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ハッピーシンセサイザ



ハッピーシンセサイザ
君の胸の奥まで
届くようなメロディ奏でるよ…



「おかえりなさい、シュノ。」
ニコニコと笑顔でシュノを迎え入れたのは金髪の柔らかな笑みを浮かべた青年だった。
幼い子供達に囲まれながら、いつもと変わらない笑みを浮かべる。
「ただいま、レイリ。」
そうしてシュノはレイリをきつく抱き締める。
小柄な身体はすっぽりとシュノの腕に収まり、甘い香りが辺りに漂う。
「何だか甘い匂いがするな。」
「子供達とクッキーを焼いていたんだ。」
「そうか。」
短く答えて、甘えるようにレイリの首筋に顔を埋めた。
「シュノ…?どうしたの?」
珍しいシュノの行動に、レイリはキョトンとしてシュノを見た。
返答はない。
これは余程何かあったに違いないと思い、少し時間は早いが子供達を家に帰し、全員の帰宅を見届けてからソファーでグッタリするシュノの隣に腰掛け、紫銀色の髪に指を通した。
すると、菫色の瞳が開いて頬に手が伸びてくる。
自分の手を重ね、やんわりとレイリが微笑めば、シュノも目を細めた。
「僕にどうして欲しいの?」
「なにもいらない、ここに居ろ。」
レイリは困ったように笑いながら、もぞもぞと自分の膝を枕にするシュノの頭を撫でた。
先程から気になっていた、黒地の軍警察の制服にいくつものシミが付着している。
鉄分を含んだ、独特の鼻につく嫌な臭いは、わざわざ記憶から引き出さなくても理解できた。
シュノの態度から見て、どうやら後味の悪い任務だったらしい。
シュノは仕事の事を一切レイリに語らない。
本来、契約者であるレイリはマスターであるシュノを補佐しなければいけない立場なのだが、シュノはレイリが自分の仕事に干渉する事を許さなかった。
だからレイリはシュノがどの様な仕事をしているのか詳しく知らない。
それでも、シュノの役に立ちたかった。
旧式とは言え、最低限のスペックは持ち合わせているので、家事全般は全てレイリの仕事だった。
ただ、最近塞ぎこみがちなシュノを何とかして癒したいと、レイリは愛しそうにシュノの髪を撫でた。

『お前の歌声は暖かくて心に響くな。』

ふと、古い記憶がよみがえる。
自分を作り上げた彼はそう言ってレイリの頭を優しく撫でた。
心に響く、という感覚は機械のレイリにとって理解しがたい感情だった。
でも今なら、きっと正しい気持ちで伝えられるかもしれない。
人と機械の恋は不毛。
でもこの気持ちに嘘はない。
踏み出さなければ何も始まらない。

シュノの髪を撫でながら、レイリは窓から吹き込む風にそのメロディを乗せた。
何の取り柄もない、僕にただひとつ。
少しだけど、出来ること。
つまらない建前も、嫌なことも全部消してあげるから。
「ん…。」
膝の上で眠っていたシュノが目を開けてレイリを見た。
「起こしちゃった?」
「いや…、もっと歌えよ。
お前の声は心地良い。」
そう言って、聞き入るよう目を閉じた。
その時、ぽつりとシュノの頬に何かが零れ落ちた。
不思議に思って目を開ければ、レイリが涙を溢していた。
「何泣いてんだよ。」
「え…?泣いて…?」
シュノがレイリの頬を伝う涙を拭うと、レイリは驚いた表情で固まっていた。
「機械でも、涙は流せるんだな。」
「違う、よ…。シュノが泣かないから、代わりに僕が泣いてるんだよ。」
「俺は泣かない。」
「僕の前でまで強がらなくても良いんじゃない?
少しは素直になりなよ。」
ふわりと、柔らかくレイリが微笑み、シュノは苦笑した。
「お前の歌声で、泣きたい気分もどっか行った。
だから歌え、俺だけのために。」


