「あの…わたし、鶴丸君の事が……」
照れた様に告げる少女を、鶴丸は興味無さげに見下ろしていた。
チュッパのイチゴ味を咥えながら首を傾げる。
「俺、君に全く興味無いんだけど…
付き合いたいなら国兄に聞いてくれ」
「え、国永くんに?」
「そうそう、お鶴は俺の可愛い弟だからな、お鶴を幸せに出来ない奴にお鶴は渡せないんだ、悪いな」
不意に、背後から鶴丸をぎゅっと抱き締める鶴丸と瓜二つの顔。
ただ瞳の色だけが、鶴丸とは違っていた。
あとは寸分違わず同じつくり。
「国兄、もう用事は済んだのか?」
「ああ、可愛いお鶴に悪い虫がつかないか心配になってな」
「何だよそれ、警戒心ないのは国兄の方だろー。
俺がいつもどれだけ心配してるのか少しは理解してもいいと思うけどなぁ」
「ってな訳で、君にお鶴を幸せに出来るか?
出来ないってなら…そうだな、俺と付き合わない?」
「えっ?」
少女は期待したように頬を染めて顔を上げた。
「…あの、国永くん、私の事好きなの?」
「国兄、何言ってんだよ、国兄は俺のだろ!俺を捨てるのか?俺よりこんな女の方がいいって言うのか!
なぁ、こんな女より俺の方が可愛いよな?
俺の方が国兄を一杯愛してるし、気持ちよくできるし、知らないことなんて何一つないんだからな!」
目に見える嫉妬に涙目になりながら国永の制服を掴む鶴丸を、愛しそうに抱きしめる。
「ふふ、判ってるよ。
君が知らない女と二人で話してるのが見えて嫉妬したんだよ、ほら機嫌なおしてくれないかい?」
国永は優しく笑って鶴丸の両頬を包み込んでキスをする。
「んっ、ふ、んちゅ…」
舌を絡めながら水音を響かせて夢中でキスを交わすふたりに、少女は泣きながら駆け出してしまった。
「お鶴の口の中イチゴ味だな」
「ん、イチゴ味舐めてたから…」
頬を染めてフニャっと笑う。
「帰ろうか、今日はお鶴の好きなビーフシチューだからな?」
「マジか!こないだ母さんから届いた荷物にデミグラスソース入ってたからそろそろかなって思ってたんだ!」
ぎゅっと抱きついたまま下駄箱に向かう。
2人の上下に並んだ靴箱の中には手紙や贈り物が押し込めれていた。
「俺の国兄なのに…」
鶴丸が憎々しげに呟いて国永の下駄箱の中からバサバサと手紙や贈り物を床に投げ捨てる。
「こら、お鶴。駄目だろ、床に投げ捨てちゃ…
こう言うのはちゃんとゴミ箱に捨てないと。
ほら、お前の下駄箱のゴミも寄越せ」
「ん。ごめん…そうだよな、足元見ない宗近とかが転んで頭打ちそう」
「ちかは少し頭打った方が正常になるんじゃないか?」
笑いながらゴミ箱にゴミを捨てて靴を履き替える。
仲良く手を繋いで2人暮らししてるアパートに帰ると部屋着に着替えてから国永がアイスコーヒーを二人分持ってきた。
「はい、お鶴」
「ん、ありがと」
鶴丸はふにゃりと笑って国永に甘えるように擦り寄った。
産まれた時からずっと一緒、片時も離れた事は無い。
お互いがお互いのために生まれてきた。
「鶴丸は本当に国永の言うことだけはちゃんと聞くのね」
幼い鶴丸に母親が苦笑しながらぼやいたことがある。
「国永はお兄ちゃんだから、鶴丸の事頼むわね?」
優しく笑って二人を抱きしめた母親の事は嫌いじゃなかった。
だけどそれよりも目の前の自分の半身が愛しくて欲しくて仕方無かった。
「国兄ー、国兄ー」
小さな頃から自分にベッタリ甘える弟が可愛くて仕方がなかった。
この子には自分がついていないと、汚い世の中から純粋な弟を守ってあげないといけないと思ってた。
鶴丸も優しい兄が大好きだった。
どこか抜けている兄を支え守らなければならないと思ってた。
双方が互いの願いに、思いに気づいた時、それは燃え上がる恋の炎に変わった。
求めるままに淫に互いを求めあった。
2つに分かれた体が一つに戻りたがるように、自らの半身を求めた。
「国兄、愛してる。
俺以外誰も見ないで、愛さないで、俺を一番に愛してよ」
「俺はいつでもお鶴しか見てないぞ?
愛してるのも世界でお鶴ただ1人だ、だってお鶴は可愛い俺の弟で恋人だからな」
「だったら何で!あんな女と付き合うとか言うんだよ!
