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出会い、紅色。7 side国永

またも起こった不思議な光景に、国永はそろそろ諦念を覚える勢いで項垂れる。
主に申し渡された連結に用意されたのは数振りの刀と、一振りの鶴丸国永だった。
鍛刀で揃えられたそれはいわゆる二振り目というやつである。
現在の政府の意向ではそれらを励起させることは出来ず、刀解をして資材に回されるかこうして連結強化に回されることとなる。
それ自体に不備はなかったはず、だった。
連結の核となった国永が場に残るのは当然のこととして。
目の前には、目を瞑って倒れ伏す真白の固まりがある。
こうして"自分自身"に面と向かい合うのは演練ぶりだ。
ぴくりとも動かない、ともすれば息をしているのかも怪しい身体に違和感を覚える。
連結用にと用意された室内には、すぐに加州清光が飛び込んできた。
力なく横たわる鶴丸国永を抱え込むと、急ぎ医務室へと運び込んでいき、

「連結不備」
「そう。宿った分霊の魂は問題なく連結し刀も解かれるはずが、何故か肉体だけ励起し残った形となった」

流石に疲れた顔でこめかみを揉みほぐす主の姿は、いっそ憐れにも思えた。
そもそも国永は本筋の鶴丸国永とは言いづらい面がある。
刀帳には問題なく記載されたが、恐らくはその辺りが作用して今回のようなことが起こったのだろう。
あるいは、

(真っ当な鶴丸国永を、と思う俺の意思が作用したか)

国永は、自分を鶴丸国永だとは認めていない。
ましてや三日月宗近が望み、禁忌を犯してまで望んだのだ。
いつなんどき、どこで堕ちるかも分からない、穢れを含んだ身では彼が報われない。

「なあ主、もし……もしあの鶴丸国永が目を覚ましたなら、使ってやってくれないか」
「……まあ、怜鴉の一件で戦力を削られた本丸も少なくないからな。二振り目の育成を拒んでるのも人間と同じく刀も唯一であるべきとかいう人道派とか、本丸に反抗戦力を付けさせたくない馬鹿共だしな」
「そうなのか? てっきり励起する術式の問題かと」
「そうなると、そもそも二振り目以降の鍛刀すら出来んことになるな」

肩を竦めながらあっさりと告げる緋翠の声は軽い。
自分たちは戦うための道具であるのだから、命の尊さとやらを声高に唱えるのはさぞ滑稽だろう。
余計な戦力を付けさせたくないというのも、戦争を代行させている方がおかしいとも言える。
人間は随分と厄介な性分を抱えた生き物なのだな、と改めて認識した。
そして二振り目、に関してあえて口を開いたのは国永への牽制だろう。
未だに国永が刀解を望んでいると知っているからこその。

「まあ、それで良いさ。様子を見に行くくらいは許されるだろう?」
「当然だ」

話は終わりだ、とばかりに書類へ目を落とす緋翠を後目に、国永は笑って執務室を後にするのだった。



あの後、国永は少々裏技を使用して二振り目の鶴丸国永を目覚めさせることに成功した。
裏技とは、他の刀剣男士には使えない術を行使して魂を分けるという、本来ならば本霊のみに許された行為のこと。
分霊がさらに分霊を作るなど、消耗も激しく制約も多いため普通ならば出来ることではない。
けれど、国永は幸か不幸か普通では無かった。
生粋の鶴丸国永とは違い、三日月宗近の力も有している。
更に同じ場に存在しているから、そして二振り目には魂が宿らないからこそ出来る無茶だ。
目覚めた二振り目を鶴丸と呼び、世話役は国永が務めることとした。
借り物の魂でどれだけの誤差、ないし不備が出るものかと戦々恐々としていたが、

「くにながさま、これとってきた」

舌っ足らずな口調は肉の器に馴染んでいないからか、鶴丸は手に花を握り締めて国永の元へやって来た。
鶴丸はたびたび見付けたものを国永の所へ持ってくる。
それだけを見れば幼い子供のようでもあるが、見た目は国永と同じ青年。
白銀の髪と黄金の瞳を持つ、通常の個体と言えた。

「それは……何の花だ? 鶴丸、どこから持ってきたんだい?」
「あっち」

あっち、と言って指を差す方向には畑がある。
恐らくだが、まだ実が成っていない野菜の花を引っこ抜いてきたのだろう。
ため息を吐き、いずれ野菜になる花を畑から取ってきてはいけないと教える。
ぱちり、と目を瞬かせた鶴丸は頷いた。

「やさい、しってる」
「ああ、光坊や歌仙が美味しい料理にしてくれるだろう?」
「りょうり、おいしい」

言葉をほぼオウム返しに、頷きながら笑顔を見せる。
知識は国永と同等にあるものの、経験というのがどうも蓄積しないらしく鶴丸はまるで無垢な子供のよう。
己の本体である刀にも頓着を見せず、ともすれば高いところの物を取るつっかえ棒にし始める始末。
刀としては少々不安を覚えるところであり、未だに内番にも組み込めずに居る。
国永はもどかしく思いながらも、唯一の頼みの綱である鶴丸に期待をしていた。



