全く、と神父サキヤマは深い溜息をついた。
琥珀色の瞳は、今し方総務局から手渡された用紙に落ちている。
B5サイズのそれには、小難しい言葉で書かれた文字が並んでいるが、一番上に書かれた見出しさえ読めば、大体分かる。

“貴殿の生活態度に関する警告”

……手渡された瞬間、彼は頭が痛くなった。
だが、これは彼に宛てられたものではない。
彼自身は大変規則正しい生活をしており、同僚には堅物と言われるほど、服務規程を遵守している。
ではこれは一体誰に対してのものなのかといえば、言わずもがな、彼のパートナーである、あのシスターだ。

(今更こんなものを渡してきて、いったいどうしろと……)

はぁ、と再度重たい溜息を零す。
別に彼はこのことを伝えるのが嫌なわけではない。
ただ何が憂鬱なのかといえば、どうも自分が彼女の保護者か何かと思われており、彼女が致した行動(周囲から見れば悪行)への文句を一手に引き受けなければならないからである。
本人に直接言えと思うが、エリシアの悪行を知っているからこそ、その報復を受けたくないと恐れ、サキヤマにぐちぐちと言うのだ。
先ほども、たまたま総務局へ提出書類を届けに行っただけだというのに、ついでとばかりにサキヤマへエリシアの最近の態度云々で問題視されていることを延々と述べ、そしてこの用紙を突きつけてきたのである。
こんなものを渡したところで、どうせ馬の耳に念仏ならぬ、エリシアの耳にお小言だ。
だが、彼はそれでも律儀に、彼女のいる部屋へ向かっている。
彼女は塔の一番上の階に住んでおり、かの十六区殲滅作戦での有能な働きを認められて、その見返りにそこをもらったそうだ。
以前何故なのかを尋ねたときに、彼女は「一番上になったようで気分がいい」とのたまった。
色々突っ込みどころ満載の回答だったが、その部屋から見る精神世界の景色だけは、サキヤマも認めていた。
そうこう考えるうちに、彼女の部屋の前に辿り着く。
数回ノックをしてしばし返事を待つが、ない。
どうせ寝ているのだろうと、サキヤマは分かっていたのでもう一度だけノックをして、返事を待たずに把手を握る。
案の定、鍵はかかっておらず、不用心にもほどがある。
が、たとえ不審者が入ったところでエリシアがそうやすやすとやられてくれるわけもないので、サキヤマはこれに関しての注意は諦めている。
ぐっと押し開きながら、サキヤマは中の住人へ声を掛けた。

「入りますよ、シスター・エリシア」