ハッピーシンセサイザ
これで楽しくなるよ
涙拭うメロディ奏でるよ。

ちょっと照れるような
単純な気持ち、電子音で伝えるよ。


ダンデライオン7.5


「はぁ?ドレス?」


朝一番に素っ頓狂な声を上げたのは、寝起きで自由に寝癖のついた桃色の髪の少女だった。
「ええ、入学式典は正装でないといけませんのよ。」
「リアン、ドレス持ってきたです!
トラヴィスもドレス持ってくるがいいです!」
「いや、アタシはいいよ!
制服!制服で十分!」
「トラヴィスさんは女性ですから、そうゆう訳にはいきませんよ?」
「アンタは確実に楽しんでいるよな?」
「さぁ、なんのことでしょう?」
タウフェスがクスクスと笑いながらコルセットを手に取った。
「いや、それはちょっと…。」
「このくらいレディの嗜みとして受け入れないといけませんよ。」
「リアンも手伝うです。」
「ちょ、二人とも目が恐いって!」


その日女子寮に愉快な悲鳴が響いた。


なんとかコルセットを締め上げ、ドレスを身に纏うとそれなりに見えなくもない。
ただくせ毛を束ねただけの髪型もタウフェスが綺麗に巻き髪に仕上げて、髪を下ろして整えれば何時ものトラヴィスを知る誰もが驚くだろう。
「トラヴィス、凄く綺麗です!」
「本当に綺麗ですよ。」
二人に進められ鏡を見ると、確かにいつもとは全く違う自分がいた。
「これ、アタシ?」
「そうですよ。」
がらりと雰囲気を変えた自分に、もしかしたら色恋に鈍感な幼馴染みも何か反応してくれるのではないかと、淡い期待を抱いた。
がさつで男勝りな面はあるが、所詮トラヴィスも女の子だ。
意識する男性によく見られたい気持ちはあるわけで、照れながらも二人に手を引かれて寮を後にした。


「うわ…凄い人」
「凄いです、リアン、人が一杯はじめてです!」
余りの人の多さに、トラヴィスとリアンは圧倒されてしまっている。
「二人とも、迷子にならないでくださいね?」
タウフェスが、困ったように笑いかけて二人は少し恥ずかしそうに頷いた。
しかし田舎町から出てきたトラヴィスと、閉鎖的な環境で育ったリアンは周囲が物珍しくてしかたがない。
キョロキョロと世話しなく視線を動かしていると、不意に見慣れたオレンジ色を見つけた。
「ロゼとシルフだ…。
ごめん、アタシちょっと行ってくる!」
トラヴィスはドレスの端を掴んでゆっくり近付いた。
驚かせようと、二人の背後にそっとちかよった。
「Σはぁ!?トラヴィスがドレス?」
驚いた様な幼馴染みの声に、トラヴィスは、しめしめと思いながら距離を縮めた。
「ドレス、着てるの?」
確認するような声でロゼットが囁くのが聞こえて思わず立ち止まった。
「うん…そのはず。
そんな高価なものじゃないけど、姉さんは女の子だからやっぱり学生服は可哀想だって、親が。」
「想像できない…」
「試着したの見たけど、まぁ大人しくすればそれなりには見えるよ。
ただ、姉さんは嫌がってたけどね。」
「大人しいトラヴィスも怖いんだけど。」
トラヴィスは立ち止まった事を深く後悔した。
やはり、性に合わないことはするべきではなかったのだと悟った。
そうなると、とたんにドレス姿が恥ずかしくなってきて、逃げるようにリアン達のところに戻った。
「お話は済みました?」
タウフェスがドレスを翻して微笑んだ。
ドレスも彼女の様な淑やかな女性に着られた方が良かったろうにと心の内に毒吐いた。
「あぁ、済んだよ。
やっぱり見慣れない格好だから驚かれてさー。」
トラヴィスは何時ものように笑ってドレスの端を摘まんで見せた。
「あら、そうでしたの…。
見る目の無い殿方ですのね。」
「トラヴィス綺麗です!リアンはそう思うですよ!」
「アハハ、ありがとー、二人とも!」
トラヴィスは二人にギュッと抱き付いて泣きたい気持ちをごまかした。
「二人だってスッゴク綺麗だよ!
みんなに自慢したいくらいさ。二人とも私の友達なんだってね!」
リアンはその言葉に純粋に喜び、タウフェスはその裏側の気持ちを敏感に感じ取り、気が付かない振りをした。


