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幽霊塔の吸血鬼 5



「何かさぁ…シュノさん、変わったと思わない?」

談話室のソファーで、背後をクロシェードに預けたまま、本に目を落としながらミツバが呟いた。
「うん?そうかな…他人にはあまり興味ないからよく判らないよ。」
ぎゅうぎゅうとミツバの小さな身体を腕に抱き込めると、ミツバは後ろを振り返り、甘えるように擦りよった。
猫になつかれるような感覚に、ひとつ、頭を撫でてから窓の外を見やった。
窓の向こう側ではレイリが間引きしたのであろう薔薇の花を大量に抱えて歩いていた。
シュノが、薔薇園の管理をレイリに任せたとかで、暇をもて余さなくなったレイリは日中はほとんどが温室で過ごすことが多くなった。
「あの間引いた花。どうするのかな?」
「普通は捨てると思うけれど。」
「ふぅん…捨てるなら、貰ってこようかな。」
そういって本を閉じると、ミツバは腕をほどいて立ち上がった。
「そんな建前を作らなくても、レイリと話したいと素直に言えばいいのに。」
残念そうな風を装って両手をあげると、ミツバはおかしそうに笑った。
「薔薇が欲しいのも事実だよ。
部屋、殺風景すぎ。」
そのままドアを開けて出ていく後ろ姿を眺めて、クスッと笑みを溢した。
「本心じゃないくせに…」
クロシェードはミツバが残していった本を開いた。
押し花の栞が挿されているページには、赤い薔薇の絵が載っていた。
恋人に赤い薔薇の花を贈られた女性が部屋に薔薇を飾って恋人を思うという、一般的な恋愛小説でよくあるシーンのようだ。
唐突に薔薇を欲しがったのも、これの影響かもしれないと、密かに笑みを噛み殺した。
「可愛いことをするじゃないか。」
黙って本を閉じ、気付かなかったことにしようと、立ち上がってミツバの後を追った。
特にすることもなく、暇をもて余していたから、なにか面白いことにならないか、期待を込めて。



「レシュオム、キッチン借りていい?」
昼食の支度をしていたレシュオムは、振り返って一瞬ぎょっとした。
「レイリさん、そんなに一杯の薔薇、どうするんですか?」
「えと…煎ってお茶にしようと…」
レイリは水分が飛んで乾燥した薔薇の花びらの入った袋をレシュオムに見せた。
手に抱えている分はこれから干すのか、まだ瑞々しい。
「これって…温室の薔薇ですよね?」
「うん、間引かないとうまく咲かないから。
この種類は特にデリケートみたいで、あんまり近くに蕾があるとどっちも枯れちゃうみたいだね。」
「ええ、そうなんですよ。
というか…ほんの少し弄っただけでよくそこまで判りましたね?」
レシュオムは苦笑しながら、私は手探りに覚えましたよと話してくれた。
「……なんでかな…でも何となくそう思ったんだ。
この蕾は間引かなきゃいけないとか、残す蕾はどれかとか、枯れそうな花とか…。」
まるで薔薇たちの声が聞こえるみたいに。
レイリはテーブルに乾燥してない薔薇を広げ、ぱちん、ぱちんと裁ち鋏で茎を切り落としていく。
「レイリさん、その薔薇分けて欲しいんだけど。」
唐突にに背後から声をかけられ、振り替えると珍しい人物にレイリは若干驚いた。
「ミツバ、具合大丈夫なの?」
「うん。もう大丈夫。」
ずっと体調を崩していたミツバは、ダイニングテーブルの椅子をずらして腰掛けた。
「ここの薔薇はお茶にしようと思って今茎を落としちゃったんだ…。
部屋に飾りたいならあとで持っていくよ?」
「へぇ…薔薇の紅茶?」
ミツバは茎のない花を物珍しそうに見ていた。
「うん、乾燥させた花弁を煎ってお茶にするんだ。
良かったら出来立てを淹れようか?」
既にコンロに火を付け、干からびた薔薇の花をレシュオムが丁寧に砕いてレイリが煎っている。
仄かに甘い薔薇の香りが漂い、ミツバはせっかくだからと頷いた。
「はい、できた。」
「あ、ありがとう。」
抽出されたお茶は薔薇のいろとは違い紅茶の色をしていた。
「不思議ですね、薔薇は薄紫なのにこうしてお茶にすると紅くなるなんて。」
レシュオムがカップのなかを見ながらまじまじと呟いた。
「甘くていい香り…落ち着く。」
ミツバもカップから漂う香りを楽しんでいる。
レイリは砂糖とミルクを置いて自分も席についた。
「ここにいたのか、探したよ。」
「レシュオム、頼まれた野菜、とってきたぞ。」
「ありがとう、リク。」
レシュオムは立ち上がるとリクが抱えていた野菜の半分を受け取った。
キッチンで昼食の準備をするレシュオムの隣にリクが野菜を洗ったり皮を剥いたりと、手伝いを始める。
代わりにクロシェードがミツバの隣に座ったのを見て、レイリがクロシェードにもお茶を差し出した。
「温室の薔薇で作った紅茶だって。」
「へぇ…いい香りだね。」
「だよね、ねぇレイリさん。
やっぱり薔薇を少し分けて欲しいなぁ。」
「うん、後で花束にして持っていくよ。」
ミツバは嬉しそうに笑い、紅茶を口に含んだ。
「本当に花を飾るのかい?」
「良いだろ別に、半分は俺の部屋なんだから。」
仲睦まじいクロシェードとミツバを眺めながら、その二人の背後で最早熟年夫婦並みの意志疎通をしているレシュオムとリクをぼんやりと眺めていて、レイリはそう言えば自分はまだ、シュノのことをあまりよく知らないと気が付いた。
例えば好きなこととか、好きな食べ物とか、好きな色とか…。
そんな些細なことを気にするくらいには、自分はシュノのことを好きなんだとおもうと、不思議なことに心がぽかぽかと暖かくなる。
「そう言えば、シュノさんとは一緒なじゃないの?」
「えっ…あ、うん。何か凄い眠たいから今日は寝るって…」
ボンヤリしてるところに急にミツバからシュノの話題を振られて、我に返ったレイリは慌ててミツバに笑いかけた。
「そろそろ、新月だからかな…。」
ぽつりとミツバが呟いた。
「新月…」
途端に、レイリの顔色が一瞬悪くなる。
「次の新月は…いつ?」
「ええと…確か明日ですね。」
「明日…」
レシュオムがカレンダーを確認してレイリに告げると、レイリは震える指をばれないようにきつく握った。
「新月になると何かあるの?」
レイリはいつも通り、首をかしげて目の前に視線を向けた。
「吸血鬼は新月に一番魔力が膨れ上がって逆に満月には力が半減してしまうんです。
なので、満月には花嫁から魔力を供給してもらわないといけないわけです。」
「それは…判ったけど、新月は魔力が高まるんでしょう?
どうして新月が近いと眠くなるの?」
「シュノさんは力の強い吸血鬼なので、力のセーブが大変なんです。
莫大な魔力を発散させる術が無いので、身体に負担がかかるんですね。」
レシュオムが意味ありげににっこり笑う。
「今回は、レイリさんが居るから大丈夫だと思いますけど…。」
「僕は…どうすればいいの?」
キョトンと首をかしげるレイリに、ミツバが笑いを堪えていた。
「それは、シュノさんに聞きなよ。」
「?」
首をかしげたレイリの前に、レシュオムが困ったような笑みを浮かべながら、ベーグルサンドを差し出した。
「シュノさんに持っていってください。」
「あ、うん。」
直接シュノに聞けと言うことか、と何となく悟った。
「あ、薔薇…」
「あとでいいよ、頑張って。」
ミツバが楽しそうに笑って、クロシェードに目配せをすると、二人は楽しそうに頷いた。
「え…うん?ありがとう?」
大事そうに昼食を抱えて席をたった。



