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始まりの物語



人が苦しむ影には必ず、人の陰謀があると言うもの。

魔物の襲撃から弱者を守ると言う大義名分を与えられ、新設された騎兵隊。
その隊長に選ばれたのは、まだ年若い青年だった。


「全く、どいつもこいつも使えない奴ばっかだね。」
鮮やかな金髪を揺らしながら、鋭い碧眼が目の前の銀髪の青年に紙の束を投げつけた。
「まぁ、今までのらりくらりと暮らしていた平民にいきなり魔物討伐させる隊長の方がどうかしてると思いますけどね。」
「はぁ?僕が悪いっての?
使えない兵を寄せ集めたところでたかが知れてるだろ。
ゆっくり育てる猶予はないんだ、今欲しいのは即戦力なんだよ、判る?」
「そんなこといちいち言われなくても理解してますよ。
とにかく、隊長のやり方は強引すぎます。
今後は新入隊員の選別は俺に一任させてもらいますから。」
つまらなさそうに金髪の青年はため息をついた。
「仕方ないな…じゃあ今後は君に…」
「隊長!!」
「どうしたの、そんなに慌てて。」
「それが、先日から鉱山の一角から魔物が目撃されているとの報告がありまして…」
「ああ、例の鉱山ね…その報告なら受けているけど、確か討伐はすんでいたはずじゃないの?」
隊長の青年がチラリと銀髪の青年を見上げる。
青年は頷いて隊員をみた。
「俺も現地で確認したけど、魔物はもう居なかったよ。」
「いえ、それが昨夜の大雨で崖崩れが起きて、鉱山と渓谷の一部が瓦解、その崩れた場所からあらたな洞窟が見つかりまして、そこから魔物が溢れ出しているんです。」
「判った、行くよシュノ。」
シュノ、とよばれた銀髪の青年は顔をしかめる。
「隊長自ら調査するほどの案件とも思えないんですが。」
「こんなとこに缶詰にされてる方が腐っちゃうよ。」
「ちょっと待て、レイリ!!」
レイリと呼ばれた隊長は、シュノの制止も聞かずに愛剣をひっつかみ、駆け出して行った。
「……副隊長…心中お察しします…」
「誰かあいつを黙らせてくれないか、本当に…」
「副隊長以外無理です。」
シュノはため息を吐きながらレイリの後を追った。

