三章§01

…それまで心地よい暗闇に包まれて、後少し、後少しと惰眠を貪っていたが、急に光が瞼を直撃して、彼は翠玉の瞳を開いた。

「んー…もう朝かぁ」

目を擦りながら、彼の睡眠を妨害した窓を見る。
高い天井に届くほどの窓、それを隠していた暗赤色のカーテンが開いている。
そのカーテンの近くに、金髪を三つ編みにしたメイド姿の少女が立っていた。
彼は目にかかるほど長い銀髪を掻き上げて。

「ああ、アイリーンか…ありがと、起こしてくれて」

にこりと、優しそうな笑顔で彼はアイリーンなる少女に礼を言ったが、返事はなかった。
ただ、微かに笑っているだけだ。

「今日はいい天気だよねぇ…こんな日に、召喚はされたくないねぇ」

彼が部屋に射し込む光にそんな感想を零していると、アイリーンは窓際から離れ入り口まで移動し、退室した。

それから彼は暫くベッドの中にいたが、するりとシーツから抜け出し、温かい陽光が燦々と降り注ぐそこに立った。
外を眺め伸びをしていると、今度はふわふわの栗毛の少女が、銀の盆を持って入って来た。
その上には、爽やかな香りを立ち上らせる白磁のティーセット。
その後に続くように、何通かの手紙を持った、先の少女よりも背の高い娘が。

どちらもアイリーン同様、メイド姿である。

「ご苦労様ーリディー。あ、サヤ、その赤いの…そう、それだけ頂戴。後はそこら辺置いといて」

入って来た少女たちにそう命令して、主人である彼は手紙を開く。
ほんの少し目を通した後、差し出してきたサヤへ。

「お断りのお返事、書いといてくれるかい?僕ぁ、あの人が苦手でねぇ…ああ、リディー?砂糖はそのくらいでいいよ」

折角上品な香りなのに、風味が台無しにされるのはごめんだ。
リディーが角砂糖を機械的な動作で7個ほど入れたところで、それ以上の追加を回避したものに手を伸ばす。

「下がっていいよ」

退室を命じカップに口を付けた時には、二人の少女は背を向けていた。
一口含み、彼は思わず笑った。

「リディー…やっぱり入れすぎてたね」

どうやらかなり甘かったらしいそれを、ソーサーに戻した。
そして、彼は今し方出て行ったばかりの少女たちを思い出す。

少女たちは、皆笑ってはいるものの、誰一人として一言も発さなかった。

何故なら少女たちは、意志がないからだ。

椅子に腰掛け、付属されていたミルクを、円を描くように入れる。
徐々に紅い色は白濁していく。

自分に仕える者に、己の意志など邪魔なだけだ。
意志ある者は自分の要望を聞き入れないし、恐れるばかりで使えない。
知人宅の、あの鏡に住む美女がいい例だ。
折角見つけた、いい素材だったのだが。

ならば、意志を剥奪してしまえば良い。
ただ静かに笑って、自分に忠実に仕え続ける。
それこそが、最良だと思ったのだ。

しかし。

「…あの子は、イレギュラーだよねぇ」

最近、彼は面白い遊びにはまっている。
それは、意志ある少女と遊ぶことだ。
今までのとは全く異なる存在で、大変面白い。
つくづく、手放したのを惜しく思う。

「……ま、僕が遊びに行けば、いいだけだしね」

完全にミルクと混ざりきったそれに、彼は再度口付けた。
程よい口当たりになったのか、それとも違う理由か、美麗な笑みが浮かぶ。

「ああ楽しい、楽しい…」

さながらこの紅茶の味のように、不思議な存在であり、自分を浸食する少女。

「僕はとっても楽しいよ、ユリアちゃん」

紅茶を一気に呷って、ぱちんと指を鳴らした。
それまで着ていた寝間着が、一瞬のうちに白いスーツに変わる。
きゅっと、相反する色のネクタイを締め直して、今度は呼び鈴を鳴らした。
間を置かずして、アイリーンが静かに入って来た。
手には、スーツと同色の帽子。
それを受け取り被ると。