「シュノ…?」
薄暗い部屋の中、ベットの中で眠るシュノにそっと近寄ると、昼食をサイドテーブルに置いて、広めのベットにそっと体を傾ける。
柔らかなマットが沈み、レイリは布団にくるまって眠るシュノの顔を覗き込んだ。
吸血鬼は皆絶世の美貌を持つものが多い。
レシュオムにしろ、クロシェードにしろ、人間では有り得ない姿を目の当たりにしても、やはりシュノは綺麗な人形の様で…
間近に迫ってもシュノが起きないほど熟睡しているのは珍しいなと思いつつ、そっと顔を近付けた。
「シュノ…」
そっと、キスをしようとか唇を近付けると、ぐいっと頭を引き寄せられて倒れ混むようにシュノに覆い被さった。
「ん、ぅ…んんっ、は…ぅ…」
唐突に舌を絡ませてきたシュノは、レイリの身体をベットに引きずり込んで、ギュッと抱き締めながら、何度もキスを繰り返してくる。
「はふ…んむ、ん、ちゅ…しゅ、の…んんっ」
息つく暇もなく、次第にレイリがグッタリする。
それに気が付いたシュノが名残惜しそうに唇を離すと、必死に呼吸するレイリの額にひとつキスを落とした。
「ふぁ…シュノ…ずるいよ、起きてたなら言ってくれれば…」
「お前が可愛いことしてたから、悪戯したくなった。」
ギュッと抱き締めて、頭を撫でる。
レイリを抱き枕代わりにしっかりと。
レイリの目の前にはシュノの綺麗な顔が間近にあって、心が跳ねる。
「お前こそ、俺の寝込みを襲うなんていい度胸だな?寂しかったのか?」
「…違っ、…シュノが調子が悪いみたいだから…。
どうにか力を発散させる方法はないの?」
心配そうにシュノを見上げたレイリに、あからさまに目を泳がせるシュノ…。
そう言えば、レシュオムも困ったような笑みを浮かべていたことを思い出した。
ミツバとクロシェードはどこか楽しそうだったが、頑張れと声をかけられた。
「お前…それ誰に聞いた?」
「え…みんなに。」
あきれたような溜め息を吐きながらもシュノはどこか楽しそうだ。
「シュノ?」
「可愛いことするお前が悪いんだからな?」
そう言ってシュノはレイリをベットに押し倒した。
訳が判らないレイリはキョトンとしている。
「お前にひとつ教えておいてやる。
新月の日、俺達吸血鬼は花嫁に魔力を分け与える。
要は満月の時に減る力を花嫁にためておくんだ。」
「うん。」
「つまり、有り余る魔力をお前の中に注ぎ込む。」
「どうやって?」
余程温室で大事に育てられていたのか、レイリは首をかしげる。
全く意味を理解していない。
シュノはこれから先が少し心配になった。
「方法は二つ。
血を分け与えて少しずつ魔力を分ける。
これはレシュオムみたいな女吸血鬼が良くやる方法だ。
そして、もうひとつが…」
にんまりと、シュノが笑う。
獲物を目の前にした、肉食獣のそれで。
「お前の中に直接注ぐ方法だ。」
耳許で、囁くように呟くとレイリがあからさまにビクッと身体を震わせた。
「…え…中に?注ぐ?」
「そう、お前を抱くって事だよ。性的な意味で。
ここまで言えば何されるか判るだろ?」
レイリは途端に顔を赤くして背けた。
「あ…だって、僕は…男だし…」
「関係ねぇから。」
ニヤリと笑って、シュノはレイリの首筋に顔を埋めた。
「初めて見たときから思ってたんだが、お前ホントに美味そう…」
ペロッと首筋を舐められてレイリはすがるようにシュノを見上げた。


Fateパロ

第三次メンバー
・セイバー フィオル(クロシェード) ・マスター ロゼット(ミツバ)
・アーチャー ヴェリテ ・マスター トラヴィス
・ランサー クレイハウンド ・マスター マーガレット
・アサシン (八つ目/黒戦乙女)イェライシャン ・マスター ロワ
・ライダー シルフィス ・マスター リアン
・キャスター プリムローズ ・マスター ティア
・バーサーカー マグノリア(ゼクス・レシュオム・タウフェス) ・マスター レイシー


第二次メンバー
・セイバー シュノ ・マスター レイリ
・アーチャー リラ ・マスター エヴァンジル
・クレリック ノエル ・マスター レイア
・アサシン (八つ目/黒戦乙女)アクセル ・マスター カウロス
・ライダー テラ ・マスター ルーシェス
・キャスター シュリ ・マスター シグフェズル(初登場)
・バーサーカー フィーネ ・マスター アルマ

メモ。
クレリック―ノエル。
人々の苦しみを救い癒やしたとされる青年。
宗教が違えば天使として認定されただろう奇跡の持ち主。
武器はチェインメイス。
スキルに相手を無力化させる捕縛がある他、治癒もある。


メモ。
キャスター―シュリ。
火信教で人の悪意を受け止める存在として祭り上げられただけの普通の青年。
英霊としては最弱。
火耐性がある位。
裏聖杯になった時に固有結界<この世全ての悪>を習得。
英雄を強制的に闇落ちさせて自分の支配下に置くスキル。

幽霊塔の吸血鬼 4



名前、考えたの?


