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幽霊塔の吸血鬼 5



「何かさぁ…シュノさん、変わったと思わない?」

談話室のソファーで、背後をクロシェードに預けたまま、本に目を落としながらミツバが呟いた。
「うん?そうかな…他人にはあまり興味ないからよく判らないよ。」
ぎゅうぎゅうとミツバの小さな身体を腕に抱き込めると、ミツバは後ろを振り返り、甘えるように擦りよった。
猫になつかれるような感覚に、ひとつ、頭を撫でてから窓の外を見やった。
窓の向こう側ではレイリが間引きしたのであろう薔薇の花を大量に抱えて歩いていた。
シュノが、薔薇園の管理をレイリに任せたとかで、暇をもて余さなくなったレイリは日中はほとんどが温室で過ごすことが多くなった。
「あの間引いた花。どうするのかな?」
「普通は捨てると思うけれど。」
「ふぅん…捨てるなら、貰ってこようかな。」
そういって本を閉じると、ミツバは腕をほどいて立ち上がった。
「そんな建前を作らなくても、レイリと話したいと素直に言えばいいのに。」
残念そうな風を装って両手をあげると、ミツバはおかしそうに笑った。
「薔薇が欲しいのも事実だよ。
部屋、殺風景すぎ。」
そのままドアを開けて出ていく後ろ姿を眺めて、クスッと笑みを溢した。
「本心じゃないくせに…」
クロシェードはミツバが残していった本を開いた。
押し花の栞が挿されているページには、赤い薔薇の絵が載っていた。
恋人に赤い薔薇の花を贈られた女性が部屋に薔薇を飾って恋人を思うという、一般的な恋愛小説でよくあるシーンのようだ。
唐突に薔薇を欲しがったのも、これの影響かもしれないと、密かに笑みを噛み殺した。
「可愛いことをするじゃないか。」
黙って本を閉じ、気付かなかったことにしようと、立ち上がってミツバの後を追った。
特にすることもなく、暇をもて余していたから、なにか面白いことにならないか、期待を込めて。