一つ年が過ぎる頃、緋翠の本丸は四つまで増えていた。
一人で抱えるにはここらが限界であるとし、求められる戦績に応えている。
更にそれぞれの本丸に春夏秋冬の名を与えて調和を取ることで結界の強化としていた。
鶴丸はあの後、少しずつだが肉の器に馴染んできた結果、刀剣男士として戦場に立つまでに成長した。
頼もしくなればなるほど、国永の望みが到達に近付くほど、心中をわびしさが込み上げる。
けれどそれに囚われずにすむのは、もう一振りの新入りのお陰だろうか。
加州清光が珍しく国永に世話役を任せたのは、泛塵という真田の刀だった。
第一印象は山姥切国広のようなひねくれ者だと思った。

「塵めに世話役など不要」

顔を付き合わせた瞬間に言われた言葉だ。
これは厄介な刀だぞ、と思った瞬間には一緒に着いてきていた鶴丸が目を輝かせて声を上げた。

「国永様、こいつ国永様と同じ色だ!」
「同じ? ……ああ、見事に淡い花の髪色だな。桜のようだ」
「緋翠ちゃんが、まるで兄弟みたいだろう?ってさ」
「きょうだい……? 同じ刀派ではないだろう」
「国永様、俺知ってる! 人間の兄弟は顔が似たり同じような色をしているんだ」

ふにゃりと嬉しそうに柔らかな笑みを浮かべる鶴丸はそのまま泛塵との距離を詰め、顔を覗き込んだ。
驚いた泛塵は眉尻を下げ、困ったように身を縮込ませる。
やや跳ね気味の猫っ毛といい、少し小さく細身の身体といい、泛塵と国永は確かに共通点がある。
人の身に慣れていない、引っ込み思案な刀には鶴丸の距離感は辛かろうと襟元を引っ張って回収を試みた。
同じ体躯、同じ人の身であるはずなのに鶴丸は軽くつままれて手足を引っ込める。
まるで子猫の相手をする親猫のような気分になった。

「国永様、こいつ目の色も似てる。綺麗な夕焼け色だ!」
「顔だけなら、儚げなところはきみともそっくりだな。……ああ、夕焼け色というのも俺ときみの間の色か」

国永としては相づちのつもりの、何気ない感想だった。
けれどそれを聞いた鶴丸は至極嬉しそうな笑みを浮かべ、泛塵も小さく微笑みを浮かべる。

「この塵めと似ていることを、そのように思うのか」
「泛塵はごみじゃない。綺麗だし、俺はきみが国永様と似てて嬉しい」
「そうか……。国永様、世話になる」

突き抜けて前向きで明るい鶴丸と、引っ込み思案で大人しい泛塵は何やらこうして仲良くなったのだった。
それこそ二振りでどこを行くにも国永の後をついて回る始末。
カルガモの散歩だね、と揶揄されたのも一度や二度ではない。
不思議とそれに悪い気がしないのは、二振りが純粋だからかも知れない。
食事の時間、茶の時間、内番の間と素直についてくる姿は幼げで愛らしかった。
ともすれば国永が見当たらない時など手を繋いで探し回るらしい。

「真田の待ち人はまだ居ないからか、泛塵くんは僕らのところにもよく遊びに来るよ」
「伊達とは浅からぬ因縁だしなー! 加羅と一緒に猫撫でてたりするぜ」

比較的三条と行動をともにしがちな国永と違い、鶴丸は伊達の面々によく可愛がられている。
ともすればおやつ目当てに光忠が居る厨へ手伝いに行き、太鼓鐘といたずらの相談をし。
お昼寝の時には大倶利伽羅のところへ顔を出すらしい。
それらの日課を泛塵と過ごすようになってからも同様にこなすうち、彼らも仲良くなったようだ。
大倶利伽羅などは、

「鶴丸より静かで良い」

などと言っていて、国永は大層驚いた。
慣れれば意外と話しやすい刀なのかと思えば、大半は鶴丸が話し連れ回しているよう。
一度そのことを泛塵に聞いてみたのだが、

「鶴丸は、自分が兄だから、と。塵めが弟で良いのかと聞いたが、ゴミではないと話を聞かず……」
「あの子が兄かどうかはともかくとして、確かにきみはゴミではないな」
「国永様も同じことを言うのか」
「ふふ、俺達は人で言うなら兄弟なんだろう? 可愛い弟さ」
「……」
「他人にゴミと言わせるのも、自分でゴミと言ってしまうのも、悲しいな」

酒を呑んでいたため、酔いが言わせたのかも知れない。
時折宗近と共寝をしても、行為の後にはすぐに部屋へ戻る生活をしていた。
共寝をしない時には酒の準備をし、鶴丸にお盆を持たせて夜這いをさせている。
今のところ抱かれたという報告は聞かないので、国永の思惑通りとはいかないが。
それでも少しずつ、近かった距離を改め、共に過ごす時間を鶴丸に当てさせ。