まだ。っていうかお前も少しは考えろよ。


えー…めんどくさい…犬っぽいしポチでいいんじゃない?


……


冗談だって。だからそのゴミを見るみたいな目はやめろ。


あんたが言うと冗談に聞こえない。もういい、俺が決める。


ほんとに冗談なのになー。


あんたと、俺の名前を合わせて…レイリ。


随分ご大層な名前だな、ポチのくせに。


……ガキに妬くなよ。




聞いたことのある声に耳を澄ましていた。
すると唐突に自分の名前を呼ばれて驚いた。
自分の名前を呼ぶのは誰だろうと、ゆっくり目を開く。
すると、そこには心配そうに顔を覗き込むシュノと目があった。
「……しゅの…?」
「レイリ?良かった…目が覚めたんだな…」
優しく頬を撫でられて、その心地よさに目を閉じて甘えるように擦り寄った。
ひんやりと心地のいい手が、レイリのをふにふにと親指で弄って、ちいさく笑う。
それを見て、レイリもふにゃっと緩んだ笑みを浮かべてシュノの首に腕を回した。
レイリの背中にそっと手を添えて、半身だけ抱き起こすと、ぎゅっとレイリが抱きついてきた。
「レイリ、身体はどうだ?
どこか痛くないか?気分はどうだ?」
ぎゅっと腕の中に閉じ込めたレイリの背中を撫でながら、ちゅっと額にキスを落としてから心配そうにシュノがレイリの顔を覗き込む。
「ん…と…」
身体を動かそうとして、唐突に体に電流が走ったように痛みが全身に襲ってきた。
頭がくらくらとして、あちこちに鈍い痛みが走る。
「あ…痛い…体中が痛い…シュノ…」
唐突のことに驚いたレイリは涙をこぼしながらシュノにしがみついた。
「大丈夫か、とりあえず横になれ。」
そっとレイリの身体をベットに横たえ、頭を撫でる。
「お前、何があったか覚えているか?」
「…えっと…薔薇園で…僕は…」
薔薇園で、シュノと二人で話をしていた。
塔の吸血鬼と花嫁の話を少し聞いて、温室の管理を任されて…
「だれかに、呼ばれた気がして…
優しい声で…名前を…僕はあの声を知って…」
何かを考えようとすると、霞がかかったように何も思い出せなくなって…
とても大事なことだった気がするのに、曖昧なそれは記憶の彼方に追いやられてしまう。
「レイア…と、お前は言っていた。
そして、教えたはずのない塔への道を迷わずに進んでいった。」
「レイア…?」
「お前は、レイアを見たんじゃないのか?」
レイリは目を丸くして驚いた。
「そんな…事、だって僕は、レイアを覚えていないんだ…
どんな容姿か、どんな声か、どんな人なのか…全く知らない。
レイア本人にあっても、僕にはレイアかどうかわからないんだ。」
それに至ってはシュノも同意見だった。
教会で育ったレイリにレイアと接触する機会は幼少の、まだ物心がつかないほんの少しの間だけだったはずだ。
そして、シュノには見えていなかったレイアの姿。
「レイリ…今は何も考えなくていいから、身体をゆっくり休めるんだ。
お前が倒れてから、もう3日もたってる。レシュオム達も心配していたぞ?」
「え…?倒れ…?」
レイリは全く記憶になかったのか、きょとんとしている。
「ああ、実は塔には結界が張ってあるんだ。
そして、その結界は13年間だれも破ることができなかった…俺でも。」
「それを、僕が?」
シュノはだまってうなづいた。
「なん…で…?」
「…それは…」
シュノが口ごもり、レイリは聞いてしまっていいのか不安な気持ちになっていたが、どうしても気になってシュノの着物の裾をそっと握った。
それに気付いたシュノはレイリの手に自分の手を重ねて、ぎゅっと握った。
「そうだな…お前には、話しておかないといけないな。」
「シュノ…」
「塔にいる吸血鬼とその花嫁の事。」
長くなるから、まずはレシュオム達にレイリが目覚めたことを知らせてくるといって、シュノは部屋からでていった。
ぽつんと一人ぼっちにされたレイリは、窓から見える塔を眺めていた。
なぜ、誰にも解けなかった結界を自分の様な半端者が溶けたのか…疑問を感じざるを得なかった。
傍から見てもシュノが力のある吸血鬼だというのはひと目で理解できる。
そんなシュノが解けなかったという強固な結界。
それを自分が壊し、意識を3日も失っていた。
何が何だか、レイリには全く理解できず、ただぼんやりとベットに横になるしかできなかった。


シュノが戻ってきたのは数十分後、食事と薬の乗ったプレートを持っていて、そういえばお腹がすいていたことを急に思い出した。
「みんなお前を心配していたぞ。
まずは飯食って薬飲め。話は食べながらしてやるから。」
そう言ってレイリの身体を起こすと、背中に大きめのクッションを当てて楽な姿勢をとらせてから、プレートを膝の上に置いた。
ほかほかのオムライスが美味しそうな香りを漂わせていた。
「うん…いただきます。」
スプーンを持って、少しづつオムライスを口に運ぶ姿を見て、シュノもベットに腰掛けてレイリの髪に触れた。
「レイリ…お前は天使と悪魔の混血だって言ってたよな?」
「…うん、そう、だけど…」
「それ、誰に聞いたんだ?」
「…先生、僕の育ての親。先生とレイアは古くからの腐れ縁で、その伝手で…」
シュノはぼんやりと窓の外を眺めながら、静かに言った。

