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とうらぶ会話文。2

(怜鴉救出後〜)
四郎「たーだーいーまー……(ぐでーんと執務室の扉を開きつつ)」
怜鴉「遅い。予定より三日も遅れるんだったら、連絡くらい入れてくれる?光忠が心配するから」
四郎「辛辣っ!せめて遅れた理由とか聞いてくれても……」
怜鴉「現世とこっちの時間が狂ってるなんて今更でしょう」
秋田「あ、あの!主君は、あちらで迷子の男士の皆さんを案内していて……」
怜鴉「へー、そうなの?秋田は先にお風呂行っておいで(秋田の頭をぽんぽんし)」
秋田「はい!あ、あの……(四郎を窺い)」
四郎「ん、行ってきて良いよ。後でお土産取りにおいで」
秋田「はい!(ほにゃっと笑顔を浮かべて)失礼しますっ!(とててーと歩き去り)」
怜鴉「で、報告は」
四郎「ん、遭難してた一部隊を発見して保護しようとしたら遡行軍が出てきてドンパチ。
で、後処理と目撃者の記憶操作で予定より過ぎました……」
怜鴉「あっそ。報告書にまとめたらお茶入れてくれる?」
四郎「え、帰ってきたばっかりなんだけど!?」
怜鴉「お前が外へ任務に行ってる間、本丸の管理をしてるのは?」
四郎「ぐっ……怜鴉さんです」
怜鴉「霊気不良で下手に顕現出来ないお前に男士の貸し出しを許可してるのは?」
四郎「……怜鴉様です」
怜鴉「母さんの弟子筋として何か言う事ある?」
四郎「兄弟子様のお陰で順調です……」
怜鴉「お茶」
四郎「はいっ、ただいまーっ!!(やけくそ気味に厨へ行き)」
怜鴉「ったく……不出来な弟を持つと苦労するよね」
朱璃「(執務室の奥の寝室から寝ぼけ顔を出し)……れーあ、しろ……もど、た?」
怜鴉「ああ、ごめんね朱璃、起こしちゃった?今戻ってきてお茶の用意をしてるよ、おいで(優しく微笑んで腕を広げ)」
朱璃「ん……(四つん這いでゆっくりと歩み寄って怜鴉の膝枕に腕を腰に絡め)」
怜鴉「全く、あれもすぐに連絡すれば良いのに。母さんが居るから心配ないって言ったろう?(朱璃の頭を撫で)」
朱璃「……ん……(くすぐったそうに受けながら、腹にすりすりと頭を擦り寄せ)」
怜鴉「朱璃に心配させるなんて良い度胸だよね。……これでお土産が碌な物じゃなかったらどうしてくれよう……(小声で怒りを滲ませ)」
朱璃「れ、あ?(片目を開けて様子を窺い)」
怜鴉「うん?なぁに、どうしたの(柔らかく微笑んで朱璃を見)」
朱璃「……ん、ちゅー……(身体を伸ばして怜鴉の頬にキスをし)」
怜鴉「……(目を見開いて珍しく固まり)」
朱璃「れーあ、おこる……やだ」
怜鴉「……朱璃、そんな可愛い事どこで覚えたの?他の人にやっちゃダメだよ?」
朱璃「?……しろ、れーあに、ちゅー、する」
怜鴉「四郎?四郎がお前に教えたの??(朱璃を膝の上に跨がせて抱き締め)……くそ、怒りづらくなったな……」



四郎「お茶の用意が出来ましたよ、兄弟子怜鴉サマー(棒読みでお盆に茶器を乗せながら執務室に入り)」
怜鴉「何そのバカみたいな言い方」
四郎「辛辣っ!?あ、朱璃さんも起きてたんだ。おはよう、朱璃さん」
朱璃「……んー……(怜鴉の膝に跨がったまま怜鴉の肩に擦りつき)」
怜鴉「それで、今回のお土産は?」
四郎「土産、ある事前提なんすね……まああるけど。今回行ったのが京都だったから、八つ橋と和三盆、あと和生にしてみたんだ。朱璃さんにはあと金平糖(机の上に広げ)」
怜鴉「……何で馬鹿みたいに甘い物だけなの」
四郎「ええ!?自分が前に朱璃さんが好きな甘い物にしろって言ったんじゃん!?」
怜鴉「あー……そうだっけ?朱璃、四郎のお茶だよ」
朱璃「ん……(もそもそと膝の上で反転して背中を怜鴉に預け)ちゃー(両手を四郎に伸ばし)」
四郎「はいはい、今煎れるから待ってろよ。零したら大変だからぬるめでー……(てきぱきとお茶の用意をし)」
怜鴉「朱璃、呑ませてあげるからこっち向いて?(朱璃の伸ばした両手を後ろから恋人繋ぎに掴んで手の甲にキスを落とし)」
朱璃「ん、んー(ぷるぷると顔を左右に振り)」
四郎「……怜鴉って、本当に朱璃さんの事好きだよなぁ」
怜鴉「なに、急に。当然でしょう?」
四郎「いや、何か見てて恥ずかしいって言うか……」
怜鴉「じゃあ見ないでくれる?可愛い朱璃が減るじゃない」
四郎「見せたくないなら隠そうな!?いや、隠すって言うか控えるっていうか……」
朱璃「れ、あー……(後ろを振り返り)」
怜鴉「なぁに、どうしたの?(甘い微笑みで朱璃を見つめ)」
朱璃「ん、あぇ……、あーん(机の上に広げられたお土産を見てから口を開き)」
怜鴉「ちゅー(思わず口を開いた朱璃の顔にキスを落とし)」
朱璃「ぁ、ん、……ちゅ、ちゅう……ん、む……(うっとりと眼を細めて触れるだけのキスに舌を絡め)」
四郎「ナチュラルにすんのを止めろって言ってんですけどね!?(顔を真っ赤にしながら机にお茶を置き)」
怜鴉「ん、ちゅう……だから見るなって言ってるじゃない(むっとした顔で四郎を睨み)」
四郎「なんでさ!?ていうか俺が客じゃないか?いや、よしんば客じゃないにしても土産買ってきてるんだからもてなしてくれても良いんじゃないか……?」
怜鴉「仕方ないでしょう、朱璃はお前のお茶が好きなんだから」
四郎「え……そうなのか?てっきり怜鴉が面倒くさがってるからだと……(朱璃を見)」
朱璃「ん、……しろちゃ、すき(キスの余韻で頬を赤らめつつ)」
四郎「そうなのか、ありがとな朱璃さん。それじゃあ居る内に一杯呑んでくれよ?(笑って朱璃を見)」
朱璃「ん(頷いて怜鴉を見上げ)」
怜鴉「(朱璃から顔を逸らして内心舌打ちをし)……やっぱり腹立つ。(ため息を軽く吐いてから笑顔で朱璃を見おろし)ほら朱璃、どれから食べたい?」
朱璃「……ん、あーん(怜鴉を見てから微かに笑い)」
怜鴉「どれでも良いの?じゃあ八つ橋からにしようか(朱璃だけを見つめてお土産に手を伸ばし)」
四郎「(朱璃って呼ぶと怒るわりに自分は呼び捨てでも怒らないし、の割には顔出さないと怒るし追い出さないけど、基本俺の事は無視なんだよなぁ怜鴉って)」

