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ぷちデート。

学校というものは集団生活をする上で、まとめ役というのを必要としてくる。
そんな訳でこの学校でも自薦他薦含め、生徒会選挙があった。
圧倒的な投票数で会長となった三條白月。
これは彼が当選した日の事。

「白月!当選おめでとう、会長なんて凄いじゃないか!」
「おお、鶴か、ありがとうな。しかし……俺に会長が務まるだろうか」
「ははっ、君にしては随分弱気だな?格好良いじゃ無いか、似合ってる。……そうだ、長義も副会長に就任したし、祝いに何か贈ろう!次の週末までに何が欲しいか考えておいてくれ」

就任した本人以上にウキウキとした様子で黒鶴は白月の肩を叩くと、いそいそとその場を離れてしまった。
週末まで、という事は出掛ける準備をしておく必要がありそうだ、と白月は黒鶴の突発的な発案に予定を明けておこうと手帳を覗く。
これはひょっとしてデートになるのではないか?と一瞬だけ頭を過ぎり、しかしすぐにいつもの幼馴染みメンバーだろうと考え直した。
丁度週末の予定は空いている。
それを確認した白月は、行き交う人に祝いの言葉を掛けられながら鷹揚に笑みを返して残りの時間を過ごした。



週末である。
寮に外出届を出し、黒鶴の準備が出来るのを入り口で待っていた。
一緒に出てきても構わなかったのだが、何故か渋る彼に早々に追い出されたのだ。
黒いシャツにスラックスという無難な服装で待っていると、

「悪い、待たせた!長義と南泉は別に用があるとかで、二人だけになるんだけど良いかい?」

首にスカーフを巻き、Tシャツにシャツを引っ掛けたラフな格好で黒鶴がやってきた。
当然その背後にはいつもの姿があると想っていた白月はきょとん、と目を剥き。

「ああ、いや、構わんぞ。それで、どこへ行くかは決めてあるのか?」
「まずは長義の祝い品を買おうと思ってる。どうせ君は決めてないんだろう?」

ニヤリ、と悪戯っ子な笑みを浮かべる艶やかな黒髪の彼に、白月は苦笑で返した。
あれから何度か悩んだのだが、一向に決まらなかったのだ。
黒鶴も部屋ではゲームをしていたりマンガを読んでいたりと、気にする様子も無かったのでいつの間にか失念していた。
それよりこれはもしや、デートという奴では無かろうか、と白月は内心でドキドキしている。
気にする素振りのない黒鶴は手を差し出し、

「行こう、白月」

立ち呆けする白月の細く長い指に指を絡めて歩き出してしまった。
ナチュラルに恋人繋ぎで歩き出す黒鶴に、ドキドキを通り越してドギマギする白月。
隣では頭一つ分低い位置にある小さな黒い頭が揺れ、この後の予定を口にしていた。
うん、うん、と相づちを打っているが内容は殆ど頭に入ってこない。
繋いだ手の温かさに胸がほっこりと温かくなり、時折見上げてくる上目遣いの飴色の瞳にすっかり夢中だ。

「ろつき、白月!」
「お、おお!?」

突然引かれた手に、顔が急激に近付いて唇が触れそうになる。
背を折る形になった白月を気にする事なく、不機嫌そうに眉を潜めて怒り顔の黒鶴が見上げていた。

「君、俺の話全く聞いてないだろう?」
「いやいや、聞いていたぞ。まずは長義の贈り物を買ってから昼餉にするんだろう?街は久々だなぁ」
「……本当に聞いてたのかい?」

不審そうな目で見てくるが、それよりこの状況に気付かないのだろうかと考え、徒労に苦い笑いが込み上げてくる。
恐らく、分かっては居ないのだろう。
幼馴染みと二人、迷子防止に手を繋いで歩いているだけ。
例えそれが肩が触れ合う距離だろうが、恋人繋ぎをしていようが、唇が触れ合う距離まで近付こうが、それだけだ。
他人の目など意識しない黒鶴は、言い換えれば白月の目も気にしない。
ならば、自分としてはデートで良いのではないだろうか、そう思い始めたら途端に気分が浮ついてくる。

「鶴、楽しみだな」
「お?おう、そうだな!」

お祝いがそんなに嬉しいのかと勘違いする黒鶴に、白月はそれを正さずににこにこと笑った。
繋いだ手に力を込め、今度は白月から引っ張るように前に出る。
うわ、と小さな悲鳴を出しながらも、白月がここまで機嫌が良いのも珍しいと黒鶴は文句を引っ込めた。
それに、白月は気付いていなかったが、繋がった手にちらりと視線を落とした黒鶴は微かに頬を朱に染める。
自分の細長いだけの節くれ立った指とは違う、大きくて長い綺麗な指。
それが絡められた手の平は熱く、まるでデートみたいだとひっそりと微笑んだ。
そんな調子外れの二人が来たのは大きな百貨店で、まずはぬいぐるみが置いてある手芸コーナーへとやってきた。

「ぬいぐるみを買うのか?」
「いや、何かここに羊毛フェルトの材料があるらしくて。たまにやってるだろう?」
「ああ、あの針を刺していく……あれをしている時の長義は無表情で恐ろしいなぁ」
「せいしんしゅうちゅう?とかで、ハマってるらしい。だからカゴ一杯キットを買ってこうかと」
「ほう、カゴ一杯……こづかいは足りるか?」
「足りる!……けど、白月のお祝いは五千円以内な」

