それぞれを部屋に案内して慣れてきた頃、桜色の髪をした国永はエプロンを付けて食堂にやってきていた。
隣に居るのはアーチャーのエミヤで、彼と共に料理をする事が多くなっている。
ともすれば料理が趣味と言える二人で。
食事を楽しみにするサーヴァントには二人の腕で満足頂けているようで、今日も今日とて献立を考えて居る最中だ。

「へえ、じゃあエミヤが一人で捌いてた時は好きな物をオーダーしてたのか。大変じゃ無かったか?」
「ここのマスターはまだ年若く、カルデアも機動したてで人数もそう多くは無かったからな。一度に7人も増えた時は困ったが」
「驚かせて悪かったな、まあこちらも驚いたしお互い様だ。なら今度からはある程度メニューを決めて曜日毎で変えるのは?」
「ふむ、通常ならば問題ないだろうが……セイバー、アルトリアには注意しろ」
「アルトリア? ああ、あの金髪の子か。彼女がどうしたんだ?」
「故郷の食事が合わなかったと大層嘆いていてね、粗雑な調理をしよう物なら……その上少し、いやかなり……人より大食らいだ」
「……君の苦労が見える気がする。だがそれなら何も一人一メニューと決めなくても好きな回数頼むようにして貰おう」
「私は君が捌けるのなら前のスタイルでも構わんぞ、アサシン」
「アサ……それ、俺だけじゃ無く他にも同じクラスの人間が居たらどうするんだい? 国永……だと被るから、適当に渾名で構わない」

そう言われた瞬間にエミヤはきょとんとした顔をし、難しそうに表情を潜めた。
口元に手を当てて小さく何かを呟いている事から渾名の類いでも決めているのだろうと予想して手元のリンゴを剥いていく。
下処理を終えていたパイ生地にカスタードを盛り付け、フライパンで甘いカラメルとフランベしたリンゴを中心から広がるように乗せて細く切ったパイ生地を交互に重ねていった。
手際良くいくつかのアップルパイを作り上げた後はオーブンへと入れ、

「国永、ではクニと呼んでも良いか?」
「クニ、か。構わないぜ、改めてよろしく料理長」

懐かしい呼び名に微笑みを浮かべて了承した。
オーブンで第一のアップルパイが焼き終わる頃、丁度良く金髪の少年が顔を覗かせる。

「エミヤ、お兄ちゃん居る?」
「丁度良いタイミングだ、マスター。今クニが君用のおやつを作っていた所だ」

振り返りざまにだろう?とニヒルに笑われてしまっては、違うとも否定しがたい。
苦笑して後のパイの切り分けと配膳を頼むと言い残してパイ皿を片手に少年に歩み寄る。
クニ、という聞き慣れない音が探していたお兄ちゃんの事だと分かると怜悧は笑顔を浮かべて近寄った。

「あのね、ここ庭園があるからお兄ちゃんを誘おうと思ったんだ。お花が好きだって言ってたし」
「そうか、わざわざありがとうな、怜悧坊。そこにテーブルや椅子はあるかい? どうせならピクニック気分を味わおう」
「うん! ピクニックって楽しそうだね? あ、マシュにも声掛けて良い?」
「ああ、6人かまあそこに座れる位の人数だな。パイは足りなければ今エミヤに見て貰ってる分もあるから、君の好きに声掛けして良いぜ」
「やったー!ふふ、誰を呼ぼうかな? あ、お兄ちゃんの旦那さんは呼ばなくちゃね。黒葉さんだっけ?」
「黒葉だな。子供好きだから遠慮無く呼んで良いんだぞ、マスター」

はーい、と笑顔で振り返る知り合いそっくりの顔つきに、繋がれた温かい手に、けれど違う人物なんだなと思い当たる。
可愛い従姉妹の可愛い息子、自分にとっても弟のような子だった。
彼には存在しない、愛していた母親。
出会わなかった結果なのか、出会っていたとしても同じなのか。
こうして出会ったのならこの世界が何であれ、せめて安心に居場所になりたいと願った。