とうらぶ会話文。

(怜鴉救出(緋翠神嫁)後〜)
鶴丸「なあなあ国兄!きみたちの主が神格化したって事は、他の本丸連中はどうしたんだ?」
国永「他のって、うちの夏や侘助に居た奴らか?」
鶴丸「そうそう。雪椿が一の丸で、そこに居た奴らは全員式神化したんだろう?」
三日月「うむ、あれは主の神域となった。二振り目として顕現したモノは習合と相成ったなぁ」
国永「侘助の奴らにはきみ、会ってるだろ。あそこの鶴丸と薬研のやらかしは有名だぜ」
鶴丸「ぇ……や、やらかしって、その……」
国永「やーらしぃ薬を買ってるんだろう?(にやにや)」
三日月「はっはっは、連中の薬は試験を済ませているから副作用も無く楽しめよう?」
鶴丸「(それってつまり、三日月も買って……?)」
三日月「夏の二の丸は知っての通り、主替えに賛同したモノは残り、そうでないモノは連結や習合で還ったよ」
鶴丸「主替えって……怜鴉かぁ。まあ息子だから、の一言で赦せと言われてもなぁ」
国永「人間らしく扱われたお陰で随分と人らしくなったよな。大半は修行で己を見つめ直し呑み込んだようだが。で、侘助の奴らだが……」
三日月「政府の管轄で技術屋に鞍替えたようだな。あそこは四郎に継承されたが、奇縁だからなぁ」
鶴丸「え、四郎なのか?てっきり怜鴉だと思ってた」
国永「管理は怜鴉任せだが、襲名は四郎が受けてたぜ」
三日月「四郎が降ろすと、な。かおはゆい変化が起ころう?あれを好かぬ者も居るのだ」
鶴丸「えー……面白そうで良いと思うけどなぁ。あれこそ驚きだろう」
国永「小狐丸や鳴狐は大差ないだろうけどな。しかし蜂須賀の初期の頃を見ていると……なかなか難しいもんだぜ」
三日月「一時的な変化であれば受け入れる術もあろうがなぁ。侘助が面白き医薬を作って居ったぞ?」
鶴丸「え、面白い!?なんだなんだ」
三日月「それこそ変化薬だな。四郎の異能を解析した結果、動物への変化が可能になったようだ」
国永「あー……全部が変わるあれから一部要素を引き継いだりするあれな。試験に付き合ったが……任務には使えんぞ」
三日月「うむ、化生の本性が引き合いに出され発情する故。お鶴は気に入るだろうよ」
鶴丸「え、それって……(つまり三日月と国兄が……うわぁ……///)」
国永「四郎の顕現では確認されていない事項だから、そこはやはり審神者の御技なんだろうな」
三日月「だが顕現体の性別変換など、興味深い物もあろう?あれは特別任務として使用が解禁されていたな」
鶴丸「へぇ……なんか、凄いんだな。それにしても知ってる顔が残ってるって聞いて安心したじぇ!」
国永「(むしろ万屋界隈で会ってるだろうに今更なんだよなぁ)」



