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おひめさまの憂鬱。後編(途中まで)

羽根のように軽い身体をとさり、と寝室のベッドに横たわらせて緊張気味に見上げてくる顔に微笑みを浮かべる。
何度抱いても初々しさの変わらない様子は愛らしく、一つ一つモノを教えるのも甘く溺れさせるのも思いのまま。
それがまた暴く側の劣情を煽るのを、このいとけない子は知らないのだろう。

「はふ……しろ、ちゅうしてぇ?」
「はっはっは、好いぞ好いぞ」

愛らしくキスを強請る子に、あやすように唇を降らせていく。
最初は啄むように鼻の頭を、桜色に染まる頬を。
我慢出来ずに唇を尖らせた所で唇に。
しっとりと濡れる柔い唇を食んで堪能し、舌を這わせて味わう。
ほんのりと甘く感じるのは愛おしさ故か。

「ん、ちゅ……はぷ、ん、んんっ……ちゅ……」

蜜色の瞳を濃く濡らせ、うっとりと黒鶴がキスに酔いしれる。
ちゅうちゅうと吸い付くその吐息ごと貪るように、口内を暴いていった。
舌の根や上顎を突くと息を呑んだように身体を奮わせ、舌を絡ませれば夢見がちに目を細める。
舌を伝って白月の唾液が黒鶴の口内へ。
こくり、こくりと小さく喉を震わせて呑み込んでいくが、それでも飲み下しきれなかった分が口端から垂れる。
キスだけでとろとろに蕩けているうち、ベビードールの胸元を飾る白いリボンを解いていった。
淡く透けるそれを左右に割り開けば、陶磁器の肌を隠す白いコルセットが相見える。

「ぁ……」

口内を犯す舌を止め、フリルのあしらわれたコルセットの前面のホックを少しだけズラして胸元を晒した。
その動きを感じた黒鶴が小さく声を上げる。
これ以上の肌を晒した事もあるのに羞恥を感じるようで、微笑ましい様子に笑みがこぼれた。
今度は胸元でツンと起って桜色の腫れて主張する飾りを、唇と指で弄ってやる。
ちゅ、ちゅうと吸い付き、カリカリと先端を引っ掻くように愛撫する。

「ひゃっ!?あ、ぁあっ、やぁ……だめ、ぇ……! んっく、そりぇ、もじもじ、しちゃあ……!」
「ふふ、好いのか? たずはここをいじられるのが好きだなぁ」

ひんひんと鳴き声を上げる黒鶴に笑みを深め、口に含んだ飾りを舌で押し潰し、歯で軽く咬む。
びくりと大きく身体を震わせ、白月の頭にくしゃりと手が置かれる気配がした。
初めは引き離すように、けれど次第に頭を抱えるように胸へと導かれる。
快楽から逃げようともがいていた身体は、差し出すように胸を反らせ。
ちゃんと触って欲しいと言わんばかりに腰を押し付け、下半身からはくちゅりと濡れた音が響いた。
固く目を瞑った顔をシーツに押し付け、空いた手でシーツを握りしめて抗う黒鶴は気付いていない。

「あ、あぁ……や、ぁあん、しろ、しろぉっ!」
「うん? どうした?」
「も……まえ、も……さわってぇ……」

懸命に白月の頭を掻き抱き、黒い睫を震わせながら蜜色の瞳を溶かす勢いで涙を流す。
涎を垂らしながら悶える肢体に、白月も興奮を隠しきれずごくりと喉を鳴らした。
ぷっくりと赤く腫らせた胸の飾りをコルセットの合間から覗かせ、レースの紐パンツを窮屈そうに黒鶴のモノが押し上げて先端が垣間見える。
一度も触っていないのも関わらず、完全に勃ち上がったモノからは溢れる程の先走りが雫となって竿を伝い落ちた。
胸だけで達する程には開発されていない身体は熟れきり、白月に触れられるのを待っている。
同じ男同士の性か、男性器というものはどれだけ親しくとも本来は見るのも遠慮したい所があった。
だのにそれが愛おしい相手というだけで、もっと触れて好くしてやりたいと思うのは何故だろう。
黒鶴の象徴は、その経験の無さと相まってか完勃ちしていても慎ましく赤く腫れ上がった違う何かのように見える。
ヒクヒク、ぷるぷると揺れる腰に合わせて主張するソレを、白月はくすくすと笑い握り込んだ。

「ひゃ――ぁアあ"あッ!? ふぁ、ああ、しろぉッ! てぇ、きもひっ! んんっ、はぁあ……!!」

ぐちゅぐちゅと先端から零れる先走りを全体に塗り込め、少し強めに握ったままカリや裏筋に指の腹を擦りつける。
待ち望んだ刺激にか、慣れていない快楽にか。
目を見開いて眩ませながら喉を晒して泣き喘ぐ。
酸素を求めてはくはくと口を忙しなく開き、けれど合間から漏れる悲鳴がそれを許さない。
意識を飛ばしかけながら、尚も手に擦りつけられる細腰にぺろりと白月は自分の唇を舐めた。
早く食べてしまいたい、隅々までぐずぐずに解かして痴態を堪能したい、甘やかして優しく抱いてやりたい。
相反する想いに胸を焼かれながら、手の動きを一層早めて追い詰めていく。

「ひゃっ!? らめ、そりぇ、らめぇえええっ、あ、イっちゃ、イっく――あ、ああ"ぁアあッ!!」

最後には先端をぐりぐりと親指の腹で押し潰すように割り開けば、勢いよく白濁を吐き出した。
その色は白月が触れていなかった間も溜めていたようで、濃い白に濁っている。
はぁはぁと胸を大きく動かして呼吸を整え、ぐったりとベッドに項垂れる黒鶴の額に口付けを落とした。

「たず、可愛かったぞ。久しぶりで疲れたろう、すまないな……」
「……ん……んぅ、しろちゅ、きぃ……。あの、あのね? たず、きもちぃ、しちゃったのぉ……」

ぼんやりと合わない焦点で舌っ足らずに、首に両手を絡めてすりすりと甘えてくる。
これだけでご飯三杯、どころかオカズには不足しないと悶え、白月は手に吐き出された欲を舐め取った。
小さく首を傾げてその様を見ていた黒鶴は、何をしているか気付いた瞬間に目元まで顔を赤らめる。
思わず、といった具合で抱えた白月の頭に縋り付き、言葉もなく恥じらう様は愛らしい。
本当ならば繋がりたいと思っていたが、これ以上負担を掛けるのは酷だろうと白月は空いている手で黒鶴の背を撫でた。
その瞬間、弾かれたように黒鶴が顔を上げた。

