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オメガバースぱろ5


連絡先を交換してから二人は頻繁に会うようになった。
専らレイリがシュノの自宅へ足を運び、映画のDVDを見たり、一緒にゲームをしたりただ二人で一緒に居るだけで互いに幸せを感じていた。
「レイリ、海に行かないか?」
レイリはキッチンでフレンチトーストをひっくり返しながら振り返った。
「海?何で突然?」
「来週海で撮影があるんだよ
近場に温泉宿もあって気分転換にはいいだろ
いつも会うときは俺の家ばっかりだし、たまには良いかと思って」
シュノと旅行なんて、この先いつ行けるか判らない。
仕事柄休みも殆ど無いようなシュノと、仕事のついでとはいえ海や温泉を一緒に楽しめるのは魅力的な誘いだった。
「うん…そうだね、考えとく」
「煮えきらないな、予定でもあるのか?」
予定などは無かった。
ただ旅行となれば色々物要りで、実家からある程度自由にできる金額は貰っているものの、レイリとしてはいつ見放されるか判らない立場上貯金しておきたいので、中々直ぐには答えを出せずにいたがそれをシュノに言うのは気恥ずかしかった。
アルバイトでもすればいいのだろうが、発情期を抱えたΩであるレイリは休みがちになるのは目に見えているため、中々仕事にもありつけない。
ただ、一番の理由はどれも違った。
「僕にも色々あるんだよ」
「まぁ、無理にとは言わないが俺はお前と一緒に行きたい」
ぎゅっと背後から抱き締められ、シュノの腕の中に閉じ込められる。
「…でも…」
「何だよ、何が心配なんだ?
誰かに会うのが嫌なら部屋に居ても良いんだぞ、部屋にも露天風呂がついてるらしいし」
「うわ、高そうな部屋…
流石人気モデルは違うね」
笑いたいのに笑えない、シュノとの格差を見せつけられてるみたいで。
「心配しなくても宿代は向こうもちだし、まぁ何か必要なもんが有るなら明日辺りにでも買いに行くか?
お前の服もその時に見繕ってやる」
「シュノに買って貰ってばかりはやだよ」
シュノは会う度にレイリに何かを買い与えたがった。
「俺がしたいからしてるだけだ
お前が側に居てくれるだけで俺の心はこんなに穏やかになるんだ
だから、少しでも長く一緒にいたいし望む事は何でもしてやりたい」
「シュノ…」
レイリは顔を赤くして下を向きながらモゴモゴと僕だって…と消えそうな声で呟いた。
「それにな、好きな奴に服を贈るのは脱がせたいって意味もあるんだぜ」
「っ、それ…」
「お前にはまだ早いがな
折角可愛い顔してんだから可愛い服着てにこにこ笑ってればいいんだ
そうすれば誰もお前をΩだと咎めはしない
そんなこと、俺がさせない」
優しく抱き締める力を込めて、そっと頭を擦り寄せる。
「俺が守ってやる、お前を否定する総てから」
「シュノは…僕を買い被りすぎだよ
僕はそんなに無垢な存在じゃないよ」
レイリは振りかえってシュノを突き飛ばすと、よろけたシュノを組み敷いた。
腰の上に馬乗りになると胸ぐらを掴んで噛みつくようにキスをした。
シュノはレイリの好きなようにさせていたが、暫くしてレイリが涙を零しながら胸元に踞ったので、背中を撫でてやる。
「っく…ふ…」
声を殺しながら、震えながら、レイリはシュノにはすがり付いて泣いた。
惨めでしかたがなかった。
シュノが与えてくれる物全てに埋めようのない差を感じてしまう自分が。
「なぁ、レイリ。
首輪、着けるか?」
首輪と言われてレイリがビクッと反応する。
「シュノ…」
「お前が周りにΩって知られたくないのは知ってる
だけどお前がΩであることに不安を感じるなら、首輪を着けてやる」
番の契約はαがΩの首を噛んで成立する。
それにΩの意思は必要ない。
だから番の居ないΩは首輪をするのが一般的だ。
「俺はお前の気持ちは判らない
何に不安になるのか、何に劣等感を抱くのか
だけど、側に居てやることはできる
俺とお前は違う人間だ
αの振りをしてもお前はΩなんだ」
シュノの言葉が胸に刺さる。
痛みがまるで根を張るようにシュノの言葉が重い。
「だから、俺がお前を守るから
全部捨てて俺の物になれ」
「シュノっ…僕は…」
「無理に話さなくていい、ほら鼻かんで目冷やせ」
「お願い、聞いて…
シュノには僕の全部を知って貰いたいから…」
レイリのぐちゃぐちゃな顔をタオルで拭ってやると、レイリはシュノに抱きついて胸に顔を埋めた。
顔は見せたくないらしい。
「僕のお祖父様はとても厳しい方で、特にΩは下劣な忌むべき性だと教えられた。
僕らがαだと判ったときも、Ωとだけは番になるなとキツく言われた。