鶴丸「なんか他の本丸の話し聞くの楽しくなってきた!なぁなぁ国兄、三日月、他にどんな刀が居たんだ!?」
国永「うぇ、他?そうだなぁ……審神者の霊力不安定で顕現が年少化したり……」
三日月「ああ、すとれす、という物を溜めすぎて分裂する個体や刀意識の強いモノも居たなぁ」
鶴丸「年少!分裂!?いったいどんなトンチキだ!!(わくわく)刀意識って、人間の事は分からないとか?」
国永「いやぁ……もっと厄介なのは食事よりも玉鋼を食べたがったり、寝る時は刀掛けにしなだれかかったりだな」
鶴丸「ガチの刀だった!!!」
国永「太刀連中だと主の腰にしがみついたり、短刀だと懐に入るか腹を異常に気にしたりな」
三日月「太郎太刀が主の背に密着している様は愛らしかったなぁ」
鶴丸「怖い、逆に怖い!!!ね、年少はどんな奴らだったんだ……?」
国永「どんなって……(三日月ちら)」
三日月「うむ、皆だな。俺達が会ったのは同位体が多いぞ」
国永「鶴丸国永は俵抱えを好んだり、押し入れの布団の隙間で寝ていたり……」
三日月「小さき俺は散歩や縁側で日向ぼっこをしていたなぁ」
国永「あと菓子が好きだったり、蹴鞠が上手かったり……あと可愛らしく見える事を自覚してる個体が多い。見た目に欺されると食われるぜ」
鶴丸「(ダマされて食われたのかな?それって三日月が許したんだろうか)」
三日月「ああ、年少の俺と番になった鶴丸国永の事か。幼い故、夜這いを仕掛けて食おうとした所を甘えられていると勘違いして押し倒され、食われたと言っていたなぁ」
鶴丸「(えげつなっ!?けど違う個体だったなら国兄じゃないのか、そうだよな、国兄だしな……)」
国永「基本的に、大きさが変わって精神が引き摺られても元の刀としての素質は変わらんさ」
鶴丸「それなら、ストレスで分裂ってのは?」
三日月「俺達は元が刀だからな。人の真似は不得手なモノも多かろう?」
国永「珍しい事ではあるんだが、三日月にも一例あるぜ。宝剣として飾られてた影響か、主の寝所で黙って座ってる奴が居てなぁ」
三日月「あなや!あの俺か……」
鶴丸「へぇ、大人しい個体だったんだな。それがどうしてストレス?」
三日月「うむ、それがなぁ……人の身体を持った故、空腹を覚えたのだが瞑想をし続けてな」
国永「夜な夜な厨が荒らされるという怪現象が起こり、犯人は本能が分裂した三日月だった訳だ」
鶴丸「え……なんか、すごいな」
国永「最終的には畑が荒らされる所までいったんだから、珍しい事例だろう?」
鶴丸「鶴丸国永はないのか!?」
三日月「あるぞ。数多の本丸で悪戯っ子と言われている鶴丸だが、常に大人しく実直な個体が居てなぁ」
国永「穴を掘らない、悪戯をしない、驚きを求めない、戦場では羽目を外さない、ってな奴だな」
鶴丸「え、国兄もそうじゃないか?」
三日月「ここで言っているのは度を超してそうである、という事が問題なのだ。人間も余暇を楽しむことはしよう?」
国永「本丸結成から約一年、ずっとそんな感じだったようでなぁ。趣味らしい趣味もなく、主にも距離を起き続けた結果……理性が分裂した」
鶴丸「鶴丸なのに、長谷部二号だったのか……?そりゃあ、随分と驚きだな……しかも理性が分裂って」
三日月「ようはな、伊達男らしく我慢していた事が我慢出来なくなったのだ。主に甘え、構って貰いたいという愛らしい欲がな」
国永「付喪神とは人に使われて成ったモノだからな。使われたい、良く思われたいと思うのをこじらせるのはよくないって事さ」
鶴丸「へぇー……つまり、我慢しすぎるのは良くないって事か」
国永「そういう事。あとは相性もあるが、体調不良を放置してもお互い良いことはないのさ」

うれしいはなに?

秋の匂いが濃くなってきた縁側で隣り合って座り、団子をおやつにお茶を汲み交わす雛が二人。
一人は黒い髪に白磁の肌を持ち、蜜色の瞳を眠たげに揺らしている鶴丸国永の亜種、黒鶴だ。
もう一人は本丸の主が最愛とする人間であり、紫銀の髪に紅い瞳を持つ時渡りの寵児、朱璃。
黒鶴は彼の護衛として、そして世話役という名目で傍仕えを命じられている。
けれどもその中身は子猫のじゃれあいや友人同士の付き合いと何も変わらない。
奔放な黒鶴は戦いよりも日々の営みを好み、当初は魂の摩耗から人間性の希薄だった朱璃に主以外との関わりを配慮した組み合わせだった。

「んー……この団子おいしー……」

もにもにと団子を噛みながら寝そうになるという、まるで子供のような反応をする黒鶴。
けれど秋を満喫している黒鶴とは違い、朱璃はおやつに手を出すでもなく湯飲みを握り締めている。
いつもぼうっとしている方ではあるけれど、それとは違う迷いのような気配を感じ、黒鶴は朱璃の整った顔を下から覗き込んだ。

「朱璃、どうかしたのかい?」
「ん……れいあ、が……」
「怜鴉? 主が?」

こうやって意思を持って会話を出来る程に快復したのは、怜鴉が朱璃を慈しみ、時節の流れを固定せず現実の流れに添うようになってから。
更に雛、と呼ばれる精神的に幼かったり見た目が幼かったりする亜種の男士達と過ごしたのも良かったようで。
ゆっくりとだが、自分の気持ちを伝えるための、言葉を使うようになり始めた。

「れいあが、わらうんだ」

怜鴉が笑う。
超然とした風体の怜鴉だが、恐らくは人の子。
機嫌が良ければ笑うし、不機嫌なら怒る事もある。
もっともそんな風に機嫌が良い怜鴉など、朱璃の隣でしか見られないのだが。
刀剣男士の中でも黒鶴の事は気に入っているようで、だからこそ最愛の傍に居ることが許されている。
朱璃の言いたい事はまだよく分からず、小首を傾げて言葉を待った。
けれどそれが全てだったようで、手の中の湯飲みを弄んでいる。

「……あー……珍しいよな、主が笑うの」
「そうなのか?」
「うん、わりと難しい顔してるか、笑っても見下すみたいな……」
「? ……みたことない」
「そりゃあ、怜鴉は朱璃が居れば嬉しいもん」

嬉しい、と口にすれば顔を顰めて口を結んだ。
先程から、一体何を言いたいのかと黒鶴は混乱する。
朱璃自身も言いたいことを探しているようで、そういった時は見守る方が良いのだと黒鶴は学んでいた。
なので残りの団子を口に含み、温い茶を飲んで景色を眺める。
前の審神者から受け継いだこの本丸は庭がとくに綺麗で黒鶴のお気に入りだ。
今の主はその息子、実際に血は繋がっていないらしいけれど、朱璃もそうだと聞いた。
黒鶴を顕現したのは前の審神者だと聞いたが、縁が深かったのはその影の方。
以前は時間遡行軍として動いていたらしいが、黒鶴にとっては新しい家に移った程度の認識でしかない。
と、

「うれしい、は……どういうもの?」
「うん?」
「うれしいは、かんじょう。かんじょうは、こころがかんじる」
「うん、そうらしいな?」
「こころ、どうなる?」

嬉しいと心はどう感じるのか。
深く考えた事のない黒鶴は、嬉しかった思い出を探る。
以前は深く考える事を禁じられ、そう出来ないように術を施されていた。
だから黒鶴の記憶というものは、この本丸に来てからのものしかない。
それでも、長義に褒められた時、南泉と遊んだ時、双子鶴といたずらをした時には感じたはず。
そして、

