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へたれのお月さま。

白月は小さい頃から理解力というものに長けていた。
例えばそれは大人達の会話だったり、物の使い方だったり、長じて人の期待というものを理解する。
大人は神童ともてはやし、同年代の子供達からも一目置かれる事となった。
窮屈な環境は退屈だったけれど、嫌気が差さなかったのは自分を認めてくれる幼馴染みが居たからだ。

「白月はちょっと変わってるけど、それがお前の普通でしょう?」
「ちょっと呆けてるとこがあるのは心配だけどにゃ!」

そう言って許容してくれたのは、銀髪に青い目の長船長義で。
金髪に黄金の目を持つ猫科を思わせる一文字南泉は、笑って仲間に引き入れてくれた。
そうして白月を全面的に信頼し、人の情を教えてくれたのは、

「白月、だいすきぃ!」

あどけなく、花が咲き誇るような甘い笑顔の愛らしい五条黒鶴だった。
己より超然とした人でなしを知っているからこそ、範疇を超える事はなく。
幼いながらに自己を理解してくれる者が居るからこそ、孤独ではあれど人に愛想を尽かす事もなかった。
期待は重く、面倒ではあったけれどそれだけで。
そんな日常が変わったのは、それぞれが成長し学校という社会の中に放り込まれる事になってから。
小学生の頃は良かったが、中学生ともなれば第二次成長期を迎えて男女の性差も目立ち始める事となり。
病弱でひ弱な黒鶴と、体格に恵まれなかった長義はその面立ちと相まってからかいの対象になる事が多かった。

「やっかみなんか放っておけば良いよ。構うだけ無駄」

転ばされた後にもそうやって強がりを言えるのは長義の美点であり、その後はきちんと借りを返すのも流石だった。
けれど黒鶴はそう出来る強さもなく、けれど大人しく出来るほど弱くも無かった。

「やーいやーい、女男ー!」
「お前ほんとに男かよー!」
「女みたいな声しやがって!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいっ!!俺は男だ!女じゃないっ!」

結果、暴れる事が多くなり一文字の剣道場へと通って鍛える事になる。
少しずつ強くなった事でそれでも暴走する機会は少なくなっていったが、黒鶴の前では女の様、男らしくないというのは禁句になった。
中でも他の者が居る時に小さい頃の話しをするのすら嫌がるようになり、白月は残念な思いを抱えている。
朗らかに伸びる声で歌われる子守歌が特に好きで、黒鶴が体調の良い日にはよく強請ったものだった。
けれど、それすらも失われて久しい。
無邪気に抱き着いてくる回数が減り、好きだと言ってくれる事が無くなり。
慰める回数が多くなり、好意を伝える機会は失われた。
高校に上がる頃にはすっかり互いに人嫌いになり、幼馴染みの前でだけ肩の力が抜けるようになる。
少しずつ昔のような触れ合いが、無邪気な様が見られるようになり。
そうなれば白月はどう距離を詰めたものかと考えあぐねるようになり、一時期のように触れ合う機会がなくなるならばいっそ秘めたままで居ようと考えるようになった。
素直ではない、素直になれない、二人のまま。
白月の思いを知る二人には焦れったいと背中を押されるが、他人に振り回される事で臆病になった心持ちでは正直にもなれず。
結局、二人暮らしをするところまでは持ち込めたがそれ以上はアプローチも出来ずに居た。



そんな長年の片思いに変化があったのはつい最近になってから。
白月の古い記憶にある中では、黒鶴は物を分け合うのが好きな子供だった。
間接キスなど気にもせず、飲み物や食べ物を一緒に食べるのはよくある姿だった。
それが男の格好をする様になった頃、異常なまでに嫌がるようになったのだ。
特に自分が触った物を渡すのを嫌がり、一時は何かがあって潔癖になったのかと三人で心配したほど。
酷くなる様子は無かったので、そういう物かと無理矢理に納得させていた。
そんな黒鶴に更なる変化があったのは唐突で、最近は怯える様を見せながらもシェアをしてくるようになる。
そう思った時、夜半に黒鶴が悶えている事に気付いてしまった。