「じゃ、お留守番よろしくね」

機嫌良く外出の意を告げた主に、アイリーンはやはり微かに笑ったまま見送った。

三章§02

「お早うございます」

この台詞をこの店で口にするのも、もう十を数えた。
スタッフルームの戸を開ければ、金糸に櫛を通していた見目麗しい女性が、にこりと笑いかける。

「お早う、ユリアちゃん。お目覚めはいかがかしら?」

この店で唯一の女同士である彼女とは、すっかり打ち解けていた。
ユリアも同じように微笑むと。

「はい、とても良いですよ。アリアさんは?」
「ふふ、私もよ」
「はよーっす…あ、今日は早いっすね?」

鏡の方へ直進したユリアの後に、やけに背の高い青年が入って来た。
髪を茶に染め抜いた彼を、ユリアは振り仰いだ。

「お早うございます、ヤスさん」
「今日はその色なんすか?俺は青色が良かったっす」
「あら、可愛らしいじゃないの?」

青色が良い、と言ったヤスに対して、アリアは可愛いと誉めた。
本日の少女の服は、あのエメラルド色のエプロンドレスとは色違いの、淡いピンク色のである。
実はこのシリーズは何着もあって、フリルが沢山あり過ぎるものや、妙にスリットが入りすぎたものを着るよりかはマシと、日替わりで色違いを着ているのである。

「ピンク…似合わないですか?」
「いや!そんな意味じゃないっすよ!?ただ、ユリアちゃんは青色のがぴったりだったよって意味で…!」

しょんぼり俯いた少女に、焦ってフォローを入れる。
ぶんぶん音が鳴るほどに首を振り、否定する彼にアリアが笑っていると。

「ヤス…またユリアを苛めているのかね?」

仄かに笑いを含んだ声が、鏡の右側から聞こえた。
デスクに向かっていた、儀式屋である。

「旦那!違うっすよ!?本当に違うっすからね!?」

店主が単に揶揄していると分かっていても、悲しいかな、言い返してしまうのは性分らしい。
それが、更に波紋を呼んでしまうのも理解しているのだが。
だが、儀式屋はそれ以上踏み込もうとはせず、さっと辺りを見渡して。

「Jは……遅刻だね」

この店で一番目立つ男がまだいないことを、儀式屋はさして珍しくもないような口調で断言した。

この数週間、ユリアはJが朝から居るのを見たことがなかった。
大体開店から二時間経ったくらいに、やけに高いテンションでやってくるのだ。
その代わり、何か楽しいことがありそうな日だけ、朝早くから来るらしい。

「……まぁ構わない…ヤス、ユリア。いつも通り頼むよ」
「はい」
「了解っす!行くっすよ!」
「はい!」

元気よくヤスは返事をすると、少女を呼び主人の命を果たすため部屋を出た。
その後を追うようにユリアも出て行き、室内には儀式屋とアリアだけである。

「いい兆候じゃない?」

何処か安堵した目で、既に扉の向こうに消えた面影を見つめていたアリアが尋ねた。
彼は椅子にもたれ、くすっと笑いを漏らした。

「そうかね?」
「ええ。当初からすれば、どれだけ明るくなったことかしら…」
「……、ふっ」
「なぁに、笑ったりなんかして」
「いや?」

いつの間にかつり上がっていた口元を隠すようにして、彼は緩く頭を振った。
アリアの優しい物言いが、母親のようなものが含まれていたように聞こえたのだ。

(たったの、十数日だのにな…)

ユリアが来てから、まだ一月も経っていない。
それでもアリアは、少女のささやかな変化に気付いているらしい。
やはり、同性という共通項によるものだからか。
どちらにせよ、その変化が良いものならば構わない。

