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成長過程


「うーん…もうあきた。」
執務室の机に寝そべって、うなだれたレイリに、レシュオムはおかしそうに笑ってお茶を差し出した。
「隊長、あと少しじゃないですか。
頑張りましょう?」
「やだー、もうあきたー。」
子供みたいにグズるレイリに、さすがに苦笑いするレシュオム。
「シュノはいつ帰ってくるの?
もうやだー、シュノにあいたいー。」
「そんな子供みたいな事言わないでください。
シュノさんはまだ帰ってきませんよ。」
自分より年若い少女が、あやすように声をかける。
嫌がる風ではないが、どこか困ったような口調で。
「…はぁ。」
「隊長、気分転換にお散歩でもしてきたらいかがです?
ここ最近執務室に缶詰で疲れたでしょう?」
レシュオムの提案に、レイリは自分の背後の窓を見上げた。
空は快晴、いい天気だった。
「そうだね、じゃあ少し外すよ。
急ぎの書類はまだあった?」
「今日中に提出なのは、ありませんよ。」
レイリはゆっくり立ち上がって執務室を後にした。
寄宿舎の近くを散策していると、あまりに良い天気に、中庭に向かって、そのままごろんと寝ころんだ。
そのまま目を閉じてしまってもよかったが、手を伸ばせば届きそうな空が綺麗で、そのまま見上げていた。
今、シュノもこの空を見上げているかな、なんて考えながら。
騎兵隊もレイリが入隊した頃より人数も増え、遠征に部隊を割けるほどになった。
そうなれば隊を預かるのは、実践で実力が実証されている副隊長で、レイリはいつも執務室に張り付けられていた。
隊長職とは、隊のトップで象徴であるため、責任ある立場。
そう易々と都をあけることはできなかった。
レイリ自身、納得してその立場に居る以上、どうしようもないのは理解している。
だが、さすがにまだ若いレイリにとって、最愛の恋人と引き離されるのはやはりつらい。
異例の若さで隊長に就任したレイリには何かと敵も多いが、由緒正しい貴族の出身故か、裏で陥れようとする輩や、なんとか引き込もうと画策する輩に、精魂ともに疲れ果てていた。
もう、だめかもしれないと思うときこそ、恋人の存在は癒しになるもので。
その恋人が長期遠征に出発したのはつい先日のこと。
まだ目的地にさえたどり着いていないであろう頃にはもう、レイリの心は荒んでいた。
「シュノにあいたい。」
ごろんと体を寝返らせ、目を閉じた。
目を覚ましたら、シュノが笑って顔をのぞき込んで、頬にキスしてくれる気がして。



日が暮れる頃に肌寒さを覚えて目が覚めた。
どうやらうっかり寝過ごした様だ。
「うーん…寝違えた…。」
節々が痛むからだを起こして、うーん、とひとつ伸びをした。
「さてと、仕事に戻ろうかな。」
「あ、隊長!こちらにいらしたんですか!」
レシュオムがぱたぱたと駆け寄ってきた。
「おはようレシュオム…
良い天気だったからすっかり寝過ごしちゃったよ。」
「そうじゃないかと思ってました。」
くすくすと笑うレシュオムに、胸が暖かく癒されていく。
「それで、何かあったの?」
「シュノさんの代わりにはなれませんけど…隊長をお迎えにあがりました。」
そう言って差し出された手を、レイリはぎゅっと握った。
「頼りになる部下がいて助かるよ、ありがとうレシュオム。」
「いいんですよ、隊長には本音で接する事ができる人がもう少し居ても良いと思いますよ?」
ずばり的を射た意見に、レイリは何も言えずに服に付いた雑草を払った。
「今のところは、レシュオムだけでいいよ。
あんまり居すぎると威厳がなくなっちゃうだろ?」
「あれ、隊長に威厳なんてありましたっけ?」
「これは、手厳しいことで。」
おかしそうに笑うレシュオムに、まいったとでも言いたげにレイリは肩をすぼめた。
「戻ってお茶にしましょう?
今日はブリオッシュを焼いてみたんですよ、とレシュオムが楽しそうに踵を返すのをみて、レイリも歩きだした。


もう子供ではいられない。
シュノが騎兵隊の剣の役割なら、自分は隊の仲間と国民の命を預かる盾になると決めたのだから。
「…そうだね、頑張らなきゃね…」
だれに言うわけでもなく、一人呟いて寄宿舎への道を歩いていった。

