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はじまりの風。2

あの後、黒いモンスターは黒葉の詩によりどこかへと飛び去ったらしい。
らしいというのは、鶴丸と国永は熱を出して三日間寝込んだしまったせいだ。
その間にユクモ村というイザナ村と協力関係にある場所へと、黒葉は嫁入りが決まった。
そうして決まった時には即日送られていて、二人は別れも言えなかったのだ。
黒いモンスターは狂竜ウィルスというモノを含んでいるらしい。
イザナ村の人間はそのウィルスに掛かった事のある者が祖である影響から、等しく狂竜症というモノに掛かっているんだとか。
その影響で、鶴丸と国永はΩやαとして発情してしまい、国永はこの日、愛している弟の鶴丸を抱いた。
鶴丸はまだ13歳の頃だった。



自宅の部屋に放り込まれ、持て余す身体の熱を発散する事が出来なかった。
そうして鶴丸はその熱持った身体を兄の国永に委ねる事を思い付く。
鶴丸は小さい頃から兄である国永の事が好きだった。
母や父や友人も好きだが、それらとは違って国永の事を考えると胸が苦しくなり、熱くなる。
幼いながらも自覚した恋心は、愛しさを積み重ねて愛になろうとしていた。
身体が苦しい状態も、国永になら何をされても良いと純粋に思って助けを求める。
二人の影が重なった部屋で、月明かりを頼りに二人は口付けを交わした。

「ん、ちゅ……はぁ、ん、くにに、もっとぉ……」
「はぁ……つる、煽られると止まらない……君の匂いが、甘くて」

すり、と首筋を撫で上げられる事にぞくぞくとした快感が背中を走る感覚に鶴丸は思わず情けない声を上げる。
その声を聞いてくすり、と口の中で笑うと国永は鼻先を埋めてすんすんと匂いを嗅ぎ始めた。
吐息の当たる感覚と匂いを確かめられている、という事実に鶴丸は慌てる。

「くにに、だめ。今、汗臭いから」
「どうして? こんなに甘い匂いがするんだ、食べて欲しいって言う証拠だろう?」
「あ、やぁ……もっと、ちゅうしたい……!」

暗闇に光る紅い瞳に、くらくらと脳を揺さぶられながら首を振って逃げようとした。
その首に吸い付かれて痕を残され、舐められる事に震え上がる。
愉しそうな国永の忍び笑いを聞き、口に当たる柔らかい感触に吸い付けばそれは国永の唇で。
お互いに舌を絡め、吸い付き、もっとと強請れば優しく頭を撫でられながらついばむ鳥のようなキスの雨が降ってくる。
それに耐えきれずに鶴丸がいやいやと首を左右に振れば、国永のキスは徐々に下がっていって鎖骨を軽く噛みながら胸へと降りていった。
触られる度に熱くなる身体に見知らぬ快感で震え上がりながら、国永の愛撫を受け入れていく。
愛しい兄が与えてくれる熱に溺れ、涙を浮かべて声を漏らしながら頭を抱き締めた。

「ん、つる、くるし……」
「あ、はん、ごめ、くにに……あ、や、そこ、だめぇ」
「ん、ちゅ……はむ……きもひい? つるの乳首、触ってって腫れてる……」

胸を揉むように愛撫しながら、起ち上がった乳首に吸い付き指で挟んで潰したり掻いたりと様々に刺激を与える。
そのもどかしい刺激に上手く快感を拾えず、涙を流して首を振る鶴丸を見て国永は苦笑をした。
手でヘソの辺りを刺激しながら反応している鶴丸自身を手で包み込み、口に含む。

「ひゃ、あぁん!? くに、らめ、しょれ、れひゃう、れひゃうよぉおおッ!!」
「ぐぷ、ん、ちゅぶ、くちゅ、らひていいよ。ぐじゅ、ちゅぶ、ぢゅうううう」
「ひゃぁぁああああんッ!!!」

