シュノは不意に重みを感じて眠りから覚めた。
暗がりの中、吹き抜けの中庭を見下ろす大きな窓に照らされて誰かが自分に股がってる。

しなやかな白い肢体は生まれたままの姿でぽたぽたと髪から水滴を垂らしているところを見るとシャワーを浴びてきたのだろう。
青年にしては華奢で小さな裸体にシュノの着物を引っ掛けて、俯いたまま動こうとしない恋人に不信を抱いたシュノはそっと頬に手を伸ばす。
頬はほんのりと濡れていた。

「泣いてるのか、レイリ」

俯いたままのレイリは何も答えない。
シュノはぎゅっとレイリの手を握って優しく話しかけた。

「俺にどうして欲しい?
言わなきゃ分からないぞ」

「………っ、ぁ…」

声を殺した呻き声を漏らし、レイリは少し顔をあげてシュノを見た。

「ぁ……の……」

必死に言葉を探しているような不安そうな声とは裏腹に、その瞳は光を無くしていた。
そうとうやられているなと当たりをつけたシュノはその暗い深海のような瞳から静かに零れ落ちる涙を拭った。

「シュノ………ぼくを、壊して」

普段意地っ張りで本当の弱みなんて絶対に見せないレイリが肩を震わせて涙を流している。
レイリはシュノの帯を解くと鍛え上げられた身体に触れる。

「……しゅの、欲しい」

触れた手が肌を滑り、唇から熱い吐息が漏れる。

「おいで」

シュノが手を広げて微笑むと、レイリは虚ろな瞳のままシュノに抱き着き、肌に唇を寄せる。
シュノはレイリが望むままにさせながら頭を撫でてやる。
愛しい子供をあやすように。

「シュノ……あいして、他の何も考えられないほどに僕を、あいして」

唇に触れるだけのキスをして虚ろのまま、レイリはシュノを受け入れるべく腰浮かせる。
下着も帯も放り投げ、入口に先端を宛がえばレイリの体が期待したように吸い付いて来る。
愛しくて可愛い恋人の腹を抉るように一気に突きあげれば、衝撃でレイリの体が大きく反り返り、反動で俯いていた顔が天井を見上げると同時に、ぽたぽたと暖かな雫が飛び散った。

「ひぁっ!」

腹の奥まで貫かれる感覚にレイリが小さく悲鳴をあげた。
しかし、それ以降レイリは口をはくはくさせながら体をふるわせて涙をこぼすだけだった。

「レイリ、顔を見せてくれないのか?」

困った様にシュノが笑いかけると、暫くしてレイリが涙でぐしゃぐしゃになった顔でシュノを見て、シュノの肩に手を置いて体重をかける。
反動で浮き上がった腰を上下に揺らした。
見てる方が切なくて、壊れそうなのを必死につなぎとめている感覚に歯がゆさを感じるも、レイリが自分を頼るのが嬉しくて、レイリの腰を掴んで激しく突き上げた。

「ひぁ!?っ、あうっ…」

なにかに耐えるみたいなレイリは見ていて苦しい。
普段なら甘い声を上げて蕩けた表情で鳴くのに、声を噛み殺して叱らる子供みたいに唇を噛んでいる。

「レイリ…俺の可愛いレイリ。

そんな顔するな、俺だけ見てろ」

「……っ、しゅの……僕、もう、苦しくてっ」

「我慢しなくていい、俺の前では。
泣け、誰も聞いてないから」

「んんっ、あっ、し、ゅの!」

ぽろぽろと涙を零すレイリの小さな体がいつもよりも余計小さく見える。
レイリが空虚なまま、泣きながらシュノの頬に手を伸ばす。

「しゅの、っ…すき、すきっ
ごめんなさい、すきなの、シュノが好き」

「なんで謝るんだ?
俺を好きなのは悪い事なのか?」

「ちがっ、そうじゃ……んあっ、ひぃう!
だめっ、ごめんなさい、も、もうイッちゃ……」

レイリが体をビクッと震わせながら白濁した欲を吐き出した。
同時に急な締めつけに搾り取られるようにシュノもレイリの中に精を放つ。

「……ぁ、んっ、シュノが中にいっぱい…」

少しだけ口元を嬉しそうに緩めるのを見て、シュノは安堵した。
相変わらずレイリは虚ろに涙を流す。

「なぁ、抱き締めてもいいか?」

「……んっ、ぎゅって、して」

両手を広げれば体を起こしたシュノが腕の中にすっぽり収まるレイリを抱き締めた。
頭を撫でながらあやすように背中をぽんぽんとすれば、泣きじゃくるレイリがしがみついて顔を埋める。
しばらく好きにさせてると、背中に手を回される。