『ん……はぁ……』

いけない事とは思いつつ、気配を消して仕掛けた監視カメラと盗聴器を回し続け。
布団の中で自慰に耽っていると気付いた時には昂揚した。
それがまさか、様子のおかしさに探りを入れてみれば扱き合いをする事になろうとは。

「あ、あぁっ、ぅんんっ!!」
「たず、たずよ……そんなに尻が良いのか?ういなぁ」

愛らしく抱き込む身体を跳ねさせながら、蕩けた顔で快楽に喘ぐ小さな黒い頭が愛らしい。
口端から唾液を垂らし、腰をビクビクと擦りつけて従順な様子を見せる黒鶴。
少し前は確実に考えられなかった状況に、喜悦の笑みが止まらない。
差し出される白い喉にちゅ、と吸い付き舌を這わせると、たまらないと言わんばかりに頭を左右に振り乱し。

「ひぃっん、あ、しょれぇっ!らめ、きもひぃい!!」

黒鶴の様子にもしやと思い、初回以降用意しておいたローションで後孔を攻めれば身体を震わせてよがった。
前立腺を指で攻め、己のモノを挿入れる訳でも無いすぼみを解し続け。
あの淫夢で開発してしまうきっかけを与えた事を喜べば良いのか、惜しいと思えば良いのか。
気持ちが通じ合った訳では無い。
けれど、恋い焦がれた人物に触れて許される機会は失いがたい。
せめて、せめて今の状況を打破する為に思いを告げる事が出来れば。
そうは思っても、言葉が喉を通る事はなく。
行き過ぎた友情に実体のない涙を流すのだった。

たずとお姫様。

七歳の誕生日を小さな子供達が迎えた頃、少しだけ生活に異変があった。
一つは女の子の格好をしていた黒鶴が男の子の格好をし始めた事。
もう一つは白月の髪が真っ白になった事。
そして、長義が率先して皆の世話を焼き始めた事。
特に変化の無かった南泉は、まるで自分だけ置いていかれている様な気がして不機嫌になる事が多くなった。

「たず!ほら見ろよ、花がいっぱいだぞ!」

今よりももっと小さい頃、黒鶴は身体が弱くて家から外へ出た事がなく。
成長した今となっては、体調が良い日には公園へ遊びに行く事が出来るようになった。
前から花畑へ行きたいと言っていた黒鶴なら、小さいけれど花が満開になった公園はさぞ嬉しがるだろうと南泉は楽しみにしていて。
けれど、男の子の格好をする様になった黒鶴は昔の様に無邪気に喜ぶ事は無かった。

「……それより、砂場であそびたい」
「にゃんだよ……おひめさまのわっか作るって、言ってたくせに!」
「言ってない!たず、おひめさまじゃないもん!にゃーせ、ばか!」

ちらちらと花に目を向けながらも素直に遊ぼうとしない黒鶴に、南泉は思わず食って掛かっていく。
不機嫌を露わに強い語調で言われ、黒鶴はビクリと身体を揺らしてからむすっと眉を潜めて怒り始めた。
内容は稚拙な罵倒でも、子供という物は感情に過敏な生き物だ。
年の割には舌っ足らずな言葉遣いで、けれどあらん限りの怒気で怒鳴られれば腹が立つ。

「にゃんだよ、たずが言ったんだろ!おひめさまににゃるって言ってきかにゃかった!!」
「言ってない言ってない!ばか!にゃーせ、ばかっ!ばーっか!!」
「にゃんだとー!?」
「こらこらお前たち、ケンカはよくないぞ」
「……ねえたず、おひめさま嫌いになったの?」

