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甘えたがり


「国兄、黒兄は父の日に何をすれば喜ぶかな?」
「そうだなぁ、君たちがしてくれる事ならなんでも喜ぶだろうけど…
黒葉はあれで結構甘えたがりなんだ、ただ甘え方を知らないだけでな?」
「あー…確かに黒兄はあんまり甘えてくれないよな」
「黒葉にとって甘えるってのはパパ達に抱かれる時に演じてる偽りの姿だ。
だからそれが抜けきってないんだよな」
「そっか…」
それだけ言うと鶴丸は何かを閃いたように悪戯っぽく笑う。


「黒葉、デートしようぜ」
休日の朝、たっぷり惰眠を貪った後目が覚めたばかりの黒葉に抱きついて国永が甘えるように擦り寄る。
「別にいいが、ルイは?」
「あの子なら遊びに行ったよ、子供は元気が一番だな。
だから今日は俺たち二人っきりってわけだ。」
「そうか…お前はどこに行きたいんだ?」
「映画館で今ホラー祭りやってるんだ」
「暑くなってきたし丁度いいな」
朝食を済ませ、着替えて映画館に向かう。
あとは上手くやれよと心の中で念じながら久し振りのふたりきりの時間を満喫しようと国永は心を踊らせた。

「さて、国兄が黒兄を引き留めてる間に完成させるぞ」
目の前には小さなバケツほどの大きさのプリン型。
今からこれを作るのは鶴丸とシヴァとルイの3人で、一期は不安そうに夕食の仕込みをしてる。
父の日に、黒葉を目一杯甘やかそうと黒葉の好物を予め国永にリサーチしておき、レシピをもらってきた。
レシピ通りに作ったとて国永と同じ味にならないのは百も承知だが、息子が自分のために作ってくれたならなんだって美味いと国永に後押されたため、鍋に向かった。
一方バケツプリン組はシヴァとルイが殆どの事を説明書にある分量通りに投入して鶴丸は冷蔵庫に運んだだけだった。
「お父さん絶対喜ぶね」
シヴァとルイがプリンを眺めながら微笑むのを見て、鶴丸は一期の背中に抱きついた。
「んー、美味そうな匂い」
「駄目ですよ」
「味見は?」
「まだ下味しかつけてません」
鶴丸はそのまま抱きついたまま一期の作業を見つめた。
「早くできないかなー。
黒兄の喜ぶ顔が早く見たい」
「そうですな。」
微笑みながら一期は鍋に視線を落とした。
料理が完成する頃には、ルイとシヴァがプリンを持ってきた。
「ムッティ、ファーティ、できたの!」
「よし、じゃあ2人でトッピングしてくれ。」
テーブルには生クリームやチョコスプレー、果物がたくさん乗っていて、それを二人でトッピングしていく。
その間に一期が仕上げとばかりに料理を完成させれば、ルイがソワソワしながらプレゼントを抱きしめる。
「鶴兄、まだかな?」
「もうすぐ来るって」
鶴丸が膝の上にルイを抱き上げると、よしよしと頭を撫でる。
「お父さん喜ぶかな?」
「絶対喜ぶぜ!何たって愛息子が黒兄の為に作ったんだから」
「ムッティ、シヴァもファーティに作ったのよー?」
シヴァも鶴丸に抱き着いて甘え出す。
「至福…」
「何やってるんです、ご飯できましたよ?」
「あ、じゃあ国兄に連絡するぜ」
鶴丸が国永に連絡をするともう近くまで来ていたのか暫くしてすぐに鶴丸の自宅のチャイムが鳴った。
「よっ、準備は出来たか?」
「国兄!黒兄!待ってたぜー」
鶴丸が嬉しそうに駆け寄って黒葉の手を引く。
「お鶴、そんなに引っ張るな」
苦笑しながら黒葉は大人しく席につく。
「じゃーん!俺たち3人で作ったんだぜ!まぁ市販の粉から作るやつだけど」
鶴丸が大皿に盛り付けられたプリンを冷蔵庫から引っ張り出す。
「凄いな、美味そうだ」
黒葉が笑えばプレゼントを抱えたルイが黒葉にぎゅっと抱き着く。
「お父さん、これプレゼント」
「おや、ありがとうルイ。
開けても良いか?」
「うん、蘭姉に教わって作ったんだ」
黒葉が包を解くと、綺麗な赤い綾紐が出てきた。
ラメ加工された紐を組んで、端には蜻蛉玉で留められてる。
「これは見事だな、ありがとうルイ」
「黒葉、着けてやるよ」
国永が黒葉から紐を受け取り、髪を結ってる紐を結び変える。
「お鶴、どうだ?」
「めっちゃ似合うぜ!
