」

遠かった筈の音が、その甘い囁きが、頭の中に響き渡る。
たず?
たずって、だぁれ?
呆然と、ぼんやりと、首を傾げる。

「白月、これをたずに……母さんの香を炊きあげておいたから、落ち着くと思う」

誰かが、月に、話しかけてて、俺の前には、白い、月が、あって。
その月を見ていると、全てが惹かれて、もう、他には、何も――残らない。
ぽっかりと、空いた全てを、白い月が魅たしていく。
もう、他の音は、聞こえない。

「……すまぬ鶴……許せ」

誰かが誰かに対して、悔やむような言葉を言っているのも、どうでも良い。
月が、俺を望んでくれるなら、俺は、もう。

「たず、少しおいたが過ぎたようだなぁ。おてんばも良いが、長義に心配を掛けては行かんぞ? ……駆けつけるのが遅くてすまなんだなぁ」
「たず……ごめんね、たず……。ああ、また俺は愛しい子供を傷つけてしまった……。大丈夫、俺も白月も君の傍にいるよ、たず……」

手に、遠慮がちに握り締めてくる温もりがあった。
白い月に魅入られ、麝香を焚きしめた羽織に全身を包まれ。
頭の奥からじんわりと蕩け出すような気持ち好さを感じて身をよじる。
頬に掛かる手に擦り寄り、手の中の温もりを握り締め、心地よさに身を預けた。

「ん……は、ふ……んぅ……」

ずきり、と痛む胸に呼吸が詰まりかけたが、直ぐにどうでも良くなってしまう。
元より、痛みには強い身体をしているのだ。
羽織の上から抱き締められ、力の入らない身体はなすがまま。
なのに、どうしようもなく安心する。
もっとその心地を味わいたくて、ぼんやりと滲む眼を細めて擦り寄った。

「ふっ、愛らしい真似を……。だが、これでたずはまた染め直さねばならんなぁ」

染め直し、という言葉が気になったけれど、相変わらず鈍い頭は動いてくれない。
それどころか刻々と鈍くなっていくようで、思考の端から砂のようにこぼれ落ちてしまう。
軽く身体が揺れたと思うと、足下の感覚がなくなった。
ゆっくりゆっくり、揺られているそれはまるで揺りかごのよう。
とろりと思考を蕩かす香りと、温かな腕の中、手を握り込む温もりに、心が溶かされていく。
どうしてこんなに大事にしてくれるの?
どうして、優しくしてくれるの?
何も分からないのに、分からなくて良いんだよと頷いてくれる。
ただ、自分があるだけで肯定される。
嬉しくて嬉しくて、しあわせを感じた。
月のためにと言われたけれど、この月が好い。
選ぶことが出来るなら、この月のモノになりたいのだ。

「あいわかった、黒鶴よ。そなたは俺のモノ、俺の伴侶。俺はそなたのモノになろう」

本当に?
おれがくろたずになったら、この月がもらえるの?
月が、優しく、頷いた。
それならおれは、くろたずがいい。
ずっと、ずっと。
月が欲しくて、がまんしてたの。

「もう、良いんだよ。たずは偉い子、いい子だね。我慢せず、素直になって良いんだよ」

月の腕から預けられて、銀色の人が笑って言う。
どうして、なんで離れるの?
かなしくて、さみしくて、手を伸ばそうとしたけれど月は行ってしまう。
銀色の人がそれを笑って、おれを怖いところへ連れて行く。
やだ、いやだ、そっちはいや。
暗くて、怖くて、何かいやなものがある。

「たず? 悪い子はお仕置きの時間だよ」

銀色の人が、笑う、笑う。
苦しくて息が出来なくて、身体が引き裂かれるように感じて涙が出た。
はあはあと荒い息だけが聞こえる中、

「苦しいのかな?ああ、可愛そうに……ちょっと準備をするから、いい子で待ってるんだよ?」

温かな手が頬を撫でて、頭を撫でて、優しい声が耳に届いた。
じくじく痛んで、段々と熱くなってくる身体を持て余す。
だけど、けれど。
いい子にしたら、もっと撫でてくれる?
ほめてくれる?
噎せ返る甘い匂いは呼吸をする度、胸にわだかまる。
息を吸ってるはずなのに苦しくて、だからすがれる何かが欲しい。