ビクビクと身体を跳ねさせ、ぎゅうっと足先を丸めながら国永の頭を抱くように丸くなり、射精した。
勢いよく出たはずのそれを国永は苦しむ様子も無く吸い取り、口に含んだ分を手の平へと出す。
国永の口から出た白濁液に、自分が悪い事をしてしまったような羞恥心に襲われて、鶴丸は涙を浮かべた。
その様子を見た国永は一瞬考えるように動きを止め、

「つる、今からちょっと痛い事をするけど……我慢出来るかい?」
「いたい、こと?」

困ったような顔で微笑む兄に、不思議な事を言っているなと首を傾げる。
普段、国永は鶴丸が嫌がる事、痛い思いをするような事はしない。
他人がそれを強要しようとしても、止めに入るような人だ。
だからこそ、それを国永が鶴丸にしようとする、という事が理解出来なかった。
けれど、国永のする事で鶴丸が嫌な思いをした事が無いのも事実だ。

「……すまない、気にしないでくれ。……まだ苦しいかい?」
「ん、あっつい……くにに、おれ、くににぃがしてくれるなら、平気だよ? くににぃの方が、つらそう……」
「つる……ありがとう、ごめん。俺も、我慢が出来そうに無い。気持ちよくなるようにするから……受け入れて?」

頬を空いている手で撫でられ、苦しそうに顔を歪める国永に鶴丸は微笑んで頷いた。
国永が、愛しい兄がしてくれる事なら怖くない。
普段は甘やかされてばかりの自分が頼られているようで、嬉しかった。
答えは最初から一つしか用意していない。

「うん、うん、おれ、くににぃだったらいいよ。くににぃにぜんぶ、あげる。くににぃが好きだから」

嬉しさが伝わるように精一杯の気持ちを伝え、首に手を掛けて抱き着いた。
気持ちが少しでも伝わるように、ちゃんと国永に分かって貰えるように。
花が綻ぶような笑顔を浮かべる鶴丸に、国永も嬉しくなって微笑み返した。
そうして頬にちゅ、と音を立てて口付けを落とす。

「つる、俺は愛してるよ。ずっとずっと、好きだったんだ、嬉しい。けど、告白は起きてからもう一度、な?」
「うん! いまは、くににぃいっぱいちょうだい?」

国永の告白が嬉しくて胸が温かくなりながら、鶴丸は頷いて国永に強請った。
身体の熱が引かない事が苦しくもあり、国永の言葉に身体の奥の疼きが増したからだ。
早く早く、一杯になるまで満たして欲しい。
国永のモノになるのだと、身体に刻み付けて欲しくて本能的に足を絡めた。
一度精を吐き出して楽になったはずの自身が起ち上がり、とろとろと蜜を垂らし始めている。
国永は一瞬にして顔を赤面させると鶴丸の首元に顔を埋めて隠した。

「その言葉は反則だ……可愛すぎて、加減を忘れそうになる……」

近くなった兄の香りに愛しいと抱き着きながら、足の間を触られる感触に鶴丸は驚く。
けれどここには鶴丸と国永の二人だけで、自分がしていないなら国永だろうと顔を覗き見た。
内腿の間、後孔へと伸びてきたソレに震えながらも大人しくしていれば、くちゅりと粘ついた音が部屋に響く。
その音の出所が兄の指だと理解したと同時に、鶴丸は先ほど自分が出したモノの音だと気付いた。

「あ、や、くににぃ、はずかし……ッ!」
「大丈夫、恥ずかしくないよ。つる、かわいい。いとしい、食べちゃいたい」

言葉と同時に熱い吐息が首に掛かり、後孔を解す指を締め付ける。
それは鶴丸の好い所を掠めたようで、背中を走る快感に仰け反った。

「あッ!? はぁ、くにに、だめ、しょこ、やぁ」
「うん? ここかい?」
「あひぃッ!! あ、あ、あぁんッ! しょれ、らめぇ、びくびく、しゅるぅ」
「つーる、ここはつるの好い所だよ。だめじゃなくて、気持ち良い。言ってごらん?」

