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2024-5-1 01:53

カルデア・キッチン

それぞれを部屋に案内して慣れてきた頃、桜色の髪をした国永はエプロンを付けて食堂にやってきていた。
隣に居るのはアーチャーのエミヤで、彼と共に料理をする事が多くなっている。
ともすれば料理が趣味と言える二人で。
食事を楽しみにするサーヴァントには二人の腕で満足頂けているようで、今日も今日とて献立を考えて居る最中だ。

「へえ、じゃあエミヤが一人で捌いてた時は好きな物をオーダーしてたのか。大変じゃ無かったか？」
「ここのマスターはまだ年若く、カルデアも機動したてで人数もそう多くは無かったからな。一度に7人も増えた時は困ったが」
「驚かせて悪かったな、まあこちらも驚いたしお互い様だ。なら今度からはある程度メニューを決めて曜日毎で変えるのは？」
「ふむ、通常ならば問題ないだろうが……セイバー、アルトリアには注意しろ」
「アルトリア？　ああ、あの金髪の子か。彼女がどうしたんだ？」
「故郷の食事が合わなかったと大層嘆いていてね、粗雑な調理をしよう物なら……その上少し、いやかなり……人より大食らいだ」
「……君の苦労が見える気がする。だがそれなら何も一人一メニューと決めなくても好きな回数頼むようにして貰おう」
「私は君が捌けるのなら前のスタイルでも構わんぞ、アサシン」
「アサ……それ、俺だけじゃ無く他にも同じクラスの人間が居たらどうするんだい？　国永……だと被るから、適当に渾名で構わない」

そう言われた瞬間にエミヤはきょとんとした顔をし、難しそうに表情を潜めた。
口元に手を当てて小さく何かを呟いている事から渾名の類いでも決めているのだろうと予想して手元のリンゴを剥いていく。
下処理を終えていたパイ生地にカスタードを盛り付け、フライパンで甘いカラメルとフランベしたリンゴを中心から広がるように乗せて細く切ったパイ生地を交互に重ねていった。
手際良くいくつかのアップルパイを作り上げた後はオーブンへと入れ、

「国永、ではクニと呼んでも良いか？」
「クニ、か。構わないぜ、改めてよろしく料理長」

懐かしい呼び名に微笑みを浮かべて了承した。
オーブンで第一のアップルパイが焼き終わる頃、丁度良く金髪の少年が顔を覗かせる。

「エミヤ、お兄ちゃん居る？」
「丁度良いタイミングだ、マスター。今クニが君用のおやつを作っていた所だ」

振り返りざまにだろう？とニヒルに笑われてしまっては、違うとも否定しがたい。
苦笑して後のパイの切り分けと配膳を頼むと言い残してパイ皿を片手に少年に歩み寄る。
クニ、という聞き慣れない音が探していたお兄ちゃんの事だと分かると怜悧は笑顔を浮かべて近寄った。

「あのね、ここ庭園があるからお兄ちゃんを誘おうと思ったんだ。お花が好きだって言ってたし」
「そうか、わざわざありがとうな、怜悧坊。そこにテーブルや椅子はあるかい？　どうせならピクニック気分を味わおう」
「うん！　ピクニックって楽しそうだね？　あ、マシュにも声掛けて良い？」
「ああ、6人かまあそこに座れる位の人数だな。パイは足りなければ今エミヤに見て貰ってる分もあるから、君の好きに声掛けして良いぜ」
「やったー！ふふ、誰を呼ぼうかな？　あ、お兄ちゃんの旦那さんは呼ばなくちゃね。黒葉さんだっけ？」
「黒葉だな。子供好きだから遠慮無く呼んで良いんだぞ、マスター」

はーい、と笑顔で振り返る知り合いそっくりの顔つきに、繋がれた温かい手に、けれど違う人物なんだなと思い当たる。
可愛い従姉妹の可愛い息子、自分にとっても弟のような子だった。
彼には存在しない、愛していた母親。
出会わなかった結果なのか、出会っていたとしても同じなのか。
こうして出会ったのならこの世界が何であれ、せめて安心に居場所になりたいと願った。
2017-8-15 22:52

カルデア旅行

怜悧が魔術師見習いのマスターとしてようやく慣れ始めた頃、新しいサーヴァントの召喚をダ・ヴィンチに頼んだ所でそれは起こった。
目映い魔力の本流は暴走し、耐えきれなくなった霊基炉が暴走。
軽い小爆発を何度も起こした室内は煙で包まれ、