流石ルイだな、センスバッチリじゃないか 」
「クローブ、きらきら綺麗なのー!」
「そうか、明日から早速付けていこう」
嬉しそうに笑うルイを抱き締めて、頭を撫でる。
「良かったなルイ」
国永も微笑みながらルイの頭を撫でる。
「シヴァと一緒に頑張った甲斐があったな?」
「そういやシヴァは何作ったんだ?オレまだ見てない」
すると奥から料理を載せた盆を持ってきた一期が嬉しそうに手首を見せてきた。
「私はブレスレットを頂きました」
「吉光のも綺麗だな」
「一生の宝物にします!」
嬉しそうに愛娘を抱きしめる一期にシヴァも嬉しそうに笑った。
「なぁ、怜悧と朱乃は宗近に万年筆を送ったみたいだぜ、今写真きた。
めっちゃ喜んでるな、顔文字ついてる」
鶴丸は可笑しそうにグループラインを見ながら、黒葉の髪紐と一期のブレスレットをラインに送る。
「それじゃあ冷めないうちに食べましょう。
黒兄さんの好きなものばかり揃えました、国兄さんの様に上手く味付けでき無かったですが…」
「とっておきの日本酒も用意したぜ!」
「いや、吉光が作る料理ならなんでも美味いぞ、ありがたく頂こう」
いただきますと言ってから丁寧に味付けされた和食中心の食事を楽しんでいく。
子供達が部屋で遊び始めれば、大人組は酒を煽って盛り上がり始めた。
酒に弱い黒葉はすぐに出来上がってしまい、頬を赤くしながら鶴丸の腕に収まる。
「おつりゅ…だっこぉ…」
切なげに鶴丸に抱き着いて擦り寄ってくる黒葉に鶴丸は混乱して国永を見る。
「あれ、お鶴は知らなかったっけ?
黒葉酒めっちゃ弱いんだ、多分翠と同じくらいな。
んで、酔うとそうやって誰彼構わず甘えて誘惑するから気を付けろ」
国永はあっけらかんと言いながら缶ビールを開ける。
「えっ!ま、ええ?こ、これは…どうすれば…」
「好きにさせてやってくれ、そのうち眠くなって寝落ちするから。」
「黒兄さんを甘やかすってあなたが言い出したんでしょう?
責任もって存分に甘やかしてください」
「んっ、よしみちゅも…だっこ」
「え、だめだめ!黒兄は俺が抱っこするの!こんなフニャフニャした黒兄なんて滅多に見れないだろ!」
ぎゅっと腕の中に黒葉を閉じ込めれば、ふにゃりと緩みきった顔で笑い、抱き着いてくる。
「おちゅりゅ…しゅきぃ…」
呂律が回らない声がいつもより幼く、頼りになる父の姿はどこにもなかった。
「国兄、こんな黒兄を外で飲ませたりしたらお持ち帰り確定だろ!
俺心配になってきた!!」
「付き合う前はしょっちゅうだったぞ?
大学の先輩にマワされたり、職場の飲み会で持ち帰られたり…
付き合ってからは飲み会に行くこと自体減ったし、本人も1杯だけ飲んであとはソフトドリンクとかにしてるみたいだけどな、たまに潰れて帰ってくる事はあるな」
「ちょ、危ないだろそれ!
国兄は酒強いから良いけど、黒兄美人だしエロいからこんなのその気がなくても頂かれるよ!