「悲しいとは、まるで人の子のようなことを言う」
「そう、だな……刀であれば、道具であれば良いと思っていたが……いつの間にか、毒されたのかもな」

泛塵に言われて驚いた。
ただ主に使われる道具であれば良いと思っていたのに、胸の中は様々な感情で溢れている。
会いたかった、はいつの間にか、会いたいに。
今何をしているのか、鶴丸に触れているのだろうか。
鶴丸と何を話しているのか。
会いたい、触れたい、触って欲しい。
けれどそれは諦めると決めたから、一目見ることは、見つめることは許して欲しい。
目頭が熱くなり、涙が溢れるのを片手で押さえ込んで誤魔化す。

「国永様は……僕でも、兄と思って良いのだろうか」

ぽつり、と小さく呟かれた言葉に、顔を上げて泛塵を見た。
いつかのように眉尻を下げた困った顔で、けれど頬を僅かに赤らめている。
初めて聞いた自認の言葉に嬉しさが勝り、国永は泛塵の頭をくしゃりと撫でてやるのだった。

出会い、紅色。6 side国永

夢を見る。
月の浮かぶ水面の上、二つの人影があった。
片方は付喪神なので厳密には人とは呼べないが、見た目は人と変わらない。
紺色の狩衣に鴉の濡れ羽色の髪、月の浮かんだ藍色の瞳は他の類を見ないほど美しい。
本霊、三日月宗近。
彼が肩を抱いているのは、一人の女性だった。
黒の着物に、緋色の長い髪が顔を隠しているが、翠色の瞳が存外優しい色をしていることを知っている。
彼女、主は泣いていた。

『俺は、あの子の……怜鴉の味方になってやりたかった。側に居てやりたかった』
『そうか』
『一人で居ることを当たり前だと思う、あいつを満たしてやりたかった』

初めて見る弱気な姿は、普段の彼女と同じ人物だと思えないほど儚い。
三日月宗近は、そんな緋翠を微笑みで見つめていた。
愛おしくてたまらないというような、目を惹き付けるような微笑み。
その気持ちは分かる。
どれだけ愚かなことをしようと、愛を知る温かみがあるからこそ自分たちは人が愛おしいのだ。
無垢な子供のように、仕方の無い子を見守る親のように。
三日月宗近は、そんな微笑みを浮かべながら緋翠を抱き締め、そしてこちらに目を向けた。
視線が交わると同時、口元に人差し指を当てて笑みを深くする。
まるで、ナイショ話をする人の子のように。
視界が回る。
視点が変わる。
瞬きの間に、月の浮かぶ神域は違う景色へと変わっていた。
三日月宗近が桜の樹を見上げている。
すぐにそれが先程の本霊ではなく、分霊なのだと気付いた。
最初の分霊、緋翠の本丸に居る三日月宗近だ。
場所は恐らく、本丸の庭だろう。
満開となっている大振りの桜の樹を見上げていた。

『桜殿。五条の刀は、それは見事な白い姿をしているのだそうだ』

ぽつり、と開いた口から飛び出した言葉に心臓が跳ねた気がする。
これは、過去の光景だろうか。

『一目、会ってみたいものだ』

蕩ける様な甘い笑みで、宗近が呟く。
どんな思いで彼がそれを欲したのかは分からない。
けれど、一つだけ分かったことがある。
国永が励起してからずっと抱えていた『会いたかった』という想いは、宗近のものだったのだ。
俺は、国永は、彼の為に咲く花にはなれない。
彼の花になれれば良かったのに、月のためにあれれば良かったのに。
宗近を好いているからこそ、国永はこの身が寂しかった。
穢れを帯びた身体で、堕ちたこの身で、彼の側には居られない。
宗近が好いていると言ってくれて嬉しかった。
宗近に好かれていることが悲しかった。
真っ白な鶴丸国永ではないことを、厭うた。
せめて、彼のために、彼のための俺で居たい。
いつかこの身が――



国永が目を覚ますと、曰くの任務から数日が過ぎていた。
宗近に想いを告げられた晩、穢れを少しでも抜くためにまたも抱かれることとなった。
その後は神気と穢れの反発の影響で、長く意識を飛ばしていたらしい。
起きたとき既に加州は新たな現身を与えられ、主は不機嫌な顔で采配を奮っていた。

「結局、あれは何だったんだい?」

執務室の隣にある応接間に陣取り、国永は緋翠と向き合って居た。
起きてからはまず腹ごしらえだと食事をし、そこから直ぐにここへやって来た。
本来の目的は刀解を申し出るため。
しかしそれは顔を合わせた瞬間に、緋翠から却下が下された。
理由は、俺の刀として不備はない、とのこと。
これから染まったり、鬼になったらどうすると聞いたなら、その時は責任を持って折ると言われた。
つまりその時でなければ現状維持を申し渡された。
不服を表情に出しながら、けれど審神者の決めたことに反することも出来ず。
ならば、と話の方向性を変えた結果が件の任務のこと。
相対した敵と面識があった様子の緋翠に直接聞いてみることにしたのだ。
国永と緋翠にお茶を煎れていた加州は、暗い顔のまま主の顔を横目に重い口を開いた。