「やっ! しろ、だめ! やめちゃやだぁ!」
「だが、たずよ……これ以上はお前に……」
「たず、しろつきにおつかれさま、するの。しろちゅき、みててぇ?」

ごそごそと体勢を入れ替えるように上下逆さまになり、白月の下半身に顔を近付ける。
スラックスを押し上げる熱い固まりはその上からでも分かった。
一瞬たじろいだ黒鶴だったが、顔を赤く染めながらも指先を動かして下履きまでを脱がせていく。
途中、下履きから顔を覗かせた白月の赤黒く怒張する象徴がぶるりと大きく震えて飛び出してきた。
うっとりと目を細め、恐る恐る赤い舌を伸ばしてモノを舐める。
ぺろり、と舐め上げる微かな感触と、何より視界による暴力により更に大きく膨らんだ。
驚いて一瞬身を引いた黒鶴だったが、意を決したように小さな口一杯にモノを頬張る。
けれど半分ほどもいかずに限界に達したようで、苦しそうに鼻で息をしながら目を見張った。
どうして良いのか分からず、思ったように動けない中で白月を見上げてくる。
黒鶴の愛らしい顔が男の欲を頬張って歪み、うっすらと涙目になっている様を見ているだけで今にも達しそうだ。

「はぁ……たずよ、一度離して舐めてくれるか?」
「ん、んんっ……ちゅ、はぷ……ふぁ、はぁ……えっと、こう……?」

れろ、ちゅぷ、と濡れた音が響く中で黒鶴が白月の性器を両手で握り、一心に根元から舐め上げていく。
固くなった玉をちゅうちゅうと口に含み、舌で転がし、根元から先端までをしゃぶり、先走りの滲む先端に吸い付いた。
ちゅうちゅうと音を立てながら舐めているうち、再び熱の篭もってきた身体をもじもじと震わせる。
白月は微笑んで黒鶴を抱き上げると自身の上に跨がるようにさせ、その美尻を両手で揉んで感触を楽しむ。

「ひゃあんっ!? しろ、にゃに!?」
「うん? なに、たずは気にせず続けておくれ。俺はこちらの用意をせねばな?」
「ん……んぅ、は、はずかしぃ……」
「はっはっは、好いぞ好いぞ。久しぶりになってしまったからな、いきなり俺の息子を挿れては傷付けてしまう」
「はぁ、む……ふぁーい……」

黒鶴のとろとろに蕩けた顔を見られないのは残念だが、それでも小尻を堪能するのもまた乙なもの。
後孔がそのままで見える形の紐パンは外さず、縁に舌を伸ばして触感を楽しんだ。
にゅるにゅると後孔に舌先が埋もれる度、下の方からは感極まった黒鶴の喘ぎが聞こえてくる。

「ぁ、あっ、にゅくにゅく、してぇ……ひんっ、やぁ……しろちゅきぃ……」

ふわふわと熱にうかされ、愛らしい言葉を繰り返す黒鶴は、それでも必死に奉仕しようと舐め上げた。
先端にちゅうちゅうと吸い付き、そのまま口に頬張って上下に顔を動かす。
含みきれない部分は手を添えて扱かれ、かなり気持ちが好い。
唾液を絡めて孔の縁を舐めていた白月は、性急になるのを承知で指を一本突き挿れる。
滑りを帯びた中をゆっくりと進み、また抜き出しては唾液を絡めて埋めた。
暫く室内にはちゅぷちゅぷ、くちゅくちゅと卑猥な水音と黒鶴の小さな喘ぎが広がる。
後孔が三本の指を飲み込んでとろとろに解れる頃には、白月のモノに頬擦りして項垂れていた。

「は、ぁん、ひゃうぅ……も、しろぉ……おにゃか、きゅうきゅう、してぅ……」
「ああ、待たせたな。たず、気持ち良かったぞ。ありがとう」

身体を持ち上げて上下を入れ替えてやり、くったりと力尽きる黒鶴の頬にキスを落とす。
焦点を合わせた黒鶴は白月の言葉にふんわりと微笑み、喜色を示した。

「たじゅ、うまく、れきらかったの」
「うん? 充分心が伝わるもてなしだったぞ?」
「らってぇ……たじゅ、ぺろぺろしゃれたら、きもちぃなるの。しろ、きもちぃしてないぃ……」

いやいやと駄々っ子の様に顔を振り、嬉しさから一点涙を浮かべてしょんぼりと落ち込む。
口の周りを唾液や先走りで汚し、顎が疲れる限界まで奉仕してくれたのだ。
白月としてはその表情や行動だけで十分に満たされ、満足しない訳は無いのだがどうにも伝わっていないよう。
触れるだけのキスを唇に落とし、黒鶴の顔を上げようと促す。

「たずよ、俺はお前の中で出したい。駄目か?」
「え……? え、あ、……ん、んんっ、あの、……い、いい……」
「良いか?」
「ん、あの……あのね? しろちゅきの、で……たじゅのおにゃか、つんつんして?」

ふんわり、と瞳を和ませて微笑み、白月に抱き着いて擦り寄った。
愛らしい無邪気な言葉と笑顔での誘いに、俄然張り切った白月は極上の笑みを浮かべて恋人繋ぎに手を握り直す。
きゅう、と握り締めるその細い手が愛おしい。
身体を入れ替えてベッドに黒鶴を組み付き、額に口付けを落としながら顔を覗き込んだ。

「挿れるぞ?」
「ん…………ぁ、……んんっ、は、ふ……ふぁあ……っ!」

(ここまで)

おひめさまの憂鬱。前編

黒鶴はその日、一つの決意を胸に携帯を触っていた。
白月と幼いながら貫き通してきた想いを通じ合い、恋人となったのはつい最近のこと。
触れ合う事に嬉しさを感じ、白月もまたそれを喜んでくれていた。
二人が揃う時は黒鶴の定位置は白月の膝の上。
それが嬉しくて安心して、頭を撫でられるとうっとりする程気持ちが良い。
昔はしていたけれど今は怖くて出来なくなっていた食べ物を分け合うという事も、怖く無いのだと教えてくれた。
夜には店を閉め、二人でくっついてちゅうをしてからベッドにつく。
至福の一時を過ごしていた。
けれど、そんな日々を過ごしていて気付いたことがある。
白月の顔色が日増しに悪くなっていく気がするのだ。
食欲は変わらず、ベッドでは黒鶴の方が先に眠り後に起きてしまうので分からないが、恐らく睡眠も十分に取っている。
にも関わらず、時折ぼんやりと遠くを見て微かにため息を吐く時があった。
仕事が忙しいらしく、黒鶴が店を閉めた後も暫く仕事部屋に篭もっている事も。
恋人が疲れている時、普通の人はどうやって労るのだろう。
他人に興味がない黒鶴にはその普通は分からず、けれどどうでも良い他人に聞く気にもなれず。
幼馴染みに相談するのも気恥ずかしく、となれば黒鶴に頼れるのは一人だけ。
白月の兄代わりであり、家族と言って可愛がってくれる三条宗近。
ちか兄と呼び慕っている人ならば、きっと上手い手段を知っているに違いないと一縷の望みを託すのだった。