俺嘘でもそんなこと聞きたくない!
国兄は俺だけのものなのに…
俺は国兄だけ居ればいいのに国兄は違うのか?俺がいなくても平気なのか?」
狂気を孕んだ望月の瞳が不安そうに縋る様に国永を見上げてくるのが国永には心地よかった。
このどこもかしこも可愛らしい生き物は全てが自分のために産まれてきたんだと優越感に浸る。
「そんな事ない、君が俺の腕の中からどこかに行ってしまうなんて考えられない。
君が俺を置いてくなら俺は君以外の全てを壊して俺の元から離れられないようにするぜ?」
愛しそうに微笑んでキスを交わす。
「んっ、くに、ふぁ…」
舌を絡め取れば唾液が口の端から溢れ、潤んだ瞳が国永を見上げる。
「くにに、もっと欲しい…」
「今日のお鶴は随分甘えただな?
でもそろそろ飯の支度しないと」
「……1回だけ…ダメ?」
「君の1回だけは1回で終わった試しがないからダメ。
それともビーフシチューはお預けでいいのかい?」
「だめ!やだ!」
「だろ?ご飯が終わったら好きなだけ抱いていいから、それとも今日は抱いて欲しいかい?」
「むぅ…どっちも」
鶴丸は拗ねながらも大好きな兄と大好物を秤にかけたがまだまだ育ち盛り、食欲には勝てずに大人しく引き下がる。
それでもやはり先程の発言が気に食わなくて、国永にピッタリ抱きついたまま離れようとしない。
こと国永に関して独占欲が強いのは自覚していたが、他の奴に取られるくらいなら、愛しい兄を殺して自分も死ぬ。
そうすれば自分以外誰のものにもならない。
「ジャガイモ一杯入れて、俺ジャガイモ好き」
ぎゅっと甘えるように抱きしめて、スリスリ頭を国兄の首元に擦り寄せる。
顔も体も寸分違わずそっくりなのに、赤い瞳と、少しだけ違う身長が鶴丸のコンプレックスだったが、こうして甘える時だけは少しだけ小さくて良かったと思う。
「はいはい、お鶴はビーフシチューのジャガイモ好きだもんな?
一杯入れてやるからな」
クスクスと笑いながら国永がジャガイモを剥いてゴロゴロと切っていくのを眺める。
「ん…すき」
甘える様に頭をすり寄せる。
「それは俺が?ジャガイモ?」
「どっちも。国兄が作るから、ジャガイモ美味しい」
「そうか、それは良かった」
パックから取り出した肉や野菜を切って鍋に放り込む。
赤ワインやデミグラスソース、コクを出すための生クリームを独自の割合で混ぜ込んでいく。
鶴丸は疲れてソファーで眠っていた。
お気に入りのクッションを抱きしめて体を丸くして眠る弟の姿に、思わず笑みがこぼれる。
「本当に、どこもかしこも可愛いお鶴。
こんなに可愛いんだから、俺がしっかり守ってやらないと…」
鶴丸は国永が女子を誘惑しようとした事に怒ったが、国永とて同様にあの女に怒りを覚えていた。
殴るという意味で手を出さなかったのはむしろよく我慢した方だと褒めて欲しいほどだ。
それにあの女は国永が気のある素振りを見せれば掌を返し大切な弟をアッサリ捨てた。
いくら興味が無くても目の前で掌を返された鶴丸はいい気はしなかったはずだ。
そんな害虫と同じ空間で同じ空気をこの可愛い弟が吸っている時点で粉々にしてやりたかった。
「害虫如きが俺の可愛いお鶴に話しかけるなんて生まれ変わって出直してこい。
まぁ生まれ変わったところで、入り込む隙間なんてないけどなぁ。
この子は俺の為に産まれた俺の愛しいお鶴なんだから」
恍惚とした表情で眠る鶴丸の髪を優しく撫でて額にキスをする。
「ん…くに、にぃ?シチューできた?」
「もう少し」
「じゃあ一緒にゴロゴロしよ?」
そう言って鶴丸の手が国永の腰に回される。
「こら、まだシチュー火にかけてるから」
「やだ、俺まだ怒ってるからな。
国兄は誰のモノか、ちゃんと判らせてやる」
「お鶴はいつから兄ちゃんのいうこと聞けない悪い子になったんだ?
そんな悪い子はお仕置きするぞ?」
「国兄、いやっ、嫌いにならないで!
やだやだ、国兄に嫌われる位なら…俺、国兄を殺して俺も死ぬ!
俺を愛してくれない国兄なんて国兄じゃない!」
「……そうだな、お鶴を愛せない俺なんて俺じゃない、その時は殺していい。
君に殺されるなら本望だ。
だけど今の俺はこんなにもお鶴を愛してるんだけどなぁ、少なくとも見ず知らずの女を殺してやりたいほどには」
すると鶴丸はキョトンとしたあとに狂った様に笑い出した。
「あはは、可哀想、可愛そうだなあの女!