国兄は嫌じゃないのかよ?」
「嫌だけど…黒葉は貞操観念が低いし自分の事には割と疎いとこがあるから
意図的に酔い潰されてって感じだろうなぁ。
酒が入るとどうも頭が回らないらしくてなぁ…
飲むの自体は好きなんだけどな」
困ったように笑いながら次々ビールを開ける国永が酒に強くて本当に良かったと鶴丸は心底思った。
「おちゅりゅ…ちゅーしたい」
「ちょ、まてまて、黒兄も椿と同じキス魔か!」
「ちゅ、んむ…ちゅりゅ…ふ、んんぅ」
鶴丸は黒葉に馬乗りになられて、そのままソファーに持たれるようにキスを繰り返さる。
「んん!んぅ、は…ちゅ、んんっ!
くろに、離し…国兄!国兄たすけ、んぅ!」
キス責めにあい、ぐったりする鶴丸をぼんやり見下ろしてきょとんとする黒葉を国永が抱き上げて自分の膝に座らせる。
「黒葉、もうダメ。
俺がお鶴に嫉妬しちゃうから、な?」
「ん、くにぃ…ちゅー」
「はいはい、ちゅー」
国永が慣れた様に黒葉を抱き締めてキスをして頭を撫でる。
解放された鶴丸は一期に無言で抱きついた。
「いち…あれはやばいぞ、俺キスだけで立てなくなるかと……いち?」
一期はウトウトしながら、鶴丸をギュッと抱き締めた。
「ずるいです、私もちゅーしたいです」
「ちょ、君まで酔ってんのか、やめ、んっ…」
「あなたばかり、いつも黒兄さんも国兄さんも独占してずるいです」
眠気も相まってか素直な一期にドキドキしながら混乱した鶴丸は取り敢えず一期の頭を撫でる。
黒葉は国永の腕の中でほとんど意識を飛ばしてる。
「ん…」
とろんとした瞳で眠そうに目をこする黒葉を抱き締めて、愛しそうに頭を撫でる。
「吉光、今なら黒葉を抱っこ出来るぞ?」
「……だっこ、したいです…」
もそもそと移動してきた一期がギュッと黒葉を抱き締める。
「ん……よしみちゅ…」
「なぁ国兄、俺の旦那と父さんが可愛いんだけどどうしたらいい?」
「はは、そうだろ?
俺もたまに黒葉を甘やかしたくなったら酒飲ますんだ。
素面だったら俺にだってあんなふうに甘えないからな。」
「俺、今度黒兄が何処か飲み会行く時着いてく。
遠くから襲われないか見張る」
「こら、そんな事しなくてもいいんだよ。
黒葉だって子供じゃないんだ。」
「でもたまに潰れて帰ってくるんだろ!?
絶対襲われてるだろ!」
「そうでも無いけどな、まぁ稀にかな
でも基本は宅飲みしかしないぜ。
あとはまぁ気心知れたやつと飲むくらいか」
からからと笑いながら二人を見遣れば、一期が甘える様にすっぽり腕に収めた黒葉に頬をすり寄せていた。
「黒兄さん可愛いれす…」
「むにゃ……よしみちゅ…しゅき」
黒葉もふにゃりと緩みきった笑みで一期に抱き着いて何度もキスを交わす。
「ん……あつい…」
やがて黒葉がカーディガンを脱いで日焼けしてない肌を晒す。
更に中に着ていたブラウスのボタンも外し始めた辺りで国永が黒葉を抱き上げた。
「黒葉、俺以外の前で脱いじゃダメって言ってるだろ?忘れちゃったか?」
背後から包み込むように抱きしめて、ボタンを外す手を包み込み、手を離させる。
耳元で囁けば、ビクッと身体が震えて熱の篭った視線で見上げれば優しく笑いかける国永と目が合う。
「ん…くに……あいしてる…」
舌足らずに愛を告げればくたりともたれ掛かり、そのまま小さく寝息を立てる。
「おやすみ、愛しい俺の黒葉」
額にキスをして、抱き締めたままビールを煽ると、一期もどうやら寝落ちた様で鶴丸に膝枕されながら幸せそうに眠ってた。
「はー、まさか黒兄があんなになるなんてなぁ。国兄が強いからてっきり黒兄も強いのかと思ってた」
「はは、まぁ黒葉も俺も人間だからな、欠点や弱点はあるって事だ。
黒葉は特に感情表現が苦手だからな、甘やかしたくなったらこうやって一緒に飲んでやってくれ。
お鶴達に誘われたなら黒葉も喜ぶし、俺がイイって言ったって言えばまた可愛い黒葉が見れるぞ?