『ちか兄、ちょっと相談したい事があるんだけど。良いかい?』
『おお、おはよう。相談か? あい分かった、俺で分かる事なら良いぞ。話してみると良い』

ラインを送り、和やかな笑顔が思い出せるような柔らかい物言いでその人はすぐに答えてくれる。
それに安心をし、更に文章を打ち込んでいった。

『最近、白月が疲れてるみたいなんだ。その、出来れば……こいびとらしい労り方、とか、知らないかなって』
『ほう、恋人らしい、とな?』
『ん……あの、白月に喜んで欲しくて。おかしい?』
『いいや、おかしくないぞ。たずは少々遠慮がちな所があるからな、あれも喜ぶだろう。ふむ、恋人らしい労り方か……』

遠慮がち、と言われて首を傾げて考える。
むしろ自分はいつもワガママ放題に好きなことを皆にさせて貰いながら育ってきた。
それこそ末っ子"らしい"育ち方だと思う。
両親は幼馴染みが兄弟のように黒鶴の面倒を見てくれるから助かると言っていた程、自分たちは一緒に居た。
嫌な事はしたくない、出来ない事はしなくて良い、そうやって甘やかされている。
今もそう、気付かないうちに幼馴染み達が気を回してくれるのだ。
だから、という訳でも無いが。
白月の恋人、彼の唯一のお姫さまだと言ってくれた事が嬉しかった。
その気持ちが嬉しくて、大切にしたいと思った。
何より、恋人やお姫さまという特別な事が嬉しくて、特別な事がしたくなったのだ。
黒鶴のそんな気持ちが見透かされたような、実際見透かしているのだろう言い回しに恥ずかしさを覚え、携帯を両手で握り締めて顔を赤くする。
無意味にあわあわと手を動かし、熱くなった顔を手で仰いだ。
そんな黒鶴の恥じらいなど知らない宗近からはピロリ、と更に返信があり、

『良い方法があるぞ。まずは、お前達の寝室へ行ってだな……』

携帯を覗き、更に続く文章を見た黒鶴は目を見張った。


最近の白月はフリーランスのプログラマーとして、今は企業向けのアプリ開発に苦心していた。
自室とは別に用意した仕事部屋で一日パソコンと向き合い、プログラミングに勤しんでいる。
そもそもは愛らしく愛おしい幼馴染みを魔の手から守る為。
自身の欲望の赴くまま、常に様子を知ることが出来たならと彼の周囲を見る目や耳を求めた。
結果、黒鶴の腕時計にはGPSが、彼のテリトリーには監視カメラと盗聴器が充実する事となる。
仕事の合間に別の専用モニターでその様子を見、片耳に引っ掛けるタイプのイヤホンで音を拾った。
勿論そんな事は黒鶴の知らない事なのだが、幼馴染みや馴染みの友人には周知の事実と化している。
そんなこんなで今日も今日とて黒鶴の様子を見ながらの作業。

『……お、いらっしゃい』

カランカラン、と涼やかな開店のベルが鳴り、大人しめに控えられた黒鶴の声が響く。
恋人となり白月だけのお姫さまとなった黒鶴は、元来の無邪気さも相まって可愛らしい笑顔を振りまくことが増えた。
幼い頃の彼の世界はとても狭く、時が過ぎる毎に色々なジレンマを抱えながらも成長した黒鶴はどこか人を引きつける魅力がある。
他人に開かれる事の無い鉄壁の城塞のような心。
その心中は幼さを含み、菓子のような甘さとふわふわと柔らかく可愛らしいものを抱えている。
一時期は白月が倒れた事を自分のせいと責任感を感じ、彼の無邪気さと甘さは拒絶と癇癪へと形を変えてしまった。
けれどようやくその長年のシコリを解消することが出来て喜びを感じている。
のだが、

『注文は……ああ、じゃあ空いている席に座ってくれ』
『はい、分かりました!』
『楽しみにしてます』

集音性の高いそれから聞こえてくるのは見知らぬ男達の声。
声変わりにより低さを増し甘やかな響きとなった声を弾ませ、黒鶴が頷いた。
蜜色の瞳を柔らかく和ませて口端を上げ、調理の最中に響く鼻歌が機嫌の良さを表してる。
そんな黒鶴の背をじっと眺めている客の様子に、白月は眉根を潜めた。
黒く艶やかな襟足だけを伸ばした髪、蜜色の瞳は大きく母親似の愛らしい顔立ち。
身長は平均的ながら、全体的に細い体付きをしなやかに動かす様は猫のよう。
彼らがどんな意図を含んで黒鶴を見詰めているかなど、白月には想像も容易い。
今すぐに黒鶴をその目から隠すか、彼らの目を潰してしまいたい衝動に駆られる。
だが、本来は客商売をしているのだから愛想は良い方が良いのだろう。
例え道楽だと任されているとはいえ、顧客が増えるのは好ましいはずだ。
何度目かのため息と共に、そう自分に言い聞かせる。

「たずよ……俺はお前の笑顔を、守れているだろうか?」

モニターに映る最愛の姿に指を這わせ、ひっそりと心中の吐露をした。
触れたいのに、触れる事をためらってしまうのはその先を望んでしまうからだ。
幾度となく黒鶴と繋がり、その身体を味わったが故に溺れてしまう。
けれど幼い頃から身体の成長に恵まれていない彼は、その細さも相まって体力に乏しい。
白月が望むままに貪れば、きっと彼を抱き潰してしまうに違いない。
時折、他人が無遠慮な眼差しを黒鶴に向ける度、隠して誰の目にも触れぬよう仕舞い込んでしまいたくなる事があった。
どろどろに甘やかし、自分だけを見詰めるよう飼い殺してしまいたい。
彼のいとけなさ、弱さを知っているが故に、凶暴な衝動を向けると同時に抑え込む事が出来るようになり。
何より、黒鶴から外への探究心を奪うことを許さなかった幼馴染み達の庇護が影響している。
そうやって自分の中で消化するうち、過保護とも過干渉とも言える方法に手を出す事で落ち着いてしまった。

『……やっぱりあの人、良いよなぁ……』
『付き合ってる奴居るのかな?』

黒鶴の鼻歌とBGMに隠しきれない、悪辣な言葉が聞こえる。
眉間の皺が険しくなる度に奥歯を噛みしめ、頭痛が酷くなるのを感じながら息を吐いて耐えた。
ギシリ、と椅子の肘置きが悲鳴を上げる。
いつの間にか握り締めていた、否、握り潰そうとしていたそれを、縫い付けられたように固まる指を引き剥がしていった。
目を閉じて瞑想する合間、彼らの顔を思い出してデータを引き摺り出す。
一度目は黒鶴の柔らかな微笑みに釣られて不用意に話しかけ、手痛い拒絶を食らっていた。
二度目はやはり顔すら覚えておらず、まずは常連として通う事を心がけたようだった。
三度、四度と通いながらも下心をあけすけに黒鶴に話しかけ。
これ以上は見過ごせない、と深く腰を落ち着けていたデスクチェアから立ち上がる。
向かった先は一階の喫茶店、カウンターキッチンで調理をしている黒鶴の背に被さるように立った。
不意な体温に驚いた黒鶴が振り返るのと同時に、自分の中で極上の笑みを浮かべながらその小さな唇に口付ける。