「怜鴉、っていう……緋翠ちゃんが昔面倒を見てた子供だよ」
「子供? きみの子かい?」

母親だったというなら、あの執着も納得出来ると思ったけれど、緋翠はそれを否定した。
お茶のお供にと持ってきた羊羹を前に遠い目をし、そして国永を見た。

「俺は半妖だ。ゆえに子を成せない……いや、成せるのか分からない」
「半妖? なるほど、だから加州と面識がありそうだったり、長く生きてるとか言ってたのか」
「気配は人だろう? 力の半分……アヤカシ側のを、な。玉藻様を殺生石へ封じる要にしたんだ」
「玉藻って、九尾の? というか封じるって、きみ、まさか平安から……?」
「ああ、俺の養い親……爺さんは安倍晴明でな。陰陽術は爺さんから教わった」

随分と懐かしく、現代ではそれなりに有名な人物の名前に頭がくらりとする。
約千年、人をしているというのなら、そりゃあ様々なことを知っているわけだ。
そして陰陽師としての腕もまた、際だって居る理由が知れた。

「昔、子供を二人預かったんだ。一人は怜鴉で、もう一人は……朱璃」
「何があったんだ?」
「知らん。というより、分からん。薬売りとして町へ出稼ぎに行ってる間に何かがあって、俺が帰ったときには火の燻る瓦礫と数人分の死体が残っていて……死んだものと思ってた」

ぽつり、と死を語った瞬間は寂しそうに緋翠は語った。
あの時、町へ行かずに残っていれば救えたかも知れない。
そうは思っても、助ける為に遡行軍の仲間入りをしようとは思わない。
愛がない訳じゃない、情がない訳でもない、けれど歴史を見守ってきた者として、改変は許せる物では無いからだ。

「町って、まさか、あの時の?」

国永が目を見開いて問えば、緋翠が苦い顔をして肩を竦める。
あれからずっと緋翠が個人で調査をしているようだが、結局瘴気に呑まれた町がどこだったのか、いつの時代だったのか分からず仕舞いで。
時の政府は臭い物には蓋をするような対応で、むしろ解明に乗り気ではないようだ。
歴史的にも些細な影響、と他の審神者に箝口令も敷かれている。
とは言え、大人しくそれに従うような御仁でもないはず。

「それについては適任に協力を申し出るつもりだ」
「適任? 既に改変された事象を調べることが出来るのかい?」
「政府がどうやって改変された時間を測定してると思ってるんだ」

呆れた顔で見られたが、言われてみればそれもそうだと思い直す。
通常、審神者に振られる任務としては改変が成される前の事象であることが多い。
多いと言うだけで、細かい所では既に入れ替わっている場合があった。
そういった任務は遡行軍もまた少数である場合があるので、こちらも混乱を防ぐために迅速に動くことが求められる。
その為には改変された事象を確認、ないし特定する必要があった。
つまり組織には調査する術がいくらかはあるということで、それは個人でも同じことが言える。
蛇の道は蛇というやつである。

「とりあえず、あの町についてはそれで良いだろうが……」
「いや、調べるにしても反意ありと見なされるだろう。どんな伝手を使うつもりだ」
「ん? ああ……竜胆という審神者を知っているか?」
「竜胆? その号だと、古参の一人なんだろうが……知らないな」

古参の中でも緋翠と縁故の者は、顔と名前を把握していた。
今までの演練相手も大体の名前は覚えているが、その全てを頭の中でさらってみても思い当たる節はない。
目立った戦果を上げているわけでもないのだろう。
有能であればどこかで名前が上がりそうなものだが。

「烏天狗は一の占術師でな、裏で情報屋として働いてるんだ」
「きみは……よく知ってるな、そんな相手」
「まあな。あと一つ気になることがあるが……それはまあ、また別口で調べるとして。ひとまず国永、今から連結な」

有無を言わさぬ決定に、ため息を吐く国永だった。





ここで竜胆にちょっかい、もとい情報屋として個人的に雇い始め。
更に朱璃が特殊な霊力を持っていたことから、特殊な人間を集めている研究所にデータの横流しを依頼。
見返りとして研究所の仕事の一端を手伝うことになり、怜悧や朱乃と出会う予定。

出会い、紅色。5 side国永

「……くっ、ぁ……ふ、ん……」

体内を探る熱塊に揺さぶられ、押し殺した声が漏れるのを堪えきれずに吐き出す。
後ろから腰を掴んで国永を暴いているのは、三日月宗近だ。
行為が開始される時から俯せで顔を見ていないので、どんな表情をしているのか分からない。
もっとも、見えたとしても今の国永にはそれを見る余裕はないけれど。
初めに抱かれた時は猛烈な怒りを覚えたもの。
それと同時に、傲慢にも身体を貸せと、稚児になれと言われて激しい違和感も感じた。