ああでも二日酔いするタイプだから量は程々にな?」
「俺は国兄にも可愛く甘えて欲しいんだけどなぁ…」
「それは俺より酒が強くなったら見れるかもな?
じゃあ俺達はもう寝るぜ」
「ん、俺も寝るよ。後片付けは明日の朝やろ…もう眠くなった…いち、ほら起きろよ、俺じゃ君をベットまで運べないから自分であるけ」
ゆさゆさと揺さぶればぼんやりした一期が目を擦りながら体を起こした。
「んぅ…つる?」
「いち、ほら寝るぞ、立てるか?」
「たてます」
ふらふらしながら立ち上がって鶴丸に支えられながら一期を寝室に連れていくのを見て、国永も黒葉を抱き上げて客間のベットに横たえる。
服を脱がせて荷物の中から黒葉と自分の夜着を取り出して着替えさせる。
頻繁に動かしても全く起きない黒葉の無防備さに心配にはなるが自分の前だからだと思えば愛しさを感じる。
ベットに潜り込んでぎゅっと抱き締めれば黒葉が寝言で国永の名前を呼ぶ。
国永は愛しそうに微笑んで眠りについた。

二息歩行


「あの…わたし、鶴丸君の事が……」
照れた様に告げる少女を、鶴丸は興味無さげに見下ろしていた。
チュッパのイチゴ味を咥えながら首を傾げる。
「俺、君に全く興味無いんだけど…
付き合いたいなら国兄に聞いてくれ」
「え、国永くんに?」
「そうそう、お鶴は俺の可愛い弟だからな、お鶴を幸せに出来ない奴にお鶴は渡せないんだ、悪いな」
不意に、背後から鶴丸をぎゅっと抱き締める鶴丸と瓜二つの顔。
ただ瞳の色だけが、鶴丸とは違っていた。
あとは寸分違わず同じつくり。
「国兄、もう用事は済んだのか?」
「ああ、可愛いお鶴に悪い虫がつかないか心配になってな」
「何だよそれ、警戒心ないのは国兄の方だろー。
俺がいつもどれだけ心配してるのか少しは理解してもいいと思うけどなぁ」
「ってな訳で、君にお鶴を幸せに出来るか?
出来ないってなら…そうだな、俺と付き合わない?」
「えっ?」
少女は期待したように頬を染めて顔を上げた。
「…あの、国永くん、私の事好きなの?」
「国兄、何言ってんだよ、国兄は俺のだろ!俺を捨てるのか?俺よりこんな女の方がいいって言うのか!
なぁ、こんな女より俺の方が可愛いよな?