「――なっ!? し、白月、急に何を……」
「いやなに、小腹が空いて降りてきたらお前が居たのでな。随分と機嫌が良いようだが、何かあったのか?」
「ん……その、嬉しいけど……驚いた……。機嫌? ……まあ、良いかもな」

ふふ、と頬を赤らめてはにかみ笑いを浮かべる黒鶴に、作ったものではない笑みが浮かぶ。
ほわほわと柔らかな雰囲気で仰ぎ見る蜜色の瞳を、もっと喜ばせたいと心底願う。

「あ、けれど……人前でちゅうは……ちょっと、は、恥ずかしいから……」

調理の手を止め、コンロで隠れる位置で服の裾を遠慮がちに握り締めて上目遣いに見詰めてきた。
それはむしろ逆効果だと言い聞かせたいような、もっと愛らしいおねだりを聞いていたいような。
このままここで押し倒せたならばどれだけ良いだろう。
だがいとけなく無邪気さを振りまく姿も、愛らしく恥じ入る姿も等しく大事にしていきたい。
我慢のしどころだと自分に言い聞かせ、黒鶴の頭を緩く撫でた。

「すまぬ、たずが愛らしいので、ついな。続きは店が終わってから、だな?」
「店が……う、うん! あの……今日は、仕事……早く終わるかい?」
「ん? ああ……そうだな、今手掛けているものは終わらせておこう」
「そうか! ふふ、じゃあ今日は長く一緒に居れるな?」

ふにゃふにゃと嬉しくて仕方ないと言わんばかりの甘い笑顔に、再びキスを落とそうとして固まる。
つい先程の恥じらう姿も愛らしかったが、せっかくの機嫌に水を差してしまうのは申し訳無い。
何より、これだけ甘い雰囲気と意味深な言葉を交わしていればよからぬ虫も悪さを出来まい。
顔を近付けはしても唇を合わせることはせず、こつん、と額を付き合わせて鼻先を擦り合わせた。
嬉しそうに目を和ませながらも、どこか物足りないと言いたげに突き出された唇を交わす。
耳元で小さく、

「待っているぞ」

と、囁けば夢見るようなうっとりとした表情で見上げてきた。
名残惜しい気持ちはあれど、これ以上傍に居れば間違いなく収まりがつかなくなるだろう欲に蓋をする。
ふと、部屋へ戻る為に階段を上がっている最中に思い出した。
あれを手酷く抱いてしまわぬよう、触れ合いも最小限にキスをする事すら最近はしていなかったと。
店は不定休でやっている為、次の日の負担などを考えるとどうにも手を出しづらくなっている所があった。
何よりも抱いた後に残る色気と澄ました顔というのは扇情的に見えてしまう。
そんな姿を他人の目に晒す事を良しとは出来ず、物理的に距離を空けてしまっていた。
しかし気付いた所でやはりどうにも良い案が浮かばぬ限り、やはり自分が堪え忍ぶしかない。
戻った部屋のモニターから、先程の客が落ち込んだ様子で話し合っているのを確認して自分の考えに間違いはないのだと確信を得たのだった。


はてさて、二人がすれ違いの疲労を溜めている中で夜となった。
白月は言葉通りに早い時間から黒鶴の手作り料理を腹に収め、今はリビングのソファでリラックスしている。
黒鶴は宗近の教え通り、まずは密着して労うことを決めた。
おずおずと白月の隣に立ち、顔を上げて微笑んでくれるのを受けて膝の上へと腰を下ろす。

「白月、今日もお疲れ様! 最近、前にもまして集中してるみたいだけど……難しい内容なのか?」
「いや、ああ……そうだな。少々複雑でな。……寂しい思いをさせたか?」

微笑みを苦いものに変え、黒鶴の頬に手を添え顔を覗き込んできた。
その秀麗な顔立ちは昔から見慣れているとはいえ、恋人となってから意識をするようになった黒鶴は頬を赤らめて目を伏せる。
震える小動物のような反応に、そのまま押し倒してしまいたい欲と大切にしたい庇護欲がせめぎ合う。
この瞬間、堪えねばならないと自身に言い聞かせて精一杯の自制心を働かせる消耗は計り知れない。
困ったように笑い、近付けていた顔を遠ざけて頬からも手を離してしまった白月に、黒鶴はショックを受けた。
と同時に、やはり現状を打破するには宗近の教え通りに動かざるを得まいと覚悟を決める。
白月の手を取って腰に回させ、するりと滑らかな動きになるよう意識しながら胸に頭を預けて寄り添う。
実際はおずおずと恥ずかしげに手を取られ、しかしぎゅうっと目を瞑りながら抱き着かれと慣れていない事がよく分かる。
だがその精一杯のアピールは白月の胸を打つには十分なものであり、

「た、たずよ、何を!?」

普段は冷静沈着、もっと言うなら黒鶴や幼馴染みの事以外には冷徹とすら言える表情を焦りのものに替え、黒鶴の細い両肩に手を添えた。
うっすらと潤む大きな蜜色の瞳で白月の姿を写し、ゆっくりと目を瞑る。
これは所謂キス待ちの姿勢と気付いた白月は驚愕に身を震わせた。
真っ直ぐに育った黒鶴の情操教育上、こんな真似を出来るとは思えない。
となれば原因は限られ、宗近への苛立ちを深くした。
自分が堪えねばならない局面である事を知っていて教えたであろう底意地の悪さが分かる。
数秒間、目の前で目を閉じる黒鶴の桜色に艶めく唇を見詰め、生唾を呑み込む。
目を開けた黒鶴は酷く傷付いた顔をして顔を伏せてしまった。

「たず……今のは誰に教わった?」
「……白月のばか! もう、良いッ!」

くっついて来た時と同じ、それ以上の性急さで身体を離して寝室へと駆けだしてしまう。
咄嗟に追おうとしたが、下手にベッドのある場所で二人っきりになると堪えきれる自信も無く。
ソファに深く腰を掛けて項垂れるしか無かった。
せっかく黒鶴が恥ずかしさを偲んで近付いてくれてきたものの、欲に流されまいと無碍にしてしまった。
大切にしたいと思うからこそのジレンマにため息を落とし、黒鶴の煎れてくれたコーヒーを飲んで頭を冷やす。
もう少し落ち着いてから話しをしに行こうと決め、それよりも先に開いたドアの音に後ろを振り返った。

「たず、さっきはすまなかっ……――」

呆気にとられた。
寝室から出てきた黒鶴は白いレースのニーソックスにガーターベルト、白いパンツは左右で紐を結ぶTバックタイプの中でも面積の狭いもの。
白いコルセットは陶器のような白い肌によく映える。
淡いピンク色のベビードールから身体の全てが透けて見える姿はまさに寝室の天使。
全て自分でコーディネートしたものだったが、ここまで似合うとはやはり黒鶴の全てを理解していると言っても過言ではない。
ないのだが、何故理想の姿を目前に晒しているのか。
目を見開いたまま、白月は理解を超える状況に完全に固まった。