「ん、んんっふ、ぁ……」

最中に国永が何度イこうと、宗近が体内に吐き出すまで続けられる行為。
なのに身体を暴く手は義務的で、弄る手は最小限に、そうしてどこまでも優しかった。
国永が来るまで誰かが宗近のそれであったという話は聞かない。
あくまでも公平で、何者にも優しい彼が手を出したのは国永だけ。
それまで稚児など必要なかったのは確かだ。
その国永も顕現の際に宗近が近侍であったという縁だけで、間に特別な情があるわけではない。
三日月宗近はその存在だけで最上と言われ続けてきたが故に、他者を必要としない。
天下五剣の中でも特別視されているのは、改変したいと願う過去すらないから。
どこまでも不変に、あるがままを受け入れる。
ただあまねく総てを優しく照らし包み込むくせに、そうあるが故に、冷たい孤高の月。
そんな者に近付きたいだなんて、馬鹿げてると思うのに。

「くぅ、ぁア、ん……」

中に出される熱が少しでも自分のものであれば、自分に心があるからなら良いのに、なんて。
何故そうなのかは知らないが、宗近が抱くのは国永の身体が彼を必要とするからだ。
三日月宗近の神気がなければ、存在出来ないから。
不調を感じるたび、そして抱かれた後にそれが解消される度に思い知り。
抱かれ、神気の影響か白かった髪の毛が桜色に染まるほど赤みを深くする毎に罪深さを思い知らされる。
国永とて愚かではない。
国永の矜持を守るための稚児という名目で、宗近が望まぬ行為を強いている。
触れられれば身体は火照るのに、胸の内は痛みを覚えて冷めていく。
空しいと感じる度、目頭が熱を帯びて涙が溢れた。
触れてくるのが後ろからだけで良かった。
力が抜けて折れた上体は支えられる腰だけを突き上げた羞恥を誘う姿だけれど。
少なくとも伏せる顔が、漏れる嬌声に混ざるのが涙交じりだとは気付かれない。
どうしてこんなにも胸が痛むのか、その意味を考えることが恐ろしい。



鬱屈する心を、驚きの探求と言って人をからかうことで誤魔化しながら過ごしているうち。
主が難しい顔で申し付けたのは、特殊任務だった。
とある時代、とある地域で異常な瘴気が検出されたらしい。

「放置は出来ないのか?」
「……ん? ああ、いや、そうだな……」
「?」

珍しく煮え切らない態度で深く考え込む主は、話を聞いているようで上の空だ。
場にいるのは精鋭の第一部隊であり、国永は当然のこと近侍である宗近も招集されている。

「既に幾度か、他の本丸が出陣をしているのだ。しかし、帰った者は居らぬ」
「何? 新入りだったのか?」
「いいや、練度が低かった訳ではない。むしろ適材を頭打ちで揃える優秀な者等よ」
「そもそも、部隊長には重傷で強制帰還の術が掛けられているよね、宗近さん」

思案げな石切丸の言葉に宗近を見れば、神妙に頷いて返した。
隊長を担った経験はあれど重傷の機会はなかったため、驚くとともに納得する。
戦地の情報は何よりも優先されるものであり、それを探る手段は必ず取ってしかるべし。
隊員には強制帰還の術がないようで、傷を負いすぎれば折れるとは聞いていた。
緋翠は無茶な進軍は一切しない上、安全を考慮した采配をするのでこの本丸では中傷以上は出たことがないのだが。
万屋には折れることを防ぐお守りという、祝福の祝詞が掛けられた道具も用意されているくらいだ。

「無論、しすてむとやらの不備でもない。皆、何かの術によって帰還が遮られ、折られている」
「それは……随分と厄介な……」
「ああ、この任務には俺も行くぞ」
「主が? 行って大丈夫なのかい?」

通常、審神者はその存在から直接戦場へ赴くことはない。
刀剣男士を送り出したあとは戦闘の様子を端末から確認し、道筋をその都度託宣する。
反応が見られた箇所から、遡行軍の瘴気が強く反応する方角を選ぶのだ。
本陣に到達するには向かない戦法だが、活性化している遡行軍を潰すには適している。
そして本丸に居る主には最低限の情報のみが伝わるという次第だ。
だからこそ、情報を得づらい戦地には審神者本人が行く有用性は分かる。
これが昔ならいざ知らず、ただひとの大将が敵陣へ赴く危険性は計り知れない。
けれど緋翠は古参の審神者であり、その個人の戦闘力や陰陽師の腕を交われての采配。
故の例外である。

「人の身は長いからな。剣の腕はお前等に劣るが、己の使い方は負けんよ」
「それに、戦地は異常な瘴気で包まれているからね。私だけでは祓いきれないよ」
「基になる何かを見付けて斬るだけなら任せて構わないよ。生娘じゃないし、ね」
「青江さん、貴方はまたそういう……」
「ねえ、あの二人は分かるんだけど……僕が選ばれた理由は?」

石切丸とにっかり青江のやり取りを見ながら、加州清光が遠慮気味に手を上げた。
払い清め、魔を断つ来歴も実績もないからだ。
三日月宗近はその神性の強さから、並大抵の瘴気なら自身が在るだけで浄化していく権能がある。
更には北条家で守り刀として、呪いをその身に引き受けたこともあった。
鶴丸国永は一時とはいえ神社にその身を奉じられたことがある。
さらに、緋翠とは刀剣男士としてだけではなく式神としても契約をしている為、一番繋がりが強い。
しかし、それらに比べれば加州は何の対抗手段も持ち得ていないのだ。