片手で兄に頭を撫でられて落ち着くようにされながら、二本に増やされた指が鶴丸の好い所をぐりぐりと挟んだり潰したりと刺激する。
国永に言われた通り、身体を跳ねさせながら気持ち良いと言えば快感が増した気がした。
首筋を舐め上げられ、耳を舌で舐られながら身体を震わせて快感を飲み込む。
国永に触られる場所全てが気持ち良いと思いながら身を任せた。

「くにに、きもひぃ! きもひぃよぉ……」
「ん、嬉しそうで俺も嬉しい……つる、痛いかもしれないけど、俺も良い? も、我慢が限界……」

首元に顔を埋めながらの苦しそうな言葉に、鶴丸は何度も頷いて示す。
国永が与えてくれるのなら、それが痛みだろうと嬉しいと感じて抱き締める手に力を込めた。

「くににぃ、きて……いっぱいにして?」

鶴丸が了承の言葉を呟いて微笑むのと同時、後孔に当てられた硬い何かが貫いてくる。
確かに痛みを感じはしたが、それ以上に充足感で胸が苦しくなった。
お腹を内側から押し潰すそれが国永のモノなのだと、本能的に理解出来たから。
入れた瞬間から苦しそうに歯を噛みしめる国永の様子だけが不安だった。

「くににぃ、くるし? だいじょうぶ?」
「ん……ああ、君の中が気持ちよくて……。つるは、平気かい? いたみは?」
「ちょっと……でも、くににぃと繋がってるのが、うれしい」

ふにゃりと微笑んでみせれば、国永は息を詰めて言葉を失う。
顔を伏せて熱い吐息すら呑み込もうとする様は儚げで、鶴丸は国永の頬に手を当てた。
自分では満足出来ないのかと不安になった所で、国永の首筋を流れる汗に気付く。
呼びかけようとした声は、それより先に向けられた熱の篭もった紅い瞳に遮られた。
まるで野生の獣のように熱を持て余す瞳に釘付けになり、呼吸すら忘れる。
その瞬間に腹の中の熱が大きさを増した事に気付き、次の瞬間には好い所を擦られて突然の快感に鶴丸は跳ねた。
そんな弟の様子を気遣う事もなく、国永は欲のままに腰を突き動かす。

「ひ、あ、あ、ああ、ん、ひぃ、くにに、やぁあ、きもひぃ、きもひぃよぉおおッ!!」

奥を突かれる度、中を擦られる毎に喘ぎ、声を上げる鶴丸。
国永は我を忘れたように手で鶴丸の細い腰を固定し、己の腰を突き動かした。
腰骨が勢いよく尻たぶに当たり、ばちゅんばちゅんと濡れた音が響く。

「あ、はぁ……つる、も、いく、だすッ!!」
「ひゃあ、あん、おれも、いっちゃ、いっちゃうぅうううッ!!!」

二人同時に果てながら鶴丸は腹に、国永は鶴丸の中へと精を出した。
二度目の快感に慣れない疲労を感じながら鶴丸はベッドにくたりと倒れ込み。
しかし我をなくして獣の様にまぐわおうとする国永は鶴丸の身体をひっくり返すと後ろから襲いかかった。

「ひん、あ、あぁん、らめぇ……おりぇ、おかひ、おかひくにゃるぅううッ」

尻だけを突きあげた体勢で国永に押さえ込まれ、慣れない快感に喘ぎながらも身体はもっと欲しいと熱くなる一方で。
うわごとのように鶴丸を呼びながら一方的に動く国永に、それでも喜びの声を上げて受け入れてしまうのだった。
ひくひくと、突かれる度に跳ねる身体を持て余し、ついには鶴丸は意識を飛ばしてしまう。
意識が無くなる寸前に見た国永の漆黒に染まった髪と狂喜に笑う顔を記憶に残して。