俺の方が国兄を一杯愛してるし、気持ちよくできるし、知らないことなんて何一つないんだからな!」
目に見える嫉妬に涙目になりながら国永の制服を掴む鶴丸を、愛しそうに抱きしめる。
「ふふ、判ってるよ。
君が知らない女と二人で話してるのが見えて嫉妬したんだよ、ほら機嫌なおしてくれないかい?」
国永は優しく笑って鶴丸の両頬を包み込んでキスをする。
「んっ、ふ、んちゅ…」
舌を絡めながら水音を響かせて夢中でキスを交わすふたりに、少女は泣きながら駆け出してしまった。
「お鶴の口の中イチゴ味だな」
「ん、イチゴ味舐めてたから…」
頬を染めてフニャっと笑う。
「帰ろうか、今日はお鶴の好きなビーフシチューだからな?」
「マジか!こないだ母さんから届いた荷物にデミグラスソース入ってたからそろそろかなって思ってたんだ!」
ぎゅっと抱きついたまま下駄箱に向かう。
2人の上下に並んだ靴箱の中には手紙や贈り物が押し込めれていた。
「俺の国兄なのに…」
鶴丸が憎々しげに呟いて国永の下駄箱の中からバサバサと手紙や贈り物を床に投げ捨てる。
「こら、お鶴。駄目だろ、床に投げ捨てちゃ…
こう言うのはちゃんとゴミ箱に捨てないと。
ほら、お前の下駄箱のゴミも寄越せ」
「ん。ごめん…そうだよな、足元見ない宗近とかが転んで頭打ちそう」
「ちかは少し頭打った方が正常になるんじゃないか?」
笑いながらゴミ箱にゴミを捨てて靴を履き替える。
仲良く手を繋いで2人暮らししてるアパートに帰ると部屋着に着替えてから国永がアイスコーヒーを二人分持ってきた。
「はい、お鶴」
「ん、ありがと」
鶴丸はふにゃりと笑って国永に甘えるように擦り寄った。
産まれた時からずっと一緒、片時も離れた事は無い。
お互いがお互いのために生まれてきた。
「鶴丸は本当に国永の言うことだけはちゃんと聞くのね」
幼い鶴丸に母親が苦笑しながらぼやいたことがある。
「国永はお兄ちゃんだから、鶴丸の事頼むわね?」
優しく笑って二人を抱きしめた母親の事は嫌いじゃなかった。
だけどそれよりも目の前の自分の半身が愛しくて欲しくて仕方無かった。
「国兄ー、国兄ー」
小さな頃から自分にベッタリ甘える弟が可愛くて仕方がなかった。
この子には自分がついていないと、汚い世の中から純粋な弟を守ってあげないといけないと思ってた。
鶴丸も優しい兄が大好きだった。
どこか抜けている兄を支え守らなければならないと思ってた。
双方が互いの願いに、思いに気づいた時、それは燃え上がる恋の炎に変わった。
求めるままに淫に互いを求めあった。
2つに分かれた体が一つに戻りたがるように、自らの半身を求めた。
「国兄、愛してる。
俺以外誰も見ないで、愛さないで、俺を一番に愛してよ」
「俺はいつでもお鶴しか見てないぞ?
愛してるのも世界でお鶴ただ1人だ、だってお鶴は可愛い俺の弟で恋人だからな」
「だったら何で!あんな女と付き合うとか言うんだよ!
俺嘘でもそんなこと聞きたくない!
国兄は俺だけのものなのに…
俺は国兄だけ居ればいいのに国兄は違うのか?俺がいなくても平気なのか?」
狂気を孕んだ望月の瞳が不安そうに縋る様に国永を見上げてくるのが国永には心地よかった。
このどこもかしこも可愛らしい生き物は全てが自分のために産まれてきたんだと優越感に浸る。
「そんな事ない、君が俺の腕の中からどこかに行ってしまうなんて考えられない。
君が俺を置いてくなら俺は君以外の全てを壊して俺の元から離れられないようにするぜ?」
愛しそうに微笑んでキスを交わす。
「んっ、くに、ふぁ…」
舌を絡め取れば唾液が口の端から溢れ、潤んだ瞳が国永を見上げる。
「くにに、もっと欲しい…」
「今日のお鶴は随分甘えただな?
でもそろそろ飯の支度しないと」
「……1回だけ…ダメ?」
「君の1回だけは1回で終わった試しがないからダメ。
それともビーフシチューはお預けでいいのかい?」
「だめ!やだ!」
「だろ?ご飯が終わったら好きなだけ抱いていいから、それとも今日は抱いて欲しいかい?」
「むぅ…どっちも」
鶴丸は拗ねながらも大好きな兄と大好物を秤にかけたがまだまだ育ち盛り、食欲には勝てずに大人しく引き下がる。
それでもやはり先程の発言が気に食わなくて、国永にピッタリ抱きついたまま離れようとしない。
こと国永に関して独占欲が強いのは自覚していたが、他の奴に取られるくらいなら、愛しい兄を殺して自分も死ぬ。
そうすれば自分以外誰のものにもならない。
「ジャガイモ一杯入れて、俺ジャガイモ好き」
ぎゅっと甘えるように抱きしめて、スリスリ頭を国兄の首元に擦り寄せる。
顔も体も寸分違わずそっくりなのに、赤い瞳と、少しだけ違う身長が鶴丸のコンプレックスだったが、こうして甘える時だけは少しだけ小さくて良かったと思う。
「はいはい、お鶴はビーフシチューのジャガイモ好きだもんな?
