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スミレの人 2

小屋を出たシュノを待っていたのは、小さな人間との邂逅と再びの殺人だった。
それが妹で、家族と呼ぶ相手だったと知ったのは、村から遠く離れた旅の道中でだ。
文字の読み書きが出来ず、そもそも言葉を多くは知らないシュノに他人は知識を与えた。
シュノの生まれた村がかなりの寒村で、閉ざされた場所だった事を知ったのもその時だ。
年の半分近くを雪で深く閉ざされる、そんな場所だった。
白く、全てを塗りつぶしていくものが雪なのだと。
勿論他人のそれは親切などではなく、シュノの美貌に絆されての事だった。
年端もいかない少年、とシュノを呼ぶ他人が、多くは女が、時に男がシュノを寝床に誘った。
あわよくば、既成事実を作って囲って貰おうとして。
シュノは見た目、儚さの残る少女な面立ちと男になろうとする身体の両方を持っていた。
均整の取れた体躯は成長の邪魔にならない程度に筋肉が付いていて、知識を応用する頭も持っていた。
だから大人と呼ぶそれらが、女が、シュノに惚れたり抱かれたいと願うのも当然の事。
一度だけ商売女らしい女と寝所を共にしたが、とくに惹かれたりはしなかった。
生理現象ならば一人で十分。
他人の体温に嫌悪感を覚える質なのだと知れただけ上々。
元々流れ者の旅人なので、その日のうちに街を移った。
よくある事だった。
唯一違ったのは、商人等が使う道を歩いていたら首襟を掴まれ、視界が流れる速さで森の奥へと引き込まれたことだった。
相手は女で、口元にニヤニヤとした笑みと、苛ついた歯ぎしりを同時にする緑に黒が混じった髪をしている。

「カッカッカ、やっと見付けたぞ? 随分謳歌しておったようだなぁ。己が何かも知らぬ癖に、己が何かも知らぬからこそ」
「……そういうアンタは何だ? 人間だとしたら呪われてるのか」

随分と場違いなほど明るくからかい蔑む黒緑のそれに、シュノは眉を潜めた。
緑と黒の髪が半々、なんて可愛らしいオシャレではない。
元が緑の髪の毛を黒がにじみ、侵食し、決して混じらず刻一刻と全体の印象を変える。
これが完璧に別たれた色だったなら、呪いなどと思わなかったろう。

「ほう、ほうほう? 呪いとな、いやはやまさにそれよ。我が身に巣くうのは堕神の毒でな、本来のワシの有り様さえ思い出せず、覚えて居らず、果たせぬ状況よ」

はあやれやれ、と仕方の無い子に説き伏せるように、それは言う。
声を聞くと普通のそれの筈なのに、鋼が擦れた様な微かな異音が耳障りだ。

「んん、お前様、のうお前様? お前様は自分が何かを知っているかえ? 勿論しらなんだろうな、うむ。ワシと共に来るならば、教えてやろう」

一息のうちにそこまでを言い切り、未だ己が土の上に腕を捻って拘束しているシュノに対して目線で問いかけた。
無論、答えは――。
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