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オメガバースぱろ7



「レイリ、レイリ…」
首筋の首輪を噛みながら、シュノはレイリを押さえつける。
シュノより小柄なレイリはすっぽりとシュノの腕に収まってしまう。
「レイリ…可愛い…」
浴衣の帯を解き、白い肌を露にする。
まだ誰にも開かれたことのない身体。
ずっと犯したかった。
「悪い、優しく出来そうも無い」
αの本能が目の前のΩを犯したくて仕方ないと焦燥に駆られる。
レイリがにこっと笑う。
無理をしてるのは目に見えていた。
身体が震え、笑顔が引きつってる。
それでもレイリはシュノを受け入れようと覚悟を決めたのか、逃げるそぶりは見せない。
「レイリ…」
理性が弾け飛んだシュノはレイリの秘部に自身を押し込んだ。
「ひ、う…く」
慣らしてない、ましてや初めて男を受け入れりるそこは固く閉ざされていて、無理矢理押し開いていく為、強烈な痛みがレイリを襲う。
「う、あ…あ…」
大きく目を見開き、白い喉元をさらけ出して体を震わせるレイリ。
「い…た、ひう…」
苦しさと痛みと、体の芯が熱くなる感覚に涙が溢れてくる。
怖くて逃げ出したかった。
いつもと違うシュノが怖かった。
それでも、これから向き合わなければいけないのも事実で、何よりがっちり押さえつけられて逃げることすらかなわない。
「う、ぁ…レイリ…全部、入った」
シュノが苦しそうにレイリの頬をなでて、額にキスをする。
シュノも逆らえないαの本能をおさえつけようと必死なのが伝わった。
腹をこじ開けるような痛みと圧迫感に声も上げられないレイリはシュノにしがみついて唇に触れるキスをした。
「僕は、大丈夫…」
自分の痛みよりシュノが苦しそうにしているのを見ている方が何倍も辛かった。
そう思えば、不思議と恐怖も薄れて逆に愛しさが込み上げて溢れ出る。
「無理、しないで…全部、僕にちょうだい」
それが、Ωとして生まれた自分の役目だから。
「レイリッ…」
レイリの脚を抱えてより深く繋がると、ギリギリまで引き抜いて一気に突き刺す。
ズプッ、とゆっくり緩急をつけてなるべくレイリの負担にならないように出し入れする。
「…んああ…ふぁっ…っん、ふ…」
息も絶え絶えなレイリはギュッと唇を噛み締め、畳に爪を立てる。
濡れていないレイリの中は、動く度に媚肉が貼り付いて双方に痛みをもたらしていたが、無理な挿入により切れた秘部から滴る血が少しずつローションの代わりを果たし、ようやく濡れたレイリの秘部をシュノが激しく突き上げる。
シュノの性器は熱くレイリの媚肉を押し広げ、奥深く迄暴かれる。
このままとけてしまいそうだとレイリは思った。
一度体を繋げてしまえばもう止まらない。
「はぁ…んっ、ふぅ、ぁッ、ん!!」
シュノの首に腕を回し、レイリはキスを強請るようにシュノを見上げた。
「キス…して…」
潤んだ瞳で上目使いに見上げられれば、シュノもこらえることが出来ない。
舌を絡め、息つく暇も無い程に激しく濃厚に咥内を犯す。
上と下、両方の口を同時に犯されて、レイリは口の端から唾液を零しながらシュノの名を舌足らずな声で何度も呼んだ。
ぬちゅぬちゅと、出し入れされる水音が部屋に響き、聴覚までを犯される。
「んむッ…はぁん…んっ…んん」
「レイリ…っ…は、レイリっ!!」
シュノも全く余裕が無く、レイリを抱き締めて貪る様にキスをしながら乱雑に揺さぶる。
「はぁっ、んッ、ん…う…あっ、あああ!」
箱入り育ちのレイリは、αとのセックスがこんなに激しい行為だと知る由もなく、頭を真っ白にさせながら為すがままに揺さぶられていた。
「くっ…レイリの中…すげぇ熱い…」
「ふぁあ、ん…や、だ…そんな、言わないで…」
急に恥ずかしくなったのか、レイリは両腕で顔を覆った。
「顔、見たい…
レイリの可愛い顔見せて、声を聞かせて」