「アハハハハハッ!! つる、かわいい、あいしてる、たべたい、おれの……」

いつもの優しい兄が居なくなってしまうという恐怖に目を開ければ、太陽の昇りきった空が窓から見えた。
隣には情事の様子を残さない、桜色に髪の毛を染めた兄が熱にうなされて寝込んでいる。
自分もまた身体に熱が篭もっているらしく気怠さを感じながら、全部夢だったのかと疑って起き上がろうとした。
しかし腰に走った痛みと着衣を付けていない事に気付き、鶴丸は嬉し恥ずかしの思いをするのだった。

はじまりの風。

ここ数日ほど、村は嫌な静けさに包まれていた。
今イザナ村はハンター試験の時期にさしかかっている。
平原から鹿や猪の姿が消えているのはその影響かと想われて居たのだが、平原から奥にある森の中も小さな住人達の声が聞こえていた。
それは虫や鳥だけではなく、小型のモンスターも意味する。
村に居る今年で15歳になる子供達は多く、試験用に誘導されるモンスターも必然的に多くなった。
村長が無作為に選んだ4人でチームを組み、モンスターが上手く誘導されればクエストとして依頼される。
ハンターさながらのそれは、成功すればハンターとして認められて失敗すれば村のハンターに救出され後発のチームに任せられた。
つまり、今年の試験には不合格となる。
そうやってイザナ村の子供達をハンターとして教育し、ハンターに向かない者も書士隊として後方支援に回る者を育てていた。
イザナ村の住人はハンターと書士隊、ペアになる事で初めて外界に出る許可を出されるのだ。
この年に15になる国永と黒葉も、ハンターとして腕を磨きながら書士隊としての知識を蓄えつつあった。
そうして無事にクエストを完了させた二人は、その年最初のハンターとして他2名と一緒に資格を得る。
更に書士隊としての勤勉さから一員として認められ、村長から登録をしておくと聞かされた。
ペアとして外界に出るのでは無いかと村人は思っていたが、本人達にはそのつもりも無く。
帰宅した国永は、両親や弟の鶴丸に大喜びで祝われ、家でお祝いをしようと足りない材料を取りに平原へとやって来たのだ。



編みかごを片手に抱えながら繋いだ手を振る鶴丸は嬉しそうに微笑み、国永を見上げて口を開く。

「くににぃ、ハンターおめでとう! 熊倒したんだろ? つよかった?」
「ああ、ありがとう鶴。強かったけど、黒葉も他の奴も居たからなー」

疲れを見せずに優しくクスクスと笑いながら握った手に力を込め、背にスラッシュアックスを背負う国永は可愛くて仕方ないとばかりに鶴丸を見る。
正直、鶴丸の事は弟として愛しては居たが、それ以上の感情も持っていた。
番になるならこの子となりたい、守り慈しみ一生を共にし、愛したい。
父と母に悩みを打ち明けたら、心のままに動きなさいと応援をしてくれ。
国永は今日、鶴丸に告白をする事をずっと待ち望んでいて、そして我慢してきた。
その鶴丸が目の前で喜びに笑顔を浮かべてくれる事が純粋に嬉しい。

「えへへ、母さんがくににぃは絶対合格するから、一緒にケーキ作ろって朝から言ってたんだ」
「そうなのか、普通に送り出してた割にそんな事を」
「父さんは自分で作った祭壇でお祈りしてたぜ! 俺は母さんと材料集めて、上手に焼けるまでいっぱい焼いて……あ!?」
「へぇ、一杯作ってくれたのかい? ふふ、それも頂かないとな。それで木の実や果実が足りなくなったのか」

ご機嫌に並んで歩く二人の様子を見、鶯と黒葉も笑って後を歩く。
二人も祝いの席に呼ばれたのと、準備のために借り出されたのだ。
村全体としての宴の席は別に用意されているのだが、同い年として特に仲の良い二人にも声が掛けられた。
誰の子とも関係なく、自分たちの息子のように扱ってくれる国永と鶴丸の両親を二人も好いている。