だって国兄に愛されないなら死んだほうがいいよな、死んでもいいよな?
俺だったら国兄に愛されないなら死んだ方がいい!」
「ふふふ、そうだな、死んでいいな。
俺はお鶴しか愛せないしお鶴も俺しか愛せないのにな?」
ぎゅっと鶴丸を抱き締めれば歪んだ笑顔で鶴丸が国永に甘える。
「へへ、国兄愛してる。」
「ああ、俺だってお鶴を愛してるよ。
お鶴が居れば何もいらない。
ほら、お皿出してくれ、そろそろシチューが出来るから。
食べ終わったら一杯可愛がってやるからな」
額をコツンと合わせて鶴丸の頬を両手で包み込む。
「国兄のシチューたのしみ」
鶴丸がそのまま国永を抱き寄せて舌を絡めるキスをする。
「ん、国兄シチューの味する、味見したから?」
「ああ、そうかも。今日の味はどうだ?」
鶴丸はしばらく考えた後口の端を吊り上げて笑った。
「判んないからもう一回」
そう言って何度も啄む様なキスを交わせば次第に呼吸が乱れる。
「ふぁ、ちゅ…んんっ、おつる、んぅ」
「んっ、くににぃ、ちゅ、んちゅ…
ふぁ、国兄美味しい…」
「ゾンビ映画の死体役になった気分だ。
ほら、本物のシチューはもっと美味いぞ」
「ん、おかわりいっぱいある?」
「あるぞ、いつも美味しいっていっぱい食べてくれるからな」
ようやく鶴丸が離れて、食事を終えて、後片付けをして一緒にお風呂に入り、心ゆくまで互いの身体を貪り合って一緒に眠る。
広めのダブルベットにぎゅっと抱き合いながら額を合わせて眠る双子の兄弟は産まれてから今までずっとこうして生きてきた。
そして、これからもずっと…
「で、君はお鶴が好きで付き合いたいから俺に協力してほしいのかい?」
可愛らしい少女は頷いた。
「国永くん、鶴丸くんのお兄さんでしょ?
鶴丸くんの好きな物とか教えて欲しいの」
照れくさそうな少女を前に国永は内心笑いを堪えるのが精一杯だった。
鶴丸がどれ程にこの双子の兄を溺愛し、欲しているか彼女は知らない。
鶴丸の好きなものなど国永以外ないのだから。
そうとは知らない少女は国永が自分に協力的であると疑いもしていない。
国永もまた、双子の弟を溺愛しているという事を知らない。
「そうだなぁ…お鶴は俺の作るビーフシチューが大好物だな。
後は…そうだな、ああ見えて可愛いものが大好きなんだ。
ひた隠しにしてるけど女子みたいな所があって可愛いだろ?」
「そうなの、鶴丸くんて男の子って感じなのにそんな一面があるのね」
「そう、部屋にはぬいぐるみも一杯あってな。
俺は寝る時に邪魔だからこれ以上増やすなって言ってるのに我慢出来ないんだよなぁ」
「……え、一緒に寝てるの?」
「変かい?兄弟だし別に普通じゃないか?
俺達二人暮らしだからな、個室なんて贅沢言えないし」
「そっか、そうだよね…変な事言ってごめん」
「いいや?君にはお鶴の事もっと知ってもらいたいしな?」
微笑んで、腕に持たれるように少女を見上げれば、頬を赤く染める。
「国永くん…」
「何だい?」
まるで誘う様に顔を近付ければ、少女はうっとりした目で国永を見詰める。
そして、そっと目を瞑る。
「国兄、何してんだ?」
背後から冷たい声が響いて、少女はビクッと体を震わせた。
そこには、望月の瞳にギラギラとした嫉妬を宿らせた鶴丸が微笑んでいた。
「んー、恋愛相談?」
「……そうか」
鶴丸は少女と国永の間に体を割り込めて、国永を乱暴に机に押し倒した。
ごんっと頭をぶつけた音がするが、国永は微塵も気にする様子はない。
「国永、愛してる」
そう言って鶴丸は恍惚とした表情で国永に覆い被さって舌を強引に絡め取りながらキスをする。
国永も抵抗せずにそのまま受け入れて、首に腕を回し体を密着させる。
わざとらしく水音を響かせながら見せつけるように濃厚で長いキスをたっぷりと交わす。
「ふぁ、んちゅ、お鶴、んむっ…」
「くにに、ふっ、んぅ、すきぃ、くににぃ、ちゅ」
目の前で激しいキスが繰り返され、たっぷり国永を堪能した鶴丸が満足して国永を離すと、ふんわりと蕩けた笑みで鶴丸を見上げる。
「国兄可愛い」
ちゅっと頬にキスをする。
「ねぇ、俺我慢出来ない、今スグ抱きたい…」
「ダメ、だってここ学校だろ?」
「だって国兄可愛いんだもん、それに国兄だってさっきのキスで感じたんだろ?」
鶴丸が国兄の下半身に手をすべらせる。
「ひゃう!?お鶴、だめ!いやだ、ここじゃイヤ…」
「何でだよ!俺とはしたくないのか?」
「ちが、お鶴の顔、見せたくない。
俺だけの、俺だけしか知らないお鶴を、誰にも見せたくない。」
鶴丸はようやく少女の存在を思い出した。
ぺたりと座り込んで両手で口を覆い、目を見開いて泣いている少女を鶴丸は鬱陶しそうに見下ろした。
「ひど…い、なんで…協力してくれるって……」
「何を言ってるんだい、君。
俺がいつ、君に協力するなんて言ったんだ?