「お前を選んだのは、俺が行くならお前との動きが一番やりやすいからだ。だろ?」
「ま、任せてよ! だてに昔から緋翠ちゃんのこと知ってるわけじゃないし、一緒に戦ってないからね!」

顔を真っ赤に染めながら自信満々に笑みを浮かべた。
それらを見て、国永はまた緋翠に関する疑問が増えていく。
人間ならばそりゃあ生まれた時から人の身なのだから慣れていて当然だが、加州や安定と話す際、一緒に居て戦った、という単語がよく出てくるのだ。
加州と安定の持ち主である沖田という人間が居たのは、150年前のことだと言われている。
刀剣男士に交じって戦えるほどだ、妙齢の美人に見えるがただ人ではないのだろう。
だが、それがナニなのかは知らされていない。
中には化け猫の本丸や主は白犬、などもあるくらいだし人でない者も珍しくはない。
話さないのは何故だろう、と思うと同時に、案外言い忘れていたというのもあり得なくない。

「任務内容は原因の除去とあるが、安全第一に情報優先で対処するから無視をしろ」
「そうだな、俺達の手に負えるモノなら斬るのは簡単だが……そうでないなら専門の者が必要となろう」
「そうだな。……出陣で任地に飛ぶのは時間差にする。瘴気があるとされる場所から少し離れた地点がゲートだ。そこから、まずは俺が飛んで瘴気の確認、ないし簡易結界を張る。そして隊長と列びの通りに飛ぶ。後は正直、現場で出たとこ勝負だ」
「これだけ情報がないのだ、主が良いならそうなっても差し支えなかろう」
「可能な限り、索敵と隠蔽は加州、青江が頼む」

方針が決まったところで各々戦装束に着替える等準備をし、四半刻後に門前へ集合とされた。
more...!

出会い、紅色。4 side緋翠

緋翠がそれに気付いたのは、わりと直ぐだった。
二の丸発足が落ち着き、週のほとんどをそちらで過ごしながら一の丸に戻っていた時のこと。
前兆は何も無かった。
ただそうとなった日の午後、国永が宗近との手合わせ当番を放棄した。
何故そんな勝手をしたのかと問いただそうとすれば、宗近が声を上げたのだ。

「すまぬ主よ、俺が原因なのだ。あれを責めないでやってくれ」

鷹揚の態度で普段過ごす宗近は、けれどどこまでも公平で、こうやって他人を庇うのは珍しい。
三条刀派や幼く見える短刀を相手にもそれを覆すことはない。
となれば、本当に己のせいだと反省しているのだろう。
まずは話を聞いてから判断をするかと、いつかのように緋翠は宗近のみを執務室へ呼びだした。

「昨晩、国永を抱いた」

そして一言目がこれだった。
意味が分からない。
抱いたとは、つまり国永が女役をしたということだろうか。
それよりもまず、恋仲だったのか。

「つまり痴情のもつれか?」
「ちじょう? いや、強引だったのでな……身体が辛いのもあるだろうが、顔を合わせづらいのだろう」
「……まて、強引だと? それはつまり……了承を得なかったのか」

世間ではそれは、恋仲だろうと強姦になるのだと教えてやった方が良いのだろうか。
そもそも、本当に関係が成立しているのかも怪しい。
問えばやはり、そんな関係ではないという言葉が返ってきた。

「お前……折って欲しいなら刀解なんぞせずとも折ってやるぞ?」

割と本気でへし折ってやろうかと、殺気を込めて目の前の刀を見る。
申し訳なさそうに眉を下げながら、宗近は反意はないと語った。

「あれには俺の神気が必要だと、そう言ったな」
「確かに言ったな。けれど俺は、勝手をしろと言った覚えはないんだが」
「あの子を傷付けたくなかったのだ。生殺の権威を他者が握るなど、ましてそれが主以外の者に左右されるなど、あってはならん」

言っていることとやっていることが真逆ではないのか、と緋翠は思う。
けれども、確かに自身が他者に依存して存在をしているなど、あの刀は許さないだろう。
鶴丸国永は飄々としているようで内面は冷静冷徹、気位の高さに見合った矜持を持っている。
様々な主を転々とする来歴ゆえか、どこか他人を寄せ付けない壁をもつのだ。
そんな自分が、敬意を払っている者の力が無ければ本来の力を振るえないとなれば。

「まあ、間違いなく刀解を申し出るだろうな」
「稚児ならば、そう珍しいことでもなかろう」
「ん、まあ……そうか?」
「あれには俺の補佐役とは、そういう意味もあると告げてある」
「お前なぁ……」

確かにそう告げられたならば、生まれの古い者であればこそ納得はするだろう。
何にせよ悪手。
自分が鶴丸国永を、あの国永を求めた意味を理解しているのだろうか。

(多分、してねぇよなぁ)