αはα同士で結ばれるのが自然の摂理、Ωなどαに寄生する虫だ、決して契りを交わすなと」
「そうか、辛かったな…」
ぎゅっと抱き締めればレイリが震えてるのが判る。
「ん…そうだね…辛かった…かな
僕は両親も兄もお祖父様も大好きだったし、皆もΩと判るまでは僕をとっても可愛がってくれた」
しかしレイリはΩだった。
そのあとの事等簡単に理解できた。
「後は…判るよね
僕は親族から害虫のように扱われた、両親は僕みたいなΩを産んだせいで一族全員から哀われまれた
バッシングを受けなかったのはレイアがいたから
レイアは本当に百年に一度の天才って言われるほど何でもできた
努力はしてるんだけどそれを表に出さないから余計ね…
皆が言うんだ、双子の弟がΩだとはレイアが可哀想だって」
レイアを憎んだことは確かにない。
ただ、レイアがレイリを邪魔に思ってるかどうかは別だった。
いつも心の底ではレイアが自分を疎んでいるのではないかと心配していた
「レイアはね、僕の事何だかんだで心配してくれてるんだってレイアの番が教えてくれた
それに僕はレイアの事、嫌いだったことなんて一度もない
レイアは僕の自慢の兄様だから」
「そうか、でも兄貴はΩを番にしたんだろ?」
「うん、シュリさんは僕の事本当の弟みたいに可愛がって大切にしてくれた
レイアの事もとても深く愛し合ってて、羨ましかったな
僕もシュリさんみたいにαと番になって、幸せになりたいって初めて思った
そして、その相手が…シュリさんだったら良かったのにって…」
ぎゅっとレイリがシュノの服を握る。
「僕は、最低だ
あの時、ほんの一瞬でもΩだったのが僕じゃなくレイアだったら、僕はシュリさんと番になれたかもしれないのにって…
だから、だから僕は君に愛してもらえるような無垢で可愛らしい存在じゃないんだ…
僕は、僕は下劣な忌むべきΩ…
αに寄生しないと生きていけない害虫なんだ…」
「話は判った、なぁ…俺はシュリって奴の代わりにはなれないがお前を愛してやることはできる
幸せになりたいなら俺が幸せにしてやる
俺はお前を目一杯甘やかしたい
だからもうΩだからって悩まなくていい
お前を受け入れずに蔑む家なら捨ててしまえ
俺は世界がお前の敵に回ってもお前をずっと愛して守って幸せにしてやる自信がある」
「ほんと、君は不思議だね
君といると今まで悩んでたことも大丈夫って思える」
レイリは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。
シュノはそれでも笑ってキスをしてくれた。
「シュノ、僕も海に行きたい
シュノのお仕事してるとこ見たい、服も水着もシュノに全部選んで欲しい」
「ああ、任せとけ
俺はお前のためにここに居るんだから」
愛しくて、愛しくて堪らない。
腕の中に閉じ込めた存在にこんなにも心を奪われている。
「ねぇ、僕に首輪をして…
僕をシュノだけのものにして…」
「ああ、お前に似合う首輪を選んでやるから」
レイリが漸く幸せそうに笑った
それを見ているだけでシュノも暖かい気持ちになった。
こんな気持ちは初めてだ。
「少しは落ち着いたか?」
レイリをあやすように抱き締めていたシュノは、腕の中に閉じ込めた愛しい片割れに額を合わせた。
「うん、ごめん
卑屈になるのはもうやめるから
僕を愛してくれた君に失礼だから」
照れたような笑みでシュノの唇に触れるだけのキスをする
「お昼、冷めちゃったね…」
すっかり覚めきったフレンチトーストを見て、レイリはシュノから離れた
「レイリ」
シュノはレイリの腕を掴んで抱き寄せると、舌を絡めながら何度もキスした
「ん、ふぁ…」
そのままシュノはレイリの体を抱き締めた。
「ちゃんと、言ってなかったな」
よしよしと頭を撫でられて、キョトンとするレイリを見てシュノは耳許で掠れた声で囁いた。
「好きだ、愛してる
俺の恋人になってくれ」
レイリは驚いた顔でシュノを見上げ、ボロボロと涙をこぼした。
そうして、目を赤く腫らしながら、何度も頷いた。
「僕で…いいならっ…」
「ばか、何度も言わせるなよ
お前じゃなきゃダメなんだよ」
「……うんっ…」
レイリが泣き止むまで頭を撫でながら抱き締めた。
「ほんと、泣き虫だな」
シュノが笑うと、レイリも嬉しくなってきた。
「シュノの前だから、シュノの前ではいいこやめる」
「そうだな、俺はいいこのお前が欲しいんじゃない、ありのままのお前が欲しいんだ」
「……シュノ、かっこよすぎ…」
レイリは恥ずかしくなったのか、またシュノの胸に顔を埋めた。
「当たり前だ、俺はお前の恋人だからな」
「ふふ、そうだね
僕の自慢がひとつ増えちゃった」
腕の中でレイリは今までで一番の笑顔を見せた。

