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こどもの、あそび。 side国永

椿の審神者と呼ばれる主の本丸は、少々変わった形をしている。
弟子を取らない代わり、最前線で戦績も通常より高く求められる。
同じ刀を二振り顕現しないという法則にのっとりながらそれらを解消するために、4つの本丸を維持する事にしたのだ。
それぞれ春夏秋冬の冠を与えられ、時計の針のように時空をズラして四方に広がっている。
同時に存在しているのは中央棟と呼ばれる建物のみ。
そこには審神者の私室や執務室の他、共同の蔵書室も存在する。
これらを利用し、簡単な申請で万屋へ行かずとも中央棟では同位体に会えるとあって各本丸の鶴丸国永は四半期に一度、会合を行っていた。
小さな生き物を預かるようになった国永もまた、欠かさずこの会合へと足を運んでいる。

「それで、春の。何か面白い物を見てるんだって?」

蔵書室の片隅にある窓際のティーテーブル。
そこに4つの同じ顔が並んでいる。
春の、と呼ばれたのは始まりの本丸に所属する桜の髪に紅い瞳を持つ国永の事。
口を開いたのは夏の本丸に居る個体だ。
驚きを仕掛けるのが好きな鶴丸国永であるが、その中でもとくに絡繰りいじりや発明好きなのが特徴だ。
最近は調剤に目覚めたらしく、薬研藤四郎と珍妙な品を作っている。

「面白いって程でも無いな。人間の子供なんて見慣れてるだろう?」
「良いじゃないか、子供。愛らしいだろう?」

何が不満なんだい、と琥珀の目を瞬かせるのは秋の本丸に居る個体だ。
面倒見の良さが長じてか、他の『自分』と比べても兄貴然として小さなモノが好きらしい。

「そうかい? 子供なんて脆いだろ、すぐに壊れそうだ」
「確かに……あれは放っておくとすぐに駄目になってしまいそうだ。とにかく弱い」

冬の本丸に居る個体は他の『自分』よりもやや幼い顔立ちをしていて、とにかく落ち着きがない。
大元は同じ『鶴丸国永』であり、同じ審神者によって励起されたはずなのにこれだけの違いがある。
考えとしてはどの個体のものも理解出来るのだが、表面に出てくる反応はそれぞれ。
そこに飽きが来ないとも言えるし、けれど年がら年中顔を付き合わせたい訳でも無い。
普段は文でやりとりをしているし、四半期に一度くらいが丁度良いだろう。
壊れそう、と言われて真っ先に思い浮かんだのは半妖の子供の青白い顔だった。
言葉で表すのならば、そう、弱い、だ。

「子供のうちはどうしても、な。けれどその分生命力に溢れてるだろう」
「せーめーりょく」
「笑ったり泣いたり、感情が直ぐに変わるのが面白い」
「かんじょー」

秋のが目を輝かせながら子供について講釈するのを、棒読みで繰り返す。
思い返すのは主から頼まれている子供達の様子なのだが、生命力や感情といったものとはほど遠い。
不思議そうにこちらを見て、秋のは首を傾げる。

「なんだ、きみのとこのはそうじゃないのか?」
「今はとにかく弱っててなぁ……あと、これまでの環境が悪かったらしい」
「環境。そういえば人の子は環境に左右されやすいんだったか」
「まあ、簡単に言うと遊び方すら知らないようでな。秋の、何か良い方法はないか?」

遊び方どころか人の営みすら危ういとは説明しづらく、子供の扱いに長けた自分に問うた。
今のところ衣食住は問題ないと思えるので、子供らしいことを教えていきたいのだ。
国永に思い付くのは外遊びがほとんどであり、やんちゃな遊び方はまだ早いだろう。
そうなると退屈をもてあます度に動き回っていた国永ではお手上げだ。

「絵本はどうだい? 読み聞かせなら粟田口にしてやったりするだろ。本ならここにあるし」
「まだ文字が読めないんだ」
「じゃあ図鑑だ! 絵が沢山あって面白いだろ」

秋のの言葉に、冬のが乗ってきた。
確かに図鑑なら絵を見るだけでも面白く、時間をつぶせるだろう。
夏のにも何か思い付かないかと聞いてみた。
口をついて出るのは竹で作る水鉄砲や竹とんぼなど、ほとんどが外遊びの道具だ。