今にも泣き出しそうな顔で言い合いを始めようとする二人に、白月が困った笑みで間に入った。
その様子を端から見ていた長義は大いに首を傾げる。
女の子の服を捨てると同時、黒鶴はあれだけ気に入っていた絵本を全て捨ててしまったと聞いていたからだ。
黒鶴はとくに王子様とお姫様が出てくる話が好きだったが、見ると泣き出してしまったと親が困ったように言っていた。

「……きらいじゃない。でも、たず、おひめさまじゃないもん」
「うん、たずはたずだね。わっか作るの、嫌になった?」
「……たずね、かわいいじゃなくて、かっこいい、なるの。だから、しない」

その言い分はよく分からない物だったが、長義は頷いて返す。
本当は、黒鶴が喜ぶと思って輪っかの作り方を親に教わってきたのを教えたかった。
けれど必死に泣きそうになりながら話す幼馴染みに、何だか悲しくなってしまう。
南泉はそんな長義の様子を知っていたので余計に黒鶴を誘おうと躍起になったが、意固地になった黒鶴には逆効果だった。

「そう……いいよ」
「うんうん。だがな、俺は花占いというものがしてみたい。たずよ、やり方を教えてくれるか?」

不機嫌だったり泣きそうだったりとする幼馴染み達の中で、唯一にこにこと笑みを浮かべた白月が口にする。
悪意の無い楽しそうなその顔に、きょとんと目を瞬かせた黒鶴はおずおずと頷いて見せた。

「いいよ。えっとね……おはな、つんで……」

長義はふと、黒鶴が無作為に詰んだ花を見る。
それは六枚の花弁でなっていて、花占いのやり方も教わっていた長義は小さく息を呑んだ。
好き、嫌い、好き、嫌い、と二つの言葉を繰り返して花びらを摘んでいく簡単な遊び。
けれど、そのままでは嫌いで終わってしまうと幼いながらに気付いたのだ。
慌てて止めようと手を伸ばしたがそれより早く黒鶴は始めてしまい、

「にゃーせはたずが、すき、きらい、だいすき、すき、きらい……だいすき!にゃーせ!たず、だいすき??」
「だっ……大好きにきまってるだろ!!」
「やったぁ!!たずも、にゃーせだいすきー!つぎは、ちょぎねぇ?」
「え、僕……?」
「うん!ちょぎはたずが、すき、きらい、だいすき、すき、きらい……だいすき!ちょぎも、たず、だいすきぃ??」

それまでの威嚇する猫が嘘のようにとろける無垢な笑みで花に埋もれて占いをする様子に、長義はおかしくなって笑って頷いた。
本人は嫌がっても、やっぱり女の子のような黒鶴は、女の子のような景色がよく似合うと思い。
白月は満面の笑顔で戯れ始めた幼馴染み達を見て、満足そうに頷くのだった。

魔法の地図。

小さな小さな、身体の弱い夢見がちな女の子。
始めて会った四人目の幼馴染みへの印象は、そんなものだった。

「あのねー、たず、はるになったらねぇ、おはなばたけ、いきたいの」

ふにゃふにゃと柔らかく笑う顔は無邪気で、潤む琥珀の大きな瞳は輝いている。
熱にうなされる事の多いその子供に会う日。
長義と南泉、白月は決まって近くの公園で花を摘む事にしていた。
言い出したのは子供達の中でも世話焼きの上手い長義で、お見舞いに行く時は花を持っていくのが良いと親に聞いたからだ。
咲いているのはたんぽぽや白詰草、それと小さな名も無い花で。
黒鶴は一人一輪ずつもたらされるそれを、毎回楽しみにしている。

「お花畑?そんなのあるの?」
「うん!あのねー、おそとに、あるんだよ?」

不思議そうに長義が首を傾げれば、嬉しそうに黒鶴が頷いた。
手に持っているのは眠り姫の絵本で、開いているページは森の中の一幕だ。
覗き込んだ南泉がふて腐れたような顔で口を開く。