「塔に居る吸血鬼の花嫁は…レイアだ。」

言葉が、でなかった。
スプーンがからんと音を立ててプレートの上に落ち、それをシュノがだまって拾った。
「シュリは長年誰とも契約を交わさなかった。
なぜかは俺も知らない。俺がこの屋敷に来た時にはすでにレイアと契約していたからな。」
「シュノは元からここに住んでたんじゃないの?」
「ああ、ここにいる吸血鬼はみんな親を人間に殺されて孤児になった奴ばっかだ。
突然一人ぼっちにされたのをシュリとレイアに拾われた。」
吸血鬼がどのように生まれてくるのか知らなかったレイリは、吸血鬼は人を噛むことによって増えるのだと思っていた。
吸血鬼、と区別されているだけで、彼らも人間と変わらないのだと知り、少しシュノとの距離が近くなった気がした。
「16年前の夜…この街に住んでいる貴族の家に一人の赤ん坊が生まれた。
だが、赤ん坊は既に息絶えていた、死産だった。
レイアは契約を超えてシュリを束縛したいと考えていて、その子供を自分の子供として育ててシュリを自分のそばから離れられないようにしようと思った。
そしてレイアは赤子の死体をその貴族の家から引き取った。」
「…その…子供って…僕?」
「そうだ、吸血鬼ってのは人間の様に出産したりしない。
人の形をした器に自らの魂の欠片と血を与えて造るんだ。
そして、シュリとレイア…吸血鬼と天使の血を引いているのがお前だ。」
突拍子のない話にレイリはただ首をかしげるしかできなかった。
「どうゆう…こと?」
「魂というのは肉体に宿るもの。
魂が変われば肉体の質も変わる、お前の器は人間が作ったものだが、その魂は消滅して人間としての生を終えた。
そして新たに吹き込まれた魂によって肉体が新たに構築された、ってわけだ。」
「…なんだか…突拍子もない話だね。」
「悪魔が人の子をさらう…っていうのはよく聞く話だろ?
それは悪魔が自分の子供を作るために器を欲しているってことなんだ。」
「…そんな理由があったんだ。」
「ああ、自分の子供欲しさに生きている子供をさらう奴も希にいるけど、殆どは死んだ子供の死体を使う。
この辺は子供の間引きも多かったからな。」
なんだか食欲が失せる話に、レイリのスプーンが一向にすすまない。
「…とにかく、そうやってお前は生まれた。
お前の体にはたしかにレイアとシュリの血が流れてる。
結界はそのお前の中に流れるレイアの血に反応したんだ。」
「僕の、血?」
「ああ、あの結界を作ったのはレイアだ。
レイアは自分の血で結界を作り、自分ごと塔を封印してしまった。」
「ちょ、ちょっとまって!どうしてそうなったの?」
シュノは急に黙り込んだ。
「…13年前、お前はレイアと暮らしていただろう?」
びくっと、あからさまにレイリの身体が反応した。
「お前が生まれてから、レイアは何故かお前を連れて屋敷をでていった。
…俺は幼いお前を連れてレイアが出て行ったことが気になって仕方なかった。
なんで、この屋敷で育てないのか、俺たちと同じように。」
レイリは、もう何も言えなかった。
覚えている、古い記憶。
燃える家、飛び散る血。人々の怒声。
手を引かれて、逃げるように家から飛び出して…
「あ…ああ…ぼくは…」
「レイリ?」
「急に、家に人が…レイアが悪魔に騙されているって…僕達を殺しに…」
急に、つぎつぎと何かが蘇ってくる。
「吸血鬼を殺せって、誰かが言った。
吸血鬼こそが全ての悪、吸血鬼を殺せば僕もレイアも死ぬって…」
「…そう…だったのか…」
「レイアがどうせたどり着けないっていって、僕を教会に預けて行った。
だけど…急にレイアが苦しそうにして…」

『お前が…そうだな、一人前になったら…
また会えるから。それまでいい子にしてろよ?』

そう言い残して、幼いレイリを教会に預けてどこかに行ってしまった。
まだ幼かったレイリはその事を記憶に封印して、教会で神父見習いとして育てられた。
「…シュリさんに、何かあったんだね?」
シュノは珍しく俯いたまま黙ってしまった。
どう、伝えていいか悩んでいるようだった。
「シュリは…俺を庇って怪我を負った。
大勢の人間が屋敷に攻めてきて…俺は一人でその人間を追い返そうとしたんだ。
だが、花嫁が居ない俺は力が足りなくて、結局屋敷まで攻め込まれてしまったんだ。
結局俺のせいでシュリは神官の封印で力を封じられてしまって重傷を…
その反動がおそらくレイアにも行ったんだろう。
あいつはここに戻ってくるなりシュリを連れて塔に登って行った。
入口を血の結界で封印して、自らもシュリごとあの塔の最上階で封印した。」
「なんで、どうしてそんな必要が?」
「シュリの魂が傷つけられたんだ。それにはお前の中にある魂の欠片が必要になる。」
レイリは、目を見開いてシュノを見た。
「それって…死ぬって、こと?」
「いいや、そうじゃない。いいか、魂には力があるんだ。
魂の質量に応じて溜め込まれる命の力。それをほんの少しシュリに分け与えて、シュリの命の力を正常に作動させる、ブースターみたいなものだ。
そして、俺はお前をずっと探していた。」
シュノが、レイリの身体をぎゅっと抱きしめた。
「初めて会った時、花嫁になれって言ってたよね?
君は僕がレイアの子だって知っていたの?」
首をかしげ、シュノを見上げた。
「いや、そうじゃない。
俺は13年前に負傷した時の傷を治すために力が欲しかった。
だから手近な人間から血を貰おうと思ったんだが…お前があまりに美味しそうな匂いだったから、最初は傷を治すために暫くそばに置いておこうと思ったんだ。
お前には言わなかったけど、契約は花嫁には解除できないが俺の方から解除することはできる。」
「シュノ…怪我してたの?」
「ああ、だけどもう大丈夫だ。お前のおかげで。」
心配そうに見上げたレイリの頭を撫でた。
「血を舐めて、混血なのは直ぐにわかった。結界で傷ついた傷が癒えていたのを見て、天使と悪魔の混血だって知ったとき、もしかしたらって思った。」
「…じゃあ契約したのって…」
「レイアの子だって分かって、これでようやく二人を開放できると思った。
そしてその封印を解除するために大量に血が必要なことも知っていた。
だから、契約してお前の血が全身からなくなるような事になっても死なないように保険をかけた。」
レイリは、瞳に涙を溜めてシュノの胸に顔を埋めた。
「守るって…言ったのに…」
「…最初は、封印を解除してもらえたらそれだけで良かった。
だけど、たった1週間そばにいただけでお前の存在が俺の心を占めていった。」
抱きしめる腕に力がこもる。
「塔の前で封印を解除した時に、血まみれのお前を見てようやく気がついた。
お前が好きだ。」
「…しゅの…」
そっと頬に手を添えて、顔を近づける。
「俺がお前を守ってやるから、お前は俺のそばに居て…笑ってればいい。」
「僕、頑張って封印を解くからね。」
にこっと笑って、背中にゆっくり手を回す。
「無理するな、俺はお前に苦しんで欲しくない。
こんな…お前がこんなになるなんて思わなかったんだ。」
お互いに抱きしめる力が強くなる。
「あいしてる。」
そのまま、ベットにレイリの身体を横たえて、そっと唇を重ねた。
「寂しかったんだ、僕。
愛してくれる人なんて、いないと思っていた。
だから、シュノに会えてよかった…シュノのためならなんでもしたい。
どんな辛いことも、苦しいことも我慢できるから。」
にこっと笑ったレイリに、シュノの凍てついた心がとかされていった。