騎兵隊年表(簡易版)

レイリ、16歳で隊長(何年か在籍後)
ノエル副隊長(教会所属の騎兵隊預かり)
何回目かの遠征の時シュノチラ見


シュノ、17歳で入隊
一年所属でその間にゼクス(14歳)・レシュオム(12歳)入隊
後者はアカデミー預かりの候補生


レイリ、シュノが18歳で王都付近で不穏な動き
騎兵隊に品卸をしてる商隊専属薬師の弟子、ヒスイ(18歳)と出逢う
―――――――――――――――――
1.王都周辺で見慣れない魔物(ランク上)の報告が上がり始める
2.カレワラから出てこないはずの魔女があちこちで目撃情報が上がる
3.王都周辺の魔物の活動が活発化
―――――――――――――――――
3に対しては騎士団で対応
1.2に対して騎兵隊で対応

暫くしていたら王都で魔物や魔女が暴走、大規模魔物掃討戦
ヘルハウンドさんとシュノが混戦、狗がヒャッハー
王都を中心にした大規模魔術の痕跡を発見

第二次魔女狩り
王都周辺に魔力が周囲から集められて溢れ出ないようにしている結界
そのせいで魔女が魔力にあてられて暴走
ヒスイもあてられて魔女と発覚(目の色が橙色→紅色、魔力への過剰反応)
探していた異父兄に発見されて拉致られ
―――――――――――――――――
シュノも狗につきまとわれ、レイリへの好意と同時に浮かぶ嫌悪感
何よりも母のトラウマからくる喪失感で絶不調
―――――――――――――――――
魔女狩りで不明のヒスイを探しつつ、カレワラに調査
今回の騒動の原因と思われる異父兄の事を、長老(ヒスイの祖母)から聞く
ヒスイ自体がカレワラの魔女に伝わる神の加護持ちだから、利用されたらヤバい
何それって感じで、説明の為に禁術の土地に残された記憶を具現化(モンスターキャッスル)
加護の記録を体験させようと戦ってたら、初代の時代でシュリを救う為に別世界の扉開いてる
その扉を封じる為に残ったメンバーの一人が初代カレワラの長老

初代の行動や別世界の扉を気にしつつ原因を探り始める
ノエルからの直属任務として単独行動中、シュノは異父兄に駒として捕まる
―――――――――――――――――
王都への魔術はヒスイ探しの為と魔女探し、魔力集めの為の異父兄の罠
協力者への建前は誰にも迫害されない場所を作るためと公言
本心は、自分を捨てた世界への復讐で、自分だけの世界が欲しかった
―――――――――――――――――
シュノは根深い喪失感を利用されて、周りに何もなければそれを味合わないで済む
この世界を壊せば喪うモノは無いと認識のすり替え
異父兄はヒスイの魔力を利用して魂の隷属魔術でシュノを人形化

ヒスイは呪いを解いて完全に魔女化させた上で神の加護を発動(紅目・紅髪、首・左半面に紅い蝶の痣)
記憶の上書きと人格の破壊をされた上で思考の鈍化と認識のすり替えをされている
上書きされた記憶については迫害された魔女の復讐とかなんかそんな適当
―――――――――――――――――
レシュオム(13歳)にレイリ(18歳)が平手打ちされながら激励されて、王都の守護は騎士団とノエルを中心にした居残り組が主
レイリ・ゼクス、狗他の連合で魔女の目撃が多かったダンジョンに突撃、魔都への扉を発見

救出作戦および魔都壊滅作戦としては、シュノの相手を狗、ヒスイの相手をゼクス、異父兄をレイリがふるぼっこ?
ヒスイ奪取すれば異父兄はシュノに魔術をかけてられないから、多分その辺りが詰め所


この戦争を攻略後、レイリへの気持ちを素直に受け入れたシュノが甘くなる

オメガバースぱろ4



「心配だなぁ…」
レシュオムは運ばれてきたパフェにスプーンをさしながら呟いた。
向かいではリクが意味が判らないと言った風に首をかしげた。
「何がだ?」
「レイリさん
食事会してから様子がおかしいんだよね」
「お前、俺と居るのに別の男の心配とか…」
呆れたようにリクはコーヒーに口を付けた。
これはレシュオムの性格の問題なので仕方無いし、そう言ったところも好きだと言う惚れた弱味だった。
「ごめんごめん
でもやっぱりシュノさんと二人きりはマズかったかな…」
「時期尚早だとは思うがシュノさんがその辺のαと同じ様にホイホイΩに引っ掛かるとは思えないな」
「うん、シュノさんは信じてるよ
問題なのはレイリさんの方
レイリさんね、本当はずっと好きだった人がいるの
でもその人とレイリさんは絶対結ばれることはないの」
「何でだよ、何か問題でも?」
「うん…その人はΩ性でね、レイアさんの番なの」
さすがにリクも返す言葉を失った。
「本人は憧れに近いものだって言ってた
けど、もしレイリさんがΩじゃなかったら…」
最初はαだと言われ周りから持て囃された。
上手く出来なくても皆が慰めてくれていた。
それはレイリがΩと診断される迄の本の少しの間だった。
「その人がね、シュノさんにそっくりなの…」
はぁ…と盛大に溜め息を吐いたレシュオムに、リクはぼんやり窓の外を眺めた。
自分もレシュオムもβ性、この世の大半はβでαなんて希少な存在。
知人に一人いるだけで自慢できるレベル。
それよりも更に少ない、Ωがこうも自分達の周りに集結している。
大変だなぁと茅の外でいるわけにもいかない。
「大変だよな、お前も」
レシュオムは大学でレイリと知り合った。
一年上の先輩に凄いピアニストが居るの!と目を輝かせていたレシュオムを見て、レイリに嫉妬した時期もあった。
声楽科のレシュオムはピアノ科のレイリとよく一緒にコンクールに出場することもあって、コンクールを見に行ってレイリのピアノを聴くまでは。
レシュオムがレイリの世話を焼くのは単にレイリのピアノに惚れ込んだだけじゃない、複雑な家庭環境の中で、それでもただひた向きに生きているレイリの力になりたい気持ちが強かったからだ。
そんなことがあり、リクも何かとレイリを気にかけるようになった訳だった。
「レイアさんは誰もが認める天才の頂点みたいな人だけど、レイリさんは秀才型なの
頑張って努力して結果を出しても、レイアさんには叶わない」
「秀才が天才に勝つことは出来ない…か」
「だから、今回のコンクールの事も気にしてるみたいだし…」
話ながらパフェを平らげて、レシュオムは気だるげに頬杖をついた。
「こればかりは本人がとうにかするしか無いだろ」
「うん、それは判ってるよ
でも私はお義父さんもお義母さんも義兄さんも、血は繋がってないけど愛してくれたから、レイリさんにも幸せになって欲しいの
あの人自分がΩだからって幸せになることを諦めちゃってるから」
「そうだな、それは俺も同意する」
リクは溜め息を吐いた。
「だけどな、さすがに久し振りに会ってレイリさんの話ばかりするなよな」
レシュオムが一瞬きょとんとして、次の瞬間真っ赤になった。
「ほら、そろそろ映画始まる時間だろ」
伝票を会計に持っていくリクの背後で、頬を紅潮させながらレシュオムはそっとリクの手を掴んだ。
「ねぇ、リク
心配しなくてもレイリさんは私の事妹見たいにしか思ってないし、私もレイリさんの事は親しい先輩としか思ってないからね。
「判ってるよ、もう今更レイリさんに嫉妬はしてない
俺はお前に怒ってるんだよ」
そういって、軽くレシュオムの額をデコピンすると、子供のようにリクが笑う。
「いったい!レディーに何するのよ」
「これであいこ」
リクがレシュオムの手を握り、走り出した。
それにつられてレシュオムも走り出して、二人は楽しそうに笑いながら映画館への道を走っていた。
久しぶりのデートに幸せな気持ちで胸を一杯にしながら。