「あの……に、にあう……?」
「あ、ああ……想像以上だ……」
「えっと……ね? ちか兄に、聞いたんだ。白月が、疲れた顔をしてるから……」
「むねちか、に……そうか……。いや、だがそれは……」
「ん……。あの……寝室、棚の、紙袋……これ着て、労ったら……喜んでくれるって」

今この瞬間も恥ずかしいのだろう、耳や首元まで真っ赤に肌を染めながら、ベビードールの裾を両手で掴んでもじもじと身体を震わせている。
少し動いてしまうだけで前や後孔が見えてしまうのを躊躇っているようだ。
見れば見るほど艶やかな姿に生唾を呑み込む。
だが、黒鶴の愛らしさを天使という形で昇華するならばむしろ淡い桃色のネグリジェの方が良かったかも知れない。
今の姿も愛らしいのだが、それ以上に男の欲を具現化したようなアンバランスさも感じる。
襟足の黒髪が肩から胸へと垂れているのを見、思わず手を伸ばして掬い取った。
びくり、と身体を強く跳ねさせて蜜色の瞳が上目遣いに覗き込んでくる。

「あの、あのな? その……白月に、喜んで欲しくて…………こ、こいびと、と、して……」

顔を真っ赤に染め上げ、胸に両手を握り締めて一生懸命に告げられた内容に、白月の鉄条網じみた理性はブチりと勢いよくはじけ飛んだ。
慣れていない羞恥に身をよじりながら誘惑してくれる恋人に、愛おしい人に、これ以上耐えろという方が無理だろう。
耐えるならそれは去勢されているか不能に違いない。

「ふふ、そうか……恋人として、な?」
「あの……つかれてる? 元気になる?」

心配する気持ちで一心に気遣ってくれる姿はいとけない幼子のよう。
そんな彼が自分の手管でとろとろに蕩け熟れた果実の様に甘く解れていく様を想像すると、腹にクるものがある。
腰回りに、頬に手を当てながら密着して顔を近付けた。
先程拒絶されたにも関わらず、柔く微笑みながらすりすりと頬を擦り寄せてくる。
その姿が愛らしく、控えめに存在する小さな唇に口付けた。
ちゅ、ちゅ、とリップ音を鳴らしながら緩く、唇に舌を這わせて縫い付けるように深く。
都度与える刺激を変えていきながら顔色を窺えば、鼻でする呼吸に慣れずに合間に口を開いて小さく息を吐いた。
その隙を狙い、口内へと舌を這わせて逃げる舌の根、裏、歯列を割って上顎を舌先で擽る。
閉じていた目を、黒く長い睫を震わせて白月を映し出す。
目が合うと、花が開くようにふわりと甘い微笑みを浮かべた。

「んぅ、しろ……? あ、やっとわらったぁ」
「うん?」
「さいき、つかれて……こわいのかお、してたから。ふふ、うれしぃ」

喜色一面に華やぐ顔に、そこまで心配を掛けていたのかと申し訳無くなる。
だが、そもそも疲れの原因となったモノは黒鶴の考えとは別にあった。
少なくとも今はもう止めてやる気にはなれないが、確認だけはと頭を撫でながら口を離す。

「んぅ……しろぉ?」

既に快感で蕩け始めている為か、舌っ足らずに黒鶴が口を開いた。
心配はいらないと伝えるためににこりと微笑み、
「たずよ、すまん……今宵は抱き潰してしまうやも知れん。店の方は……」
「え?あ、えっと……ちかにぃが、おやすみするといい、って」

どうしたの?と言葉の代わりに小首を傾げて見上げてくるいとけない様子に、苦笑を漏らす。
やはり全てを知っていて助言をしたに違いない。
彼の手を借りるのは癪だが、黒鶴に心配を掛けている事に気付けなかったのは白月の堕ち度だ。
お陰で今日はじっくりと二人の時間を楽しむ事が出来るのだから、後でお礼参りにでも行くとしよう。
となれば優先順位は目の前の愛らしい恋人の事。

「そうか、では問題ないな。ふふ、似合って居るぞ?一度着て貰いたいと思っておったのだが……恥ずかしがり屋ゆえ、叶わぬとばかり」
「ん……えっと……えっちぃ服、だよな……。恥ずかしいけど、しろが用意してくれたから」

うっとりと至福に微笑み、言葉通り羞恥は煽られているのだろう赤い頬は愛らしく食べられるのを待つ果実の様。
耐えに耐えた末のご褒美に白月も喜色満面、極上の笑顔で黒鶴を横抱きに寝室へと歩き出した。

おめがばーす?

あつく、あつい、体内でうごめく熱が身を焦がし、焼け付く息が呻きとなって漏れて出る。
突然の不調に気付いたのは作戦開始の直前。
部隊長のリンドウと極秘任務でウロボロスの討伐に来ていた。
地面を這うように動くその巨体を目にした瞬間、時が止まった気がする。
指示があるより先に飛び出して神機を構え、その巨体を支える脚のような触手を噛み千切った。
その瞬間に感じた昂揚は、捕食者としての本能で。
神機に請われるままに脚を、巨体をむさぼり食う。
邪魔者を排除しようと振り払われる触手を飛び退って回避し、続けざまの残撃も身を捻って寸でで避けた。
頭にあったのはもっと満たされたいという欲求と、猛烈な飢餓感。
喰わなければバラバラに引き裂かれてしまいそうな意思をかき集め、ひたすらに神機を身体を奮い続け。

「国永ッ!そこまでだ、もう良い!!」

リンドウの声に、あれだけ煩かったウロボロスの暴声が止んでいることが不思議だった。
我に返った瞬間に気付いたのは、カラカラに渇いた喉と肩でする呼吸。
そして、手に持った神機が貪る残骸が目に入った。

「……リ、ンドウ? これ、は……」
「お前……覚えて? いや、今は良い。とにかく、コアは奪取した。お疲れさん」

労うように頭を叩かれ、肌が触れ合った際の熱に意識が飛びそうな程の激痛を感じる。
思わず振り払って頭を押さえれば、常にはない国永の様子にリンドウが困惑した。
肩を掴むために伸ばされた手を避け、首を振って大事ないことを伝える。
そうでなければ、今すぐに彼を引き裂いてしまいたい衝動に駆られたからだ。
本来は任務が終了次第格納しなければならない神機に縋るように身体を預ける。
他のゴッドイーターと違い、国永は特殊なケースなのだと医師からは言われていた。
国永の弟、鶴丸もまた違ったケースであり、二人はカウンセリングが必要だった。
けれど鶴丸はそれを異常に恐がり、国永が治療を受ける事にも好い顔はしない。
不思議な事に、国永は神機との同調率がずば抜けて高いのだと言う。
実際、神機を持っている時の国永は感覚も優れ身体能力も跳ね上がる。
だから少しの不調は隠してきたのだけれど、今回ばかりは神機に縋っても良くなる見通しは付かなかった。