幽霊塔の吸血鬼 3



ひとつ、鮮明に覚えている記憶がある。
小さな自分の手を引く青年の姿。
まだ、自分は言葉をしゃべることができなくて、意思の疎通が巧くとれなかった。
そんな自分を、面倒くさそうに抱き上げて優しく名前を読んでくれた。
あの人に会えば自分は何かが変われる気がした。


「シュノ…?居ないの?」
朝食後暇を持て余していたレイリは誰もいないシュノと自分の部屋を覗いた。
散歩にいってる間にシュノは何処かに行ってしまった。
「何処に行ったんだろ?」
シュノはこうして稀に姿をくらます。
結界の外に出ないようにきつく言われてる辺り外には居ないだろう。
そうなると敷地内には居ることになる。
なし崩しに契約したとはいえ、そばにいないとやはり不安になるもので…。
「探しに…行こうかな。」
なんとなく、シュノがそばにいないのが落ち着かなくて中を散歩がてらシュノを探すことにした。
広い敷地は鉄柵と外壁で囲まれ、外に出ることはできない。
そびえ立つ外壁を見上げ、暗い森の上をうっすらと太陽が照らしているのが辛うじてわかる。
レイリは、そっとその外壁に手を伸ばした。
「また怪我するぞ。」
背後から聞こえた声に、ビクッと身体を跳ねさせて、後ろを振り替える。
やはり、難しい顔をしたシュノが木にもたれ掛かりながらこちらを見ていた。
「怪我するの判っていて、どうして手を伸ばす?」
「……別に、深い意味は…。
ただ、何か変わらないかなって…。」
レイリは伸ばした手を引っ込めてシュノの方に歩み寄った。
「変わる?」
「うん…。僕は何のために産まれてきたんだろうって。」
シュノは何も言わずにレイリの身体をぎゅっと抱き締めた。
「レイリ、お前は俺に会うために産まれてきたんだ。
それでいいだろ。」
「シュノって…時々キザな事言うね。」
レイリは耳まで顔を真っ赤にして、シュノの胸に顔を埋めた。
「運命なんだよ、これは…。」
そう言ってレイリの頭を撫でるシュノの表情は明るくはなかった。
どこか思い詰めたような表情にレイリは気付く事なく、シュノの体温につかの間の幸せを噛み締めていた。
シュノの目線の先はあの塔がそびえ立っていた。