「先輩、平気ですか？」
「う、うん……だいじょう……けほっけほ、ごめ、くるしい……」
「直ぐに煙を排出しよう、少し待って居てくれ」

ダ・ヴィンチの言葉と共に煙が晴れていく室内には、見知らぬ数人の人物が居た。
それに驚く三人を置いて、室内に飛び込んでくる男性。

「皆、ここで異常反応が見られたけどだいじょう……ぶ……えええええ！？一度に7人のサーヴァント！？」
「あの、ドクター……これって、先輩の負担になったりはしませんか？」
「え、僕？身体は全然平気だけど……」
「むしろ彼等の方が心配だよ、霊基が不安定になってたり敵対行動が見られないか心配だ」
「あのー……」

7人の中でも代表としてか、互いに驚いた顔をしている中で怜悧そっくりの青年が手を上げる。
怜悧も驚いた顔で自分と青年を交互に見、紫銀の髪の少女は怜悧を庇うように立ちふさがった。
Dr.ロマンは青年の声に笑顔を浮かべて一歩踏み出し、止めようとする少女をダ・ヴィンチが手で制する。

「驚かせて申し訳ない。それで、どうしたのかな？」
「僕はレイリと言います。現状説明を受けて良いですか？　僕には何が何やら……恐らくそっちの人達も同じだと」

似た顔すら多数居る中で、知り合いらしい複数のグループに分かれている。

「こちらはお前達に敵対の意志がなければ様子見で構わない。まずは状況説明を、判断はその後で良いだろうか」

紅い髪の着物を着た女性が言い出せば、本来なら召喚された時点でされている筈の刷り込みが上手くいってないようだと判断出来。
せっかくならお茶にしようと言い出した怜悧の微笑みに絆されつつ、全員は食堂に移る事となった。

「なるほど、聖杯を悪用する人理の崩壊……要するに歴史潰し、だな。鶴丸、国永、お前等も理解出来るだろう？」
「ああ、つまり主を守りながら出撃すれば良いんだな？」

白い羽織の白髪の青年は道理だと頷き、似た格好の青年は出されたお茶を静かに飲んでいる。
その様子を見ながら真向かいに座る白いローブに白短髪の青年が首を傾げ、

「俺はそっちに居る黒いのと桜色には覚えが在るんだが、違う世界の筈だぜ？　こっちの世界も見た事無い、なあ？」

最初に名乗りを上げたレイリと名乗る金髪碧眼の青年が頷く。
彼等とは違う道理を生きる筈で、まさかここで出会えるとは思わなかった、と。
特にレイリが懐いた桜色の青年は、親のような安心感さえ抱いたが本来なら会話する事さえ適わないのだ。

「でも国永さんや黒葉さん、鶴丸さんに又会えて嬉しいな」
「おっと、それだと名前が被るから俺の事は国兄か母親みたいに呼んでくれて良いぜ！　な、お鶴？」
「……ん、国兄がそう言うなら、俺もそれで良い」
「何やらこちらに来てから調子の悪いようだが……お鶴よ、平気か？」
「俺は別に問題ないぜ？」
「ふむ、多少の性格に誤差があるのかも知れないな。少なくとも鶴はそんな目をしていなかったと思うが……」
「体調にも記憶にも負担が掛かっているかも知れないから、出来れば直ぐに検査と調整を受けて欲しいんだ……研究員も総出で取りかかるから、何人かに別れてね」

Dr.ロマンの言葉に驚いた顔をする者と深刻そうな顔をする者に別れた。
中でも同じひすいという音を持つ二人は、

「直ぐにやってくれ」
「俺に構うな」

同じ深刻な顔をしながら二つに分かれた。
それに驚いた顔をするヒスイはしかし、直ぐにレイリへと顔を向け。

「どうせならお前も先に受けさせて貰え、不安定な状態は一番好ましくない」
「そうだね、ヒスイ。じゃあ僕とヒスイは同時にお願いします」

二人で顔を見合わせながら頷いてみせる。
その時に怜悧少年とレイリは目があったが、直ぐに顔を逸らされてしまった。
苦笑するレイリに肩に腕を乗せて小さく呟くヒスイ。
次いで反応があったのは黒葉と国永、鶴丸の三人だった。
同じ世界から来たというだけあって離れての行動には些か消極的だ。

「母君は受けないのかい？」
「……相変わらずお前は白痴だな。或いはあの子のボケが移ったか？　まあお前と国永が受ける分には止めないが……研究、と名の付く職に居る輩には不届き者が多いからな。
それに今の俺は時の政府との接続がいきなり切れてノイズが多い。三日程時間を貰って最適化をしたい」
「……緋翠さん、まるで機械みたいな事を言うんだね？」
「そうだな、色々弄られて内面は機械に近いんだろう」
「分かった、三日だね。じゃあ、まずは他の人を診ているから……もし悪化しそうなら直ぐに言ってね！」