「白月が、隣に来ると……この辺りがきゅうってなる」

白月。
番だと言われ、自然と受け入れていたその存在。
自分は彼の為に居るのだと言われ、そうある事を当然だと思っていた。
そんな黒鶴にも、変化があった。
以前と同じように傍に居てくれる白月に、胸の辺りが苦しくなる事がある。
白月が笑ってくれたり、頭を撫でて、触れてくれる時。
何よりもその朝ぼらけの冬の瞳で黒鶴を見つめてくれる時、胸が苦しくなり、頬が熱くなるのだ。

「きゅう……こころが、きゅう……うん、なる」
「だよな、じゃあそれが嬉しいだと思う!」
「どうして、うれしいになる?」
「え……どうして……」

どうしてだろう。
嬉しいと思うのは分かって、そうなるのは当たり前だと思ってたけれど。
自分を認めてくれるから、でもそうじゃない時も嬉しいは感じる。
団子を食べても嬉しいし、花を見ても、花輪を作っても嬉しい。
今度は黒鶴も難しい表情になり、朱璃と同様に愛らしい顔をむすっとしたものへと変えてしまう。

「あのさぁ……」
「それ、好きだからだと、思うぜ?」

突然空から降ってきた声に顔を上げれば、屋根からだらりと垂れ下がる二振りの白い姿。
小さく神出鬼没な鶴丸国永に、黒鶴と朱璃は驚きに目を瞬かせた。
よ、と軽いかけ声とともに地面へ降り立つ二振りは、手付かずの朱璃の団子に目を光らせる。
一口サイズで食べやすいようにと作られたそれを、朱璃は手に取って雛たちに配った。

「すきは、どういうもの?」
「うれしかったりー、一緒に居たいって思ったりー」
「あと独り占めしたい! でもいっぱいの中にも居て欲しいしー、その中からおれを選んでほしい! なぁ、おつるー?」
「ねぇ、くににぃー? でも一番は、さわってほしいかなぁ」
「さわってほしい……さわる……」

触る、っていうのは少し違うような。
けれど感じ方は皆違うのかもしれない。
それに花や団子には違うけれど、長義や南泉、とくに白月には。
考えているうちに白月が傍に居るときみたいに頬が熱くなる。
隣を見れば、朱璃も紅い瞳を潤ませて頬を桜色に染めていた。
普段は整って涼しげで綺麗な顔が、今は可愛いと思う。
何よりそうやって顔色を変えていると、生きているのだと実感できた。

「わかった。れいあに、いう」
「……え、言うって、何を?」
「すき」

すき、隙、鋤……好き?
黒鶴が固まっている間に、朱璃は普段は見せない機敏さで立ち上がると廊下の奥へと歩いて行ってしまう。
慌てて黒鶴が後をついていくのを、後ろから呑気な声が追いかけた。

「あー、うん、好きって分かると伝えたくなるよな。くににぃ、だいすき!」
「うんうん、分かる分かる。おれも、おつるがすきだぜ」

そうなのか、そういうものなのか。
だから朱璃も、普段はぼんやり後を付いてくる事が多い彼も、自分から動き出したのか。
好きって凄い、好きって強いと黒鶴は感動する。
そうして、大好きな朱璃の口から好きと言われた主を想像し、わくわくとはやる心のままに追いかけた。
朱璃が伝えて、怜鴉が嬉しいと思ったなら。
黒鶴も、白月に伝えてみようと思うのだった。

母のぬくもり

夏の終わり、久方振りの町を謳歌した緋翠がそれを目にしたのはたまたまだった。
審神者を生業とする者等が中継地として寄り合う万屋界隈。
祝詞を祀ったお守りや数多の資源を政府から卸しているその店は、何でも揃うとの通り名から万屋と呼ばれている。
そうして店の奥には日用品や用途不明な品まで揃えてあるのだから、名ばかりとも言いがたい。
そんな店で霊力回復に用いられる団子を買いに、ついで引き取った幼子達の育児から解放された一時を堪能するために主自らが足を運んでいた。

「緋翠ちゃん? 何か面白いの見付けた?」

ひょこ、と右肩から手の中を覗き込むのは初期刀であり式神でもある、本日護衛の任を申し渡した加州清光だ。
反対の左肩からは髪を一括りに浅葱の羽織に袖を通した大和守安定が。
仲の良い通称沖田組の二振りに、緋翠は笑みを返した。

「何それ、糸? 神事用?」
「毛糸だよ。まじないの道具にも用いられるが……これは本当に、単なる毛糸」
「へえ、綺麗な色だね。蒲公英と、藤?」
「ああ。……あの子等に似合いだと思ってな」

緋翠の両手に鎮座する糸に、なるほど確かに今預かっている小鳥の様だと二振りは納得する。
少し色合いは違うだろうが、それぞれの髪色にそっくりだ。
そうして子守から解放されても思考は子供達の事ばかりなのだ、と気付いた加州はぷくりと頬を膨らませる。
せっかくのでぇとだと思ったのに、行く先々で出てくるのは子供達の事ばかり。

「ねえ緋翠ちゃん、今日は何しに来たか分かってる?」
「うん? ああ、そうだな。すまんすまん」
「僕は別に良いと思うよ? 緋翠ちゃんがそれだけ大事にしてるって事でしょう」
「そーだけどっ! 俺は緋翠ちゃんに、たまには息抜きして貰いたいの! せっかくのお出かけなのに、ちっとも構ってくれないんだもん」

前半はそれらしく、後半は本音を漏らした加州に緋翠はきょとりと目を瞬かせ、大仰に笑って見せた。
曰く、自分の刀は大層愛らしいとの事だ。
そうして毛糸の束を足りるだけ購入した緋翠は、この愛らしい己の刀達を侍らせて茶屋へと足を運ぶのだった。



ここ数日、国永は不思議な光景を目にする事となった。
本丸の主である彼女が戦線へ出ることは、小鳥たちを預かる少し前から控える様になっていた。
その代わりに増えたのが薬師の真似事と陰陽師としての副業。
今に置いては八百万と申しても差し支えない審神者たちの抱える、あやかし事への調停だ。
鶴丸国永が打たれた時節には往々にして跋扈していた闇は、千の時を掛ける内に人々のあずかり知らぬ所となり。
そうして対処の仕方などを忘却の彼方。
結果、得手を知る者に協力を仰ぐこととなったのだ。
そんな訳で前線を退いたと言っても審神者業と副業、他様々、主は多忙を極める身と言って良い。
更に昨今は本丸に居ても小鳥たちの面倒を、式神や小姓達に任せる訳には行かないとはいえ、一心に見ている。
そんな彼女が小鳥たちが寝入っている昼寝時にもなると、せっせと糸と棒を操っているのだ。

