暗い森の中。
焚き火によって自分たちの居る周辺だけを明るくしながら、その火を見守るヴェリテの隣りにトラヴィスは腰掛けた。
それによって反応するものは何もない。

「何かさ、強さって難しいよね」

空いている肩に頭を預け、目を閉じて小さく呟くトラヴィス。
実戦訓練におけるチーム戦で特攻した彼女は孤立し、早々に戦死。
突出した強さがあれば、周りの敵を薙ぎ払えば簡単だと思っていた彼女は、自信を失った。
トラヴィスの抜けた穴を塞ぐ為にヴェリテが先陣を進み、その分後ろへの注意が疎かになる。
挙げ句に瓦解し、チームは自滅した。
何日か続けて行われるこの訓練は、各々のチームで夜営をする事も求められる。
ヴェリテを見張りに立てた皆は既に就寝中だ。

「もっと派手に戦えば楽だと思ってたよ」
「……頭は悪くない」

溜め息を吐いて頭をぐりぐりと動かすトラヴィスに、ヴェリテは頷いて返す。
話を聞くだけならまだしも、返答まであるとは思わなかったトラヴィスは驚いて振り仰いだ。
ヴェリテは、細長い枝を二つに折って焚き火にくべている。
赤い炎に照らされた彼は全体的に赤く彩られていて、普段の大人しい雰囲気とはまた違って見えた。
強いて言うなら、人間らしく映えて見える。

「でもさ、アタシ負けたよ? アンタ達にまで苦労かけたし」
「何故」
「……何が? アタシが負けたのとアンタ達が負けたのは関係ないとでも?」

本気で不思議がるトラヴィスの言葉に、ヴェリテは頷いて返した。
しかし今チームを組んでいるのは事実なのだし、一人が足を引っ張れば相当な痛手だろう。
チラリ、と横目に見てきたヴェリテと眼が合い、トラヴィスは口を噤んだ。
次いで彼が取り出したのは、革の水袋で。
意図が読めないトラヴィスは首を捻って理解しようとし、三秒で諦めた。
考えるよりも聞いた方が早いのだ。

「それ水? どうするの?」

トラヴィスの目線も水袋に向いている事を確認したヴェリテは、手の平に少しだけ垂らして水溜まりを作る。
指の間から漏れていくそれには気にせずに焚き火へとくべ、

「うわっ!?」

炎が跳ねた。
水ならばただ単に火を消すだけだろうと思っていたトラヴィスは驚いた。
まさか少量の水が跳ねてくるとは思わなかったのだ。
ヴェリテの足下に飛んだ火の粉を、今度は足下の土を手に取ってその上に盛る。
はっきり言って何をしたいのかが分からない。

「何してんの? 頭おかしくなった?」
「バランス」
「は?」

いきなり口を開いたヴェリテに何と言っていいのか分からず、トラヴィスは胡乱な目線を彼に向けた。
表情を微塵も変えない彼だが、意外と疲れて寝ぼけているのかも知れない。
そう思って腰を突いてみても、チラリと目線が向けられるだけだった。
くすぐったがりもしない。

「足りない物」
「それがバランス?」

頷くヴェリテは再び焚き火へと目線を移し、肩でトラヴィスの頭を小突いた。
促されるままに頭を再び乗せ始める。
こうすると彼の表情が見えないのだが、元より表情筋の動く方でも無し、トラヴィスは軽く息を吐いて望まれたままにした。
静かな呼吸が肩越しに伝わってくる。

「大きい、小さい、多い、少ない。バランスだ」

そしてそれは強さにも関わってくる、とヴェリテは言う。
トラヴィスが弱いのはトラヴィスの問題で、皆が負けたのは皆の問題だと。
かなりの極論で暴論ではないかと思ったのだが、つまり彼は自分なりにトラヴィスを励ましているらしい。
何となくむず痒い感覚になり、落ち着かない気持ちになり。
トラヴィスは心の赴くままに振り返りながらヴェリテの腰へと抱き着いた。

「なんだよー! アタシの事心配してくれちゃってんのー!?」

嬉しい気持ちのままぐりぐりと引き締まった腰つきに頭を擦りつけ、ヴェリテの肘に軽く頭を殴られる。
目線を向けない所から察するに、焚き火に薪をくべるのに邪魔だからだろう。
それを気にせずにうりうりーっと腰に抱き付いたままで居ると、

「あ! トラヴィスがヴェリテの押し倒してる!」
「は!? 何セクハラしてんの!?」
「おや、仲が良いのだね」
「姉さん……」
「お、おまっ……! お前達、不純異性交遊だぞ!!」

起きていた仲間達が次々に口を開いて2人の周りを取り囲んだ。
恐らく、珍しく落ち込んだ様子のトラヴィスが気になってそれぞれ独断で起きていたのだろう。
何だかんだでお人好しで仲間想いなメンバーに、トラヴィスは両手を広げて笑顔で応えるのだった。