静かな部屋にレイリの押し殺した吐息が漏れ、濡れた肉と肉がぶつかる水音が部屋中に響く。
「ひぁああ!!あっ、あ…やぁぁ…」
レイリは足をピンと伸ばし、指先が突っ張る。
シュノはレイリを犯す獣の様に深く体を繋げてずちゅずちゅとひたすら腰を動かしていた。
「っ、レイ…もう…イく…」
「しゅの、ぼく…も、おかしく…なっちゃう…」
快感に負け、トロトロに蕩けた表情でレイリはこれから自分がどうなるのか理解出来ずに泣き叫ぶ。
「やぁっ、こわい、おかし…ふぁああっ!!」
「レイリ、悪い…もう、無理だ…」
シュノは一際激しく腰を打ち付ける。
首輪を噛みながら、レイリの身体に自らを刻みつける。
レイリはびゅるっと自分の腹を精液で濡らす。
「レイリ、頑張れ」
シュノが、妖艶に笑った。
それをどこか他人事みたいに、ああシュノはやっぱりカッコイイな…なんて考えながら、レイリはそっとシュノに抱きついた。
体の奥底で熱い何かが弾ける。
それは少ししずつ、レイリの腹の中にたまっていく熱くて愛しいシュノの愛液。
「ふぁっ…しゅの、熱い…おなか、溶けちゃう…」
「っく、まだ、まだだ
レイリ、ごめんな、うぁっ…ん、とまんねぇ…」
αのヒート時の射精時間は10分から20分程度、通常の精液より何倍も濃いのがレイリの腹にどんどん溜まっていき、下腹部を圧迫する。
「う、あ…しゅの、おなか、くるしい…
しゅの、しゅの助けて、しゅのっ」
「悪い、ヒート時は射精が終わるまで抜けなくなるんだ」
「ひっ、うぁあ、うごいちゃ、やぁ…」
シュノが性器を引き抜こうとすると、なにか硬く膨れたものが根元で引っ掛かる感覚に、体が跳ねる。
「や…こんな、一杯出しだら、あかちゃん出来ちゃう…」
泣きながら首を左右に振って嫌がるレイリの身体を反転させて、バックの体勢になると、レイリを逃がさない様に深く押し込んで、身体をしっかり密着させる。
「あ、あう…」
ドクドクと流し込まれる熱いシュノの精液がだんだん心地よくなってきて、畳にしがみつきながら腰を高く上げて結合部をギュッと締め付けた。
「今締まったな、この体勢がイイのか?」
「ん、さっきより、ちょっと楽…」
シュノはレイリをギュッと抱き締めて、耳元から首筋に顔を埋める。
「レイリ、好きだ
孕んでも構わねぇから全部受け止めてくれ…」
甘い吐息に混じり、掠れた声で囁かれて、心がキュンとした瞬間、もうダメだった。
レイリはさらにキツク秘部を締め付け、ついでに堪えきれずに身体をヒクつかせてイッた。
結局シュノの射精が終わるまでにレイリは4回もイッてしまった。
ヒート後の脱力感に、グッタリした身体を起こし、俯せになったまま腰だけをシュノに突き出す体勢のまま気を失っているレイリの中からようやく萎えた性器をズルリと引き抜く。
愛液に濡れて妖しく湿ったそこから、コポリと中に出した精液が溢れて太腿をイヤらしく濡らしていく。
「レイリ」
軽く揺さぶってみると、レイリは虚ろな瞳でシュノを見上げた。
「あ、う…」
身体を起こそうとしたレイリは、秘部からトロトロと溢れてくる精液に顔を赤くした。
「中の掻き出すから掴まれ」
シュノは危なげもなくレイリを抱き上げ、浴室の扉を開けた。
「立ってられるか?」
「う、ん…大丈夫」
レイリを壁際に立たせて、指を押し込んで中で出したものを掻き出していく。
「ひっ…う、ん、あっ、ふぁ」
ギュッと壁に爪を立てながら込み上げる快楽に耐えるように目を瞑る。
太腿を伝い落ちるそれは足元に小さな体を水溜りを作り、これが今迄自分の胎内に収まっていたのかと思うと、少しの喪失感を感じる。
「こんな、一杯…」
「お前が発情期じゃなくて良かった。
発情期とヒートが重なれば避妊なんて意味無いからな」
「…そうだね、僕はまだ…妊娠したくない…」
ふらふらした足取りでシュノに抱きつき、甘えるように胸に顔を埋める。