「ふふ、甘えん坊だね。ちぁゃんと……染め直してあげるよ」

甘い香りが、ぶわりと一気に広がった。

黒と白。5

後を国永に任せた一人と一振りは、雑木林の中を手を取り合って走っていた。
先行する鶴丸の目にはそれらしい気配など知れず、状況が分からない為に焦りが生まれる。

「どこに門があるっていうんだ!? きみ、何か知らないか? こう、ばぁーっとした感じとかごうって感じとか!!」

我ながらとんでもない説明だと思うけれど、こういう時に出てくる言葉を他に思い付かない。
ようは凄い力とか、何かを感じないかと言いたかったんだけれど。
手を繋いでからずっと難しい顔をして俯きがちになってしまった小さな子は、それで少しだけくすりと笑みを浮かべてくれた。
何だかよく分からないが、そっちの前向きな方が良いと思う。

「門……って、出陣の時に使う鳥居みたいな奴? えと……よく分からないけど……ちょっと待って」
「えーと、多分そう……かな? 遠征や出陣の時は一時的に鳥居が出現したりしたけど」

言葉のままに立ち止まり、周囲を警戒しながら次の手を待つ。
子供は不意に周囲を見回し、その内の一方向を指差して見上げてきた。

「あっちの方から、瘴気とは違う気配を感じる」
「あっち? なら急ぐぞ! 三日月様と合流して国永様の所に戻らないと……」
「うん、あっち! ちか父様の気配がする!」

言葉を紡いでくるりと前のめりに回転したかと思うと、その身体は少年のものよりも一回り以上も大きくなっていた。
それと同時に、解放された霊気が周囲の木々を揺らす。
瘴気を寄せ付けない程のそれに、道理でこんな場所でも平気だったのかと納得した。
けれどどれだけ無尽蔵に思えるものだとしても、夢渡りの意識、所謂魂だけの状態では脆い。
国永が焦る理由も分かるというもの。
青年の姿で走り出した彼は、けれど後ろを見て少しだけ迷いを見せた。

「たずお兄ちゃん……あの、ここに居るのが、嫌?」
「おい、きみ? 急いでるのにそんな暇は……」
「お願い」

悲しそうに目を伏せ、けれど意地のような何かで留まろうとする青年に、何故か主を思い出す。
本当にそれで良いのかと、自分で決めた事を最期まで見守ってくれた、強い人。
その心が愛おしくて、慈しみたくて、鶴丸が望みを持って生きられたら、きっと彼女の刀になりたかった。

「嫌とか、そういう話しじゃないだろう。敵の本拠地なんだぞ? それに……俺は鶴丸だ。俺にはやる事がある。こんな所でおちおちしてる暇なんてないんだ」

人と刀、人間と刀剣男士。
似ては居ても同じようには生きられない。
だから青年の憂いを鶴丸は分からなかったし、理解しようとも思わない。
少しだけ悲しげに顔を伏せた青年は、それでも一度だけ目を瞑ると前を向いた。

「ごめんね、つるお兄ちゃん……。ん、そうだね、ちか父様の所に行こう」
「ああ。……それはそうと、ちかとーさま、って……三日月様が父様なのか? きみは一体……」
「え? あ、えと……んーっと、えっと……ぼくは母様……緋翠母様の……養子?で、くに父様とちか父様は、ぼくの父様だよって、言ってくれたの」

些末な疑問と思いながら口にした鶴丸に、困りながらも青年は答えてくれる。
そこで思い出したのは、主が離れに子供を預かったと言っていた事。
一度だけ見た背中は小さく頼りないものだったが、今はこんなにも大きくなったのかと感慨深い。
人間の成長というのはやはり面白い、と笑みを浮かべた鶴丸に、青年が驚きに目を見開いた。

「大丈夫だ、俺がついてるからな! それに、三日月様だって居る。そっちだな?」
「ありがとう、つるお兄ちゃん」

再び繋ぎなおした手は温かく、柔らかい。
どれだけ人の欲に振り回されても、やはりその手を愛おしいと思う。
more...!