「シュノ……抱いて」

泣き腫らした目でレイリがシュノにキスをすると、シュノが勢いよくレイリをベットに押し倒した。
背中に感じる柔らかなマットレスの感触と、優しく微笑むシュノと目が合い、柔らかく細められたその瞳にレイリの慣らされた体の芯が熱くなるのを感じた。
体が沈む感覚と共にキスで唇を塞がれ、そのままグイッと最奥を突かれる。

「んんっ!?ひぁ、んむ、ちゅ、ふぁあ」

「レイリ、ゆっくり息しろ」

「ん、んっ………はふ、んぁあ、らめっ、くるしっ」

瞼や頬と顔中にキスを落としていくシュノに、ようやくレイリが甘い吐息を吐き出していく。
シュノは呼吸の整わないレイリを導く様にキスで呼吸を合わせる。
その間、腰を揺らして柔らかく解れた内壁をごりゅっ、ごりゅっと擦り上げて行く。

「あぁんっ!シュノ、シュノっ」

呼吸の合間に必死にレイリがシュノにしがみついて名前を呼んだ。
余裕が無いレイリに対してシュノは冷静だった。
冷めてるわけではない。
愛しさは際限なく溢れ出て、傷ついたレイリを癒したいと思う反面で、レイリがこうなった原因の一端は自分にあるのだと知っているから。

「レイリ、愛してる。
何処へも行かない、大丈夫だ」

「っ!?あ、んっ、しゅ…の
すき、愛してるっ!!
どこも行かせない、ずっとそばにいて」

溢れる涙を拭い、何度もキスで唇を塞ぎ、有り余る愛をレイリの奥底に吐き出す。
ギリギリまで引き抜いてから一気に突き刺した事で、レイリは大きく体を反り返らせ、内壁をぎゅうっと締め付けながら身体をなんだか痙攣させた様に震わせて白濁した精を吐き出した。
目の前に火花が走ったようにチカチカする視界が元に戻る頃には、いつもの蕩けた表情で頬を赤く染めていた。

「はぁ、んっ…しゅのぉ…」

くたりと脱力したレイリの頬に手を添えれば擦り寄って甘えてくる。

「何を言われたんだ?」

「……騎士団に、シュノをよこせって……

無能な隊長の下で働くよりシュノの実力に見合った仕事が出来るって……あとは……」
そこまで言ってレイリが急に口ごもる。

「…言いたくないなら聞かない。
話せる分だけでいい。それで全部か?」

「………僕は……その可愛い顔とやらしい体でシュノを縛り付けてる、からって…
押し倒されて…そのまま………
それは別に、いつもの事だし気にしてないけど、でもっ、騎士団の偉い人が居て、近々シュノを引き抜きに来るって…
僕、それが怖くて……シュノと離れたくないっ…その為なら、何でもする」

また涙でぐしゃぐしゃになったレイリを安心させる様に顔中に沢山のキスを落として、シュノは微笑みかけた。

「馬鹿だなお前、俺がそんなの了承するわけないだろ。
レイリの、可愛い顔も、小さな体も、誰かの為にすぐ自分を削るとこも、イタズラして楽しそうに笑うのも、こうしてすぐ不安なって泣きついてくるとこも、どんなレイリでも俺の愛しくて可愛い大切な恋人で、なんでそんな愛しい恋人を貶して辱めたやつの下で働かなきゃ行けないんだ?