近未来パロの設定

<アクアプラネット>
惑星の8割が水に沈んでいて、雨の気候が多い世界

<Wold-U> アンブレラ
傘のように積み上げられていく街と張り出した中層、それを覆うドーム型の天井、昔ながらの地面の下にあるスラム街が特徴の街
街自体がWoldのくくりで数ヶ所、それぞれ形は様々
Wold-Uは東南をモチーフにした街
主に日本、中国、ベトナム辺り

<オーガ> orga(組織)
当時は正式名称も無くただとある機構に作られた、という意味でorganizationの最初を取って名付けられた
 Wold-Uの元組みを創設した団体
 得意分野は機械工学
 グリフォン パワードスーツ(外部設置、着る感じ) grim-form(断固とする,形態)
 ヒッポグリフ 無人ロボット pace-grip(速度,把握)
 ゴーレム サイボーグ(機械に人の脳を組み込む) grow-live(大きく,生きる)
 フェアリィ 義体パーツ(生身を残した機械化) fair-early(公平に,早く)

<アルケミー> alchemy(錬金術)
アンドロイドのみを作る会社で多種の素体を作っている
心臓部分に鉱石を利用した「核」を使うのが特徴
 ノーム サポート型(実生活補助用)
 サラマンダー パワー特化型(バトル用)
 シルフ 電子サポート型(ネット補助用)
 ウンディーネ 電子特化型(ネット用)

<リペア> Repair 修繕する
 義体パーツ換装や電脳化など、人と機械を繋ぐ手術を主に扱う
 電脳化する事で常にネットに繋がれるという利点がある
 また、擬似的にネットを別の世界として視認する事が出来るようになる
 簡単に言うと頭の中にPC仕込む感じ

<人間とアンドロイド>
バディ(相棒)契約を結ぶと人間とアンドロイドの間にリンクが繋がる
アンドロイドは人間を守り、人間はアンドロイドに力を与える
核のシンクロ率が上がるとアンドロイドの性能が上がる
なので公的機関の人間にはシンクロ率の高いアンドロイドが与えられる
低くても50%以上からになる

<マグノリア製アンドロイド>
どの人間とも安定したシンクロ率を保持する特別製
大体はバディが決まっていない人間に与えられる
特別製なので量産はされていない
リンクを利用して他機械を操作する事も可能

<地球>
かつて人類が住んでいたとされる惑星
アクアプラネットは地表が人が住むのに適していない、雨に微量の有害物質が含まれている
なので各地でWoldを展開、居住区を確保する必要がある
自由に過ごせるという地球は、現在では理想郷としてその名が知られている
しかし位置データや地球に関する情報が現存していない



<軍部警察機構> -リオン-
 軍事局直属独立治安維持三課
 通称、軍警三課

シュノ・ヴィラス
男 24歳 長刀
実戦配備 生体
中尉 軍警三課の第一班班長
極度の機械嫌い
電脳化していないのでリンクは外部機器を繋ぐ
バディはレイリ
家族を暴走した機械に殺された過去があり、目の前で見ていた事から機械嫌いになる
脳が活性化して通常の人間の数倍の集中力向上等の恩恵がある反面、不眠症で今後の生命活動に影響があるのではと危惧されている
「良いか、俺はお前が気に食わない。余計な手間は掛けさせんなよ」

ゼクス・マグノリア
男 21歳 ハンドガン
情報処理専任 ゴーレム
軍警三課の第一班副班長
情報処理能力に特化させている
基本的に実地に行く事が少ない
バディはタウフェス
「あまり出歩かない方が宜しいと思いますよ?
 貴方のブラックボックスは並の科学者でも手が出したくなる程の魅力がありますから」