「レシュオム、キッチン借りていい?」
昼食の支度をしていたレシュオムは、振り返って一瞬ぎょっとした。
「レイリさん、そんなに一杯の薔薇、どうするんですか?」
「えと…煎ってお茶にしようと…」
レイリは水分が飛んで乾燥した薔薇の花びらの入った袋をレシュオムに見せた。
手に抱えている分はこれから干すのか、まだ瑞々しい。
「これって…温室の薔薇ですよね?」
「うん、間引かないとうまく咲かないから。
この種類は特にデリケートみたいで、あんまり近くに蕾があるとどっちも枯れちゃうみたいだね。」
「ええ、そうなんですよ。
というか…ほんの少し弄っただけでよくそこまで判りましたね?」
レシュオムは苦笑しながら、私は手探りに覚えましたよと話してくれた。
「……なんでかな…でも何となくそう思ったんだ。
この蕾は間引かなきゃいけないとか、残す蕾はどれかとか、枯れそうな花とか…。」
まるで薔薇たちの声が聞こえるみたいに。
レイリはテーブルに乾燥してない薔薇を広げ、ぱちん、ぱちんと裁ち鋏で茎を切り落としていく。
「レイリさん、その薔薇分けて欲しいんだけど。」
唐突にに背後から声をかけられ、振り替えると珍しい人物にレイリは若干驚いた。
「ミツバ、具合大丈夫なの?」
「うん。もう大丈夫。」
ずっと体調を崩していたミツバは、ダイニングテーブルの椅子をずらして腰掛けた。
「ここの薔薇はお茶にしようと思って今茎を落としちゃったんだ…。
部屋に飾りたいならあとで持っていくよ?」
「へぇ…薔薇の紅茶?」
ミツバは茎のない花を物珍しそうに見ていた。
「うん、乾燥させた花弁を煎ってお茶にするんだ。
良かったら出来立てを淹れようか?」
既にコンロに火を付け、干からびた薔薇の花をレシュオムが丁寧に砕いてレイリが煎っている。
仄かに甘い薔薇の香りが漂い、ミツバはせっかくだからと頷いた。
「はい、できた。」
「あ、ありがとう。」
抽出されたお茶は薔薇のいろとは違い紅茶の色をしていた。
「不思議ですね、薔薇は薄紫なのにこうしてお茶にすると紅くなるなんて。」
レシュオムがカップのなかを見ながらまじまじと呟いた。
「甘くていい香り…落ち着く。」
ミツバもカップから漂う香りを楽しんでいる。
レイリは砂糖とミルクを置いて自分も席についた。
「ここにいたのか、探したよ。」
「レシュオム、頼まれた野菜、とってきたぞ。」
「ありがとう、リク。」
レシュオムは立ち上がるとリクが抱えていた野菜の半分を受け取った。
キッチンで昼食の準備をするレシュオムの隣にリクが野菜を洗ったり皮を剥いたりと、手伝いを始める。
代わりにクロシェードがミツバの隣に座ったのを見て、レイリがクロシェードにもお茶を差し出した。
「温室の薔薇で作った紅茶だって。」
「へぇ…いい香りだね。」
「だよね、ねぇレイリさん。
やっぱり薔薇を少し分けて欲しいなぁ。」
「うん、後で花束にして持っていくよ。」
ミツバは嬉しそうに笑い、紅茶を口に含んだ。
「本当に花を飾るのかい?」
「良いだろ別に、半分は俺の部屋なんだから。」
仲睦まじいクロシェードとミツバを眺めながら、その二人の背後で最早熟年夫婦並みの意志疎通をしているレシュオムとリクをぼんやりと眺めていて、レイリはそう言えば自分はまだ、シュノのことをあまりよく知らないと気が付いた。
例えば好きなこととか、好きな食べ物とか、好きな色とか…。
そんな些細なことを気にするくらいには、自分はシュノのことを好きなんだとおもうと、不思議なことに心がぽかぽかと暖かくなる。
「そう言えば、シュノさんとは一緒なじゃないの?」
「えっ…あ、うん。何か凄い眠たいから今日は寝るって…」
ボンヤリしてるところに急にミツバからシュノの話題を振られて、我に返ったレイリは慌ててミツバに笑いかけた。
「そろそろ、新月だからかな…。」
ぽつりとミツバが呟いた。
「新月…」
途端に、レイリの顔色が一瞬悪くなる。
「次の新月は…いつ?」
「ええと…確か明日ですね。」
「明日…」
レシュオムがカレンダーを確認してレイリに告げると、レイリは震える指をばれないようにきつく握った。
「新月になると何かあるの?」
レイリはいつも通り、首をかしげて目の前に視線を向けた。
「吸血鬼は新月に一番魔力が膨れ上がって逆に満月には力が半減してしまうんです。
なので、満月には花嫁から魔力を供給してもらわないといけないわけです。」
「それは…判ったけど、新月は魔力が高まるんでしょう?
どうして新月が近いと眠くなるの?」
「シュノさんは力の強い吸血鬼なので、力のセーブが大変なんです。
莫大な魔力を発散させる術が無いので、身体に負担がかかるんですね。」
レシュオムが意味ありげににっこり笑う。
「今回は、レイリさんが居るから大丈夫だと思いますけど…。」
「僕は…どうすればいいの?」
キョトンと首をかしげるレイリに、ミツバが笑いを堪えていた。
「それは、シュノさんに聞きなよ。」
「?」
首をかしげたレイリの前に、レシュオムが困ったような笑みを浮かべながら、ベーグルサンドを差し出した。
「シュノさんに持っていってください。」
「あ、うん。」
直接シュノに聞けと言うことか、と何となく悟った。
「あ、薔薇…」
「あとでいいよ、頑張って。」
ミツバが楽しそうに笑って、クロシェードに目配せをすると、二人は楽しそうに頷いた。
「え…うん?ありがとう?」
大事そうに昼食を抱えて席をたった。