「なあ、きみ……それはなんだい?」
「ああ、おかえり国永」
「ただいま戻った。それで、それは……きみは鶴だったのかい?」
「うん? ……ああ、機織りか。言い得て妙だな。確かにそれも出来るが、これは肩掛けを編んでいるんだ」
「……編む。布を?」

会話の最中も目は手元に、手元は忙しなく棒を操って糸を繰っている。
見る間に端から端へと辿り着き、またもう一度端から端へと返っていく。
主の横には既に編み終えたらしい双揃えの手袋があり、国永は目を丸くしてそれを持ち上げた。

「すごいな、きみ! こんなに複雑に、その一本の糸から編み上げたのかい?!」
「複雑、でもないぞ? あやとりの延長のようなものだ。興味があるなら教えてやろう」

ここ数日、短刀達を中心に同じ色合いの毛糸の糸を使ったあやとりが普及していた。
なるほどあれは主が教えたのか、と合点がいった国永は頷く。
己の手練手管で様々に形を変えるあやとりは、なかなかどうして奥が深く。
何よりも驚きをもたらす良い道具だと好奇心が疼いたからだ。
最初は太めの棒を使うと良い、と言って主が勧めたのは首巻きだった。
まふらーと言ったそれの編み方を見よう見まね、後は口添えだけで習いながら国永は手元に集中する。

「昔はな、冬の間は薬草も採れないから草鞋や籠、笠を編んでいたのさ」
「へえ……それでこんなに器用なのか。まるで笠地蔵のじいさまだな」
「ふふ、鶴の機織りといい笠地蔵といい……寝物語か?」
「寝かしつけのついでにな」

一期一振を迎える前、粟田口を含む短刀らの面倒を一挙に見ていたのはこの国永だ。
元々の気質か主の影響か、母の様な面差しで彼らを世話し、慈しみ、育っていく様を見守っていた。
聞けば伊達の竜と共に居た頃と同じ事をしているだけ、と。
古刀故の矜持とも面倒見の良さとも言えるそれは、日常だけでなく戦場においても遺憾なく発揮された。
主が戦線に出ることをしなくなったのは、国永が来た影響もあるだろう。

「しかし、じいさまか……」
「うん? ああ、悪い、きみは女性だから柘榴の方、と言った方が良いか」
「柘榴、鬼子母神か。……そんなものではないよ」
「そうかい? 小鳥たちと戯れたり、こうやって今もあの子達の誂えを整えてやったり……ひとはそれを母と言うのじゃ?」
「さてなぁ……俺に母は居なかったから、母親というものを知らんのだ」

不意に上げられた途方に暮れる声に、国永は訝しんで主をうかがい見た。
糸を繰る手を止め、ぼんやりと目前に目を向ける様は、けれどどこも見てはおらず。
記憶を探る様なその様子を、見なかった事として手元に視線を戻した。
主が昔の、それも己に関わる話しをするのは珍しい。
大抵はあまりに多くの時を過ごしたが故の、忘我だ。
けれど始まりの時、というものに関しては違ったらしい。

「俺がまだ異質だと気付いていないとき、家族としてあったのは爺様と、その御朋友様だけだった」
「その朋友殿は……」
「やはり男だな。だから、女らしい所作も真似も、その後に学んだ物だろう」

あるいは天をも籠絡しようとせしめん、白面金毛九尾の性か。
小鳥たちを見る穏やかな面差しを目蓋の裏に思い浮かべ、国永は否と思った。
恐らくは生来の気質に備わった、

「きみの本質だろう。子を慈しむ母の顔をしているぜ」
「そうか? ……まあ、ふふ、そう言われて悪い気はしないな」

上機嫌に笑みを浮かべる主に気をよくした国永は、手元の針と糸を横に置いて休憩を告げた。
頷く主はやはり慈しむ様に己が編む肩掛けを、一目一目丁寧に編んでいる。
短刀達の寝物語の他、子守歌として馴染みとなった物がもうひとつ国永にはあった。
かあさんが、よなべして、てぶくろをあんでくれた。
それはそれは愛おしく、喜ぶ顔が見たいという母の顔が思い浮かぶ。
それと同時、貰った子は、母を心配しながらも嬉しくて仕方なかったろう。
誰でもなかったそれは、次第に母を主に、子を小鳥たちに実像を結び出す。

「君は預かった子たち皆にこれをしてやったのかい?」

なんとなくの好奇心と、恐らくはそうなのだろうという確信からの言葉だった。
だが、

「――……いいや」

固く、低く掠れる声で帰って来たのは、反対の言葉だった。
急に声色の変わった相手を不思議に思い、今度は横目ではなく顔を向けて主を見た。
彼女は、唇を横一文字に引き絞って硬い顔をしている。
堅い顔、緊張、もどかしさ、自責の念と、深い後悔。
それらの感情を読み取った国永は、何故、と言えなかった。
知らず、主の一番深い心の奥の、生々しい傷に触れてしまったと理解したから。

「……母の何たるかを知らなかった。あの子達に、親として出来た事など……何も無い」
「……あの子、たち? 小鳥の事じゃ?」
「……鶴丸国永。もし、"俺"が鬼子母神であったなら……」

常とは違う人称に、今ではない彼女を垣間見る。
傷を負い、子を失い、血の涙を流して天に哭く、貴女の姿を。

「どんな手を使ってでも、俺はこの手を離さないだろう。俺の信念にもとらない限り、全力で」
「……主」
「まあ、といっても昔の話しさ。今の私はお前達の主だ」

瞬き一つ、その間に切り替えたらしい主は軽妙な様子で口を開いた。
そこにはもう、傷口から血を流す様相は見られない。
本心を、隠してしまった。
あるいは些事と決めつけ、本人ですら自覚がないのかもしれない。
未だ生々しく彼女に刻み付けられたその傷を。
膿んでしまうほど抱えて、抱えている内に傷みに摩耗したのかも知れない。
人の心は、なんとも脆く、そして強いのだろう。