「たずー、それ絵本!そとにはそんにゃのにゃいぞ!たずは行ったことにゃいだろ!」
「ないけど……あるもん!」
「にゃーいー!」

ことある毎に言い合いをする二人だが、南泉は南泉なりに黒鶴の事を思っての言葉だ。
外に対して過剰な憧れを持っている黒鶴ががっかりしないよう、ちゃんとした情報を教えたいという思いの表れ。
けれど、そんな兄貴心とも言える気遣いを黒鶴はまだ上手く理解出来ないでいた。
本当は優しいのに、ことある毎に意地悪を言う南泉に意地になって反論する。
必死に涙目になりながら、スカートの裾をぎゅうっと掴んで泣き出すのを堪えていた。

「ふむ……南泉よ、もしかしたらあるかも知れんぞ?」
「は?にゃにいってんだよ、白月。お前だって見たことにゃいだろ」
「うむ、ないな。しかし、俺たちは森にいったことはなかろう?」
「もり??」
「木がいっぱいあるところだよ。えっと……山とかにある」
「やーま??」

南泉と二人、顔を見合わせて首を傾げ合う。
その仲の良さに残った二人はくすくすと笑い合い、頷いて見せた。
白月は画用紙と色鉛筆を手に持ち、器用に山や森、太陽に花と描いてみせる。

「山にはな、みずうみ、という水たまりがある」
「うみ!たず、うみもいきたい!」

ぴょんぴょんと画用紙を覗き込みながら飛び跳ねる黒鶴に、長義が危ないと後ろから抱き締めて押さえに掛かった。
白月はうんうん、と頷きながら山とは違う方向に海も描く。

「これは俺たちが行きたい場所の地図だ。宝の地図だな。他に行きたい場所はあるか?」
「たずにゃら、ゆうえんちも好きだと思うぜ!」
「えー、僕はつまらないよ。それなら、どうぶつえんが良い」
「ゆーちえん?どーぶつえん??」

目を白黒とさせて首を傾げる黒鶴に、おもむろに南泉と長義も色鉛筆を手に猫と丸い物体を描き始めた。
大きい丸に小さな丸が連なるソレは恐らく観覧車で、その横に線路と四角い箱を描く。

「たずも!たずもかくー!」
「おお、良いぞ良いぞ!」

幼い子供の興味は長続きする事は無く、気付けばお絵かきタイムになっていた。
思い思いの好きな物を紙に書き、宝の地図はどんどんと不思議な方向性に進化を遂げていく。
そのうち、マス目を描き始めた南泉から始まって二枚目には双六が描かれていった。
長義は折り紙を使って宝物を作り始め、黒鶴が部屋にあったお菓子の空き箱にそれらを詰めていく。

「ちょぎ、おはな!おはなつくってー!」
「俺はふねがいいにゃー」

それぞれ得意な方向性で盛り上がりながら、宝の地図と宝箱を作り上げていった。
双六は実際に外に行けない黒鶴の為の通り道である。
後日、サイコロではなくじゃんけんで進める事にして双六は完成を見せた。

「そういえばたずよ、どうして花畑に行きたいんだ?」
「う?あのねー、ぽぽたん、いっぱいあるでしょー。おひめさまの、わっかつくるの」
「たんぽぽ、にゃ。わっか??」
「あの、頭にのせるやつじゃない?」
「うん!それでね、たず、おひめさまになるの!あとねー、はなうらない、でねー、ずっといっしょ、おねがいするのー」

ふわふわと嬉しそうに笑う黒鶴に、白月は頷いてみせ南泉は首を捻る。
長義は花占いなら、お見舞いに持ってくる花で出来るのにな、と疑問に思って口にしてみた。
きょとん、と瞬きを数度した黒鶴は首を傾げ、

「もらったの、かわいいから……」

思ってもみなかった使い道に、無垢な驚きを見せる幼馴染みだった。
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