「ねぇー、ゼクスー!
どっか行こうよー、今日お休みでしょー!」
「貴女はいつも元気ですね、タウフェス」
眠そうに目を擦りながら見上げるゼクスに馬乗りになって彼を揺さぶる少女はゼクスとレシュオムの従姉であり、レイリの家に仕える使用人のレイシスの娘だった。
「ママからね、水族館のチケット貰ったの
ねぇ行こうよー、いいでしょ?」
にこにこと笑顔を浮かべるタウフェスに、身体を起こすから退くように言い、開館時館に会わせて家を出る事にした。
「ゼクス、最近ずっと難しい顔してるねー
シュノさんと何かあったの?」
「まぁ、そんなとこです」
シュノは事務所の看板モデルで、ゴシップは避けたいところで…
今までの女性関係はシュノにその気がない、女性側の一方的なものだったから良かった。
ただ、今回は違う。
明らかにシュノの方が固執してる。
あのレイリ・クラインという薄幸のΩに。
「寄りによってΩになんて…」
「え、あのシュノさんがΩに興味持ったの!?」
「オフレコで頼みますよ、こんなことに事務所に知られたら私の経歴に傷がつきます」
「あはは、シュノさんのって言わないのがゼクスらしいね
大丈夫、誰にも言ったりしないよ!」
「シュノは好きでやってるんですからどうなろうと知りません」
そう言いつつも、シュノの名に傷がつくようなことは阻止するんだろうなぁと一人小さな笑みを浮かべたタウフェスは隣で車を運転するゼクスを眺めて笑った。
「どうかしました?」
「ううん、なーんでも!」
楽しそうに笑うタウフェスにゼクスも自然と笑みをこぼした。
「ねぇ、着いたらまずイルカショーの時間調べようね、あとペンギンさんのパレードもあるんだよ!」
「タウフェスは初めてですか?」
「うん!だから楽しみなんだ!
学校の友達も皆行きたいって言ってたの」
「なら、友達と行けば良かったのでは?」
「……ゼクスの鈍感!
最初にゼクスと行きたかったの、判ってよ」
無邪気で無垢な子供だと思っていたタウフェスはいつの間にか一人前のレディーに成長していて、ゼクスは申し訳なさそうに笑った。
「好きなもの科ってあげますから、それで許してくれませんか?」
「しょうがないなぁ、じゃあイルカの縫いぐるみ買ってくれたら許してあげる
おっきい奴ね?」
嬉しそうなタウフェスを連れて水族館に着いたら、入り口で女子高生らしき数人が楽しそうに入場を待っていた
「あれ、友達だ」
「あー、タウフェスじゃん!
何々隣のイケメンさんはもしかして噂の彼氏?」
こちらに気が付いたピンク色の髪の少女が声をあげて駆け寄ってきた
「うん、そうだよー」
「いつもタウフェスがお世話になってます
これからもこの子と仲良くしてやってくださいね」
「勿論ですよー、今日もほんとはタウフェスも誘うつもりだったんだけど用事があるって言ってたのデートだったんだな」
「まぁねー」
タウフェスは誇らしげで、友人たちもなかなか気さくな良い子達だなと安心した。
最近厄介事ばかり起こったせいでこんなに穏やかな時間は心身共にリフレッシュになって良いかもしれない。
「今日は男子達は一緒じゃないの?」
「お兄様とクレイさんは今日は仕事ですの」
「ロゼは…ほら、いつものアレ」
「発情期?」
「そそ、だからヴェリテだけってのもかわいそうだねってなって」
確かに女子ばかりの面子で男子一人は心細いだろうとゼクスは一人突っ込みをいれた。
「お嬢もリアンも水族館は初めてだって言うからアタシ達だけで来ることにしたんだ
次はタウも一緒に行こうね、彼氏さんも一緒でさ!」
「リアン、次は動物園行きたいがです
可愛いもふもふ一杯です」
「あるぱか、というのが可愛いですわね…」
「じゃあ次は動物園だね!
タウも、次は一緒だからね!」
じゃあお邪魔虫は退散するよーと、嵐のように去っていった三人の背中をにこにこしながら見送ったタウフェスはゼクスを見上げた
「……予定を確認しておきます」
「えへへ、やったぁ!」
ぎゅっと腕に抱き付く愛しい重みに、数日間心に引っ掛かっていたもやもやが消えていく気がした。
シュノも、きっとこの気持ちをようやく知ることが出来たのだろう。
それなら影ながらサポートくらいはしてやろうと、暖かな気持ちで嬉しそうに笑うタウフェスを幸せな気持ちで眺めていた。