「……そうだな。なあ、この手袋!俺が驚きの仕掛けを付けても良いかい?」
「うん? どうするんだ?」
「小鳥たちにやるんだろう? なら……父と慕ってくれる俺と、三日月のとれーどまーく、とやらを、な!」
「ふふ、良いぞ。これをやるにはまだ早いが、お前のそれが編み上がる頃には必要になるだろう」
「まふらー、か。ちゃあんと二つ、編み上げてやらないとな!」

これを貰った小さな子達は、どんな顔をするのだろう。
嬉しいというのか、むずがゆい心地で言葉を探すのか。
身体は昔でいう元服の頃にまで成長はしたが、心の成長は赤子同然の愛らしい子供達。
神気の強く、主と夫婦の約定を交わしている三日月宗近が今は子らを見。
それと同様、式神として既に約を交わしている加州清光や大和守安定が子らの護衛に。
それ以外の主と主従の契機を済ませた刀剣男士では、小鳥の霊力による影響が計り知れずに会うこと能わず。
それでも主の守符や呪を使うなど、面倒を一揃えと、きっちり禊ぎをしてからならば、ようやく相見える事となる。
病気で床に伏せきりだという小鳥たちに驚きをもたらそうと、国永は非番の日にはそうして会いに行っていた。
また、主が子として愛おしいと言うのなら、自分にとってもまた子のようで守り刀となってやりたいとも思った。
けれどその子が特別気に入ったかと聞かれれば、そうではない。
自分の、ひとの形をとった鶴丸国永の心が、一体何を求めているか。
この時はまだ分からなかった。

「ふふ、これはこれは、なんだか楽しいなあ!」
「そうか? お前はつまらんと言うかと思ったぞ」
「いやいや、なかなかどうして、驚きの仕込みをしている時のような愉しさだ」
「ふむ……なるほどな」

鶴丸国永と主、縁側で毛糸の玉を置いた籠を間に、二人は何でも無い事や花の色合い、季節の移ろいの事まで様々に話して気を抜いたのだった。

言祝ぎ、錯綜。

水無月の頃になった。
行方不明となった緋翠の手掛かりもないまま、季節は春から夏へと差し掛かろうとしている。
長かった梅雨も明け、水の主とも言える緋翠の恩恵から火の勢いを受けた怜鴉を首座においた本丸は、初夏にはまだ早い季節だと言うのに熱い。
それは精神の在り方が本丸の時季に影響を与える故か。
暑さにバテ気味の朱璃を見ながら、怜鴉は忙しい日々を過ごしていた。

「全く……厄介な事してくれたよね。無作為発動型の時差式罠だなんて」
「そうは言いますけど、自身が常に万全とは限りませんからこの位の策は当たり前ですよ。けれど、さすがに多すぎましたかね……情報だけを流して運用可能にしておいたのもまずかった」

今居るのは審神者執務室であり、文机を挟んで怜鴉と大裳であるルーシェスが向かえあっている。
二人が並んで見る巻物は覚えうる限りの遡行軍の情報だ。
郷に入っては郷に従えとばかりにルーシェスは情報の和文化を図った。
その成果の一つが目の前の巻物であり、机と言わず床の上にも散乱している幾つものそれだ。
内容は勿論のこと、暗号化されている中身を見て理解出来る者は少ない。
必然、手は足りなくなってくる。

「本当に、なんでこんな事したわけ」
「徹底的な戦力の壊滅を貴方が望んだからでしょう。私は命令された事を推敲し、遂行しただけ。とは言っても……我ながら手際の良さに感服します」
「はいはい、あちら側の愚か者にも分かりやすいようにするっていう無駄な有能さね。自分がこっち側に来るとは思わなかったわけ?」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ、主上」

いつもの如く悪態を吐きながら、片手間に暗号を照らし合わせて情報を精査していった。
こんのすけに指示を出す傍ら、脇に置いた端末を操作して政府の管理官へと情報を横流しする。
遡行軍から怜鴉が抜けてここ数ヶ月、戦闘は過激化の一途を辿っていた。
良くも悪くもあちらの主軸の一人として戦陣を担っていた節がある怜鴉。
彼に遠慮して、または警戒して穏健派に回っていた派閥が動き出したのだ。
敵の動きを助長したのはルーシェスが流布していた戦略や薬、罠も起因する。
つまりは二人共が後先考えずに復讐を誓って動き回った結果、有能さに拍車を掛けて今首を絞めてきているという事。
怜鴉の正式な辞令や就任式を後回しにしてまで本丸維持の為に奔走する羽目になった。
遠征に次ぐ遠征に出陣に次ぐ出陣、常に人が動き回る本丸にあって、息つく暇なく式神達も総動員となる。
唯一手の空いている者は朱璃だけとなり、その朱璃ですら怜鴉を癒すために構われ続けて疲れを見せていた。
その折、ようやく好い日取りを決めて就任へとこぎ着けたのがこの水無月は朔日のこと。

「ここいらで一区切り付けませんと、客人を迎えるのでしょう?」
「……ああ、母さんの縁者ね。向こうも先陣切ってるだろうに、わざわざご苦労な事だよ。山吹とか言ったっけ。天后は会った事ある?」
「はい。頼もしいお人柄で、気の良い方ですよ」

読み終わった巻物を片端からまとめて積み上げていきながら、白金の髪に翠色の瞳が緩やかに笑う。
天后は茘枝、と名付けられた彼女は緋翠の頃から仕える式神であり、怜鴉が幼き頃に世話を受けた者だ。
片付けを終えた後は傍らに用意しておいた冷茶を出し、目元を赤らめて息を吐く朱璃に風を送る。
昨晩は声が嗄れてもなお啼かされたようで、紗の天蓋にありながらぐったりと身体を預けてきっていた。
人の領分を越えるほど見目麗しいだけではなく、気だるげな色気も相まって存在の儚さが拍車をかけ一種の芸術品めいている。

