話題:夜ごはん


日曜のこと

台風が翌朝の通勤の足に影響を及ぼす可能性があったので、前日から寮に泊まった神田です

いや、俺だけじゃなくて寅吉班全員が寮に泊まったのですよ

寮には空き部屋がいくつもあるし、簡易ベッドの上に敷く布団だけ手配すれば問題なく皆が居られるんだけど、飯に困るんだよね

コンビニに弁当類を買いに行ったら全部と言っていいほど売り切れてたし

店屋物も寿司以外は無いしさ

そこで牛丼を買いに行って、取りあえず昼飯は何とかなった

だが問題は晩飯

その日は雨風が酷くなければM美とファミレスにでも行こうかってな約束をしてたから、食材を全く用意してなくてね

上の階に住む班の女は、そんな大人数の材料は無いと言うし

仕方がないので、M美ちゃまに謝って、スーパーに一緒に買い出しに行き、晩飯の支度を手伝ってくれと頼んだ

食べたい物も決めていいからさ〜、とね

するとM美嬢、「おでんがいい」とのたまった

おでんか…

おでんは、神田としてはおやつなんですよね

ごはんのおかずとしては物足りないのよ

玉子はあるけど肉はないし、野菜だって大根くらいしかなくて、あとはさつま揚げやコンニャクで構成されてて、とてもじゃないが腹には溜まらんじゃないの

だけど、短時間で大勢のおかずを作れるから最適じゃないかというM美様の意見が強かった

そこで材料を買ったんだけど、M美っぺがなんと『ちくわぶ』をカゴに入れたよ

ちくわぶって何だよ

存在は知ってはいたし、ガキの頃に食べたこともあるにはあるが、あまり好きな食材じゃないんだよ

好きな人には申し訳ない言い方をすると、ネチャネチャしてて歯触りが気持ち悪い物体

味が染みてないと食べられない

だからと言って長く煮込むと表面がドロドロと溶けてきて、汁を濁らせるような気がするし

それでも、おでんにはちくわぶは欠かせないと言い張るから、仕方なく4本買った




帰ってから上の階の女の部屋のキッチンを借りておでんを作った

おでんだけでは足りないから、唐揚げも作った

ほとんどの作業は俺が担当したが、ちくわぶの管理だけはM美殿にやってもらった

作っている最中「みんな、ちくわぶ食べるかな」とM美が言うから、誰も食べないんじゃないの?と答えると「じゃ独り占めできるわウフフ」とほくそ笑む女

そんなに好きなのかよ…なんて思ったよね

好きな人には本当に美味しい物なんだね

そして晩飯の時間が来た

全員が集まっていた部屋に料理を運ぶと、仕事の前日は酒飲まないんじゃなかったのかよ…と裏切られた気がするほど、皆さん缶ビールを傾けておった

そしておでんをつまむ面々

ちくわぶに注目すると、最初は誰も器に取っていないようだった

ところがM美が「ちくわぶおいしーい」と言うと、どれどれと皆さん器に取っていた

最後は見事に完食

俺の分は無かった

器が無かったから

だが、唐揚げがあったから問題ない

白米もたっぷり食べられたし


解散し、自室に戻ってまったりしている時、「今度ちくわぶの煮物作ってあげるね」とアルコール臭を漂わせながらM美が発する言葉に、力弱く返事をした

今回ちくわぶは食べなくて済んだのだが、今後トライしなくちゃいけない時が来るのかな

若干恐怖を感じる

その前に色々作ってみて、食材としての在り方みたいなものを研究しようと思う神田でした