オメガバースぱろ3

朝、ぼんやりとし頭で目を開いたレイリは絶句した。
「えっ…ど、ゆこと?」
見慣れた自分のアパートではなく、見慣れない寝室。
そこで冷静になったレイリは一気に青くなった。
昨日、レイリはレシュオムに誘われてシュノの自宅でゼクス達と宅飲みをしていた。
勧められるままにワインを飲んでそのあとは覚えてない。
体を起こして部屋から出ると、朝食を用意してるシュノがこちらに気がついた。
「おはよう、よく眠れたか?」
「あ、えと…はい…」
「昨日、ゼクスが送ってくって言ったんだけどな、お前が俺と離れたくないって可愛いこと言い出したんだけど覚えてないだろ?
安心しろ、何もしちゃいねぇよ。
俺はそこのソファーで寝てたから安心しろ」
別に疑っていたわけではないが、知らずのうちにベットを占領してソファーに追いやってしまい、何だか申し訳なさと気恥ずかしさでレイリは俯いたまま立ち尽くしていた。
「ほら、座れよ。
もうすぐ朝飯できるから」
促されるまま席につくと、トーストの良い香りがする。
「すいません、何から何まで」
「別に、俺も独り暮らし長いしこれぐらいは…」
独りの朝食に慣れていたレイリは誰かが自分に食事を作ってくれるのはずいぶん久しぶりな気がして、笑みが零れた。
「ふふ、何かこういうの久し振りで嬉しいな」
シュノは微笑みながらトーストとスクランブルエッグ、ベーコンとレタスのサラダが乗ったプレートをレイリの前に差し出した。
「シュノさんは?」
「俺は朝は食わないんだ
モデルなんて仕事してると事務所がうるさくてな」
「そうなんですか」
レイリは少し戸惑った。
さすがに自分一人ご飯を食べるのも気が引けるが、作ってもらって手をつけないのも失礼だろう。
「いただきます」
少し迷ってレイリはシュノが作った朝食に手をつけた。
「美味しい!」
「そうか、良かった」
シュノはコーヒーを飲みながらレイリを眺めていた。
「シュノさんは…」
「なぁ、それ。
そのさん付けと敬語やめろ」
レイリが首をかしげるとシュノは照れたような困ったような顔でレイリを見た。
「何か、くすぐったいんだよ
俺はそんな育ちよくねぇし普通でいい」
そんなことを言われて目をぱちくりさせたレイリはふふっと笑った。
「うん、判ったよ…シュノ?」
シュノは照れたように視線をそらした。
雑誌で見るクールなイメージとは正反対で何だか得をした気分だった。
「シュノ…ふふっ」
レイリは嬉しそうに笑ってシュノの名前を呼んだ。
「ねぇ、してもらってばかりじゃ悪いから…
だからさ、僕にも何かお礼させて?
シュノにはお世話になってばかりだから…」
するとシュノは徐にスマホを差し出した
「連絡先、交換しないか?」
「あっ、うん」
レイリは慌ててスマホを取り出して連絡先を交換すると嬉しそうに画面を見つめた。
自分のリストにシュノの名前が乗っている。
「デート、誘っても良いか?」
「ふぇ!?あ、あああのっ…」
「だめか?友達と出掛けたりするのと変わらないだろ?」
「あ、いや、だめじゃない、ダメじゃないけど!」
あわてふためくレイリをシュノはおかしそうに見てた。
「まぁ、俺はこんな仕事してるし普通に出歩くのは無理があるからな
場所は限られちまうだろうが」
「ちが、あの…そうじゃなくて…
僕は、シュノに釣り合うような人間じゃない。
卑しくて、浅ましい存在なんだ…」
自分の体をぎゅっと抱き締めて顔を俯いた。
「卑しくて、浅ましい…か。
俺はお前の事そんな風に思ってない」
シュノは席から立ち上がってレイリに近寄った。
「お前は、こんなに可愛い…」
レイリを抱き締めて、頬を撫でる。
優しく、レイリを安心させるように。
至近距離でシュノに抱き締められ顔を近付けられたレイリはとっさに目をきつく瞑った。
「だから、何もしないって言ったろ?
ああ、まぁ抱き締めるのくらいは別にいいだろ?」
頭を撫でながらシュノがクスクスと笑っている。
キスされると思っていたレイリは、ぽかんとしてシュノを見上げている。
「モデルなんてやってるとな、言い寄ってくる奴なんていくらでもいる。
でもな、それってモデルの俺やモデルってステータスに集まってくるのが殆どなんだよ」
シュノはぽつりと話し出した。
「少し気を持たせる様なこと言えば簡単に付き合えたし、まぁそれなりにやることもした。
でもな、違うんだよ…満たされない。
相手に興味がでなかった、お前以外は。」
「……なんで…」
「判らない。だが俺がαでお前がΩだからってのもあるのかもな
お前が俺の運命の番なら全てに納得が行く」
「でも、αはα同士で結ばれるのが一番幸せで…
僕は…卑しいΩで…だから…だから…」
「お前、気にしすぎ。
Ωだろうが、αだろうがお前はお前だろ」
レイリを抱き締めて、何度も頭を撫でて、安心させるように優しい声で宥める。
「俺は受け入れる、お前を。
だからお前はそのままでいい、何も恥じることはない。
卑しくなんか無い、そんなことを言うやつは全部俺が黙らせてやる」
どうして、たった一度会っただけなのにシュノはレイリの欲しい言葉をくれたのか、Ωと判ってから蔑まれて疎まれてきたレイリを受け入れてくれる存在に出会えたことでレイリは知らずのうちに涙を流していた。
「レイリ…?どうした?」
「君は、僕の…運命なんだね…」