本霊と交流をしたことのある緋翠だからこそ分かる。
三日月宗近は何にも囚われない。
それは誰のものにもならないという意味もある。
誰のものにも、どのような感情も覚えない、左右されない。
いっそ神らしいほどに傲慢で、何にも干渉されない孤高の存在。
けれどそれは付喪神であればこそ、本霊であればこその話だ。
人の器は心に満ち、感情に溢れている。

(会いたいとは、愛したいということ。相手を求めること、それは恋じゃねえのか)

まだ見ぬ白き鳥に恋をしたとて、おかしくはない。
何せ鶴丸国永は、三日月宗近を模して打たれたとされている。
その全てが自分の存在を肯定する相手を悪く思うことなど出来まい。

(まあ気付くかどうか、伝えるかどうかは本人次第)

どんな理由があれ、勝手は許されない。
規律があるからまとまりが生まれ、組織が成り立つのだ。
逆を言うなら、身勝手はどんな理由があろうと許されない。

「審神者として、此度の申し上げをする。三日月宗近、お前には謹慎を命ずる」
「あいわかった」
「俺は少々疲れた。離れを建てるので、そのあつらえをするように。期間は一ヶ月、離れから出ないように」

緋翠の休養する離れを整えるように、とは建前だ。
流石に近侍を強姦罪で謹慎とは外聞が悪すぎる。
何より、本丸内に不和を持ち込みかねない不安の種は潰すしかない。
加州清光にだけは訳を話し、二人の仲裁を頼むつもりだが。

「近侍は……そうだな、第一部隊の隊長を国永に任せるから、そのつもりで居ろ」

隊長を任じた男士は成長の幅も大きく、第一部隊のそれは近侍も担うこととなっている。
近侍と部隊長は別の方が効率的だと思うのだが、今の政府のシステムとやらがそうなっているのだ。
故に、国永が近侍を担うのと同義だ。
宗近は跪座のまま、静かに頭を垂れた。
出来ることなら、この謹慎中に自身の感情に気付いて欲しいものだが、と緋翠はため息を吐く。



話を聞いた加州清光は、嫌そうに顔を歪めて手に持つ書類をまとめる。

「何それ、緋翠ちゃん完全にとばっちりじゃん。あの爺さん何考えてんの?」
「とばっちり、というか……まあ内輪揉めだよなぁ」

他の刀剣男士に対するより幾分気軽に緋翠は返す。
紅い瞳を細めて怒る加州清光、通称沖田刀とは長い付き合いだ。
それこそ、彼が実際に振るわれていた時代から。
性格の悪い沖田総司が使っていたとは思えないほど実直で純粋なこの刀を、緋翠は当時から可愛がっている。
勿論そこには大和守安定も含まれているのだが、あちらは少々小難しいことが苦手であり、ともすれば行動派だ。
今回の話をするには彼ほど向いていない者も居ないだろう。
突発的で突拍子もないため、思わぬ解決を導くこともあるのだが。

「全く、忙しい時期に変な問題起こさないで欲しいよね」
「まあそんな訳で、近侍に国永を付けるから補佐を頼む」
「……それって、国永さんじゃないと駄目なの?」
「駄目じゃねぇけど、宗近は練度も頭打ちだからな。後進の育成としては丁度良い」

政府考案の試算表によって打ち出されたステータス、とやらをモニターに映しながら緋翠は言う。
練度の高い者でまとめている第一部隊は遡行軍への遊撃も兼ねているのだ。
通常の審神者には発令しないような時代、場所へと独自に調査が可能だが、その分やることは多い。
だからこそ、そんな緋翠に本丸の数を増やせなどと無茶な話がくるのだが。

「ふーん……」
「なんだ加州、寂しいのか?」
「え!や、あの!? さみしい、なんて……と、当然じゃん」

ぽつり、と小さく顔を逸らしながらの一言に、緋翠が固まって加州を見る。
普段から審神者に愛して欲しいと直接的な表現の多い加州清光だが、緋翠にはあまりそういう態度は取らない。
それは自分が愛されているという自信からであり、信頼しているからであり、素直になれない元主の影響だ。
恥ずかしげに顔を逸らすも、耳は赤く染まっている。

「お前、ほんと……そういうとこ可愛いよなぁ」
「かわ!? だ、だって俺達の主でもあるんだから、当然でしょ!?」
「うんうん、そうだな。やっぱりどっちかに出ずっぱりってのもなぁ」

宗近のとんでもないしでかしで荒ぶっていた神経が、ほっこりと緩んでいくのを感じた。
結局は緋翠が留守がちで相談することも出来ないから起こったこと。
審神者は擬似的にでも土地神として本丸に据えられている。
離れてしまえば結界が緩む隙を与え、異物が入り込みやすくもなる。
早々に改善策を考えなければならないな、と加州の頭を撫でながら緋翠は考えるのだった。

出会い、紅色。3 side宗近

国永に特が付き、人としての身が安定したことを宗近は安堵していた。
顕現時に見せた瞳の暗さはなりを潜め、快活な様子で本丸の皆とも良好だ。
戦時においてはその来歴の多さからか、様々な目線で戦略を練り上げる。
また、知るという行為に興味があるのか読書も好み、兵書にも明るかった。
あとは出陣を重ねて実戦経験を重ねれば、案配も分かるようになるだろう。
そう思っていたところ、国永の顔色が優れないことに気が付いた。
目の下に微かに隈が出来、夜も部屋から抜け出して眠れていないようだ。

(主が言っていた神気不足だろうか?)