Dr.ロマンの強い推しにより、だが許可を得てそういう事になった。
まずはレイリとヒスイ、騎兵隊と呼ばれる場所に関する二人を見る事になった。
分かったのはレイリが新生のルーラーだと言う事。
サーヴァントの把握能力に優れている上に自身の回復力が非常に高い事が分かる。
宝具は本人曰く、銀の獣の守護があるだろうとの事だった。
次いでヒスイはランサーだという事が分かった。
本人曰く本来ならキャスターであるとの事だったが、持っていた槍から神性の宝具の反応が見られる。
魔術師、ルーン使い、知識の為の犠牲、兄弟殺し、多数の要因からオーディンに近い認識では無いかとなった。

「ルーラーって、秩序を守るんだよね……僕は騎兵隊の指揮しかした事は無いけど、よろしくマスター」
「ランサーね……まあお前に明かしてない真名もある意味皮肉って奴だな。力になるぜ、マスター」

二人共に苦笑をしながらだったが、快く引き受けて貰えて良かったと怜悧は思った。
それに怜悧はレイリの物語を知っていた。
おばあちゃんが読み聞かせてくれた顔の無い青年の英雄譚。
ロマンはもしかしたらレイリは怜悧自身を模した英雄なのかも知れないと聞いて嬉しかったのだ。
自分も彼のように世界を救えたら素敵だなと思って居る。
次にやってきたのは黒葉、国永、鶴丸の三人だった。
不思議な事に、黒葉と国永は総じてリンクが繋がって居た。
その状態で分かったのは二人が夫婦だと言う事、二人で一人のアサシンだと言う事。
黒葉が主に前に出て国永がアシストに、そして片方は威圧が、もう片方は魅了が高い事が分かった。

「ふむ、この父がアサシンとは……面白い物よの、よろしく頼むぞ主」
「はは、意外や意外。まさかの展開だな、まあいざって時には兄ちゃんだって盾位にはなるさ。緊張しなくて良いぜ、マスター」

二人に次いで五条鶴丸から分かったのはライダーという事だった。
宝具はドラゴンに近い幻想種のビャーキーだというのだから驚きだ。
そのせいか、本人もあらかたの物には乗れる事、龍種の加護を持っている事が発覚した。
そして黒葉と国永曰く、本来の性格より少し捻れているようだと聞かされる。

「安心しろ、俺が必ず守ってやるからな。君は安全な場所で隠れて待って居てくれ、約束だぜ？」

他に白い方の二人も診た。
寸分違わず同じ白い羽織に白髪の白い太刀使い、蜂蜜色の瞳と紅い瞳、髪の長さだけが強いて違う。
快活な笑顔を見せる黄金の目を持つ方が鶴丸と言い、セイバーだった。
本来は付喪神だと笑う彼は人懐こい笑顔で怜悧の頭を撫でてくれる。
宝具も己の名前と同じ、鶴丸国永という太刀を使うのだとか。
神性の高さが彼を神様の一人だと伺わせた。
紅い目に長い髪を持つ方は薄く笑って国永だと言い、彼はバーサーカーだった。
恐らくは鶴丸と同じ、けれど違う分岐の彼。
鶴丸曰く緋翠の刀だという彼は、言葉や表情を失っている部分が大きい。
かろうじてマスターである怜悧とは簡単な会話や微笑みを見せるが、それ以外は狂化のせいか本能が勝るらしい。

「君に驚きの結果をもたらそう。何せ戦は得意なんでな、期待してくれて良いぜ、主」
「主、好きに使って良いぜ」

そうして最後に残ったのが付喪神と刀を使う着物姿の紅い髪、緋翠だった。
彼女はキャスターであり、膨大な魔力を持っているが本人は単なる陰陽師だと名乗る。
更には歴史を守る審神者という巫女の現人神であり、彼等を統括し管理する総長でもあったと。
故に個であり群であると語る彼女は、かつての人としての人格でもってココに居る。
そして彼女の宝具は身体に残る六つ刃紋とそれに連なる付喪神。

「待たせて悪いな、俺は緋翠。自分が仕える側に回るとは……ふふ、まあ好きに呼ぶと言い、今代の主殿」

そう言って微笑む彼女はえらく楽しげだった。
2017-8-15 00:36
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