暫しそんな物思いに彼は耽っていたが、次に口を開いた時に出た話題は、全く違うものだった。

「アリア、今日明日中には、始まりそうだよ」
「あら、もうそんな?」

僅かに驚いた声を上げた美女に、儀式屋は鷹揚に頷いてみせた。
紅い瞳を弧に描き、ほんの少し楽しそうな響きを込めて。

「あれは、どうするのかな」
「……貴方、本当は楽しんでるわね?」
「さぁ?私は疑問に思ったまでだよ」
「まぁ、白々しいこと」

闇色の男の、何処までもはぐらかした答えに、アリアは呆れたように溜息を吐いた。

三章§03

“儀式”などといえば、夜からというイメージが大変強い。
だが、此処ではそんなことは関係なく、朝から仕事は始まっている。

「ユリアちゃーん!西は三と七と八以外、全部空室っすから、チェック頼むっすよ!」
「はーい!」

十時方向に木目が広がり、頼りないランタンの灯りに照らし出される廊下。
その中央に立つユリアに、左側からヤスの声が飛んで来た。
さらさら、手にしたファイルに言われた番号をチェックする。

この建物、ぱっと見ただけでは小さな平屋にしか思えない。
しかし中へ入ると意外に広く、二階まであるのだ。
その二階こそが、彼らの仕事場のメインでもある。

この階の東と西(つまりユリアからすれば右と左)には個室がある。
現在はその空室のチェック中なのである。

個室使用者は先に使用期間を提示し、その間であれば自由に何時でも使用できる。
また、使用中は自分の望む場所から入ることが出来、わざわざ『儀式屋』から入る必要もないのである。
そして、きちんと後始末をしてから退出し、処分する道具などは、『儀式屋』が引き取っているのである。


「よし、んじゃー次、北棟行くっすよ」
「あ、待って下さいよー!」

まだ書き込んでいた少女は、先に歩きだした青年を追いかける。
ぱたぱたと、床を蹴りつける音が、静かな朝の店内に木霊する。

「でもなんで、北棟…」
「発注日っすよ、今日」
「……あ!」
「今週は客が多かったっすからねぇ…今回は大量っすからね。もう一回、確認しとく方がいいっすね」

思い出したのか、ユリアは急いでファイルを捲った。
隣に並んだ頭二つ分ほど小さな少女の手元を、青年は覗き込む。
そこには、今週の頭からの、品物がリストアップされていた。

彼らが現在向かう北棟は、この店の経営にとって重要な品物─即ち、儀式用の聖別された道具─のある倉庫である。
使い回しなどは絶対しない。
常に新しいものを、客に提供する。
そのため、早いものであれば一週間で底をつく勢いだ。
今日は、それらをまとめて発注する日なのである。
また、客によってはその日にしか取り寄せられないようなものを、注文する者もいる。
ユリアたちは、それらの発注もしなければならない。


「……どうかしたっすか?」

暫く無言のまま歩いていたが、ふと浮かない顔のアンティークのような少女を見た。
少女は顔を上げ、ほんの少し困ったような表情で。

「ううん…ただ、私の今やってるこのお仕事って、やっぱり違う人を傷つけることの助けでもあるんですよね…」
「……ユリアちゃん」
「あ、でもだからって辞めたいって訳じゃないです。これが罰ですし、なんとなく、思っただけですから」
「そーお?残念だなぁ。イヤになったなら、いつだって僕の家で働いてくれてもいいんだよ?」

その妙に明るい声は、二人の間を割るようにして入ってきた。
ほぼ同時、青年は顔を引きつらせ、少女は目を瞬かせて振り返っていた。

目に飛び込んできたのは、その男のトレードマークともいえる白いスーツ。

「お早う、仲良しだねぇ」
「……び、びっくりしたじゃないっすか!!」
「そーお?」
「そうっす!」
「おかしな子だねぇ、僕はちゃあんと玄関から入って、階段を上って来たんだよ?」

そういうことじゃないっすよ!などと喚くのっぽの男をよそに、銀髪の彼は腰を折り、少女と同じ位置にまで顔を下げる。
ユリアは心持ち首を傾げてみせ、少しだけ笑みを浮かべる。