そんなレイリが愛しくて、頭を優しくなでる。
「俺も、お前との子供なら居てもいいけど今はいらねぇ。
お前を独り占め出来なくなるだろ」
きつく抱き締めて、そのまま自然にキスを交わす。
汚れた身体を綺麗に洗って、二人で露天風呂に入って身体を休めると汗を引かせるために冷たいアイスを売店で購入した。
「ふぁー、甘くて美味しい。」
「よく食うな、これもいるか?」
「ひとくち頂戴」
レイリは自分の持っていたマンゴー味をシュノに差し出す。
「交換」
にこっと差し出すスプーンを避けて、そのままレイリを抱き寄せて口付けする。
「んむ、ふ…ぁ」
咥内に残る甘いマンゴー味のキスをたっぷり堪能して唇を離すと、とろんと蕩けた表情で見上げるレイリは、名残惜しいのかキスをねだるように瞳を閉じた。
シュノは白桃味のアイスを口に含み、唇を重ねた。
絡まる舌の間でアイスが溶けていく。
「あま、い…」
「レイリ、あんまりそうゆう顔するな
我慢できなくなる」
まだどこか頭がふわふわしているレイリは、意味がわからずに首をかしげた。
「シュノ、そろそろ着替えなくて良いの?」
貪るようにアイスを食べ合って気がつかなかったが、辺りはもう大分暗くなっていた。
「そうだな、着付けてやるからまずそれ脱げ」
シュノがキャリーから取り出したのは海色の睡蓮と金魚の浴衣。
帯もレイリの甘い蜂蜜色の髪に合わせた黄色。
宿の浴衣を恥ずかしそうにはだけさせるレイリに手早く浴衣を着付けていく。
少し伸びた髪をサイドで結えば、幼い顔付きによく映えた。
「浴衣なんて子供の頃以来だ」
シュノの目の前で嬉しそうにレイリがくるっと一回りして見せる。
「良く似合ってる」
シュノはレイリの頭を撫でながら自分も着替える。
濃淡の違う青みの強いグラデーションに蝶や花をあしらった浴衣に紺色の羽織を肩に引っ掛ける。
紫銀色の長い髪が妖艶な雰囲気を増していて、いつもと違うシュノにレイリは目線を泳がせた。
「シュノ、何だかすごい色っぽいね」
「レイリも妙にえろいな、祭だからって浮かれて俺以外見てるなよ」
「見ないよ!
シュノ以上のαなんてこの世に存在しないし、僕には必要ないもの」
そういって、首輪にそっと触れる。
首もとには先程シュノが噛み付こうとした痕がくっきり残っている。
首輪がなければ番が成立するところだった。
番は一生もの、一時期の感情に流されて簡単に決めるものではない。
ましてや選択権の無いΩには余計に早まるべきではない。
噛んでも良かった。
シュノは今まで出会ったどのΩよりもレイリに惹かれている。
そしてどうやらレイリも同じだと踏んでいる。
それでも、レイリを愛しているからこそ後悔はして欲しくないし、自分で良かったと思ってほしかった。
「そうだな、俺もお前以外興味ねぇ」
抱き締める小さなからだのぬくもりがこんなに愛しいと知ったのはレイリのせいだ。
この腕の中の存在にどれ程心揺さぶられているか。
「愛してる、レイリ」
「僕も愛してる、シュノ」
出会った頃よりたくさん笑うようになったレイリを大切に抱き寄せた。


ハグの日





「ねぇ、フィオル。
いい事教えてあげようか?」
トラヴィスが笑いながら近付いて来て、何やら楽しげに耳打ちして来た。
「随分と御機嫌だね、今日はどうしたのかな」
「今日はとっても素敵な日なんだよ?」
そう言って彼女は今日が何の日か教えてくれた。
「きっと、ビックリするから」
そう言って嵐のように去って行った。
さて、どうしたものかと考えてからトラヴィスと別れた。


図書館でいつも本の虫と化してる可愛い恋人の姿を見つけて心躍る。
「見つけた、探したよ」
背後から声をかければ、振り向いてほほ笑みかけてくれる。
何の事は無い日常風景だけど今の私には何にも変え難い大切な瞬間。
「どうしたの?」
読書用の眼鏡を外して見上げる頬をそっと撫でて、頬にキスをする。
