だから──

「っおるぁああああ…!!」
「!」

ミュステリオン側に一番近かった悪魔が、突如手にしていた剣を振り上げ、アレックス目掛けて襲いかかった。
突然の凶行に、一瞬アレックスは目を見張ったが、直ぐ様肩に担いだマシンガンで、白刃を弾き返す。
そのまま、長い足で鳩尾目掛けて強力な蹴りを見舞う。
そして更に、目の前でよろついた悪魔にではなく、その背後で逃走を図った残りの悪魔に向けて、目にも止まらぬ速さで凶弾を放った。
鉄の雨の如く背後から降り注ぐ弾丸に、逃げる悪魔は対処の仕様がなかった。

「ぎゃああああ!!」

階段へ辿り着く間もなく、悪魔二人はその場にくずおれた。
体のそこかしこを弾丸が貫通し、その後から灼熱の炎に全身を焼き付くされるような痛みを感じる。
その痛みに抵抗できるほど、彼らは強くはなかった。
苦痛に叫び声をあげ、理性をじりじりと抉りとられ、何も考えることが出来ない。
だが、目の前が真っ赤に染まる感覚の中で、何故か凶弾を放った神父の声だけは明瞭に脳髄にまで響く。

「おいこら、クズのくせに逃げてんじゃねぇぞ」
「ち、ちくしょ…」
「ったく、クズはクズらしく地べたを這いつくばってだな、」
「貴様ぁああっ!」

芋虫のようにのたうち回る悪魔たちを哄笑と共に罵倒を浴びせているアレックスに、最前、足蹴を喰らわされた悪魔が再度攻撃を仕掛ける。
至近距離で白刃を閃かせ、漆黒の僧衣から覗く首筋目掛けて、一気に振り切った。
当然、奇襲に近い形だったため、アレックスの反応は間に合わないはずだった。

「だーかーら、クズだって何度言えば理解できんだよ?」

魔法のような速さで、マシンガンを神父は悪魔に向ければ、何の躊躇いもなくトリガーを引く。
けたたましい騒音と硝煙がホール全体を覆い尽くす。
予期せぬ返り討ちに遭った悪魔は、身体中を蜂の巣のごとく穴を空けられ、床へその身を強かに打ち付けた。
先刻前とは違い容赦のない攻撃に、アレックスの後方に控えていた調査局の二人は唖然として眺めていた。
悪魔は自分たちにとって害悪をもたらす存在であるため、牙を剥けば鉄槌を以てして砕くのは当たり前だ。
だが、それをさも楽しそうに笑ってやり遂げるなんて、全異端管理局の人間くらいだ。
そう思って見ていると、凶弾を放ったマシンガンを肩に担ぎ、アレックスは後方の二人をくるりと振り返った。

「おぅ、お前ら。こいつら任せるわ」
「は…ま、任せるって、神父アレックス、貴方はどこに!?」

あまりにも軽い調子で言われ、冗談じゃないとばかりに問えば、随分と機嫌良さそうにアレックスは笑った。
そして、表情と同じ声音でとんでもないことを宣った。

「俺?俺は侵入者取っ捕まえてくるわ」
「侵入者…!?ちょ、神父アレックス!」

制止の声も聞かず、アレックスはのたうち回る悪魔を乗り越え、二階へと続く階段を駆け上った。
駆け上る最中、アレックスは襟元に付けたピンバッジを引き寄せ口早に囁く。

「おぅ、ユーリ。クズは引き渡したぞ。んで、奴らは何処だ」
『あらあら、せっかちさんね、アレックスったら』

ピンバッジから柔らかな女性の笑い声が漏れ聞こえ、アレックスをたしなめた。
が、当人は何処吹く風状態で、階段を上りきったすぐ側の扉を開けた。
カーペットが真っ黄色の客室だが、人影はこれっぽっちもない。
ワックスで立てた金髪をぐしゃぐしゃと掻きながら、アレックスはユーリに噛みつく。

「あぁん?早くしろっつったのは、てめぇだろ」
『うふふ、そうね』
「しかも誰もいねぇじゃねぇか」
『アレックス、貴方、一部屋だけ確認していないっていうのは、確認不足よ』
「うるせぇな、今隣も見てるっ…やっぱいねぇぞ!」

騒ぎ立てつつ神父は次々と扉を開け、悪態を突きながら廊下の角を曲がる。
此処も同じだろう、と彼は半ば苛立ちながらノブに手を掛けた。
にわかに、彼の表情が変わり始める。

「ユーリ、開かねぇ。壊すぞ」
『はいはい、お好きになさい』

ユーリから許可を得るか得ないかのタイミングで、アレックスはマシンガンを向け、容赦なく撃ちまくった。
瞬く間に扉はただの木屑となり、神父は仕上げとばかりに足で蹴り開けた。