ベッドの上にそっと下ろしても、国永のぼんやりとした様子は変わらない。
頬を押さえる手に手を重ねた瞬間、全身を跳ねさせた国永はようやく視線を宗近へと向けて怯え始めた。

「ぁ……くに、くに……わるいこ、ごめんなさい……」
「ああ、確かにお前は悪い子だった。庭と温室だけで門から外に出るなという俺の言葉を聞かなかった」
「ち、ちが……くに、いちばんきれい、おはな……むねちかに……」
「一番綺麗? ……それを探したのは、俺の為だと?」
「……むねちか、おしごと、おはな、がんばって、いいたくて」

その為にあんなにも庭中を駆け回って居たのかと、申し訳ない気持ちになる。
テディベアに仕込んだGPSで居場所を常に探っていた宗近は、庭を大きく縦断する印に気付いていた。
そして、それが突然庭から裏の小道に飛び出ていった事も。
驚くと同時に急いで駆けつけたが、タイミング悪く悪漢に襲われる直前だったのだ。
ひやりと肝が冷え、そして腹の底から煮えたぎる物が溢れ出るかと思った。
本人の意思と関係なく、いつどこで悲劇が繰り返されるかと、気が気では無かった。
幼い子供は大人の顔色をよく窺う物。
話には聞いていたが、こうも思い知らされる物だとは気付かなかった。

「そうか、お前は俺を……ちゃんと見ていてくれたのだな。国永、外へ出たのは悪い事だが、お前の気持ちは悪い物ではない。いいこだな、国永」

微笑んで抱き寄せ、頭を撫でれば暫く体を震わせていた国永も、直に震えを止めて宗近に縋ってくる。
そうして幼い様子を見れば、先ほどの手が出てしまった事が宗近には気がかりだった。

「頬を叩いてすまなかった、痛かったろう?」
「ふぁ、あ!?」

せめてものまじないに、と手を出した頬に触れるだけのキスをすれば、国永から思いもよらない嬌声が上がる。
驚いて顔を見てみれば蕩けた瞳と出くわし、腹の底がざわざわと疼くのを感じた。
思い起こせば半年ほど、互いに触れ合う機会を奪われ続けたのだ。
正直に言えば今すぐに抱きたいと思っているが、しかし相手の心は子供返りをしている状態。
既に二週間ほど様子を見ているが、ここまで変化の兆しが見られないと長期戦を覚悟した方が良いとノインにも言われていた。
だからこそ、突然の変化に驚いた宗近は触れそうになる手を堪える。
これは今、どんな状態から起こっているのかと。

「くに、なが……?」
「ん、むねちか……どしたの?」
「……お前は先ほど、俺のモノを口にしようとしたが……誰に教えられたのだ?」
「だぁれ? えっと、しらない…………でも、わるいしたら、ごめんなさい、するって……」
「悪い事をしたら? そう、教えられたのか」
「んん、ゆるす、ほしいなら……ほしいなら、ほうししろ。おまえはどれいだ、そうするのがとうぜんだ……」
「国永?」
「おまえはおれのせいどれいで、つまなんだからだんなのいうとおりにしろ。よつんばいでケツを振って誘え淫乱な雌犬め、ファックを強請――」
「国永ッ!!」

再度名前を呼べば、壊れたオモチャの様に声を止めて口を開いたまま固まった。
今のが全てあの男に仕込まれた言葉だと言うのなら、三度巡って三度殺そうと宗近は決める。
国永の旦那は宗近であり、しょせんあの男はその座をかすめ取ろうとした悪害でしかない。
だがそうであるからこそ、許しがたい所業だった。
国永の顎に手を掛けて顔を向けさせると、宗近はかじりつくようにキスをする。
チュ、チュッと音を立てて国永の口腔内に舌を入れると、小さな舌と絡め、甘噛みし、吸い取るように蹂躙した。
歯列をなぞって上顎をなぞったところで、固まっていた国永の体が震え出す。
クチュクチュと音を立てながら銀糸で繋がる口を離せば、甘えた表情で目をとろんとさせていた。