「ん、ちょっと、ほんとどうしたの
今日は随分と甘えて来るな」
にこりと笑って首を傾げる。
「ロゼ、今日が何の日か知ってるかい?」
「今日?特に何も無かったようなきがするけど…」
首を傾げるロゼットに、悪戯心がほんの少し湧いて悩む姿を眺めていた。
「……降参。」
やがて思いつかなかったのか、ロゼットは両手を上げて降参ポーズをした。
「今日はね、ハグの日らしいんだ」
そう言って小さな体を抱き締める。
すっぽりと腕の中に収まるロゼットの身体。
髪をなでて柔らかな頬に触れると顔を赤くしながら、どこか視点を泳がせている。
「フィオル…あんまり、見るなよ」
「どうして?こんなに可愛いのに見ないのは勿体無いだろう?」
「お前に見られると…その、緊張する…」
ロゼットは自分が平民だからと、私に遠慮してる所がある。
普段は平等を説く癖に、こんな時だけ。
「でも私はずっと見ていたい。
君は見ていて飽きないし、新しい発見を私にくれる」
「でも…」
うるさい口は塞いでしまおうか。
ロゼットの下唇を指の腹でなぞり、くいっと顎を上に向かせる。
頬を赤くし、潤んだ瞳が何かを期待するようにギュッと目を瞑った。
そっと唇を這わせ、ロゼットの身体を離さないように抱き締めて舌を絡める。
びくっと、何度もしても慣れない初い反応も可愛い。
「ん、ふ…ふぁ…」
ロゼットが弱々しく吐息を漏らしながら服を掴んでくる。
苦しくなってきたのかと、一度唇を離せば、名残惜しそうに手を伸ばされた。
「もっと…したい」
埋まらない身長差を埋めるように背伸びをするロゼットが愛しかった。
「すき、フィオル…」
「私も好きだよ」
そっとキスを交わして、ぎゅっと抱き返される。
「離れるのが惜しいな」
「ん…」
それでも、ロゼットはここが図書館だというのが気になるらしくて、部屋に戻ると言い出した。
今日はまだ終わってないから、部屋に戻ってたっぷり抱きしめようと、ロゼットの手を取った。


オメガバースぱろ6



その日はシュノと朝早くから現場に向かうために車で移動していた。
運転はゼクスがして、シュノは助手席でスケジュールを確認している。
レイリは後ろからそんな二人を眺めながら、眠そうに目を擦る。
「レイリ、眠いなら寝てて良いぞ」
「現地迄はあと一時間くらいかかりますからね」
「でも、こうゆうの初めてなんだ
誰かと旅行するの、だから何だか楽しくて寝るのはもったいないよ」
楽しそうなレイリを見て、シュノはレイリに微笑みかけた。
ずっと、怖くて外に出ることも出来なかったレイリが、目を輝かせながら移り変わる窓の外の景色を眺めている。
休憩を挟んで、目的地に到着すると待っていたスタッフに案内されて先に宿に通された。
高そうな和室に露天風呂と小さな中庭がついている。
荷物を置いたらすぐに撮影を開始するらしい。
「レイリ、おいで」
シュノに呼ばれてレイリが駆け寄ると、ぎゅっと抱き締められた。
「シュノ…どうしたの?」
「撮影現場は一般のビーチだからこの時期は沢山海に来てる奴がいるんだ。
だから、お前が心配で…」
大半はβだろう。
だが、βも発情期ならΩを孕ませられない訳では無い。
それに、海に万が一αが居れば、レイリは襲われて番にされるかもしれない。
「シュノ…アレ、付けてよ。
覚悟は、出来たから」
にっこりと笑いかけて、そっと頬に手を当てる。
「本当は、噛んでもいいんだよ
だけどシュノがお互いを良く知ってからって言ってくれるなら、僕は君だけのΩになる覚悟をしていこうと思う。」
まだ会って間もないけど、シュノがレイリに対して誠実なのは理解出来た。
レイリの気持ちを第一に考えて行動していることも。
そこまでしてくれるなら、レイリはシュノの物になる為の覚悟をしようと決めた。
シュノだけのΩになる為に。
「わかった」
シュノはレイリの頬に何度もキスをすると、キャリーケースから赤い革の首輪を取り出した。