「シュノ…?」
薄暗い部屋の中、ベットの中で眠るシュノにそっと近寄ると、昼食をサイドテーブルに置いて、広めのベットにそっと体を傾ける。
柔らかなマットが沈み、レイリは布団にくるまって眠るシュノの顔を覗き込んだ。
吸血鬼は皆絶世の美貌を持つものが多い。
レシュオムにしろ、クロシェードにしろ、人間では有り得ない姿を目の当たりにしても、やはりシュノは綺麗な人形の様で…
間近に迫ってもシュノが起きないほど熟睡しているのは珍しいなと思いつつ、そっと顔を近付けた。
「シュノ…」
そっと、キスをしようとか唇を近付けると、ぐいっと頭を引き寄せられて倒れ混むようにシュノに覆い被さった。
「ん、ぅ…んんっ、は…ぅ…」
唐突に舌を絡ませてきたシュノは、レイリの身体をベットに引きずり込んで、ギュッと抱き締めながら、何度もキスを繰り返してくる。
「はふ…んむ、ん、ちゅ…しゅ、の…んんっ」
息つく暇もなく、次第にレイリがグッタリする。
それに気が付いたシュノが名残惜しそうに唇を離すと、必死に呼吸するレイリの額にひとつキスを落とした。
「ふぁ…シュノ…ずるいよ、起きてたなら言ってくれれば…」
「お前が可愛いことしてたから、悪戯したくなった。」
ギュッと抱き締めて、頭を撫でる。
レイリを抱き枕代わりにしっかりと。
レイリの目の前にはシュノの綺麗な顔が間近にあって、心が跳ねる。
「お前こそ、俺の寝込みを襲うなんていい度胸だな?寂しかったのか?」
「…違っ、…シュノが調子が悪いみたいだから…。
どうにか力を発散させる方法はないの?」
心配そうにシュノを見上げたレイリに、あからさまに目を泳がせるシュノ…。
そう言えば、レシュオムも困ったような笑みを浮かべていたことを思い出した。
ミツバとクロシェードはどこか楽しそうだったが、頑張れと声をかけられた。
「お前…それ誰に聞いた?」
「え…みんなに。」
あきれたような溜め息を吐きながらもシュノはどこか楽しそうだ。
「シュノ?」
「可愛いことするお前が悪いんだからな?」
そう言ってシュノはレイリをベットに押し倒した。
訳が判らないレイリはキョトンとしている。
「お前にひとつ教えておいてやる。
新月の日、俺達吸血鬼は花嫁に魔力を分け与える。
要は満月の時に減る力を花嫁にためておくんだ。」
「うん。」
「つまり、有り余る魔力をお前の中に注ぎ込む。」
「どうやって?」
余程温室で大事に育てられていたのか、レイリは首をかしげる。
全く意味を理解していない。
シュノはこれから先が少し心配になった。
「方法は二つ。
血を分け与えて少しずつ魔力を分ける。
これはレシュオムみたいな女吸血鬼が良くやる方法だ。
そして、もうひとつが…」
にんまりと、シュノが笑う。
獲物を目の前にした、肉食獣のそれで。
「お前の中に直接注ぐ方法だ。」
耳許で、囁くように呟くとレイリがあからさまにビクッと身体を震わせた。
「…え…中に?注ぐ?」
「そう、お前を抱くって事だよ。性的な意味で。
ここまで言えば何されるか判るだろ?」
レイリは途端に顔を赤くして背けた。
「あ…だって、僕は…男だし…」
「関係ねぇから。」
ニヤリと笑って、シュノはレイリの首筋に顔を埋めた。
「初めて見たときから思ってたんだが、お前ホントに美味そう…」
ペロッと首筋を舐められてレイリはすがるようにシュノを見上げた。


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