例え王命でも俺はお断りだ、お前以外に仕える気は無い」

「シュノ……えへへ、うれしい。
僕は騎兵隊だからってシュノの存在が安く見られるのがやだったんだ。
だからね、シュノが騎士団で名声をあげればシュノの評価は正しいものになるって言われて…僕がシュノの足枷になってるって……言い返せなくて…」

「俺が富だ女だ名声だのに興味が無いのは知ってるだろ?
今までも吐いて捨てるほどあっただろ」

「……うん。その度にこうして君に叱られてるよね。
僕を貶めるのにシュノを引き合いに出して褒めるってのは常套手段だけど、今回は……僕が金策の為に貴族と寝てるの知っていて、シュノも……そういう事してるんじゃって……君は僕より綺麗だから。
だから、それでちょっと訳分からなくなっちゃって……なんでシュノがそんなことない言われないといけないって」

黙って聞いていたシュノが少し不機嫌そうに顔を歪めた。

「レイリ。俺は今でもその金策に両手放して納得してねぇ。
だがそれが無いと遠征費が回らないのも理解してる。だから容認してる。
だけど俺はいつも思ってる、なんでお前がそんなことしなきゃならないんだって。
だからここからはお仕置だ。
俺の愛を疑った罰と、自己犠牲がすぎる罰!」

シュノは珍しく楽しそうに笑い、レイリの下腹部に手を添えた。
そこにある小降りなレイリ自身を片手に包み込んで緩急を付けて擦りあげる。

「ひぁ、んっ、ああっ!」

快楽に慣れきった体はすぐに甘い痺れと共にレイリの体を駆け巡る。
ギュッとシーツをつかみ快楽から逃げようと体を揺するが、かえって逆効果となりシュノのイタズラ心に火がついた。

「気持ちいいのか?腰ゆれてるぞ」

「は、ひっ!きもひぃ、しゅの、そんな、つよく擦っちゃ……ひぃんっ!!」

「だーめ、おしおきって言っただろ?

今日はお前の言うことは聞いてやらない」

ぺろっとシュノが唇を舐めてから半勃ちしたモノをぱくりと咥える。
ちゅ、ちゅっと先端にキスしながら小降りなそれを咥内で舌を使いねっとりと舐め回せば、レイリは大きな瞳から涙を零しながら恥ずかしそうに脚を閉じようとしてシュノの頭を抱え込む。

「や、ぁっ、しゅの、ごめっ、ごめんなさい、もうやめて、イく、イッちゃうから!!」

悲鳴のようにレイリの叫ぶ声が響き、シュノの頭を押し返すが、レイリの力ではビクともせず、逆にいっそう強く吸い上げられてレイリは声にならない悲鳴をあげて果てた。
ぐったりベットに沈んだレイリは指一本動かせず、息を荒らげながらシュノを見た。
吐き出されたものを飲み込み、口から話せば意地悪そうに笑うのシュノと目が合う。

「これで終わりと思うなよ?」

そう言うとシュノはレイリが引っ掛けた着物でレイリの体を包んで姫抱きにした。
向かう先はバスルーム。
温泉を引いた広めのバスルームに張られた湯船にレイリと浸かると、密着した肌から互いの体温が感じ取れる。
汚れた体を洗い清めるついでに、密着した体のあちこちをわざとらしく触ると、びくっと反応するレイリが面白くてついつい遊んでいると恨めしそうにレイリが後ろを振り返ってくる。

「シュノ…もうゆるして…お願いだから…」

「まだちょっと触っただけだろ?