それは少年が大人に変わる時。


光の家と騎兵隊に関わる人々。

<光の家>
王城内にある隠された庭の中心にある施設。
優秀な血筋に再興の教育をさせる為と称して、騎兵隊所属者の子供を強奪、教育する。
他、身体能力の異常な者を拉致誘拐し、観察研究している魔憑き研究所。
光の家に招かれる子供は大体5歳で親と引き合わされ、元の家に戻される。
魔憑きは光の家の隔離区画に連れて行かれる。
その後はただ腹の底まで探られるような観察と、実験の日々。
魔人化を抑える術は見付かっていないので、無為に犠牲者を増やしている。
光の家の責任者、かつ魔憑き研究所管理者はルーシェスの部下のウィッカ。
在籍者
ゼクス5歳まで、その後騎兵隊所属の生家へ戻されてマグノリアに引き取られる。
レシュオム7歳まで、騎兵隊所属の生家から拒否されていたがマグノリアが引き取る。(シュノ17歳の時12歳)
(タウフェス、在籍していなかったが唯一光の家の場所を知る人物。たまに魔憑き区画の方まで侵入していた)
貴族の魔憑きは存在自体を隠蔽されるか、魔憑きである事実を隠蔽されるのと外面的に連れて来づらい為、放置される場合が多い。



<ウィッカ>
好奇心旺盛で世界の全てを知りたがる知的探求者にして気狂いの魔女。
マッドサイエンティスト。
ルシェとは正反対の魔騎士。
一人称:儂
二人称:お前様
特徴:カカカ笑い。歯をむき出しにした笑い。左が短い黒髪、右が長めの緑髪アシメ。左目が緑で右目が黒のオッドアイ。
職業:魔騎士
武器:蛇腹剣
シュノを見付けて彼の正体を知って以降、魔憑きへの興味を無くし友人の養子に全てを押し付け失踪中。



<マグノリア>
王国の為の盾、人民の為の剣。
仕える主君を見付けて自らの担い手になって貰う、人間に与えられる道具。
ルシェは魔剣、ゼクスは魔導書、レシュは聖剣、タウは賢者の石な位置づけ。
道具の素質があるからマグノリアなのか、マグノリアになって道具の素質を見出すのかは不明。
ルシェとレシュは戦う為の武器、ゼクスはサポートする為の道具、タウはサポートが万能の道具。



<ノエル・ミト・クロッシュ>
カルデロン教会の主教であり元騎兵隊隊長。
レイリが入るまでの隊長、シュノが副隊長になるまでの副隊長。
シュレイを後押しした人物その2。
ガキ共と呼んで可愛がる俺様。
一人称:俺様
二人称:ガキ、テメェ
特徴:白の髪に紅目のアルビノ。不老。
職業:僧侶
武器:チェインメイス
女神に愛された一族の一人で、見た目は30代だが実年齢は二倍以上。
愛煙家でサボリ魔。滅多に自分から動かないが、チェインメイスを使わせると守りに強い。
老衰しないが殺されれば死ぬ。毒への耐性は無いが浄化の魔法があるので死にづらい。

とある保険医の日常


書庫で次の作戦に使う本をフィオルと探しに来ていたロゼットは、たまたま居合わせたクレイハウンドと口論になった結果、部屋を出ていこうとしたクレイハウンドが本に躓いて、ロゼットたちを巻き込んで盛大に転けた。