「シュノ、そう言えば何処に行ってたの?」
「ああ、温室だ。薔薇園の様子を見に…」
するとレイリの目が急に輝きだした。
「温室、あるの?」
「連れていってなかったか?」
レイリは頷いてねだるようにシュノを見上げた。
「こっちだ。」
ぎゅっと手を握られ、ほんのり頬を赤く染めたレイリが俯いた。
ここに来てからと言うもの、レイリはいつもの俯いていた。
まだ一週間で、無理もないのだが。
「薔薇、好きなのか?」
判りやすく照れているレイリに微笑みかけながら、シュノは薔薇園の扉を開けた。
「教会に居たときに育ててたんだ。」
扉を開けてレイリの目の前に広がる薔薇たちに目を輝かせた。
「凄いね、僕の温室よりおっきい!!」
温室には一面薄紫色の薔薇が咲き誇っていた。
「見たこと無い薔薇だ。」
「それは…塔に居る花嫁が吸血鬼の為に品種改良した薔薇なんだ。
シュリ、って品種だ。」
「シュリ…?」
「塔の吸血鬼の名前だ。」
「大切な、人なんだね…。花嫁さんにとって…シュリさんは。
だって、薔薇達が生き生きしてる。」
楽しそうに薔薇をながめるレイリに、シュノは近くにあった薔薇を一本手折ってレイリの髪にそれを挿した。
茎を折ったときに棘がシュノの指を傷付ける。
「シュノ…手が…」
レイリは何を思ったか、傷付いたシュノの指を口に含ませた。
「ふ、っ…レイ…離せ」
「ふぇ…?」
ピチャピチャと舌を這わせてシュノの指を舐めるレイリはまるで、情事の最中のような妖艶な顔を見せた。
「っ…おま…」
「しゅの…血…あまい…」
レイリはそのままにこっと笑うと、シュノから離れた。
指の傷は跡形もなく無くなっていた。
レイリはくるっとシュノに背中を向けると、近くにあった薔薇を楽しそうに眺めていた。
その時、シュノはうっすらと純白の白く小さな羽根が見えた気がした。
「シュノ?どうかした?」
首をかしげ、無邪気に笑うレイリに自然とシュノも微笑んだ。
「何でもない。」
「変なシュノ」
楽しそうに笑って、小さな薔薇の蕾をそっと撫でた。
「お前、ここの管理するか?」
「え…?」
「普段はレシュオムが管理してるんだ。
ただ、あの二人は農園も管理してるからレシュオム達の負担も減るし、お前も暇をもて余さなくていいだろ?」
そう言われてレイリは辺りの薔薇を眺めた。
塔の花嫁が吸血鬼の為に品種改良した薔薇。
薄紫色の花びらは朝露に濡れて銀色に光を帯びていた。
まるで、目の前の彼のように。
「うん…やりたいな…。」
屋敷内で暇を持て余していたのも事実だし、塔の花嫁が実らせた想いを壊してしまいたくなかった。
「僕もいつか、君の名前の薔薇を君に贈りたいな。」
温室から間近に見える塔を眺めながらレイリはにこっと無垢な笑顔でシュノを振り返った。
出会ったばかりで運命的に契約をしてしまったが、この関係はこれからずっと続いていく。
それなら、できるだけ温かく優しいものにしていきたい。
好きになるのは、今から始めていけばいいと思い、そのきっかけになればとレイリは薔薇を眺めながら思っていた。
優しい色合いの薔薇に込められた、想いのように。
「レイリ…」
「僕も…一応は、君の花嫁だし。
シュノのために何かしたい。」
なら…とシュノが何か言いかけた時に、レイリが急に目を見開いた。
「レイア…?」
唐突に、そう呟いて何かに導かれるようにふらふらと塔の方へ歩いていった。
もちろん、シュノからはレイリ一人しか見えていないが、レイリにはレイアの姿が見えているのか、しきりにレイアの名を呼びながら教えたはずの無い塔への道を歩いていく。
不審に思ったシュノは黙ってレイリの後を追いかけた。
薔薇園からは塔への入口に繋がっている扉があるが、塔の吸血鬼が封印されたときにこのいりぐちも硬く封じられていた。
真っ赤な結晶が棘のように入口を塞いでいるが、レイリはそのまま半透明の赤い結晶に触れた。
「レイリ!!」
眠り姫が、糸車に指を刺すみたいに尖った結晶がレイリの指先を軽く傷つけた瞬間に、内側から何かが弾けたようにレイリの血が結晶を濡らした。
レイリはそのまま意識を無くしたように倒れ、今まで入口を塞いでいた結界は跡形もなく砕け散った。
「入口が…開いた…」
シュノは漸く希望が見えた気がして、塔に続く扉を開いた。
薄暗い塔の中、最上階に続く螺旋階段をゆっくりと登っていく。
そして、陽の当たらない最上階。
一際大きな結晶に封じ込められているのはレイリにそっくりの天使と、白い翼に守られるように天使の腕に抱かれたシュノにそっくりの吸血鬼。
「やっと…そこから出してやれる。
もう少し…我慢してくれ…シュリ。」
愛しそうに結晶に触れ、甘えるように擦り寄ると、名残惜しそうに離れた。
元来た道を戻ると、純白の服を真っ赤に染めたレイリが倒れていた。
外傷は全く無いのに、その体は酷く冷たい。
やはり、契約しておいてよかったと安堵した。
混血とはいえ身体は人の子と変わらない。
契約なしで封印を解除するのは命を奪うのと等しい行為で、さすがに自分の目的の為に人の命を奪うのは後味が悪かっただけのつもりだった。
なのに、先程まで無邪気に笑っていたレイリが血塗れで横たわっているのを眺めていると胸がざわつく。
シュノは、レイリの身体を抱き上げて自室のベットに横たえた。
清楚な白で纏められた教会のローブを脱がせて、タオルで血を拭う。
混血の血は甘くて最高の美酒だと聞いていたが、レイリの血は甘ったるくて口には合わない。
それでも、甘く芳醇なワインの様な香りに心を引かれる。
「レイリ…」
そっと、頬に触れ、愛しそうに撫でる。
「お前を、失いたくないなんて…」
契約した花嫁はたとえ身体中の血を失っても眠れば自然に回復する。
ただ、痛みが消えるわけではない。
今日は何故かは判らないがレイリは催眠状態になってレイアの幻覚を見、そのまま意識を覚醒させない間に封印を解除したが、意識のある状態でそれを行えば凄まじい激痛が伴う。
身体の傷は癒せても心の傷は癒せない。
シュノは、封印を解除する瞬間を目の当たりにし、レイリを苦しめたくないと思うようになった。
「それでも…俺はシュリに会いたい…。」
シュノもレシュオムもクロシェードも親を人間に殺され、独りぼっち生き延びた孤児だった。
そんな孤児を自分の屋敷につれてきて、居場所を与えたのがシュリとその花嫁だった。
シュノは二人に居場所をもらった。
他の二人も同様に。
だから、自分のせいで塔に封じられたシュリを解放したかった。
そのために、二人の子供を探していた。
混血の子供は人間の様に出産して生まれる訳じゃなく、人間の器に魂の欠片と血を与えて造る。
魂の欠片が2つ、それが1つになった瞬間に身体が構築し直して混血が生まれる。
「レイリ…」
ベットにグッタリと横になるレイリをぎゅっと抱き締める。
「……くそ、予想外だ…。」

こんなに、レイリを好きになるなんて…

用が済めば契約を解除して元の世界に返してやろうと思っていた。
だけど、今は手離したくない。
育ての親を解放したい気持ちと、初めて大切に思えた人を傷付けたくない気持ちにシュノは揺れていた。