一杯入れてやるからな」
クスクスと笑いながら国永がジャガイモを剥いてゴロゴロと切っていくのを眺める。
「ん…すき」
甘える様に頭をすり寄せる。
「それは俺が?ジャガイモ?」
「どっちも。国兄が作るから、ジャガイモ美味しい」
「そうか、それは良かった」
パックから取り出した肉や野菜を切って鍋に放り込む。
赤ワインやデミグラスソース、コクを出すための生クリームを独自の割合で混ぜ込んでいく。
鶴丸は疲れてソファーで眠っていた。
お気に入りのクッションを抱きしめて体を丸くして眠る弟の姿に、思わず笑みがこぼれる。
「本当に、どこもかしこも可愛いお鶴。
こんなに可愛いんだから、俺がしっかり守ってやらないと…」
鶴丸は国永が女子を誘惑しようとした事に怒ったが、国永とて同様にあの女に怒りを覚えていた。
殴るという意味で手を出さなかったのはむしろよく我慢した方だと褒めて欲しいほどだ。
それにあの女は国永が気のある素振りを見せれば掌を返し大切な弟をアッサリ捨てた。
いくら興味が無くても目の前で掌を返された鶴丸はいい気はしなかったはずだ。
そんな害虫と同じ空間で同じ空気をこの可愛い弟が吸っている時点で粉々にしてやりたかった。
「害虫如きが俺の可愛いお鶴に話しかけるなんて生まれ変わって出直してこい。
まぁ生まれ変わったところで、入り込む隙間なんてないけどなぁ。
この子は俺の為に産まれた俺の愛しいお鶴なんだから」
恍惚とした表情で眠る鶴丸の髪を優しく撫でて額にキスをする。
「ん…くに、にぃ?シチューできた?」
「もう少し」
「じゃあ一緒にゴロゴロしよ?」
そう言って鶴丸の手が国永の腰に回される。
「こら、まだシチュー火にかけてるから」
「やだ、俺まだ怒ってるからな。
国兄は誰のモノか、ちゃんと判らせてやる」
「お鶴はいつから兄ちゃんのいうこと聞けない悪い子になったんだ?
そんな悪い子はお仕置きするぞ?」
「国兄、いやっ、嫌いにならないで!
やだやだ、国兄に嫌われる位なら…俺、国兄を殺して俺も死ぬ!
俺を愛してくれない国兄なんて国兄じゃない!」
「……そうだな、お鶴を愛せない俺なんて俺じゃない、その時は殺していい。
君に殺されるなら本望だ。
だけど今の俺はこんなにもお鶴を愛してるんだけどなぁ、少なくとも見ず知らずの女を殺してやりたいほどには」
すると鶴丸はキョトンとしたあとに狂った様に笑い出した。
「あはは、可哀想、可愛そうだなあの女!
だって国兄に愛されないなら死んだほうがいいよな、死んでもいいよな?
俺だったら国兄に愛されないなら死んだ方がいい!」
「ふふふ、そうだな、死んでいいな。
俺はお鶴しか愛せないしお鶴も俺しか愛せないのにな?」
ぎゅっと鶴丸を抱き締めれば歪んだ笑顔で鶴丸が国永に甘える。
「へへ、国兄愛してる。」
「ああ、俺だってお鶴を愛してるよ。
お鶴が居れば何もいらない。
ほら、お皿出してくれ、そろそろシチューが出来るから。
食べ終わったら一杯可愛がってやるからな」
額をコツンと合わせて鶴丸の頬を両手で包み込む。
「国兄のシチューたのしみ」
鶴丸がそのまま国永を抱き寄せて舌を絡めるキスをする。
「ん、国兄シチューの味する、味見したから?」
「ああ、そうかも。今日の味はどうだ?」
鶴丸はしばらく考えた後口の端を吊り上げて笑った。
「判んないからもう一回」
そう言って何度も啄む様なキスを交わせば次第に呼吸が乱れる。
「ふぁ、ちゅ…んんっ、おつる、んぅ」
「んっ、くににぃ、ちゅ、んちゅ…
ふぁ、国兄美味しい…」
「ゾンビ映画の死体役になった気分だ。
ほら、本物のシチューはもっと美味いぞ」
「ん、おかわりいっぱいある?」
「あるぞ、いつも美味しいっていっぱい食べてくれるからな」
ようやく鶴丸が離れて、食事を終えて、後片付けをして一緒にお風呂に入り、心ゆくまで互いの身体を貪り合って一緒に眠る。
広めのダブルベットにぎゅっと抱き合いながら額を合わせて眠る双子の兄弟は産まれてから今までずっとこうして生きてきた。
そして、これからもずっと…



「で、君はお鶴が好きで付き合いたいから俺に協力してほしいのかい?」
可愛らしい少女は頷いた。
「国永くん、鶴丸くんのお兄さんでしょ?