「は、はぁ……」

少しでも身体の熱を吐き出そうと、震える喉で何度も呼吸を繰り返した。
けれど、熱のせいか本能のせいか、上手く回らない頭で思うのは一つだけ。
欲しい、欲しい、熱が、身体が、心がただそれだけで埋め尽くされる。
くらり、と回る視界の中で他人事のように倒れるな、と思った。
ふいに目の前に差し出されたのは小さな手。

「ここでたおれたら、きえてしまう」
「……?」
「きみはまだ、きえたくないんだろう?」

霞む目線を上げた先にいたのは、真っ白な子供の姿。
見覚えがあるそれに、どうしてここにいるのかと不思議に思うより心を占めたのは、ただ、会いたかったという安堵で。

「きみのこころ、わけてもらうぜ。なに、ほんのひとかけら。きみがわすれてしまったこころだけさ」

何を言っているのかは分からなかったけれど、涙が出るほど安心する。
琥珀色の瞳が細く笑みを描いて、おやすみ、と形を取ったところで意識は黒く塗りつぶされた。



眠っていたはずの意識を覚醒させたのは、小さな悲鳴と甘い花の香りだった。
周囲を見回せば覚えのある部屋で、最後の記憶が戦場だった事を鑑みるにリンドウが連れて帰ってくれたようだ。
ベッドの上で熱い身体を持て余し、甘い香りの出所を目で探す。
不意に、襟足だけを長く伸ばした白い跳ねっ毛の頭が見え、

「つる……?」
「くににぃ!? 起きたのか!?」

ぼんやりと鈍い頭のまま、彼の名前を思い浮かべれば反応があった。
振り返った瞳は潤んでいて、もしかしたら泣いていたのかも知れない。
鶴丸は優しいから。
目を瞬きながら様子を見ていたら、照れ隠しのように微笑みを浮かべて皮を剥いた果物を小皿に近寄ってくる。

「くにに、熱があるんだって。……無茶、したんだろ?」

悲しそうに目を伏せる鶴丸の様子に、何かを言わなければいけないと思うのに。
紅い筋の入った白い指先から、うっとりする程の甘い好い香りが漂ってきて。
何も言わない俺に鶴丸が眉を潜めて顔を近付けるけれど、細くて白いその指にそっと手を絡めて口を寄せた。
ああ、やっぱり。
これだけ甘くて好い匂いがするのだから、きっと美味しいと思った通りの蜜の味。
ちゅ、ちゅく……ちゅぷ、指を口に含んで紅い痕に舌を絡める。
可哀想に、きっと果物の皮を剥いている時に誤って手を切ってしまったんだろう。
傷口にバイ菌が入ったら困るから、消毒を、早く血を止めるため。
なんて、頭の片隅で言い訳をするけれど。

「ぁ、んっ……くにに、それ、だめ……」

ちゅうちゅう、ぺろぺろと舌先で舐める度に鶴丸が頬を赤らめて肩を跳ねさせた。
俺はと言うと、そんな鶴丸の様子にも気付かずに指の形に添うように舌を動かして甘さに酔いしれる。
くらくらする甘さは渇いた身体に心地よくて、もっともっと味わいたいと欲が出た。
口の端から唾液が出るのも構わずにちゅうう、と指に吸い付き、唇で挟みこんで転がす。
くすぐったいのか身体が跳ねる度に指も動き、上顎を擦って甘い痺れが背筋を這う。

「んっ、ん、は、はぁ……ちゅ、ぷ……ぁ、む、ちゅ……はぁ……」
「く、にに……なんか、へん……?」
「んぅ……ふぁ……ちゅ、ん……つ、る……おいひ……もっと……」

口から指を引き抜こうと動かす度に唇に、舌に擦れてびくびくと身体が跳ねた。
はぁ、と熱い吐息が漏れて、とろりと蕩けた瞳で鶴丸を見る。
ごくり、と赤い顔で唾を飲み込む様子が見え、ちゅぽん、と俺の口から唾液を絡めた指が引き抜かれた。
急に咥えるモノが無くなった口寂しさに、目尻が熱くなってじわりと涙が浮かぶ気配がする。
赤かった顔を青くさせて驚いた顔をする鶴丸に、けれど上手く言葉が出てこなくて頬を両手で挟み込んだ。
俺の熱が少しでも伝われば良いのに、と思って。
欲しくて欲しくて、熱が欲しくて、目の前の鶴丸が欲しくて仕方ない切羽詰まった俺の心が伝われば、と。
いつもは惜しまない言葉が少しも出てこない辛さに、再び目尻が熱くなって視界が歪む。

「つる、つるまる……つる、つる……」

バカみたいに一つ覚えに弟の名前を口に、両手で挟んだ頬を引き寄せて顔を近付けた。
最初は一瞬、触れ合うだけ。
唇と唇が触れ合った感触が、微かに伝わる熱がもどかしいほどに気持ち良くて。
舌を伸ばして鶴丸の唇を舐める。
触れた瞬間、びくりと大袈裟なほど身体全体を跳ねさせた鶴丸が目を見開いた。
舌で舐めて濡らして、唇で唇を食んで挟み込む。
ちゅぷ、ちゅ、と、先程指先を舐めていたより控えめな濡れた音が間近で響く。
されるがままだった鶴丸も、次第に遠慮がちに唇を押し付けて熱を与えてくれる。
気持ち好い。
誰かと触れ合う事がいつからか痛みを、苦痛を伴うようになってからは、そんなこと思ってもみなかった。
もっと触れ合いたくて、熱を感じたくて唇を食んで舌を絡め合う。
うっとりと目を蕩けさせる鶴丸の目には、信じられないほど蕩けて甘い顔をする俺が映っていた。

「ん、ちゅ……ちゅぷ、ふ……ぁ……くに、に……」
「ふぁ、ん、ちゅ……ちゅう、ちゅく、れろ……んむ……」

鶴丸が何かを言おうと口を開いたけれど、その間すら惜しくて唇を追う。
一心不乱に舌を絡めようとする俺の手を鶴丸が引き離した。
それが酷く恐ろしい事に思えて、離したくないと手を握りこんで指を絡める。
繋がった指が手の甲を優しく撫でて宥めてくるのに安心して、微笑みが漏れた。

「くにに……その、良いの……?」

おずおずと確認するように口にした言葉に、意味が分からなくて首を傾げる。
何が良いんだろうか、と。
好いというなら、気持ちが好い。
けれど渇いた身体を満たすにはまだ足りなくて、もっともっと、奥まで満たして欲しいと思う。
だから熱に促されるままに、