黒と白。4

状況は皆目見当も付かないが、そんな事は二の次で良い。
見慣れない着流しを着ているけれど、普段から和装を好む自分にとって支障は無い。
追い縋る手を飛んで避け、国永を庇うように後退する。
手の中には求めに応じて自身の分身である刀があった。

「本当に、つるまる、なのか?」
「国永様?」
「いや……今は構うな。鶴丸、ここは遡行軍の本丸だ。怜悧が夢渡りで迷い込んだ、脱出するぞ!」
「え!? 父様、どういう事……たずお兄ちゃんは……? 遡行軍の本丸って、どういう事?」
「ふざけるなッ!! ふざけるなふざけるなふざけるなッ!!!」

怒号と困惑の声が飛び交い、別の意味でもここは戦場だなと鶴丸は思う。
壊れたラジオの様にただ否定の言葉を口にする銀髪の刀と、それを見ながらもの言いたげにこちらを見る少年の姿の鶴丸国永。
国永と二人、用心深く距離を測りながら視線を交わし合う。
優先すべきはその抱えられた小さな子供の安否。
恐らくはその子が怜悧という子で、夢渡りを可能にするほど霊力が高いのだろう。
国永とどんな関係にあるのかは、今は問題では無い。

「その子供を探していたのなら連れて帰れば良いだろう!! だけどたずは、俺の子だ! 俺から逃げるなんて許さない、絶対に。許さない、お前達にたずは渡さない。そうだ、そんな事許されて良い筈がない……」

激情を、そして次には静かに自問自答を。
狂っているとしか言いようがないその姿に、背筋を冷たいものが伝う。
そうして俯いていた頭を上げたときには綺麗に微笑み、両手を広げて近寄ってきた。

「たず、おいでたず……もう一度俺が産みなおしてあげるから、ほら……」
「たず? 違う、これは……鶴丸だ。俺が、代わりに三日月へ差し出した、鶴丸国永だ。完璧な鶴丸国永になるよう、禁を犯して顕現した……」

相手の言葉に苦虫を噛みつぶしたような表情浮かべ、国永が呟く。
そう、禁を犯して顕現された鶴丸は、国永と魂が繋がっている。
だから国永が鶴丸だと言うのなら、自分は鶴丸だ。
うみなおす、というのは字面的にやはり産むという事だろうか。
折れた自分をどうやって治したのか、何故こんな所に居たのか。

「どうしてきみがそんな事を言うのか、理解出来んな……俺は、きみたちが利用してたのかい?」
「どうして? そんなの、君が俺の子だからに決まっているだろう。俺は母様からこの本丸の母親として全てを一任されてる。たず、雛もうぐもお前の帰りを待っているよ、いい子だから俺の言うことを聞いて。ねえ?」

これが敵方の言葉でなければ、あるいは懇願に耳を傾けたかも知れない。
けれど情報を引き出すにしてもこの辺りが限度だろう。
この本丸の瘴気の濃さは異様で、例え霊力の高い者であろうと長時間居ては身体に障りが出る。
ならばする事は一つだと、国永に目配せをした。
が、それは強い視線で跳ね返される。
驚き、目を見開いた鶴丸が言葉に詰まる内に国永は抱えた子供に耳打ちをした。

「怜悧、ここは瘴気が濃い。きみは鶴丸と一緒に先に逃げるんだ。雑木林に門がある」

何故、自分を庇うような真似をするのか。
一度折れた身である鶴丸は、練度こそ分からないものの庇われる理由がない。
三日月宗近の為に顕現したというのなら、その三日月が選んだのは国永だ。
だから鶴丸は三日月の為に、最良を選択した。

「国永様、俺の方が……」
「どんな理由かは知らんが、狙いはきみだ。俺なら状況を見て戦線離脱出来る」
「……分かった」

確かに、言っていることは一理ある。
鶴丸が残って捕虜になり、また利用される事になっては目も当てられない。
練度最上であり亜種と言われる力量を持つ国永の方が確実だろう。
それならば自分はこの子供を守り通すのみと、彼の言葉に頷いて刀を収めた。
こちらの様子を見ていた相手も、従う意思がないと分かったのだろう。
今度は憎々しげにこちらを睨み、震える手で刀を握りしめていた。

「たず……俺を否定するなんて許さないよ? 白月が悲しむから、早く戻っておいで? 大丈夫、ちゃんとまた元通りになるよ、ちゃんと愛してあげるから!」
「俺は時間稼ぎをしてから後を追う、行け! 三日月が待ってる!!」

鶴丸に向かって縋るように差し出された手は、国永の刀によって振り払われる。
怜悧の背を押して斬りかかった国永に、長義は応えず退く事でそれを避けた。
その間に鶴丸が怜悧の手を掴み、背を向けて走り出す。
表情は見えずとも、背には悲痛な叫びが届いた。

「君も、俺を置いて……そんなの、許されるわけがない!!俺の言うことが正しいんだ!! 本丸の母は俺だって、母さんがそう言ったんだから!! 俺の言うことは全て正しい!! 正しいんだよ!!!」
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