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二人で創作・版権小説を書き綴ってます。
遠い遠い昔の御伽話。
幼い頃から何度も何度も聞かされていたそれ。
誰も信じない孤独な魔物の王と、全てに裏切られ絶望して搾取されるだけの哀れな女神の悲しく切ない御伽話。
決して報われぬ恋に落ちた二人は、ただ二人で静かに暮らしたかった。
それを世界が許さなかった。
女神の創造主である神は自分から女神を奪った魔王を討伐する事を決意する。
そして、大きな戦が起きて女神は神に殺され、魔王と神は相打ちになった。
女神は最後の力を振り絞り魔王の魂と女神の魂を人間の器に宿らせた。
女神の生まれ変わりとなった青年は英雄となり、世界の混乱を収めたが、そのあと人知れず姿を消した。
魔王の魂を持つ最愛を探すたびに出たのだった。
御伽話はここで終わっている。
本来は女神が魔王の魂を人に宿らせたところで終わるはずだった物語。
それに尾ひれがついたのはいつだったか…。
あるとき突然現れた恐ろしく強く、カリスマ性を持った天才が一人。
名をレイア・クラインと言った。
彼は騎士団とは別に騎兵隊という独自の部隊を立ち上げ、隊長として自ら最前線で剣を振るった。
その強さ、物おじしない性格から誰もが彼を英雄だと祀り上げた。
彼は天使の様な愛らしい外見とは似ても似つかぬ程に傲慢で、わがままで、傍若無人だった。
それでも皆が彼を慕った。彼の強さを崇めた。
彼はただの一度も負けることなく、どんな凶悪な魔物も切り伏せた。
そして後世に色濃く爪痕を残した後、誰にも何も告げずに行方知れずとなった。
数人の、おそらく彼が本当に信頼できる人物だけを連れて忽然と姿を消してしまった。
そんな彼の偉業は何百年たった今もこうして御伽話の一部として語られている。
天使の様な美しい姿と恐ろしく強い彼はおそらく女神の生まれ変わりだという根拠もない人々の、そうであってほしいという憧憬から。
「そんなわけないのにね。」
黄昏の箱庭でかの人は笑う。微笑む。
こちらにわたるときに零れ落ちた欠片が、どんな生涯を歩むのかをながめながら。
初代騎兵隊隊長であり、御伽話の英雄レイア・クラインを輩出した家として、クライン伯爵家は代々名門貴族としてその名を連ねてきた。
高名な騎士家系の名には必ずクライン家の話題が出されるほどに。
しかしながら、それも時の流れにより徐々に風化して御伽話だけの存在となってきた頃には、クライン家は莫大な借金を抱え没落していた。
かつて栄華を誇ったお屋敷は競売にかけられ、本邸と別邸をいくつか残してすべて売り払われてしまった。
広大な庭も手入れが行き届かず荒れ放題。
使用人もごく少数しか居ない中、クライン家長女レイン・クラインが待望の男児を出産した。
厳格な騎士家系から婿養子に入った夫との初めての子供で、とても愛らしい天使の様な男の子が生まれた。
名を、レイリ・クライン。
数奇な運命をたどる者。
レイリは幼い頃から不思議な子だった。
普段はおとなしくとても聞き分けの言い、手のかからない子供なのだが時折、豹変したように我儘で傍若無人な態度をとることがある。
口調も性格もガラリと変わり、ひとしきり大暴れして眠りに就く。
起きたらその間の事は何も覚えていないという。
レイリの父親や使用人、彼の叔母は大層彼の気味悪がった。
レイリが5つになる頃には、鏡の自分に向かって楽しそうにおしゃべりしたり、転んで血まみれになった膝や手のひらの怪我がすぐに治ったり、とにかく普通の子供ではなかった。
レイリ自身は普通の子供だったし、そう思っていたが周りはそうは思わなかった。
名家の嫡子が得体のしれない化け物だというのを父は隠したがった。
それまではパーティーには積極的に連れ歩いていたのに、家から一歩も出さなくなった。
幼いレイリの遊び場は自宅の中庭だけになった。
それでも、レイリの世話係を務めたメイドのレイシーがずっとそばに居て見守っていたのも大きい。
レイリを産んでからというもの体を壊して病に伏せっていた母親もレイリを愛したからこそ、レイリは父にも母にも愛されていると思っていた。
しかし、日々繰り返される父親からの言いがかりの様な仕置きという名の暴力に耐えかね、心を壊したレイリは気が付くと燃え盛る屋敷の中、血まみれの使用人たちの死体の中に立っていた。
側には大好きだった母が血濡れで自分を抱きしめていて、父が恐ろしい表情で絶命していて…。
幼いレイリには何があったのか理解できずに泣き叫びながら屋敷を飛び出した。
レイリは幼いながらも貴族の嫡子ということで血縁者の叔母夫婦の元に贈られたが、レイリと叔母の折り合いは悪く、レイリは家族を失って精神が不安定なため、身柄だけを教会預かりとし、そこで一生の師であり父と敬愛するノエルとであい、真っ暗な人生に光を取り戻す。
それが、世界の運命に弄ばれた少年がたどる数奇な運命の始まりだった。