レシュオム・マグノリア
女 設定上20歳 スナイパーライフル(ボルトアクション/手動装填)・二丁銃・ナイフ
実戦配備 ノーム
軍警三課の第一班所属 特攻隊長
実戦用に整備、換装されているアンドロイド、通称M-R
細かい動きや繊細な作業に向いているが、パワーは劣る
核はアパタイト
戦闘用無人ロボットのR2と、運送サポート用車のR3をいつでも使えるようにしている
戦闘面では速度を利用したトリックスターな動きを得意としている
マスターはイル 試験的に配備されている
シンクロ率は80%
「マスターの事は直ぐに判るし、一緒に居たくて会えたら核が温かくなる気がするの。
 不思議でしょ?」

タウフェス・マグノリア
女 設定上15歳 アサルトライフル(フルオート/自動装填)・隠し銃
情報処理補助 シルフ
M-Rの後期型で通称M-T
サポート特化で情報処理に長けていて、実地配備の情報収集も可能
核はアンバー
本体は常にゼクスの側、大体演算機器に接続が繋がっている
情報収集用猫型ロボットのM2と観測用少女人形のM3で行動する事が多い
戦闘面では電脳ハックやジャミング等で相手の動き等を阻害する事が得意
マスターはゼクス
シンクロ率は80%
「あは、可愛いなぁ。そんなに可愛いと誰かに攫われちゃうかも知れないから、気を付けてねー?」

イル
男 19歳 ガンブレード・ハンドガン
実戦配備 フェアリィ
軍警三課の第一班所属
バディはレシュオム
「俺は、レシュオムを守りたい。人としてオカシイと言われようと、それだけは変わらない」

シエル
男 18歳 ガンブレード・ハンドガン
実戦配備 フェアリィ
軍警三課の第一班所属
バディはリラ

イグニス
男 21歳 ガンナイフ・暗器の類
情報処理補助 ゴーレム
軍警三課の第一班所属 通常は実地での情報収集やサポート役
バディはエヴァンジル

ノエル・ミト・クロッシュ
男 36歳 ショットガン
大佐 軍警三課の課長 生体
バディは居ないがルーシェスと仮契約中
「アイツ等が軍服を着る意味なんざ、単なる的に過ぎねぇよ。砲撃の的であり注目の的って奴だ。
 基本として求めるのは隠密性だ」

ルーシェス・マグノリア
女 設定上20歳 対戦車ライフル・スティック型グレネード(鈍器)・手榴弾
初期型のアンドロイドでパワー型、通称M-L
敵兵・敵ロボットの殲滅に重きを置いて作られた為、装備が凶悪
対戦車ライフルで殴りかかってくる事もある
マスターは居ないが常に軍警三課の課長付きとなっている為、現在はノエルと仮契約中
「はぁ……このまま殴ってもそう簡単には暴発しませんから、安心して下さい。
 こっちの鈍器は死にますが」

ウィッカ
女 24歳 工具
リペア部門 機械のお医者さん
「カカカッ、可愛らしいのお前様。一度分解して晒して並べて解して見たいものよ。
 一度とは言わず二度三度と解して見たいものよ」

ダンデライオン7



「本当に、姉さんはどこにいるんだろう?」
「騒ぎ起こさないで大人しくしてくれてればいいけど。」
内心穏やかではない二人は、ここにいない幼なじみが問題を起こさないかと肝を冷やした。
ただでさえ平民には風当たりが強いアカデミーで問題を起こされては困る。
さすがに、出発前にこれでもかと言うほどにロゼットに説教喰らったトラヴィスだ。
今日くらいは大人しくしているだろうと、探すのをあきらめた。
「もしかしたら、ドレスが窮屈でどこかで休んでるのかも。」
「Σはぁ!?トラヴィスがドレス!?」
ロゼットは驚いて思わず声を上げた。
あたりが不審な目で彼を見る中、声を潜めてロゼットが訊ねた。
「ドレス、着てるの?」
「うん…そのはず。
そんな高価なものじゃないけど、姉さんは女の子だからやっぱり学生服は可哀想だって、親が。」
「想像できない…」
「試着したの見たけど、まぁ大人しくすればそれなりには見えるよ。
ただ、姉さんは嫌がってたけどね。」
「大人しいトラヴィスも怖いんだけど。」
「まぁね…姉さんは、ロゼに見て欲しいんだろうけど…」
「?」
ぽつりとシルフィスが漏らした本音に、ロゼットは訳が判らないと言った風に首を傾げた。
これは先が遠そうだと、シルフィスが苦笑した時だ、会場が歓喜の声に包まれた。
何が起きたのかと、あたりを見渡せば
壁際の台座に設えた椅子に座る複数の人影が見える。
学園の関係者や講師陣に混じって、見覚えのある二人組が席に着いた。