レイリはぎゅっとシュノの背中に腕を回して抱き付いた。
「こんなに欲しいと思ったものはお前が初めてだ」
頬を撫でる手は優しくて心地好い。
その心地好さに、思わず甘えるように擦り寄った。
「シュノ…僕の運命…」
「レイリ…俺の…運命…」
そのまま、自然な流れでレイリの唇がシュノの唇に触れた。
浅く啄むようなキスを必死に繰り返すレイリが愛しくて仕方なくて、シュノはレイリの頭を引き寄せて舌を絡めた。
「ひっ!?あ、ふ…んんっ…」
レイリが一瞬驚いたのに気が付くと、シュノはゆっくりレイリが落ち着くのを待ち、何度もキスを交わした。
「レイリ…」
「はふ、しゅ…の…」
頬を紅潮させ、とろんとした焦点が定まらない瞳が真っ直ぐシュノを見上げる。
口から透明な糸が二人を繋ぎ、舌足らずな声でシュノを呼び続ける。
まるで親鳥を呼ぶ雛の様に。
クタリとしたレイリをソファーに横たえると、額にキスを落とした。
「今日はここまで、な
片付けするからちょっと大人しくしてろよ」
「ん…」
名残惜しそうに腕を離すレイリの頬をシュノは撫でて後片付けを始めた。
レイリはぼんやりと夢心地だった。
シュノの様な人気モデルが自分の番になれと言ってくれる。
シュノが片付けを終えてレイリの元に戻ると、レイリはまだうっとりとした目でソファーに沈んでいた。
「レイリ、気分は?
昨日大分飲んでたみたいだから、具合悪くなってないか?」
「平気だよ」
「そうか」
レイリは体を起こして、シュノに抱き付いた。
「レイリ、俺は返事を急ぐつもりはない。
お前が大学を卒業するまでは番になるつもりもない。
その間俺の事もお前の事もお互いに全部知った上で俺と一緒になってくれるなら番になろう」
「うん、判った」
シュノに擦り寄りながら、レイリはシュノの肩に頭を乗せた。
「じゃあ、改めて僕の事話すね
名前は知ってるから良いよね、歳は20歳。
6月8日産まれ双子座AB型。
実際一卵性の双子で兄のレイアはα」
抱き締めた腕の中のレイリは元気がなさそうで、安心させるように頭を撫でた。
「僕の家系は代々α家系の名家で、中でも兄のレイアはαの中でも本当に天才と呼ばれる部類の人で、皆レイアに期待してた」
複雑な家庭環境と聞いていたが、α家系出身というなら異常なまでにΩであることを引け目に感じるのも納得した。
「中学に入って直ぐの適性検査では二人ともαって診断されて凄い喜ばれた。
僕もレイアと同じで嬉しかった。
でも、翌年体調を崩して入院した僕は再検査を進められてその結果は紛うことなきΩだった。
それから、両親から自宅に半分軟禁されて、学校から帰ったら外鍵しかない部屋に放り込まれた。
発情期には専門医が点滴を打ちに来て、ほかのひとには会わないように言われた。
家に人が集まるときは別荘に移されたし。」
親から与えられた愛情が急に途切れてしまったレイリは、それを取り戻そうと必死だった。
しかし親の愛はαであり希代の天才であるレイア独りに向けられた。
過度の重圧もレイアは何もなかったかのようにこなしてしまう。
そんなレイアが羨ましくて仕方なかった。
何かひとつでもレイアに勝ちたくて、小さい頃から習っていたピアノにのめり込んだ。
ある日、レイリはコンクールで最優秀賞を受賞して、嬉々として帰宅したがレイアは同じ日に世界的に有名なコンクールで最優秀賞を取っていた。
レイリのコンクールとは、比べ物にならないほどの価値だった。
「レイアはその後ピアノをやめちゃったけど、僕は次の年同じコンクールで最優秀賞を受賞することが出来た。
でも父から返ってきた言葉は、それなら大学に行ってもっと技術を研いたらどうだ?だった。
つまりは体よく追い出されたんだね。」
称賛の言葉は要らなかった、ただ誉めてほしかった、愛してほしかった。
Ωでも、自分は家族で、ここに居てもいいんだって。
「そうか」
「両親も、レイアも恨んでないよ
突き放されて寂しいとか辛いって思ったことはあるけど、全部僕がΩだから…」
レイリは堪えきれずに涙をこぼした。
「どうして、僕はΩなんだろ…
αじゃなくても、せめてβならこんなことにはならなかったのに」
声を殺して泣くレイリを抱き締めながら、シュノは自分の過去を振り返った。
思えば自分は最初から家族に愛されることは無かった。
それなりに努力はしたが、幼い頃から人を惹き付ける容姿と、与えられたことを淡々とこなすシュノはβの両親にはさぞ奇怪に映ったのだろう。
「俺も親からは愛されなかった。
正直もう縁も切ってるし今更どうでもいいが、俺をαに産んでくれたことを今日初めて感謝した」
「……」
「だって、お前を一生俺だけのものに出来るだろ?」
番の契約は一生もの、一度契ればどちらかが死ぬまで解除できない。
ただ、稀に番の契約を解除できるαがいる。
シュノは後者だった。
しかしながら番を解消されたΩの殆どは精神的なショックから2度と番を作れなくなり、一生発情期に苦しめられることになる。
レイリが番になることに戸惑いを現すのはこういった原因もあるわけで、シュノはレイリにそんな苦しみを背負わせるつもりもないため期限を設けた。
大学卒業までに自分とレイリの気持ちが変わらなければきっと番になれると。
「誰にも渡したくない、俺の…レイリ…」
レイリは顔を埋めてシュノの胸にしがみついた。
耳まで真っ赤にさせながら。