「父殿と母殿の手料理とは、楽しみだなぁ」
「ああ、今から腹が減ってきそうだ」
「二人とも一杯食べてくれよな? あんまり遅くならないうちに集めないと」

ふわふわと笑う鶴丸に頷き、広い平原の方々に散って集めようと取りかかった。
国永は鶴丸と、黒葉は鶯と別れる。
真っ白い髪が風に遊ぶのを目で楽しみながら、目敏く果実の群生地を見つけては鶴丸に教えた。
蜜色の瞳が嬉しそうに細められ、早速果実を採ろうと慎重に動かされる手を見詰める。
国永自身も近くの茂みに隠れる木の実を見つけ、木に生っているそれらを採取した。
しかし採り始めて直ぐに異変に気付く。
木の実や果実が丸丸残っている事が多いのだ。
動物やモンスターにそれらを好む者も多く、食べ荒らされた痕を見る事もよくある。
なのに自分が見る限りではそれが無い。

「……鶴丸、どのくらい集まった?」
「え? んーと、もう半分……かな。向こうがどの位集まったのか分からないけど」
「そうか……早いけど引き上げよう」
「え?」

驚いて国永を見上げる鶴丸に微笑んで返し、安心させようとする。
首を傾げて不思議そうな顔をするだけにとどめたのを確認した。
その場に三点の打ち上げ花火を置いて着火し、鶴丸の手を繋いで少し距離を空ける。
一寸置いてから空へと打ち上がり、三度大きな音を立てて散った。

「試験で緊張したから、俺が少し休みたかったんだ。それに、鶴からゆっくりお祝いして欲しいからさ」
「そっか、くににぃもくろにぃも疲れてるよな。へへ、俺もくににぃにゆっくりお祝い出来るの嬉しい」

頬を赤らめながらはにかんで笑い、編みかごを元気に振り回す姿に国永も笑みを浮かべる。
そうして別れた地点までやってくると、そこには既に黒葉と鶯の姿があった。
お互いに手を上げて無事を確認し、声の届く範囲で国永は口を開く。

「やあ、どの位集まった?」
「なかなか、だな」
「思ったより多く拾えてな……」

訝しげに口元を隠す黒葉に頷き、鶯は首を傾げて見せた。
多く拾えた事の何が引っかかるのか、それが不思議だったからだ。
そしてそれを口に出そうとした刹那、禍々しい気配と共に一陣の風が襲う。
明るかった空の太陽を覆い隠すように空に現れたのは、一頭の黒いモンスター。
突然のそれに、しかし鶯は直ぐさま反応して編みかごを手に体勢を低くする。

「鶴丸、モンスターだ。村に帰って村長に報告するぞ!」
「え、あ、でもあれ、放っておいて良いのか!?」

混乱し、モンスターと鶯を交互に見ながら足を動かせずにいた。
その鶴丸を身体で隠すように国永は前に立ち、背負う武器へと手を伸ばす。
黒葉もまた、背に負っていた弓を外して構えに入った。

「この場は俺達が抑えよう。お前達は急ぎ村へ帰れ」
「だな。なーに、死なない為の訓練は受けている。心配しないで安全な場所に移動してくれ」
「くににぃ、くろにぃ……!」

悲壮な顔で泣くのを堪える鶴丸に微笑みを浮かべ、国永は反対の手で鶴丸の頭を撫でる。
いつものように安心させてくれる体温に、鶴丸は国永を仰ぎ見た。

「大丈夫。君の兄は強いんだぜ? それに、伝えたい事が山ほどあるんだ」

自然体の笑顔に安堵をし、編みかごを胸に抱いて頷いてみせる。
そうして鶯と同様に逃げる体勢を整えたところで、黒葉が弓矢をつがえて見せた。
先制を取る事で逃げる隙を作ろうとしたのだ。
しかしそれよりも先に、空に居た黒い影が咆吼と共に舞い降りてきた。
大型のモンスターの咆吼など聞いた事もない鶴丸と鶯は身体が固まり、逃げようとした体勢のまま尻餅をつく。
その際に落としてしまった編みかごを、鶴丸だけが咄嗟に取ろうと身体を投げ出してしまい。