幽霊塔の吸血鬼 2




「レイリ、起きろ。」


優しく揺さぶられる感覚と、甘く囁かれる声にレイリは身をよじらせてからゆっくり目を開いた。
「んぅ…。」
ごしごしと目を擦り、目の前で微笑む吸血鬼の姿を確認するとニッコリ笑った。
「おはよ、シュノ。」
「おはよう、レイリ。」
この屋敷での生活が始まって早一週間。
その場の勢いでシュノと契約し、花嫁となったレイリは不安ではあったが不思議と後悔の念は浮かんでこなかった。
シュノは一日中レイリの側にいてくれたし、毎日のように血を求められることもなかった。
「レシュオムが飯作って待ってるぞ。早く起きろ。」
そう言って額にひとつキスを落とす。
こんなに大切に扱われたことの無いレイリは、赤くなりながらどうしていいかわからずに目をそらした。
正直、こういった行為は男女がするものだと思っていたレイリは戸惑いを隠せない。
「シュノ…もぅ、起きるから…。」
レイリはシュノを押し退けると、モゾモゾと布団のなかで着替えを始めた。
その様子を横目で見ながら、シュノは眩しい朝陽が射し込む窓を眺めていた。
「吸血鬼って、話に聞いていたのとは大分違うんだね。」
着替えながら、レイリは手持ちぶさたなシュノに声をかけた。
「十字架もにんにくも朝陽も平気だし。
銀も…。」
「人間が俺らに偏見を持ちすぎなんだよ。」
レイリはひょっこりと顔を出すとシュノは何か思い詰めたように塔の方を眺めていた。
「シュノ…?」
「ん?どうかしたか?」
振り返ったときには、いつものシュノだった。
「あの塔には、何かあるの?
あそこだけ、まだ連れていってくれないよね。」
シュノは窓から見える塔を眺めながら呟いた。
「あぁ…あそこには最強といわれた吸血鬼とその花嫁が居るんだ。」
「でも、シュノはここにはシュノ以外に二組しかいないって…」
レイリが花嫁となった翌日、レイリは屋敷にすむ住人を紹介された。
吸血鬼レシュオムと花婿のリク。
吸血鬼クロシェードと花嫁のミツバ。
この二組と長年花嫁が居なかったシュノの五人でここに住んでいると聞いた。
「そうだ。
あそこに居る吸血鬼とその花嫁はある事情から13年前にあの塔に封じ込められた。」
「封じ込められた?」
シュノはふと、考え込むようにレイリの頬に触れた。
「……レイリ、お前歳はいくつだ?」
「え…?16だけど…。」
「……そうか…」
シュノはそれ以上何も言わなかった。
レイリも、なぜか聞いてはいけない気がして黙っていた。
「いつか、話してやるから。
先ずは飯にしよう。」
「うん…。」
レイリは頭を撫でられ、心地良さそうに顔をゆるませた。



「おはよう、レイリ。
良く寝れたか?」
食堂につくと、銀髪の少年がティーカップを片手に本を読んでいた。
「おはよう、リク。
今日は体調もいいよ。」
レイリはリクの正面に座る。
シュノはいつもの主賓席から頬杖をついてリクと話すレイリを見つめていた。
「おはようございます、レイリさん。」
レシュオムが色とりどりのフルーツサンドをお盆に乗せて持ってきた。
「美味しそう!!」
目の前におかれたサンドイッチに目を輝かせるレイリを、レシュオムとリクは保護者のような目線で見ていた。
「シュノ、ご飯食べないの?」
「俺は基本的に食事はあまりしない。」
「食べればいいのに…」
レイリは手にもったチョコバナナのサンドイッチを眺めた。
「そう言えば、あいつらは?」
シュノが呆れたように溜め息をついた。
「ミツバくん、まだ体調が良くないみたいで…部屋で食べるみたいですよ。」
「そうか。」
それだけ言うとテーブルに伏しながらレイリを眺めていた。
「リク、今日はなにか予定あるの?」
「特にはないな。」
「じゃあ農園の雑草抜くの手伝ってくれる?」
「ああ、かまわない。」
レイリはそんな二人をみて、シュノを横目で見た。
気だるそうに突っ伏しながらレイリを見てたシュノと目が合う。
「っ…」
思わず目をそらすと、今度はにやにやとこちらを見るリクと目があった。
「随分と初々しいんだな。」
「正直、シュノさんがレイリさんみたいな方を選ぶとは思いませんでしたよ。」
なんだか、馬鹿にされているのかと思い頬を膨らませると、逆に微笑まれてしまう。
行き場の無くした怒りは逆に恥ずかしさに変わり、俯く以外にできなくなってしまう。
「まぁ、正直あんたが花嫁と契約するとは思わなかったけどな。
誰か一人に縛られるようなタイプじゃないだろ。」
「…別に、気が変わっただけだ。
レイリは見ていて飽きないからな。」
シュノは薄く微笑んで、レイリの頬に付いたクリームを指で拭った。
ここに来てから、慣れない行為に戸惑いっぱなしのレイリだったが、シュノが与えてくれるこの気持ちは一体何なんだろう。
なぜかは分からないが、暖かな気持ちになる。
そんな気持ちになったのは、初めてだった
「レシュオム、薬を貰えるかい?」
唐突に、澄んだ声と共に食堂の思い扉が開いた。
レイリとは色の濃さが違う金髪が好き放題にあちこちに跳ねている。
今しがた、起きたばかりといった印象だ。
「おはようクロス。
ミツバくん、まだ起き上がれないの?」
レシュオムは用意していたお盆に朝食と薬を乗せて、気だるそうなクロシェードに手渡した。
「…ああ、ちょっと今回は…。」
バツの悪そうな顔でお盆を受け取るクロスをレイリはじっと見つめている。
正直ここに来てからあまり話したことがないクロスと、その花嫁のミツバはあまり交流がなかった。
タイミングが悪かったと言えるが、一定の周期でミツバは体調を崩していることが多く、レイリはその周期にこの屋敷に来たために、まだこの二人と深く話をしたことはなかった。
最も、むこうにその気があまりないのも事実だが。
「…?」
レイリの視線に気がついたクロスは、首をかしげた。
「どうかしたか?」
「いや…ミツバって何かの病気なの?ずっと部屋にこもってるみたいだけど…」
何気なしに言った一言に、クロスを始めその場にいた全員が唖然とした。
そして、シュノが珍しくどうしたらいいか戸惑っていると、クロスがレイリに近づいた。
「君は何も知らないんだね。」
そういって、クロスを見上げるレイリの耳元に顔を近づけた。
「ヒント、満月の夜。」
それだけいうと、クロスは満足気に笑ってお盆をもって食堂をでていった。
「満月の、夜?」
レイリがシュノの方を見ると、シュノあきらかに目線をそらした。
リクとレシュオムの方を見るも、聞いてはいけない事を聞いてしまっているような複雑な表情に、ただ黙ることしかできなかった。
本能的に、聞いてはいけない気がして。