そこで額を切ったクレイハウンドと、手を切ったロゼットを無傷のフィオルが医務室につれてきた。
「失礼します。」
ドアをあけて、フィオルとロゼットは固まった。
後ろにいたクレイハウンドが怪訝そうに二人をみて、ようやく医務室をのぞいて、ぎょっとした。
「やぁ、ロゼットにフィオルじゃないか!」
紅茶のカップをもったまま、こちらに笑顔を向ける青年こそ騎兵隊隊長レイリ・クラインだった。
レイリのそばには桜色の髪の少女がお盆を持って立っていた。
「医務室に用かい?ならリラに看て貰うといいよ。
彼女はとても優秀の看護士だからね。」
「そんな、大げさですよ。
けが人の方はどちらです?」
リラ、と呼ばれた少女はにこっと笑った。
「彼らです。」
フィオルが苦笑いして一歩下がり、二人は顔を見合わせて、またそらした。
「仲がいいんだね。」
「違います!こいつが一方的に…」
「何だと!それはこっちの台詞…」「君たち、ちょっと落ち着いた方が…」
喧嘩を始める二人をなだめるフィオル。
それをリラとレイリは微笑まし気にみていた。
「じゃあ、消毒しますね。」
リラは脱脂綿に消毒液を染みさせて傷口をふいていく。
「うっ…」
「染みます?」
「大丈夫、です。」
リラはにこっと笑った。
「そうです?じゃあ続けますね。
痛かったらいってください?」
リラは手早く消毒してガーゼを張り付けた。
クレイハウンドより軽傷のロゼットも同様に消毒して包帯を綺麗に巻いた。
「はい、できましたよ。」
にっこりと笑う笑顔には気品があふれて、クレイハウンドは頬を赤くして下を向いた。
「優秀だろ?彼女は。」
いつのまにかレイリは頬杖をつきながらにこにこと二人を見ていた。
「私なんてまだ見習いですよ。
学園長のご厚意で、ここで修行させていただいてる身ですし。」
「リラさんは騎兵隊所属ではないのですか?」
クレイハウンドが首を傾げると、リラは困ったように笑った。
「妹は騎兵隊所属ですよ。
本当は私もそのつもりだったんですが、生憎身体があまり丈夫じゃなくて…それで隊長さんの伝手でこちらを紹介していただいたんです。」
「リラみたいな優秀な看護士が居てくれたら大助かりだけどね。
彼女は高名な貴族の一人娘でね、安全が保障できない我が隊では半分しか預かれなかったんだよ。」
意味深にカップに口を付けると、レイリはフィオルをちらりとみた。
「一人娘?ですが今妹と…。」
ロゼットが首を傾げる。
「魔憑きですか。」
フィオルがぽつりとつぶやいたのをレイリは聞き逃さなかった。
「魔憑きは歓迎されないからね、特に貴族の間では。」
一瞬言葉に詰まったフィオルに、ロゼットが不安そうに見上げて首を傾げる。
その様子にフィオルがはっとして微笑む。
それ以上は口にしてはいけない気がして、二人は黙り込んだ。
「そういえば、レイリさんはどうしてここに?」
不意に疑問に思った事をロゼットがぽろりと口にした。
「え、ああ…このまま帰ってもまた山積みの仕事があると思うと、ね…。」
そういって嫌そうに目を窓の外にむけた。
「隊長さんはお迎えを待っているんですよね?」
リラがにこにこ笑うと、ちょうどよくドアがノックされた。
「隊長、居らっしゃいますか?」
扉を開けたのはレイリがもっとも信頼する人物であり、騎兵隊副隊長のシュノ・ヴィラスだった。
騎兵隊の2トップがそろい、クレイハウンドは目を輝かせた。
「シュノさん、いらっしゃい。」
にっこり笑うリラにシュノは軽く微笑んで、レイリの襟首を掴んだ。
「俺言ったよな、仕事が山ほどあるから講義が終わったらさっさと戻れって。」
「さっさととは言ったけど、まっすぐとは言わなかったよ。」
「揚げ足とるな。」
目の前で繰り広げられる夫婦漫才に、クレイハウンドはフィオルをみた。
「ああ、君は初見だったか。」
苦笑して、フィオルはクレイハウンドに耳打ちした。
「彼等は、恋人同士だからね。」
「なっ…!?」
クレイハウンドが何か言う前に、シュノがレイリに手を伸ばす。
「君が迎えに来るのを待ってたんだよ。」
「調子いい奴、邪魔して悪かったねリラ。」
「いえ、いつでも歓迎ですよ。
私の可愛いエヴァがお世話になってますから。」
レイリの様に、のほほんと笑う彼女は、去っていく二人に手を振った。
「それじゃあ私たちも失礼しようか。」
「そうだね、作戦の続きも考えなきゃ。」
自然な流れでフィオルがロゼットの手を取ろうとしたのに気付き、クレイハウンドはあえて二人の真ん中を貫いた。
「僕の存在を忘れるな!」
「ふふ、三人とも仲がいいんです?」
「まさか!」
「ありえない!」
真っ赤になって振り向いたロゼットとクレイハウンドに、フィオルは、やれやれ…といった様子で肩をすぼめて見せた。
「私は妹に嫌われているので羨ましいです。」
「リラさんの様な優しい方がですか?」
「えぇ…一方的に避けられていて、どうしたらいいか…。
何がいけなかったんでしょう?」
のんびりとした口調でつぶやくリラからは、その状況すら楽しんでいるようだった。
彼女はレイリ隊長と同じ、妙にあざとい所がある。
ただ彼女の場合それが無垢なものだというだけだ。
「敵に回したくない人物が増えたようだね。」
フィオルは誰にも聞こえないようにつぶやいた。
「フィオル、どうかした?」
なんだか妙に落ち着かないフィオルをロゼットが首を傾げながら見上げた。
「何でもないよ。」
そう言って、ぎゅっと手を握った。
ロゼットの頬がほんのり赤くなる。
「いつか、私たちも彼等の様になれるだろうか。」
「…レイリさん達は自重しなさ過ぎ。」
「そうだね、でも私は何でも言い合えて信頼しあってる彼らを羨ましく思うよ。」
「それは…そうだけど。
じゃあフィオルも俺に何でも言えばいいと思うよ。」
照れたように、だんだん語尾が小さくなるロゼットの手を、フィオルはきつくにぎった。
「なら一つ、たまにはこうして手を繋ごうか。」