「騎兵隊のレイリ・クライン隊長とシュノ・ヴィラス副隊長だ」

誰かが声を上げてたのすら、ロゼットには届かない。
「ロゼ…あの人達…」
「間違いない!あの人だ…。」
高鳴る鼓動が抑えられない。
ロゼットが熱心に見つめる2人組は、金髪碧眼の青年と、紫銀の髪の見慣れない服装の青年。
あの時より多少成長しているせいか、少年っぽさが抜けて大人びた印象だが、身に纏う雰囲気は一切変わっていなかった。


「大丈夫、怪我はない?」


あの日、暗い森の中で優しく手を差し伸べてくれた時のまま。
流石に式典ともあり、隊長の方は正装しているが、副隊長は相変わらず見慣れない服装のままだが、それが彼には一番似合う正装なのだろうと解釈した。
初代隊長の生き写しと言われ、由緒正しい貴族の出身である現隊長は16歳という異例の若さで隊長職に就いたと、ロゼットは風の噂で耳にしていた。
今の自分と同じ年齢で隊長になり、隊をまとめて壊滅状態だった騎兵隊を見事再興させるという偉業を成し遂げた彼は、まさに絵本で読んだ騎兵隊の隊長そのものだった。
そして、そんな彼に寄り添い、第一線で数々の戦果を上げている副隊長。
自分がこの二人に命を救われたのは確かな過去で、原点だった。
二人の様に強くて誰かを守れるようになりたいと、ロゼットは二人に強く憧れを抱き、騎兵隊に入るという目標の元に彼らの役に立てるようにこれからこのアカデミーで学ぶのだと思うと、胸が躍るようだった。
一旦落ち着こうと、大きく深呼吸をしたロゼットは、フィオルが見ていた事に気付くと気まずそうに目を逸らした。
「何で見てるんだよ…」
まさか見られてるなどとは露にも思わなかったロゼットは、照れたように頬を赤く染めた。
「有名人が来ているのが珍しいと思ってね」
相変わらず、よく読めない笑みで、フィオルは舞台に視線をやった。
「……変なやつ」
まるで構って欲しがる子犬みたいで、つい笑みがこぼれた。

壇上では、副隊長が隊長の耳元で何かを囁いている。
何となくロゼットは二人のやりとりに目をやり、何の気なしに二人を眺めていた
二人は本当に信頼し合ってるんだなと、羨ましく思えて、隣に立つ不思議な同室者を見上げた。


「お集まりの皆様にはご機嫌麗しく存じます。ご入学の御方々にはお祝いの言葉を。ようこそいらっしゃいました」

不意に、喧噪をかき消す声が響きわたり、辺りは一斉に静まった。
些細な光彩の変化により、濃淡を変える鋼色の髪をした女性が立ち上がり、視線は彼女、アカデミー学校長のルーシェス・マグノリアに集中した。
ルーシェスは優雅に一礼をし微笑みを浮かべると、そのよく通った声で静かに語り出した。

「どうぞ気軽な気持ちでお聞き下さい。
騎士騎兵王立学校、通称アカデミーはアルメセラ王国が民衆を守る為、自衛の手段を授けるという目的で創設した王国最大の学校です。
そして、広き門は学ぶ意欲のある者に対して閉ざされる事はありません」