「ミツバ、身体はどうだい?
薬と朝食をもらってきたけど…」
ベットにグッタリと横になる小さな身体は、もぞもぞと布団の中から顔を出した。
「…いる。お腹すいた」
眠そうに目をこすり、体を起こした。
「パジャマくらい羽織ればいいのに。誘っているのかい?」
ミツバは、はっとして自分が何も身に纏っていないことを思い出してタオルケットに潜り込んだ。
「…そんなんじゃないし。」
「そういえば、シュノさんが連れてきた花嫁、なかなか面白そうな子だったよ。」
クロスがベットに腰掛けて、ミツバにサンドイッチの皿を差し出した。
「ああ、あの子。でもあの子って…レイアさんそっくり。」
サンドイッチを食べながら、ミツバはそっと甘えるようにクロスに寄り添い、背中を預けた。
「まだ、気にしてるのかなぁ。」
「それは、私達が気にかけることじゃないよ。」
タオルケットにくるまってクロスを見上げるミツバは首をかしげた。
「それに、君が私以外の男のことを気にかけるのはいい気はしないな。」
「なにそれ…べつに、そんなんじゃない…」
皿をサイドテーブルにおいて、クロスは背後から包み込むようにしてミツバを抱きしめた。
「さて、君はもう一度自分の立場というものを正しく思い出してみようか?」
にっこりと、満面の笑みでミツバの首筋を舐める。
「ひゃ…う……やだ、だめ!」
「だめ、じゃないだろ?こういう時なんていうか教えただろう?」
ミツバは熱を孕んだ瞳でクロスを見上げた。
相変わらず、読めない笑みを浮かべているクロスに、ミツバは観念してそっと頬に手を伸ばした。
「たべて、俺を…」
「いい子だ、ミツバ。」
柔らかなベットがミツバの身体を受け止めて、沈んだ。
うつ伏せのまま、枕に顔をうずめて、小さな声で呟いた。
「痛く、しないでよ…」
「それは君次第かな。でも、痛いのも好きだろう?」
「…う、ん…」
白い背中に舌をそっと這わせて、指でそっと秘部をなぞる。
「いっ…!」
ビクっと身体を震わせるミツバの背後から、クロスが覆いかぶさって耳元を唇で挟む。
ミツバはぎゅっとキツくシーツを握り締めた。
「ふ、あ…はっ…」
「ミツバ…」
耳元で何度も囁かれる度に身体の芯が熱くて、身体が火照って仕方ない。
「や、いじわる…するな…」
「いじわる?何が?」
くすくすと耳元で意地悪く笑われるのすらもミツバの興奮を誘う材料にしかならない。
「腰あげて?」
首元を舌でなぞりながら、背筋に指を滑らせていく。
ゆっくり、ゆっくりと…。
ミツバはおとなしくクロスの言うことに従って腰をあげて突き出す様な姿勢を取ると、ぎゅっと目をつむった。
「いいかい?」
「…だって、嫌だって言っても…するんだろ?」
「…そうだね。」
楽しそうに笑うクロスに、ミツバは惚れたほうが負けだと身を預けることにした。
どうせ、言っても無駄なのだから。
快楽には、勝てない。自分も、この愛しい吸血鬼も。
「いいよ、もう。」
ミツバは耳まで顔を赤くして、枕に顔をうずめた。
クロスはミツバの秘部に強引に自身を埋めていく。
「ひっ、う…」
乾いた場所に無理やり押し込められて、痛みに目を見開く。
「い…たぁ…」
「こうされるの、好きだろう?」
奥まで突き刺されて、そのまま何度も打ちつけられると、ミツバは悲鳴の様に声を上げた。
「ひっ、あ…あァん…いた…」
「ぎゅっと絞めてるよ?本当に痛いだけ?」
「ん…痛くて、きもちい…」
白い背中が律動に合わせて揺れるのをみて、ふといたずらを思いついたクロスはミツバの髪をぐいっと引いた。
「い!…なに、いた…」
「美味しそうだなぁって、思って。」
首筋に思いっきり噛み付けば、クロスの唇が赤く血でそまる。
「ひ…あ…」
ボロボロと痛みに耐えながら涙をこぼすミツバを抱きしめて、
何度も腰を打ち付け、その度にもミツバが悦楽に取りつかれたように甘い声を上げる。
「も、だ…め」
「もう少し、頑張れるだろ?」
「や、あ…無理、頑張れないっ」
甘えるような声で、ミツバはぎゅっとシーツを握り締める。
その小さな手に、クロスはそっと自分の手を重ねて、激しくミツバを揺さぶった。
「あ、ああんっ、ふぁぁぁっ!」
「ミツバ…ミツバっ!」
ビクッと大きくミツバの背が反り返り、一際高い声をあげてミツバが果てた。
そしてクロスも内部の締めつけにより、ミツバの中に精を放つ。
「ふぁ…あ…」
蕩けた表情でクロスを見上げるミツバが愛おしくて、頬にちゅっとキスをひとつ落とす。
「可愛いよ、ミツバ。」
「ん…クロス……」
潤んだ瞳でクロスをじっと見つめるミツバを、ぎゅっと抱きしめて腕の中に収める。
「おなか、いっぱいに…なった?」
枕に顔をうずめながら、小さい声で聞いた。
「そうだね、朝食がわりには満たされたかな?」
「…朝食がわり…」
不満そうな声をあげて、ミツバは枕を抱きしめた。
「あの人、花嫁の意味わかってるのかな。」
クロスの腕に抱きしめられながらベットに横になったミツバは、思い出したように呟く。
「シュノさんの花嫁の?
さぁ、たぶんわかっていないと思うけど。」
「だよな。」
レイリはまだ知らない、シュノはまだ教えていない。
吸血鬼と花嫁の関係をレイリが知るのは、次の満月の日の夜のことだった。


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