鶴丸くんの好きな物とか教えて欲しいの」
照れくさそうな少女を前に国永は内心笑いを堪えるのが精一杯だった。
鶴丸がどれ程にこの双子の兄を溺愛し、欲しているか彼女は知らない。
鶴丸の好きなものなど国永以外ないのだから。
そうとは知らない少女は国永が自分に協力的であると疑いもしていない。
国永もまた、双子の弟を溺愛しているという事を知らない。
「そうだなぁ…お鶴は俺の作るビーフシチューが大好物だな。
後は…そうだな、ああ見えて可愛いものが大好きなんだ。
ひた隠しにしてるけど女子みたいな所があって可愛いだろ?」
「そうなの、鶴丸くんて男の子って感じなのにそんな一面があるのね」
「そう、部屋にはぬいぐるみも一杯あってな。
俺は寝る時に邪魔だからこれ以上増やすなって言ってるのに我慢出来ないんだよなぁ」
「……え、一緒に寝てるの?」
「変かい?兄弟だし別に普通じゃないか?
俺達二人暮らしだからな、個室なんて贅沢言えないし」
「そっか、そうだよね…変な事言ってごめん」
「いいや?君にはお鶴の事もっと知ってもらいたいしな?」
微笑んで、腕に持たれるように少女を見上げれば、頬を赤く染める。
「国永くん…」
「何だい?」
まるで誘う様に顔を近付ければ、少女はうっとりした目で国永を見詰める。
そして、そっと目を瞑る。
「国兄、何してんだ?」
背後から冷たい声が響いて、少女はビクッと体を震わせた。
そこには、望月の瞳にギラギラとした嫉妬を宿らせた鶴丸が微笑んでいた。
「んー、恋愛相談?」
「……そうか」
鶴丸は少女と国永の間に体を割り込めて、国永を乱暴に机に押し倒した。
ごんっと頭をぶつけた音がするが、国永は微塵も気にする様子はない。
「国永、愛してる」
そう言って鶴丸は恍惚とした表情で国永に覆い被さって舌を強引に絡め取りながらキスをする。
国永も抵抗せずにそのまま受け入れて、首に腕を回し体を密着させる。
わざとらしく水音を響かせながら見せつけるように濃厚で長いキスをたっぷりと交わす。
「ふぁ、んちゅ、お鶴、んむっ…」
「くにに、ふっ、んぅ、すきぃ、くににぃ、ちゅ」
目の前で激しいキスが繰り返され、たっぷり国永を堪能した鶴丸が満足して国永を離すと、ふんわりと蕩けた笑みで鶴丸を見上げる。
「国兄可愛い」
ちゅっと頬にキスをする。
「ねぇ、俺我慢出来ない、今スグ抱きたい…」
「ダメ、だってここ学校だろ?」
「だって国兄可愛いんだもん、それに国兄だってさっきのキスで感じたんだろ?」
鶴丸が国兄の下半身に手をすべらせる。
「ひゃう!?お鶴、だめ!いやだ、ここじゃイヤ…」
「何でだよ!俺とはしたくないのか?」
「ちが、お鶴の顔、見せたくない。
俺だけの、俺だけしか知らないお鶴を、誰にも見せたくない。」
鶴丸はようやく少女の存在を思い出した。
ぺたりと座り込んで両手で口を覆い、目を見開いて泣いている少女を鶴丸は鬱陶しそうに見下ろした。
「ひど…い、なんで…協力してくれるって……」
「何を言ってるんだい、君。
俺がいつ、君に協力するなんて言ったんだ?