「おはようございます、サンさん」
「あはっ、お早う。ユリアちゃん」

にこりと、魔術師の口が三日月のようになった。

…サンがユリアに興味を持つ理由は、これだ。
自分に恐れを抱き逃げ出した少女だったのに、今ではそれとは正反対の態度だ。
意志を剥奪した訳でもないというのに。

「やっぱり、楽しいねぇ……」

聞こえないような小さな声で、サンは満足げに呟いた。

三章§04

しゃらん…

今にも空に手が届きそうな高さの塔、その最上階。
開け放たれた窓からは、柔らかな陽射しと、ほんの少し温かな、春の風が舞い込んでくる。
それは悪戯に金属的な何かを震えさせ、涼やかな音を奏でさせた。
心地よい音は狭い室内をすぐに満たし、そこで眠りに就いていた者の耳にも届いた。
その者は、微かに笑ったらしかったが、まだ目を開けようとはしなかった。

「……何時まで狸寝入りしてるつもりですか」

やがて、涼やかな、しかし金属の音ではなく人の声が響いた。
起きていたことを見抜かれた人物は、耐えきれず笑いだした。

「何だ、最初っから気付いてたのか?」
「当たり前でしょう、こんな真っ昼間から、貴女が寝るわけないでしょう」

やや呆れたような低い声は、未だソファから起きあがらない彼女に近付く。

しゃらん しゃらん

どうやらこの金属の音、漆黒の僧衣を纏った彼の、装飾品の音らしい。
手首に填められたいくつものブレスレットが、互いに擦れる度に鳴る。

しゃらん しゃら…ん

「で?余の顔でも見たくなったか?」
「聖裁です」

ブレスレットの音が止み、立ち止まったことに気付いた彼女は、その陶器のように真っ白な顔を上げ、茶化した。
だが返ってきた返事に、悪戯な表情は急変する。
そこにあるのは、狂喜を見いだしたかのようなもの。

「ああ…だからこんなにも血が騒いでいたのか」
「ですので、そろそろ引きこもり生活も止したら如何ですか」
「いつも汝は失礼だな…別に引きこもっていた訳では──」
「朝のミサにすら出ていないこと、局長に報告しても?」
「さて、余の服は何処だったかな」

都合の悪いことでも言われたのだろう、彼女はばね仕掛けの人形のように、ソファから勢い良く起きあがった。
さらっと、日に当たったことがないような白い首筋を、色素の薄い茶髪が流れた。
それを払うと、彼女は探し物をすぐさま見つけ出す。

(……いつもこのくらい、素早いと僕としても大変助かるんですが)

目の前で、先程までだれていたとは思えないほど、準備を手早く済ませていく彼女。
彼は心の中でそっと溜息を零した。

「よし、出来た」

その声に顔を伏せていた彼は目を上げ、灰色の瞳と視線を絡めた。
黒い尼僧服を身に纏い、薄い鳶色の長い髪は左右で結わえられている。
そして首からは、ロザリオが下げられていた。

それは、いわゆるシスターと呼ばれる出で立ちだ。
しかしながら、彼女の表情や雰囲気は、ただただ巡業に励む尼僧のものではない。
まるで今から、戦にでも行くような、刺々しさを覗かせている。

そんな彼女の姿を視界に収めると、彼はこの部屋に入ってから、初めて笑みを見せた。

「では、参りましょうか」

その笑みを絶やさぬまま、殆ど黒に近い濃紺の髪を携えた彼は、彼女を促した。

「ああ、久しぶりに、楽しめそうだな」

しゃらん しゃらん

ブレスレットの音に合わせて、春風に追い立てられるように、彼らは部屋を後にした。

三章§05

「俺、ずっと気になってるんすけど」

……乱入して来た銀髪の魔術師は、さして二人の仕事の邪魔をするでもなく、ただ眺めているだけだった。
一応、そうした常識はあるらしい。
そういう訳で、二人はさっさと開店前の準備を済ませ、二階から一階へ下りた。
スタッフルームには寄らずに廊下を渡り、その突き当たりの部屋へ。