「逃げろッ!!」
「鶴!?」
「馬鹿者!!」

黒葉の放った矢によってモンスターへの威嚇とし、言葉によって檄を飛ばした。
鶯はそれによって村へと身体を転じて走り出したが、鶴丸は逆に体勢を崩して余計に転んでしまう。
慌てた国永が駆け寄ると同時に、黒いモンスターは黒い靄を翼で飛ばしてきた。
咄嗟に庇おうと鶴丸の華奢な身体を抱き締めるが、そんな事はお構いなしに靄は二人を包んで身を焦がす。
内から沸き上がる熱に、触れる肌の温もりに今すぐ自分のモノにしたいという欲が身体を震わせた。
見れば鶴丸も似たような症状が出ているようで、蜜色の瞳に熱を浮かばせている。
どのような効果があったのかは分からないが、ウチケシの実を数個取り出して口に含ませた。
自分も同じように含めば、少しは軽くなった症状に武器を振る力が戻ってくる。

「鶴、村に戻れ」
「くににぃ!」

舌っ足らずな声を出す鶴丸に今すぐ押し倒したくなる衝動を抑え、武器を構えてモンスターに立ち向かった。
頭を足場に上空へ飛び、スラッシュアックスを真っ直ぐに突き穿つ。
硬い外殻に覆われているそれに刺さる事は無かったが、微かに抉った衝撃に地へと降り立ちながら翼を斬った。
瞬間、顔を狙った黒葉の速射が何発か当たる。
それでも倒す事を狙わずに村から引き離す事だけを考えて、何度も斬っては距離を空けを繰り返した。
興味を完全にこちらに移したモンスターは村に背を向けて国永に顔を向け、次の瞬間には空に向かって吼え哮り姿を変化させる。
目の位置には妖しい光を内包した内殻と、額に突き出てきた触覚。
晴れ渡った空は靄の影響か暗く閉ざされ、大きく黒い翼が視界を塞ぐように広がったのを見る。
その翼を支える腕が翼爪を振りかざすのを見て、モンスターに心臓を掴まれた様な衝撃を感じたまま、武器を前に構えて受け止めた。
夢のような心地で、しかし確かに爪を受け止めた事に国永は驚く。
懐かしいと感じ、このまま一緒に居たい、共にありたいと頭の一部が痺れるような感覚を受けた。
それと同時に覚える衝動は、全てを破壊してしまいたいと言っている。
自分が自分で無くなるような、違う何かに塗り潰されてしまいそうな、未知の恐怖。
黒葉だけが見える位置で、国永は恐怖に怯えた顔をした。
それは幼馴染みが今まで一度もした事のない表情であり、失うかも知れないという恐怖を黒葉にも明確に与えた瞬間だった。
そうして周囲に詩が響く。
黒葉を中心として沸き上がった白い波長の輪は、黒葉が声を高らかに歌えば響きに応じて広がっていった。
イザナ村に伝わる歌姫の伝承のごとく、黒葉はこの時初めて歌姫としての力を覚醒させたのだ。