レイリは鉱山の入り口の石扉を開いた。
松明で照らされた洞窟内には、確かに魔物の徘徊したあとが残っていた。
「獣臭い…」
レイリは顔をしかめながら、奥へと進んでいく。
少し歩けば開けた渓谷に繋がり、崖崩れがあった場所にたどり着いた。
「うわ、本当にぽっかり穴空いてるなぁ…。」
「これはもうこの鉱山は廃坑にするしかないな。」
漸く追い付いたシュノが、辺りを警戒しながら洞窟内を松明で照らす。
「奥にいくのか?」
先程とは打って変わり、シュノは呆れ気味にレイリに手を伸ばした。
「そうだね、ここで待ってろって言われても行くけど。」
「聞く意味すらねぇって事か。」
レイリと二人になったとたんにガラリと変わる口調や態度に、レイリは薄笑いを浮かべた。
「とかいって、本当は楽しいくせに。」
「楽しんでるのはお前だけだろ、さっさといくぞ。」
差し出された手を掴み、洞窟内に足を踏み入れる。
さほど身長の無いレイリはともかく、シュノは頭ギリギリの洞窟内を慎重に進む。
「急に開けたね?」
しばらく歩けば急に広く視界が開けた。
「…レイリ、動くな。」
「えっ…?」
シュノが制止をかけたとたん、レイリは振り返ることも出来ずに何か巨大な尾の様なものが、あと一歩の所に穴を開けた。
シュノが制止しなければ、レイリは今の一撃で即死だった。
額から冷や汗が伝う。
それと同時に神経が研ぎ澄まされ、気分が高揚していく。
「面白い、簡単に終わっちゃ詰まらないしね。」
レイリは楽しげに笑みを浮かべて腰に下げた愛用の剣を抜いた。
細く鋭いレイピアはまさしく、レイリの眼光のように研ぎ澄まされていた。
「レイリ、深追いはするな。」
「判ってるよ、でもシュノが居れば負ける気はしないな。」
シュノも満更ではない様子で刀を抜いた。
「さて、どうしてくれよう。」
久し振りに手応えがある大物を前に舌舐めずりするレイリに反し、シュノは冷静に辺りを見回した。
「少しは落ち着け、この脳筋バカ。」
「喧嘩の基本は取り合えずぶん殴る!!」
レイリはその場で軽く跳び跳ねてリズムを掴むと、着地と同時に目の前の魔物に斬り込んでいった。
「ちょ、おま…いい加減にしろよ!!」
呆れきったシュノはもう溜め息すら出ずに魔物の巨躯を捉えていた。
作戦も何も、レイリの前では無駄だった。
女神の加護を受けし者。
それが彼に纏わりつくはた迷惑な異名だった。
圧倒的な実力で総てを強引に捩じ伏せてしまう。
人は彼を勇者だと呼んだ。
そして、その勇者と唯一対等に渡り合える、対なす存在。
それが、副隊長であるシュノだった。
異能を宿した彼は並みの人間を遥かに上回る身体能力、技能を持つ。
一度戦闘となれば普段の穏和な性格とは打って変わり、大型の魔物すら怯む程の眼光を放つ。
美しい容姿と相反するその殺気に、誰かが彼を魔物より魔物らしいと言った。
本人達はさして興味ない話だが、祀り上げられる人間とは得てしてそう言うもので…。
この二人の前に立ちふさがるもの無し。
そう、二人が揃えばどんな魔物も赤子の手を捻るようなものだった。
血飛沫が二人を濡らしていく。
魔物は既に息絶え、バラバラになっていた。
「ここの大型はこいつだけかな。
奥はまだありそうだけど、弱い気配だけしか感じない。」
振り向いたレイリはその碧眼を真っ赤に染めて、シュノに抱き付いた。
「随分ご機嫌だな。」
「そうだね、久し振りに身体を動かしたからかな…
すごく、気分がいい。」
そのまま噛みつくような乱雑なキスを暫く交わしていくと、不意に毒気を抜かれたようにレイリの瞳が色を変えた。
「落ち着いたか?」
「……まぁ、こんなところでする気分じゃないだけかな。」
好戦的な態度から一変、落ち着きを取り戻したレイリは、愛用の剣をしまって辺りを見回した。
「この辺はザコばっかりだし、新兵の訓練に丁度良さそう。」
レイリが何かいたずらを思い付いた子供みたいにシュノを見上げた。
「シュノはどうおもう?」
「……反対したってどうせ押し通すんだろ?」
「そうだね。」
「聞く意味あるのか、それ。」
「ないね。」
あっけらかんといい放つレイリに、シュノはまた頭が痛くなってきた。
「せめて、身の安全が守れる施設を作るべきだ。」
「……テントで…」
「レイリ、俺は同じことは二度言わない。
書類には俺のサインも必要なはずだ。」
「判ってるよ、冗談だってば。
そんなに怒るなよ。」
クスクスとおかしそうにわらい、シュノにもう一度触れるだけのキスを落とした。
「さてと、帰って早速申請してみるかなー。」
うーん…と身体を伸ばし、レイリはシュノに両手をさし出した。
「?」
「ハグ、帰る前にもっかいぎゅーって。」
恋人の可愛らしい甘えかたに、シュノは甘く微笑んでレイリを抱き締めた。
「やっと、手に入れた…」
「もう、離れたくない…」
ぎゅっと温もりを分け合うと、満足したのか、レイリはシュノから離れた。
二人は幸せそうに笑いながら手を繋ぎながら洞窟をあとにした。



「って経緯があったらしいよ。
本当かどうかは判らないけど…」
「で、レイリさん達もここは使ったんですか?」
キョトンとした、茜色が首をかしげた。
「僕はちょっと特殊だったんだけど、やったよ。
シュノと二人で。」
「やったのは殆んど俺だ。
こいつがやったのは料理と倉庫番。」
「シュノが、何も、させてくれなかったんだけど!!」
もはや名物と化した二人のいい合いを見ながら、フィオルは苦笑しながらロゼットを見た。
「……私達は役割分担をきっちり決めよう。」
「そうだな。」
目の前の人物を反面教師として、こうはなるまいと思う二人だった。


―――――

初代レイリと初代シュノさん。
この頃は割りとレイリの方が好戦的だったり、シュノさんか振り回されてたりしたら可愛いなって妄想。

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