「ラブラブな所申し訳ないが、僕の存在を忘れてないか?」


ふいに発せられた聞き慣れた声に振り返る。
そこにはもの凄い顔でこちらをにらむクレイハウンドがいた。
「忘れてないさ、早く書庫に戻ろう。」
「…それではリラさん、手当ありがとうございました。」
三人はあわただしく医務室を出、リラは手を振って見送った。


「あらあら、これは面白いことになりそうですね。」
一人、にっこりと笑い、誰もいない空間を見つめた。
「貴女もそう思いません?エヴァ。」
「他人事など興味はない。
私はタウを探しに来ただけだ。」
「灰猫さんならこちらには居ませんよ?
おそらくは先ほどの三人組と一緒でしょう。」
すると、チッと舌打ちが聞こえて気配が消えた。
「ふふ、まだまだですね?」
そう言ってリラがあけた窓の外側には、綺麗な小皿とカップが置かれていた。

みんな大好き。

暗い森の中。
焚き火によって自分たちの居る周辺だけを明るくしながら、その火を見守るヴェリテの隣りにトラヴィスは腰掛けた。
それによって反応するものは何もない。

「何かさ、強さって難しいよね」

空いている肩に頭を預け、目を閉じて小さく呟くトラヴィス。
実戦訓練におけるチーム戦で特攻した彼女は孤立し、早々に戦死。
突出した強さがあれば、周りの敵を薙ぎ払えば簡単だと思っていた彼女は、自信を失った。
トラヴィスの抜けた穴を塞ぐ為にヴェリテが先陣を進み、その分後ろへの注意が疎かになる。
挙げ句に瓦解し、チームは自滅した。
何日か続けて行われるこの訓練は、各々のチームで夜営をする事も求められる。
ヴェリテを見張りに立てた皆は既に就寝中だ。

「もっと派手に戦えば楽だと思ってたよ」
「……頭は悪くない」

溜め息を吐いて頭をぐりぐりと動かすトラヴィスに、ヴェリテは頷いて返す。
話を聞くだけならまだしも、返答まであるとは思わなかったトラヴィスは驚いて振り仰いだ。
ヴェリテは、細長い枝を二つに折って焚き火にくべている。
赤い炎に照らされた彼は全体的に赤く彩られていて、普段の大人しい雰囲気とはまた違って見えた。
強いて言うなら、人間らしく映えて見える。

「でもさ、アタシ負けたよ? アンタ達にまで苦労かけたし」
「何故」
「……何が? アタシが負けたのとアンタ達が負けたのは関係ないとでも?」

本気で不思議がるトラヴィスの言葉に、ヴェリテは頷いて返した。
しかし今チームを組んでいるのは事実なのだし、一人が足を引っ張れば相当な痛手だろう。
チラリ、と横目に見てきたヴェリテと眼が合い、トラヴィスは口を噤んだ。
次いで彼が取り出したのは、革の水袋で。
意図が読めないトラヴィスは首を捻って理解しようとし、三秒で諦めた。
考えるよりも聞いた方が早いのだ。

「それ水? どうするの?」

トラヴィスの目線も水袋に向いている事を確認したヴェリテは、手の平に少しだけ垂らして水溜まりを作る。
指の間から漏れていくそれには気にせずに焚き火へとくべ、

「うわっ!?」

炎が跳ねた。
水ならばただ単に火を消すだけだろうと思っていたトラヴィスは驚いた。
まさか少量の水が跳ねてくるとは思わなかったのだ。
ヴェリテの足下に飛んだ火の粉を、今度は足下の土を手に取ってその上に盛る。
はっきり言って何をしたいのかが分からない。