シュノが友人に頼んでレイリに似合う首輪を特別に誂えてもらった物で、この世でたった一つしかない特別な首輪。
首輪にはきちんとロックがついていて、特殊な鍵でないと開閉できない仕組みになってる。
Ωにとって首輪は己の身を守るための唯一の手段。
望まない番にならないための。
レイリはシュノを見上げた。
確り真っ直ぐ見上げて、ニコッと笑った。
この笑顔を守りたい。シュノはそう決意してレイリに首輪を嵌めた。
カチッとロックがかかり、レイリの首にピッタリ隙間なく嵌った。
これでレイリはαに襲われても、最悪番になる事だけは防げる。
「どう…かな?」
「可愛い、よく似合ってる。
だけど気をつけろよ、これで防げるのは番の契約だけだからな
孕まされないように周りに気をつけろ」
ギュッと、きつく抱きしめられて頭を擦り寄せて甘えるシュノが愛しくて、可愛くて、レイリはシュノを抱き返しながら頷いた。
「シュノ、そろそろ時間ですよ」
隣の部屋に止まることになっていたゼクスがシュノ呼びに来た。
「鍵、シュノが持ってて
君以外にこれを外す人は居ないから」
レイリはシュノにちいさなカギを握らせてから名残惜しそうに離れた。
そして部屋のドアを開けてゼクスを招き入れた。
「これから海に行くけど、レイリは遊んでて良いからな
だけどあまり俺から離れずに目の届く範囲に居ろよ」
「うん、お仕事の邪魔にならない様にしてるね」
水着に着替えて、ラッシュガードを着込むとプールバックに着替えとスマホ、財布に浮き輪を詰め込んだ。
「シュノ、今日の予定です」
ゼクスが打ち合わせから戻り、撮影のスケジュールを伝えていく。
「肌を焼かないように日焼け止めはしっかり塗ってくださいね
レイリ、貴方もですよ」
ゼクスがシュノに日焼け止めを渡すとシュノはめんどくさそうに舌打ちする。
「レイリ、向こうについたら塗ってくれるか?
背中は届かねぇんだ」
「うん、いいよ」
シュノはソワソワしたレイリをぎゅっと抱き締めて頭を撫でる。
「撮影終わったら遊んでやるからな」
「うん!」
レイリを連れてビーチへ向かう。
にこやかにスタッフに挨拶するシュノは完全に仕事モードだ。
水着に着替え終わったシュノがレイリに日焼け止めを塗るように背中を向ける。
冷たい日焼け止めをシュノの背中に塗り込める。
手のひらを介して伝わる鍛えられた肉体に心が乱れて落ち着かない。
レイリは我慢できずにシュノの背中にぎゅっと抱きついた。
「寂しいのか?」
衝動的に抱き付いたのを寂しいと言われ、はっとして我に返るとすぐに離れて顔を赤くした。
「あの…シュノが…カッコよくて、その…」
次第に自分が何を言っているのか判らなくなってレイリは俯いたままフードを深くかぶってしまった。
撮影場所は他の人が入らないように仕切られており、一般のビーチへ向かったレイリは何かあったらゼクスに連絡する様に言い、ゼクスにもレイリを見張るように告げる。
レイリは浮き輪を片手に海に足を入れた。
避暑地に海辺に来たことはあったが、海に足をつけるなど初めてだった。
ひんやりとした海水が足元の砂を浚っていく。
「気持ちいい…」
心地よい感覚に足を浸して歩いていると、浜辺で撮影してるシュノが目に入った。
シュノは水着で浜辺に立つだけで絵になるなぁと考えながら嬉しくなってしまう。
あの人が、自分の恋人で番になってくれる人なんだと。
レイリは浮き輪を水につけて、穴の部分に身体を寝かせるようにして両手を伸ばした。
天気は晴天、綺麗な青空と夏の日差し全てがレイリに取って何物にも変えがたい時間だった。
世界はこんなに色々なもので溢れていたのに、Ωだと言うだけでそれらすべてを無かったことにするのは愚かな行為だったと改めて気がついた。
「レイリ!もう少しで休憩になりますから余り離れないでくださいね!」
