その移動方法は、ユリアにはとてもではないが思いつくものではなかった。
今、ユリアたち四人は大変奇妙な乗り物に乗って、見事な美術品が並ぶ回廊を進んでいた。
斜めにカットされた卵形の形状をし、ユリアの背と同じくらいの高さを持つ四人乗りのそれは、少し髪がなびく程のスピードで次々と作品を後ろへ送る。

「端から端まで徒歩で移動したら、一日費やしても辿り着けない長さでな。これでの移動が楽なんだ」

前例に座るアンソニーが自慢気に話す。
ぴっちり後ろへ撫で付けられた髪は、全く風の抵抗を受けていなかった。

「それで、何処に向かってるんすか、俺たちは」

ユリアの隣、背もたれに背を預け腕組みをし、流れていく作品に目を向けていたヤスが尋ねた。
アンソニーは前方を見据えたまま、行き先を口にする。

「まず、今回こいつを呼び出す原因になったものを見せようと思う。でなくば話も進まないからな」
「……原因?」

辛うじて風に飛ばされることなく届いたアキの言葉に、アンソニーは頷いてみせる。

「言っただろう、私の屋敷の周囲をうろつく不届き者がいると。奴らは、私がその原因のものを此処へ収集してからすぐに現れたのだ……間違いなく、狙っているとしか思えん」

静かな口調ではあったが、要所要所で語気が荒くなっている。
余程アンソニーはその者たちが気に食わないのだろう。

「……、今までも、あった」
「今回は訳が違うのだ……ともかく、もう間もなくそこへ着く、話はそこでまとめてする」

前列で二人がそう会話をしているうちに、辺りの雰囲気は変化していた。
両脇に並んだ美術品たちは、いつの間にか姿を消しており、寂しい空間になっている。
また、先程まで淡い暖色で照らされていた回廊も、不意に視界が悪くなった。
何でだろう、とユリアが上を見上げると、ライトの光が弱々しいものになっている。
そのせいで、全体が暗い室内になっているのだ。

「あの部屋に、それがある」

薄暗い中、真っ白な手袋がそこを指差した。
その前まで来ると、ユリアたちを乗せたそれは緩やかにスピードを落とし、静寂を壊さぬように止まった。

「此処は関係者以外立ち入り禁止だが……今回に限っては、そうもいっていられない」

地上へ降り立ち扉前に進み出ると、彼はそのすぐ傍にある装置に近付いた。
ユリアがヤスの手に掴まり降りている間に、大理石の床に煉瓦でもぶつけたような重々しい音が響いた。
何事かと見れば、天井まで届きそうな扉が開いていた。
どうやら、施されていた施錠が解除されたらしい。

「完璧な防犯設備の元、保管している。此処にあるものは、またとない珍品であり、危険な品々でもあるからな…早く入るんだ、一分しか開かないようになっている」

さぁ、と立ち尽くす三人を招き入れる。
ユリア達が中へ入ると、開いた時と同じような音を立てて閉ざされた。
完全なる密室だ。
部屋を満たす冷気がひしひしとまとわりつき、ぞくりと背筋を這い上がった。
少し怖くなったが、それでも室内の明るさに幾らか恐怖心は薄れる。
部屋を見渡すと、至る所に作品が展示されていた。
だがそれらは、此処へ来る途中までに見たものとは違う。
ガラスケースの奥に飾られたそれらは、絵画や彫刻といった優雅なものではなかった。
もっと荒々しい場を潜り抜けてきた、猛者たちといえるだろう──剣、槍、盾……そうした武器の多くと、おどろおどろしい雰囲気を醸し出す物が、そこに鎮められていた。
透明な檻の下には小さく説明書きがあり、歴史が刻まれている。

「先に言っておこう」

アンソニーの鋼鉄を思わせる声に、少し欠けたモーニングスターから顔を上げる。
中央に設置されたケースに映る彼の顔には、やや堅苦しいものが見える。

「此処にあるものは、他の芸術作品とは全く違う。全て、ミュステリオンから譲り受けたものだ」

ミュステリオン、という単語に室内の空気が下がった気がした。