朝目が覚めて、外は快晴だった。
なんだか気分が良くなって読みかけの小説を手に持ってお気に入りの中庭に向かった。
天気のいい日の中庭は、気持ちよくてゆっくり出来るので、予定がない日は大概ここにいる。
備え付けのベンチに腰を下ろし、本を広げる。
柔らかい風が初夏の香りを運ぶように頬を撫でる。
最近は気温も高くなってきて、外で過ごすには丁度良くなったと思い、ロゼットは手元の本に目を落とした。
休みの日じゃないと中々読み進められない分厚い本のページを、ゆっくりとめくっていく。
と、不意に目の前に誰かがたっているらしく、日の光が遮られた。
「やっぱりここだった。
隣、いいかい?」
慈しむような柔らかい笑みを浮かべたフィオルが、本を片手にたっていた。
「あぁ、どうぞ?」
少し横にどけてフィオルのスペースを作ると、ロゼットは本に目を落とした。
最近フィオルはこうしてロゼットと一緒にいる事が多くなり、フィオルに好意を寄せているロゼットとしては、嬉しくもあるが、同時に破裂しそうな心音に気付かれないか必死だった。
読書が好きでないフィオルが、何故毎回自分に付き合ってくれるのか、ロゼットは答えを出せないでいた。
しかし、たぶん彼なりの優しさなのだと理解すれば、嬉しくもある。
特に言葉を発するわけではない。
さぁっ…と木々が葉を揺らす音と、時折ページをめくる音だけが聞こえる静かな空間。
賑わしいのも嫌いじゃないが、こういった時間が一番落ち着く。
フィオルは、何か話しかけるわけでもなく淡々と本を読む。
隣にいられるだけで満足だった。
会話は無くても、隣で存在を感じられれば、安心する。


「ふぅ…」
きりの良いところまで読み終わったところで、一息吐こうと本にしおりを挟んだ時に肩に重みを感じた。
そこには、ロゼットの肩にもたれ掛かるようにして、うたた寝をしているのに気が付いた。
横を向いただけで、そのアンティークドールの様な整った顔が目の前にある事実に、顔がかぁぁっと赤くなった。
どうしようかと迷い、手にした本を脇に置いてフィオルの体を反対側に向けようとしたときだ、ぐらっとフィオルの体がぐらついて、ロゼットの膝に倒れ込んだ。
いわゆる膝枕状態だ。
「なっ…」
自分の膝の上にフィオルの顔があることに、完全に思考がショートしてしまったロゼットは、あたふたするのをやめて、じっとフィオルを見つめては目を逸らすを繰り返していた。
しばらくして、ようやく落ち着いてきたのか、フィオルの柔らかな髪に触れた。
さらさらと、指の隙間からこぼれ落ちる様な髪に、つい心地よくなり、髪を鋤くように指を絡めた。
「ふふっ…」
思わず笑みがこぼれるロゼットに、フィオルは起きる気配は見せないものの、すこし擽ったそうに身を寄せた。
ロゼットは、いたずらが過ぎたかと反省し、フィオルの髪から指を離した。
「膝掛けでも持ってくれば良かったなぁ…」
女の子のように柔らかくない自分の太股に頭を乗せていて、頭が痛くないのか心配になる。
そして、本を手に取り読書を再開しようとた。
暫く本を読んでいたけれど、どうにも落ち着かない。
仕方なしに、本を閉じてゆっくり目を閉じた。

なんだか、幸せな夢をみられそうだったから。