「何してんの? 頭おかしくなった?」
「バランス」
「は?」

いきなり口を開いたヴェリテに何と言っていいのか分からず、トラヴィスは胡乱な目線を彼に向けた。
表情を微塵も変えない彼だが、意外と疲れて寝ぼけているのかも知れない。
そう思って腰を突いてみても、チラリと目線が向けられるだけだった。
くすぐったがりもしない。

「足りない物」
「それがバランス?」

頷くヴェリテは再び焚き火へと目線を移し、肩でトラヴィスの頭を小突いた。
促されるままに頭を再び乗せ始める。
こうすると彼の表情が見えないのだが、元より表情筋の動く方でも無し、トラヴィスは軽く息を吐いて望まれたままにした。
静かな呼吸が肩越しに伝わってくる。

「大きい、小さい、多い、少ない。バランスだ」

そしてそれは強さにも関わってくる、とヴェリテは言う。
トラヴィスが弱いのはトラヴィスの問題で、皆が負けたのは皆の問題だと。
かなりの極論で暴論ではないかと思ったのだが、つまり彼は自分なりにトラヴィスを励ましているらしい。
何となくむず痒い感覚になり、落ち着かない気持ちになり。
トラヴィスは心の赴くままに振り返りながらヴェリテの腰へと抱き着いた。

「なんだよー! アタシの事心配してくれちゃってんのー!?」

嬉しい気持ちのままぐりぐりと引き締まった腰つきに頭を擦りつけ、ヴェリテの肘に軽く頭を殴られる。
目線を向けない所から察するに、焚き火に薪をくべるのに邪魔だからだろう。
それを気にせずにうりうりーっと腰に抱き付いたままで居ると、

「あ! トラヴィスがヴェリテの押し倒してる!」
「は!? 何セクハラしてんの!?」
「おや、仲が良いのだね」
「姉さん……」
「お、おまっ……! お前達、不純異性交遊だぞ!!」

起きていた仲間達が次々に口を開いて2人の周りを取り囲んだ。
恐らく、珍しく落ち込んだ様子のトラヴィスが気になってそれぞれ独断で起きていたのだろう。
何だかんだでお人好しで仲間想いなメンバーに、トラヴィスは両手を広げて笑顔で応えるのだった。

 

繋いだ手。

早々に実技訓練の試験を終わらせたリアンとシルフィスは、2人で他の皆の所へ向かって歩いていた。
迷子になるからと差し出されたリアンの手を、恥ずかしげにシルフィスが握り返している。

「あ、見るですシルフィス」
「うん? どうしたのリアン?」

繋いでいた手を引っ張って制止を促す彼女を、青と紫の色違いの瞳で見つめる。
2人の後を着いていく猫のヒゲが、風もないのにさわさわと揺れた。
道を外れて歩いていく2人の前には丘が広がり、小さな花畑が広がっている。
学生がここまで来る事は珍しいのだろう、刈り取られて綺麗に高さを合わせる草は寝転んでいない。

「お花畑、可愛いがです」
「本当だ……こんなとこにあるとは思わなかった」
「ふふ! 素敵が発見ですね?」

嬉しそうに繋いだ手に力を込めて喜ぶリアンの顔は朗らかとした笑顔で、つられてシルフィスも頬を緩ませた。
力を込めて握ってた手をするりと抜き取り、シルフィスの両頬を両手で包んだ。

「もっと笑う、良いです!」

細められた目と頬を紅潮させながら言われると、つられて頬が赤くなる。
そもそも女の子と2人きりというこの状況も、手を繋いで並んで歩くという経験も無いのだ。
自然にそう接するリアンにつられていたが、シルフィスは改まって今の状況を考えてもの凄く恥ずかしくなった。
他の誰かに見られていたら、特に姉に見られようものなら何と言われるか判らない。
なのに目の前でリアンが笑うだけで、嬉しくなるのだ。

「シルフィスが、笑うです。リアン嬉しい!」
「……うん、僕もリアンが笑うと嬉しい」

頬を包まれた手に自分の手を重ねながら、一緒に笑い合う。
年若い少年少女が花畑の中で微笑み合うというのは仲睦まじく、とてもほのぼのとする光景だが、

「あなた達、ここがどこだか判ってるんでしょうね」

一匹の猫の言葉によってシルフィスは全身赤く染め上げて硬直するのだった。

 

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