ルーシェスは学制服に身を包んだ奨学生達を見つめた。
優しい微笑みに、奨学生達は安堵を覚えたことだろう。
初日から緊張していた生徒達も、落ち着いた表情を浮かべていた。

「我がアカデミーの基本にして絶対となる理念は、生徒は全て平等であるというもの。
何人たりとも、これを犯す事は許されません。
君達の価値は君達が決める。
親の装飾品、愛玩人形に学ぶ権利などありません」

今の貴族や大臣連中にその様な考え方をする方が少ないのは、ロゼットですら知っていた。
それを、あえてここで言葉を選ばずに言い放つのは、並の神経では成し遂げられないことだ。
全ての人間が、生きるために何らかの努力をしているわけで。
その全てが報われるという訳でもない。
それでも、努力しなければ報われることもないのだ。

「伊達や酔狂で通う者など不要です。生きる力の無い者は廃れるが世の定め、その様に倣うがよろしいでしょう。力の無い者は何もする事が出来ないのですから、泣いて喚いて暮らせばよろしい。ですが力を望む者には、我がアカデミーは全てを与えましょう。庇護も手段も、仲間もです」

ルーシェスはマントを翻して笑った。
チェスのキングの様に、絶対的な王者の風格。
その一瞬に全生徒が押し黙った。
圧倒的な存在感に、ロゼットも身震いした。


「私がまず与えるのは君達の力になりうるであろう同室者。誉れあるアカデミーの一生徒である自覚を持ってその意味をよくお考えなさい」


ロゼットは隣の同室者を見た。
貴族である彼は自分の後ろ盾という意味ならその役割は十分果たしている。
しかしそれはロゼット自身は望んでいない。
貴族を毛嫌いするわけではないが、やはり自分の力で何とかしたい気持ちが強かった。
そして、自分が彼の為に何が出来るかが判らない。
何かしたいという気持ちはあるが、それは自分のエゴではないかと不安になる。

フィオルが何を望むのか…
それを理解しないとロゼットは先には進めない気がした。


共存の意味




びちゃり、と愛剣に付いた血を振り払うと、夜の闇の中で口元をニヤリとつり上げて青年は冷酷に笑った。


「シュノに近付いた罰だ、バーカ。」


血の色のような真っ赤な瞳を歪ませて、青年はあざ笑うかのように動かなくなった肉の塊を蹴り上げた。
「あぁ…心地良いなァ。
お前じゃただの愛玩人形にしかなれねぇだろうが、俺は違う。」
声を殺し、心底可笑しいのを必死で堪えながら、闇に浮かぶ月が青年を照らし出した。

「最高の気分だぜ、なァ…レイリ?」

その青年こそが、騎兵隊隊長レイリ・クラインだった。




「シュノさん、おはようございます。
今日は何だか元気ないですね?」
食事の支度をしにきたレシュオムが、炊事場でサンドイッチを作るシュノに声をかけた。
「ああ…レイリが体調不良で伏せってるんだ。
悪いけど、今日のレイリの仕事は上手く割り振っといてくれるか。」
「あ、はい…あの…隊長は大丈夫なんですか?」
「平気だ。ただの過労だから何日か安静にしてれば治る。
暫くは、俺が看てるから、誰も近付けないようにしておいて貰えるか?
じゃないとアイツおちつかねぇから。」
「はい…判りました。」
用件だけ伝えると、サンドイッチを持って、シュノは足早に去っていった。
いつもと違うシュノの態度に不自然さを感じつつも、きっとレイリが倒れたせいだろうと思い、レシュオムは食事の支度を始めた。