「朱璃、疲れた?」
「……ん、くぁ……」

あくびをする様は幼く、うとうとと眠そうに目を擦った。
その手を止め、怜鴉は舌で朱璃の睫に浮く涙を舐め取る。
されるがままにしながら曖昧な反応しかしないが、それでも怜鴉を相手にするからこその話し。
怜鴉が関わる事でのみ人間性を垣間見せるのは相変わらずだが、格段に良くなっていると言える。
そんな朱璃を望んでいた人物が欠けている事実が悲しい。

「朱璃様は元気な子です、少し休んだらお着替えをして主上とお客様を迎えましょうね?」
「良いよ朱璃は、見せたくない。茘枝も一緒に休んでなよ」
「いけません! 主上が正式に本丸の主であるという証の場に番の者が居ないのは反目が御座います。まして式の一人に過ぎない私が居ないとなれば、主上が侮られます」
「別に、侮ったところで返り討ちにしてやれば良い」
「主上……朱璃様を大切に思うなら、無用な争いの種は蒔きませぬ様、お願い申し上げます。慣用には意味が、それを守る事に意義が御座います。賢明なご裁可を」
「……分かったよ。あの人ならこんなつまらない事、気にしないと思うけどね」
「あら、御台様はああ見えて律に厳しく礼儀正しき姫でしたよ?何より祭り好きでしたから」
「つまり、何事も楽しめって事ね。仕方ない、けど朱璃は御簾を下ろした中で良いでしょう?」
「ええ、構いません。参加している、という事が重要なのですから」

主に天上人としての在り方を説きながら、天后は良く出来ましたと子を褒める親のように微笑む。
ある意味でもう一人の母と呼べる相手の気さくさに満足な笑みを零し、怜鴉は朱璃の頬を撫でた。
うっとりと目を細めて自らも手に頬を擦り寄せる朱璃。
そんな二人を見ながら天后と大裳は頭を垂らし、御前を離れるのだった。



花魁風の華美な繕いをした着物に身を包み、その人物はやってきた。
長い髪は複雑な編み込み方をして頭の上方を包み込むハーフアップにされ、残る部分は何もせずに背に流れていく。
だが、どうみてもアフロか鳥の巣を乗せているようにしか見えないそれに、怜鴉は開いた本殿の扉を一度閉めた。

「ちょっと、客を締め出すなんて良い度胸してるじゃない!?さすがあの女の息子ね!!?」
「うわー、うわー、山吹様やばいですって!だからその壊滅的なセンス控えましょうって言ったのに!何であたしまで駆り出してんですかこのクソ巨人!!」
「あらやだ、竜胆ちゃんが新しい椿審神者を見たいって言ったんじゃない」
「あれは言葉の綾、情報屋の性ですよ!一瞬見ただけですけどやばい圧力でしたよ!?これだから完成された存在って嫌、見た目からして圧力半端ねぇ」
「あんたの美形嫌いは根が深いわよねぇ……何と言ってもあたしに通用しない辺り、業が深いわ」

本丸の主を放って繰り広げられる会話に頭を痛め、業が深いのはお互い様だろうと苦虫を噛み潰す。
朱璃を置いて先に来て良かったと思い、いや良くないと思い直した。
一体誰と誰が知り合いか問いただしたくなるような、存在自体が暴力的と言わざるを得ない者を見た。

「全く認めたくないけど……あれを縁者に認めるって、どれだけ懐が広いの……」

どういう基準で選んだのかが気になる所だが、問い正したい本人は不在である。
連れ戻したらこの分の借りもきっちり返そうと決め、一呼吸置いて改めて観音扉に手を掛けた。
先程と同じ視界の暴力を目線に捉え、その巨体の影に隠れるようにある存在に気付く。
黒色の髪をハーフアップに、頭の横で二つに縛り上げていた。
金褐色の瞳は猫の様に釣り上がっていて、気の強さを表した眉の上で前髪が揃えられている。
人柄を表す上で、それはよく似合っていると言えた。

「で、どっちが山吹?」
「今、あたしの事はしょった?何よこの親子、どっちも厚顔不遜!面の皮が分厚いにも程があるわよ!」
「うるさい。こっちにはこっちの事情があるって分からないわけ?相手をするのも面倒な程忙しいんだよこっちは」
「はいはい、親好を深めるのはそのくらいになさい!それと、今日は言祝ぎに来てるんだからあんたはあたし達の相手をするのよ。こういうのを疎かにすると、世話役が文句付けられるのよ」
「……何だ、見た目の割には常識人なんだ」
「さっきからあんた達、あたしに文句あるっての?ヤルなら受けて立つわよ」

あぁん?と化粧で整えられた顔面を歪めながら巨体が吠える。
前情報といい今の反応と良い、恐らくはこちらが山吹で間違いないだろう。
確認するべき事はもう無いと、怜鴉は顎をしゃくって中へ入るように促した。
意外にも二人共、礼儀正しく一礼をして敷居をまたぐ。
中へ入ると本殿の廊下の左右に天后を筆頭に控えの者達が頭を垂れて待っていた。

「本日は遠方よりわざわざのお越し、有り難く存じます。ここより先は主人に代わりまして、私たちが」
「へえ……流石は椿の審神者、良い式神持ってるわね。品も良いし、これは意外だわ」
「天后、これは火葬場に運んでおいて」
「主上は冗談がお好きなのです。お褒めに頂き、有り難く存じます。竜胆の審神者、しかし私共は主上のお人柄あってのもの。努々お忘れ無きようお願い致します」
「ふふ、さっすが天后ちゃんね。椿の、この子を大事にしたいならそれなりの場では礼節を弁えるのよ?」
「言われなくても」

肩を竦めて山吹の小言を受け止める。
そのまま天后に案内は任せ、怜鴉は正装に着替えて朱璃と共に控えの間へ行く。
連れた後は上座の定位置へと座らせ、御簾を下ろした。
怜鴉はあえて客座の正面に座し、段差が無い事で身分に違いがない事を表す。
それぞれの紹介は天后が中継ぎをし、準備を整えた。