オメガバースぱろ2


あれから数日、レイリは大学を休んで部屋に閉じ籠っていた。
薬を飲んでもやはり発情期には本来の調子がでない。
「シュノさん…会いたいなぁ…」
レイリは先日助けてもらったお礼はをどうしようか考えていた。
相手はテレビや雑誌で引っ張りだこな超人気モデルで自分の様な卑しいΩとは住む世界が違う。
迷惑をかけた上また会いたいなんてそれこそ迷惑にしかならないと自己完結した。
彼のマネージャーのゼクスはレシュオムの義兄らしいので彼を通してお礼の品を渡してもらおう。
ゼクスにも助けてもらったので、何が良いかは発情期が終わったらレシュオムに相談しようと、カーテンを締め切った薄暗い部屋でベットに横になった。
「シュノさん…」
枕に顔を埋めながら、レイリはそのまま目を閉じた。


「レイリ…」
シュノが耳許で甘く名前を呼びながらそっとベットに体重をかける。
軋むベットに埋もれながら、レイリはそっとシュノに腕を回す。
「シュノさん…好きにして…」
「俺の番になれ、レイリ」
甘く囁かれる言葉も触れる体温も、総てが愛しくて堪らない。
「レイリ」
はっと、目が覚めて辺りを見回すと見慣れた顔がこちらを覗き込んでいた。
妙にリアルな夢に、顔を赤くしたレイリは慌ててベットから起き上がった。
「え、あ…レイア?
どうしたの、こっちに来るの珍しいね」
双子の兄のレイアは実家で暮らしていて滅多にこちらには来ない。
親戚の弔辞だとか、祝言でもない限り。
最も、その席にレイリが呼ばれればの話だが。
「レシュオムから聞いたんだよ、お前が外で発情して襲われたって。
僕は別にお前なんかどうでもいいけどシュリがお前の様子見に行けってうるさいから来てやったんだ。ありがたく思えよ」
レイアはレイリの頭をグシャグシャに撫でると満足したのか、リビングの方に去っていった。
けだるい身体を起こしてリビングに行けばシュリがこちらに気づいたのか近寄ってきて頭を撫でた。
「体調はいいのか?」
「はい、薬も効いてますから」
「ならいい。レイシーから作りおきのおかず預かったから冷蔵庫に入れといた」
「ありがとうございます」
レイリはお茶でも入れようとキッチンに向かうが、レイアがもう帰ると言ってそれを阻止した。
「ねぇ…今回の事、お父様達は知ってるの…?」
レイアが帰る前に、どうしても聞きたいことをつい聞いてしまった。
レイアは珍しく難しい顔をしていて、シュリはそっと背を向けた。
「今回襲われた事は知らない。
だがお前がコンクールの選抜試験に来なかったことは知っている。」
その一言で、レイリは十分だった。
心を、壊してしまうのに。