とあるひるさがり



バスルームから歌声が聞え、ここは装備 を置いてバスルームを覗いた。
「随分ご機嫌ですね、黒葉」
あまり人前で肌を晒せない理由がある黒葉の為に作らせたバスルームのバスタブから黒葉が微笑みながらオトモのプリンとペットのプーギーとお風呂に浸かっている。
大浴場で皆と入るのを好む黒葉はあまりこちらを活用しないが、今日はペットと浸かりたかったのか、プーギーが心地よさそうに桶で湯をかけてもらっていた。
「ここ、おかえり」
ふにゃりと笑うと愛しい恋人に甘えるように両手を広げる。
「ただいま帰りました。
今日は大浴場ではないのですね?」
黒葉の小さな体を抱き締め、甘えるように擦寄る。
ジンオウガに育てられたここは人間に矯正されても獣の名残が強い。
「大浴場はペット禁止と言われてな。
仕方ないからこちらを使ってるが、これはこれで良いものだな」
「一応同じ温泉の湯を利用してますからね」
「ん、皆で入る湯もいいがこれも良いなぁ。
ここは入らないのか?」
「一緒に入っても?」
「そのつもりだ」
黒葉が浴槽の縁にもたれるようにここを見上げる。
誘う様に唇が弧を描き、濡れた前髪から滴る雫。
「黒葉…」
抱き寄せ、そのまま口付ければ気を利かせたオトモがプーギーを連れて浴室から出ていく。
「どうした?」
くすくすと微笑みながらここを抱き締める。
「支度をしてまいります」
「脱ぐだけだろう?ここで脱げ」
ここは苦笑しながら来ていた服を脱ぎ捨て、二人分にはせまいバスタブに肩まで浸かる。
最初は苦手だった湯も、今では心地よいと思える様になった。
「ここ」
甘える様な舌足らずな声でぎゅっと抱き着いてくる。
初めてあった頃は微笑む事もせず、ただ事実を受けいれてる様だった。
何でも卒無くこなしてしまう兄ではなく、自分の様な半端者を選んでくれた事、感情を上手く理解できない自分をいつも微笑みながら見守ってくれること。
それが、暖かくて心地よかった。
「黒葉…黒葉と居ると私の胸のこの辺りがぽかぽかします。
これは、なんと言うんですか?」
胸のあたりを抑えながら黒葉を見た。
黒葉はきょとんとしながらここを見てから可笑しそうに笑った。
「黒葉?」
「いや、すまぬな。
ここが俺と同じ気持ちでいてくれたのが嬉しくて」
「同じ気持ち?黒葉もですか?」
「ああ、それは愛しいという気持ちだ。
ここと居ると気持ちが安らかになって落ち着く、安心出来る、ずっとこのままでいたい…」
もたれ掛かるような小さな体を大事に壊さないように抱き締める。
「愛しい?これは愛しいというのですね。
ふふ、愛しい、黒葉、愛しいです」
「そういう時は愛していると言うんだ。
ここ、愛してる」
「愛してる?愛してる、愛してる…
黒葉、愛してます」
「ああ、俺もここを愛してる」
ぎゅっと小さな体が縋るように抱きついてくるのを、愛しいとおもう。
「黒葉、黒葉、これは良いものですね?」
「ふふ、そうだな。
ここだから、そう思うんだ。
ここ以外には感じない」
「私もこれを感じるのは黒葉だけです。
兄様にも国永や鶴丸にも、似たようなものは感じますがこれとは違います」
「それも愛の一種だ。
宗近に感じたのは兄弟や家族に感じる親愛。
国永や鶴丸は友人に感じる友愛。
愛にも様々あるんだ」
「そうなんですか…奥が深いです。
でも黒葉はずっと一緒にいたい」
首の辺りにすりすりと頬を寄せるのは甘えている証。
「ふぁっ、ん、こら、ここっ!
そこは、らめっ…」
「ここをこうするのが良いんですよね?」
幼い子供みたいな笑でここが項をぺろぺろと舐める。
「んっふぁ、あぁっ、こら、くすぐった……ひゃあ!?」
「く、黒葉!?」
ここが項の入墨を掠めた瞬間、黒葉が悲鳴の様な声を上げたのに驚いたここは、ぎゅっと黒葉を抱きしめた。
「大丈夫ですか?
すいません、いや、でしたか?」
しゅんと耳が垂れたように落ち込むここに、黒葉は笑いかけた。
「この入墨の辺りは擽ったくて…」
「そうでしたか、すいません」
「いや?ここがもう少し色々覚えてからなら、存分に」
幸せそうに笑う黒葉を抱きしめて、ここは湯上りに冷たいフルーツ牛乳を保存庫から取り出した。
「ありがとう」
黒葉が笑えばここも嬉しい。
黒葉が悲しいとここも悲しい。
それを知ったここは人間らしくふにゃりと微笑んだ。
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