「つる……も、ほしい……つる、つる……! ほしい、ちょうだい、もっと、ちょうだい」

意味も理解せずに口にした。
一瞬、泣きそうに酷く顔を歪めた鶴丸はそれでも微笑んで。

「良いよ、俺は国兄の花だから……。いっぱい召し上がれ?」
「つる……つる、つるっ!つる……」

バカみたいに一つ覚えに俺は鶴丸の名前だけを口にして安堵と嬉しさに笑った。
他の誰でも無い、唯一の人に受け入れて貰えた事が嬉しくて。
頭を撫でられて、安心感にうっとりと眼を細めると同時に肩が跳ねる。
ほう、と漏れ出た吐息と共に肩から余計な力が抜けるのが感じられた。
二度、三度と俺の顔色を窺いながらなぞられる手に、むずがゆさを感じてぴくぴくと身体が動く。
もっと明確に触って欲しくて鶴丸の顔を覗き見れば、緊張にか硬い顔をしていた。
いわゆる恋人繋ぎという結び方をした手を握り返し、頬に唇を寄せてキスをする。
再び合わさった唇から舌が歯列をなぞり、上顎をくすぐるように口内を犯す。
ちゅ、ちゅぷ、ちゅく、と室内に響く淫らな音に脳内まで犯されるような気分になり、酷く興奮した。
口の端から飲み下せなかった唾液が垂れる事すら快感で、むずがゆい感覚が背筋を走る。

「……くにに、えっちぃ……」

唇を離した合間に囁かれ、耳朶を震わせる吐息に背を震わせた。
ぎゅうっと鶴丸の服をシワが刻まれるほど握り締めて衝動を押し殺す。
お腹の奥がきゅうきゅうと疼く感覚に、目を白黒とさせて驚いた。
いつもより感覚が鋭いとは思っていたけれど、吐息にすら感じる身体を持て余す。
目尻に浮かんだ涙がぱたり、と一筋垂れた。
篭もった熱がぐるぐると身体を駆け巡るのに、行き場を無くして解消出来ない事が辛い。
鶴丸の胸に頭を押し付けてぐりぐりと擦り付ければ、頭を撫でていた優しい手が離された。
ぼんやりとその手の行方を目で追っていたら、はだけた服の間からツンと立って主張する胸の突起へと伸ばされて、

「――あッ!!?あ、はぁ、あん、つ、るぅ……!!」

きゅ、と遠慮気味に指で挟まれただけなのに、腰が浮くほどの刺激を感じ取る。
かりかりと先端を引っ掻かれ、潰されてびくびくと身体が跳ねた。
鼻に掛かったような変な声が出るのを、歯を食いしばって声を殺そうとするのに、鶴丸がその度に刺激を送ってくる。
悶える身体を、楽になりたい一心でよじるけれど、胸を反る形になってもっと触ってと言わんばかり。
背筋に甘い痺れが走る度、腰もがくがくと震えて鶴丸の腰に擦りつけるように動いてしまう。
はだけた服を引き千切るように鶴丸が脱がせ、弄る乳首とは反対側に顔を近付けた。

「は――ッ!! ぁ、ひぃいっ!?い、ぃいいっんん、は、あぁ……!?」
「ちゅ、ちゅぶ……ん、む、ちゅ……はぁ……ぁむ……」

もはや声を殺すことも出来ずに舌で乳首を転がされ、歯で軽く咬まれて訳が分からなくなってくる。
ただ確実なのは気持ちが好いという事だけで、下半身がずしりと重くなっていて欲を吐き出したい一心で鶴丸の身体に擦りつけた。
more...!

弱虫もんぶらん



ありったけの想いはいつも誰の耳にも届かない。
それだけのことなの。


その日、騎兵隊隊長からの呼び出しを受けてしぶしぶ騎兵隊の隊舎にむかった。
「隊長、エヴァンジルです」
こんこんとドアをノックすると中からどうぞ、と声がする。
「失礼します」
ドアを開けるといつもの執務机に座ったままにこにこと笑顔を浮かべている隊長の横に赤い髪の男が立っていた。
「よく来てくれたね。
今日は大切な話が合ってきてもらったんだけど…。
まずは彼を紹介しうておこうかな」
隊長は赤い髪の男の方を向いた。
「彼はアクセル。今日から君のバディとして行動を共にしてもらう」
「アクセルだ、記憶したか?」
「…は?ちょっと待ってください。
私に拒否権は?」
「ないよ」
笑顔で意見を棄却して来る隊長に殺意を覚える。
「まぁそう怒らないで。
僕なりに君たちの…魔憑きの未来を何とか変えたいと思っているんだ。先行実装としてまずは君と公爵令嬢に特例として魔憑き監督者とバディを組んでもらう事になったから。
魔憑き研究は騎兵隊に顕現が一任されているからこれは隊長命令として受け取ってくれてかまわない。
君は今日からプライベートな時間以外の全てをアクセルと行動を共にすることを義務付ける。反論、拒否権は認めない。いいね?」
一見穏やかそうな笑顔を浮かべているが、その口調は拒否を許さないもので、私は何も言えずに目の前の天使の様な悪魔をにらみつけるしかできなかった。


そんなこんなで私はこの男、アクセルと行動を共にすることになった。
隊長は今の魔憑きの在り方を良しとしない。
魔憑きが人間らしく生きられる世界に変革を起こしたいらしい。
そんなこと、きっと不可能なのに。
魔憑きは人ではない。
そう割り切った方がどんなに苦しくても辛くても人間じゃないから仕方ないと諦められるのに。
今更人の様に扱われても、私はそちらの方が恐ろしい。
こんな私を愛してくれる人なんているわけがない。
そう、愛されるわけない。
心のない化け物の私に、愛なんてあるわけがないのだから。