「あ、それならあやとりなんてどうだい? 力は要らないだろ」
「あやとり……確かに紐があれば遊べるな」

その後はそれぞれが持ち寄った菓子を摘まみ、新しい驚きの模索などをして過ごした。
戻り際、秋のが子供の好きな食べ物や遊びをまとめた冊子を作ってくれると言う。
弱っている子供にはとにかく好きな物を食べさせ、色々な遊びを経験させた方が良いらしい。
ありがたくその気遣いに乗る事にした。



庵に戻ってきた国永はさっそく、あやとりを試してみることにした。
手で紐を括って様々な物を表現するこれは、なかなか面白い。
一人で遊ぶそれから、二人で遊ぶようなものまである。
冬のがオススメの図鑑は草花についての物で、庭を散策する時に良さそうだ。
夏のは後で工作キットを作ってくれると言っていたが、それに手を出すのは当分先だろう。

「くにとうさま、それなぁに」
「ん、これかい? これは蝶々さ」
「すごい、複雑だ」

左右から覗き込む子供達、怜悧と朱乃に手の中を見せる。
あやとりで作ったのは蝶々で、指に引っ掛けた一輪の紐が絡み合って成り立っていた。
国永と宗近に慣れてきたらしい彼らは、二人を父様と呼んでいる。
女である主が母様だから、男なら父様となったらしい。
何故か国永の呼び方を、母様と父様でしばらく悩んでいたことが懐かしい。
是非とも父様と呼んで欲しいと言ったところ、しぶしぶ納得されたのだ。
宗近が大変残念がっていたので、こらしめておいた。

「これはあやとりって言ってな、色々作れるんだぜ」
「……むずかしそうだ」
「いいや、やり方が分かれば簡単さ」
「僕も、僕もやってみたい」

珍しく怜悧が目を輝かせながら身体を乗り出す。
小さな手を伸ばしてくる様が愛らしく、国永は微笑んで手の中の紐を解きほぐした。
そのまま蝶々を手渡されると思っていた怜悧は目を見開いて固まる。
どうしたのかと顔を覗き込むと、段々と潤む大きな青い瞳とぶつかった。

「とうさま……ちょうちょ、こわれ……ぼく、ごめんなさい」

ふにゃあと浮かぶ涙の粒に国永は慌て、朱乃がすかさず怜悧を抱き締める。
少々きつい眼差しを受け、頭を掻いて混乱を示した。
身体の調子が良くなってくると少しずつ積極性を覚え始めたのだが、急な怯えや困惑、果ては落ち込んでみせたりと忙しい。
情緒面が不安定なのは今までのことが原因であり、長期的に改善していく他ない。
さいわい、朱乃は終始落ち着いて怜悧をなだめてくれる。
けれど彼も本調子でないのは確かなので、国永としても少しずつ対応に慣れていこうとはしていた。

「怜悧、大丈夫だ。蝶々が壊れたんじゃなくて、怜悧と一緒に作ろうとしたんだ」
「ふぇ……つくる?」
「そう、父様と一緒にあやとりで蝶々を作ってみないか? 朱乃と遊ぶことも出来るんだぞ」
「え、あれ二人でも出来るのか」

朱乃も驚きに目をみはり、腕の中の怜悧を見る。
怜悧はぱちぱちと瞬きを繰り返し、首を傾げていた。
再び泣き出す前に落ち着かせようと、国永も朱乃ごと怜悧を抱き締める。

「あやとりはな、交互に紐を取り合って形を変えて遊ぶんだ。指に引っ掛けてな」

言いながら怜悧を抱き上げて膝に載せ、朱乃と向かい合う形にした。
そうして小さな手を握り込み、指に紐を絡ませる。
朱乃には指と紐を取る部分を説明し、怜悧の手から移動したそれが川の字を作った。
今度は怜悧の握り込んだ手と一緒に指を絡め、また手の中に戻し。
ひとつひとつの動作の度に腕の中の怜悧が見上げてくる様がくすぐったい。
少し不器用なところのある怜悧は何度か紐を取り落としてしまったが、今度は泣き出すこともなく笑顔だった。
やはり子供の世話など自分には向いていないと国永は思う。
けれど、それが嫌かと言うと案外そう悪くもない気がして笑みがこぼれる。
少なくとも、怜悧と朱乃が笑っていられるようには頑張ろうと思った。
その為にもまずは情報収集のため、秋の本丸の鶴丸国永へと便りを記すのだった。



本丸別、鶴丸国永
春 国永、鶴丸(黒鶴)
夏 鶴丸国永(愛称無し、薬や道具開発)
秋 千羽(雛顕現後に命名)、雛鶴
冬 鶴丸国永(愛称無し、少年寄りで戦とイタズラ好き)
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