現代的な物が目立つ、広々とした部屋。
ランタンの代わりに、蛍光灯が室内を照らす。
染み一つない真っ白な壁、そこに堂々と構えているのは立派なカウンター。
その周囲には棚が並び、中には様々な種類の品物がある。
そしてカウンターの向こうには、クッションのきいた椅子やソファ、低いテーブルと外へ通ずる豪奢な飾りの付いた扉が。

そんな受付において、先程のヤスの発言。
既にプレートは開いていることを示しており、実際、つい先刻前に個室予約に来た客が帰ったばかりだ。
そうして、丁度時間が空いたため、暇を持て余したのっぽの彼は、口を開いたのだ。

「気になるって、何がですか?」

予約表に目を落としていた少女が、入り口付近に立つ青年に視線を移した。

「それはっすね…」
「ユリアちゃーん!このお菓子食べていい?」
「あ、駄目ですそれ。Jさんが食べるものなんで」
「ってサンさん!!」

まさに話そうとした瞬間に、横合いから子供のように弾んだ声が飛び込んできた。
ユリアの隣にちゃっかり座って、カウンター下から引っ張りだした箱を抱える、魔術師だ。
やけに背の高い青年は、びしっと彼を指さす。

「こらぁ、人に指差したらいけないんだぞぉ」
「あ、すみませ…じゃなくって!いつまで居るつもりなんすか!?」
「……何のこと?」

ユリアに駄目と言われ渋々箱を直した彼は、前髪で見えないが不思議そうな瞳をしてみせた。
何となくだがそれが分かったヤスは、カウンターに近付き更に言葉を重ねた。

「今日に限って、居すぎだって言ってんすよ!」
「あはっ!なるほどーそのこと!」

合点がいったのだろう、両手をぱちんと打ち鳴らす。

大概、サンは開店してから少し経てば、飽きただの詰まらないだのと文句を言って帰るのだ。
だが今日に限って彼は、なかなか帰ろうとはしなかった。

ユリアもそう言えば、といった面持ちになる。
麗貌の中、一際目立つ深緑色の口唇が笑う。

「もう、剣士クンも男なんだから!そういうことは早めに言いなよ!」
「……は、はい?サンさん、ちょっ」
「仕方ない、君も僕に比べたら何百歳と若いんだ。大人な僕は引くべきだよねぇ」
「何勝手な話を…!」

どうやら、ヤスの発言をおかしな方向に捉えたようだ。
それを察したヤスは、立ち上がろうとした魔術師を引き止めるため、彼へ大股で詰め寄った。
が、詰め寄ったところ逆に手首を捕まれ、ぐいっと下へ引っ張られた。
思わず前へつんのめった青年の耳元へ、サンは慌てた様子の少女に聞こえぬよう囁く。

「二人っきりに、なりたいんでしょ?」
「はっ!?ち、違うっす!」
「あはっ、照れてるの?僕は儀式屋クンのとこに行くからねぇ」

完全に己の思い込みを信じる魔術師を、止める術はなかった。
長い銀髪を翻して、彼は二人に手を振った。
そのまま、カウンター側の扉の向こうへ体を潜り込ませて。

「それにねぇ、今日は素敵な日だから、機嫌がとってもいいんだ」

真っ赤な顔をした彼と、事態を把握出来ていない少女を、さも愉快そうな緑柱の瞳に映して、白い人影は扉の音と共に消えた。





その言葉の通り、サンはそれから真っ直ぐに、闇を纏う男の居る部屋へ向かった。

「お早う、儀式屋クン」
「やはり来たのだね、サン」

ノックもなしに入ると、儀式屋は机に向かったまま顔も上げず答えた。
サンは首を傾げたが、すぐに理由を察した。

「まぁた遊んでる、いけないんだぞ」
「……貴方は趣味にまで口を挟むのかな」
「だって儀式屋クン!今日を何だと思ってるの?」

その言葉に、彼の肩が僅かに反応する。
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