恥ずかしそうに尻すぼみになりながらの言葉に、白月はくすくすと笑みを零す。
随分と奮発したものだと考え、それだけ嬉しかったのだろうと思えば愛おしくなった。
ふと、隣を見れば白い鳥と黒い鳥のぬいぐるみが目に入る。
くりくりとした目の白い鳥に比べて目付きの悪い黒い鳥が、まるで黒鶴のように思えてきた。
黒鶴が繋いだ手を解いてキットを漁っている間、白月は一心にもふもふと黒い鳥を触り続け、

「お、それにするかい?」

後ろから話しかけられた瞬間、固まってじっと黒い鳥を見詰めてしまった。
誰が声を掛けてきたのかはすぐに分かったが、何となく今まで考えていた事を意識してすぐには反応出来なかったのだ。
白月?と訝るような声が聞こえ、一拍おいてから振り返る。
案の定、黒い髪の毛を鳥頭のように跳ねさせた飴色の目の人物が居て、一つ頷いてから黒い鳥と白い鳥の両方を手に取った。

「いや、これは俺が買う」
「そうかい?そんなに気に入ったなら俺が贈っても良いんだぞ」
「いや……俺が買う。鶴はこういったモフモフが好きだろう?」
「……好きだけど」

ぬいぐるみが好きな男子がおかしいか、と不安に瞳を揺らす黒鶴に微笑みを返して頷く。
何故こういった女子が好みそうな物を集めているのかを知っている白月には、何ら可笑しい事は無かった。
ただモフモフを可愛がる時の黒鶴は安心しきってうっとりと愛らしい笑顔を浮かべるので、白月はそれを愛でるのが好きだ。
決して黒鶴が可愛がった後の温もりの残ったぬいぐるみを抱き締めたい、黒鶴似と認識したぬいぐるみを抱き締め頬擦りをし、キスをしたい等と下心を持ったわけでは無い。
断じてないのだ、と覚悟を決めてレジを通し、合流がてら黒鶴の持った袋も回収する。

「次は昼餉だったな。確かここにはすたーぱっくす、が入っている」
「スターバックスな。コーヒーか、良いな!……って、君は足りるのかい?」
「うむ。少し心許ないが、それは時間をずらせば良い。そろそろ休憩したかろう?」

人の事を意識しない黒鶴だが、人が多い場所に居て疲れない訳では無い。
むしろ外に慣れていない分、幼馴染みの誰よりも疲れやすいはずだと気遣う言葉に、黒鶴は頬を朱に染めた。
遠慮がちに頷くのを確認した白月は、今度は自分から先ほどの様に手を繋いで店を探す。
実は長義と南泉に、コーヒー店をハシゴするのが好きな黒鶴がいつ行きたいと言い出しても良いようリサーチしていたのだ。
勿論、呪文のようなメニューも練習した。
二人がリサーチを理由にデートを繰り返しているのを白月は知っていたし、いつか黒鶴と自分もと夢を見た。
今がチャンス、とばかりに店内へと入り込み、

「えーと……うわ、なんだこのメニュー……え、えっと、あの白いの……」
「バニラクリームフラペチーノで良いか?」
「え?あ、ああ……うん」
「では俺はバターミルクビスケットを二つとエスプレッソにするとしよう。ああ、どちらもトールで頼む」

順番待ちをし、いざ自分の順番となるとメニューに四苦八苦する黒鶴。
それを彼の好みと指差す物から推定した白月があっという間に注文を済ませ、ぽかんと黒鶴は虚を突かれて固まってしまった。
どうした、と首を傾げながら聞いても大人しく首を振るだけで。
もしや格好付けてしまったのがバレたのだろうか、と白月は内心反省をする。
が、

「……君がこういうのを、スマートにこなせる方だとは思わなかった」
「そうか?まあ、横文字は少し苦手だな」
「少しじゃなくて、かなり、だろ?……前に誰かと、来たのかい?」
「いいや、これが初めてだ。長義や南泉が土産にくれるので知っては居たが」
「……そう、か……。いや……格好、好かった……」

ちらちらと目線を外しながらの言葉に、頬を朱に染めてきゅっと小さな口を窄みながら恥ずかしげにはにかむ笑顔に、白月は内心ガッツポーズをしたい気持ちだった。
彼とて普通の年頃の男子だ、好いた相手に格好良いと褒められて悪い気はしない。
緩む頬を自重する事もせず、黒鶴をにこにこと笑んで見詰める。

「何だよ……」

褒めた事を意外だと思われたのか、途端に不機嫌を装って睨まれた。
その様子を余すところなく脳裏に焼き付け、耳元に唇を近付ける。

「惚れ直したか?」

むしろ惚れ直して欲しい、という願いを込めた一言に、ぽかんと固まる黒鶴。
おや、やはり意識して貰うには難しいかと苦笑をし、白月は注文を受け取って席を探す為に視線を外した。
故に気付かなかった。
固まった後に首元から耳までを一気に紅潮させ、弱って息を呑む黒鶴の姿を。
白月が目線を戻した頃には背を向け、既に息を整え始めていたのでその片鱗はうかがえない。

「変な事言うなよなっ!!」
「あなやっ!?」

ばしっと背中を強めに叩かれてズンズン空いた席へと進んでしまう黒鶴。
両手に荷物と飲み物を持った白月は、じんじんと痛む背に苦笑をして後を追った。
今はまだ、すれ違いの多い二人だった。
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