「備前国は山吹の審神者より。椿の審神者就任、お祝い申し上げるわ」
「越中国は竜胆の審神者より。椿の審神者就任、おめでとう御座います」
「先達よりの言祝ぎ、謹んでお受け致します。これよりは椿の審神者として、先代と代わらぬご厚意を承れるよう精進する所存」
「つきましては、本来でしたら酒席を用意する所。ですが……椿の本丸は先代審神者、御台について主上よりお願いが御座います」
「あらやだ、本題に入るの早すぎじゃ無い?」
「って言いますけど、あたしを連れ出したのはそれが目的でしょう?さっさと用件終わらせて帰りたいんですけど」
「無粋な子ねえ……普段は礼節だの儀礼だの形を重んじる割には及び腰なんだから」
「あたしは!貴方と違って頭を使う役職なんです!前線で槍振ってりゃ良い脳みそ筋肉とは違うんですよ」
「は?誰が筋肉ですって?」
「ちょっと、そういう茶番はいらないから。あんたらの持ってる情報あるだけよこして。か……緋翠が居なくなった理由とか、そういうの」

苛々と苦虫を噛みつぶした顔で怜鴉は言う。
元より仲良く、など意識はしていない。
そんな馴れ合いは、無遠慮に踏み込んできたあの人と最愛を除いては求めて居ないからだ。
気にした風もなく山吹は肩を竦め、竜胆は背を伸ばす。
前者は慣れから、後者は怜鴉の威圧が自然とそうさせるからだ。
臣下ではないのに自然と部を弁えてしまう。
それは生まれながらの長者の特権であり、業であり、性だ。
表向きは渋々と、大人しく竜胆は口を開く。

「今のところ政府は遡行軍の対応に追われていて、御台の不明について混乱は起こってないわ。管理者が有能だから、情報規制も上手く機能してる」
「最古参のお歴々も同じく、ね。一部愉しそうにはしゃいでるけど……元々横の繋がりなんて無いに等しいのよ。あたしは例外ね」
「使えない……その位の情報なら僕だって握ってる。他には?」
「……なら、まだどこにも出回ってないとっておき。神無月の朔日、時の政府は審神者の上位に神を戴くつもりよ」
「は?何よそれ、聞いてないわ」

竜胆の言葉に山吹が初めて焦りの色を見せた。
怜鴉も掴んでいなかった情報なだけに、信憑性が窺われる。

「報せは直に。問題は、審神者の上位として戴くって事。これまで治外法権も良いとこだった本丸に、政府とは別に監査が入るようなものだから」
「それは……可能な訳?」
「審神者が納得するかどうかって意味なら、聞かないで。出雲からわざわざのお越しってなったら、迎えざるを得ないわね」
「今の本丸は三千世界に広がってるから、政府だけでは手が足りないのが現状。審神者と付喪神の癒着から神隠し、独断で刀剣男子の差別化、問題は山とあるわ」
「今は水無月だから……神無月までは4ヶ月。情報を集めるには短すぎるわね」
「情報の精査や関連付けについては厭わない。とにかく耳と手が足りないんだ。御台に関してはあんたらも借りがあるはず、協力してくれるよね」

疑問ではなく断定で、怜鴉は言った。
二人からの否やは無い。
それぞれが得意の分野で動きを開始する事に決め、三人は頷きあった。

「あたし、あの人の粗野で粗暴で暴力的で独断的で傲慢な所は嫌いだけど、調停力に関しては評価してるの。今居なくなられたら、お山のアヤカシが荒れるわ」
「アヤカシ……妖怪って本当に居るわけ?」
「あやかしい者、って意味ならYES。純粋な者は少ないけど、それなりの血筋は結構残ってるものよ。衆目力と純粋に力を持つという責任感があの人にはあった。力があるという事はね、それだけ影響力があるという事だわ」
「つまり緋翠は、相変わらずのお人好しでその辺りを上手く収めちゃった訳だ」
「そういう事」
「望もうと望まざるとに関わらず、あの人はそれなりの仕事はしていた」

人を愛する、そういう人柄だから。
光を見守るという事は影も見守るという事。
それを意識的にか無意識的にかは定かでは無いが、出来ていたという事実が肝要だ。
人の道筋を守る為、敵と見なした者には容赦はしないが淘汰もしない。
勧善懲悪でありながら、悪をもまた愛していた。
そういう人だから、怜鴉をありのまま受け入れ、身内にすえて愛する事を決めた。
愚かしく、純粋な、どこまでも人らしい半端者。

「なら、あたしは神仙の世界について情報収集をするわね。あっちにもそれなりに法とか律とかあるから。ついでに、分かる範囲で貴方にレクチャーしてあげる」
「……良いけど、あんたの趣味についてはいらないから」
「ちょっと、あたしのセンスのどこが悪いってのよ!」
「……悪いって訳じゃないけど、奇抜なんですよ……」

疲れた様子の竜胆の言葉を受け、この場は互いに情報交換を中心とする事にして祝いの場は酒席へと代わっていった。
これ以降、山吹は出撃の合間をぬって月に一度とそれなりの頻度で椿本丸を訪れるようになる。
更に合間に出雲へ出向いては神の意向とやらの探りを入れるため、かなり破格の対応と言えた。
その分負担は大きいだろうが、むしろ本人は生き生きとして来る度に何かしらの土産物を持参する。
竜胆はあれから本人が訪れる事は一度もなく、通信だけは頻繁に交わすようになった。
大概は大裳、ルーシェスが対応を引き継いでいるのだが、本人が自負するだけあり情報の収集力に関して一目を置いて居る。
しかし多岐に渡る内容の割には的外れな事も多い、とルーシェスは嘆いていた。
怜鴉に限っては知識として完成されている物が乏しいと苦言を注する程。

「蠱毒の影響でしょうけど。術を識っているからと言って、成り立ちや使い時を知っていないと正しい方法を理解してるとは言えません」

こういう理由からルーシェスは怜鴉に術を使わせる事を厭う。
図書館に寄贈された本の内容を、司書が全て知っているとは限らないのと同じ。
検索して方法が分かるだけでは正しい知識とは言えないと稀代の錬金術師は語る。
知識オタク、と内心毒づきながらも怜鴉は多忙な身故、今のところは方針に従っていた。
それぞれが奔走する中、ようやくの糸口を掴んだのは長月の事。
神を戴くという神無月まで、あと半月もない頃だった。
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