「お嬢、今日の予定は?」
それなのにこの男は毎日毎日飽きもせず私に構ってくる。
アクセルとバディを組んでからというもの、私に割り振られる騎兵隊の任務は少なくなり、自由時間が増えた。
任務の内容も街へ赴くことが多くなり、今まで隔離される様に閉じ込められていた騎兵隊の隊舎を頻繁に空けるようになった。
「今日の予定は……特にないな。休暇だ」
「ふーん、それでお嬢はどうするんだ?」
「…いきなり休暇と言われても……何をしていいかわからない」
何時もなら前もって休暇の日に何をするかを決めておく。
たまにタウが予定外に訪ねて来て一日中街中を引きずり回されるが、それはそれで楽しいから気にはならない。
「今日は休暇だ、無理に私に付き合う必要はない。お前もどこかに行きたいとかあるだろう?」
「…それが別にないんだよな。
というか、俺はお嬢の護衛兼監督役だぜ?記憶してないのか?」
笑いながら頭をくしゃっと撫でられる。
ああそうだ、忘れかけていたのかもしれない。
副隊長程ではないが私もそこそこの災害級の化け物だということを。
この男の妙な距離感のせいで私の今まで築き上げたものが崩れていく。
「それなら今日は部屋でゆっくりしてたらどうだ?
何処かに行くときは俺に声をかけてくれればいいからさ」
屈託なく笑うアクセルに、何か反論する余地もなく、それすらばからしくなってしまう。
「そうだな、そうさせてもらう」
趣味の一つでもあれば、急に休みを貰えても喜ばしい事なのだろうが、人ではない私に趣味など持てるはずもなく…。
「……ああ、そういえば」
一つだけ、趣味と言えるようなものがあった。
ドレスの裾に隠れて見えないが、太もものバンドにいつも差し込まれているフルート。
力を籠めればその音色を攻撃手段にも使えるが単純に楽器として奏でる分にももちろん問題はない。
何もすることがないのなら思う存分フルートを奏でるのも良いかもしれない。
そう思ってフルートに手をかけると
「…それ、吹くのか?」
「悪いか?これは私の唯一の武器だ。
いざ戦闘になって使えませんじゃすまないだろう。
それなりに調律が必要になる。
こういう時にやっておかないと…」
幼い頃に『幽閉』されていたからある程度制御は効くと言え、完全に支配権があるわけではない。
ちょっとした感情の変化ですぐに暴走させてしまう。
だから私はここに居るし、何かあればいつでも副隊長が私を殺せるように。
「なぁ、それ俺にも聞かせてくれないか?」
「え?」
てっきり部屋に引き返すものだと思っていたアクセルから思いもよらぬ提案に驚きの声が漏れる。
「いや、お嬢のフルートって聞いたことないから聞いてみたいと思ったんだが、ダメか?」
「……別に、好きにすればいい。
ただ、聞いて楽しい物ではないと思うがな」
それを許したのは気まぐれだった。
私に幻滅すれば優しくするのをやめると思った。
アクセルとの距離が近くなるほど胸が苦しくなる。
私とは違う、生きている人間。
生命力の溢れる命の輝き。
それが、闇に生きる私には眩し過ぎて目がくらむ。
魔憑きの研究所から騎兵隊の隊舎に移されて、光の挿す部屋というものを知った。
「お嬢の部屋は質素だな」
アクセルがいつもそうやって苦笑する、生活感のない部屋も私にとっては光が溢れる暖かな場所だ。
日当りのいい窓に腰かけるアクセルを横目に、フルートの手入れを手早く済ませる。
手入れをしてピカピカになったフルートをそっと口につけて息を吹き込む。
澄んだ高音が部屋の中に響いて私は目を閉じた。
左目が少しざわつくのを抑える為に。
何度も何度も、繰り返し奏でる音楽。
小さい頃からこの時だけは、普通の人で居られた。
何もない私が、たった一つだけ許されたこと。
人になりたかった。
どんなに自分は化け物だと言い聞かせても、求めてしまう。
ただの、一人のエヴァンジルとして生きてみたい。
この左目を抉りだすことでそれがかなうなら、こんなものいらない。
「泣くなよ、エヴァ」
不意に指で目元を撫でられる。
「泣いてなどっ…」
そう、泣いてない、私は泣いてなどいない。
だって私に心などないから、化け物だから。
泣けるはずなんてないのに…
この溢れるものはなに?
ぎゅっと抱きしめられて、じんわりとアクセルの黒いコートに染みができる。
「エヴァは我慢しなくていいんだ。
力を恐れるな、お前が暴走しても俺が居るだろ?
お前の望みは俺がかなえてやる、お前が誰かに害をなすなら俺が止める、それでもだめなら…」
ぎゅっと抱きしめられる腕に力がこもる。
「一緒に死んでやるから、もう泣くな」
何を言っているのか理解できない。
どうしてこの男は、こんな化け物にそんなことが言えるのか?
「私は、化け物なんだぞっ…」
「エヴァは化け物なんかじゃない、ただの人間の、ただのエヴァだ。
そうだろ?」
どうして、どうして、どうして?
あったばかりの、こんな男が…
今まで私が欲してやまない言葉をくれるんだ。
「俺には親友が居た。
ガキの頃からずっと一緒に居たから兄弟みたいなもんだと思ってた。
だけどアイツはずっと何かに悩んでいて、俺はちゃんとそれを聞いてやれなかった。
それに気が付いて、助けようとしたけどあいつは俺の前から消えてしまった。
今のエヴァはその時のアイツと同じ顔をしてる。
俺はもう、目の前で誰かが苦しんだままいなくなるのは嫌だ」
「私は…そいつの代りか?」
「違う。お前はお前だって言っただろ?
隊長から話があって、エヴァのバディに俺をって言われたときに俺だって大分悩んだんだぜ?
一番の親友すら救えなかった俺に名家のお嬢様の相棒になれって言われてもな」
「…名家の令嬢などではない…私は、わたしは…
母を殺し、家族を捨てられて、人でもない化け物に成り下がった」
「あのな、そうやって自分を卑下するな。
お前は俺が想像してたよりずっと人間らしくて、普通の女の子だぜ」

築き上げてきた防壁が、音を立てて崩れた気がした、

「なぁエヴァ、本当の気持ちを教えてくれないか?
俺はお前の相棒で、これからもお前の傍にずっといる」
私が魔憑きでも、望んでいいというのか?
誰もそんなこと言ってくれなかった。
誰もそんなことを許してくれなかった。
「わたし、ひと、で…いても…いいのか?
こんな、ばけものでも、ひかりのなかに…いても……」
ぼろぼろと目から温かい何かが溢れてくる。
怖い、私が私でなくなってしまいそうだ。
「いっしょに、ひとりに…しない、でっ」
アクセルの隣は居心地がいい。
ずっとずっと、初めて会った日からずっとそう思っていた。
認めてしまうのが怖かっただけ。
認めたらもう、戻れなくなる。
今まで築いていた脆く小さな虚勢が崩れ去ってしまったら、どうしていいかわからないから。
「だから、ずっと一緒に居るって言ってるだろ、記憶したか?」
笑って、頭を撫でて、涙を拭って。
この陽だまりの中で私は、暖かな眠りに就いた。



「俺の親友のロクサスだ!」
目の前で起こっている事象に頭がついていかない。
「は?」
「お嬢友達少ないだろうから、まずは俺の親友で慣れてもらおうかと思って連れてきた。
こいつも騎兵隊所属だから気にすんな」
「ちょっとまて、お前親友は消えたって…」
「ああ、突然いなくなって、突然帰ってきたんだ。
しかもいなくなった間に何があったのか教えてくれねーし、なんか本人は吹っ切れてるし、なら無理に聞く必要もないだろ?」
「なんか誤解させた?ごめんな、アクセルってたまにバカだから。
俺はロクサス、よろしくねエヴァ」
開いた口がふさがらない、とはきっとこのことを言うのだろうと身をもって知った私は、腹いせにアクセルの腹に思いっきりフルートを突き刺した。
「いってぇぇ!!!」
「自業自得だ、貴様が誤解を招く言い方をするからだろ!!
あと10回死んで来い!!」
地面でのたうち回ってるアクセルを無視してロクサスに向き直った。
「エヴァンジルだ、よろしく頼む」
ロクサスはにっこりと微笑んで手を握った。
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