俺はただ君がお鶴のことを知りたいって言うから教えてあげようとしただけだぜ?
お鶴がどれ程俺のことが好きなのかをな」
国永が妖艶に笑い、鶴丸に抱き着く。
それは兄弟のそれとは遠くかけ離れていた。
少女から見れば国永は遊女の様だった。
蠱惑的に鶴丸を誘惑する遊女。
「酷い…酷いよ…私はただ、鶴丸君の事が…」
「俺が好きなのに国兄に色目使ってたのかよ、お前最低だな」
鶴丸は少女の近くの机を思い切り蹴飛ばした。
「ひっ!」
「さっさと失せろよ、邪魔なんだよお前。
俺と国兄の時間を邪魔すんな」
鶴丸は少女を睨むと後ろの国永の手をぎゅっと握った。
「帰ろ、国兄。
途中で晩飯買って帰ろ、今日はめちゃくちゃ国兄を抱きたい」
「はいはい、判ったよお鶴」
国永はふふっと笑って鶴丸の頬にキスを落とす。
後ろですすり泣く耳障りな声を遮り、二人は手を繋いで下駄箱に向かう。
「国兄、国兄は俺以外必要ないよな?」
「そうだな。友達は居て楽しいけど、お鶴がいれば必要ないな。
君と一緒なら二倍楽しいけど、君がいないなら無いのも同じだ」
「へへ、良かった!」
鶴丸は幸せそうに笑って国永に口付けた。
「愛してる、国兄
誰のものにもなっちゃダメだ、俺だけを見て、愛して。
恋愛相談なんて止めて、俺は国兄しか要らないから告白されても興味無い」
「ふふ、ヤキモチ妬くお鶴も可愛くて、その顔が見たくてついな?
俺もお鶴以外愛せないしお鶴以外に勃たないしキスしたいとも抱かれたいとも思わないから安心しろ」
「そうか?ならいいけど」
帰宅した鶴丸は国永をベットに引きずり込む。
制服を乱雑に投げ捨て、夢中になって国永の体を貪る。
「ちょ、お鶴、制服、シワになるだろ」
「無理、我慢できない。
国兄が悪いんだからか!あれだけ言ったのにあんなゴミを誘惑するから!」
「ひゃう!?おつ、や…んぅっ」
普段は落ち着いて柔らかなえみを浮かべる国永が自分の雌として恍惚と鶴丸を見上げる。
縋るように手を伸ばし、腹の奥まで鶴丸を迎え入れてぎゅっときつく締め付ける。
「んっ、ふぁ…くにに、きもちぃ…あっ、んんぅ…」
「んぁあっ、あっ、ふ…お鶴、もっと…もっと俺で気持ちよくなって?」
一つに繋がった身体はピッタリと重なり合い、奥深くまで満たされる。
「国兄…すき、愛してる」
余裕のない顔で国兄にキスをしながら奥を擦りあげる。
蕩けた顔で締め付けながら鶴丸を抱き締めて、国永は意識を手放すまで甘い快楽に溺れていた。
愛しい、堪らなく愛しくて壊したい、だけど大切にしたい。
そんな気持ちに支配され、鶴丸は国永から己を引き抜いた。
「あーあ…飛んじゃったか。
ふふ、国兄愛してる、ずっと永遠に、俺だけのもの」
グッタリ気を失った国永を抱き締めて、首筋の目立つところに所有の証を刻み込む。
「この身体も声も視線も体温も、全部俺だけのもの。
国兄には、俺以外何もいらないんだから…なぁ国兄?」
くすくす笑いながら、眠った国永を突き上げる。
「骨の髄まで余すとこなく俺の愛を注いでやるよ、俺の愛しいお兄ちゃん」
狂った様に笑いながら意識のない国永を犯す鶴丸は幸せそうに笑っていた。