レイア達が帰ったあともレイリは何もしたくなくてぼんやりしていた。
レイアは、父はコンクールの選抜試験についてなにも言及は無かったという。
もう、気にかける価値すらレイリには無いのだろう。
Ωだと言うだけで…
「どうして、僕だけ…」
父は婿養子だがαで、母もαだった。
理想的なα同士の婚約。
期待されて産まれた筈なのにα家系でレイリだけがΩだった…。
α家系のクライン家にとってΩ性は孕むための穢らわしい忌むべき性。
今でこそ世間一般には大分少なくなったが、それでも根強く残るΩ差別。
Ωと言うだけで虐げられる。
「もう…やだ…やだよ…」
そのまま、レイリは枕に顔を埋めて声を殺して泣いた。
そんなことをしても状況は変わらない、それは判っているのに…
いつのまにか泣き疲れて眠ってしまったレイリは、けたたましくなるスマホのアラームで目が覚めた。
「あ…朝か…」
薄暗い部屋のなか、ベランダに置いてある鉢植えに水をやろうと外に出る。
季節は初夏に入ったばかりで長雨から解放された澄んだ青空が広がっていた。
何時もなら大学に向かう準備をしている時間だが、身体がまだ熱っぽい。
薬が切れる前に飲んでおこうと寝室に戻ると、着信を知らせるランプが光っていた。
「あれ、レシュオムから?」
レシュオムがレイリの体調の良いときに食事会をしないかと誘ってくれた。
「食事…会?」
レシュオムと二人きりで食事をするのは初めてじゃない。
しかし会とつくなら他の誰かが一緒と言うことだ。
レシュオムの彼氏のリクとは面識はあるが、食事を共にしたことはない。
なら幼馴染みだというソラ、カイリ、リラあたりだろうか。そんな思考を巡らせながら、力無くベットに横になる。
身体が酷く重い…
「ああ…早く…」
寝ても覚めても頭の中は早くこの辛い時期から解放されたいという事だけがぐるぐる回る。
気晴らしにはいいのかもしれない。
今のレイリには誰かの温もりが必要だった。
それから数日後、要約体調が回復した所でレシュオム達との食事会に指定された日が訪れた。
レシュオムは他に誰が来るのか教えてくれなかった。
ただ、レイリさんも知ってる人ですよ。としか。
そこまでいうならと楽しみにしてレイリはお土産にベランダで育てたハーブで作ったハーブティーを可愛らしい瓶に詰めて持っていくことにした。
ふと、チャイムがなるとレイリは土産の入った紙袋を抱えてドアを開けた。
「遅くなりました、もう大丈夫です?」
「うん。あ、これ…いつものハーブティー」
紙袋を差し出すと、レシュオムはニッコリ笑って受け取った。
「わぁ、いつもありがとうございます。」
嬉しそうなレシュオムにほっとしながら、迎えの車に乗り込む。
運転手はゼクスだった。
まさかこんな形で会うと思わなかったレイリは一瞬固まってしまい、ゼクスは不思議そうにレイリを見上げた。
「あ、あの…先日はどうも…その、きちんとしたお礼もせずに…」
「いえ、私は別に何もしていませんのでお気になさらず」
すると、レシュオムはレイリを車に押し込みながら助手席に座り、ゼクスに紙袋を差し出した。
「これ、レイリさんからお礼のハーブティーだって。
レイリさんのハーブティーはよく効くの、ゼクス最近寝つきが悪いっていってたでしょ?」
「そうですか、それは助かります。
ありがとうございます。」
レイリは何か言おうとしたが、レシュオムが目配せをしてきてレイリは黙って俯いた。
「さぁ、つきましたよ」
車がたどり着いたのは高層マンション。
レイリはその場所に見覚えのあるような気がした。
ただ、意識がぼんやりしてうまく思い出せなかった。
マンションの中でエレベーターに乗ったところでレイリはレシュオムの方を向いた。
「あ、の…まさか…」
「騙すみたいな事してごめんなさい。」
案内されたのはあの日レイリが目を覚ました部屋。
「シュノさんが、もう一度レイリさんに会いたいって…
でもシュノさん有名人だから外で会うのはちょっとあれなので…」
「僕に?え、な…何で?」
「それは本人に聞いてください。」
ゼクスが開いた扉の中へ入るように促される。
恐る恐る部屋のなかに入ると、ソファーで本を読んでたシュノがこちらを向いた。
「来たか、わるいなわざわざ」
「い、え…あの、何で僕を…」
シュノは立ち上がってレイリの腰を抱き寄せた。
「近くで見るとやっぱり可愛いな」
「……は?え…はっ?」
「この前会った時からお前の事が気になって仕方なくて、レシュオムに頼んでお前を呼んで貰った」
完全に混乱してるレイリをソファーの隣に座らせ、ゼクスは若干憐れみの視線をレイリに送る。
「とりあえず、お茶どうぞ」
「あ、ありがと…」
緊張しながらレイリはお茶を受け取った。
「シュノさんは…なんで、僕なんか…」
「だから言ったろ?一目惚れだって」
中々にマイペースなシュノに困惑するレイリはレシュオムに助けを求めるが、レシュオムは困ったように笑いながら頑張れと言わんばかりにガッツポーズを見せた。
「普通、いきなりそんなこと言われれば誰でも戸惑うと思いますがね」
思いもよらぬ助け船を出したのはゼクスだった。
レイリにとってそれはまさに神の一声に思えた。
「彼は貴方の周りにいる女性がたとは違うんですから」
「…そうだな、だから気に入った」
シュノはレイリの顔を真っ直ぐに見つめて柔らかく笑った。
「俺のこと知ってたって聞いたときはまたかって思ったけど、こいつ連絡先を聞こうともしないし」
確かにレイリにとってシュノは憧れに近い存在だった。
こうして今同じ空間に居ることすら烏滸がましいと思うくらいには天上の人だった。
レイリが名家に産まれたΩではなく、大事な試験の日に無断欠席しなければ、レイリとて舞い上がっていたに違いない。
あの日は試験のことで頭か一杯だったからそう見えただけだ。
「僕はやましい存在です…
そんなこと言って貰える価値なんか…」
「レイリさん…」
複雑な家庭環境を知るレシュオムは悲し気にレイリを見つめ、ゼクスはレイリから視線をはずした。
「僕はΩです、穢らわしい性なんです…」
「だったら…」
シュノは煮えきらないレイリの態度に痺れを切らし、ぐいっと引き寄せた。
「俺の番になれよ」
「ふぇ!?え、えぇ!?」
予想もしてなかった展開にレイリは頭がついていかずに固まってしまって、見兼ねたゼクスがシュノを引き剥がした。
「貴方は少し性急すぎです、落ち着きなさい」
気まずい空気が流れたあと、玄関のチャイムがなったので、シュノが玄関に向かった。
「ごめんなさい、ビックリしました?」
レシュオムが困ったようにレイリを覗きこんだ。
「うん、ビックリした…けど…」
嫌ではない…そう感じていたことを伝えようか迷って、結局黙っていた。
ゼクスはため息をつきながら玄関に届いたオードブルやピザ等を運んできた。
「レイリ、酒は飲めるか?」
「あ、うん…少しなら」
シュノはキレイな白ワインを持っていて、ゼクスがグラスとオレンジジュースを持ってきた。
未成年のレシュオム用だろう。
「誰かのせいで変な空気になって非常にやりずらいです」
ゼクスが文句を垂れながらグラスにワインを注ぐとシュノはあからさまに顔を背けた。
中が良さそうだなと、レイリは自然と笑みがこぼれた。
「じゃあ、改めて乾杯します?」
レシュオムがニッコリ笑ってグラスを前に差し出した。
「乾杯!」
お酒が進めば緊張していたレイリの雰囲気も柔らかくなり、楽しい話に花を咲かせていた。
シュノとゼクスは旧知の仲で、腐れ縁と本人達は言っていた。
レイリは、レシュオムが話す大学での事に相槌をうちながらホロ酔い気分でシュノにもたれ掛かった。
「シュノさんの話…もっと聞きたいな…
貴方のこと…もっとよく…知りたい…」
睡魔と格闘しながらシュノを上目使いで見上げて、ふにゃりと笑った。
これには流石のシュノも言葉を失って一人悶絶しているのをゼクスが可笑しそうに眺めていた。
「バチが当たったんですよ」
「生殺しだろ、こんなの…」
一人状況が判らないレイリはそのまま睡魔に負けてシュノにもたれ掛かったまま目を閉じた。


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