拝啓
庭の柿は今年も実を付けたでしょうか。
秋の日の短さを感じる今日この頃、お変わりありませんでしょうか。
こちらは夜も煌煌と灯りがついており、風情というものがありません。
なにと言うこともないのですが、なんとなく故郷が恋しく思われ、筆をとりました。
都会の暮らしは、そこかしこに人が居るというのにどこかいつも寂しく思います。
きつと田舎と違って知り合いがいないからでしょう。
誰も自分を知らないと言うことは、気が大きくなる反面孤独です。
自分の理解者がおらず、上辺の付き合いばかりで閉口します。
例えば、自分は隣の家に住むものを知りません。
得体が知れず、日が昇ると同じくらい早くから出かけて行き、夜遅くに帰ってきます。
自分が相手の存在を感じるのは扉の向こうでがちゃがちゃというドアノブを捻る音が聞こえるためです。
向こうの姿を見かけたことはありません。
恐らく向こうもこちらを知らないでしょう。
そういったことを考えていると、お母さんの顔が過ります。
ですが、自分はまだ田舎に帰るわけにはいきません。
恐らく、3年ほどはこちらで仕事をすることになるでしょう。
その間、うちのことを頼みます。
また手紙を書きます。
敬具
追伸、また少しばかりお金を送ります。
先日の仕事で思わぬ収穫がありました。
どうかお身体に気を付けて。