レイリの私室に入り、鍵をしっかりとかける。
カーテンが閉め切られた暗い室内は重い空気に包まれていた。
「シュノ…お願いだから、これ外してよ…」
重たい鉄の鎖でベットにくくりつけられた金髪の青年が、消え入りそうな声で懇願した。
そうしなければ、彼は何をし出すか判らないからだ。
「レイリのマネのつもりか?
アイツはそんな安っぽい喋り方はしない。」
「何を言ってるの?変なシュノ。」
「少し黙れ、イリア。」
今にも殺しにかかりそうな殺気立つシュノに、レイリ…否、イリアはお手上げだと言わんばかりに肩をすくめた。
「随分な言い様だなァ?
お前にはもっと感謝して欲しいくらいだぜ?
お前に出会うまで、この俺がレイリを汚い世界から守ってやってたんだぜ?」
「守る?ふざけんなよ。
テメーのしてることはただの道楽だろうが。
お前はレイリを守る気なんてねぇし、殺すのが楽しいだけだろうが。」
「ハッ、相変わらず減らず口ばっかり叩きやがって。
実際父親の虐待を受けてやっていたのは俺だったんだ、ちゃんとお守りはしてやっただろう?」
レイリの父は厳格な騎士だった。
しかしある日を境にレイリに手を挙げるようになった。
そして決まって、暴力を受けると引きずり出されるのはイリアだった。
彼はレイリの内なる狂気として、着々と歪みを膨らませていき、そして父親と、とめに入った母親や、屋敷にいた全員を皆殺しにした。
その事を、レイリは知らない。
ただ、血塗れた自分が一人、死体が転がる屋敷の中に立っているところから記憶は始まったと、以前にレイリ自身の口から聞いていた。
「女神の魂はこの世で一番美しく清らかな魂に宿る。
お前はその魂に汚れが及ばないように守護するシステムだろうが。」
「俺にはレイリのご高尚なお考えはサッパリ判らんがな、アイツの闇の部分が全て俺じゃねぇとは言っておくぜ。
汚染は既に始まってる、俺を異常だと思うなら離別は近いってことだなァ?」
レイリの顔で、声で、彼はゲラゲラと下品に笑った。
この男が、人格という不確かな存在でなければとっくにシュノは斬り殺していた。
だが、愛しい恋人の全てを持っているイリアには手出しできずに、ただ冷めた目で睨みつけるだけ。
「そんな目をしても無駄だ。
レイリは確実にお前より先に死ぬんだよ。」
唯一、恋人と違う赤い瞳が満足そうに揺れた。
「だとしても、俺は…」
「チッ…レイリが起きたか。
仕方ねぇから、今はまだ……返しといて……やるよ……。」
シュノの言葉を遮り、イリアの意識は深く闇に溶けていった。
グッタリと意識を無くしたレイリが、暫くして瞳を開いた。
「気分はどうだ、レイリ?」
開かれた瞳が澄んだサファイアブルーだったのに、シュノは安堵の息を漏らした。
「最、悪…アイツまた僕の身体で好き勝手して…。」
重い鎖をどければ、レイリがギュッと抱きついてきた。
「…どうかしたか?」
「気持ち悪い、吐きそう。
頭が割れそうに痛い…。」
レイリの身体を抱きしめ、頭を撫でながら、震えるレイリに気付かないふりをした。
「もう長い付き合いだからね、最近少しだけ見えるようになったんだ。」
見える、とはイリアの時間の記憶の事だ。
「血が…いっぱいで……もう、ダメ…」
とんだ置きみやげをしてくれた、とシュノは心の中で毒付いた。
完全にレイリのトラウマを引っ張り出してくれたようだ。
「…どこにも行かないで、側にいて…」
こんなに弱々しいレイリは久し振りだった。
笑って誤魔化すのが上手いレイリは、自分が苦しくても無理に笑ってしまう。
騎兵隊でも、余程付き合いの長い人ですら見分けるのは難しいレイリのポーカーフェイスは、それが彼なりの自己防衛の手段の一種故、シュノの前ですら無意識にそれを行うからで。
こんな時はシュノもどうして良いか判らずに、ただきつくレイリを抱きしめるだけだ。
「安心しろ、お前を手放すつもりはねぇから。」
「シュノ…ありがとう、大好き。」
レイリは静かに涙をこぼしながら、愛しいシュノの腕に抱かれて夢に誘われて意識を落とした。
「俺が愛してるのはお前だけだよ、レイリ。」
意識を無くした恋人の身体を抱きしめて、シュノは愛しそうにつぶやいた。

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