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すきなひと



「シュノさん、好みのタイプってどんな女性ですか。」
「レイリ。」
「(うわ、即答…どうしようこの空気…)」


事の始まりはバレンタインデーに起きた。
ミーハーの様な貴族のお嬢様方に半ば無理矢理シュノの好み(この場合は女性の、という意味だ)を探るように頼まれたレシュオムはため息をついた。
断っても良かったのだか、そのあと妙な噂や波風が立つのは後々面倒だったので仕方なく引き受けたのが間違いだったと頭を悩ませた。
そもそも、色恋沙汰に関してはシュノはレイリ以外全くもって興味がないことは百も承知だった。
それは今や騎兵隊の名物ともなるほど有名な話になっているが実際シュノに寄せられる縁談の話は決して少なくはない。
「どうせ貴族のお嬢様がたの道楽に巻き込まれたんだろ?」
「まぁ…そんなとこですけど…。」
作戦会議用に纏めた資料を眺めながら、シュノがニヤリと笑った。
「そうだな、じゃあこう伝えておけばいい。
俺の好みは金髪碧眼、小柄でちょっと頭が緩くて一途な奴だって。」
「それ、隊長の事じゃないですか…」
レシュオムは笑いながら頷いた。
「判りました、そう伝えておきます。」
「頼むよ。そう言えばレイリはどこ行ったんだ?」
「隊長なら会議に行ってますよ。
もうそろそろ戻られるはずなんですけど…
ちょっと遅いですね。」
そういうとシュノの機嫌があからさまに悪くなる。
「あの頭の固い連中がレイリに何か嫌味言ってると思うと腹が立つな。」
「ただいま。」
丁度タイミングよくレイリがドアを開けた。
両手一杯の紙袋を下げて。
「隊長…どうしたんですか、それ…」
「あはは…今日はバレンタインだってすっかり失念していてね。」
どうやら中身はすべてチョコやお菓子らしい。
レイリの甘い物好きな話は隊内では割りと有名なので、隊員の女の子達が普段お世話になっているからと言う名目で、可愛くラッピングされたお菓子を次々に手渡した。
「モテモテだな。」
「何、妬いてるの?
残念だけど全部義理だよ。」
あからさまに頬を膨らませてふて腐れるシュノに、おかしそうに笑いながら紙袋の半分を差し出した。
「何だよ?」
「これは君の分。」
シュノに渡して欲しいと頼まれたそれは、レイリの紙袋より、みっしりと中が詰まっていた。
「……いらね。」
「ダメだよ、シュノ。
人の気持ちを無下にするのは良くないと思う。」
「そうですよ、受け取るだけでも受け取ったらどうですか?」
「こうゆうのは一人受けとると私も私もってきりがないだろ。
だったら最初から受け取らない方がいいんだよ。」
レイリはため息をついてレシュオムと目を合わせて苦笑した。
「モテる人は言うことが違うね、レシュオム?」
「そうですね。」
レイリはシュノの机に紙袋をおいた。
「だから、いらねぇって。」
「これは、僕からだよ。」
にっこり笑って、レイリは袋を逆さまにした。
バラバラとシュノの机にチョコの包みが広がる。
「これは、ぜーんぶ僕からシュノへの愛だよ?
それでもいらない?」
「……っ、お前ほんとに覚えとけよ。
後で泣かす。」
「全部食べろとは言わないからさ、気持ちだけでも貰っときなよ。」
レイリは満足そうに笑って自分の机に向かった。
「じゃあ、私お茶入れてきますね。」
「うん、お願いするよ。」
にこにこ笑いながらレイリは手を降って、背を向けるレシュオムを見つめていた。
「どれから食べようかな〜♪」
楽しそうに包みを開きながら、積み上げられた書類に目を通していく。
「あんま食ったら太るぞ。」
「うるさいよ。」
チョコレートを口に放り込みながら慣れた手つきで書類にサインをしていく。
レシュオムがお茶を入れてきてくれて、ほっと一息ついて黙々と書類をこなすレイリを眺めながら、机をきれいに片付けているとだんだんレイリがうつらうつらし始めた。
眠くなったのかと思い、席を立つとレイリが首元のリボンタイを乱雑にはずした。
「レイリ?」
「あつい…」
シャツのボタンを外そうとするレイリの手を慌てて止めた。
「どうしたんだよ、お前。」
「あっついんだよ…」
とろんとした瞳でシュノを見上げるレイリはまるで情事中の様な熱を孕んだ表情でシュノを見上げた。
「シュノ…あつい…」
ぎゅっと握られたレイリの手は確かに少しだけ熱を持っていた。
「だから、こんなとこで脱ぐなよ。
誘ってんのか?」
「違…暑い…」
しきりに暑い暑いと言うが、部屋の中は適温より低く、むしろ少し肌寒いくらいだ。
いったいレイリの身に何が起きたのかと思い、辺りを見回してみて、空になったチョコの包みをそっと開いた。
そこには酒の絵が描かれていてようやく合点がいった。
「お前、酔ってんのかよ…」
「よってないよ…」
「酔ってんだろ、顔真っ赤だし。」
「よってないったらぁ…」
そう抗議するレイリだが、既に自らの身体を支えられずにシュノを巻き込んで倒れ込んだ。
「オイ酔っ払い。さっさとどけ、重いから。」
「だから、まだよってないって…」
「呂律回ってねぇし、諦めろ。」
シュノは自分にまたがるレイリの頬を撫でた。

「あぁ…もう…」

シュノが呆れたように呟いて、ぐいっとレイリを引き寄せてキスした。
自然と舌を絡める深いキスに変わっていき、キスの合間に熱の籠った吐息が漏れる。
自分の着物をぎゅっとすがるように握るレイリの手に気分が高鳴る。
「ふぁ…シュノ…」
とろんとした大きな碧眼がふにゃりと緩み、子供のように無垢でどこか色を含んだ笑みに変わり、舌足らずな声でシュノを呼ぶ。
それが愛しくて、堪らなく愛しくて、ぎゅっと抱き締めて離さないようにきつく、きつく抱き締めてゆっくりと頭を撫でた。
「ん…シュノの手…気持ちい…。」
くすぐったそうに身を寄せながらも、嫌ではない様子で甘えるレイリ。
「シュノも、いいこいいこ。」
レイリが雑にシュノの頭を撫でる。
「こら、ぐしゃぐしゃするな酔っ払い!!」
「違うよー、いいこいいこしてるんだよ!!」
「もういい、お前はもうなにもするな。」
んー…と、返事ともとれない呻きをあげてレイリがおとなしくなった。
ようやくおとなしくなったレイリを抱き上げる。
「シュノ…?」
「部屋いくぞ。誘ったのはお前だからな。」
急に抱上げられて、思考が回らないレイリは赤い顔をしたままシュノに寄り添った。
「シュノ…すきだよ。」
「知ってる。」
「シュノは?僕のこと好き?」
「言わなくてもわかんだろ。」
「言って欲しいんだよ、ちゃんと言葉にしないとわからないって、言ったのはシュノでしょ?」
変なことにはよく回る頭だと、シュノはひとり笑いを呑み込んだ。
「好きだ、レイリ…好きだよ。」
耳許で甘く、熱を孕む声で囁けば擽ったそうに身を寄せながら、嬉しそうに笑った。
「続きはベットでな?」
「……うん。」
ちゅっ、と頬にひとつキスを落としてニヤリと笑った。
レイリはどこか虚ろに思考が麻痺しているのか、頷いたままシュノに身を預けた。


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