ゼクスが声をかけてくれて、気が付けば大分陸から離れていたので慌てて浜辺まで戻ってくる。
そこに撮影を終えたシュノがパーカーを羽織ってフードまでかぶってレイリを迎えに来た。
「レイリ、海はどうだった?」
ぎゅっと抱き締めて、首筋にキスを落としながらシュノが聞いてきた。
レイリからは磯の匂いがした。
「楽しかったよ、ぷかぷかしてて気持ちよかった
それに、お仕事中のシュノも見てたよ、凄くカッコ良かった」
にこっと屈託なく笑うレイリに満足したのか、シュノはレイリの手を引いた。
「昼飯食べに行くぞ」
「あ…でも…」
レイリはゼクスを振り返った。
もし他のスタッフも一緒なら自分のような一般市民が居ては迷惑がかかると思ったからだ。
何となくレイリの言いたいことを理解したのか、ゼクスは大丈夫ですよとレイリを宥めた。
「シュノはいつも一人で食事するんで、スタッフも周知の上です。」
「お前はいつも勝手に付いてくるけどな」
「当たり前です、貴方はいつも食べる詐欺ですからね。
見張ってないとコーヒーだけしか飲まないでしょ」
「シュノ…それは…」
さすがにレイリも困ったようにシュノを見上げた。
「ちゃんと食うからそんな顔するな」
レイリの頭を乱雑に撫でて、シュノとゼクスは近くの海の家で昼食をとることにさした。
午後も海で撮影した後、夜には近くで開催される祭りでの撮影があり、ちょっとしたイベントに参加して今日の日程は終わりだった。
「お祭りあるの?」
「この時期は観光客向けに温泉街で一斉にお祭りをやるんですよね」
「そうなんだ」
かき氷を食べながらレイリが祭で何をしようかとワクワクしてると、気だるそうに頬杖をついたシュノがレイリを見上げた。
「浴衣着て行けよ」
「え、浴衣なんて持ってきてな…」
「無いわけ無いでしょう、シュノが持ってきてますよ」
「えっ、え?」
シュノと二人で買い物に行ったとき、水着やら私服やらは新調したのだが浴衣は買った覚えはない。
とはいえ、着せ替え人形の様にあれこれ試着させられたので後半の方はもう何を着せられたか覚えていない。
「ちゃんとお前に似合うやつにしたから安心しろよ」
シュノが柔らかく微笑むと、レイリもシュノが喜んでくれるならそれもいいかと黙って頷いた。
「シュノ、そろそろ時間ですよ」
撮影再開の時間になると、シュノは人が変わったように爽やかな笑みでスタッフやカメラマンに声をかけている。
「シュノっていつもあんな感じなの?」
「そうですね、表面上の愛想は良いですよ。
スタッフや共演者にも好印象はもたれやすいです」
「そう…なんだ…」
何だか胸のあたりがきゅっと絞まる。
苦しくて、息が詰まる。
「ゼクス、僕ここで撮影見ててもいい?
邪魔にならないようにするから」
「構わないですよ、この椅子に座ってなさい」
レイリに椅子を勧めて、それにレイリがちょこんと座ると、こちらに気がついたシュノが笑いかけてきて身体が熱くなる気がした。
思えば一目見た時からシュノに惹かれていた。
シュノも一目惚れだと言っていたのを思い出す。
「運命の…番…」
その言葉にレイリは嬉しそうに頬を染めた。
「はい、お疲れ様でした。
じゃああとは夜になりますので時間までゆっくりしてください」
「お疲れ様でした」
シュノがスタッフに挨拶すると真っ直ぐレイリに駆け寄って、ぎゅっと抱き締める。
「シュノ?」
「周りの奴らがお前のことチラチラ見てた
俺から絶対離れるなよ」
「君を、見てるんだと思うけど…
大丈夫、離れないよ」
にこっと笑うとレイリはシュノの手をぎゅっと握る。
ふたりは一旦宿に戻り、レイリは部屋についていた露天風呂に入浴中だ。
ゼクスは隣の部屋で時間まで眠ってくるといわれ、シュノは広い旅館の部屋に1人手持ち無沙汰だった。
「シュノー」
不意に浴室から楽しそうなレイリの声がした。
「どうした?」
「ねぇ、シュノも一緒にはいろー!