ただのそれとも思えぬ様子を見ているうち、出陣後に不調が顕著であると気付いた。
人の身に慣れると付いてくる問題として、三大欲というものがある。
食欲、睡眠欲、性欲。
それらを上手く晴らしてやり、または損なうことがないようにしなければならない。

(国永は食べることもあまり得意ではないようだったな)

宗近は甘味、とくに餡子の甘さを好ましく思っていた。
数があり目の前に置かれるとつい手が伸びてしまうのだが、国永は美味いと言いながらもあまり手を出さない。
小食、という体質のようなものだとはその時に知った。
それと同じであまり人の欲を感じられず、ともすれば無頓着なのかもしれない。
しかし放置をしていいものでもなく、知識は豊富でも性の晴らし方は知らないのだろう。

(ならば、教えてやらねばならぬな)

自分は国永の世話役なのだから、と宗近は一人気合いを入れるのだった。



晴らしてやると決めたのなら、早い方が良いだろうと宗近は早晩行動を起こすことにした。
折しも留守にしていた主が戻ってきたことで酒宴があり。
そこを抜け出した国永を捕まえ、飲み直すという名目で宗近の部屋に二人きりになることが出来た。
最初は大人しく飲んでいたのだが、白磁の肌に青白さが目立つことが気になって宗近は口を開く。

「自慰はしているのか?」

驚きに、というより意味を解していないというように国永は首を捻った。
それにやはりか、と心内で納得し人の生態を講釈しながら手を伸ばして触れる。
初めて触れる肌は柔らかく、吸い付くような心地よさがあった。
何をされているのか理解の遅れた国永の反抗は遅く、つたないものであった。
宗近の手淫の動きに翻弄され、声を漏らして身体をよじる姿は愛らしい。
血色の悪かった肌が桜色に染まっていく所は艶があり、自分がそうさせていると思うと興奮した。
潤む紅い瞳が徐々に蕩けだし、きらめく様は宝石のよう。
ぺろり、と興奮から乾く唇を舐めやりながら、宗近は食い入るように国永を見つめる。
己の手によって乱れる国永を、美しいと思った。
そうして間を置かず、白濁が吐き出される。
ひとまずはこれで体調不良も改善するだろうと思ったところ、ふと手の中の精から神気を感じた。

「なにか……おかしい、かい……?」

国永にそう声を掛けられるまで、手に受けたそれを様々にもてあそんでいることに気付かなかった。
視線を向ければ、不安そうに下から見上げてくる国永と目が合う。
笑みを浮かべて首を振り、何も可笑しくないこと告げてやる。

「いやなに、お前もこれで立派なおのこだと思ってな」
「……人を、なんだと……」

言い様に国永は体をくたりと床に投げ出し、荒く息を吐く唇が赤く染まっていた。
色気を多分に含んだ姿に一瞬胸の弾む思いがするのを、首を振って誤魔化す。
けれど体液に神気が含まれるなら、そこから取り込ませることが出来るということだ。
血液でも構わないだろうが、そうすると身体に不要な傷を作ることになる。
こちらなら自慰を手伝うついでとでも言い置くことが出来るだろう。
ならば早速、と宗近は夜着をくつろげ自身を取り出した。
逸物を重ねて擦り合わせるそれは、兜合わせと言われるもの。
途中で国永から思わぬ反撃をされたが、それ以外は問題なくことを済ませることが出来た。
身体を床に投げ出し、腹に宗近の残滓をまとわせながら国永は意識を落としている。

(思ったより、これは……)

扇情的な姿に、目が惹き付けられた。
無理矢理意識を引き剥がし、注意深く様子を窺う。
青白かった肌は色を取り戻し、呼吸も安定している。
思った通り神気を取り込んでいるようだが、それもごく僅か。

(これは、胎内に直接注いでやった方が良さそうだな)

箪笥から手拭いを取り出し、国永の身体を拭ってやりながら思案する。
現代はそうでもないようだが、戦国の頃など衆道は珍しくもなかった。
宝刀と飾られていた宗近でもそれは知っており、忌避もない。
国永の身体を思えば、拒否されようとその身を暴く必要がある。
ならば、せめて彼が恨みやすいようにその特異性は内密にしておいた方が良いだろう。
例え嫌われることになろうとも。

(国永が在るためには必要なこと)

元より自分の我が侭により、不便を強いてしまうのだから。
身体を清め、眠る国永を抱き上げて部屋へ送り届けながら心を決める。
次の日、国永は気恥ずかしそうにしながらも普通だった。
ただ余計な世話はいらない、と少しだけ不服を宗近に告げた程度。
けれど宗近としては、それに頷くわけにはいかない。
その後眠りについては改善されたようだったが、やはり国永は直ぐに不調を覚え始めた様子。
宗近はその日の夜、国永を抱いた。
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