俺はただ君がお鶴のことを知りたいって言うから教えてあげようとしただけだぜ?
お鶴がどれ程俺のことが好きなのかをな」
国永が妖艶に笑い、鶴丸に抱き着く。
それは兄弟のそれとは遠くかけ離れていた。
少女から見れば国永は遊女の様だった。
蠱惑的に鶴丸を誘惑する遊女。
「酷い…酷いよ…私はただ、鶴丸君の事が…」
「俺が好きなのに国兄に色目使ってたのかよ、お前最低だな」
鶴丸は少女の近くの机を思い切り蹴飛ばした。
「ひっ!」
「さっさと失せろよ、邪魔なんだよお前。
俺と国兄の時間を邪魔すんな」
鶴丸は少女を睨むと後ろの国永の手をぎゅっと握った。
「帰ろ、国兄。
途中で晩飯買って帰ろ、今日はめちゃくちゃ国兄を抱きたい」
「はいはい、判ったよお鶴」
国永はふふっと笑って鶴丸の頬にキスを落とす。
後ろですすり泣く耳障りな声を遮り、二人は手を繋いで下駄箱に向かう。
「国兄、国兄は俺以外必要ないよな?」
「そうだな。友達は居て楽しいけど、お鶴がいれば必要ないな。
君と一緒なら二倍楽しいけど、君がいないなら無いのも同じだ」
「へへ、良かった!」
鶴丸は幸せそうに笑って国永に口付けた。
「愛してる、国兄
誰のものにもなっちゃダメだ、俺だけを見て、愛して。
恋愛相談なんて止めて、俺は国兄しか要らないから告白されても興味無い」
「ふふ、ヤキモチ妬くお鶴も可愛くて、その顔が見たくてついな?
俺もお鶴以外愛せないしお鶴以外に勃たないしキスしたいとも抱かれたいとも思わないから安心しろ」
「そうか?ならいいけど」
帰宅した鶴丸は国永をベットに引きずり込む。
制服を乱雑に投げ捨て、夢中になって国永の体を貪る。
「ちょ、お鶴、制服、シワになるだろ」
「無理、我慢できない。
国兄が悪いんだからか!あれだけ言ったのにあんなゴミを誘惑するから!」
「ひゃう!?おつ、や…んぅっ」
普段は落ち着いて柔らかなえみを浮かべる国永が自分の雌として恍惚と鶴丸を見上げる。
縋るように手を伸ばし、腹の奥まで鶴丸を迎え入れてぎゅっときつく締め付ける。
「んっ、ふぁ…くにに、きもちぃ…あっ、んんぅ…」
「んぁあっ、あっ、ふ…お鶴、もっと…もっと俺で気持ちよくなって?」
一つに繋がった身体はピッタリと重なり合い、奥深くまで満たされる。
「国兄…すき、愛してる」
余裕のない顔で国兄にキスをしながら奥を擦りあげる。
蕩けた顔で締め付けながら鶴丸を抱き締めて、国永は意識を手放すまで甘い快楽に溺れていた。

愛しい、堪らなく愛しくて壊したい、だけど大切にしたい。
そんな気持ちに支配され、鶴丸は国永から己を引き抜いた。
「あーあ…飛んじゃったか。
ふふ、国兄愛してる、ずっと永遠に、俺だけのもの」
グッタリ気を失った国永を抱き締めて、首筋の目立つところに所有の証を刻み込む。
「この身体も声も視線も体温も、全部俺だけのもの。
国兄には、俺以外何もいらないんだから…なぁ国兄?」
くすくす笑いながら、眠った国永を突き上げる。
「骨の髄まで余すとこなく俺の愛を注いでやるよ、俺の愛しいお兄ちゃん」
狂った様に笑いながら意識のない国永を犯す鶴丸は幸せそうに笑っていた。

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