すごい気持ちいいよ」
シュノは少し躊躇ってドアを開けた。
レイリは湯船に浸かりながら浴槽の淵にもたれ掛かってこちらを見上げていた
「シュノ」
しっとりと濡れた髪からこぼれ落ちた雫がほんのり赤く色付いた肌を滑り落ちる。
髪を下ろしたレイリはいつもより余計に幼く見える。
「ねぇシュノ、こっち…」
「レイリ…判ってんのかお前」
レイリは首をかしげてシュノを見上げる。
シュノはαでただでさえΩであるレイリに惹かれやすいのに、密室に裸で2人きりなんて、生殺しもいい所だ。
レイリの気持ちが追いつくまで手を出さないと決めているシュノはちりつく本能と戦っていた。
「手を出さないと保証出来ないから上がったら教えろ」
そこまで言われたレイリは顔を赤くしてシュノに背を向けた。
肌に張り付く髪の隙間から覗く赤い首輪が目に入る。
白く細い項に嵌められた赤い首輪。
シュノの奥底からじわじわと込み上がる黒い感情。
初めて会った時に感じた、レイリを滅茶苦茶に犯したい衝動。
そんな衝動を理性で押さえつける。
レイリを絶対に怖がらせたくない、傷付けたくない。
その一心でシュノは深く深呼吸して熱を吐き出すためにトイレに篭った。


暫くして、宿の浴衣にバスタオルを肩にかけたレイリが浴室から出てきた。
「シュノ、次いいよ」
ホカホカとしたレイリの身体を抱き締めて、首筋の首輪に唇を寄せる。
びくっ、とレイリの身体が震える。
「いい匂いだな…すごく…」
「あ…ん、や…くんくんしないで…」
「だってお前、すげぇいい匂い…」
レイリの首周りを執拗に嗅ぎ回るシュノに少し恐怖を感じつつ、そっと押し返した。
「シュノ…怖い…」
不安そうにシュノを見るレイリに我に返りレイリから離れた。
「悪い、なんか俺変だ…俺から離れろ」
「シュノ…」
戸惑うレイリには判らないだろう。
「俺、今…ヒートだ。」
「えっ…」
ヒート…名前だけは聞いたことがあるα特有の発情期で突発的にくるが、引くのも早い。
「あの、僕…いいよ?」
レイリがシュノの服を引いた瞬間、鋭い視線に身動きが取れなかった。
気が付いたら畳に押し倒されていた。
フー、フーと荒い息でレイリの首輪に噛み付くシュノに、初めて恐ろしいと思った。
「あ…あっ…」
がくがくと身体が震えるレイリに、シュノは必死に首輪を噛んでいる。
Ωの匂いがシュノのヒートを加速させていた。
元々理性で抑えるのが難しいヒート。
シュノの理性とは裏腹にαの本能がΩと番になろうと首筋に噛みたい衝動に逆らえない。
レイリは恐怖に声も出せず震えるだけ。
箱入りで育って、Ωと認めずに隠して生きていたレイリに圧倒的に足りない知識は、Ωを目の前にしたヒート状態のαの反応で、今それを身を持って体験している。
「や、だ…いや…こんな…」
普段紳士的なシュノの変貌に驚きを隠せない。
受け入れると覚悟を決めたはずなのに、恐怖を感じている自分が情けなくてレイリは涙を流した。
「レイリ、早く…俺から…逃げろ」
「や、いや…シュノが苦しいのに、置いていくなんて…」
そう、頭では思っていても、身体は震える。
「いい、から…シュノの…好きに…していいから」
レイリがぎゅっとシュノに抱きつく。
その瞬間に、押さえ付けていた理性は、脆く崩れ去ってしまった。

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