こういう事に慣れっこのレイリ隊長はこれだけでもうギブアップか?」

ビクッビクッとシュノの愛撫にいちいち反応するレイリの顔にキスを落として、涙目になる。

「ふぁ、あ…だってぼく、もうシュノが欲しい…
お願い…好きにしていいから」

「俺の好きにしていいんだろ?」

舌先で首筋を舐め上げれば、間抜けな声と共にレイリが凭れ掛かってきた。

「いい子にしてろ」

首筋を舐められ、片手で包まれたモノをしごかれ、胸に這わせられた手が乳首を摘まんだり押しつぶしたりしていじくると、レイリが甘い悲鳴を上げる。

「あんっ、ふ、あぁっ、そんなに、いっぱい、同時になんて…」

「どうして?好きだろ?ここ弄られるの。

それとも、中にも欲しいか?レイリは欲張りだな」

「え…?ちが、そんな、今中に入れられたら…ひぃ、ああああっ!!」

ごちゅっと一気にシュノの剛直がレイリの中に押し込められる。
バスルームに響く音に、声に、レイリの脳が麻痺していく。

「ふぁあ…きもちぃ……しゅの、もっと!」

ありとあらゆるところを同時に刺激されてトロトロに蕩けた表情でレイリがシュノにすべてをゆだねる。
自分はこの美しい獣の雌だと体に、脳に、叩き込まれる。
何度か交じり合った後に、ぐったりと逆上せたレイリをシュノが寝室に運び、冷たい水を持ってくるときにはレイリは指一本動かせずにベットでぐったりと横になっていた。

「レイリ、そんな格好してたらまた襲うぞ。

浴衣はちゃんと前閉じろ」
シュノの夜着の浴衣を着たレイリは前をはだけるのも気にせずに窓を開けて外の風で熱くなった体を冷やしていた。

「誰のせいだと思ってるの?」

「半分はお前が悪いだろ。俺がこんなに大事にしてるのにすぐに俺を疑って。

まぁ、今度からはお前が拗ねるたびにこうして体に叩き込んでやるからいいけどな。ほら、水飲めよ」
レイリはけだるそうにシュノを見上げる。

「起き上がれない、飲ませて」

水を口に含み、口移しでレイリに水を与えると、暫くして弱々しく押し返してくる手に気が付き唇を話す。

「シュノ、ずっと僕のそばにいてね」

「ああ、いるよ。大丈夫だ。

あれだけされてまだ俺を疑うのか?」

シュノがレイリの隣に横になって頭を撫でると、寄り添うようにシュノの方へ頭を向けた。

「別に最初から疑ってなんか…。

ただ…ちょっと不安になって。
君が裏切るとかそういうことは無いって言いきれるけど、正当な評価とか引き抜きとか…
急に言われて少し混乱しただけ。ごめんね」

「判ればいい。それに他人の評価なんて俺はどうでもいい。

俺が気にするのはお前からの評価だけだ」

「それならずっと文句なしの満点だよ」

ふふっとおかしそうに笑うレイリに、シュノはこつんと額を合わせた。

「ようやく笑ったな。
まぁ当然だ、俺はお前の為に、お前は俺の為に存在してる。
多少不満はあれど、許容範囲だ」

「不満?シュノは僕に不満があるの?」

「ある。すぐ仕事サボったり、俺に薬盛ったり、自爆して凹むところも正直面倒だ。あとクソ神父の所に泣きつくのも気に食わない。
だけど、それをひっくるめてのお前だろ?そんなの嫌いになる理由にはならない」

「う……返す言葉もございません…
僕って実はシュノの事大事にしてないのかな…
これでも一応、君に釣り合う様になりたくて必死にあがいてるつもりなんだけど…」

しょんぼりと肩を落として甘える様に抱き着いてくるレイリを抱きしめて、シュノはどこか遠くを見ながらぽつりと漏らした。

「バカだな、レイリは。
そんな事しなくても俺はありのままのレイリが好きだって言っただろ?
これ以上いうとまたお仕置きするからな」

「いや、お仕置きはもう勘弁して…
焦らしプレイはそんなに連続してやるものじゃないって学んだ」

「お前はもう何も喋るな。
これ以上喋るとお前また同じこと繰り返すだけだぞ。
ほら、もう寝ろ。俺はどこにもいかねーから」

きつく抱きしめられた腕に安堵したようにレイリは頷いて瞼を閉じた。
自分の気持ちも、シュノの気持ちも、どこか柔らかな幻想の様な心地よさと一緒に意識のかなたに溶けて行った。
それは消えたわけではなく、心の奥深くまで刻み込まれた二人と絆と愛の証。


広いベットで抱き合って眠る二人を月明かりが照らしている。

泣きはらした目はもう、悲し気な色を払拭していつもの表情を取り戻していた。

明日の朝になればいつものように笑いながら愛しい恋人の名を呼ぶことだろう。